(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1及び
図2は、本発明の一実施形態に係る歩行補助車1の外観斜視図である。
図1は、後方から見た外観斜視図であり、
図2は前方から見た外観斜視図である。歩行補助車1は、2個の前輪2と2個の後輪3の4輪が地面又は床面の走行面上を回転しながら走行する。
【0013】
歩行補助車1はフレーム4で本体部分を形成している。フレーム4の円筒部5に組み込まれたハンドルステム6には、ハンドル7及び前腕支持台9が取り付けられている。前腕支持台9は前方に倒すことができ、この状態では座面15に腰掛けることができる。また、ハンドル7及び前腕支持台9の両方を前方に倒すことができる構成であってもよい。
【0014】
ハンドルステム6は、円筒部5からの伸縮量を変えることにより、ハンドル7及び前腕支持台9の高さ調整が可能になる。ハンドル7にはハンドル7のフレーム部分を包み込むように、柔軟材で形成されたハンドルパッド8が装着されており、使用者はハンドルパッド8を掴んで歩行する。ハンドルパッド8は掴み心地を良くしたり、滑りを防止するためのものであるが、これを省きハンドル7のフレーム部分を直接掴むようにしてもよい。
【0015】
使用者は、ハンドル7を掴み前腕支持台9に肘をついて上半身をあずけた姿勢をとることができ、この状態で歩行補助車1を走行させることができる。このことにより、使用者は下半身の負担を大幅に軽減させることができる。ハンドル7に近接した位置にハンドブレーキ20が設けられている。後に
図3を用いて説明するように、ハンドブレーキ20をハンドル7側に引くことにより後輪3をロックすることができる。ハンドブレーキ20はハンドル7と一体に掴むことができる程度にハンドル7に近接して配置されている。このため、使用者はハンドル7を掴んだ歩行中の姿勢を維持した状態で、ハンドブレーキ20をハンドル7側に引いて後輪3をロックさせて、歩行補助車1を制動させることができる。
【0016】
図3に
図1のA部の拡大図を示しており、後輪3近傍の拡大図を図示している。
図1において、ハンドブレーキ20をハンドル7側に引くことにより、ブレーキワイヤ21が引っ張られ、
図3において、ブレーキユニット10内のアーム11が回転する。この回転に伴って、ブレーキパッド12が後輪3を押圧して、後輪3がロックされる。また、ブレーキユニット10は、スピードコントローラを備えており、調節つまみ13を回転させることにより、ローラ14が後輪3に押圧する程度を調節することができ、走行時の抵抗を加減して走行性を調節することができる。
【0017】
図4に
図1のB部の拡大図を示しており、前輪2近傍の拡大図を示している。
図4において、フォーク30は前輪2を挟み込むように形成されており、前輪2は車軸31を介してフォーク30に取り付けられている。
図5を参照しながら、前輪2のフォーク30への取り付け構造を説明する。
図5は、フォーク30と車軸31との取り付け構造を示す要部斜視図である。本図においては、便宜のため、フォーク30は片側半分のみを図示し、前輪2の図示は省略している。また、
図5に示した構造は、図示を省略したフォーク30のもう一方の片側半分においても同様である。
【0018】
図5において、車軸31の端部は長穴32を挿通しており、車軸31は長穴32に沿って、長穴32の長手方向にスライド可能である(矢印a方向)。車軸31には、支持板33が車軸31を中心に回転可能に取り付けられており、フォーク30には突出部34が固定されている。支持板33と突出部34との間には、付勢手段であるスプリング35が介在しており、スプリング35の一端は支持板33に取り付けられ、他端は突出部34に取り付けられている。この構成によれば、車軸31が長穴32に沿って後輪3側にスライドすると(矢印a方向)、支持板33と一体に傾斜角度を変えながらスプリング35が伸張する。
【0019】
図6は、フォーク30と車軸31との取り付け構造を示す部分断面図である。本図は、前輪2を背面から見た図に相当し、前輪2は要部のみを簡略化して図示し、フォーク30は部分的に断面状態で図示している(
図5のAA線における断面に相当)。フォーク30の内側には、前輪2が装着されている。前輪2のホイールの中央にはパイプ18が形成されており、パイプ18に車軸31が挿通している。
図6は説明の便宜のためベアリングの図示は省略している。車軸31は端部近傍が中空であり端部にボルト38を締め付けている。すなわち、ボルト38を締め付ける前の車軸31を、フォーク30の左側の長穴32、パイプ18及び右側の長穴32の順に挿通させた後に、車軸31にボルト38を締め付けると
