特許第6495427号(P6495427)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6495427
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】マイボーム機能不全の治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/436 20060101AFI20190325BHJP
   A61P 9/14 20060101ALI20190325BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20190325BHJP
【FI】
   A61K31/436
   A61P9/14
   A61P27/02
【請求項の数】7
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-242430(P2017-242430)
(22)【出願日】2017年12月19日
(62)【分割の表示】特願2014-48477(P2014-48477)の分割
【原出願日】2014年3月12日
(65)【公開番号】特開2018-65857(P2018-65857A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2018年1月16日
(31)【優先権主張番号】特願2013-50766(P2013-50766)
(32)【優先日】2013年3月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000177634
【氏名又は名称】参天製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】三宅 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】椎 大介
(72)【発明者】
【氏名】小田 知子
【審査官】 渡部 正博
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−518690(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/126599(WO,A1)
【文献】 特表2002−522485(JP,A)
【文献】 特表2011−516400(JP,A)
【文献】 特表2011−517659(JP,A)
【文献】 あたらしい眼科,2010年,vol.27, No.5,p.627-631
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−31/80
A61K 9/00−9/72
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.01〜0.5%(w/v)の濃度のシロリムスまたはその薬学的に許容される塩を唯一の有効成分として含有する、マイボーム腺の閉塞を抑制するための組成物であって、投与形態が点眼投与であり、投与剤型が点眼剤である、組成物
【請求項2】
0.01〜0.5%(w/v)の濃度のシロリムスまたはその薬学的に許容される塩を唯一の有効成分として含有する、マイボーム腺開口部周辺毛細血管の拡張を抑制するための組成物であって、投与形態が点眼投与であり、投与剤型が点眼剤である、組成物
【請求項3】
シロリムスまたはその薬学的に許容される塩の濃度が0.1%(w/v)である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
1日1〜2回点眼されるように用いられることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
1日1回点眼されるように用いられることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
マイボーム腺の閉塞が、ドライアイの原因となるマイボーム腺の閉塞である、請求項1および3〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
マイボーム腺開口部周辺毛細血管の拡張が、ドライアイの原因となるマイボーム腺開口部周辺毛細血管の拡張である、請求項2〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般式(1):
【化1】

[式中、
はヒドロキシ基、メトキシ基、ヒドロキシメトキシ基、エトキシ基、1−ヒドロキエトキシ基、2−ヒドロキシエトキシ基、2−メトキシエトキシ基、2−エトキシエトキシ基、ホルミルオキシ基、カルボキシオキシ基、アセトキシ基、ヒドロキシアセトキシ基、プロピオニルオキシ基、2−ヒドロキシプロピオニルオキシ基、3−ヒドロキシプロピオニルオキシ基、2−メチルプロピオニルオキシ基、2−(ヒドロキシメチル)プロピオニルオキシ基、3−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)プロピオニルオキシ基、2,2−ジメチルプロピオニルオキシ基、2−(ヒドロキシメチル)−2−メチルプロピオニルオキシ基、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオニルオキシ基、メチルホスフィノイルオキシ基、ジメチルホスフィノイルオキシ基または1H−テトラゾール−1−イル基を示し;
