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特許6495537コリオリ式流量計のオフレゾナンスサイクリング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6495537
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】コリオリ式流量計のオフレゾナンスサイクリング
(51)【国際特許分類】
   G01F 1/84 20060101AFI20190325BHJP
【FI】
   G01F1/84
【請求項の数】16
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2018-504284(P2018-504284)
(86)(22)【出願日】2015年7月27日
(65)【公表番号】特表2018-522244(P2018-522244A)
(43)【公表日】2018年8月9日
(86)【国際出願番号】US2015042295
(87)【国際公開番号】WO2017019024
(87)【国際公開日】20170202
【審査請求日】2018年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】500205770
【氏名又は名称】マイクロ モーション インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レンシング, マシュー ジョセフ
【審査官】 羽飼 知佳
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−514916(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フローチューブの振動モードを励振することを含み、
前記フローチューブの振動モードを励振することが第一のドライバを周期的に駆動するステップと第二のドライバを周期的に駆動するステップとを含み、前記第一のドライバおよび前記第二のドライバが互いに位相が異なるように振幅変調され、前記第一のドライバおよび前記第二のドライバに提供されるコマンドが合計でN+1個の独立した信号を含み、
さらに
第一のピックオフと第二のピックオフとの間の位相を測定することと、
前記第一のドライバおよび前記第二のドライバを複数のオフレゾナンス周波数で励振することと、
前記複数のオフレゾナンス周波数の各々においてモード応答と前記第一のドライバおよび前記第二のドライバとの間の有効位相を推測することと、
前記複数のオフレゾナンス周波数の各々において左側固有ベクトルの位相推定値を生成することと、
前記フローチューブの右側固有ベクトルの位相を求めることと、
前記複数のオフレゾナンス周波数における位相推定値に基づいて共振駆動周波数における左側固有ベクトルの位相を推定することと
を含む、方法。
【請求項2】
前記合計でN+1個の独立した信号が、
ピックオフ信号の閉ループフィードバックとして提供されるオンレゾナンス駆動コマンドであって、前記第一のドライバおよび前記第二のドライバが同じ前記駆動コマンドを受け取る、オンレゾナンス駆動コマンドと、
複数の振幅変調開ループオフレゾナンス駆動コマンドであって、前記第一のドライバに提供される前記駆動コマンドが前記第二のドライバに提供される前記駆動コマンドとは異なる位相で振幅変調される、オフレゾナンス駆動コマンドと
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複数のオフレゾナンス周波数の関数である位相変化モデルを生成することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記フローチューブを流れる物質の実際の流量を求めるステップが、
前記右側固有ベクトルの位相を用いて前記フローチューブを流れる物質の補正前流量を求めることと、
前記補正前流量を前記実際の流量と比較することにより前記フローチューブを流れる物質の流量のゼロオフセットを求めることと
をさらに含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ゼロオフセットにより補正された前記右側固有ベクトルの位相を用いて前記フローチューブを流れる物質の流量を求めることをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
右側固有ベクトルの位相を求めることと、
前記左側固有ベクトルの位相で前記右側固有ベクトルの位相を平均することにより前記フローチューブを流れる物質の流量のゼロオフセットを求めることと、
前記第一のドライバを前記第一のピックオフセンサーと並置させることと、
前記第二のドライバを前記第二のピックオフセンサーと並置させることと
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第一のドライバを第一の信号で周期的に駆動するステップが前記第一のドライバを正弦波で駆動することを含み、前記第二のドライバを前記第二の信号で周期的に駆動するステップが前記第二のドライバを正弦波で駆動することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記左側固有ベクトルの位相および前記右側固有ベクトルの位相を定期的に測定することと、前記左側固有ベクトルの位相と前記右側固有ベクトルの位相との間の差から直接Δt値を生成することとをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
フローチューブに物質を流すことと、
第一のドライバが周期的に駆動され、第二のドライバが周期的に駆動されるように前記フローチューブを振動モードで周期的に励振することとを含み、
前記第一のドライバおよび前記第二のドライバが互いに位相が異なるように振幅変調され、前記第一のドライバおよび前記第二のドライバに提供される駆動コマンドが合計でN+1個の独立した信号を含み、
さらに、
複数のオフレゾナンス周波数を用いて前記第一のドライバおよび前記第二のドライバを周期的に励振することと、
振動する前記フローチューブの相対運動を測定することと、
前記フローチューブを前記振動モードで励振させながら右側固有ベクトルの位相を測定することと、
前記複数のオフレゾナンス周波数の各々においてモード応答と前記第一のドライバおよび前記第二のドライバとの間の有効位相を推測することと、
前記複数のオフレゾナンス周波数の各々において左側固有ベクトルの位相推定値を生成することと、
前記複数のオフレゾナンス周波数における位相推定値に基づいて共振駆動周波数における左側固有ベクトルの位相を推定することと、
ゼロオフセットにより補正された右側固有ベクトルの位相を用いて前記フローチューブを流れる物質の流量を求めることと、
前記フローチューブの左側固有ベクトルの位相を用いて前記フローチューブを流れる物質を止めることなく新たなゼロオフセットを求めることと、
前記新たなゼロオフセットにより補正された右側固有ベクトルの位相を用いて前記フローチューブを流れる物質の流量を求めることと
を含む、方法。
【請求項10】
前記第一のドライバを前記第一のピックオフセンサーと並置させることと、前記第二のドライバを前記第二のピックオフセンサーと並置させることとをさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
