特許第6495440号(P6495440)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6495440核酸リガンドの構造変化に基づくSPFSバイオセンサー
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6495440
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】核酸リガンドの構造変化に基づくSPFSバイオセンサー
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20190325BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20190325BHJP
【FI】
   G01N21/64 G
   G01N21/64 F
   G01N33/50 P
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-513481(P2017-513481)
(86)(22)【出願日】2015年9月1日
(65)【公表番号】特表2017-534844(P2017-534844A)
(43)【公表日】2017年11月24日
(86)【国際出願番号】US2015047988
(87)【国際公開番号】WO2016040059
(87)【国際公開日】20160317
【審査請求日】2017年9月21日
(31)【優先権主張番号】62/048,488
(32)【優先日】2014年9月10日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507031918
【氏名又は名称】コニカ ミノルタ ラボラトリー ユー.エス.エー.,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヤマモト, ノリアキ
【審査官】 吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−250960(JP,A)
【文献】 特開2007−171158(JP,A)
【文献】 特表2006−510579(JP,A)
【文献】 特表2003−508729(JP,A)
【文献】 特開2006−313118(JP,A)
【文献】 特開2004−028798(JP,A)
【文献】 特開2005−077143(JP,A)
【文献】 特開2013−185918(JP,A)
【文献】 特開平08−219993(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0137418(US,A1)
【文献】 Shuo-Hui Cao,Electric Field Assisted Surface Plasmon-Coupled Directional Emission: An Active Strategy on Enhancing Sensitivity for DNA Sensing and Efficient Discrimination of Single Base Mutation,JOURNAL OF THE AMERICAN CHEMICAL SOCIETY,2011年 2月16日,Vol.133/Iss.6,PP.1787-1789
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62−74
G01N 33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学バイオセンサーであって、
プリズムと、
前記プリズム上に形成された金属薄膜であって、所定波長の入射光により所定角度でプリズムが照射されると、表面近くに電場を発生するよう構成され、前記電場が、前記金属薄膜の表面に隣接する蛍光クエンチ領域と、前記蛍光クエンチ領域よりも更に表面から離れた位置の蛍光増強領域とを形成する、金属薄膜と、
一端が前記金属薄膜の表面に固定され、他端が蛍光マーカーで修飾された核酸分子であって、標的が結合すると折りたたまれた状態から伸長した状態へ、又は標的が結合すると伸長した状態から折りたたまれた状態へ構造が変化する、核酸分子と、
前記核酸分子が、金属薄膜の表面から離れる方向に伸長するように前記蛍光マーカー又は前記核酸分子に磁力を加える手段と、
を備え、
前記核酸分子が伸長状態にあるとき、前記蛍光マーカーは、前記蛍光増強領域に位置して第1の蛍光シグナルを発し、且つ、前記核酸分子が折りたたまれた状態にあるとき、前記蛍光マーカーは、蛍光クエンチ領域に位置して蛍光シグナルを発さないか、又は第1の蛍光シグナルよりも弱い第2の蛍光シグナルを発
前記蛍光マーカーが常磁性を有するか、又は前記核酸分子が、前記蛍光マーカーで修飾された端部において常磁性を有する別の分子で修飾されている、光学バイオセンサー。
【請求項2】
前記バイオセンサーが、表面プラズモン励起増強蛍光分光センサーである、請求項1に記載の光学バイオセンサー。
【請求項3】