は水素原子、ヒドロキシ基、メトキシ基、メルカプト基またはメチルチオ基を示し;
は水素原子、ヒドロキシ基またはメトキシ基を示し;
波線はR、RまたはRと結合した炭素原子がSまたはRのいずれの配置もとりうることを示す]で表される化合物(以下、「本化合物」ともいう)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、マイボーム機能不全の予防および/または治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
マイボーム腺は瞼板内にあり、上下の眼瞼縁に開口部を持つ脂腺であり、マイボーム腺から分泌される脂質は、外眼部で様々な役割を担っている。
【0003】
非特許文献1には、眼不快感などの症状を主訴に眼科を訪れる患者のうちのかなりの割合で、マイボーム機能不全(eibomian land ysfunction:以下、「MGD」ともいう)がその原因となっており、多くの患者でquality of lifeの低下を引き起こしていることが記載されている。
【0004】
しかしながら、従来、MGDの効果的な治療法も知られておらず、また、そもそもMGDの明確な定義や診断基準自体が存在していなかった。そこで、最近になって、MGDを独立の疾患として定義、その診断基準を作成しようとする世界的な動きが生まれ、我が国においても、MGDは「さまざまな原因によってマイボーム腺の機能が瀰漫性に異常をきたした状態であり、慢性の眼不快感を伴う」疾患であると定義づけられた(非特許文献1参照)。
【0005】
また、非特許文献1には、MGDが分泌減少型MGDと分泌増加型MGDに分けられ、分泌減少型MGDでは、マイボーム腺開口部の閉塞などによってマイボーム腺脂の分泌が減少することも開示されている。さらに、非特許文献1には、<1>眼不快感などの自覚症状、<2>血管拡張などのマイボーム腺開口部周囲異常所見、および<3>マイボーム腺開口部閉塞所見の3つが陽性のものを分泌減少型MGDと診断することも記載されている。
【0006】
なお、マイボーム腺に発生する疾患として、MGD以外にも、霰粒腫、内麦粒腫などが知られているが、非特許文献1には、これらの疾患は局所的な疾患であり、マイボーム腺が瀰漫性に障害されるMGDとは異なる疾患であることが記載されている。また、MGDは蒸発亢進型ドライアイの原因となることもあるが、非特許文献1には、涙液量、病期または重症度によって、ドライアイを伴わない場合もあることが開示されている。
【0007】
非特許文献2には、米国におけるMGDの分類法が開示されており、分泌減少型MGD(low−delivery state MGD)がさらに「hyposecretory MGD(meibomian hyposecretion)」および「obstructive MGD(meibomian gland obstruction)」の2つに分類できることが開示されている。さらに、非特許文献2には、MGDが後部眼瞼炎を引き起こす疾患の一つであることが示唆されている。
【0008】
シロリムス(ラパマイシンとも呼ばれる)は免疫抑制剤として知られ、米国などで、経口剤として使用されている。また、シロリムスの構造を一部修飾した誘導体(以下、「シロリムス誘導体」ともいう)もシロリムスと同様の活性を有していることが知られており、このシロリムス誘導体には、デフォロリムス、エベロリムス、テムシロリムス、ゾタロリムス、バイオリムス、ノボリムスなどが含まれる。
【0009】
特許文献1には、シロリムス、エベロリムス、テムシロリムスなどのmTOR阻害剤、約10を超えるHLB指数を有する第一の界面活性剤、および約13を超えるHLB指数を有する第二の界面活性剤を含有する眼科用組成物が記載されている。しかしながら、特許文献1には、該mTOR阻害剤がMGDに対して治療効果を有するか否かについては記載されていない。
【0010】
また、特許文献2には、ラパマイシンなどのピペコリン酸誘導体が視覚疾患を治療し得ることが示唆されており、当該視覚疾患には、マイボーム腺癌腫および内麦粒腫(マイボーム腺麦粒腫)が含まれることが記載されている。しかしながら、マイボーム腺癌腫はMGDとは明らかに異なる疾患であり、前述したように、内麦粒腫もMGDとは異なる疾患である。
【0011】
以上のように、特許文献1および2には、本化合物がMGDに対して治療効果を有するか否かについて記載も示唆もされていない。
【0012】
また、ドライアイまたは後部眼瞼炎を治療しうる薬剤が、MGDそのものを予防および/または治療しうるかどうかは、当業者にとっても明らかではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特表2010−540682号公報
【特許文献2】特表2002−522485号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】あたらしい眼科, 27(5), 627−631(2010)
【非特許文献2】Investigative Ophthalmology & Visual Science, 52(4), 1930-1937 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、マイボーム機能不全(MGD)の予防および/または治療剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、マイボーム機能不全(MGD)の予防および/または治療剤を探索すべく鋭意研究を重ねた結果、一般式(1):
