特許第6495741号(P6495741)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6495741-液状組成物および端子付き被覆電線 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6495741
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】液状組成物および端子付き被覆電線
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20190325BHJP
   C10M 137/06 20060101ALN20190325BHJP
   C10M 101/02 20060101ALN20190325BHJP
   C10M 127/02 20060101ALN20190325BHJP
   C10M 129/16 20060101ALN20190325BHJP
   C10M 129/68 20060101ALN20190325BHJP
   C10M 129/24 20060101ALN20190325BHJP
   C10M 131/04 20060101ALN20190325BHJP
   H01B 7/00 20060101ALN20190325BHJP
   H01B 7/28 20060101ALN20190325BHJP
   C10N 10/02 20060101ALN20190325BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20190325BHJP
   C10N 10/06 20060101ALN20190325BHJP
   C10N 10/08 20060101ALN20190325BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20190325BHJP
   C10N 20/04 20060101ALN20190325BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20190325BHJP
   C10N 40/14 20060101ALN20190325BHJP
【FI】
   C10M169/04
   !C10M137/06
   !C10M101/02
   !C10M127/02
   !C10M129/16
   !C10M129/68
   !C10M129/24
   !C10M131/04
   !H01B7/00 306
   !H01B7/28 F
   C10N10:02
   C10N10:04
   C10N10:06
   C10N10:08
   C10N20:02
   C10N20:04
   C10N30:12
   C10N40:14
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-105660(P2015-105660)
(22)【出願日】2015年5月25日
(65)【公開番号】特開2016-216674(P2016-216674A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2017年12月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100095669
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 登
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 一雄
(72)【発明者】
【氏名】細川 武広
(72)【発明者】
【氏名】長谷 達也
(72)【発明者】
【氏名】良知 宏伸
(72)【発明者】
【氏名】平井 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】小野 純一
(72)【発明者】
【氏名】大塚 拓次
(72)【発明者】
【氏名】野村 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】溝口 誠
【審査官】 松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−239847(JP,A)
【文献】 特開2004−059604(JP,A)
【文献】 特開2001−089784(JP,A)
【文献】 特開2004−067770(JP,A)
【文献】 特開2009−280628(JP,A)
【文献】 特開平08−158653(JP,A)
【文献】 特開平05−156473(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00
C10N 10/00− 80/00
H01B 7/00
H01B 7/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘稠性物質と、JIS K2283に準拠して測定される40℃における動粘度が100mm/s以下である低粘度液体と、下記の一般式(1)および(2)で表される化合物の1種または2種以上からなる酸性リン酸エステルと金属とのアダクトと、を含有することを特徴とする液状組成物。
(化1)
P(=O)(−OR)(−OH) ・・・(1)
(化2)
P(=O)(−OR(−OH) ・・・(2)
ただし、Rは炭素数4〜30の炭化水素基である。
【請求項2】
前記粘稠性物質が、基油に増稠剤を添加してなるグリースであることを特徴とする請求項1に記載の液状組成物。
【請求項3】
前記低粘度液体が、揮発性を有する揮発性低粘度液体であることを特徴とする請求項1または2に記載の液状組成物。
【請求項4】
前記低粘度液体が、炭化水素系有機溶剤、エステル系有機溶剤、エーテル系有機溶剤、ケトン系有機溶剤、ハロゲン化炭化水素系有機溶剤、揮発油のうちの少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の液状組成物。