前記蛍光マーカーが、前記金属薄膜の表面に導入される試料媒質の密度よりも高い又は低い密度を有する、請求項1または2に記載の光学バイオセンサー。
【請求項4】
前記核酸分子が、前記蛍光マーカーで修飾された端部においてマイクロバブルで修飾されている、請求項1〜3のいずれかに記載の光学バイオセンサー。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの光学バイオセンサーの使用方法であって、
前記バイオセンサーの金属薄膜表面に試料を導入する工程と、
前記バイオセンサーから蛍光シグナルを測定する工程と、
からなる方法。
【請求項6】
前記核酸分子が金属薄膜の表面から離れる方向に伸長するように、前記蛍光マーカー又は前記核酸分子に外力を加える工程、を更に備える請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面プラズモン励起増強蛍光分光法(SPFS)に関し、特に、核酸リガンドの構造変化に基づくSPFSバイオセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
バイオセンシング技術として、表面プラズモン励起増強蛍光分光法(SPFS)が知られている。この技術は、例えば、T.Liebermann,W.KnollによるSurface−plasmon field−enhanced fluorescence spectroscopy,Colloids and Surfaces A:Physicochem.Eng.Aspects 171(2000年)115-130頁(「Liebermann2000」)や、Wolfgang Knoir,Fang Yu,Thomas Neumann,Lifang Niu,Evelyne L.SchmidによるPrinciples And Applications Of Surface Plasmon Field−Enhanced Fluorescence Techniques,in Topics in Fluorescence Spectroscopy,Volume 8:Radiative Decay Engineering(Geddes及びLakowicz編集,Springer Science+Business Media社,ニューヨーク,2005年)305−332頁に記載されている。これらの引用文献には、SPFSバイオセンサーの一般的な原理及び構成が示されている。SPFSによって、先進的なセンシング技術による高感度検出が提供される。
【0003】
図1Aは、論文Liebermann2000の図5からの引用であり、SPFSシステムの構成を示す。図1Bは、同論文の図6(a)からの引用であり、SPFSシステムに用いられるプリズム及びフローセルの構造を示す。以下に、SPFSの基本概念を図1、1A及び1Bを参照して説明する。SPFSバイオセンサーは、ガラス又はプラスチックのプリズム上に金属薄膜を有する。金属は、例えば金、銀、アルミニウム等であってよい。金属膜の表面上には、捕捉分子が固定されている。生物試料は、この金属膜上に導入される。一定の波長の入射光により一定の角度でプリズムが照射されると、金属膜の表面に比較的強い電場が形成される。金属膜によるクエンチがあることから、蛍光励起に最適な位置は、表面から20nmから数百nm上方の領域である。一般的な装置では、クエンチ領域は金属表面から約0nm〜5nmの範囲であり、増強領域は、表面から約10nm〜200nmである。蛍光標識がこの増強領域に捕捉されると、比較的強い蛍光シグナルが発生する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
SPFSバイオセンサーは、蛍光検出に基づいている。従来のSPFSバイオセンサーでは、タンパク質を検出するために、一般に金属薄膜上に固定された一次抗体に加えて、蛍光標識二次抗体が用いられている。この概略を図1に示す。一次抗体15は、プリズム12上の金属薄膜11上に固定されている。標的17(即ち、タンパク質等の被検出物質)をバイオセンサーに添加されると、これが固定された一次抗体15に捕捉される。次いで、蛍光標識された二次抗体16をバイオセンサーに添加すると、これが標的17に結合する。一次抗体15、標的17及び二次抗体16により、二次抗体の蛍光標識16Fが金属薄膜11上方の増強された電場領域内に位置するような構造が形成され、比較的強い蛍光シグナルが発生する。結合していない、又は非特異的な結合を形成している二次抗体については、その蛍光標識が、増強領域外となる金属クエンチ領域又は表面から更に遠くに位置する傾向があるため、励起されない。バイオセンサーを、検出結果を得る前に洗浄することができる。これら複数の工程により、バイオセンサーの使用はより複雑となり、ターンアラウンド時間も長くなっている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態によれば、標識の存在下で構造が変化するDNAリガンドを、SPFSバイオセンサー上の分子スイッチとして用い、迅速なターンアラウンド時間で1工程のSPFSバイオセンシングが実現される。このバイオセンシング法では、標的により引き起こされる構造変化により、DNAリガンドに固定された蛍光マーカーの位置が、SPFSバイオセンサーのクエンチ領域から増強領域へ、又はその逆に変化する。
