(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。
図1(a)は第1の実施形態にかかるコモンモードチョークコイルの模式平面図、
図1(b)はその側面図、である。
コモンモードチョークコイル10は、コア20と、第1のコイル30と、第2のコイル40と、を有する。
【0009】
コア20は、環状部を有し、磁性体からなる。磁性体は、たとえば、フェライト、圧粉、珪素鋼、パーマロイ、センダストなどとすることができる。
【0010】
第1のコイル30は、コア20に巻回された複数の領域が直列接続される。第2のコイル40は、コア20に巻回された複数の領域が直列接続される。
図1において、第1のコイル30は、第1の領域31と、第2の領域32と、を有する。また、第2のコイル40は、第1の領域41と、第2の領域42と、を有する。
【0011】
第1のコイル30の第1の端部(第1の領域31の一方の端部31aと一致する)51および第2のコイル40の第1の端部(第1の領域41の一方の端部41aと一致する)52は隣接して設けられ、入力端子50を構成する。また、第1のコイル30の第1の端部51の反対側の第2の端部(第2の領域32の一方の端部32a)61および第2のコイル40の第1の端部52の反対の側の第2の端部(第2の領域42の一方の端部42aと一致する)62は隣接して設けられ、出力端子60を構成する。
【0012】
第1のコイル30の第1の領域31および第2の領域32と、第2のコイル40の第2の領域42および第1の領域41とは、コア20の環状部の中心線20aに沿って互いに重ならないようにかつ交互に配置される。
【0013】
第1のコイル30において、第1の領域31および第2の領域32は、環状部に囲まれた空間20bにおいて接続される。第2のコイル40において、第1の領域41および第2の領域42は、環状部に囲まれた空間20bにおいて接続される。
【0014】
第1のコイル30の第1の端部51および第2のコイル40の第1の端部52において電流が同一の方向(
図1において右向き)に通過するとき、第1のコイル30に誘起された磁束φ11、φ12の向きと、第2のコイル40に誘起された磁束φ21、φ22の向きとは中心軸20aに沿って同一の方向となる(
図1において反時計回り)。
【0015】
次に、第1および第2のコイル30、40の巻回の方法について詳細に説明する。なお、
図1において、コア20は閉磁路の円形コアを示したが、ギャップが形成されていたり、多角形でもよい。第1の領域31と第2の領域32とは、それぞれに向い合って配置される。第1のコイル30において、第1の領域31の他方の端部31bは第2の領域32の他方の端部32bと、接続領域35により連結される。第2のコイル40において、第1の領域41の他方の端部41bは第2の領域42の他方の端部42bと、接続領域45により連結される。
【0016】
第1の端部51に外部から電流i
n1が注入される場合を考える。第1の領域31においてコア20の中心を通りコア20の上面に垂直な断面A1から時計回りの方向(矢印で表す)に向かって見た導線を流れる電流の向きと、第2の領域32においてコア20の中心を通りコア20の上面に垂直な断面A3から時計回り方向に向かって見た導線を流れる電流の向きと、が同一となるように第1のコイル30に導線を巻回する方向を決める。
【0017】
次に、第1の端部52に外部から電流i
n2が、電流i
n1と同一の方向(
図1では右側)に注入される場合を考える。第1の領域41においてコア20の中心を通りコア20の上面に垂直な断面A4から時計回りの方向に向かって見た導線の電流の向きと、第2の領域42においてコア20の中心を通りコア20の上面に垂直な断面A2から時計回り方向に向かって見た導線の電流の向きと、が同一となるように第2のコイル40に導線を巻回する方向を決める。
【0018】
このように、断面A1〜A4において時計回り方向(矢印で表す)を見たとき、導線に流れる電流の向きをすべて同一とすると、磁束φ11、φ22、φ12、φ21の向きは、すべて反時計回り方向となるので、磁束が互いに強め合う。このようにして、コモンモードチョークコイル10の機能を備えることができる。
【0019】
図1(a)、(b)に表すように、コイルのそれぞれの領域は互いに重ならないようする。また、コイルの1つの領域内でも、導線が重ならないよう、離間して巻回することが好ましい。この効果については後に詳細に説明する。
【0020】
図2は、第2の実施形態にかかるコモンモードチョークコイルの模式平面図である。
