(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ヒトTGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3に結合し中和することができる単離抗体またはその抗原結合フラグメントであって、前記単離抗体またはその抗原結合フラグメントは、
S30A、S30H、S30W、E74A、E74C、E74D、E74F、E74G、E74H、E74L、E74P、E74Q、E74R、E74S、E74T、E74WおよびE74Yからなる群から選択される置換を有する、配列番号1の配列を含む可変重鎖(VH)ドメイン;および
配列番号2の配列を含む可変軽鎖(VL)ドメイン
を含む、上記単離抗体またはその抗原結合フラグメント。
TGFβ1、β2およびβ3の1つまたはそれ以上を阻害することが必要な患者の治療のための医薬の製造における、請求項1〜6のいずれか1項に記載の単離抗体またはその抗原結合フラグメントの使用。
TGFβ1、β2およびβ3の1つまたはそれ以上を阻害することが必要な患者の治療のための、請求項1〜6のいずれか1項に記載の単離抗体またはその抗原結合フラグメントを含む、医薬組成物。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本TGFβ結合抗体またはその抗原結合フラグメントは、GC1008抗体の改変VHドメインを含むバリアントであり、このバリアントは、VHドメインおよび/またはVLドメイン(それぞれ配列番号1および配列番号2)のアミノ酸置換を含む。例えば、TGFβ抗体またはその抗原結合フラグメントは、GC1008抗体で観測したヒトTGFβ(TGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3)への結合と同等のまたは該結合よりも向上したヒトTGFβ(TGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3)への結合を付与するアミノ酸置換を有するVHドメインを含むことができる。TGFβアイソフォーム選択的抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトTGFβ2およびヒトTGFβ3と比較してヒトTGFβ1に選択的に結合することができる、またはヒトTGFβ1およびヒトTGFβ2と比較してヒトTGFβ3に選択的に結合することができる。VHドメイン(配列番号1)を含む抗体またはその抗原結合フラグメントの1個またはそれ以上のアミノ酸を置換することにより、選択的結合を実現することができる。
【0019】
「選択的に結合する」とは、抗体またはその抗原結合フラグメントが、(i)GC1008抗体の未改変VHドメインを含む抗体またはその抗原結合フラグメントと比べて高い親和性でヒトTGFβの特定のアイソフォームに結合することができること、および/または(ii)GC1008抗体の未改変VHドメインを含む抗体またはその抗原結合フラグメントと比べて低い親和性でその他のTGFβアイソフォームに結合することができることを意味する。例えば、TGFβ1アイソフォームに選択的に結合する抗体またはその抗原結合フラグメントは、GC1008(Fab)またはGC1009(scFv)と比べて高い親和性で、例えば2倍高い、3倍高い、5倍高い、10倍高い親和性またはそれ以上高い親和性でTGFβ1に結合することができる。その代わりに、またはそれに加えて、抗体またはその抗原結合フラグメントは、GC1008(Fab)またはGC1009(scFv)と比べて低い親和性で、例えば2倍低い、3倍低い、5倍低い、10倍低いまたはそれ以上低い親和性でTGFβ2およびTGFβ3に結合することができる。
【0020】
本明細書で使用する場合、第1の要素「および/または」第2の要素とは、第1の要素単独のまたは第2の要素単独の具体的な開示を意味する、または第1の要素と第2の要素との組み合わせの具体的な開示を意味する。単数形「a」、「an」および「the」は、文脈が別途明確に指示している場合を除き複数の指示対象を含む。
【0021】
抗体またはその抗原結合フラグメント
GC1008抗体の改変VHドメインを含む抗体またはその抗原結合フラグメントとして、全抗体、例えばIgG1、IgG2もしくはIgG4等のIgGまたはその抗原結合フラグメント、例えばF(ab’)
2ポリペプチド、scFvポリペプチド、FabポリペプチドもしくはdAbポリペプチドが挙げられるがこれらに限定されない。一価の抗原結合フラグメントとして、Fab、Fv、scFvおよびジ−scFvを挙げることができ、ジ−scFvは、ペプチドリンカーで連結されている2個のscFv分子である。抗原結合フラグメントは、例えばTGFβと別の抗原とを対象とする多価であってもよい。多価フラグメントとしてF(ab’)
2およびジ−scFvが挙げられ、ジ−scFvでは、2個のscFv成分が、別々の抗原を対象とする異なる可変ドメインから構成されている。本抗体またはその抗原結合フラグメントは、例えば改変GC1008(全ヒトIgG4抗体)であってもよく、改変GC1008(Fab)(GC1008のFabフラグメント)であってもよく、または改変GC1009(scFv)(GC1008のscFvバージョン)であってもよい。GC1009(scFv)は、ペプチドリンカーで連結されているヒト重鎖PET1073G12 VHドメイン(配列番号1)およびヒト軽鎖PET1073G12 VLドメイン(配列番号2)を含む、組み換えにより産生された抗原結合フラグメントであり、このペプチドリンカーにより、2個のドメインが会合して抗原結合部位になることができる。GC1008およびGC1009は、米国特許第7,723,486号明細書およびGrutter(2008)に更に詳細に開示されている。GC1009(scFv)のアミノ酸配列を下記に記載し、この配列において、(Gly
4/Ser)
nモチーフのペプチドリンカー(配列番号10)を太字で表すとともにイタリック体で表し、シグナルペプチドを灰色で強調表示する。
【化1】
【0022】
「改変」可変ドメインまたは「バリアント」可変ドメインは、参照配列と比較してアミノ酸置換を含む。例えば、「GC1008抗体のバリアントVHドメイン」は、アミノ酸配列が配列番号1に記載されているPET1073G12のVHドメインと比較してアミノ酸置換を含むことができる。
【0023】
VHドメインおよび/またはVLドメインは、パラトープ残基の20個以下の置換を、好ましくはパラトープ残基の19個以下の置換を、より好ましくはパラトープ残基の12個以下の置換を含むことができる。例えば、2種のドメインの内の一方はパラトープ残基の置換を含むことができるが他方のドメインは改変されていない、または、両方のドメインがパラトープ残基の置換を含むことができる。パラトープ置換は、表5に記載の置換から選択されてもよい。パラトープの置換は、改変された抗体または抗原結合フラグメントのTGFβアイソフォームへの選択的結合をもたらすことができ、またはパラトープの置換は、抗体または抗原結合フラグメントのTGFβアイソフォームへの汎特異的な結合を保存することができる。両方のタイプのパラトープ置換を行うこともできる。例えば、パラトープ置換により、抗体または抗原結合フラグメントがTGFβアイソフォームに選択的に結合することができ、同時に、汎特異的な結合を保持する別のパラトープ置換が行われて抗体また抗原結合フラグメントが脱免疫化(de−immunize)される。脱免疫化を、例えばHardingら(2010)mAbs 2:256〜265頁の方法に従って実施することができる。
【0024】
