(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6495797
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】工作機械の主軸異常検出装置及び主軸異常検出方法
(51)【国際特許分類】
B23Q 17/00 20060101AFI20190325BHJP
G05B 19/18 20060101ALI20190325BHJP
B23Q 17/10 20060101ALI20190325BHJP
B23B 19/02 20060101ALN20190325BHJP
【FI】
B23Q17/00 A
G05B19/18 X
B23Q17/10
!B23B19/02 Z
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-205780(P2015-205780)
(22)【出願日】2015年10月19日
(65)【公開番号】特開2017-77588(P2017-77588A)
(43)【公開日】2017年4月27日
【審査請求日】2018年4月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】山本 誠栄
(72)【発明者】
【氏名】川田 直樹
【審査官】
津田 健嗣
(56)【参考文献】
【文献】
特開平9−300175(JP,A)
【文献】
特開2016−200523(JP,A)
【文献】
特開2006−220650(JP,A)
【文献】
特開2010−130857(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0178854(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 17/00
B23Q 17/10
G05B 19/18
B23B 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主軸の回転速度を検出する回転速度検出手段と、
前記回転速度検出手段で検出した前記主軸の惰性運転開始時の回転速度と、惰性運転を開始してから予め設定した計測時間後に前記回転速度検出手段で検出した前記主軸の回転速度とに基づいて、前記主軸の回転速度が所定の回転速度閾値に到達する到達時間を、非線形モデルを用いて推定する到達時間推定手段と、
前記到達時間推定手段で推定された到達時間と、予め設定された、前記回転速度閾値に到達する設定到達時間とを比較し、その比較結果に基づいて前記主軸の異常を判定する判定手段と、
を含んでなる工作機械の主軸異常検出装置。
【請求項2】
前記判定手段によって前記主軸の異常を判定した際に、前記主軸の惰性運転を継続して、前記回転速度検出手段で検出される前記主軸の回転速度が前記回転速度閾値に到達する到達時間を計測する到達時間計測手段と、
前記到達時間計測手段で計測した到達時間と前記設定到達時間とを比較し、その比較結果に基づいて前記主軸の異常を判定する第2判定手段と、をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の工作機械の主軸異常検出装置。
【請求項3】
前記到達時間推定手段で用いる非線形モデルとして、exp関数を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の工作機械の主軸異常検出装置。
【請求項4】
主軸の回転速度を検出する回転速度検出手段を有する工作機械において、主軸の異常を検出する方法であって、
前記主軸の惰性運転開始時の回転速度を前記回転速度検出手段で検出する第1回転速度検出ステップと、
惰性運転を開始してから予め設定した計測時間後に前記主軸の回転速度を前記回転速度検出手段で検出する第2回転速度検出ステップと、
前記第1回転速度検出ステップで検出された回転速度と前記第2回転速度検出ステップで検出された回転速度とに基づいて、前記主軸の回転速度が所定の回転速度閾値に到達する到達時間を、非線形モデルを用いて推定する到達時間推定ステップと、
前記到達時間推定ステップで推定された到達時間と、予め設定された、前記回転速度閾値に到達する設定到達時間とを比較し、その比較結果に基づいて前記主軸の異常を判定する判定ステップと、
を実行することを特徴とする工作機械の主軸異常検出方法。
【請求項5】
前記判定ステップによって前記主軸の異常を判定した際に、前記主軸の惰性運転を継続して、前記回転速度検出手段で検出される前記主軸の回転速度が前記回転速度閾値に到達する到達時間を計測する到達時間計測ステップと、
