(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維>
本発明におけるコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維とは、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドを主成分とする。繊維中に含まれるポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドは、繊維質量全体に対して、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、100%であることが最も好ましい。
【0009】
<コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの製造方法>
本発明の繊維の材料となるコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドは、従来公知の方法にしたがって製造することができる。例えば、アミド系極性溶媒中で、芳香族ジカルボン酸クロライド成分と、芳香族ジアミン成分とを反応せしめることにより、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドのポリマー溶液を得ることができる。
【0010】
[原料]
(芳香族ジカルボン酸ジクロライド成分)
コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの原料となる芳香族ジカルボン酸クロライド成分としては、テレフタル酸ジクロライドを用いる。本発明においては、芳香族環に置換基が存在していても差し支えない。また、テレフタル酸ジクロライド以外の少量のジカルボン酸ジクロライド成分を、テレフタル酸ジクロライドとともに併用してもよい。
【0011】
(芳香族ジアミン成分)
コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの原料となる芳香族ジアミン成分としては、パラフェニレンジアミンと3,4’−ジアミノジフェニルエーテルを組み合わせて用いる。本発明においては、芳香族環に置換基が存在していても差し支えない。また、パラフェニレンジアミンと3,4’−ジアミノジフェニルエーテル以外の少量のジアミン成分を、これらとともに併用してもよい。
【0012】
[原料組成比]
芳香族ジカルボン酸クロライド成分と芳香族ジアミン成分との比は、芳香族ジアミン成分に対する芳香族ジカルボン酸クロライド成分のモル比として、0.90〜1.10の範囲とすることが好ましく、0.95〜1.05の範囲とすることがより好ましい。芳香族ジカルボン酸クロライド成分のモル比が0.90未満または1.10を超える場合には、芳香族ジアミン成分との反応が十分に進まず、高い重合度が得られないため好ましくない。
【0013】
[反応条件]
芳香族ジカルボン酸クロライド成分と芳香族ジアミン成分との反応条件は、特に限定されるものではない。酸クロライドとジアミンとの反応は一般に急速であり、反応温度としては、例えば、−25℃〜100℃の範囲とすることが好ましく、−10℃〜80℃の範囲とすることがさらに好ましい。
【0014】
[重合溶媒]
コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの製造に用いるアミド系溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPともいう)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルイミダゾリジノン等が挙げられる。これらの溶媒は、1種単独であっても、また、2種以上の混合溶媒として用いることも可能である。なお、用いる溶媒は、脱水されていることが望ましい。
【0015】
本発明に用いられるコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの製造においては、汎用性、有害性、取り扱い性、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドに対する溶解性等の観点から、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いることが最も好ましい。
【0016】
[中和反応]
反応終了後には、必要に応じて、塩基性の無機化合物、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム等を添加して、中和反応を実施することが好ましい。
【0017】
[重合後処理等]
重合して得られるコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドは、アルコール、水などの非溶媒に投入して沈殿せしめ、パルプ状にして取り出すことができる。取り出されたコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドを再度他の溶媒に溶解し、その後に繊維の成形に供することもできるが、重合反応によって得られたポリマー溶液を、そのまま紡糸用溶液(ドープ)に調製して用いることも可能である。
【0018】
一度取り出してから再度溶解させる際に用いる溶媒としては、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドを溶解するものであれば特に限定されるものではないが、上記したコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの重合に用いられる溶媒とすることが好ましい。
【0019】
<コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維の製造方法>
本発明のコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維を得る方法としては、公知の方法を採用することができ、例えば、以下に記載するような半乾半湿式紡糸法を採用することができる。本発明の引張伸度が高い繊維を得るためには、巻取工程における巻取張力を、特定範囲とすることが重要である。
【0020】
[紡糸用溶液(ドープ)の調製工程]
繊維を得るにあたっては、先ず、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドおよび溶媒を含む紡糸用溶液(ドープ)を調製する。紡糸用溶液(ドープ)を調製する方法は特に限定されるものではなく、公知の方法により調製することができる。