その代わりに、またはそれに加えて、VHドメインおよび/またはVLドメインは、非パラトープ残基の20個以下の置換を、好ましくは非パラトープ残基の18個以下の置換を、より好ましくは非パラトープ残基の12個以下の置換を含むことができる。様々な理由で、例えば抗原結合フラグメントの耐熱性を高めるために、酸化もしくは脱アミドの影響を受けやすいアミノ酸残基を除去するために、例えば薬剤もしくはPEG分子に容易に共役され得るアミノ酸を追加するために、または潜在的なカルボキシル化部位を除去するために、非パラトープ残基を置換することができる。
【0025】
改変はアミノ酸欠失を含むこともできる。例えば、1個または2個の非パラトープアミノ酸を、バリアントVHドメインおよび/またはVLドメインから欠失させることができる。アミノ酸を、VHドメインおよび/またはVLドメインのカルボキシル末端またはアミノ末端から欠失させることができる。
【0026】
本抗体またはその抗原結合フラグメントの可変ドメインは3個の相補性決定領域(CDR)を含み、各相補性決定領域はフレームワーク領域(FW)に挟まれている。例えば、VHドメインは、HCDR1、HCDR2およびHCDR3である3個の重鎖CDRのセットを含むことができる。VLドメインは、LCDR1、LCDR2およびLCDR3である3個の軽鎖CDRのセットを含むことができる。本明細書に開示するHCDRのセットを、VLドメインと組み合わせて使用するVHドメイン中に設けることができる。VHドメインに、本明細書に開示するHCDRのセットを設けることができ、そのようなVHドメインがVLドメインと対をなす場合には、VLドメインに、本明細書に開示するLCDRのセットを設けることができる。本明細書では、免疫グロブリンの可変ドメインのCDR領域およびFW領域の構造および位置を、Kabatら(1987)Sequences of Proteins of Immunological Interest、第4版、U.S.Department of Health and Human Servicesを参照して決定する。
【0027】
本抗体またはその抗原結合フラグメントは、「パラトープ」アミノ酸残基と「非パラトープ」アミノ酸残基とを含有する。本抗体またはその抗原結合フラグメントの「パラトープ」アミノ酸は、ヒトTGFβアイソフォームの4Åの原子核(atomic nucleus)内に原子核を有する。各ヒトTGFβアイソフォームが本抗体またはその抗原結合フラグメントと構造的に異なる複合体を形成することから、パラトープ残基は各アイソフォームで異なることができる。例えば、「ヒトTGFβ1パラトープ残基」は、ヒトTGFβ1の4Åの原子核内に原子核を有する。表3は、ヒトTGFβ1アイソフォーム、ヒトTGFβ2アイソフォームおよびヒトTGFβ3アイソフォームそれぞれに関する本抗体またはその抗原結合フラグメントのパラトープ残基を示す。「TGFβパラトープ」残基は、3種全てのヒトTGFβアイソフォームの4Åの原子核内に原子核を有する。
【0028】
Kabat命名法により定義されるように、残基は、CDR領域内のまたはFW内の位置に関わらずパラトープ残基と称される。例えば表4に示すように、多くのパラトープ残基はCDR領域内に位置する。しかしながら、いくつかのパラトープ残基はFW領域内に位置する。「非パラトープ」アミノ酸は、残基がCDR領域中に位置するかまたはFW領域中に位置するかに関わらず、「パラトープ」アミノ酸ではない、抗体またはその抗原結合フラグメントの任意のアミノ酸である。
【0029】
抗体またはその抗原結合フラグメントは、様々なヒト生殖細胞系列から選択される重鎖アミノ酸置換および軽鎖アミノ酸置換を含むことができる。例えば、組み換えDNA技法を使用して、CDRを欠く可変ドメインのレパートリー中にHCDRのセットを導入することができる。生殖細胞系列フレームワークは、V
H−1ファミリ由来のヒトDP−10(V
H1−69)生殖細胞系列またはヒトDP−88(V
H1−e)に由来する重鎖配列を含む。軽鎖配列は、ヒトVκ3ファミリ、例えばヒトDPK−22(A27)に由来することができる。ヒト生殖細胞系列の可変ドメインのアミノ酸配列は、例えばVBASE2によりvbase2.org/vbstat.phpでインターネット上に開示されている。例えば、PET1073G12抗体、PET1074B9抗体またはPET1287A10抗体の場合には、HCDRのセットおよびLCDRのセットが一緒に対をなすことができる。そのため、抗体は、例えば改変されたPET1073G12 VHドメインおよび/またはPET1073G12 VLドメインを含むIgG4抗体分子であってもよい。HCDRセットおよびLCDRセットを含む、PET1073G12ドメイン、PET1074B9ドメインまたはPET1287A10ドメインのアミノ酸配列は、米国特許第7,723,486号に開示されている。
【0030】
抗原結合フラグメントは、抗体の定常領域またはその一部を更に含むことができる。例えば、VLドメインをそのC末端で、ヒトC
κ鎖またはヒトC
λ鎖を含む抗体の軽鎖定常領域に結合させることができる。同様に、VHドメインを含む抗体またはその抗原結合フラグメントはそのC末端で、あらゆる抗体のアイソタイプ、例えばIgG、IgA、IgEおよびIgMに由来する免疫グロブリンの重鎖(例えばCH1ドメイン)の全てもしくは一部またはアイソタイプのサブクラス、特にIgG1、IgG2もしくはIgG4の内のいずれかを更に含むことができる。IgG4があらゆる用途に好ましい。なぜならばIgG4は補体に結合せず、エフェクター機能を生じさせないからである。エフェクター機能が望ましい場合にはIgG1が好ましい。全ての場合において、抗体の定常領域およびその一部はヒト配列であってもよい。
【0031】
抗体の定常領域に対する改変を行って、抗体またはその抗原結合フラグメントの様々な特性を改善することができる。例えば、組み換えアミノ酸改変を使用して、発現させたポリペプチドの構造上の均一性を低下させることができる。代表例はPetersら(2012)J.Biol.Chem.287(29):24525〜33頁であり、これには、ジスルフィド結合の不均一性を低下させるおよびFabドメインの熱安定性を高める、IgG4ヒンジ領域におけるCysからSerへの置換が開示されている。同様に、Zhangら(2010)Anal.Chem.82:1090〜99頁には、ジスルフィド結合のランダムな形成(disulfide bond scrambling)を制限するためのIgG2ヒンジ領域の改変および治療用途の構造異性体の形成が開示されている。CH3ドメインのアミノ酸改変を使用して、カルボキシ末端のLys残基を欠失させて電荷を有するバリアントの数を低減させることもできる。アミノ酸改変を使用して、組み換え抗体またはその抗原結合フラグメントの薬理機能を改善することもできる。例えば、抗体または抗原結合フラグメントがFc領域を含む場合には、アミノ酸改変を使用して補体活性化を高めることもできる、FcγRIIIA結合を高めることによりもしくはFcγRIIIB結合を弱めることにより抗体依存性細胞傷害作用(ADCC)を増強するもできる、および/またはFcRn結合を高めることにより血清半減期を増加させることもできる。そのようなアミノ酸改変は、例えばBeckら(2010)Nature 10:345〜52頁に概説されている。
【0032】
下記の表1は、未改変のPET1073G12 VHドメインのアミノ酸配列(配列番号1);CH1ドメインのアミノ酸配列(配列番号3);PET1073G12 VLドメインのアミノ酸配列(配列番号2);およびCκドメインのアミノ酸配列(配列番号4)を示し、これらはGC1008(Fab)中に存在する。様々なCDR領域およびフレームワーク(FW)領域を標識し;CDR残基も強調表示する。