前記到達時間計測ステップで計測した到達時間と前記設定到達時間とを比較し、その比較結果に基づいて前記主軸の異常を判定する第2判定ステップと、をさらに実行することを特徴とする請求項4に記載の工作機械の主軸異常検出方法。
【請求項6】
前記到達時間推定ステップで用いる非線形モデルとして、exp関数を用いることを特徴とする請求項4又は5に記載の工作機械の主軸異常検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械に設けられる主軸の異常を検出する装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の主軸は、回転体である軸、軸を支持する軸受、外部からの異物の混入を防ぐシールなどから構成されている。この主軸においては、潤滑不良、異物混入、過大荷重、摩耗が原因で、軸に対する摩擦トルクが過剰あるいは不足することで、焼付きや回転不良などの故障を引き起こす。工作機械で加工する際に主軸が故障した場合、主軸を交換あるいは修理するまで使用を中断せざるを得ない。
よって、使用中断によるユーザの損失を防止するためには、故障に至る前にメンテナンスを促す必要があるため、主軸の異常を事前に検出することが重要となる。
そこで、主軸など回転体の状態を把握し診断する装置として特許文献1〜2などが知られている。例えば、特許文献1には、軸受から発生する振動をあらかじめ測定した正常時の振動と比較する装置が開示されている。特許文献2には、動力を遮断し惰性状態で回転させた際の単位時間当たりの回転速度の変化量と、予め計測した正常時における回転速度の変化量とを比較する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−20090号公報
【特許文献2】特公平6−65189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載されているような、振動を分析する装置の場合、異常検知に所要する時間は短時間で済むものの、振動を計測するためのセンサを備える必要があり、高価となってしまう。
また、特許文献2に記載されているような、主軸駆動装置の動力遮断後の惰性状態における回転速度の変化量を比較する装置の場合、回転速度検出手段は一般的に搭載されているため安価である。しかし、経過時間に対して回転速度変化は軸受の潤滑状態が変化することで非線形性を示すので、単位時間当たりの回転速度の変化量は一定ではなく、潤滑状態の変化を含めた正確な異常診断を実施するためには長時間を要し、日常的に診断することができない。
【0005】
そこで、本発明は、安価かつ短時間な方法で、主軸の異常を日常的に診断することができる工作機械の主軸異常検出装置及び主軸異常検出方法を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、工作機械の主軸異常検出装置であって、主軸の回転速度を検出する回転速度検出手段と、
前記回転速度検出手段で検出した前記主軸の惰性運転開始時の回転速度と、惰性運転を開始してから予め設定した計測時間後に前記回転速度検出手段で検出した前記主軸の回転速度とに基づいて、前記主軸の回転速度が所定の回転速度閾値に到達する到達時間を、非線形モデルを用いて推定する到達時間推定手段と、
前記到達時間推定手段で推定された到達時間と、予め設定された、前記回転速度閾値に到達する設定到達時間とを比較し、その比較結果に基づいて前記主軸の異常を判定する判定手段と、を含んでなることを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1の構成において、前記判定手段によって前記主軸の異常を判定した際に、前記主軸の惰性運転を継続して、前記回転速度検出手段で検出される前記主軸の回転速度が前記回転速度閾値に到達する到達時間を計測する到達時間計測手段と、
前記到達時間計測手段で計測した到達時間と前記設定到達時間とを比較し、その比較結果に基づいて前記主軸の異常を判定する第2判定手段と、をさらに備えることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2の構成において、前記到達時間推定手段で用いる非線形モデルとして、exp関数を用いることを特徴とする。
上記目的を達成するために、請求項4に記載の発明は、主軸の回転速度を検出する回転速度検出手段を有する工作機械において、主軸の異常を検出する方法であって、
前記主軸の惰性運転開始時の回転速度を前記回転速度検出手段で検出する第1回転速度検出ステップと、
惰性運転を開始してから予め設定した計測時間後に前記主軸の回転速度を前記回転速度検出手段で検出する第2回転速度検出ステップと、