【請求項5】
前記低粘度液体の含有量が、10〜90質量%の範囲内であることを特徴とすることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の液状組成物。
【請求項6】
前記Rが、その炭素数4〜30の炭化水素基の構造中に、1以上の分岐鎖構造または1以上の炭素−炭素二重結合構造を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の液状組成物。
【請求項7】
前記酸性リン酸エステルとアダクトを形成する金属が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、チタン、亜鉛から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の液状組成物。
【請求項8】
前記酸性リン酸エステルと金属とのアダクトの分子量が、3000以下であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の液状組成物。
【請求項9】
前記粘稠性物質と、前記酸性リン酸エステルと金属とのアダクトと、の比が、質量比で、98:2〜30:70の範囲内であることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の液状組成物。
【請求項10】
pHが4以上に設定されていることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の液状組成物。
【請求項11】
金属表面に塗布されて、前記粘稠性物質と、前記酸性リン酸エステルと金属とのアダクトと、を含有する粘稠性膜を金属表面に形成するものであることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の液状組成物。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか1項に記載の液状組成物の、前記粘稠性物質と、前記酸性リン酸エステルと金属とのアダクトと、を含有する粘稠性膜により端子金具と電線導体との電気接続部が覆われていることを特徴とする端子付き被覆電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状組成物および端子付き被覆電線に関し、さらに詳しくは、塗布性に優れる液状組成物と、この液状組成物に含まれる成分により防食処理が施された端子付き被覆電線に関する。
【背景技術】
【0002】
金属機器や金属部品において、潤滑目的や防食目的などで、表面コーティング剤が用いられている。この種の表面コーティング剤としては、グリースなどが知られている。また、特許文献1には、基油としての流動パラフィンと、増稠剤としてのアルミニウム複合石鹸と、増粘剤としてのポリイソブチレンと、防錆剤としてのモノオレイン酸ソルビタンとを含むグリースに、イソパラフィン系溶剤が30〜70質量%配合されている潤滑剤組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−60541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
グリースは、常温における粘稠性が高く、被塗布面に薄く均一に塗布することが難しい。グリースは、加熱することによって粘度を下げられるため、加熱することにより被塗布面に薄く均一に塗布できる場合があるが、被塗布材の熱的影響が心配になる場合がある。グリースに対し、流動性の高い溶剤などを添加しても、ワックスやワセリンなどの単一化合物と異なり、グリースは、増稠剤を含有し、その増稠剤の網目構造によって流動性が抑えられており、添加された溶剤などはグリース内の増稠剤の網目構造内に取り込まれるだけで、これによりグリースの流動性を高めることは困難である。
【0005】
本発明の解決しようとする課題は、常温での塗布性に優れるとともに、塗布後に塗布面に保持される液状組成物およびこれを用いて防食性が高められた端子付き被覆電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明に係る液状組成物は、粘稠性物質と、JIS K2283に準拠して測定される40℃における動粘度が100mm/s以下である低粘度液体と、下記の一般式(1)および(2)で表される化合物の1種または2種以上からなる酸性リン酸エステルと金属とのアダクトと、を含有することを要旨とするものである。
(化1)
P(=O)(−OR)(−OH) ・・・(1)
(化2)
P(=O)(−OR(−OH) ・・・(2)
ただし、Rは炭素数4〜30の炭化水素基である。
【0007】
本発明に係る液状組成物において、前記粘稠性物質は、基油に増稠剤を添加してなるグリースであることが好ましい。前記低粘度液体は、揮発性を有する揮発性低粘度液体であることが好ましい。前記低粘度液体は、炭化水素系有機溶剤、エステル系有機溶剤、エーテル系有機溶剤、ケトン系有機溶剤、ハロゲン化炭化水素系有機溶剤、揮発油のうちの少なくとも1種以上であることが好ましい。前記低粘度液体の含有量は、10〜90質量%の範囲内であることが好ましい。
【0008】
本発明に係る液状組成物において、前記Rは、その炭素数4〜30の炭化水素基の構造中に、1以上の分岐鎖構造または1以上の炭素−炭素二重結合構造を有することが好ましい。前記酸性リン酸エステルとアダクトを形成する金属は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、チタン、亜鉛から選択される少なくとも1種であることが好ましい。前記酸性リン酸エステルと金属とのアダクトの分子量は、3000以下であることが好ましい。前記粘稠性物質と、前記酸性リン酸エステルと金属とのアダクトと、の比は、質量比で、98:2〜30:70の範囲内であることが好ましい。
【0009】
本発明に係る液状組成物は、pHが4以上に設定されていることが好ましい。また、金属表面に塗布されて、前記粘稠性物質と、前記酸性リン酸エステルと金属とのアダクトと、を含有する粘稠性膜を金属表面に形成するものであることが好ましい。