図6の状態になり、前輪2が車軸31を介してフォーク30に取り付けられる。
【0020】
図7は前輪2近傍の側面図を示している。本図は歩行補助車1を平坦面24上に静止させた状態を示しており、車軸31がフォーク30の長穴32の前端の位置にある。この状態は、歩行補助車1が平坦面24上を走行中においても、同様である。
図7の状態では、スプリング35は伸張しておらず、スプリング35による復元力は作用していない。前記のとおり、車軸31は長穴32に沿ってスライド可能であり、最大で長穴32の後端の位置までスライド可能である。
【0021】
図8は、車軸31が長穴32の後端の位置までスライドした状態を示す側面図である。本図は前輪2が段差25に当接し前輪2の前進が拘束された状態で、歩行補助車1を前進させようとしたときの状態を示している。本図の状態では、スプリング35は伸張しており、車軸31を長穴32の前端側に戻す方向に、スプリング35の復元力が作用する。
【0022】
本実施形態に係る歩行補助車1は、
図7及び
図8を用いて説明したように、車軸31が長穴32に沿ってスライド可能であることにより、前輪2が段差に当接して前輪2の前進が拘束された状態であっても、フレーム4と一体にフォーク30は前進することができる。フォーク30が前進することにより、スプリング35は伸張し、前輪2には前輪2を前進させようとする方向にスプリング35による復元力が作用する。詳細は後に説明するとおり、本実施形態に係る歩行補助車1は、この復元力に加え、前腕支持台9に肘をついて上半身をあずけた使用者の姿勢を維持した状態でブレーキにより後輪3をロックできることを利用して、段差乗り越えを容易かつ確実にしている。
【0023】
以下、本発明の一実施形態に係る歩行補助車1について、段差乗り越えの前後の動作について説明する。
図9は、歩行補助車1の前輪2が段差25に当接した直後の状態を示す側面図である。この状態では前輪2とフォーク30との位置関係は
図7と同じであり、スプリング35は伸張しておらず、車軸31はフォーク30の長穴32の前端の位置にある。
【0024】
図10は、前輪2が段差25に当接した状態で使用者が歩行補助車1を前方に押した状態を示す側面図である。本図では前輪2の前進が拘束された状態でフレーム4が前方に移動しており、これに伴いフォーク30及び後輪3は距離Lだけ前方に移動している。
【0025】
本実施形態に係る歩行補助車1は、前記のとおりハンドブレーキ20をハンドル7側に引くことによりブレーキワイヤ21が引っ張られ後輪3がロックされる。
図10の状態では、ハンドブレーキ20はハンドル7から離れており(C部参照)、後輪3はロックされていない。段差25の乗り越え時には、後輪3をロックさせた状態で歩行補助車1を操作する。以下、段差25の乗り越え時の歩行補助車1の操作について説明する。
【0026】
図9及び
図10のように前輪2及び後輪3が平坦面24上にあるときは、使用者は前腕支持台9に肘をついて上半身をあずけた姿勢でハンドル7を掴んで歩行する。前記のとおり本実施形態では、ハンドブレーキ20はハンドル7と一体に掴むことができる程度にハンドル7に近接して配置されている。このため、使用者は平坦面24を歩行中の姿勢を維持した状態で、ハンドブレーキ20をハンドル7側に引いて後輪3をロックすることができる。
【0027】
図11は、歩行補助車1が段差25の乗り越えに差し掛かった状態を示す側面図である。本図の状態では、ハンドブレーキ20がハンドル7側に引かれており(D部参照)、後輪3がロックされている。この状態では、歩行補助車1はE点(後輪3の平坦面24への接地点)を中心に回転可能である。したがって、使用者がハンドル7を持ち上げると、歩行補助車1はE点を中心に回転し、歩行補助車1の前輪2は平坦面24から離間する。
【0028】
より具体的には、
図11において、使用者がハンドル7を持ち上げたことにより、車軸31はE点を中心として、角度αだけ回転して上昇しており、前腕支持台9は水平線に対し角度βだけ傾斜している。前記のとおり、使用者はブレーキ操作時において、前腕支持台9に肘をついて上半身をあずけた姿勢を維持した状態で、ハンドブレーキ20をハンドル7と一体に掴んでいる。この状態であれば、使用者は姿勢を大きく変えることなく、ハンドル7を持ち上げることができる。
【0029】
図11において、前輪2は平坦面24から離間するとともに、前方へ移動している(矢印b参照)。これは、伸張したスプリング35の復元力によるものである。より具体的には、ハンドル7を持ち上げる前の
図10の状態では、