1つ以上のフローチューブ(103、103’)ならびに第一のピックオフセンサー(170L)および第二のピックオフセンサー(170R)を有するセンサー組立体(10)と、
前記1つ以上のフローチューブ(130、130’)を振動させるように構成される第一のドライバ(180L)および第二のドライバ(180R)と、
前記第一のピックオフセンサー(170L)および前記第二のピックオフセンサー(170R)と結合され、前記第一のドライバ(180L)および前記第二のドライバ180R)と結合され、前記第一のドライバ(180L)および前記第二のドライバ(180R)に第一の信号を提供するように構成されるメーター電子機器(20)とを備え、
前記第一のドライバ(180L)および前記第二のドライバ(180R)が互いに位相が異なるように振幅変調され、前記第一のドライバ(180L)および前記第二のドライバ(180R)に提供される駆動コマンドが合計でN+1個の独立した信号を含み、前記第一のドライバ(180L)および前記第二のドライバ(180R)が複数のオフレゾナンス周波数で励振され、前記複数のオフレゾナンス周波数の各々においてモード応答と前記第一のドライバおよび前記第二のドライバとの間の有効位相が推測され、前記複数のオフレゾナンス周波数の各々において左側固有ベクトルの位相が生成され、前記メーター電子機器(20)が、第一のピックオフ(170L)と第二のピックオフ(170R)との間の位相を測定し、前記フローチューブ(130、130’)の右側固有ベクトルの位相を求めるようにさらに構成され、前記複数のオフレゾナンス周波数における前記複数の位相推定値に基づいて共振駆動周波数における左側固有ベクトルが推定されるように構成されてなる、振動式流量計(5)。
【請求項12】
前記メーター電子機器(20)が、前記右側固有ベクトルの位相を用いて前記一つ以上のフローチューブ(130、130’)を流れる物質の補正前流量を求め、該補正前流量を前記実際の流量と比較することにより、前記1つ以上のフローチューブ(130、130’)を流れる物質の流量のゼロオフセットを求めるようにさらに構成されてなる、請求項11に記載の振動式流量計(5)。
【請求項13】
前記メーター電子機器(20)が、前記ゼロオフセットにより補正された前記右側固有ベクトルの位相を用いて前記1つ以上のフローチューブ(130、130’)を流れる物質の流量を求めるようにさらに構成されてなる、請求項11に記載の振動式流量計(5)。
【請求項14】
前記メーター電子機器(20)が、右側固有ベクトルの位相を求め、該右側固有ベクトルの位相を前記左側固有ベクトルの位相で重み付け平均することにより前記1つ以上のフローチューブ(130、130’)を流れる物質の流量のゼロオフセットを求めるようにさらに構成されてなる、請求項11に記載の振動式流量計(5)。
【請求項15】
前記第一のドライバ(180L)が前記第一のピックオフセンサー(170L)と並置され、前記第二のドライバ(180R)が前記第二のピックオフセンサー(170R)と並置されてなる、請求項11に記載の振動式流量計(5)。
【請求項16】
前記第一の信号が正弦波である、請求項11に記載の振動式流量計(5)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流量計に関するものであり、とくにコリオリ式流量計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
流体を搬送するチューブを振動させ、チューブ上の2つ以上の部位における振動応答と振動応答との間の時間遅延(または位相角)を測定することにより、コリオリ式流量計により質量流量が測定されている。実際の状況では、時間遅延は質量流量とともに直線的に変化するものの、質量流量が零の時に零にならないのが一般的である。たとえば計器の電子機器内では、非比例減衰、残留柔軟性応答、電磁的クロストークまたは位相遅延の如き複数の要因により引き起こされるゼロ流量遅延またはゼロ流量オフセットが通常存在している。
【0003】
通常、このゼロ流量オフセットは、流れのない状態においてゼロ流量オフセットを測定し、流れのある状態で測定される次の測定結果からゼロ流量オフセット測定値を減算することにより補正される。ゼロ流量オフセットが一定のままであるならば、ゼロ流量オフセット問題の解決にはこれで十分のはずである。しかしながら残念なことに、ゼロ流量オフセットは、周囲環境(たとえば、温度)の僅かな変化によりまたは物質が流れる配管システムの変化により影響を受ける恐れがある。ゼロ流量オフセットが変化すると流量測定値に誤差を生じさせてしまうことになる。正常動作時では、流れのない状態と流れのない状態との間の期間が長く、これらの流れのない状態においてのみ流量計をゼロに設定して流量計を較正することができるので、ゼロオフセットが時間の経過とともに変化してしまうと、大きな誤差が流量測定結果に生じうることになる。
【0004】
コリオリ式流量計の動作は数式を用いて説明することができる。このことについてはMicro Motion Inc.社に付与されている米国特許第7,441,469号および同第7,706,987号に詳細に記載されている。これらの特許はここで参照することにより援用するものとする。線形システムの運動を説明する一般1次微分方程式系は次の通りである:
【0005】
【数1】
【0006】
式(1)において、MおよびKはシステムの質量マトリックスおよび剛性マトリックスであり、Cは減衰に起因する対称な構成要素およびコリオリ力に起因する歪対称な構成要素を有しうる一般減衰マトリックスである。
【0007】
【数2】
【0008】
式1は式2に書き直すことができる。式2において、Aはマトリックス
【0009】
【数3】
【0010】
と等しく、Bはマトリックス
【0011】
【数4】
【0012】
と等しく、uは
【0013】
【数5】
【0014】
と等しい。
【0015】
式1および式2に目を向けると、この運動方程式についての洞察を得ることができる。式(2)に関連する一般化された固有値問題は、右側固有ベクトルφ(r)について次のような解を得ることができる:
【0016】
【数6】
【0017】
AマトリックスおよびBマトリックスが対称な場合、固有ベクトルを用いて運動方程式を対角化または分離させることができる。分離後の方程式は容易に解くことができる。例えばCがコリオリマトリックスを含む非対称なシステムの場合、右側固有ベクトルは運動方程式を対角化せず、結合方程式が得られる。結合方程式は解くのがより困難であり、解を求める妨げとなる。非対称なAマトリックスまたはBマトリックスを対角化するには左側固有ベクトルが必要となる。次の導出はこの過程を示したものである。左側固有ベクトルは次の一般化された固有値問題の解を求めることにより得られる:
【0018】
【数7】
【0019】
コリオリ式流量計の場合MおよびKは通常対称である。流れがない場合、Cも対称であるので、システムマトリックスAおよびBは対称となる。この場合、式(3)および式(4)は同一であり、左側固有ベクトルは右側固有ベクトルと同じものとなる。流れがある場合、Cマトリックスに付随する非対称性により左側固有ベクトルは右側固有ベクトルとは異なるものとなる。
【0020】
j’番目の右側固有ベクトルを検討すると:
【0021】
【数8】
【0022】