【0010】
本発明に係る端子付き被覆電線は、上記の液状組成物の、前記粘稠性物質と、前記酸性リン酸エステルと金属とのアダクトと、を含有する粘稠性膜により端子金具と電線導体との電気接続部が覆われていることを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る液状組成物によれば、粘稠性物質と、JIS K2283に準拠して測定される40℃における動粘度が100mm/s以下である低粘度液体と、特定の酸性リン酸エステルと金属とのアダクトと、を含有することにより、常温での塗布性に優れるとともに、塗布後に塗布面に保持される。
【0012】
本発明に係る液状組成物において、Rが、その炭素数4〜30の炭化水素基の構造中に、1以上の分岐鎖構造または1以上の炭素−炭素二重結合構造を有すると、粘稠性物質および低粘度液体との相溶性が向上する。
【0013】
また、酸性リン酸エステルとアダクトを形成する金属が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、チタン、亜鉛から選択される少なくとも1種であると、金属表面に塗布したときの密着性が向上する。
【0014】
また、酸性リン酸エステルと金属とのアダクトの分子量が、3000以下であると、粘稠性物質および低粘度液体との相溶性が向上する。
【0015】
また、pHが4以上に設定されていると、遷移金属に対するイオン結合性に優れる。また、酸性リン酸エステルによる金属腐食が抑えられる。このため、金属表面に塗布したときの密着性、防食性が向上する。
【0016】
そして、本発明に係る端子付き被覆電線によれば、上記の液状組成物の、粘稠性物質と、酸性リン酸エステルと金属とのアダクトと、を含有する粘稠性膜により端子金具と電線導体との電気接続部が覆われていることから、長期にわたって安定した防食性能を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る端子付き被覆電線の斜視図である。
図2図1におけるA−A線縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0019】
本発明に係る液状組成物(以下、本液状組成物ということがある。)は、粘稠性物質と、JIS K2283に準拠して測定される40℃における動粘度が100mm/s以下である低粘度液体と、下記の一般式(1)および(2)で表される化合物の1種または2種以上からなる酸性リン酸エステルと金属とのアダクトと、を含有する。
(化1)
P(=O)(−OR)(−OH) ・・・(1)
(化2)
P(=O)(−OR(−OH) ・・・(2)
ただし、Rは炭素数4〜30の炭化水素基である。
【0020】
粘稠性物質は、基油と、基油に添加される水素結合性物質と、からなる。つまり、基油に水素結合性物質を添加してなる。基油に添加される水素結合性物質は、基油中で水素結合による網目構造を形成する。これにより、基油に粘稠性が付与される。粘稠性物質は、その粘稠性により、被塗布材の塗布面に、常温下あるいは加熱下で、保持される。粘稠性物質としては、基油に増稠剤を添加してなるグリースなどが挙げられる。グリースとしては、各種グリースを用いることができる。
【0021】
基油は、例えば各種グリースにおいて用いられるものが挙げられる。基油は、室温もしくは高温下で流動性を持つものを用いることができる。基油は、20〜200℃の範囲内において流動性を持つことが好ましい。より好ましくは30〜150℃の範囲内において流動性を持つことである。これにより、組成物を液状にしやすく、塗布性、密着性に優れる。
【0022】
基油としては、具体的には、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリブテン、鉱物油、合成油、ワセリン、ワックス、合成エステル、油脂、シリコーン油、ポリグリコール、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリエーテル、これらの2種以上のブレンド油などが挙げられる。これらのうちでは、熱安定性の観点から、鉱物油、パラフィン系が好ましい。
【0023】
増稠剤は、基油中で水素結合による網目構造を形成する。この網目構造中に吸着作用や毛細管作用などにより基油を保持する。これにより、基油に粘稠性が付与される。増稠剤としては、金属石鹸系、非石鹸系が挙げられる。非石鹸系としては、ウレア系、アミド系、ベントナイト系などが挙げられる。金属石鹸系の金属としては、カルシウム、ナトリウム、リチウム、アルミニウムなどが挙げられる。金属石鹸系は、耐熱性に劣る。したがって、熱が加わる環境下で適用される場合において、流出しにくく耐久性に優れるなどの観点から、非石鹸系がより好ましい。非石鹸系のうちでも、耐熱性により優れるなどの観点から、ウレア系、アミド系が特に好ましい。
【0024】
粘稠性物質の稠度は、塗布後の常温における流動性の観点から、50以上であることが好ましい。より好ましくは85以上である。また、塗布後の常温における柔軟性の観点から、475以下であることが好ましい。より好ましくは450以下である。粘稠性物質の稠度は、JIS K2220に準拠して測定することができる。粘稠性物質の稠度は、25℃において測定される。
【0025】
低粘度液体は、粘稠性物質に常温における流動性を付与するために用いられる。低粘度液体は、40℃における動粘度が100mm/s以下である。動粘度は、JIS K2283に準拠して測定される。低粘度液体は、40℃における動粘度が、より好ましくは80mm/s以下である。一方、塗布前の常温における流動性の観点から、低粘度液体は、40℃における動粘度が0.05mm/s以上であることが好ましい。より好ましくは0.1mm/s以上である。
【0026】