【0034】
抗体またはその抗原結合フラグメントはヒトTGFβに単一特異的であってもよく、または二重特異性であってもよい。例えばHolligerら(1993)Current Opinion Biotechnol.4、446〜449頁に開示されているように、二重特異性抗体またはその抗原結合フラグメントを様々な方法で製造することができる。二重特異性抗体の例として、特異性が異なる2種の抗体の結合ドメインを使用することができるおよび短くて柔軟なペプチドを介して直接連結させることができる、二重可変ドメインIgG(DvD−IgG)技法またはBiTE(商標)技法のものが挙げられる。
【0035】
組み換えにより改変されたVHドメインおよび/またはVLドメイン
本抗体またはその抗原結合の重鎖および/または軽鎖の可変ドメインを組み換えにより改変して、生殖細胞系列配列由来のアミノ酸配列を変更することができる。例えば、重鎖CDRセットにおけるCDRの内の1個もしくはそれ以上を改変してもよいし、軽鎖CDRセットの内の1個もしくはそれ以上のCDRを改変してもよいし、ならびに/またはVHドメインおよび/もしくはVLドメインにおけるフレームワーク領域の内の1個を改変してもよい。パラトープアミノ酸に対して、例えばTGFβアイソフォームに対する結合親和性を強化もしくは弱化する置換を行うことができる、または置換されても結合親和性は比較的未変化のままであってもよい。非パラトープアミノ酸残基に対してその他の置換を行い、抗体またはその抗原結合フラグメントに様々な特性、例えば安定性の向上または共有結合により改変することができるドメイン表面の反応基の導入を付与することができる。従って、本明細書において、本抗体またはその抗原結合フラグメントのVHドメインおよび/またはVLドメインに対するアミノ酸置換の下記の4つのカテゴリー:(1)ヒトTGFβアイソフォームへの選択的結合を付与する置換;(2)3種全てのヒトTGFβアイソフォームへの汎特異的な結合を維持する置換;(3)非パラトープアミノ酸に対する置換;および(4)多重アミノ酸置換が意図される。これらのカテゴリーのアミノ酸置換は互いに排他的ではない。
【0036】
1.選択的結合を付与する置換
TGFβアイソフォーム選択的抗体またはその抗原結合フラグメントは、VHドメイン(配列番号1)内にアミノ酸置換を含むことができる。例えば、抗体またはその抗原結合フラグメントは、ヒトTGFβ2およびヒトTGFβ3と比較してヒトTGFβ1に選択的に結合することができる、またはヒトTGFβ1およびヒトTGFβ2と比較してヒトTGFβ3に選択的に結合することができる。1個またはそれ以上のパラトープアミノ酸を置換することにより、選択的結合を実現することができる。
【0037】
アミノ酸置換が抗体またはその抗原結合フラグメントのTGFβアイソフォームと相互作用する能力にどの程度影響を及ぼすことができるかの予測は、各TGFβアイソフォームとの共結晶構造によって容易になる。GC1008(Fab)とTGFβ3との共結晶構造はGrutter(2008)に開示されている。GC1008(Fab)とTGFβ2との共結晶構造を
図1に示す。GC1009(scFv)とTGFβ1との共結晶構造を
図2に示す。
【0038】
表2は、ヒトTGFβ1アイソフォーム、ヒトTGFβ2アイソフォームおよびヒトTGFβ3アイソフォームのアミノ酸配列を示す。共結晶構造の比較により、3種のアイソフォーム間でのパラトープの差異が明らかになる。表2において、GC1008と相互作用する各アイソフォーム中のTGFβ残基を太字で表す。
【0040】
下記の表3には、各ヒトTGFβアイソフォームとの共結晶構造により決定した、VHドメインのパラトープ残基(配列番号1)およびVLドメインのパラトープ残基(配列番号2)が列挙されている。太字のGC1008パラトープ残基は、3種全てのTGFβアイソフォーム間で共有される。TGFβエピトープの3個の領域を、「先端」、「疎水性パッチ」および「ヘリックス3」と命名する。配列L
28GWKW
32(配列番号8)を有する、TGFβの「疎水性パッチ」内の4Åの原子核内に原子核を有するVHドメイン残基およびVLドメイン残基が3種全てのアイソフォームで保存されている。しかしながら、「先端」領域および「ヘリックス3」領域と相互作用するGC1008残基は、より高い多様性を示す。3種全ての共結晶構造を比較することにより、GC1008が向きを変え、3種全てのTGFβアイソフォームに類似の親和性を適応させるようにCDRループの位置および側鎖の立体構造を調節することは明らかである。
図1および
図2を参照されたい。例えば、Grutter(2008)は、ミンク肺上皮細胞(MLEC)増殖アッセイにおいて、GC1008が下記の3種のアイソフォームに対して下記の類似の親和性、即ち:TGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3それぞれに対して1±2nM、14±5nMおよび7±2nMのIC
50値を示すことを開示している。3種のTGFβアイソフォームの更なる残基67および68は、それらのVHパラトープ残基Y27との相互作用が異なる。VH残基Y27は、水素結合によりTGFβ1残基Q67およびH68と相互作用する。対照的に、VH残基Y27は、TGFβ2およびTGFβ3のT67およびY50と疎水的な相互作用を形成する。これにより、TGFβ2複合体およびTGFβ3複合体とは対照的に、TGFβ1複合体ではHCDR1ループの再配列が生じる。
【0042】
共結晶においてTGFβ3の4Åの原子核内であるVHドメインおよびVLドメインの残基を示すために、表3の情報を表4で再構成する。パラトープ残基を太字で示す。パラトープ残基の全てではないがほとんどがHCDR内に位置する。
【0044】
共結晶構造の比較により、VHドメイン残基および/またはVLドメイン残基への置換を導いてTGFβアイソフォームに対するGC1008の親和性を変更することができる。特に、アミノ酸置換は、残基が抗原と相互作用するかどうかまたはCDRループを安定化させるその他のCDRまたは構造要素との相互作用に関わるかどうかを考慮して、3種の結晶構造における各VH残基および/またはVL残基の位置に基づくことができる。例えば、LCDR3上のI97は、3種の構造のいずれにおいてもTGFβと直接相互作用しないが、I97は、抗体の内部に向いており、HCDR3のV103およびL104からも構成される疎水性ポケット中にある。V103およびL104はTGFβ結合に重要なパラトープであることから、TGFβに対する親和性を例えば10倍を超えて著しく変化させないのであれば、I97の中程度のもしくは低い疎水性のまたは弱い極性の残基への置換が許容される場合がある。
【0045】
ヘリックス3領域は、エピトープ配列において最大の多様性を示す。TGFβ1およびTGFβ2の60位でのリジンおよびアルギニンにより、TGFβ3と比較してTGFβ1およびTGFβ2に結合しているGC1008の回転が生じる。残基67および残基68で、TGFβ1は、TGFβ2およびTGFβ3と同様にトレオニンおよびイソロイシン/ロイシンの代わりにグルタミンおよびヒスチジンをそれぞれ有する(
図3)。S30が疎水性残基、例えばA、Wに変異している場合には、保存されたTGFβのL64との更なる疎水性相互作用が好ましく、これにより3種全てのTGFβに対する親和性が高められる。残基67および残基68でTGFβ2およびTGFβ3と同様に上述したトレオニンおよびイソロイシン/ロイシンに起因して、この親和性の増大はTGFβ2およびTGFβ3の場合により顕著であり、この親和性の増大は、TGFβ1のQおよびHよりも疎水性残基を選択する。TGFβ1およびTGFβ2では、60位での正電荷側鎖は、重鎖においてE74とイオン相互作用する。E74の正電荷残基への置き換えは、TGFβ1に結合するGC1008にとってあまり好ましくないが、TGFβ3は60位でトレオニンを有するTGFβ3にとっては比較的好ましい(