また、i’番目の左側固有ベクトルを検討すると:
【0023】
【数9】
【0024】
式(5)を
【0025】
【数10】
【0026】
で前から乗算(pre−multiply)し、式(6)を
【0027】
【数11】
【0028】
で後ろから乗算(post−multiply)し、両者の差を計算すると、次の式が得られる:
【0029】
【数12】
【0030】
式(5)を1/λで乗算し、式(6)を1/λで乗算し、同じ手順を行うことにより,次の式が得られる:
【0031】
【数13】
【0032】
式(7)および式(8)は、システムマトリックスAまたはBのいずれかに左側固有ベクトルマトリックスΦ(L)を前から乗算し、右側固有ベクトルマトリックスΦ(R)を後から乗算することにより、システムマトリックスが対角化されることを示している。すなわち、次の式が得られる:
【0033】
【数14】
【0034】
左側固有ベクトルマトリックスおよび右側固有ベクトルマトリックスがシステムマトリックスを対角化するという事実は、一組の右側固有ベクトルおよび一組の左側固有ベクトルトの両方が一次独立であることを意味する。何れの組でも応答の座標系の基底として用いることができる。左側固有ベクトルと右側固有ベクトルとの間の差が歪対称を有するコリオリマトリックスに起因するということを認識することが本発明の1つの基礎をなしている。
【0035】
流量計の数学モデルに関しては、非コリオリ効果をモデル化する質量マトリックス、剛性マトリックスおよび減衰マトリックスは対称である。流れのないシステムの場合、左側固有ベクトルおよび右側固有ベクトルは同一である(任意の倍率内では)。しかしながら、流れに付随するコリオリ力は、数学モデルでは歪対称減衰マトリックスとなって現れる(転置マトリックスが元のマトリックスに負の符号を付けたものとなる)。歪対称コリオリマトリックスによりシステムの左側固有ベクトルと右側固有ベクトルとを異なるようにする。非比例減衰のない流れシステムの場合、左側固有ベクトルの様々な係数間の相対位相は右側固有ベクトルの同じ係数間の相対位相と大きさが等しく、符号が反対となる。非比例減衰を有するシステムの場合、これらの位相値は左側固有ベクトルおよび右側固有ベクトルの両方について等しくオフセットされるが、差は同じままである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0036】
以上のように、左側固有ベクトルおよび右側固有ベクトルの位相特性を正確に測定することができる場合、この位相特性は、非比例減衰によるゼロオフセットに起因する位相と物質流量に起因する位相とを区別し、付随するゼロオフセット誤差をなくすことを可能とする。
【0037】
加えて、位相から周波数への変換が不正確さの源である可能性が存在することが証明されていることを指摘しておくことが重要であり、とくに流量計システムが閉ループフィードバック信号により駆動されている場合にとくに注目に値する。このようなフィードバックスキームを用いると、流量計システムの開ループ特性の位相変化を本来もたらすはずであった。たとえば左側ドライバから右側ドライバへのスイッチング如き行為がそうではなく駆動周波数の変化をもたらすことになる。とくに低減衰流量計では、比較的大きな位相の変化が比較的小さな振動数のシフトとして現れる。このことは、閉ループにおいて位相効果を観察することが極めて困難であることを意味する。というのは、周波数変化があまりにも小さくなってしまい検出ができなくなってしまうからである。このような課題が記載の実施形態により対処されるようになっている。要するに、流動時にゼロ流量オフセットを正確に較正するためのシステムおよび方法が必要とされており、かかるシステムおよび方法は、オフレゾナンス(off−resonance)で送られる開ループ試験信号の測定に関連する実施形態によって提供されている。
【課題を解決するための手段】
【0038】
ある実施形態にかかる方法が提供されている。かかる方法は、フローチューブの振動モードを励振することを含み、当該フローチューブの振動モードを励振することは第一のドライバを周期的に駆動するステップと第二のドライバを周期的に駆動するステップとを含み、第一のドライバおよび第二のドライバは互いに位相が異なるように振幅変調され、第一のドライバおよび第二のドライバに提供されるコマンドは合計でN+1個の独立した信号を含んでいる。また、かかる方法は、第一のピックオフと第二のピックオフとの間の位相を測定することをさらに含んでいる。また、かかる方法は、第一のドライバおよび第二のドライバを複数のオフレゾナンス周波数で励振することと、 複数のオフレゾナンス周波数の各々においてモード応答と第一のドライバおよび第二のドライバとの間の有効位相を推測することとをさらに含んでいる。加えて、かかる方法は、複数のオフレゾナンス周波数の各々において左側固有ベクトルの位相推定値を生成することと、フローチューブの右側固有ベクトルの位相を求めることと、 複数のオフレゾナンス周波数における位相推定値に基づいて共振駆動周波数(resonant drive frequency)における左側固有ベクトルの位相を推定することとをさらに含んでいる。
【0039】
ある実施形態にかかる方法が提供されている。かかる方法は、フローチューブに物質を流すことと、 第一のドライバが周期的に駆動され、第二のドライバが周期的に駆動されるようにフローチューブを振動モードで周期的に励振することとを含み、第一のドライバおよび第二のドライバは互いに位相が異なるように振幅変調され、第一のドライバおよび第二のドライバに提供される駆動コマンドは合計でN+1個の独立した信号を含んでいる。かかる方法は、複数のオフレゾナンス周波数で第一のドライバおよび第二のドライバを周期的に励振することと、 振動するフローチューブの相対運動を測定することと、 フローチューブの振動モードを励振しながら右側固有ベクトルの位相を測定することと、 複数のオフレゾナンス周波数の各々においてモード応答と第一のドライバおよび第二のドライバとの間の有効位相を推測することとをさらに含んでいる。加えて、かかる方法は、複数のオフレゾナンス周波数の各々において左側固有ベクトルの位相推定値を生成することと、 複数のオフレゾナンス周波数における位相推定値に基づいて共振駆動周波数における左側固有ベクトルの位相を推定することとをさらに含んでいる。フローチューブを流れる物質の流量はゼロオフセットにより補正された右側固有ベクトルの位相を用いて求められる。また、かかる方法は、フローチューブの左側固有ベクトルの位相を用いてフローチューブを流れる物質を止めることなく新たなゼロオフセットを求めることと、 新たなゼロオフセットにより補正された右側固有ベクトルの位相を用いてフローチューブを流れる物質の流量を求めることとをさらに含んでいる。
【0040】