低粘度液体は、揮発性を有する揮発性低粘度液体であることが好ましい。低粘度液体は、揮発性を有することで、被塗布材に塗布した本液状組成物から低粘度液体を除去して、被塗布材の塗布面に、粘稠性物質と、酸性リン酸エステルと金属とのアダクトと、を含有する粘稠性膜を形成しやすくする。このような低粘度液体としては、炭化水素系有機溶剤、エステル系有機溶剤、エーテル系有機溶剤、ケトン系有機溶剤、ハロゲン化炭化水素系有機溶剤、揮発油などが挙げられる。これらは、低粘度液体として1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
炭化水素系有機溶剤等の有機溶剤において、揮発性に優れるなどの観点から、炭素数は30以下であることが好ましい。より好ましくは20以下、さらに好ましくは10以下である。また、沸点が250℃以下であることが好ましい。一方、常温において液状で安定しているなどの観点から、炭素数は5以上であることが好ましい。より好ましくは6以上である。また、沸点が80℃以上であることが好ましい。
【0028】
揮発油は、15℃における比重が0.8017未満の炭化水素系油で、引火点が−10℃以上200℃未満のものが挙げられる。好ましくは、引火点が21℃以上150℃未満の炭化水素系油である。揮発油としては、加工油(切削油、打ち抜き加工油、潤滑油)がある。
【0029】
低粘度液体の含有量は、常温で優れた流動性を発揮して常温での塗布性に優れるなどの観点から、10質量%以上であることが好ましい。より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上である。一方、塗布・乾燥後に被塗布面に保持される量を確保するなどの観点から、90質量%以下であることが好ましい。より好ましくは80質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である。
【0030】
酸性リン酸エステルと金属とのアダクトにおいて、酸性リン酸エステルとしては、一般式(1)で表される化合物のみで構成されるもの、一般式(2)で表される化合物のみで構成されるもの、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物の両方で構成されるものなどが挙げられる。
【0031】
酸性リン酸エステルと金属とのアダクトとしては、一般式(1)で表される化合物と金属とのアダクトのみで構成されるもの、一般式(2)で表される化合物と金属とのアダクトのみで構成されるもの、一般式(1)で表される化合物と金属とのアダクトおよび一般式(2)で表される化合物と金属とのアダクトの両方で構成されるものなどが挙げられる。
【0032】
酸性リン酸エステルと金属とのアダクトは、粘稠性物質と低粘度液体の相溶性を向上する相溶化剤として機能し、低粘度液体中における粘稠性物質の分散性を向上する。酸性リン酸エステルのRで示される長鎖アルキル基が低粘度液体との親和性に優れ、低粘度液体との相溶性を高める。よって、低粘度液体は、有機基を有する有機溶剤であることが好ましい。酸性リン酸エステルのRで示される長鎖アルキル基は、低粘度液体との相溶性の観点から、炭素数が多いことが好ましく、4以上としている。酸性リン酸エステルのリン酸塩基(P−O基)は、水素結合性を有するため、粘稠性物質の水素結合性物質と水素結合を形成し、水素結合性物質による基油内での網目構造の形成を抑制する。この効果は、ウレア基やアミド基などのカチオン性の網目(凝集)部分を持つ水素結合性物質に対して特に高い。
【0033】
酸性リン酸エステルと金属とのアダクトにおいて、リン酸塩基(P−O基)は、また、被塗布材の塗布面にイオン結合して、粘稠性物質と、酸性リン酸エステルと金属とのアダクトと、を含有する粘稠性膜を塗布面に強固に密着させることに寄与する。金属とのアダクトにすることで、リン酸塩基(P−O基)のイオン結合性を高めてイオン結合を促進する。また、金属とのアダクトにすることで、酸性リン酸エステルと金属とのアダクトを、粘着性を持つものにする。さらに、金属とのアダクトにすることで、酸性リン酸エステルの酸性を下げて(pHを上げて)、塗布する金属表面の酸性リン酸エステルによる腐食を抑える。
【0034】
酸性リン酸エステルとアダクトを形成する金属は、耐熱性の観点から、価数が2価以上であることが好ましい。
【0035】
酸性リン酸エステルとアダクトを形成する金属としては、Li,Na,Kなどのアルカリ金属、Mg,Caなどのアルカリ土類金属、アルミニウム、チタン、亜鉛などが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、2種以上組み合わされて用いられてもよい。これらの金属のリン酸エステル塩は、金属表面に対し、高い吸着性を得る事ができる。また、例えばSnよりもイオン化傾向が高いため、Snに対するイオン結合性に優れたものとすることができる。これらのうちでは、耐水性などの観点から、Ca,Mgがより好ましい。
【0036】
酸性リン酸エステルと金属とのアダクトにおいて、エステル部位のRは炭素数4〜30の炭化水素基であり、長鎖アルキル化合物である基油や有機溶剤との相溶性に寄与する。炭化水素基とは、炭素および水素からなる有機基であり、N,O,Sなどのヘテロ元素を含有しないものである。そして、長鎖アルキル化合物である基油や有機溶剤との相溶性から、Rは、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基であることが好ましい。より好ましくは脂肪族炭化水素基である。
【0037】
肪族炭化水素基としては、飽和炭化水素からなるアルキル基、不飽和炭化水素からなるアルケニル基が挙げられ、これらのいずれであってもよい。脂肪族炭化水素基であるアルキル基やアルケニル基は、直鎖状、分岐鎖状のいずれの構造のものであってもよい。ただし、アルキル基がn−ブチル基、n−オクチル基などの直鎖状のアルキル基であると、アルキル基同士が配向しやすく、酸性リン酸エステルと金属とのアダクトの結晶性が高くなり、基油や有機溶剤との相溶性が低下する傾向がある。この観点から、Rがアルキル基である場合には、直鎖状のアルキル基よりも分岐鎖状のアルキル基が好ましい。一方、アルケニル基は、1以上の炭素−炭素二重結合構造を有することで、直鎖状であっても結晶性がそれほど高くない。このため、アルケニル基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。