【化2】

[式中、
はヒドロキシ基、メトキシ基、ヒドロキシメトキシ基、エトキシ基、1−ヒドロキエトキシ基、2−ヒドロキシエトキシ基、2−メトキシエトキシ基、2−エトキシエトキシ基、ホルミルオキシ基、カルボキシオキシ基、アセトキシ基、ヒドロキシアセトキシ基、プロピオニルオキシ基、2−ヒドロキシプロピオニルオキシ基、3−ヒドロキシプロピオニルオキシ基、2−メチルプロピオニルオキシ基、2−(ヒドロキシメチル)プロピオニルオキシ基、3−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)プロピオニルオキシ基、2,2−ジメチルプロピオニルオキシ基、2−(ヒドロキシメチル)−2−メチルプロピオニルオキシ基、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオニルオキシ基、メチルホスフィノイルオキシ基、ジメチルホスフィノイルオキシ基または1H−テトラゾール−1−イル基を示し;
は水素原子、ヒドロキシ基、メトキシ基、メルカプト基またはメチルチオ基を示し;
は水素原子、ヒドロキシ基またはメトキシ基を示し;
波線はR、RまたはRと結合した炭素原子がSまたはRのいずれの配置もとりうることを示す]の化合物のまたはその薬学的に許容される塩が、マイボーム腺開口部の閉塞数を減少させることを見出し、そして上記一般式(1)の化合物またはその薬学的に許容される塩が、MGDに対して治療効果を有すること、およびマイボーム腺の閉塞を抑制することを見出し、本発明に至った。
【0017】
すなわち、本発明は、上記一般式(1)の化合物(本化合物)またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、マイボーム機能不全(MGD)の予防および/または治療剤(以下、「本剤」ともいう)に関する。
【0018】
また、本化合物は、上記一般式(1)において、Rがヒドロキシ基、2−ヒドロキシエトキシ基、2−エトキシエトキシ基、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオニルオキシ基、ジメチルホスフィノイルオキシ基または1H−テトラゾール−1−イル基を示し;Rが水素原子、ヒドロキシ基、メトキシ基またはメチルチオ基を示し;Rが水素原子またはメトキシ基を示す化合物またはその薬学的に許容される塩であることが好ましい。
【0019】
また、本化合物は、上記一般式(1)において、Rがヒドロキシ基またはジメチルホスフィノイルオキシ基を示し;Rがメトキシ基を示し;Rがメトキシ基を示す化合物またはその薬学的に許容される塩であることが好ましい。
【0020】
また、本化合物は、シロリムス、デフォロリムス、エベロリムス、テムシロリムス、ゾタロリムス、バイオリムス、ノボリムス、7−エピーラパマイシン、7−チオメチル−ラパマイシン、7−エピ−チオメチル−ラパマイシン、7−デメトキシ−ラパマイシン、32−デメトキシ−ラパマイシンまたはそれら薬学的に許容される塩であることが好ましく、シロリムス、デフォロリムスまたはそれらの塩であることが特に好ましい。
【0021】
また、本剤の投与形態としては、点眼投与または眼瞼皮膚投与が好ましい。
【0022】
また、本剤の投与剤型としては、点眼剤、眼軟膏または軟膏(眼軟膏を除く)が好ましく、該点眼剤の性状として好ましいのは、懸濁液またはエマルジョンである。
【0023】
また、本発明の他の態様は、本化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、マイボーム腺の閉塞を抑制するための組成物(以下、「本組成物」ともいう)である。
【0024】
また、本組成物の有効成分は、シロリムス、デフォロリムスまたはそれらの塩であることが好ましい。
【0025】
また、本発明の他の態様は、上記一般式(1)の化合物(本化合物)またはその薬学的に許容される塩、および薬学的に許容される添加剤を含む、マイボーム機能不全(MGD)の予防および/または治療のための医薬組成物に関する。
【0026】
また、本発明の他の態様は、マイボーム腺の閉塞の抑制に使用するための、上記一般式(1)の化合物(本化合物)に関する。
【0027】
また、本発明の他の態様は、マイボーム腺開口部周辺毛細血管の拡張の抑制に使用するための、上記一般式(1)の化合物(本化合物)に関する。
【0028】
また、本発明の他の態様は、マイボーム機能不全(MGD)の予防および/または治療に使用するための、上記一般式(1)の化合物(本化合物)に関する。
【0029】
また、本発明の他の態様は、マイボーム腺の閉塞を抑制するための組成物の製造のための、上記一般式(1)の化合物(本化合物)の使用に関する。
【0030】
また、本発明の他の態様は、マイボーム腺開口部周辺毛細血管の拡張を抑制するための組成物の製造のための、上記一般式(1)の化合物(本化合物)の使用に関する。
【0031】
また、本発明の他の態様は、マイボーム機能不全(MGD)の予防および/または治療するための医薬の製造のための、上記一般式(1)の化合物(本化合物)の使用に関する。
【0032】