ある実施形態にかかる振動式流量計が提供されている。かかる振動式流量計は、1つ以上のフローチューブと、第一のピックオフセンサーおよび第二のピックオフセンサーを有するセンサー組立体と、1つ以上のフローチューブを振動させるように構成される第一のドライバおよび第二のドライバとを備えている。メーター電子機器(20)は、第一のピックオフセンサーおよび第二のピックオフセンサーと結合され、第一のドライバおよび第二のドライバと結合され、第一のドライバおよび第二のドライバに第一の信号を提供するように構成され、第一のドライバおよび第二のドライバは互いに位相が異なるように振幅変調され、第一のドライバおよび第二のドライバに提供される駆動コマンドは合計でN+1個の独立した信号を含み、第一のドライバおよび第二のドライバは複数のオフレゾナンス周波数で励振され、複数のオフレゾナンス周波数の各々においてモード応答と第一のドライバおよび第二のドライバとの間の有効位相が推測され、複数のオフレゾナンス周波数の各々において左側固有ベクトルの位相が生成され、メーター電子機器は、第一のピックオフと第二のピックとの間の位相を測定し、フローチューブの右側固有ベクトルの位相を求めるように構成され、共振駆動周波数における左側固有ベクトルは複数のオフレゾナンス周波数における複数の位相推定値に基づいて推定される。
態様
ある態様にかかる方法は、フローチューブの振動モードを励振することを含み、当該フローチューブを振動モードで励振することが第一のドライバを周期的に駆動するステップと第二のドライバを周期的に駆動するステップとを含み、第一のドライバおよび第二のドライバが互いに位相が異なるように振幅変調され、第一のドライバおよび第二のドライバに提供されるコマンドが合計でN+1個の独立した信号を含み、さらに、第一のピックオフと第二のピックオフとの間の位相を測定することと、 第一のドライバおよび第二のドライバを複数のオフレゾナンス周波数で励振することと、 複数のオフレゾナンス周波数の各々においてモード応答と第一のドライバおよび第二のドライバとの間の有効位相を推測することと、 複数のオフレゾナンス周波数の各々において左側固有ベクトルの位相推定値を生成することと、 フローチューブの右側固有ベクトルの位相を求めることと、 複数のオフレゾナンス周波数における位相推定値に基づいて共振駆動周波数における左側固有ベクトルの位相を推定することと、複数のオフレゾナンス周波数における位相推定値に基づいて共振駆動周波数における左側固有ベクトルの位相を推定することとを含んでいる。
【0041】
好ましくは、合計でN+1個の独立した信号は、 ピックオフ信号の閉ループフィードバックとして提供されるオンレゾナンス駆動コマンド(on−resonance)であって、第一のドライバおよび第二のドライバが同じ駆動コマンドを受け取る、オンレゾナンス駆動コマンドと、 複数の振幅変調開ループオフレゾナンス駆動コマンドであって、第一のドライバに提供される駆動コマンドが第二のドライバに提供される前記駆動コマンドと異なる位相で振幅変調される、オフレゾナンス駆動コマンドとを含む。
【0042】
好ましくは、かかる方法は、複数のオフレゾナンス周波数の関数である位相変化モデルを生成することをさらに含む。
【0043】
好ましくは、フローチューブを流れる物質の実際の流量を求めるステップは、右側固有ベクトルの位相を用いてフローチューブを流れる物質の補正前流量を求めることと、 補正前流量を実際の流量と比較することによりフローチューブを流れる物質の流量のゼロオフセットを求めることとをさらに含む。
【0044】
好ましくは、かかる方法は、ゼロオフセットにより補正された右側固有ベクトルの位相を用いてフローチューブを流れる物質の流量を求めることをさらに含む。
【0045】
好ましくは、かかる方法は、右側固有ベクトルの位相を求めることと、左側固有ベクトルの位相で右側固有ベクトルの位相を平均することによりフローチューブを流れる物質の流量のゼロオフセットを求めることと、第一のドライバを第一のピックオフセンサーと並置させることと、第二のドライバを第二のピックオフセンサーと並置させることとをさらに含む。
【0046】
好ましくは、第一のドライバを第一の信号で周期的に駆動するステップは第一のドライバを正弦波で駆動することを含み、第二のドライバを第二の信号で周期的に駆動するステップは第二のドライバを正弦波で駆動することを含む。
【0047】
好ましくは、かかる方法は、左側固有ベクトルの位相および右側固有ベクトルの位相を定期的に測定することと、左側固有ベクトルの位相と右側固有ベクトルの位相との間の差から直接Δt値を生成することとをさらに含む。
【0048】
ある態様にかかる方法は、フローチューブに物質を流すことと、 第一のドライバが周期的に駆動され、第二のドライバが周期的に駆動されるようにフローチューブを振動モードで周期的に励振することとを含み、第一のドライバおよび第二のドライバが異なる位相で振幅変調され、第一のドライバおよび第二のドライバに提供される駆動コマンドが合計でN+1個の独立した信号を含み、 さらに、複数のオフレゾナンス周波数を用いて第一のドライバおよび第二のドライバを周期的に励振することと、 振動するフローチューブの相対運動を測定することと、 フローチューブの振動モードを励振しながら右側固有ベクトルの位相を測定することと、 複数のオフレゾナンス周波数の各々においてモード応答と第一のドライバおよび第二のドライバとの間の有効位相を推測することと、 複数のオフレゾナンス周波数の各々において左側固有ベクトルの位相推定値を生成することと、 複数のオフレゾナンス周波数における位相推定値に基づいて共振駆動周波数における左側固有ベクトルの位相を推定することと、 ゼロオフセットにより補正された右側固有ベクトルの位相を用いてフローチューブを流れる物質の流量を求めることと、 フローチューブの左側固有ベクトルの位相を用いてフローチューブを流れる物質を止めることなく新たなゼロオフセットを求めることと、 新たなゼロオフセットにより補正された右側固有ベクトルの位相を用いてフローチューブを流れる物質の流量を求めることとを含んでいる。
【0049】
好ましくは、かかる方法は、第一のドライバを第一のピックオフセンサーと並置させることと、第二のドライバを第二のピックオフセンサーと並置させることとをさらに含む。
【0050】
ある態様にかかる振動式流量計は、1つ以上のフローチューブならびに第一のピックオフセンサーおよび第二のピックオフセンサーを有するセンサー組立体と、 1つ以上のフローチューブを振動させるように構成される第一のドライバおよび第二のドライバと、 第一のピックオフセンサーおよび第二のピックオフセンサーと結合され、第一のドライバおよび第二のドライバと結合され、第一のドライバおよび第二のドライバに第一の信号を提供するように構成されるメーター電子機器とを備え、第一のドライバおよび第二のドライバは互いに位相が異なるように振幅変調され、第一のドライバおよび第二のドライバに提供される駆動コマンドは合計でN+1個の独立した信号を含み、第一のドライバおよび第二のドライバは複数のオフレゾナンス周波数で励振され、複数のオフレゾナンス周波数の各々においてモード応答と第一のドライバおよび第二のドライバとの間の有効位相が推測され、複数のオフレゾナンス周波数の各々において左側固有ベクトルの位相が生成され、メーター電子機器は、第一のピックオフと第二のピックとの間の位相を測定し、フローチューブの右側固有ベクトルの位相を求めるようにさらに構成され、複数のオフレゾナンス周波数における複数の位相推定値に基づいて共振駆動周波数における左側固有ベクトルが推定される。
【0051】
好ましくは、メーター電子機器は、右側固有ベクトルの位相を用いて一つ以上のフローチューブを流れる物質の補正前流量を求め、補正前流量を実際の流量と比較することにより、1つ以上のフローチューブを流れる物質の流量のゼロオフセットを求めるようにさらに構成される。
【0052】
好ましくは、メーター電子機器は、ゼロオフセットにより補正された右側固有ベクトルの位相を用いて1つ以上のフローチューブを流れる物質の流量を求めるようにさらに構成される。