図4)。TGFβ3のT60側鎖のサイズが小さいため、重鎖上のE74においてほとんどの変異が許容され得る。T60の部分的な疎水性のために、E74での疎水性置換はTGFβ3への結合親和性を劇的に高めることもでき、kd
バリアント:kd
野生型比の2倍を超える改善をもたらすことが多い。
【0046】
特定のTGFβアイソフォームに対する親和性がより大きいまたは1種のアイソフォームに対する選択性がその他のアイソフォームよりも高いTGFβ抗体またはその抗原結合フラグメントを速やかに選択するために、表3に列挙した位置をその他の19種のアミノ酸に無作為化することができる。このことは、当業界公知の技法を使用する、GC1009(scFv)ライブラリ、GC1008FabフラグメントライブラリまたはGC1008ライブラリのインビトロ表示により実現され得る(Bradburyら(2011)Nature Biotechnol.29(3):245〜254頁)。TGFβ1の結晶構造およびTGFβ2の結晶構造それぞれをGC1009およびGC1008Fabに複合化させることなく、Grutter(2008)に開示されているTGFβ3複合体構造に由来するTGFβ3接触アミノ酸をベースとするこのインビトロ表示技法を使用して、TGFβ3に対してのみ親和性がより高い抗体またはその抗原結合フラグメントを同定することができる。新規のTGFβ1およびTGFβ2を、発明者らが決定したGC1009構造およびGC1008Fab構造に複合化させることにより、TGFβ1およびTGFβ2に対する親和性がより高い抗体またたこの抗原結合フラグメントをこの表示技法により速やかに同定することもできる。更に、3種全ての構造に関する情報を有することにより、アイソフォーム選択的バリアントを同定するためにライブラリにより焦点を当てることが可能になる。例えばTGFβ1に関して焦点を当てたライブラリでは、VHドメイン(配列番号1)の27位および30位の無作為化だけを必要とすると予想される。32
2(1024)種の可能な変異体は、ライブラリサイズがわずか〜10
5種であるファージライブラリでカバーされると予想される。(最初の2つの位置では4種の核酸の内のいずれかであり、3番目の位置ではGまたはCであるNNG/Cの配列を有する32種のコドンにより、20種のアミノ酸を表すことができる)。TGFβ1の結晶構造およびTGFβ2の結晶構造をGC1009/GC1008に複合化させることなく、Grutter(2008)に開示されているTGFβ3複合体構造に由来する14種全てのTGFβ3接触アミノ酸を無作為化する必要があると予想される。あらゆる公知のライブラリの中で最良のもの(約〜10
11種以下を示す)であっても、32
14(10
21)種の多様性を有するファージライブラリは完全には表されないと予想される。そのため、本明細書に記載の構造データにより、TGFβ選択的アンタゴニストの速やかなスクリーニングおよび同定が可能となると予想される。
【0047】
2.汎特異的な結合を維持する置換
TGFβアイソフォームに対する結合親和性を大きく変更しない置換を行うことができる。TGFβアイソフォームに対する結合親和性を「大きく変更」しない置換により、野生型の解離速度(off−rate)(k
d野生型)に対するバリアントの解離速度(k
dバリアント)の比は2.4を超えて増加しない(即ち、k
dバリアント/k
d野生型は2.4以下である)。この目的のために「汎特異的な結合」を示す抗体またはその抗原結合フラグメントは、TGFβ(TGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3)に対して少なくとも10nM、30nMまたは100nMの見かけ上の結合定数を有することができる。当業界におけるあらゆる適切な技法、例えばGrutter(2008)に開示されているMLEC増殖アッセイまたはBiacore(登録商標)3000(GE Healthcare)結合アッセイを使用して、TGFβアイソフォームに対する親和性を測定することができる。この目的のために「汎特異的な結合」を示す抗体またはその抗原結合
フラグメントは、TGFβ(TGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3)に対して、野生型と比較して2.4倍以下の、3倍以下の、5倍以下のまたは10倍以下の見かけ上の結合親和性(k
dバリアント:k
d野生型)を有することができ、好ましくは野生型と比較して2.4倍以下の見かけ上の結合親和性(k
dバリアント:k
d野生型)を有することができる。この置換を、GC1008/GC1009と3種のTGFβアイソフォームとの間の3種の共結晶構造から導くことができる。Oberlinら(2012)J.Chem.Inf.Model.52:2204〜2214頁を参照されたい。
【0048】
TGFβへの汎特異的な結合を維持する置換は、TGFβアミノ酸残基との立体障害を生じないと予想される、または抗体もしくはこの抗原結合フラグメントの安定性への深刻な悪影響を有すると予想される。安定性への深刻な悪影響を有する置換により、局所的なアンフォールディングまたはミスフォールディングを生じさせて抗体またはその抗原結合フラグメントの凝集および不活化を促進することができる。不安定な凝集抗体またはその抗原結合フラグメントは免疫原性を誘導することができるが、これはなぜなら、患者の免疫系はそのような凝集体を外来性分子として認識できるからである。
【0049】
汎特異的な結合を維持する置換の例は、LCDR1上のR24である。R24はTGFβ結合部位から離れており、VLドメイン表面上に露出している。この位置は、ProおよびCysを除くほとんどの極性残基への置換を受け入れることができ、ProおよびCysは一般的に回避される。一方、HCDR2上のI52はTGFβ上の「疎水性パッチ」(L
28GWKW
32(配列番号8))とほぼ疎水的に相互作用し、そのためI52置換は中程度のサイズの疎水性残基に限定されており、Val置換の可能性があるが、より大きい疎水性残基への置換により結合複合体中に立体障害が生じる可能性がある。
【0050】
表5には、配列番号2のVLドメインのアミノ酸置換の非限定的な例(表5A)および配列番号1のVHドメインのアミノ酸置換の非限定的な例(表5B)が記載されている。場合によっては、パラトープ内のフレームワーク残基、例えばFW2領域中のVL残基Y50に対してアミノ酸置換を行うことができる。下記置換の内の1つまたはそれ以上を有する抗体または抗原結合フラグメントは、GC1008/GC1009と同様の汎特異性およびTGFβに対する改善された親和性を有すると予想され、即ち、野生型と比較して2.4倍以下の、3倍以下の、5倍以下のまたは10倍以下の結合親和性(k
dバリアント:k
d野生型)で全てのTGFβアイソフォームに結合すると予想される。
【0054】
3.非パラトープのアミノ酸残基の置換。
非パラトープのアミノ酸を組み換えにより置換して、生殖細胞系の可変ドメインと比較して同様のまたは変更された特性を有する可変軽ドメインまたは可変重ドメインを作ることができる。「改変された」可変ドメインはアミノ酸欠失も含み、更に置換も含む。例えば、改変された可変ドメインにおいて、N末端のまたはC末端のアミノ酸置換を欠失させることができる。
【0055】