前記第1回転速度検出ステップで検出された回転速度と前記第2回転速度検出ステップで検出された回転速度とに基づいて、前記主軸の回転速度が所定の回転速度閾値に到達する到達時間を、非線形モデルを用いて推定する到達時間推定ステップと、
前記到達時間推定ステップで推定された到達時間と、予め設定された、前記回転速度閾値に到達する設定到達時間とを比較し、その比較結果に基づいて前記主軸の異常を判定する判定ステップと、を実行することを特徴とする。
請求項5に記載の発明は、請求項4の構成において、前記判定ステップによって前記主軸の異常を判定した際に、前記主軸の惰性運転を継続して、前記回転速度検出手段で検出される前記主軸の回転速度が前記回転速度閾値に到達する到達時間を計測する到達時間計測ステップと、
前記到達時間計測ステップで計測した到達時間と前記設定到達時間とを比較し、その比較結果に基づいて前記主軸の異常を判定する第2判定ステップと、をさらに実行することを特徴とする。
請求項6に記載の発明は、請求項4又は5の構成において、前記到達時間推定ステップで用いる非線形モデルとして、exp関数を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、短時間の回転速度変化の計測結果を基に、主軸回転速度が回転速度閾値に到達する時間を、非線形モデルで推定し、推定された到達時間を設定到達時間と比較することで、短時間かつ正確な異常判定が可能となり、主軸の異常を日常的に診断できる。
特に、請求項2及び5に記載の発明によれば、上記効果に加えて、最初に異常と判定した場合、実際の回転速度閾値までの到達時間を計測して再度設定到達時間と比較して異常判定を行うため、異常判定の精度が向上し、診断が正しく行われない場合においても不慮の機械停止を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図3】惰性運転時の回転速度と、回転速度の推定例とを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、主軸異常検出装置の機能ブロック図で、図において、1は工作機械の主軸、2は工具で、主軸1には、回転速度検出器3が設けられる。4は、異常検出部で、この異常検出部4には、回転速度検出器3からの検出信号に基づいて主軸1の惰性運転時の回転速度を計測する回転速度計測部5が設けられる。この回転速度計測部5が回転速度検出器3と併せて本発明の回転速度検出手段となる。
また、異常検出部4には、計測した回転速度に基づいて、回転速度が予め設定された回転速度閾値に到達する時間を推定する到達時間推定手段としての回転速度変化推定演算部6と、回転速度変化推定演算部6で演算された到達時間と、第1記憶装置7に記憶された設定到達時間とを比較して主軸1の異常を判定する判定手段としての主軸異常判定部8と、主軸異常判定部8で異常判定がされた場合に警告表示を指令する警告表示指令部9とが設けられている。
【0010】
さらに、異常検出部4には、主軸異常判定部8で異常を検出した際に、継続された惰性運転時の回転速度を回転速度計測部5から取得して、取得した回転速度が回転速度閾値に到達する時間を計測し、計測した到達時間と第2記憶装置10に記憶された設定到達時間とを比較して主軸1の異常を再判定する第2判定手段としての主軸故障判定部11と、主軸故障判定部11で主軸1の異常が再判定された場合に主軸モータへの停止指令を出力するモータ停止指令部12とが設けられている。この異常検出部4は、例えば工作機械のNC装置内に構成される。
【0011】
この異常検出部4による異常検出方法を、
図2のフローチャートに添って説明する。
まず、主軸回転中の工作機械において、S1で回転停止信号を出力して、S2で、回転速度計測部5によって惰性運転開始直前の回転速度ω
0を取得する(第1回転速度検出ステップ)。
次に、S3で、惰性運転の経過時間を計測するタイマーをリセットし、S4でタイマーをスタートさせて計測を開始すると共に、S5で動力を遮断し惰性運転を開始する。
次に、S6で、惰性運転開始後の経過時間が、異常検出に用いる計測時間t
1に到達するまでカウントし、計測時間t
1に到達したら、S7でそのときの回転速度ω
1を、回転速度計測部5によって取得する(第2回転速度検出ステップ)。
【0012】
次に、S8で、回転速度変化推定演算部6において、予め設定した回転速度閾値に到達する到達時間t’を、S2,S7で取得した回転速度ω
0、ω
1、計測時間t
1を基に非線形モデルを用いて推定する(到達時間推定ステップ)。
ここで、惰性運転時の回転速度と、回転速度の推定の一例を、
図3を用いて説明する。
図3では横軸に時間を、縦軸に回転速度を示す。aに示す実線は、惰性運転時の回転速度を、bに示す一点鎖線は、本発明で用いた回転速度の推定結果を、cに示す破線は、計測で求めた回転速度ω
0、ω