【0006】
本発明は、アッセイの工程数を減らすことにより、SPFSバイオセンサーのターンアラウンド時間及び複雑さを低減することを目的とする。DNAナノスイッチ技術とSPFSを組み合わせた結果、システムについて、高感度、迅速なターンアラウンド時間そして簡便さを実現することができる。
【0007】
本発明の更なる特徴及び効果は、以下の詳細な説明に記載されており、その一部は詳細な説明から明らかであるか、又は本発明の実施により知られるであろう。本発明の目的及びその他の効果は、詳細な説明及び請求の範囲において特に指摘される構造、そして添付の図面により理解され、達成されるであろう。
【0008】
例示され広く記載されるように、これらの目的および/または他の目的を達成するため、本願発明は光学バイオセンサーを提供する。当該光学バイオセンサーは、
プリズムと、
前記プリズム上に形成された金属薄膜であって、所定波長の入射光により所定角度でプリズムが照射されると、表面近くに電場を発生するよう構成され、前記電場が、前記金属薄膜の表面に隣接する蛍光クエンチ領域と、前記蛍光クエンチ領域よりも更に表面から離れた位置の蛍光増強領域とを形成する、金属薄膜と、
一端が前記金属薄膜の表面に固定され、他端が蛍光マーカーで修飾された核酸分子であって、標的が結合すると折りたたまれた状態から伸長した状態へ、又は標的が結合すると伸長した状態から折りたたまれた状態へ構造が変化する、核酸分子と、
前記核酸分子が、金属薄膜の表面から離れる方向に伸長するように前記蛍光マーカー又は前記核酸分子に磁力を加える手段と、
を備え、
前記核酸分子が伸長状態にあるとき、前記蛍光マーカーは、前記蛍光増強領域に位置して第1の蛍光シグナルを発し、且つ、前記核酸分子が折りたたまれた状態にあるとき、前記蛍光マーカーは、蛍光クエンチ領域に位置して蛍光シグナルを発さないか、又は第1の蛍光シグナルよりも弱い第2の蛍光シグナルを発
前記蛍光マーカーが常磁性を有するか、又は前記核酸分子が、前記蛍光マーカーで修飾された端部において常磁性を有する別の分子で修飾されている
【0009】
他の側面では本願発明は、上記光学バイオセンサーの使用方法を提供する。当該方法は、前記バイオセンサーの金属膜表面に試料を導入する工程と、前記バイオセンサーから蛍光シグナルを測定する工程とを含む。
【0010】
上記の概要の説明及び以下の詳細な説明は、いずれも例示及び説明のためのものであって、請求の範囲に記載の発明のさらなる説明を意図したものであると解される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】従来のSPFSバイオセンサーの原理及び構成を概略的に示す図である。
図1A】従来のSPFSバイオセンサーの原理及び構成を概略的に示す図である。
図1B】従来のSPFSバイオセンサーの原理及び構成を概略的に示す図である。
図2A】本発明の実施形態に係るDNA分子スイッチを用いたSPFSバイオセンサーの原理を概略的に示す図である。
図2B】本発明の実施形態に係るDNA分子スイッチを用いたSPFSバイオセンサーの原理を概略的に示す図である。
図3】伸長した蛍光標識付きDNAリガンドを概略的に示し、当該蛍光標識が、増強された電場領域に位置している図である。
図4】種々のフェルスター距離における、蛍光シグナル強度−距離曲線の例を示す図である。
図5】本発明の実施形態において分子スイッチとして用いることのできるDNA分子の例を示す図である。
図6A】本発明の実施形態において分子スイッチとして用いることのできる、長さを延長したDNAリガンドと延長していないDNAリガンドの例を概略的に示す図である。
図6B】本発明の実施形態において分子スイッチとして用いることのできる、長さを延長したDNAリガンドと延長していないDNAリガンドの例を概略的に示す図である。
図6C】本発明の実施形態において分子スイッチとして用いることのできる、長さを延長したDNAリガンドと延長していないDNAリガンドの例を概略的に示す図である。
図7】標的がある場合と無い場合の、DNAリガンドの蛍光色素の位置分布曲線を示す図である。
図8A】金属膜上に固定されたDNA分子の伸長方向を制御する種々の方法を概略的に示す図である。
図8B】金属膜上に固定されたDNA分子の伸長方向を制御する種々の方法を概略的に示す図である。
図8C】金属膜上に固定されたDNA分子の伸長方向を制御する種々の方法を概略的に示す図である。
図8D】金属膜上に固定されたDNA分子の伸長方向を制御する種々の方法を概略的に示す図である。
図8E】金属膜上に固定されたDNA分子の伸長方向を制御する種々の方法を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態では、標的の存在下で構造が変化するDNAリガンドを、SPFSセンサーの分子スイッチ(DNAナノスイッチともいう。)として用いる。この技術によれば、SPFSバイオセンサーのクエンチ領域及び増強領域でのDNAの構造変化を用いて、1工程のアッセイが実現される。