【0038】
の炭素数は4〜30であるが、この炭素数が4未満では、酸性リン酸エステルが無機質となる。また、酸性リン酸エステルは結晶化の傾向が強くなる。そうすると、基油や有機溶剤との相溶性が悪く、基油や有機溶剤と混ざらなくなる。一方、Rの炭素数が30超では、酸性リン酸エステルの粘度が高くなりすぎて、流動性が低下しやすい。Rの炭素数としては、基油や有機溶剤との相溶性から、より好ましくは5以上、さらに好ましくは6以上である。また、Rの炭素数としては、流動性などの観点から、より好ましくは26以下、さらに好ましくは22以下である。
【0039】
また、酸性リン酸エステルと金属とのアダクトは、分子内にリン酸塩基(極性基)と非極性基(エステル部位の炭化水素基)を併せ持つものであり、極性基同士、非極性基同士が会合した層状態で存在できるため、非重合体においても、高粘性の液体とすることが可能である。粘性の液体であると、金属表面に塗布したときに、ファンデルワールス力による物理吸着を利用して、金属表面により密着させることができる。この粘性は、鎖状の分子鎖同士の絡まりが生じることにより得られるものと推察される。したがって、この観点から、酸性リン酸エステルの結晶化を促進しない方向への設計が好ましい。具体的には、炭化水素基の炭素数を4〜30とすること、炭化水素基が1以上の分岐鎖構造または1以上の炭素−炭素二重結合構造を有することなどが挙げられる。
【0040】
粘着性の観点からすると、酸性リン酸エステルは、金属とのアダクトにする必要がある。金属とのアダクトにしていない酸性リン酸エステルそのものを用いた場合、リン酸基の部分の極性が小さく、極性基であるリン酸基同士の会合性(凝集性)が低く、高粘性の液体にならない。このため、粘着性(粘性)が低い。また、アンモニアもしくはアミンとのアダクトにしても、リン酸塩基(アミン塩)の部分の極性が小さく、極性基であるリン酸塩基(アミン塩)同士の会合性(凝集性)が低く、高粘性の液体にならない。このため、粘着性(粘性)が低い。
【0041】
としては、より具体的には、オレイル基、ステアリル基、イソステアリル基、2−エチルヘキシル基、ブチルオクチル基、イソミリスチル基、イソセチル基、ヘキシルデシル基、オクチルデシル基、オクチルドデシル基、イソベヘニル基などが挙げられる。一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物との間で、Rの種類は同じであってもよいし、異なっていてもよい。組成物の調製が簡便であるなどの観点からいえば、一般式(1)で表される化合物と一般式(2)で表される化合物との間で、Rの種類は同じであるほうが好ましい。
【0042】
そして、具体的な酸性リン酸エステルとしては、ブチルオクチルアシッドホスフェイト、イソミリスチルアシッドホスフェイト、イソセチルアシッドホスフェイト、ヘキシルデシルアシッドホスフェイト、イソステアリルアシッドホスフェイト、イソベヘニルアシッドホスフェイト、オクチルデシルアシッドホスフェイト、オクチルドデシルアシッドホスフェイト、イソブチルアシッドホスフェイト、2−エチルヘキシルアシッドホスフェイト、イソデシルアシッドホスフェイト、ラウリルアシッドホスフェイト、トリデシルアシッドホスフェイト、ステアリルアシッドホスフェイト、オレイルアシッドホスフェイト、ミリスチルアシッドホスフェイト、パルミチルアシッドホスフェイト、ジ−ブチルオクチルアシッドホスフェイト、ジ−イソミリスチルアシッドホスフェイト、ジ−イソセチルアシッドホスフェイト、ジ−ヘキシルデシルアシッドホスフェイト、ジ−イソステアリルアシッドホスフェイト、ジ−イソベヘニルアシッドホスフェイト、ジ−オクチルデシルアシッドホスフェイト、ジ−オクチルドデシルアシッドホスフェイト、ジ−イソブチルアシッドホスフェイト、ジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェイト、ジ−イソデシルアシッドホスフェイト、ジ−トリデシルアシッドホスフェイト、ジ−オレイルアシッドホスフェイト、ジ−ミリスチルアシッドホスフェイト、ジ−パルミチルアシッドホスフェイトなどが挙げられる。これらのうちでは、非結晶性、基油や有機溶剤との分子鎖絡まり性などの観点から、オレイルアシッドホスフェイト、イソステアリルアシッドホスフェイトが好ましい。
【0043】
酸性リン酸エステルと金属とのアダクトの分子量は、微分散化により、粘稠性物質および低粘度液体との相溶性が向上することから、3000以下であることが好ましい。より好ましくは2500以下である。また、極性基の高濃度化による分離抑制などの観点から、80以上であることが好ましい。より好ましくは100以上である。分子量は、計算により求めることができる。なお、下記のIS−SA−Caについては、GPCにて分子量(重量平均分子量)を測定する。
【0044】
粘稠性物質と、酸性リン酸エステルと金属とのアダクトと、の比は、質量比で、98:2〜30:70の範囲内であることが好ましい。より好ましくは、95:5〜40:60の範囲内である。粘稠性物質の割合が98質量部より多いと、常温における流動性が低下する。粘稠性物質の割合が30質量部より少ないと、塗布後において、粘稠性膜の粘稠性が低下する。
【0045】
本液状組成物においては、特定の酸性リン酸エステルと金属とのアダクトを含有していれば、金属とのアダクトにしていない酸性リン酸エステルそのものを一部に含有していてもよい。ただし、本液状組成物において、酸性リン酸エステルそのものの割合が大きくなると、イオン結合性が低下する、粘着性(粘性)が低下する、腐食を抑える効果が低下するなどから、酸性リン酸エステルそのものの割合は小さいほうが好ましい。
【0046】
酸性リン酸エステルそのものの割合を測る指標として、本液状組成物のpHを測る方法がある。酸性リン酸エステルの比率が高くなると、リン酸基(P−OH基)の残存量が多くなり、酸性度が高くなる(pHが下がる)。酸性リン酸エステルの比率が低くなると、リン酸基(P−OH基)の残存量が少なくなり、酸性度が低くなる(pHが上がる)。本液状組成物のpHとしては、4以上であることが好ましい。より好ましくは5.5以上である。