コモンモードチョークコイル10は、コア20と、第1のコイル30と、第2のコイル40と、を有する。第1のコイル30は、第1の領域31と第2の領域32とに接続された第3の領域33をさらに有する。第2のコイル40は、第1の領域41と第2の領域42とに接続された第3の領域43をさらに有する。
【0021】
第1のコイル30の第3領域33は、第2のコイル40の第1の領域41と第2の領域42との間に配置される。第2のコイル40の第3領域43は、第1のコイル30の第1の領域31と第2の領域32との間に配置される。
【0022】
第1のコイル30において、第1の領域31の他方の端部31bは第3の領域33の2つの端部のうちの距離が遠い方の一方の端部33aに接続され、かつ第2の領域32の他方の端部32bは第3の領域33の2つの端部のうちの他方の端部33bに接続される。
【0023】
第2のコイル40において、第1の領域41の他方の端部41bは第3の領域43の2つの端部のうちの距離が遠い方の一方の端部43aに接続され、かつ第2の領域42の他方の端部42bは第3の領域43の2つの端部のうちの他方の端部43bに接続される。
【0024】
次に、第1および第2のコイル30、40の巻回の方法について詳細に説明する。
第1のコイル30は、第1の端部51から、たとえば、コア20の中心軸20aに沿って時計回り方向に巻回が開始される。第1のコイル30の全巻数の約3分の1を巻回すると第1の領域31となる(端部31b)。第3の領域33の一方の端部33aのコア20近傍上の位置は、第1の領域31の他方の端部31bに対して略対向する位置を開始点とし、中心線20aに沿って時計回りの方向に向かって巻回される。
【0025】
第1の領域31の他方の端部31bと第3の領域33の一方の端部33aとは、接続領域36で連結される。第1の領域31の他方の端部31bと第3の領域33の一方の端部33aとの距離は、第1の領域31の他方の端部31bと第3の領域33の他方の端部33bとの距離よりも長い。このため、2つの領域の間の寄生容量を低減できる。この場合、第2の領域32と第3の領域33との間の距離も遠くなるので寄生容量はさらに低減できる。第2のコイル40においても効果は同じである。
【0026】
第1のコイル30の全巻数の約3分の1を巻回すると第3の領域33となる(端部33b)。第2の領域32の他方の端部32bのコア20近傍上の位置は、第3の領域33の他方の端部33bに対して略対向する位置を開始点とし、中心20a線に沿って時計回りに巻回する。第3の領域33の他方の端部33bと第2の領域32の他方の端部32bとは、接続領域37で連結される。このため、2つの領域の間の寄生容量を低減できる。また、第1の領域31の他方の端部31bと第3の領域33の他方の端部33bとの距離は、第1の領域31の他方の端部31bと第3の領域33の一方の端部33aとの距離よりも短いので、寄生容量は
図2の場合よりも高くなる。但し、寄生容量は、コイルの領域を分割しない場合よりも低減することができる。なお、3つの領域における導線の巻数比は、1:1:1には限定されない。
【0027】
図3(a)は第2の実施形態にかかるコモンモードチョークコイルの模式斜視図、
図3(b)はその等価回路図、である。
第1のコイル30は、第1の領域31、第2の領域32、第3の領域33に分割される。
第2のコイル40は、第1の領域41、第2の領域42、第3の領域43に分割される。
2つのコイルの6つの領域は、環状のコア20に沿って交互に配置される。また、それぞれの領域の間の接続距離が遠くなるように連結される。このため、寄生容量C
31、C
32、C
33に分割され、直列接続をとるため、コイル全体の寄生容量が低減される。なお、それぞれのコイルの領域において、導線を密着させずに離間して巻回するとさらに寄生容量を低減できる。
【0028】
図4(a)はコモンモードチョークコイルの作用を説明する回路図、
図4(b)はコモンモードチョークコイルの記号、である。
コモンモードチョークコイル10は、4端子回路である。その入力端子51、52は、交流電源(またはパルス電源)80に接続される。出力端子61、62は、負荷90に接続される。接地をリターン回路とするコモンモードノイズ電流i
n1、i
n2は、ノイズ源82から、コモンモードチョークコイル10の入力端子51、52に同一の向きに入力される。
【0029】
同一方向に入力されたコモンモードノイズ電流i
n1、i