【0053】
好ましくは、メーター電子機器は、右側固有ベクトルの位相を求め、右側固有ベクトルの位相を左側固有ベクトルの位相で重み付け平均することにより1つ以上のフローチューブを流れる物質の流量のゼロオフセットを求めるようにさらに構成される。
【0054】
好ましくは、第一のドライバは第一のピックオフセンサーと並置され、第二のドライバは第二のピックオフセンサーと並置される。
【0055】
好ましくは、第一の信号は正弦波である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1】流量計のピックオフセンサー(右側固有ベクトル)およびドライバ(左側固有ベクトル)の間の位相差を示す図である。
図2】ある実施形態にかかる振動式流量計を示す図である。
図3A】本発明の例示的な実施形態において非湾曲位置にあるフローチューブを示す平面図である。
図3B】本発明の例示的な実施形態において主曲げモードに対応する湾曲位置にあるフローチューブを示す平面図である。
図3C】本発明の例示的な実施形態においてコリオリ力により誘発された捻れモードに対応する湾曲位置にあるフローチューブを示す平面図である。
図4】位相を周波数に変換する一例を示す図である。
図5】従来の2位相スイッチングを示す図である。
図6】ある実施形態にかかる周期的位相スイッチングを示す図である。
図7】ある実施形態に従って右側固有ベクトルの相対位相を求める方法を示すフローチャートである。
図8】ある実施形態に従って左側固有ベクトルの相対位相を求める方法を示すフローチャートである。
図9】ある実施形態に従って左側固有ベクトルの相対位相を推定する方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0057】
図1図9および下記の記載には、本発明を最良のモードで作製および利用する方法を当業者に教示するための具体的な実施形態が示されている。本発明の原理を教示するために、従来技術の一部が単純化または省略されている。当業者にとって明らかなように、これらの実施形態の変形例もまた本発明の技術範囲内に含まれる。また、当業者にとって明らかなように、下記の記載の構成要素をさまざまな方法で組み合わせて本発明の複数の変形例を形成することもできる。したがって、本発明は、下記に記載の特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲およびその均等物によってのみ限定されるものである。
【0058】
残留柔軟性、電磁的クロストークおよび電子測定システム特性はすべてゼロオフセットの要因となる。これらの影響の1つの解釈としては、右側固有ベクトルの位相の測定に誤差を導入してしまうということが挙げられる。駆動モード(右側固有ベクトル)を正確に測定することができれば、非比例減衰がゼロオフセットを引き起こすただ一つの影響となり、この誤差については左右固有ベクトルのΔt情報を用いて流れの影響から容易に区別することが可能である。ドライバとピックオフが並置される場合、流れに起因する位相はピックオフと同様にドライバに対しても負の影響を生じさせるものの、他の原因に起因する位相はドライバとピックオフとにおいて同じとなり、このことにより、流れに起因する位相をピックオフ位相とドライバ位相との間の差として分離することが可能となる。したがって、ゼロ点の影響を受けない流量測定を行うことが可能となる。図1を参照すると、左側固有ベクトルの位相および右側固有ベクトルの位相が示されている。上述のように、非比例減衰(図1にNDと表記されている)により、左側固有ベクトルの位相および右側固有ベクトルの位相にオフセットが引き起こされ、位相が流れに関して影響されないままであることが明らかである。このオフセットは単に平均値であり、測定結果を差分することにより取り除くことができる。この原理が、提示されている実施形態の基礎をなすものである。
【0059】
図2には、ある実施形態にかかる振動式流量計5が示されている。流量計5は、センサー組立体10と、このセンサー組立体10と結合されているメーター電子機器20とを備えている。センサー組立体10はプロセス物質の質量流量および密度に反応するようになっている。メーター電子機器20は、リード線100を介してセンサー組立体10と接続され、通信リンク26を通じて密度、質量流量、温度に関する情報および他の情報を提供するようになっている。コリオリ式流量計の構成が説明されているが、当業者にとって明らかなように、本発明を振動管式デンシトメータとして実施してもよい。
【0060】
センサー組立体10は、マニホルド150、150’と、フランジネック110、110’を有するフランジ103、103’と、並列に配置されるフローチューブ130、130’と,第一のドライバ180Lおよび第二のドライバ180Rと、第一のピックオフセンサー170Lおよび第二のピックオフセンサー170Rとを有している。第一のドライバ180Lおよび第二のドライバ180Rは、1つ以上のフローチューブ130、130’に間隔をおいて配置されている。加えて、実施形態によっては、センサー組立体10が温度センサー190を有している場合もある。フローチューブ130、130’はそれぞれフローチューブマウント用ブロック120、120’に向けて互いの間隔が狭くなっていく2つの実質的に真っ直ぐな流入口脚部131、131’と流出口脚部134、134’を有している。フローチューブ130、130’は、それぞれ、その長さ方向に沿った位置にある2つの対称な部位で曲がり、かつ、その長さ方向に沿って実質的に平行に配置されている。ブレースバー140、140’は軸線Wおよびそれと実質的に平行な軸線W’を規定する働きをし、各フローチューブはそれを中心として振動するようになっている。特筆すべきことは、ある実施形態では、第一のドライバ180Lは第一のピックオフセンサー170Lと並置され、第二のドライバ180Rは第二のピックオフセンサー170Rと並置されるようになっていてもよいという点にある。
【0061】
フローチューブ130の側脚部131、134はそれぞれフローチューブマウント用ブロック120、120’に固定され、これらのブロックはそれぞれマニホルド150、150’に固定されている。同様に、フローチューブ130’の側脚部131’、134’はそれぞれフローチューブマウント用ブロック120、120’に固定されている。このようにすることにより、センサー組立体10を通る連続しかつ閉じた物質経路が形成されることになる。
【0062】
孔102、102’を有するフランジ103、103’を被測定プロセス物質を移送するプロセス配管(図示せず)と流入口端部104および流出口端部104’を介して接続すると、物質は、フランジ103内のオリフィス101を通り、振動式流量計の流入口端部104の中へと流入し、マニホルド150を通り、表面121を有するフローチューブマウント用ブロック120へと導かれていく。プロセス物質は、マニホルド150内で分流し、フローチューブ130、130’を流れ、フローチューブ130、130’から流出すると、マニホルド150’内で合流して1つのストリームとなり、その後、流出口端部104’へ導かれる。この流出口端部104’は、ボルト孔102’を有するフランジ103’によってプロセス配管(図示せず)に接続されている。
【0063】