【0047】
また、酸性リン酸エステルと金属の比率(モル比)は、酸性リン酸エステルの価数をx、金属の価数をy、酸性リン酸エステルのモル数をl、金属のモル数をm、f=l×x−m×yとしたときのfの値によって示すこともできる。f>0の範囲では、金属に対し酸性リン酸エステルが過剰であり、リン酸基(P−OH基)が残存する。f=0では、金属に対し酸性リン酸エステルが当量であり、リン酸基(P−OH基)は残存しない。また、f<0では、金属に対し酸性リン酸エステルが不足であり、リン酸基(P−OH基)が残存しない。本液状組成物のpHを高くするには、f≦0であることが好ましい。
【0048】
本液状組成物中には、粘稠性物質と低粘度液体と酸性リン酸エステルと金属とのアダクトの他に、本液状組成物の機能を損なわない範囲で、安定化剤、腐食防止剤、色素、増粘剤、フィラーなどを添加することができる。
【0049】
本液状組成物は、粘稠性物質と、低粘度液体と、酸性リン酸エステルと金属とのアダクトと、必要に応じて添加される成分と、を混合することにより得ることができる。酸性リン酸エステルと金属とのアダクトにより、粘稠性物質と低粘度液体とが相溶し、低粘度液体中において粘稠性物質の分散性が向上する。これにより、常温において流動性に優れる本液状組成物となる。よって、常温での塗布性に優れる。そして、塗布後に、本液状組成物から低粘度液体を揮発させるなどの方法によって除去することにより、粘稠性物質と、酸性リン酸エステルと金属とのアダクトと、を含有する粘稠性膜が形成され、粘稠性物質の粘稠性が回復し、粘稠性物質の本来の物性(粘稠性)が発揮される。つまり、粘稠性物質の粘稠性により、塗布後に塗布面に粘稠性膜が保持される。この際、酸性リン酸エステルと金属とのアダクトは、金属吸着成分として作用し、金属表面において粘稠性膜の密着性の向上に貢献する。被塗布材の表面に本液状組成物を塗布するか、本液状組成物中に被塗布材を浸漬することにより、被塗布材の表面に本液状組成物をコーティングすることができる。
【0050】
被塗布材の表面に塗布する粘稠性膜の膜厚としては、コーティング箇所からの流出防止や漏出防止の観点から、100μm以下であることが好ましい。より好ましくは50μm以下である。一方、塗布する粘稠性膜の機械的強度などの観点から、所定の厚さ以上であることが好ましい。膜厚の下限値としては、0.5μm、2μm、5μmなどが挙げられる。
【0051】
本液状組成物は、潤滑や防食用途などに用いることができる。防食用途としては、例えば端子付き被覆電線の防食剤などとして用いることができる。
【0052】
次に、本発明に係る端子付き被覆電線について説明する。
【0053】
本発明に係る端子付き被覆電線は、絶縁電線の導体端末に端子金具が接続されたものにおいて、本液状組成物の、粘稠性物質と、酸性リン酸エステルと金属とのアダクトと、を含有する粘稠性膜により端子金具と電線導体の電気接続部が覆われたものからなる。これにより、電気接続部での腐食が防止される。
【0054】
図1は、本発明の一実施形態に係る端子付き被覆電線の斜視図であり、図2図1におけるA−A線縦断面図である。図1図2に示すように、端子付き被覆電線1は、電線導体3が絶縁被覆(絶縁体)4により被覆された被覆電線2の電線導体3と端子金具5が電気接続部6により電気的に接続されている。
【0055】
端子金具5は、相手側端子と接続される細長い平板からなるタブ状の接続部51と、接続部51の端部に延設形成されているワイヤバレル52とインシュレーションバレル53からなる電線固定部54を有する。端子金具5は、金属製の板材をプレス加工することにより所定の形状に成形(加工)することができる。
【0056】
電気接続部6では、被覆電線2の端末の絶縁被覆4を皮剥ぎして、電線導体3を露出させ、この露出させた電線導体3が端子金具5の片面側に圧着されて、被覆電線2と端子金具5が接続される。端子金具5のワイヤバレル52を被覆電線2の電線導体3の上から加締め、電線導体3と端子金具5が電気的に接続される。又、端子金具5のインシュレーションバレル53を、被覆電線2の絶縁被覆4の上から加締める。
【0057】
端子付き被覆電線1において、一点鎖線で示した範囲が、本液状組成物から得られる粘稠性膜7により覆われる。具体的には、電線導体3の絶縁被覆4から露出する部分のうち先端より先の端子金具5の表面から、電線導体3の絶縁被覆4から露出する部分のうち後端より後の絶縁被覆4の表面までの範囲が、粘稠性膜7により覆われる。つまり、被覆電線2の先端2a側は、電線導体3の先端から端子金具5の接続部51側に少しはみ出すように粘稠性膜7で覆われる。端子金具5の先端5a側は、インシュレーションバレル53の端部から被覆電線2の絶縁被覆4側に少しはみ出すように粘稠性膜7で覆われる。そして、図2に示すように、端子金具5の側面5bも粘稠性膜7で覆われる。なお、端子金具5の裏面5cは粘稠性膜7で覆われなくてもよいし、覆われていてもよい。粘稠性膜7の周端は、端子金具5の表面に接触する部分と、電線導体3の表面に接触する部分と、絶縁被覆4の表面に接触する部分と、で構成される。
【0058】
こうして、端子金具5と被覆電線2の外側周囲の形状に沿って、電気接続部6が粘稠性膜7により所定の厚さで覆われる。これにより、被覆電線2の電線導体3の露出した部分は粘稠性膜7により完全に覆われて、外部に露出しないようになる。したがって、電気接続部6は粘稠性膜7により完全に覆われる。粘稠性膜7は、電線導体3、絶縁被覆4、端子金具5のいずれとも密着性に優れるので、粘稠性膜7により、電線導体3および電気接続部6に外部から水分等が侵入して金属部分が腐食するのを防止する。また、密着性に優れるため、例えばワイヤーハーネスの製造から車両に取り付けるまでの過程において、電線が曲げられた場合にも、粘稠性膜7の周端で粘稠性膜7と、電線導体3、絶縁被覆4、端子金具5のいずれとの間にも隙間ができにくく、防水性や防食機能が維持される。
【0059】