n2によりコアに誘起された磁束は互いに強め合う。この結果、インピーダンスが高くなり、ノイズ電流が負荷90側に伝搬することが抑制される。すなわち、コモンモードチョークコイル10は、コモンモードノイズに対してフィルタとして作用する。他方、信号電流は、交流電源80からコモンモードチョークコイル10を通過し負荷90に供給されて交流電源80に戻る。すなわち、信号電流はディファレンシャルモードとなり、誘起された磁束は互いに打ち消し合うのでインダクタとしての作用が弱くなる。
【0030】
図5(a)は比較例にかかるコモンモードチョークコイルの模式斜視図、
図5(b)はコモンモードノイズ電流の伝搬について説明する図、
図5(c)は第1のコイルの等価回路図、である。
図5(a)に表すように、比較例のコモンモードチョークコイル110は、コア120と、第1のコイル130と、第2のコイル140と、を有する。第1のコイル130はコア120の一方の側に導線が近接して設けられる。第2のコイル140はコア120の他方の側に導線が近接して設けられる。第1のコイル130と第2のコイル140との間のコア120は、導線が巻回されずに表面が露出している。比較例のコモンモードチョークコイル110は、導線が近接しているので線間寄生容量が高くなる。
【0031】
図6(a)はコモンモードチョークコイルのインピーダンスの周波数特性を表すグラフ図、
図6(b)はその測定方法を説明する回路図、である。
縦軸はインピーダンスZ
IN (Ω)、横軸は周波数(MHz)、である。また、実線は第2の実施形態、破線は比較例を表す。
【0032】
図6(b)に表すように、第1のコイル30と第2のコイル40とは並列接続される。入力端子50は信号源100に接続され、出力端子60には負荷Z
Lが接続される。インピーダンスZ
INは、入力端子50から測定した負荷インピーダンスを表す。コイルのインダクタンスと、寄生容量と、による自己共振周波数近傍においてインピーダンスZ
INが最大となる。
【0033】
第2の実施形態の自己共振周波数は、約430kHzである。
図6(a)において、インピーダンスが2000Ω以上となる帯域を比較する。比較例では、帯域が約290kHz以上、1.5MHzである。これに対して、第2の実施形態では、帯域は、290kHz以上、3MHz以下と比較例の約2倍と広い。すなわち、第2の実施形態では、コイルの寄生容量を低減することにより、広い周波数帯域でコモンモードノイズを低減できる。このため、コモンモードチョークコイルを広い周波数帯域で共通化できる。
【0034】
図7は、第3の実施形態にかかるコモンモードチョークコイルの模式平面図である。
第1のコイル30において、第1の領域31の他方の端部31bと第2の領域32の他方の端部32bとが間に回路素子を挟んで接続される。第2のコイル40についても、同様の構成としている。それぞれの2つの端部の間には、たとえば、ケーブル、バスバー、基板に形成したパターンなどを設けることができる。また
図7のように、接続領域35、45と接地との間にキャパシタC7、C8を設けることができる。
【0035】
図8は、第4の実施形態にかかるコモンモードチョークコイルの模式平面図である。
第4の実施形態にかかるコモンモードチョークコイル10は、三相交流回路に用いられる。コモンモードチョークコイル10は、第1のコイルの第1の領域31、第1のコイルの第2の領域32と、第2のコイルの第1の領域41と、第2のコイルの第2の領域42と、第3のコイルの第1の領域71と、第3のコイルの第2の領域72と、を有する。
【0036】
第1のコイルの第1の端部51(31aに一致)と、第2のコイルの第1の端部52(41aに一致)と、第3のコイルの第1の端部53(71aに一致)と、には三相電圧が供給される。第1のコイルの第2の端部61(32bに一致)と、第2のコイルの第2の端部62(42bに一致)と、第3のコイルの第2の端部63(72bに一致)と、は負荷に接続される。
【0037】
第1のコイルの第1の端部51、第2のコイルの第1の端部52、および第3のコイルの第1の端部53において電流i
n1、i
n2、i
n3が同一の方向(
図8では外部から流れ込む方向)に通過するとき、第1のコイルに誘起された磁束と第2のコイルに誘起された磁束と第3のコイルに誘起された磁束のそれぞれの向きは、は中心軸20aに沿って同一の方向を向く。
第4の実施形態にかかるコモンモードチョークコイル10は、三相交流回路に生じたコモンモードノイズに対して抑制効果を有する。
【0038】
第1〜第4の実施形態によれば、広い周波数帯域においてコモンモードノイズを抑制可能なチョークフィルタが提供される。これらのコモンモードチョークコイルは、スイッチング電源などに広く用いることができる。
【0039】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。