非パラトープのアミノ酸置換を行って、例えば安定性を高めたり、および/または凝集する傾向を低下させたりすることができる。乏しい安定性により、抗原結合フラグメントの例えば組み換えにより発現させた場合に適切に折り重なる能力が影響を受けて、発現されたフラグメントの一部が機能しなくなる可能性がある。安定性が低い抗体またはその抗原結合フラグメントは、潜在的に免疫原性の凝集体を形成しやすい可能性もある、または親和性もしくは保存可能期間が低下している可能性もある。scFvポリペプチドは特に、細菌の発現系および哺乳類の発現系の両方において、安定性、溶解性、発現、凝集、分解産物および全体的な製造可能性に関する問題を示す可能性がある。例えばWO2007/109254号には、例えばscFvポリペプチドにおけるVHドメインおよび/もしくはVLドメインの安定性を高めるならびに/または該ドメインの凝集の傾向を低下させると予想されるフレームワークのアミノ酸置換が開示されている。本VHドメインおよびVLドメインにおける対応する残基の置換も同様に、安定性を高めるおよび/または凝集する傾向を低下させると予想される。
【0056】
許容され得る置換は、配列番号1または配列番号2の非パラトープのアミノ酸を、別のヒトVHドメインのまたはヒトVLドメインの生殖細胞系配列中に生じる、対応するアミノ酸に置き換えると予想される置換を含むと予想される。現在、約40種の可変カッパ生殖細胞系配列および約30種の可変ラムダ生殖細胞系配列と同様に、当業界では約40種の可変重生殖細胞系配列が知られている。非パラトープのアミノ酸の、これらの生殖細胞系配列の内のいずれかで生じるアミノ酸への置換は許容されると予想される。例えば、配列番号1のVHドメインの残基が、任意のVH生殖細胞系配列、例えばDP−10由来の生殖細胞系配列(V
H1−69)またはDP−88由来の生殖細胞系配列(V
H1−e)での対応する位置に現われるアミノ酸に置換される可能性がある。この場合における対応する位置は、当業界公知のアラインメント技法、例えばClustalWを使用する、様々な生殖細胞系配列間の配列アラインメントにより決定される。
【0057】
許容されると予想される更なる置換は、3種の共結晶構造の分析により決定した、側鎖のほとんどが溶媒に露出しているアミノ酸に対して行われる置換である。当業界公知の技法を使用して、残基の溶媒接触可能表面領域(solvent−accessible surface area)を推定することができる。更に、アミノ酸の側鎖が隣接する残基と立体障害を生じない場合には、可変ドメイン内に埋もれているアミノ酸に対する置換がより許容され得ることが予想される。このため、埋もれているアミノ酸は一般的に、類似のまたはより小さいサイズの側鎖を有するアミノ酸に置換される。例えば、埋もれたIle残基のLeu、Val、AlaまたはGlyへの置換が許容されると予想される。置換により生じ得る立体障害を、3種の共結晶構造の分析により予測することができる。許容されると予想される更なる置換は、可変ドメイン内の既存の静電的相互作用、例えば双極子間相互作用、誘起双極子相互作用、水素結合またはイオン結合を維持する置換である。
【0058】
可変ドメインの更なるアミノ酸置換として、抗体またはその抗原結合フラグメントに新規で有用な特性を付与すると予想される置換が挙げられる。例えば、VHドメインおよび/またはVLドメインにおける推定上のN−グリコシル化部位を除去して、N−糖形態の形成を防止するまたは減少させることができる。アミノ末端残基をGln残基に置換してピログルタミル化を引き起こすことができ、これにより電荷を有するバリアントの数を減少させることができる。アミノ酸置換を使用して等電点を下げることができ、これにより、例えばIgGポリペプチド抗体の排出速度を低下させることができる。
【0059】
可変ドメインの表面残基を例えばCys残基またはLys残基に置換し、次いで共有結合により改変し、抗体またはその抗原結合フラグメントに有用な特性を付与する分子、例えば検出可能な標識、毒素、標的部分またはタンパク質に連結させることができる。例えば、Cys残基を細胞毒性薬に連結させて薬物複合体を形成することができる。Cys残基を、血清半減期を増加させる分子、例えばポリエチレングリコール(PEG)または血清アルブミンに連結させることもできる。そのようなアミノ酸改変が、例えばBeckら(2010)Nature 10:345〜52頁で概説されている。
【0060】
検出可能な標識として
131Iまたは
99Tc等の放射性標識が挙げられ、この放射性標識を、当業界公知の方法を使用して抗体またはその抗原結合フラグメントに取り付けることができる。標識として、ホースラディッシュペルオキシダーゼ等の酵素標識も挙げられる。標識として、特定の同種の検出可能な部分、例えば標識アビジンへの結合により検出することができる、ビオチン等の化学部分が更に挙げられる。精製を容易にするその他の部分を取り付けることができる。例えば、組み換え改変および発現の公知の方法を使用して、抗体またはその抗原結合フラグメントにHisタグを付けることができる。
【0061】
4.可変ドメインに対する多重アミノ酸置換
抗体またはその抗原結合フラグメントに対して多重アミノ酸置換を行うことができる。一般に、少なくともいくつかの無作為に選択されたアミノ酸置換後に、抗体またはその抗原結合フラグメントは安定性および機能性を維持すると予想される。例えばWells、Biochemistry 29:8509〜17頁(1990)を参照されたい。しかしながら、更なる置換が可変ドメイン中に無作為に導入されることから、例えば、ドメイン全体の安定性が低下する可能性があり、該可変ドメインの凝集する傾向が高まる可能性があり、該可変ドメインのTGFβに対する親和性が増加する可能性があり、および該可変ドメインの考えられる免疫原性が高まる可能性がある。そのため、多重アミノ酸置換を行う場合の好ましい置換は上述した置換から選択され、この置換により、安定性および機能性が維持されると予想される。当業界公知の慣例的な方法を使用して、改変した可変ドメインの機能性を試験することができ、この方法として、Grutter(2008)に開示されているMLEC増殖アッセイが挙げられるがこれに限定されない。
【0062】
抗体および抗原結合フラグメントの製造に関する核酸および方法
本発明の更なる態様は、本明細書に開示している抗体またはその抗原結合フラグメントをコードする核酸を提供する。単離核酸は、例えば合成DNA、天然には存在しないmRNAまたはcDNAであってもよい。核酸を、プラスミド、ベクターまたは転写カセットもしくは発現カセットに挿入することができる。組み換え宿主細胞は、上記の1種またはそれ以上の構築物を含むことができる。「単離」核酸(または抗体もしくはこの抗原結合フラグメント)をその天然の環境から取り出し、更に実質的に純粋、例えば90%以上の純度にしてもよいし、または均一の形態にしてもよい。
【0063】
抗体またはその抗原結合フラグメントを調製する方法は、抗体またはその抗原結合フラグメントを産生するための条件下で、コードする核酸を宿主細胞中で発現させること、および抗体またはその抗原結合フラグメントを回収することを含む。抗体またはその抗原結合フラグメントを回収するプロセスは、抗体またはその抗原結合フラグメントの単離および/または精製を含むことができる。産生方法は、抗体またはその抗原結合フラグメントを、少なくとも1種の追加の成分、例えば薬学的に許容される賦形剤を含む組成物に調合することを含むことができる。
【0064】
抗体またはその抗原結合フラグメントをコードする核酸を含む好適なベクターを選択するまたは構築することができ、このベクターは、プロモーター配列、ターミネーター配列、ポリアデニル化配列、エンハンサー配列、マーカー遺伝子および必要に応じてその他の配列等の適切な調節配列を含有する。ベクターは、例えばプラスミド、ファージ、ファージミド、アデノウイルス、AAV、レンチウイルスであってもよい。例えば核酸構築物の調製、変異誘発、シークエンシング、DNAの細胞への導入および遺伝子発現において核酸を操作するための技法およびプロトコルは当業界公知である。