また、本発明の他の態様は、マイボーム腺の閉塞を抑制するための方法であって、上記一般式(1)の化合物(本化合物)をヒトまたは動物に投与することを含む方法。
【0033】
また、本発明の他の態様は、マイボーム腺開口部周辺毛細血管の拡張を抑制するための方法であって、上記一般式(1)の化合物(本化合物)をヒトまたは動物に投与することを含む方法。
【0034】
また、本発明の他の態様は、マイボーム機能不全(MGD)の予防および/または治療のための方法であって、上記一般式(1)の化合物(本化合物)をヒトまたは動物に投与することを含む方法。
【発明の効果】
【0035】
上記一般式(1)の化合物またはその薬学的に許容される塩は、マイボーム機能不全(MGD)の予防および/または治療剤として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
(A)本化合物は、一般式(1):
【化3】

で表される化合物において、各基が以下に示す基である化合物である。
【0037】
(A1)Rはヒドロキシ基、メトキシ基、ヒドロキシメトキシ基、エトキシ基、1−ヒドロキエトキシ基、2−ヒドロキシエトキシ基、2−メトキシエトキシ基、2−エトキシエトキシ基、ホルミルオキシ基、カルボキシオキシ基、アセトキシ基、ヒドロキシアセトキシ基、プロピオニルオキシ基、2−ヒドロキシプロピオニルオキシ基、3−ヒドロキシプロピオニルオキシ基、2−メチルプロピオニルオキシ基、2−(ヒドロキシメチル)プロピオニルオキシ基、3−ヒドロキシ−2−(ヒドロキシメチル)プロピオニルオキシ基、2,2−ジメチルプロピオニルオキシ基、2−(ヒドロキシメチル)−2−メチルプロピオニルオキシ基、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオニルオキシ基、メチルホスフィノイルオキシ基、ジメチルホスフィノイルオキシ基または1H−テトラゾール−1−イル基を示し;
(A2)Rは水素原子、ヒドロキシ基、メトキシ基、メルカプト基、メチルチオ基、フェニル基、2,4,6−トリヒドロキシフェニル基または2,4,6−トリメトキシフェニル基を示し;および
(A3)Rは水素原子、ヒドロキシ基またはメトキシ基を示す。
すなわち、本化合物は、前記一般式(1)で表される化合物において、上記(A1)、(A2)および(A3)に列挙された各基を組み合わせたものである。
【0038】
(B)本化合物の好ましい例として、前記一般式(1)で表される化合物において、各基が以下に示す基である化合物が挙げられる。
(B1)Rがヒドロキシ基、2−ヒドロキシエトキシ基、2−エトキシエトキシ基、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオニルオキシ基、ジメチルホスフィノイルオキシ基または1H−テトラゾール−1−イル基を示し;
(B2)Rが水素原子、ヒドロキシ基、メトキシ基、メチルチオ基または2,4,6−トリメトキシフェニル基を示し;および
(B3)Rが水素原子またはメトキシ基を示す。
すなわち、本化合物の好ましい例は、前記一般式(1)において、上記(B1)、(B2)および(B3)に列挙された各基を組み合わせたものである。
【0039】
(C)本化合物のより好ましい例として、前記一般式(1)において、各基が以下に示す基である化合物が挙げられる。
(C1)Rがヒドロキシ基、2−ヒドロキシエトキシ基、2−エトキシエトキシ基、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオニルオキシ基またはジメチルホスフィノイルオキシ基を示し;
(C2)Rがメトキシ基を示し;
(C3)Rがメトキシ基を示し;
すなわち、本化合物のより好ましい例は、前記一般式(1)で表される化合物において、上記(C1)、(C2)および(C3)に列挙された各基を組み合わせたものである。
【0040】
上記一般式(1)において、波線はR、RまたはRと結合した炭素原子がSまたはRのいずれの立体配置をとりうることを示すが、本発明において、Rと結合した炭素原子はR配置を有することが好ましく、RまたはRが水素原子でない場合、Rと結合した炭素原子はS配置、Rと結合した炭素原子はR配置を有することが好ましい。
【0041】
本化合物の具体例としては、下記化合物を挙げることができる。
【0042】
・シロリムス
【化4】
【0043】
・デフォロリムス
【化5】
【0044】
・エベロリムス
【化6】
【0045】
・テムシロリムス
【化7】
【0046】
・ゾタロリムス
【化8】
【0047】
・バイオリムス
【化9】
【0048】
・ノボリムス
【化10】
【0049】
・7−エピーラパマイシン
【化11】
【0050】
・7−チオメチル−ラパマイシン
【化12】
【0051】
・7−エピ−チオメチル−ラパマイシン
【化13】
【0052】
・7−デメトキシ−ラパマイシン
【化14】
【0053】
・32−デメトキシ−ラパマイシン
【化15】
【0054】
本化合物の好ましい具体例は、シロリムスまたはデフォロリムスであり、特に、シロリムスが好ましい。
【0055】
本化合物またはその薬学的に許容される塩は、有機合成化学分野における通常の方法に従って製造することができるし、特に、シロリムスについては、LKT laboratories社から市販されているもの(カタログ番号:R0161)を用いることもできる。また、デフォロリムスについては、特表2005−516065号公報に記載された方法に従って製造することもできる。