フローチューブ130、130’は、それぞれ曲げ軸線W−W、W’−W’に対して実質的に同一の質量分布、慣性モーメントおよびヤング率を有するように選択され、フローチューブマウント用ブロック120、120’に適切にマウントされる。これらの曲げ軸線はブレースバー140、140’を貫通するようになっている。フローチューブのヤング率が温度とともに変化し、この変化が流量および密度の計算に影響を与えるので、測温抵抗体(RTD)190がフローチューブ130’にマウントされてフローチューブの温度が連続的に測定されるようになっている。RTD190の両端に現れる温度依存性電圧は、フローチューブ温度の変化に起因するフローチューブ130、130’の弾性率の変化を補償するためにメーター電子機器20により用いられる。RTD190はリード線195によりメーター電子機器20に接続されている。
【0064】
図3A図3Cは、物質が流れるように構成されるフローチューブ130、130’を示す平面図である。2つのドライバ180L、180Rおよび2つのピックオフセンサー170L、170Rは、フローチューブ130、130’に沿って間隔をおいて配置されている。好ましい形態では、2つのドライバ180L、180Rはフローチューブ130、130’の軸方向中央部を中心に対称となるように間隔をおいて配置されるようになっている。2つのドライバ180L、180Rは、フローチューブ130、130’に力を印加してフローチューブ130、130’を複数の振動モードで励振するように構成されている。力は実質的にコヒーレント(たとえば、狭い周波数に制限されたもの)であってもよいしまたは広帯域のものであってもよい。2つのドライバ180L、180Rは、たとえばフローチューブ130、130’に取り付けられる磁石と、リファレンスに取り付けられ、振動電流が流れるコイルとから形成されているような既知の手段であってもよい。
【0065】
170Lおよび170Rはそれぞれドライバ180L、180Rと並置される2つのピックオフセンサーを表している。2つのピックオフセンサーはフローチューブ130、130’の位置および運動を表わす複数の信号を生成するように構成されている。また、2つのピックオフセンサー170L、170Rとしては、様々なデバイス、たとえばコイルタイプ速度トラスデューサ、光学もしくは超音波運動センサー、レーザーセンサー、加速度計、慣性速度センサーなどを挙げることができる。この実施形態では、2つのピックオフセンサー170L、170Rが例示され、各センサーがドライバ180L、180Rのうちの1つと並置されるようになっている。また、2を超える数のセンサーを備える他の構成も可能である。
【0066】
図3Aには、非湾曲状態にあるフローチューブ130、130’が示されている。等しいパワーでドライバ180L、180Rを駆動することによって、フローチューブを主曲げモードで励振することができる。「振動式導管を振動させるためのドライバ」という表題を有するMicro Motion Inc.に付与された米国特許第6,092,429号には、フローチューブを様々な振動モードで励振するように構成されるドライバについて開示されている。この発明はここで参照することにより援用されるものとする。図3Bには、フローチューブの主曲げモードに対応する湾曲状態にあるフローチューブ130、130’が示されている。また、この振動モードは物質がフローチューブを流れていない状況に相当する。図3Bおよび図3Cのフローチューブ130、130’の湾曲は分かり易いように拡大されている。フローチューブ130、130’の実際の湾曲ははるかに小さい。物質が振動フローチューブ130、130’を流れると、この流れている物質はコリオリ力を生成させる。このコリオリ力は、フローチューブ130、130’を湾曲させ、さらなるモードの振動を励振する。図3Cには、コリオリ力により励振される主振動モードが示されている。センサー170Lとセンサー170Rとの間に検出される相対的位相差を用いてフローチューブ130、130’を流れる物質流量を求めることができる。流れのない状態(図3Bに記載)では、170Lと170Rとの間に検出される流れに起因する位相差はないものの、ゼロオフセット状態に起因する位相差は存在する可能性があることに留意されたい。いったん物質がフローチューブ130、130’を流れると、170Lと170Rとの間には流れに起因する位相差が生じる。170Lと170Rとの間に検出される位相差測定値は、システムの右側固有ベクトルの相対位相の尺度であり、フローチューブを流れる物質の流量に比例する。θが右側固有ベクトルの相対位相に等しく、θがフローチューブのセンサー170Lの位置の振動の位相測定値であり、θがフローチューブのセンサー170Rの位置の振動の位相測定値である場合:
【0067】
【数15】
【0068】
時差Δtは位相差を振動数ωで除算することにより計算することができる。
【0069】
【数16】
【0070】
また、時差Δtは、フローチューブを流れる物質の流量に比例し、質量流量計において通常用いられる測定値である。ゼロオフセット量で測定物質流量を補正して補正後のΔtであるΔtを導出することで、フローチューブ130、130’を流れる物質流量についてさらに正確な定量値を計算することができるようになる:
【0071】
【数17】
【0072】
本発明の1つの例示的な実施形態では、正常動作時、両方のドライバ180L、180Rを用いてフローチューブを主曲げ振動モードで励振するようになっている。フローチューブを流れる物質流量は,たとえば、右側固有ベクトルの位相を測定し、Δtドメインへと変換してΔtを求め、この値をゼロオフセット補正量で補正し、補正後のΔtであるであるΔtRCを求めることにより算出される:
【0073】
【数18】
【0074】
ある実施形態では、第一のドライバおよび第二のドライバを互いに位相が異なるように振幅変調することによりフローチューブを励振するようになっている。ある実施形態では、2つのドライバは両方とも共振周波数に一致する周波数で周期的に駆動されるようになっている。ある実施形態では、合計でN+1個の独立した信号である駆動コマンドが各ドライバに提供されるようになっている。提供される合計でN+1個の独立した信号のうちの1つはオンレゾナンス駆動コマンド(on−resonance drive command)であり、このオンレゾナンス駆動コマンドは測定されたピックオフ信号の閉ループフィードバックとして提供される。好ましくは、ピックオフ信号の他のトーンコンテンツ(tonal content)はフィルタにより取り除かれている。この信号は、両方のドライバに対して同じであり、変調されていない。残るN個の信号は、N個のオフレゾナンス周波数における開ループ合成信号(open−loop synthesized signals)である。これらの信号の各々は互いに同位相で合成されるものの、左側ドライバおよび右側ドライバにおいて互いに位相が異なるように直接振幅変調される。これらの駆動信号は非常に低い周波数において振幅変調されている。この非常に低い周波数とは、切り換え周波数(cycling frequency)のことであり、この切り換え周波数で位相/周波数シフトが後に復調される。これらの(切り換え周波数において)振幅変調された駆動信号は位相が異なっている。共振周波数/駆動周波数における各ドライバへの駆動信号は、実質的に同一の信号であり、対応する変調信号により乗算されている。周期的なスイープは正弦波状、矩形波状、ノコギリ波状などであってもよい。フローチューブの1つ以上の数の部位において駆動信号との間の位相が測定される。これらの測定結果はシステムの左側固有ベクトルの相対位相を求めるために用いられる。特筆すべきことは、ピックオフとピックオフとの間の位相の測定が簡単な作業であるという点にある。2つのピックオフ間の位相信号X、Xが与えられると、それらの間の位相は単に位相Xから位相Xを引き算すことによりすぐに求めることができる。この位相差は右側固有ベクトルの位相である。しかしながら、ドライバとドライバとの間の位相の測定はより困難である。駆動信号はシステムへの入力であるので、ドライバとドライバとの間の位相は理論上それに入力される信号と信号との間の差である。しかしながら、このことはシステム全体を考慮に入れていない。各ドライバとモード応答との間の有効位相を求めるのにはシステムの特性が考慮に入れられる。実際、ドライバから特定のピックオフまでの位相を測定することにより、