粘稠性膜7を形成する本液状組成物は、所定の範囲に塗布される。粘稠性膜7を形成する本液状組成物の塗布は、滴下法、塗布法等の公知の手段を用いることができる。本液状組成物は、常温で流動性に優れるため、常温で塗布される。
【0060】
粘稠性膜7は、所定の厚みで所定の範囲に形成される。その厚みは、0.01〜0.1mmの範囲内が好ましい。粘稠性膜7が厚くなりすぎると、端子金具5をコネクタへ挿入しにくくなる。粘稠性膜7が薄くなりすぎると、防食性能が低下しやすくなる。
【0061】
被覆電線2の電線導体3は、複数の素線3aが撚り合わされてなる撚線よりなる。この場合、撚線は、1種の金属素線より構成されていても良いし、2種以上の金属素線より構成されていても良い。また、撚線は、金属素線以外に、有機繊維よりなる素線などを含んでいても良い。なお、1種の金属素線より構成されるとは、撚線を構成する全ての金属素線が同じ金属材料よりなることをいい、2種以上の金属素線より構成されるとは、撚線中に互いに異なる金属材料よりなる金属素線を含んでいることをいう。撚線中には、被覆電線2を補強するための補強線(テンションメンバ)等が含まれていても良い。
【0062】
電線導体3を構成する金属素線の材料としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、もしくはこれらの材料に各種めっきが施された材料などを例示することができる。また、補強線としての金属素線の材料としては、銅合金、チタン、タングステン、ステンレスなどを例示することができる。また、補強線としての有機繊維としては、ケブラーなどを挙げることができる。電線導体3を構成する金属素線としては、軽量化の観点から、アルミニウム、アルミニウム合金、もしくはこれらの材料に各種めっきが施された材料が好ましい。
【0063】
絶縁被覆4の材料としては、例えば、ゴム、ポリオレフィン、PVC、熱可塑性エラストマーなどを挙げることができる。これらは単独で用いても良いし、2種以上混合して用いても良い。絶縁被覆4の材料中には、適宜、各種添加剤が添加されていても良い。添加剤としては、難燃剤、充填剤、着色剤等を挙げることができる。
【0064】
端子金具5の材料(母材の材料)としては、一般的に用いられる黄銅の他、各種銅合金、銅などを挙げることができる。端子金具5の表面の一部(例えば接点)もしくは全体には、錫、ニッケル、金などの各種金属によりめっきが施されていても良い。
【0065】
なお、図1に示す端子付き被覆電線1では、電線導体の端末に端子金具が圧着接続されているが、圧着接続に代えて溶接などの他の公知の電気接続方法であってもよい。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は、実施例により限定されるものではない。
【0067】
(酸性リン酸エステルと金属とのアダクトの合成)
<合成例1> OL−Li
500mlのフラスコにオレイルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A18D」、分子量467(平均)、酸価183mgKOH/g)を50g(酸価0.163mol)とメタノール50mLを加え、50℃で撹拌し、均一溶液とした。そこに、水酸化リチウム一水塩6.84g(0.163mol)/メタノール50mL溶液を少しずつ加えた。加え終わった澄明溶液を50℃のまま30分間撹拌した後、ロータリーエバポレータにて、メタノールと生成水を減圧留去した。次いで、トルエン50mLを加えた後、同様に減圧留去する事で生成水を共沸によって留去し、澄明粘性物である目的物を得た。
【0068】
<合成例2> OL−Ca
500mlのフラスコにオレイルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A18D」、分子量467(平均)、酸価183mgKOH/g)を50g(酸価0.163mol)とメタノール50mLを加え、室温で撹拌し、均一溶液とした。そこに、水酸化カルシウム6.04g(0.0815mol)を加え、懸濁液を室温のまま24時間攪拌し、水酸化カルシウムの沈殿物が無くなったことを確認した後ろ過し、ロータリーエバポレータにて、メタノールと生成水を減圧留去した。次いで、トルエン50mLを加えた後、同様に減圧留去する事で生成水を共沸によって留去し、澄明粘性物である目的物を得た。
【0069】
<合成例3> IS−Li
オレイルアシッドホスフェイトに代えてイソステアリルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A18OL」、分子量487(平均)、酸価178 mgKOH/g)50g(酸価0.159mol)とし、そこに加える水酸化リチウム一水塩を6.67g(0.159mol)とした以外は合成例1と同様にして、澄明粘性物である目的物を得た。
【0070】
<合成例4> IS−Ca
オレイルアシッドホスフェイトに代えてイソステアリルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A18OL」、分子量487(平均)、酸価178 mgKOH/g)50g(酸価0.159mol)とし、そこに加える水酸化カルシウムの量を5.89g(0.0795mol)とした以外は合成例2と同様にして、澄明粘性物である目的物を得た。
【0071】
<合成例5> IS−Mg
水酸化カルシウム5.89g(0.0795mol)に代えて水酸化マグネシウム4.64g(0.0795mol)を加えた以外は合成例4と同様にして、澄明粘性物である目的物を得た。
【0072】
<合成例6> IS−Zn
水酸化カルシウム5.89g(0.0795mol)に代えて塩基性炭酸亜鉛8.73g(Znとして0.0795mol)を加えた以外は合成例4と同様にして、澄明粘性物である目的物を得た。
【0073】
<合成例7> IS−Al
水酸化リチウム一水塩/メタノール溶液に代えてアルミニウムイソプロポキシド10.83g(0.053mol)を加えた以外は合成例3と同様にして、澄明粘性物である目的物を得た。
【0074】
<合成例8> EH−Ca