図8に示したように、車軸31が長穴32の後端の位置までスライドしており、スプリング35が伸張している。前輪2が平坦面24から離間することにより、前輪2の拘束力が弱まり、伸張したスプリング35の復元力により、車軸31と一体に前輪2が前方へ移動する。
【0030】
図12では、
図11の状態に比べ、前輪2はさらに前方へ移動している(矢印c参照)。
図12における前輪2とフォーク30との位置関係は、
図7と同じであり、車軸31は長穴32の前端の位置までスライドしている。すなわち、前輪2が段差25を乗り越える過程において、スプリング35の復元力により、車軸31は長穴32の後端から前端までスライドし、これと一体に前輪2が押し進められる。
【0031】
前記のとおり、本実施形態では段差25の乗り越えに、スプリング35の復元力による車軸31のスライドを利用しているので、スライド量が大きいことが好ましい。具体的には、
図7及び
図8において、前輪2はホイール16にタイヤ17が装着されたものであり、長穴32の長さは、前輪2の直径の1/3以上であることが好ましい。この構成によれば、車軸31のスライド量が大きくなり段差25の乗り越えに有利になる。
【0032】
また、
図7及び
図8において、長穴32の角度については特に限定はなく、
図7及び
図8の図示のように水平でもよく傾斜させてもよい。長穴32が水平(ほぼ水平も含む)であれば、車軸31がスライドする際の抵抗が小さくなり、スムーズなスライドが可能になる。また、長穴32を傾斜させる場合には、後輪側(
図7及び
図8では右側)が低くなるように傾斜していることが好ましい。この構成によれば、車軸31が長穴32の前端から後端にスライドする過程で、前輪2に対し高い位置から低い位置に向けて車軸31からの力が作用するので、前輪2の接地面からの離間が助長され、段差乗り越えの安定性が向上する。
【0033】
図13は、歩行補助車1の前輪2が段差25を乗り越えた状態を示す側面図である。本図では、歩行補助車1の後輪3が段差25に当接しているが、すでに前輪2が新たな平坦面26に乗り上げているため、後輪3の段差25への当接は大きな抵抗にはならず、使用者が歩行補助車1を前方に押す力を少し強めれば、後輪3は段差25を乗り越えることができる。前輪2及び後輪3共に段差25を乗り越えた後は、使用者は平坦面24上と同様の操作により、歩行が可能である。
【0034】
以上、本実施形態に係る歩行補助車1の段差25の乗り越えについて説明したが、前輪2が段差25を乗り越えるには、前輪2が接地面から離間する必要がある。しかし、単に前輪2を接地面から離間させただけでは、前輪2の高さ方向の位置が変化したに留まり、前輪2が段差25を乗り越えることはない。また、前輪2の接地面からの離間については、ブレーキ操作により後輪3をロックして、ハンドル7を持ち上げる操作をすることで可能になる。しかし、ハンドル7の持ち上げ操作のためには、通常、使用者は姿勢を大きく変える必要があり、操作負担が大きくなる。
【0035】
前記のとおり、本実施形態においては、前輪2が段差25に当接した状態で使用者が歩行補助車1を前方に押すことにより、スプリング35が伸張する。この状態で前輪2が接地面から離間すると、伸張したスプリング35の復元力により、車軸31と一体に前輪2が前方へ移動するので、段差25の乗り越えが強制される。また、このスプリング35の復元力を利用した構造は、前輪2とフォーク30との取り付け構造で完結し、前輪2に補助輪を追加する必要がなく、特別に構造が複雑になることはなく、簡単な構造で実現可能になる。また、補助輪は必要ないので、乗り越えられる段差25の高さが限定されることもない。
【0036】
一方、前輪2を接地面から離間させるには、ブレーキ操作により後輪3をロックして、ハンドル7を持ち上げる操作をする必要があるが、前記のとおり、使用者は平坦面24を歩行中の姿勢を維持した状態で、ハンドブレーキ20をハンドル7側に引いて後輪3をロックすることができるので、前輪2を接地面から離間させるための操作負担は軽くなる。
【0037】
以上のように、本実施形態においては、伸張したスプリング35の復元力により、段差25の乗り越えが強制され、このための構造は簡単な構造で足りることに加えて、段差25の乗り越えは、使用者が平坦面24を歩行中の姿勢を維持した状態で可能になるので、段差25を容易かつ確実に乗り越えることができる。
【0038】
前記実施形態では、車軸31のスライドと一体に伸縮する付勢手段としてスプリング35の例で説明したが、これに限るものではなく、復元可能な伸縮部材であればよい。また、フォーク30の長穴32は貫通孔の例で説明したがこれに限るものではなく、凹部が長手方向に延びた長穴であってもよい。