【0065】
そのような核酸の宿主細胞への導入は、当業界公知の技法を使用して達成することができる。真核細胞の場合、好適な技法として、例えばリン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE−デキストラン、電気穿孔、リポソーム媒介性トランスフェクション、およびレトロウイルスまたはその他のウイルスを使用する形質導入を挙げることができる。細菌性細胞の場合、好適な技法として、塩化カルシウム形質転換、電気穿孔、およびバクテリオファージを使用するトランスフェクションを挙げることができる。例えば遺伝子の発現用の条件下で宿主細胞を培養することにより、導入後に核酸からの発現を引き起こすまたは可能とすることができる。一実施形態では、本発明の核酸は、宿主細胞の遺伝子、例えば染色体に組み込まれている。標準的技法に従って、遺伝子の組み換えを促進する配列の挿入により組み込みを促進することができる。
【0066】
様々な異なる宿主細胞中でのポリペプチドのクローニングおよび発現のためのシステムは公知である。好適な宿主細胞として、細菌、哺乳類細胞、植物細胞、昆虫細胞、真菌、酵母、ならびに遺伝子導入植物および遺伝子導入動物が挙げられる。異種ポリペプチドの発現用に当業界において利用可能な哺乳類細胞株として、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓細胞、マウスメラノーマ細胞、ラットミエローマ細胞、ヒト胎児由来腎臓細胞、ヒト胎児由来網膜細胞およびその他多数が挙げられる。大腸菌(E.coli)等の原核細胞中での抗体および抗体フラグメントの発現は当業界で十分に確立されている。概説として、例えばPluckthun Bio/Technology 9:545〜551頁(1991)を参照されたい。例えばAndersenら(2002)Curr.Opin.Biotechnol.13:117〜23頁で概説されているように、当業者は、培養されている真核細胞中での発現も利用可能である。
【0067】
天然に、もしくは発現宿主、例えばCHO細胞またはNSO(ECACC 85110503)細胞の選択のどちらかで抗体もしくはこの抗原結合フラグメントをグリコシル化することができる、または例えば原核細胞中での発現により産生する場合には、抗体もしくはこの抗原結合フラグメントを非グリコシル化することができる。例えばフコシル化を阻害することにより、グリコシル化を意図的に変更して、結果として生じる抗体のADCC活性を高めることもできる。
【0068】
抗体またはその抗原結合フラグメントを使用する方法
患者に有効量を投与することを含む、ヒト患者の疾患または障害の処置(予防的処置を含むことができる)の方法等のヒトまたは動物の身体の処置または診断の方法で、本抗体またはその抗原結合フラグメントを使用することができる。処置可能な状態として、TGFβが役割を果たすあらゆるもの、例えば線維性疾患、癌、免疫介在性疾患および創傷治癒が挙げられる。
【0069】
本抗体またはその抗原結合フラグメントは、TGFβ活性に直接的または間接的に起因する疾患および状態の処置に有用である。本抗体またはその抗原結合フラグメントは、インビトロでまたはインビボでヒトTGFβアイソフォームの活性を選択的に阻害することができる。TGFβアイソフォームの活性として、TGFβ媒介性シグナル伝達、細胞外基質(ECM)沈着、上皮細胞増殖および内皮細胞増殖の阻害、平滑筋増殖の促進、III型コラーゲン発現の誘導、TGF−β、フィブロネクチン、VEGFおよびIL−11の発現の誘導、潜伏期間関連ペプチドの結合、腫瘍により誘発される免疫抑制、血管新生の促進、筋線維芽細胞の活性化、転移の促進、およびNK細胞活性の阻害が挙げられるがこれらに限定されない。例えば、本抗体またはその抗原結合フラグメントは、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、肝線維症(HF)、急性心筋梗塞(AMI)、特発性肺線維症(IPF)、強皮症(SSc)およびマルファン症候群の処置に有用である。
【0070】
抗体またはその抗原結合フラグメントは、線維性疾患(例えば糸球体腎炎、神経の瘢痕、皮膚の瘢痕、肺線維症、肺線維症(lung fibrosis)、放射線により誘発された線維症、肝線維症、骨髄線維症)、熱傷、免疫媒介性疾患、炎症性疾患(関節リウマチを含む)、移植片拒絶反応、癌、デュピュイトラン拘縮および胃潰瘍が挙げられるがこれらに限定されない疾患および状態の処置に有用である。本抗体またはその抗原結合フラグメントは、下記のものが挙げられるがこれらに限定されない腎不全:糖尿病性腎障害(I型およびII型)、放射線により誘発された腎障害、閉塞性腎症、びまん性全身性硬化症、肺線維症、同種移植片拒絶反応、遺伝性腎臓疾患(例えば腎嚢胞、海綿腎、馬蹄腎)、糸球体腎炎、腎硬化症、腎石灰化症、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、ベルガー病、全身性高血圧または糸球体性高血圧、尿細管間質性腎障害、尿細管性アシドーシス、腎結核および腎梗塞の処置、予防および発病のリスクの低減にも有用である。特に、本抗体またはその抗原結合フラグメントは、下記のもの:レニン阻害薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、AngII受容体アンタゴニスト(「AngII受容体遮断薬」としても知られている)およびアルドステロンアンタゴニストが挙げられるがこれらに限定されないレニン−アンジオテンシン−アルドステロン系のアンタゴニストと併用する場合に有用である。そのようなアンタゴニストとの併用で抗体またはその抗原結合フラグメントを使用する方法は、例えばWO2004/098637に記載されている。
【0071】
抗体またはその抗原結合フラグメントは、全身性硬化症、術後の癒着、ケロイドおよび肥厚性瘢痕化、増殖性硝子体網膜症、緑内障ドレナージ手術、角膜損傷、白内障、ペーロニー病、成人呼吸窮迫症候群、肝硬変、心筋梗塞後の瘢痕化、血管形成後の再狭窄、くも膜下出血後の瘢痕化、多発性硬化症、椎弓切除後の線維形成、腱およびその他の修復後の線維形成、入れ墨除去に起因する瘢痕化、胆汁性肝硬変(硬化性胆管炎を含む)、心膜炎、胸膜炎、気管切開、貫通性中枢神経系損傷、好酸性筋肉痛症候群、血管再狭窄、静脈閉塞性疾患、膵炎および乾癬性関節炎等のECMの沈着に関連する疾患および状態の治療にも有用である。
【0072】
抗体またはその抗原結合フラグメントは、静脈性潰瘍、虚血性潰瘍(褥瘡)、糖尿病性潰瘍、移植片部位、移植片ドナー部位、擦過傷および熱傷、気管支上皮の疾患、例えば喘息、ARDS、腸上皮の疾患、例えば細胞毒性処置に関連する粘膜炎、食道潰瘍(逆流症)、胃潰瘍、小腸のおよび大腸の障害(炎症性腸疾患)等の疾患および状態での再上皮化の促進に更に有用である。
【0073】
抗体またはその抗原結合フラグメントを、例えばアテローム性プラークの安定化、血管吻合部の治癒の促進での内皮細胞増殖の促進に、または例えば動脈疾患、再狭窄および喘息での平滑筋細胞増殖の抑制に使用することもできる。
【0074】