ここで、紡糸用溶液(ドープ)の調製に用いる溶媒としては、上記したコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの重合に用いられる溶媒であって、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドおよびその他の任意成分を溶解または分散させることのできる溶媒であることが好ましい。なお、用いられる溶媒は、1種単独であっても、2種以上の溶媒を混合した混合溶媒であってもよい。
【0021】
コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの製造によって得られたポリマー溶液から当該ポリマーを単離することなく、そのまま紡糸用溶液(ドープ)として用いることも可能である。
さらに、繊維に機能性等を付与する目的で、本発明の要旨を超えない範囲において添加剤等のその他の任意成分を配合してもよい。任意成分を配合する場合には、紡糸用溶液(ドープ)の調製において導入することができる。その他の任意成分としては、無機塩、繊維状または粉末状等の充填剤、酸化防止剤、耐候剤、染料、帯電防止剤、難燃剤、導電性ポリマー、その他の重合体等を挙げることができる。導入の方法は特に限定されるものではなく、例えば、ルーダーやミキサ等を使用して導入することも可能である。
【0022】
紡糸用溶液(ドープ)におけるポリマー濃度、すなわちコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの濃度は、0.5質量%〜30質量%の範囲とすることが好ましく、1質量%〜25質量%の範囲とすることがより好ましい。紡糸用溶液(ドープ)におけるポリマー濃度が0.5質量%未満の場合には、ポリマーの絡み合いが少ないことから紡糸に必要な粘度が得られない。一方で、ポリマー濃度が30質量%を超える場合には、口金の吐出孔から吐出する際に不安定流動が起こりやすくなり、安定的に紡糸することが困難となる。
【0023】
[紡糸・凝固工程]
本発明の繊維の製造においては、例えば、上述の如く調製された紡糸用溶液(ドープ)を用いて、エアギャップを設けた半乾半湿式紡糸法によって繊維を成形する。すなわち、先ず、上記で得られた紡糸用溶液(ドープ)をノズルから吐出し、続いて、凝固浴中の凝固液に接触させて、可塑化状態にある凝固糸を形成する。
【0024】
凝固浴としては、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの貧溶媒が用いられるが、紡糸用溶液(ポリマードープ)の溶媒が急速に抜け出して、得られる凝固糸に欠陥ができないように、通常は良溶媒を添加して凝固速度を調節する。貧溶媒としては水、良溶媒としてはコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド用の溶媒を用いることが好ましい。良溶媒/貧溶媒の質量比は、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの溶解性や凝固性にもよるが、15/85〜40/60の範囲とすることが好ましい。
【0025】
[水洗工程]
次に、紡糸・凝固工程で得られた凝固糸を水洗する。水洗工程は、水を用いて糸中のNMPを拡散させ、糸中から除去することを目的とする。糸からNMPを十分に除去できれば、温度や水洗時間等の水洗条件は、特に限定されるものではない。
【0026】
[乾燥工程]
次に、水洗後の糸を乾燥工程する。乾燥条件は特に限定されるものではなく、繊維に付着した水分を十分に除去できる条件であれば問題はないが、作業性や繊維の熱による劣化を考慮すると、150〜250℃の範囲とすることが好ましい。また、乾燥は、ローラー等の接触型の乾燥装置や、乾燥炉中に繊維を通過させる等といった非接触型の乾燥装置のいずれを用いることもできる。
【0027】
[熱延伸工程]
次に、乾燥後の繊維を熱延伸する。この工程は、繊維に熱を付与することで、分子構造を緻密化するとともに、延伸することで分子の配向を促して、物性を向上させることを目的とする。このときの熱延伸温度は、300〜600℃の範囲とすることが好ましく、さらに好ましくは320℃〜580℃、最も好ましくは350〜550℃の範囲である。熱延伸温度が300℃未満の場合には、糸の延伸が十分に得られず好ましくない。一方で、600℃を超える場合には、ポリマーの熱分解が起こるために繊維が劣化し、機械的物性が著しく低下する。
熱延伸工程における延伸倍率は、5倍〜15倍とすることが好ましいが、特にこの範囲に限定されるものではない。またこの熱延伸工程は、必要に応じて多段階に分けて行っても特に差し支えはない。
【0028】
[巻取工程]
最後に、熱延伸後の繊維をワインダーによって巻き取る。本発明においては、熱延伸工程で得られた繊維を、巻取張力0.3〜3.0cN/dtexの範囲で巻取ることが必須である。巻取張力は、0.6〜2.0cN/dtexの範囲とすることが好ましく、0.9〜1.0cN/dtexの範囲とすることが最も好ましい。
巻取工程の巻取張力を0.3cN/dtex未満とした場合には、単糸の引き揃えが不均一であり、高い引張弾性率の繊維を得ることが困難となる。一方、巻取工程の巻取張力を3.0cN/dtexより大きくした場合には、単糸切れが発生し、強度の低下および工程通過性等が非常に悪化する。
【0029】
<コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維の物性>
[引張弾性率]
本発明の製造方法によって得られるコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維は、引張弾性率が660cN/dtex以上の繊維となる。引張弾性率は、670cN/dtex以上であることが好ましく、680cN/dtex以上であることが最も好ましい。
【0030】
[単糸数]
本発明の効果を十分に発揮させるためには、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維の単糸数は、500フィラメント以上とする。単糸数は、1000フィラメント以上であることが好ましく、2000フィラメントであることが最も好ましい。
【0031】
[単糸繊度]
本発明の製造方法によって得られるコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維は、単糸繊度が0.8〜6.0dtexの範囲であることが好ましい。単糸繊度は、1.0〜5.0dtexであることがさらに好ましく、1.2〜4.0dtexであることが最も好ましい。
【実施例】
【0032】
以下、本発明を実施例等によりさらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらに限定されるものではない。
【0033】
<測定・評価方法>
実施例および比較例においては、下記の項目について、下記の方法によって測定・評価を行った。
(1)繊維の繊度
得られた繊維束を、公知の検尺機を用いて100m巻き取り、その質量を測定した。得られた質量に100を乗じた値を10000mあたりの質量、すなわち繊度(dtex)として算出した。