【0056】
本化合物の薬学的に許容される塩としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸などの無機酸との塩;酢酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、グルコン酸、グルコヘプト酸、グルクロン酸、テレフタル酸、メタンスルホン酸、乳酸、馬尿酸、1,2−エタンジスルホン酸、イセチオン酸、ラクトビオン酸、オレイン酸、パモ酸、ポリガラクツロン酸、ステアリン酸、タンニン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、硫酸ラウリルエステル、硫酸メチル、ナフタレンスルホン酸、スルホサリチル酸などの有機酸との塩;臭化メチル、ヨウ化メチルなどとの四級アンモニウム塩;臭素イオン、塩素イオン、ヨウ素イオンなどのハロゲンイオンとの塩などが挙げられる。
【0057】
また、本化合物または薬学的に許容される塩は、水和物または溶媒和物の形態をとっていてもよい。
【0058】
本化合物または薬学的に許容される塩に幾何異性体または光学異性体が存在する場合は、当該異性体またはそれらの塩も本発明の範囲に含まれる。また、本化合物またはその薬学的に許容される塩にプロトン互変異性が存在する場合には、当該互変異性体またはそれらの塩も本発明の範囲に含まれる。
【0059】
本化合物または薬学的に許容される塩(水和物または溶媒和物も含む)に結晶多形および結晶多形群(結晶多形システム)が存在する場合には、それらの結晶多形体および結晶多形群(結晶多形システム)も本発明の範囲に含まれる。ここで、結晶多形群(結晶多形システム)とは、それら結晶の製造、晶出、保存などの条件および状態(なお、本状態には製剤化した状態も含む)により、結晶形が変化する場合の各段階における個々の結晶形およびその過程全体を意味する。
【0060】
本化合物またはその薬学的に許容される塩は、マイボーム機能不全(MGD)の予防および/または治療に用いることができる。
【0061】
マイボーム機能不全(MGD)の定義は、例えば、「さまざまな原因によってマイボーム腺の機能が瀰漫性に異常をきたした状態であり、慢性の眼不快感を伴う」というものである。ここで、「マイボーム腺の機能が瀰漫性に異常をきたした状態」とは、例えば、霰粒腫、内麦粒腫などで認められる局所的なマイボーム腺異常ではなく、毛細血管拡張、マイボーム腺開口部閉塞などのマイボーム腺異常が瀰漫性に認められることを意味する。また、MGDは、分泌減少型MGD(low−delivery state)と分泌増加型MGD(high delivery state)に分けられ、更に分泌減少型MGD(low−delivery state MD)として、「hyposecretory MGD(meibomian hyposecretion)」および「obstructive MGD(meibomian gland obstruction)」が挙げられる。
【0062】
分泌減少型MGDでは、マイボーム腺開口部の閉塞などによってマイボーム腺脂の分泌が減少する。また、分泌増加型MGDでは、種々の原因によってマイボーム腺脂の分泌が増加する。
【0063】
一方、マイボーム腺開口部の閉塞が認められるものの、自覚症状を伴わない状態を、例えば、「マイボーム腺梗塞(meibomian gland concretion)」と呼ぶこともあるが、本発明におけるMGDには、マイボーム腺梗塞も含まれるものとする。
【0064】
本化合物またはその薬学的に許容される塩が治療しうるMGDとして特に好ましいのは、分泌減少型MGDである。
【0065】
ところで、背景技術の項で説明したように、MGDはドライアイの原因となることもあり、また、後部眼瞼炎を引き起こす可能性もある。
【0066】
MGDには、「ドライアイおよび/または後部眼瞼炎を伴う(合併する)MGD」、「ドライアイおよび/または後部眼瞼炎の原因となるMGD」、「ドライアイを伴わない(合併しない)MGD」、「ドライアイの原因とならないMGD」、「後部眼瞼炎を伴わない(合併しない)MGD」、ならびに「後部眼瞼炎の原因とならないMGD」が含まれる。
【0067】
本発明において、「MGDの予防および/または治療剤」とは、MGDを予防および/または治療する医薬を意味する。ここで、「MGDを治療および/または予防する」とは、前記非特許文献1に開示されたMGD患者で認められる3つの指標(<1>眼不快感などの自覚症状、<2>血管拡張などのマイボーム腺開口部周囲異常所見、および<3>マイボーム腺開口部閉塞所見)のうち、少なくとも「マイボーム腺開口部閉塞所見」の改善が認められること、好ましくは「血管拡張などのマイボーム腺開口部周囲異常所見」および「マイボーム腺開口部閉塞所見」の改善が認められることを意味する。
【0068】
「血管拡張などのマイボーム腺開口部周囲異常所見」の改善とは、例えば、マイボーム腺開口部周囲の毛細血管の拡張が抑制されること等を意味する。
【0069】
本発明において、「マイボーム腺開口部周辺毛細血管の拡張を抑制する」とは、例えば、「血管拡張のマイボーム腺開口部周囲異常所見」を改善させることを意味する。
【0070】
「マイボーム腺開口部閉塞所見」の改善とは、例えば、マイボーム腺開口部の閉塞が抑制されることを意味する。
【0071】