抗体またはその抗原結合フラグメントは、マクロファージ媒介感染症への免疫応答を高めるのに有用である。抗体またはその抗原結合フラグメントは、例えば腫瘍、AIDSまたは肉芽腫性疾患により引き起こされた免疫抑制を弱めるのにも有用である。抗体またはその抗原結合フラグメントは、これらに限定されないが、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、胃癌、腎臓癌、膵臓癌、大腸癌、皮膚癌、肺癌、子宮頸癌および膀胱癌、神経膠腫、中皮腫等の癌、加えて様々な白血病およびカポジ肉腫等の肉腫等の過剰増殖性疾患の処置に有用であり、更にこの抗体またはその抗原結合フラグメントは、そのような腫瘍の再発または転移の処置または予防に有用である。抗体またはその抗原結合フラグメントは、シクロスポリン媒介転移の抑制にも有用である。
【0075】
癌治療との関連において、「処置」は、腫瘍増殖の遅延または腫瘍転移の低減をもたらし、患者の平均余命を延すために癌の部分寛解ももたらすあらゆる医学的介入を含む。
【0076】
処置の方法は、抗体もしくはこの抗原結合フラグメントまたは抗体もしくはこの抗原結合フラグメントを含む医薬組成物を投与することを含む。投与する薬剤の製造で、抗体またはその抗原結合フラグメントを使用することができる。例えば、薬剤または医薬組成物を製造する方法は、抗体またはその抗原結合フラグメントと薬学的に許容される賦形剤とを調合することを含む。組成物を、単独で、または処置しようとする状態に応じて同時にもしくは逐次的にその他の処置と組み合わせて投与することができる。
【0077】
好ましくは、患者に対して利益を示すのに十分である「治療有効量」が投与される。そのような利益は少なくとも、具体的な疾患または状態の少なくとも1種の症状の改善であってもよい。投与される実際の量、ならびに投与の速度および経時変化は、処置する疾患または状態の性質および重症度に依存すると予想される。処置の処方、例えば投薬量の決定等を、前臨床研究および臨床研究に基づいて決定することができ、この前臨床研究および臨床研究の設計は十分に当業界の技術レベル内である。
【0078】
正確な用量は、抗体またはその抗原結合フラグメントが診断用または処置用であるかどうか、処置しようとする領域のサイズおよび位置、抗体またはその抗原結合フラグメントの正確な性質、例えば全抗体、FabまたはscFvフラグメント、ならびに抗体またはその抗原結合フラグメントに取り付けられた任意の検出可能な標識またはその他の分子の性質等の多くの因子に依存すると予想される。例えば全抗体の典型的な用量は、全身投与の場合には100μg〜1gの範囲であってもよく、局所投与の場合には1μg〜1mgの範囲であってもよい。成人患者の1回の処置用の用量を、小児用におよび乳児用に比例的に調整することができ、分子量および活性に比例してその他の抗体形態用にも調整することができる。医師の裁量で、処置を毎日、1週間に2回、毎週、毎月またはその他の間隔で繰り返すことができる。処置は周期的であってもよく、投与間の期間は約2週間もしくはそれ以上であり、好ましくは約3週間もしくはそれ以上であり、より好ましくは約4週間もしくはそれ以上であり、または1カ月に約1回である。
【0079】
患者の体重kg当たり約0.1mg、約0.3mg、約1mg、約3mg、約10mgまたは約15mgの用量レベルが有益で安全であると思われる。例えば、ラットおよびマウスでの0.5〜5mg/kgは、深刻な設定での有効用量である。従って、長期の投薬の場合、21日という予測される半減期に基づいて0.3〜10mg/kgをヒトに投与することができる。用量は、効力に関しては十分であるが、同時に最適な投与を容易にする程度に十分低くてもよい。例えば、50mg未満の用量により皮下投与が容易になる。高用量および長期の投薬間隔を必要とする場合がある重症疾患用の送達の経路として、静脈内投与を使用することができる。皮下注射により、製品に対する潜在的な免疫反応を高めることができる。局所性疾患用の局所投与により、投与する製品の量を低減することおよび作用部位での濃度を高めることができ、これにより安全性を改善することができる。
【0080】
注射により、例えば、皮下注射により、静脈内注射により、(例えば腫瘍切除後の)体腔内注射により、病巣内注射により、腹腔内注射によりまたは筋肉内注射により、抗体またはその抗原結合フラグメントを投与することができる。吸入により、または局所的に(例えば眼球内に、鼻腔内に、直腸に、創傷中に、皮膚上に)または経口で、抗体またはその抗原結合フラグメントを送達することもできる。
【0081】
抗体またはその抗原結合フラグメントを通常は医薬組成物の形で投与することができ、この医薬組成物は、抗体またはその抗原結合フラグメントに加えて少なくとも1種の成分を含むことができる。そのため、医薬組成物は、薬学的に許容される賦形剤、基剤、緩衝剤、安定剤または当業者に公知のその他の物質を含むことができる。そのような物質は非毒性でなくてはならず、活性成分の効力を妨げてはならない。そのような物質として、例えばありとあらゆる溶媒、分散媒体、被覆剤、抗細菌剤および抗真菌剤、等張剤ならびに吸収遅延剤を挙げることができる。薬学的に許容される基剤のいくつかの例は、水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、デキストロース、グリセリン、エタノール等およびそれらの組み合わせである。多くの場合では、組成物に等張剤、例えば糖類、多価アルコール、例えばマンニトール、ソルビトールまたは塩化ナトリウムが含まれることが好ましいと予想される。薬学的に許容される物質の追加の例は、湿潤剤または補助物質、例えば乳化剤、防腐剤もしくは緩衝剤であり、これらにより貯蔵寿命または効力が高められる。
【0082】
基剤またはその他の物質の厳密な性質は投与の経路に依存すると予想される。静脈注射または罹患部位での注射の場合、活性成分は、発熱物質を含まず適切なpK、等張性および安定性を有する非経口的に許容される水溶液の形態であってもよい。当業者は、例えば等張ビヒクル、例えば塩化ナトリウム注射液、リンガー注射液および乳酸加リンガー注射液を使用して好適な溶液を十分に調製することができる。防腐剤、安定剤、緩衝剤、抗酸化剤および/またはその他の添加剤を含ませることができる。
【0083】
抗体またはその抗原結合フラグメントを、溶液(例えば注射可能な溶液および注入可能な溶液)、分散液または懸濁液、粉末、リポソームおよび坐薬等の、液状に、半固体状にまたは固体状に製剤化することができる。好ましい形態は、意図されている投与様式、治療用途、分子の物理化学的特性および送達の経路に依存する。製剤は、賦形剤または賦形剤の組み合わせ、例えば糖類、アミノ酸および界面活性剤を含むことができる。液剤は、広範囲の抗体濃度およびpHを含むことができる。固形剤を、例えば凍結乾燥、噴霧乾燥または超臨界流体技法による乾燥によって製造することができる。
【0084】
治療用組成物を、溶液、マイクロエマルション、分散液、リポソームまたは高薬剤濃度に適したその他の秩序構造として製剤化することができる。抗体またはその抗原結合フラグメントを、上記に列挙した成分の内の1種または組み合わせと共に適切な溶媒中に取り込み、続いてろ過滅菌することにより、無菌の注射可能な溶液を調製することができる。一般に、分散液は、活性化合物を、基本の分散媒と上記に列挙したものからのその他の成分とを含有する無菌ビヒクルに取り込むことにより調製される。無菌注射液の調製用の無菌粉末の場合、調製の好ましい方法は、活性成分および任意の所望の追加成分の粉末を、それらの予め滅菌ろ過された溶液から得る真空乾燥および凍結乾燥である。例えばレシチン等の被覆剤を使用することにより、分散液の粒径を維持することによりまたは界面活性剤を使用することにより、溶液の適切な流動性を維持することができる。組成物中に吸収を遅延させる薬剤、例えばモノステアレートおよびゼラチンを含ませることにより、注射可能な組成物の持続的吸収をもたらすことができる。
【0085】