(2)繊維の引張弾性率
引張試験機(INSTRON社製、商品名:INSTRON、型式:5565型)により、糸試験用チャックを用いて、ASTM D885の手順に基づき、以下の条件で測定を実施した。
[測定条件]
温度 :室温
試験片 :75cm
撚り係数 :1
試験速度 :250mm/分
チャック間距離 :500mm
(3)巻取工程の張力
テンションメーター(SCHMIDT社製、商品名:MECHANICAL TENSION METER、型式:DN1)を用い、巻取工程を通過する繊維の張力を直接測定した。
【0034】
<実施例1>
紡糸用溶液(ポリマードープ)として、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド(共重合モル比が1:1の全芳香族ポリアミド)の濃度6質量%N−メチルピロリドン(NMP)溶液を準備した。
105℃に加熱した紡糸用溶液(ポリマードープ)を、穴径0.3mm、穴数が1000の紡糸口金を取り付けて105℃に加熱した紡糸パックに送液し、10mmのエアギャップを介して、NMP濃度が30質量%の50℃の水溶液で満たされた凝固浴を通過させ、ポリマーが凝固した凝固繊維束を得た(半乾半湿式法)。
次いで、55℃に調整した水洗浴に、凝固繊維束を通過させて水洗を行った後、200℃の乾燥ローラーにて乾燥させた。
次いで、380℃で1段目の熱延伸を行った。このときの延伸倍率は2.4倍であった。引き続き、530℃で2段目の熱延伸を行った。このときの延伸倍率は4.0倍であった。さらに、400℃で3段目の熱延伸を行った。このときの延伸倍率は1.02倍であった。
そして最後に、繊維をワインダーで紙管に巻き取って、最終的にコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維を得た。このときの巻取張力は0.3cN/dtexとした。得られたコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維の各物性を、表1に示す。
【0035】
<実施例2>
巻取工程における巻取張力を0.9cN/dtexとした以外は実施例1と同様にして、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維を製造した。得られたコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維の各物性を、表1に示す。
【0036】
<実施例3>
巻取工程における巻取張力を1.2cN/dtexとした以外は実施例1と同様にして、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維を製造した。得られたコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維の各物性を、表1に示す。
【0037】
<実施例4>
巻取工程における巻取張力を1.3cN/dtexとした以外は実施例1と同様にして、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維を製造した。得られたコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維の各物性を、表1に示す。
【0038】
<実施例5>
巻取工程における巻取張力を2.4cN/dtexとした以外は実施例1と同様にして、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維を製造した。得られたコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維の各物性を、表1に示す。
【0039】
<実施例6>
紡糸口金の穴数を500、巻取工程における巻取張力を1.2cN/dtexとした以外は実施例1と同様にして、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維を製造した。得られたコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維の各物性を、表1に示す。
【0040】
<比較例1>
巻取工程における巻取張力を0.04cN/dtexとした以外は実施例1と同様にして、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維を製造した。得られたコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維の各物性を、表2に示す。
【0041】
<比較例2>
巻取工程における巻取張力を0.1cN/dtexとした以外は実施例1と同様にして、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維を製造した。得られたコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維の各物性を、表2に示す。
【0042】
<比較例3>
巻取工程における巻取張力を0.2cN/dtexとした以外は実施例1と同様にして、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維を製造した。得られたコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維の各物性を、表2に示す。
【0043】
<比較例4>
巻取工程における巻取張力を3.6cN/dtexとした以外は実施例1と同様にして、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維を製造した。得られたコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維の各物性を、表2に示す。
【0044】
<比較例5>
紡糸口金の穴数を500、巻取工程における巻取張力を0.04cN/dtexとした以外は実施例1と同様にして、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維を製造した。得られたコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維の各物性を、表2に示す。
【0045】
<比較例6>
紡糸口金の穴数を500、巻取工程における巻取張力を3.6cN/dtexとした以外は実施例1と同様にして、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維を製造した。得られたコポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維の各物性を、表2に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】