【0075】
【数19】
【0076】
を演算することが可能となる。この計算は複雑である。というのは、両方のドライバを同時にかつ同じ周波数で駆動すると、2つのドライバの個々の効果を区別することができないため、(X/F)の測定と(X/F)の測定とを同時に行うことはできないからである。このような理由で、ある実施形態では、第一のドライバのみをある与えられたトーンで駆動している時のピックオフの位相が第二のドライバのみを駆動している時のピックオフの位相と比較されるようになっている。したがって、この周波数において2つのドライバを異なる位相で切り換える必要がある。
【0077】
図4から明らかなように、このアプローチの固有の主要難題として、システムの位相から周波数への変換が非常に急激であり、流量計全体にわたる比較的大きな相変化に対して非常に小さな周波数変化が生じることと、その逆方向の変換もさらに難しいということとを挙げることができる。上述のように、流量計5が閉ループフィードバック信号を用いて駆動され、1つ以上のピックオフ信号がスケーリングされてフィードバックされ、駆動信号が生成されるような場合、位相から周波数への変換にはいくつかの問題が存在する。このフィードバック駆動スキームの下では、システムの開ループ特性における位相変化で本来あるはずのものがそうではなく駆動周波数のシフトとして現れる。これはフィードバック駆動方式に固有の特性である。定義により、開ループシステムの位相はシステムのフィードバック部の位相と一致させなければならないので、これら2つの位相を一致させるには駆動周波数の変更が必要となる。このことは、閉ループコントローラーから自動的にもたらされる。図4はとくに低減衰流量計5に関連するものである。比較的大きな位相変化が比較的小さな周波数シフトとして現れるので、周波数変化が小さすぎて正確に検出することができない。
【0078】
したがって、必要とされる周波数の精度は、極めて高く、ナノヘルツ程度である。この位相スイッチングに対する従来のアプローチは2つのドライバを2値的(in a binary manner)に効果的に切り換える(toggle)ことである。この従来のアプローチは、信号が消滅するのに少なくとも数秒間(15〜30)待ってから切り換えられた新たなドライバから新たな周波数を観察することを必要とする。このような長い遅延は使用されるシステムによっては実用的ではない。このドライブの急激な遷移を用いてドライブを定期的に繰り返し切り換える場合、ドライブの遷移に対するシステムの過渡応答が完全に消滅してしまうことは実際のところ決してない。このことが図5に示されている。図6を参照すると、駆動信号振幅が周期的に切り換えて過渡信号を最小に抑えるようになっている実施形態が例示されている。このアプローチでは、時間に対する駆動信号振幅の変化の傾斜が最小限に抑えられるため(ある与えられた必要な切り換え周波数において)、システムに対する衝撃が最小限に抑えられる。このアプローチでは、駆動動作が完全に一方のドライバまたは他方のドライバにあるのはほんの一瞬の間だけであり、過度応答が最小限に抑えられている。ある実施形態では、オンレゾナンス駆動コマンドのみが閉ループフィードバックによりオンにされ、さらなるオフレゾナンストーンが開ループ方式で生成されるので、位相結果を小さな周波数シフトから推測するのではなく直接観察することができるようになっている。
【0079】
図7は、例示的な実施形態に従ってシステムの右側固有ベクトルの位相を求める方法を例示するフローチャートである。正常動作時、ステップ500では、両方のドライバ180L、180Rを用いてフローチューブ130、130’を励振する。2つのドライバ180L、180Rが周期的に切り換えられ、第一のドライバおよび第二のドライバが互いに位相が異なるように振幅変調され、第一のドライバ180Lおよび第二のドライバ180Rに提供されるコマンドが合計でN+1個の独立した信号を有している。ある実施形態では、オンレゾナンス駆動コマンドがピックオフ信号測定値の閉ループフィードバックとして提供され、第一のドライバ180Lおよび第二のドライバ180Rが同じ駆動コマンドを受け取るようになっている。ステップ702では、第二のドライバ180Rに提供される駆動コマンドとは位相が異なる複数の振幅変調開ループオフレゾナンス駆動コマンドが第一のドライバに180Lに提供される。この期間、第一のピックオフセンサー170Lと第二のピックオフセンサー170Rとの間の位相が測定される。これを位相差θと呼ぶ。
【0080】
ステップ704では、2つのドライバ180L、180Rが互いに位相が異なるように振幅変調される中、ピックオフセンサー170Lとピックオフセンサー170Rとの間の位相が測定される。これを位相差θと呼ぶ。
【0081】
図8は、ある例示的な実施形態に従って左側固有ベクトルの位相を求める方法を示すフローチャートである。正常動作時、ステップ800では、両方のドライバ180L、180Rを用いてフローチューブを励振する。2つのドライバ180L、180Rが周期的に切り換えられ、第一のドライバおよび第二のドライバが互い異なる位相で振幅変調され、第一のドライバおよび第二のドライバに提供される駆動コマンドが合計でN+1個の独立した信号を含んでいる。ある実施形態では、オンレゾナンス駆動コマンドがピックオフ信号測定値の閉ループフィードバックとして提供され、第一のドライバ180Lおよび第二のドライバ180Rが同じ駆動コマンドを受け取るようになっている。ステップ802では、第一のドライバ180Lが最大振幅でフローチューブを励振する時、モード応答と第一のドライバ180Lおよび第二のドライバ180Rにより用いられる駆動信号との間の有効位相が各オフレゾナンス周波数で推測される。この位相差推測値をθと呼ぶ。
【0082】
ステップ804では、ドライバ180L、180Rが周期的に切り換えられる時、この時点で、第一のドライバおよび第二のドライバが互いに位相が異なるように振幅変調される。モード応答と第一のドライバ180Lおよび第二のドライバ180Rとの間の有効位相が推測される。この位相差をθと呼ぶ。
【0083】
ステップ806では、システムの左側固有ベクトルθLの位相が次のように計算される:
【0084】
【数20】
【0085】
時間ドメインへと変換すると、左側固有ベクトルの相対ΔtであるΔtが求められる:
【0086】
【数21】
【0087】