本発明において、「マイボーム腺の閉塞を抑制する」とは、例えば、「マイボーム腺開口部閉塞所見」を改善させることを意味する。
【0072】
本発明において、本剤または本組成物は、本化合物またはその薬学的に許容される塩以外の有効成分を含有することもでき、また本化合物またはその薬学的に許容される塩を唯一の有効成分として含有することもできる。
【0073】
本発明において、本剤または本組成物は、例えば、患者に対して経口的または非経口的に投与することができるが、非経口的に投与されることが好ましい。非経口的な投与形態としては、点眼投与(眼軟膏の点入も含むものとする)、結膜下投与、結膜嚢内投与、テノン嚢下投与などが挙げられるが、点眼投与が特に好ましい。
【0074】
また、非経口的な投与形態には、例えば、皮膚投与も含まれるが、本発明における皮膚投与としては、眼瞼皮膚投与が特に好ましい。
【0075】
本発明においては、本化合物またはその薬学的に許容される塩は、必要に応じて薬学的に許容される添加剤と共に、投与に適した剤型に製剤化される。経口投与に適した剤型としては、例えば、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤、散剤、丸剤、錠剤などが挙げられる。また、非経口投与に適した剤型としては、例えば、点眼剤、眼軟膏、軟膏(眼軟膏を除く)、注射剤、眼内インプラント用製剤(涙点プラグを含む)、挿入剤、貼布剤、ゲルなどが挙げられる。なお、これらは当該分野で汎用されている通常の技術を用いて調製することができる。さらに、本化合物またはその薬学的に許容される塩は、マイクロスフェアーなどのDDS(ドラッグデリバリーシステム)化された製剤にすることもできる。
【0076】
前述したように、本剤または本組成物は点眼投与されることが好ましいことから、本剤または本組成物の好ましい剤型は点眼剤または眼軟膏であり、点眼剤が特に好ましい。なお、本化合物またはその薬学的に許容される塩を点眼剤として調製する場合、該点眼剤の性状は溶解型溶液(溶解型点眼液)でもよいし、懸濁液(懸濁型点眼液)でもよいし、エマルジョン(エマルジョン点眼液)でもよいが、好ましくは、懸濁液またはエマルジョンである。
【0077】
また、前述したように、本剤または本組成物は眼瞼皮膚投与されることが好ましいことから、本剤または本組成物の好ましい剤型は軟膏(眼軟膏を除く)である。
【0078】
本化合物またはその薬学的に許容される塩は、例えば、結晶セルロース、乳糖、ブドウ糖、D−マンニトール、無水リン酸水素カルシウム、デンプン、ショ糖等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポピドン、デンプン、部分アルファー化デンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤;ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、デンプン、部分アルファー化デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、含水二酸化ケイ素、硬化油等の滑沢剤;精製白糖、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン等のコーティング剤;クエン酸、アスパルテーム、アスコルビン酸、メントール等の矯味剤などを適宜選択して添加することで、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤、散剤、丸剤または錠剤として調製することができる。
【0079】
本発明において、点眼剤は、例えば、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)などの油成分;塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリンなどの等張化剤;リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、イプシロン−アミノカプロン酸などの緩衝化剤;チロキサポール、ポロキサマー188、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などの界面活性剤;クエン酸ナトリウム、エデト酸ナトリウムなどの安定化剤;ベンザルコニウム塩化物、パラベンなどの防腐剤などから必要に応じて選択して用い、調製することができる。点眼液のpHは眼科製剤に許容される範囲内にあればよいが、通常4〜8の範囲内が好ましい。
【0080】
本発明において、眼軟膏または軟膏(眼軟膏を除く)は、例えば、白色ワセリン、流動パラフィンなどの汎用される基剤を用い、調製することができる。
【0081】
本発明において、注射剤は、例えば、塩化ナトリウムなどの等張化剤;リン酸ナトリウムなどの緩衝化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレートなどの界面活性剤;メチルセルロースなどの増粘剤などから必要に応じて選択して用い、調製することができる。
【0082】
本発明において、眼内インプラント用製剤は、例えば、生体分解性ポリマー、たとえば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、ヒドロキシプロピルセルロースなどの生体分解性ポリマーを用い、調製することができる。
【0083】