イソステアリルアシッドホスフェイトに代えてジ−2−エチルヘキシルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A−208」、分子量322(平均)、酸価172mgKOH/g)50g(酸価0.153mol)とし、そこに加える水酸化カルシウムの量を5.67g(0.076mol)とした以外は合成例4と同様にして、澄明粘性物である目的物を得た。
【0075】
<合成例9> IS−SA−Ca
500mlのフラスコにイソステアリルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A18OL」、分子量487(平均)、酸価178 mgKOH/g)100g(酸価0.317mol)と過塩基性アルキルサリチル酸カルシウム塩(Ca含有量8.0質量%、過塩基性Ca含有量5.5質量%)116g(過塩基性Ca質量6.4g=0.159mol)を入れ、120℃で3時間攪拌した。炭酸ガスの発生がなくなったことを確認して室温まで冷却し、褐色粘性物である目的物を得た。
【0076】
<合成例10> MT−Li
オレイルアシッドホスフェイトに代えてメチルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A−1」、分子量119(平均)、酸価707mgKOH/g)25g(酸価0.315mol)とし、そこに加える水酸化リチウム一水塩の量を13.2g(0.315mol)とした以外は合成例1と同様にして、目的物を得た。
【0077】
<合成例11> MT−Ca
オレイルアシッドホスフェイトに代えてメチルアシッドホスフェイト(SC有機化学社製「Phoslex A−1」、分子量119(平均)、酸価707mgKOH/g)25g(酸価0.315mol)とし、そこに加える水酸化カルシウムの量を11.67g(0.157mol)とした以外は合成例2と同様にして、目的物を得た。
【0078】
(酸性リン酸エステルと金属とのアダクトのpH測定)
各アダクトを約3%(w/v)の割合で純水に超音波照射により懸濁させ、その懸濁液についてガラス電極pH計にてpH測定を行った。
【0079】
(酸性リン酸エステルと金属とのアダクトの分子量測定)
計算により、分子量を算出した。なお、IS−SA−Caについては、GPCにて分子量(重量平均分子量)を測定した。(溶剤:クロロホルム、カラム:TSKgel G2500HxL(東ソー))
【0080】
<本液状組成物の調製>
合成例1〜11により得られた、各酸性リン酸エステルと金属とのアダクトと、粘稠性物質と、低粘度液体と、をそれぞれ所定の割合で常温にて混合することにより、本液状組成物を調製した。
【0081】
(粘稠性物質)
G−UR:ウレア系グリース(和光ケミカル社製「BMG−U/ブームグリース」、稠度265)
G−Li:リチウム石鹸系グリース(東レダウコーニング社製「モリコート」、稠度260)
G−Ca:カルシウム石鹸系グリース(住鉱潤滑剤社製「スミグリースシャシー」、稠度280)
なお、稠度は、JIS K2220に準拠して測定した、25℃におけるものである。
【0082】
(低粘度液体)
n−ヘキサン:動粘度0.37mm/s、沸点68℃
n−ドデカン:動粘度1.46mm/s、沸点216℃
酢酸ブチル:動粘度0.78mm/s、沸点126℃
イソドデカン:動粘度1.35mm/s、沸点177℃
なお、動粘度は、JIS K2283に準拠して測定した、40℃におけるものである。
【0083】
<常温流動性の評価>
調製した各本液状組成物について、JIS Z8803に準拠して、常温における粘度を測定した。粘度が10Pa・s未満のものを良好「○」、粘度が10Pa・s以上のものを不良「×」とした。
【0084】
<均一塗布性の評価>
常温下で、調製した各本液状組成物に、5×50×0.2mmの短冊状銅板を30秒間浸漬し、取り出した後、水平の状態で、100℃のオーブンに20分間放置後、2時間常温放置した。その後、塗布表面を目視で観察し、ムラなく均一に塗布できているものを合格「○」、波打つようなムラが生じ、均一に塗布できていないものを不合格「×」とした。
【0085】
<維持性の評価>
均一塗布性の評価において合格であったものについて、垂直に立てかけたまま、120℃の恒温槽に48時間放置し、取り出して常温まで放冷した後、再び塗布表面を目視で観察した。恒温槽に投入する前と同様、均一に塗布された状態が維持されているものは合格「○」、垂れ落ちが生じているものを不合格「×」とした。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
表1に示すように、実施例1〜18の本液状組成物は、常温において十分な流動性を示し、常温でも被塗布材に均一に塗布できることが確認できた。また、維持性試験後も均一塗布面に変化はなく、用いた粘稠性物質の粘稠性が維持されたまま塗布されていることも確認できた。つまり、粘稠性物質の粘稠性を利用した皮膜形成ができている。また、カルシウム石鹸系グリースは、一般に耐熱性が不十分であるが、本液状組成物から得られる粘稠性膜によれば、カルシウム石鹸系グリースを含んでいても、十分な維持性を有することがわかった。
【0089】
比較例1〜4では、粘稠性物質と低粘度液体の混合が不十分で、常温流動性の向上が確認できなかった。このため、均一に塗布することができなかった。比較例5〜6では、酸性リン酸エステルと金属とのアダクトを配合しているものの、リン酸エステルのアルキル基の炭素数が少なくアルキル鎖が短いため、低粘度液体と相溶せず、粘稠性物質と低粘度液体の混合が不十分で、常温流動性の向上が確認できなかった。このため、均一に塗布することができなかった。比較例7では、粘稠性物質を含んでいないため、塗布後に被塗布面に十分に保持されない。つまり、粘稠性物質の粘稠性を利用した皮膜形成ができない。
【0090】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0091】
1 端子付き被覆電線
2 被覆電線
3 電線導体
4 絶縁被覆(絶縁体)
5 端子金具
6 電気接続部
7 粘稠性膜
図1
図2