1つの例示的な実施形態では、較正と較正との間の時間間隔が一定になるように再較正を行う時間が決定されるようになっていてもよい。他の例示的な実施形態では、環境または配管システムに変化が検出された時に再較正が行われるようになっていてもよい。たとえば、温度の変化がしきい値より大きい時に再較正が行われるようになっていてもよい。再較正を何時行うかの判断が周期タイマーと環境変化の検出とを組み合わせたものに基づくものであってもよい。再較正と再較正との間の時間が高精度を必要としないシステムよりも高精度を必要とするシステムに対して短くなっていてもよい。左側固有ベクトルの位相を測定するためにドライバ180Lとドライバ180Rとを切り換えることは流量計の正常動作(すなわち、右側固有ベクトルのΔtを用いて流量を測定することを)を中断させなければならないことを意味しない。さらに他の実施例では、流量計のゼロ点の変動のみが監視されるようになっている。したがって、ゼロ点検証ツールについての実施形態も考えられている。これは、たとえば特定の状況下以外ではゼロ点の変動が許されない管理輸送の如き複数の用途で役に立つ。左側固有ベクトルの位相および右側固有ベクトルの位相が定期的に測定され、測定結果が直接用いられ,2つの位相測定値の間の差からフローΔt信号(flow Δt signal)が生成されるようになっていてもよい。
【0088】
上述のように、従来のアプローチにおいて遭遇する問題は、2つのドライバのスイッチングに起因する位相効果をコントローラからの他の過度的効果から分離させることに関するものである。具体的にいえば、2つのドライバの急激なスイッチングにより、望ましくない過渡応答に対してシステムが反応してしまう恐れがある。駆動コントローラは、システムにおいてこれらの段階的変化を強化する傾向がある。このドライブ(drive)の急激な遷移を用いてドライブを定期的に繰り返して切り換える場合、遷移に対するシステムの過渡応答がまったく消滅しないため、駆動周波数の望ましい変移が不明瞭なものとなる。他の問題は、上述のように、周波数測定の感度についての問題である。2つのドライバの切り換えの際に生周波数信号(raw frequency signal)を検査する場合、対称とする変動が雑音の影響で不明瞭になってしまうという問題がある。信号処理方法および電子機器についてはMicro Motionに付与されていることが表紙に記載されている米国特許第5,734,112号に説明されている。この特許はここで参照することにより援用されるものとする。
【0089】
図9を参照すると、ある実施形態では、正常動作時、第一のドライバ180Lおよび第二のドライバ180Rの両方を用いてフローチューブ130、130’を周期的に励振するようになっている。このことについては、図9のステップ900に説明されている。2つのドライバ180L、180Rが周期的に切り換えられ、第一のドライバおよび第二のドライバが互いに位相が異なるように振幅変調され、第一のドライバおよび第二のドライバに提供される駆動コマンドが合計でN+1個の独立した信号を有している。ある実施形態では、オンレゾナンス駆動コマンドがピックオフ信号測定値の閉ループフィードバックとして提供され、第一のドライバ180Lおよび第二のドライバ180Rが同じ駆動コマンドを受け取るようになっている。さらに、第二のドライバ180Rに提供される駆動コマンドとは位相が異なる複数の振幅変調開ループオフレゾナンス駆動コマンドが第一のドライバに180Lに提供される。
【0090】
2つのドライバ180L、180Rは、オフレゾナンスである複数の固定周波数のトーンを用いてフローチューブ130、130を励振することができる。ステップ902に記載のように、モード応答と2つのドライバ180L、180Rとの間の有効位相が各オフレゾナンス周波において推測されるようになっていてもよい。特筆すべきことは、オフレゾナンス周波数が共振周波数よりも高周波数、低周波数または高周波数と低周波数との組み合わせであってもよいという点にある。ステップ904にはドライバの連続した切り換えが示されている。すなわち、第一のドライバ180Lが最小振幅にある時に第二のドライバ180Rが最大振幅にある。先の場合と同様に、2つのドライバ180L、180Rが、オフレゾナンスにある複数の固定周波数のトーンを用いてフローチューブを励振し、180Lと180Rとの間の位相が各オフレゾナンス周波数において測定される。ドライバの切り換えの周波数が既知なので、その切り換え周波数の変動が容易に認識可能である。ステップ902およびステップ904に記載のように、一方のドライバから他方のドライバへ切り換えられる際に測定される位相変化量はその周波数における左側固有ベクトルの位相と等しい。ステップ906では、左側固有ベクトルの位相推定値が各オフレゾナンス周波数について生成される。これらの位相は異なっている。というのは、各トーンにおいて、駆動モードからの寄与および他の高周波数モードからの寄与の比率が異なっているからである。しかしながら、測定ポイント数が十分な場合、ステップ908で示されるような周波数の関数である位相変化モデルを作成することが可能となる。このようなモデルを用いると、ステップ910に記載のように、共振駆動周波数における周波数の差を正確に推定することが可能となる。
【0091】
上述の実施形態では、両方のドライバ180L、180Rを用いて左側固有ベクトルの相対Δtが求められるようになっている。さらに他の実施形態では、一度に1つのドライバのみを用いることができるようになっている。たとえば、第一のドライバ180Lを駆動し、ピックオフセンサー170Lにおける位相を測定し、次いで、第二のドライバ180Rを駆動し、同じピックオフ170Lにおける位相を測定することにより、各ドライバの固有の寄与を識別することができるようになる。低減衰流量計によりもたらされる固有の欠点は、第一のドライバの応答の消滅に最大5分またはそれ以上の時間を必要とすることであり、第二のドライバを駆動することができるようになるには第一のドライバの応答が消滅することが必要である。現実世界の多くの状況下では、このアプローチは時間遅延が長いために事実上役に立たつアプローチではない。というのは、環境条件が速い速度で変わってしまうため測定結果を用いることができなくなるからである。したがってある実施形態では、この時間遅延問題に対する一つの解決策が提供されている。
【0092】
上述の実施形態の詳細な記載は、本発明の技術範囲内に含まれるものとして本発明者が考えているすべての実施形態を完全に網羅するものではない。さらに正確にいえば、当業者にとって明らかなように、上述の実施形態のうちの一部の構成部材をさまざまに組み合わせてまたは除去してさらなる実施形態を作成してもよいし、また、このようなさらなる実施形態も本発明の技術範囲内および教示範囲内に含まれる。また、当業者にとって明らかなように、本発明の技術および教示の範囲に含まれるさらなる実施形態を作成するために、上述の実施形態を全体的にまたは部分的に組み合わせてもよい。以上のように、本発明の特定の実施形態または実施形態が例示の目的で記載されているが、当業者にとって明らかなように、本発明の技術範囲内において、さまざまな変更が可能である。本明細書に記載の教示を上述のかつそれに対応する図に記載の実施形態のみでなく他の振動システムにも適用することができる。したがって、本発明の技術範囲は下記の請求項によって決められる。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
図7
図8
図9