本発明において、挿入剤は、例えば、生体分解性ポリマー、たとえばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸などの生体分解性ポリマーを本化合物とともに粉砕混合し、この粉末を圧縮成型することにより、調製することができ、必要に応じて、賦形剤、結合剤、安定化剤、pH調整剤などを用いることができる。
【0084】
本発明において、本化合物またはその薬学的に許容される塩の投与量は、剤型、投与すべき患者の症状の軽重、年令、体重、医師の判断などに応じて適宜変えることができるが、例えば、成人に対し1日あたり0.000001〜1000mgを1回または数回に分けて投与することができる。
【0085】
本化合物またはその薬学的に許容される塩を点眼剤として点眼する場合、例えば、成人に対し0.0001〜1%(w/v)、好ましくは0.001〜1%(w/v)、より好ましくは0.01〜0.5%(w/v)の有効成分濃度の点眼液を1日1回または数回に分けて、好ましくは1日1〜2回、より好ましくは1日1回点眼することができる。
【0086】
本化合物またはその薬学的に許容される塩を眼軟膏として点眼(点入)する、または、軟膏(眼軟膏を除く)として眼瞼皮膚投与する場合、例えば、成人に対し0.0001〜1%(w/w)、好ましくは0.001〜1%(w/w)、より好ましくは0.01〜0.5%(w/w)の有効成分濃度の眼軟膏を1日1回または数回に分けて点眼(点入)または眼瞼皮膚投与することができる。
【0087】
本化合物またはその薬学的に許容される塩を注射剤として投与する場合、例えば、成人に対し1日あたり0.000001〜1000mgの有効成分を含有する注射剤を1回または数回に分けて投与することができる。
【0088】
本化合物またはその薬学的に許容される塩を眼内インプラント用製剤として投与する場合、例えば、成人に対し0.000001〜1000mgの有効成分を含有する眼内インプラント用製剤をインプラントすることができる。
【0089】
本化合物またはその薬学的に許容される塩を挿入剤として投与する場合、例えば、成人に対し0.000001〜1000mgの有効成分を含有する挿入剤を挿入することができる。
【0090】
以下に、薬理試験の結果および製剤例を示すが、これらの例は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0091】
[完全フロイントアジュバンド投与ウサギを用いた試験]
完全フロイントアジュバンド投与ウサギにおいては、MGDの所見に類似した、マイボーム腺開口部周囲の毛細血管拡張、およびマイボーム腺開口部の閉塞が認められる。本化合物の代表例であるシロリムスが当該毛細血管拡張および閉塞に及ぼす影響を検討した(特開2014−024835を参照)。
【0092】
(試料調製)
0.1%(w/v)シロリムス懸濁液:0.01%(w/v)ヒドロキシプロピルメチルセルロースに懸濁して調製した。なお、シロリムスについては、LKT Laboratories社から購入したもの(カタログ番号:R0161)を使用した(以下、実施例において同じ)。
【0093】
(試験方法)
約2kgの雄性日本白色ウサギの右上眼瞼(3箇所)に、完全フロイントアジュバント10μLをそれぞれ投与した。惹起4日目に、スリットランプを用いて右上眼瞼のマイボーム腺開口部周囲を観察し、毛細血管拡張スコアおよびマイボーム腺開口部閉塞スコアを判定した。
【0094】
なお、毛細血管拡張スコアについては、下記表1および2の基準に従って、上眼瞼の眼瞼縁を耳側、中央部、鼻側の3分画に等分し、それぞれの分画についてマイボーム腺開口部周囲の毛細血管拡張スコアを判定し、3分画のスコアの和を1眼あたりのスコアとして算出した。ここで、毛細血管の拡張の有無は、血管径が拡大した結果、通常視認できない毛細血管が確認できる状態にあるか否かで判定した。また、マイボーム腺開口部の閉塞の有無は、マイボーム腺開口部が白濁した状態にあるか否かで判定した。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
生理食塩液投与群と0.1%シロリムス懸濁液投与群とに群分けし、各スコアの平均値のばらつきが小さくなるように各群7または8眼で試験し、惹起後5日目より、生理食塩液(50μL/眼、1日2回)、0.1%シロリムス懸濁液(50μL/眼、1日2回)を10日間にわたり右眼に点眼した。惹起後11および15日目にスリットランプを用いて、右上眼瞼のマイボーム腺開口部周囲を観察し、毛細血管拡張スコアを判定すると共に、閉塞している開口部の数を計測した。
【0098】
(試験結果)
試験結果(毛細血管拡張スコアおよび開口部閉塞数の平均値)を表3に示す。
【0099】
【表3】
【0100】
(考察)
0.1%シロリムス懸濁液は、マイボーム腺開口部周囲の毛細血管拡張スコアおよび当該開口部の閉塞数を減少させた。すなわち、シロリムスはこれらのマイボーム腺異常を改善させたことから、本化合物またはその薬学的に許容される塩はMGDに対して治療効果を有することが示された。
【0101】
[HR−AD飼料給餌ヘアレスマウスを用いた試験]
Hos:HR−1系ヘアレスマウスにHR−AD飼料を給餌すると、MGDの所見に類似した、マイボーム腺開口部の閉塞が認められることが知られている(特願2012−137778)。そこで、本化合物の代表例であるシロリムスおよびデフォロリムスが当該閉塞に及ぼす影響を検討した。