【0013】
図2Aは、本発明の実施形態に係るSPFSにおけるDNA分子スイッチの使用の基本概念を概略的に示す図である。分子スイッチにはDNA分子22を採用しており、その一端は、センサーの金属表面21上に固定され、他端は、蛍光色素22Fで修飾されている。標的23(例えば、タンパク質分子又はその他の生物分子又は試薬)の非存在下では、DNA分子22は折りたたまれており、蛍光色素22Fは、金属表面21の近くである金属クエンチ領域に位置し、クエンチされている(図2A左側参照。)。標的23の存在下では、DNA構造22は、伸長形状へと変化し、蛍光色素22Fは、増強された電場領域に位置することとなって、比較的強い蛍光シグナルを発する(図2A右側参照。)。
【0014】
図2Bは、本発明の別の実施形態に係るSPFSに用いることのできる別のDNA分子スイッチを概略的に示す図であり、DNA分子22’は、標的23の非存在下では展開して、DNAの他端にある蛍光色素22Fが比較的強いシグナルを発するが、標的の存在下では折りたたまれて、蛍光色素がクエンチされる。このバイオセンサーは、その他の点では図2Aのものと同様である。図2A及び2Bには示していないが、バイオセンサーのプリズムが、図1に示す構成と同様に金属薄膜21の下に位置している。
【0015】
このバイオセンサーを用いる際は、蛍光シグナルが測定可能となるまでに、標的を含む試料を導入する1工程のみを要する。
【0016】
論文Liebermann2000に記載されるように、金属表面から短距離の位置で最も強い蛍光シグナルが得られる。当該論文に記載の情報(例えば、論文の図3及びそれに関連する記載)に基づくと、例えば論文で示された例によれば、蛍光シグナルに最適な表面からの高さは、好ましくは10nm〜100nm、より好ましくは10nm〜30nmである。よって、蛍光シグナルについて高いシグナル−ノイズ比を得るためには、蛍光色素が、標的の存在下(図2Aの例の場合。図2Bの例の場合は標的の非存在下)では蛍光シグナルが最も高くなると見込まれる位置にあり、標的の非存在下(存在下)では、蛍光シグナルが最も低くなると見込まれる位置にあることが重要である。上記の例では、標的の非存在下では、色素は、表面からの高さが5nm未満の空間内、好ましくはできる限り表面近くにあるべきであり、また、DNAリガンドが標的に結合したときには、色素は、蛍光シグナルが最大に近い位置、例えば金属表面から10nm〜100nm、より好ましくは10nm〜30nmの位置にあるべきである。これを実現するには、図3に示すように、(標的の存在下又は不存在下における)DNAリガンドの長さ及びDNAリガンドの伸長方向が重要である。
【0017】
蛍光強度曲線における最適距離は、フェルスター距離である蛍光クエンチの半径(d)によって変わる。フェルスター半径dは、ドナー及びアクセプターの種類、蛍光の波長及び媒質の屈折率によって決まる。よって、dは、ドナー及び/又はアクセプターの材料、及び/又は添加剤や温度等といった媒体の屈折率を左右する要因を選択することにより調節することができる。dの値は、通常5nm〜10nmの範囲である。図4に、3種類の異なるd値における蛍光強度曲線を示す。このように、SPFSバイオセンサーとしてのDNAリガンドの最適長は、d値によって変わり、多くの場合、最適長は約10nm〜30nmとなるはずである。
【0018】
DNA分子スイッチとして作用することのできるDNAリガンドの一つが、Vallee−Belisle et al.J Am Chem Soc.2012年9月19日,134(37)(「Vallee−Belisle 2012」)に記載されており(図5参照)、これを当該論文に基づき再現する。この論文に記載のDNA分子は、DNAの一方の末端が蛍光マーカー(蛍光色素)「F」により修飾されており、他方の末端がクエンチモジュール「Q」により修飾されている。標的(抗体)の非存在下においてDNAが折りたたまれると、蛍光色素F及びクエンチモジュールQが互いに近接する位置となり、蛍光がクエンチされる。標的の存在下においてDNAが展開されると、蛍光色素FはクエンチモジュールQによるクエンチを受けなくなる。このDNAリガンドの当初折りたたまれている部分は、標的が結合すると12nmの長さに伸長する。
【0019】
このDNAを、本発明の実施形態に係るSPFSバイオセンサー用途に適合させてもよい。DNAの蛍光色素Fを持たない端部は、SPFSセンサーの金属膜に固定される。DNAが折りたたまれると、色素の蛍光は金属薄膜によりクエンチされるので、クエンチモジュールQは不要である。しかし、クエンチモジュールQは、折りたたまれた状態における蛍光シグナルを更に減少させるので、任意で設けることができる。
【0020】