1、計測時間t
1を基に線形モデルで推定した結果をそれぞれ示す。
図3において、一点鎖線bでは下記の(A)式に示す非線形モデルを、破線cでは下記の(B)式に示す線形モデルをそれぞれ用いた。ここで、tは惰性運転開始後の任意の経過時間を、ωは回転速度を、Cは定数をそれぞれ示す。
【0014】
図3からわかるように、単位時間当たりの回転速度の変化が一定でないため経過時間tの増加に伴い誤差が増大し、破線cの線形モデルを用いた推定の場合は正確な診断ができない。しかし、一点鎖線bの非線形モデルを用いた推定の場合は、推定誤差は小さくなる。
ここでは、非線形モデルとしてexp関数を用いたが、多項式、対数関数等、他の非線形モデルや、複数の数式を途中で切り替えるものでもよい。また、回転速度ω
0、ω
1、計測時間t
1以外に、主軸の運転条件、機体温度など他の情報によって数式を変化させてもよい。
【0015】
次に、S9では、主軸異常判定部8において、S8で求めた到達時間t’と、予め測定もしくは設定して第1記憶装置7に記録された、回転速度閾値に到達する設定到達時間t
Cとの差を、判定用の閾値と比較し異常か否かを判定する(判定ステップ)。判定用の閾値は、摩耗などによって摩擦抵抗が減少するt
C>t
1となる場合と、潤滑不良などによって摩擦抵抗が増加するt
1>t
Cとなる場合があるため複数設けて、当該時間差が複数の閾値の間であれば正常と判定し、最大閾値より大側、最小閾値より小側であれば異常と判定することが考えられる。
このS9において、主軸1が正常と判定した場合、S15で主軸ブレーキ信号をONとし主軸1の惰性回転を終了させ、異常検出処理を終了する。
【0016】
一方、S9において、主軸1が異常と判定した場合、S10で、警告表示指令部9により警告を開始し、異常と判定した要因が、S8で行った推定精度か主軸1の異常かを判断するために、S11で、主軸回転速度が回転速度閾値に到達するまで惰性運転を継続してその到達時間t
2を計測する(到達時間計測ステップ)。
そして、S12では、主軸故障判定部11において、到達時間t
2と、回転速度閾値に到達する設定到達時間t
Cとの差を判定用の閾値と比較し、推定精度が要因か、主軸が異常かを判定する(第2判定ステップ)。
S12で用いる判定用の閾値は、摩耗などによって摩擦抵抗が減少するt
C>t
2となる場合と、潤滑不良などによって摩擦抵抗が増加するt
2>t
Cとなる場合があるためS9と同様に複数設けて、当該時間差が複数の閾値の間であれば推定精度が要因と判定し、最大閾値より大側、最小閾値より小側であれば主軸異常が要因と判定することが考えられる。なお、閾値は、S9で用いた閾値と同一のものでもよい。
【0017】
このS12において、警告が推定精度に起因すると判断した場合、S14で警告を解除し、引き続き主軸1を回転できる状態とし、S15で主軸ブレーキ信号をONとし主軸1の惰性回転を終了させ、異常検出処理を終了する。
一方、S12において、再度主軸1が異常であると判定した場合、主軸故障判定部11では故障が生じたと判断してモータ停止指令部12を介してS13で主軸回転を禁止し、S15で主軸ブレーキ信号をONとして異常検出処理を終了する。
【0018】
このように、上記形態の主軸異常検出装置及び方法によれば、短時間の回転速度変化の計測結果を基に、主軸回転速度が回転速度閾値に到達する時間を、exp関数を用いた非線形モデルで推定し、推定された到達時間を設定到達時間と比較することで、短時間かつ正確な異常判定が可能となり、主軸1の異常を日常的に診断できる。
特にここでは、異常と判定した場合、実際の回転速度閾値までの到達時間を計測して再度設定到達時間と比較して異常判定を行うため、異常判定の精度が向上し、診断が正しく行われない場合においても不慮の機械停止を防止することができる。
【0019】
なお、上記形態では、異常検出部において2つの記憶装置を設けているが、1つの記憶装置にまとめてよい。
また、ここでは最初の異常判定後に惰性運転を継続して回転速度が回転速度閾値まで低下するまでの到達時間を計測し、当該到達時間を設定到達時間と比較して再度異常判定を行うようにしているが、二度目の異常判定(到達時間計測ステップ、第2判定ステップ)は省略することができる。
さらに、異常検出部は、NC装置で兼用する場合に限らず、工作機械の外部のコンピュータにより形成することもできる。このようにすれば複数の工作機械の主軸異常を同時にモニタできる。
【符号の説明】
【0020】
1・・主軸、2・・工具、3・・回転速度検出器、4・・異常検出部、5・・回転速度計測部、6・・回転速度変化推定演算部、7・・第1記憶装置、8・・主軸異常判定部、9・・警告表示指令部、10・・第2記憶装置、11・・主軸故障判定部、12・・モータ停止指令部。