【0102】
(試料調製)
0.1%(w/v)シロリムス懸濁液:0.01%(w/v)ヒドロキシプロピルメチルセルロースに懸濁して調製した。
0.1%(w/v)デフォロリムス懸濁液:0.01%(w/v)ヒヒドロキシプロピルメチルセルロースに懸濁して調製した。なお、本試験に用いたデフォロリムスは、特表2005−516065号公報に記載された方法に従って製造した。
【0103】
(試験方法)
6週齢の雄性Hos:HR−1系ヘアレスマウスを、通常飼料給餌群5匹(CRF−1飼料、オリエンタル酵母工業株式会社製)、HR−AD飼料給餌群15匹(日本農産工業株式会社製)に群分けし、それぞれに通常飼料またはHR−AD飼料を給餌し、自発的に摂取させた。給餌開始後28日目に、スリットランプを用いて、マイボーム腺開口部を観察し、上眼瞼の中央8個のマイボーム腺開口部の中で、閉塞している開口部の数を計測した。なお、マイボーム腺開口部の閉塞の有無は、マイボーム腺開口部が白濁して盛り上がった状態にあるか否かで判定した(特開2014−023526を参照)。
【0104】
HR−AD飼料給餌群15匹を、生理食塩液投与群、0.1%シロリムス懸濁液投与群と0.1%デフォロリムス懸濁液投与群に群分けして(各群5匹)、給餌開始後29日目より、生理食塩液(2μL/眼、1日2回)、0.1%シロリムス懸濁液(2μL/眼、1日2回)、0.1%(w/v)デフォロリムス懸濁液(2μL/眼、1日2回)を28日間点眼した。給餌開始後42日目および56日目に、スリットランプを用いて、閉塞しているマイボーム腺開口部の数を計測した。
【0105】
(試験結果)
試験結果を表4に示す。
【0106】
【表4】
【0107】
(考察)
0.1%シロリムス懸濁液、および0.1%デフォロリムス懸濁液は、マイボーム腺開口部の閉塞数を減少させた。すなわち、シロリムスおよびデフォロリムスはマイボーム腺異常を改善させたことから、本化合物またはその薬学的に許容される塩はMGDに対して治療効果を有することが示された。
【0108】
[製剤例]
製剤例を挙げて本発明の薬剤をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの製剤例にのみ限定されるものではない。
【0109】
処方例1 点眼剤(0.1%(w/v))
100ml中
シロリムス 0.1g
中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT) 7.5g
ベンザルコニウム塩化物 0.2g
チロキサポール 1.2g
ポロキサマー188 1g
グリセリン 22.5g
滅菌精製水 適量
【0110】
滅菌精製水にシロリムスおよびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合することで点眼剤を調製する。本点眼剤の性状はエマルジョンである。シロリムスの配合量を変えることにより、シロリムスの濃度が0.05%(w/v)、0.5%(w/v)または1%(w/v)の点眼液を調製できる。
【0111】
処方例2 点眼剤(0.1%(w/v))
100ml中
デフォロリムス 0.1g
中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT) 7.5g
ベンザルコニウム塩化物 0.2g
チロキサポール 1.2g
ポロキサマー188 1g
グリセリン 22.5g
滅菌精製水 適量
【0112】
滅菌精製水にデフォロリムスおよびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合することで点眼剤を調製する。本点眼剤の性状はエマルジョンである。デフォロリムスの配合量を変えることにより、シロリムスの濃度が0.05%(w/v)、0.5%(w/v)または1%(w/v)の点眼液を調製できる。
【0113】
処方例3 眼軟膏または軟膏(眼軟膏を除く)(1%(w/w))
100g中
シロリムス 1g
流動パラフィン 適量
白色ワセリン 適量
【0114】
均一に溶融した白色ワセリンおよび流動パラフィンにシロリムスを加え、これらを十分に混合した後に徐々に冷却することで眼軟膏または軟膏(眼軟膏を除く)を調製する。シロリムスの配合量を変えることにより、シロリムスの濃度が0.05%(w/w)、0.1%(w/w)または0.5%(w/w)の眼軟膏または軟膏(眼軟膏を除く)を調製できる。
【0115】
処方例4 眼軟膏または軟膏(眼軟膏を除く)(1%(w/w))
100g中
デフォロリムス 1g
流動パラフィン 適量
白色ワセリン 適量
【0116】
均一に溶融した白色ワセリンおよび流動パラフィンにデフォロリムスを加え、これらを十分に混合した後に徐々に冷却することで眼軟膏または軟膏(眼軟膏を除く)を調製する。デフォロリムスの配合量を変えることにより、デフォロリムスの濃度が0.05%(w/w)、0.1%(w/w)または0.5%(w/w)の眼軟膏または軟膏(眼軟膏を除く)を調製できる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
完全フロイントアジュバンド投与ラットおよびHR−AD飼料給餌ヘアレスマウスを用いた試験の結果から明らかなように、シロリムスおよびデフォロリムスは、マイボーム腺の閉塞を抑制したことから、本化合物またはその薬学的に許容される塩はMGDの予防および/または治療剤として有用である。