SPFSセンサーにおける蛍光の最適領域は、フェルスター半径(d)によって変わるため、伸長したDNAにこの領域に蛍光色素を配置するのに十分な長さが無い場合には、金属表面21から10nm〜30nmの範囲となる最適位置に蛍光色素が配置されるように、さらにDNA配列を追加することができる。d=5の場合には、蛍光シグナルが最も強くなる位置は、約10nmであり(図4参照。)、論文Vallee−Belisle et al.2012に記載されるDNAリガンド61を改変すること無く用いることができる(図6A参照)。一方、d=10の場合には、蛍光シグナルが最も強くなる位置は約20nmであり、この場合、DNAリガンドが展開されたときに蛍光シグナルが最も強くなる領域に蛍光標識が位置するように、DNAリガンドの長さを延長する必要がある。例えば、さらなるDNA配列62を、DNAリガンド61の折りたたまれる部分の両末端に追加することができ、蛍光色素及び固定部位は、延長したDNAの遠位端に配される(図6B参照)。あるいは、複数のDNA分子61を縦列に並べて繋いで長さを延長することもできる(図6C参照)。図6Cには、2個の抗体(標的)がタンデムDNAリガンドに結合している様子が示されている。
【0021】
試料中での蛍光色素の位置は、伸長したDNA分子が常に膜表面と直交する角度で完全に伸びているわけではないことから、分布を示す傾向がある。DNAスイッチは、標的が存在するときに最も強い蛍光シグナルをもたらし、標的が存在しないときには最も弱い蛍光シグナルをもたらす位置分布を示すように選択され、調節されるべきである。図7において、曲線71は、標的が存在しない場合の蛍光色素の位置分布の例(g(d))を示し、曲線72は、標的が存在する場合の蛍光色素の位置分布の例(h(d))を示し、曲線73は、距離の関数としての蛍光シグナル強度の例(f(d))である。試料からのシグナル強度は、位置分布と蛍光強度との積である。
シグナル = o f(d) * h(d) dd
ノイズ = o f(d) * g(d) dd
【0022】
DNA分子の伸長した長さが、蛍光シグナルが最も強くなる位置とほぼ同じである場合、DNA分子の伸長方向は、金属表面に対して垂直であることが望ましい。DNAが伸長したときの位置分布は、狭くすることが望ましい。これは、伸長方向を制御する技術により達成することができる。換言すれば、DNA分子の伸長方向は、磁力、電気力及び/又は浮力等の外力により制御することができる。図8A〜8Eに、種々の外力を加える手段を用いてDNAの伸長方向を制御する例を概略的にいくつか示す。
【0023】
図8Aは、磁力による制御を示し、蛍光色素が常磁性を有するか、あるいはDNAが自由末端(即ち、金属表面21に固定されていないDNA末端)において常磁性を有する別の分子により修飾されている。外部磁場が試料に加えられる。
【0024】
図8Bは、電気による制御を示し、蛍光色素が正電荷(又は負電荷)を帯びているか、あるいはDNAが自由末端において正電荷(又は負電荷)を帯びた別の分子により修飾されている。適当な方向の外部電場が試料に加えられる。図8Cは、電気による制御の別の例を示し、DNA分子が(DNA本来の帯電である)負電荷を帯びており、金属薄膜の表面も同じく負に帯電されている。
【0025】
図8Dは、浮力による制御を示し、蛍光色素の密度が試料媒質よりも低いか、あるいはDNAが自由末端においてマイクロバブルにより修飾されて浮力を作り出している。マイクロバブルは、既知の技術用いて作成される。金属薄膜は、試料媒質の下方に位置し、DNA分子は上向きに伸長する。図8Eは、浮力による制御の別の例を示し、蛍光色素の密度が試料媒質よりも大きい。ここでは、金属薄膜21は試料媒質の上方に位置し、DNA分子は下向きに伸長する。
【0026】
試料は、リガンドを含めその分子のほとんどが電荷を帯びており、また、試料媒質の密度は患者によって様々となる傾向があることから、電気や浮力による制御では信頼性が低くなるおそれがあり、磁力による制御が本目的にはより好適である。
【0027】
これらのDNA伸長方向の制御技術において、外力(磁気、電気、浮力)は、標的が存在しないときにDNAを折りたたみ構造に保つ力よりも弱くあるべきであることに留意する必要がある。
【0028】
シグナル−ノイズ比を高める別の技術として、標的が存在しないときに、蛍光分子を金属表面に集めてノイズを減少させる技術がある。これを実現するには、金属膜表面を、蛍光色素又は蛍光色素が結合したDNA末端と相互作用するように改変することができる。
【0029】
上述したように、DNAが折りたたまれているときに蛍光がクエンチされるように、クエンチモジュールをDNA分子の固定末端近くに取り付ける必要はないが、そうしたクエンチモジュールを有していれば、ノイズが減少してシグナル−ノイズ比が高くなるので有利である。
【0030】
上記した方法は、分析物(DNA、RNA、タンパク質、代謝産物、ウイルス、細胞等)の存在下で構造が変化する他のDNA分子スイッチにも適用することができる。
【0031】
本発明の範囲又は精神から逸脱しない限り、本発明のSPFSバイオセンサー及び関連する方法に様々な改良及び変更を加えうることは、当業者にとって明白であろう。よって本発明は、以下のクレーム及びその均等の範囲内となる改良及び変更が包含するものと意図されている。
図1
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E