ある実施形態では、活性化合物を、急速な放出から抗体またはその抗原結合フラグメントを保護することができる基剤、例えばインプラント、経皮パッチおよびマイクロカプセル化送達システム等の放出制御製剤と共に調製することができる。生物分解性ポリマー、生体適合性ポリマー、例えばエチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ乳酸を使用することができる。そのような製剤を調製する多くの方法が特許化されている、または当業者に一般に知られている。
【0086】
抗体またはその抗原結合フラグメントを使用する方法は、TGFβへの結合を引き起こすまたは可能にすることを含むことができる。そのような結合はインビボで起こることができ、例えば抗体もしくはこの抗原結合フラグメントの患者への投与後に起こることができる、またはそのような結合はインビトロで起こることができ、例えばELISAで、ウェスタンブロッティングで、免疫細胞化学で、免疫沈降で、親和性クロマトグラフィーでもしくは細胞に基づくアッセイで起こることができる、またはエキソビボをベースとする治療法で起こることができ、例えば細胞もしくは体液をエキソビボで抗体もしくはこの抗原結合フラグメントと接触させ、次いで患者に投与する方法で起こることができる。
【0087】
抗体またはその抗原結合フラグメントを含むキットが提供される。抗体またはその抗原結合フラグメントを標識化して、該抗体またはその抗原結合フラグメントのサンプル中での反応性の測定を可能とすることができる。キットを例えば診断解析で用いることができる。キットは、組成物の使用に関する説明書を含有することができる。そのような方法の実施を補助するためのまたは該方法の実施を可能とするための補助材をキットに含めることができる。
【0088】
サンプル中での抗体またはその抗原結合フラグメントの反応性を、任意の適切な手段、例えばラジオイムノアッセイ(RIA)により測定することができる。放射性活性物質で標識した抗原を未標識の抗原(検査サンプル)と混合し、抗体またはその抗原結合フラグメントとの結合を可能にすることができる。結合した抗原を未結合の抗原から物理的に分離し、抗体またはその抗原結合フラグメントに結合した放射性抗原の量を測定する。レポーター分子に連結された抗原または類似体を使用して、非放射性抗原の競合結合アッセイを使用することもできる。レポーター分子は、蛍光色素、リン光体または色素であってもよい。好適な蛍光色素として、フルオレセイン、ローダミン、フィコエリトリンおよびテキサスレッドが挙げられる。好適な発色性色素としてジアミノベンジジンが挙げられる。
【0089】
その他のレポーターとして、高分子のコロイド粒子または粒子状物質、例えば有色性である、磁性であるまたは常磁性であるラテックスビーズ、および視覚的に観察される、電子的に検出されるまたは別の方法で記録される検出可能なシグナルを直接的または間接的に生じさせることができる生物学的にまたは化学的に活性な作用剤を挙げることができる。これらの分子は、例えば発色させるもしくは変色させるまたは電気的特性の変化を生じさせる反応を触媒する酵素であってもよい。これらの分子は分子的に励起可能であってもよく、その結果、エネルギー状態間の電子遷移により特徴的なスペクトル吸収または発光が生じる。これらの分子は、バイオセンサーと共に使用される化学実体を含むことができる。ビオチン/アビジンまたはビオチン/ストレプトアビジンおよびアルカリホスファターゼ検出システムを用いることができる。抗体−レポーター複合体により生成されたシグナルを使用して、サンプル中の関連する抗体結合の定量可能な絶対的データまたは相対的データを導くことができる。
【0090】
本発明は、競合アッセイでの抗原レベルを測定するための抗体またはその抗原結合フラグメントの使用も提供する。結合時に物理的なまたは光学的な変化が生じるようなレポーター分子の抗体またはその抗原結合フラグメントへの連結は1つの可能性である。レポーター分子は、検出可能なシグナル、好ましくは測定可能なシグナルを直接的または間接的に生成することができる。レポーター分子の連結は、例えばペプチド結合により直接的なもしくは間接的な共有結合的であってもよく、または非共有結合的であってもよい。抗体またはその抗原結合フラグメントとタンパク質レポーターとをペプチド結合により連結させ、融合タンパク質として組み換えにより発現させることができる。
【0091】
下記の実験的例証を含む本発明の開示を考慮して、本発明の更なる態様および実施形態が当業者に明らかになると予想される。
【0092】
〔実施例1〕
米国特許第7,723,486号の実施例1に開示されている下記の非限定的な実施例に従って、抗TGFβ単鎖Fv(scFv)を調製することができた。変異誘発技法および/またはコンビナトリアル技法を使用して、TGFβ1、TGFβ2および/またはTGFβ3に対する中和力価を高めることができた。米国特許第7,723,486号の実施例1に記載されているファージ抗体ライブラリの選択およびスクリーニングにより、TGFβ1、TGFβ2および/またはTGFβ3に対する力価が改善されたscFvを生成することができた。この実施例で生成されたscFvをMLEC増殖アッセイにおいて1D11.16と比較しており、この1D11.16は米国特許第7,723,486号に開示されている。
【0093】
米国特許第7,723,486号の実施例1では、高力価のTGFβ中和scFvの集団の中で、特定の生殖細胞系が高度に出現することが分かった。重鎖の場合にはDP−10/1−69およびDP−88/1−e(両方ともVH1生殖細胞系ファミリのメンバー)であり、軽鎖の場合にはDPK22/A27(V
κ3ファミリ)であった。これらの生殖細胞系は、高力価のTGFβ汎中和抗体に特に適した構造的フレームワークを形成すると思われる。PET1073G12、PET1074B9およびPET1287A10のscFvは、MLEC増殖アッセイにおいて、3種全てのTGFβアイソフォームに対して1D11.16の力価に近いまたはこの力価を超える力価を示した。
【0094】
PET1073G12、PET1074B9およびPET1287A10のVH遺伝子セグメントおよびVL遺伝子セグメントの誘導されたアミノ酸配列を、VBASEデータベース(Tomlinson、V−BASE配列ディレクトリ、MRC Centre for Protein Engineering、Cambridge、UK、hypertext transfer protocol vbase.mrc−cpe.cam.ac.uk(1997))中の公知のヒト生殖細胞系配列に対して並べ、最も近いヒト生殖細胞系を配列類似性によって同定した。PET1073G12およびPET1074B9のVH遺伝子セグメントに最も近いヒト生殖細胞系遺伝子をDP−10/1−69(VH1生殖細胞系ファミリ)として同定し、PET1287A10のVH遺伝子セグメントに最も近いヒト生殖細胞系遺伝子をDP−88/1−e(VH1生殖細胞系ファミリ)として同定した。PET1073G12、PET1074B9およびPET1287A10のVL遺伝子セグメントに最も近いヒト生殖細胞系遺伝子をDPK22/A27(V
κ3生殖細胞系ファミリ)として同定した。部位特異的な変異誘発を使用して、生殖細胞系とは異なるフレームワーク残基を生殖細胞系残基に置換したが、そのような変化により、MLEC増殖アッセイにおいて、結果として生じる抗体の任意のTGFβアイソフォームに対する力価の低下が3倍を超えないことを条件とした。そのような力価の低下を観測した場合には、非生殖細胞系のフレームワークのアミノ酸を最終抗体中で維持した。
【0095】
生殖細胞系化したPET1073G12および生殖細胞系化したPET1074B9では、全てのフレームワーク残基がVH中の2個の残基およびVL中の1個の残基を除いて生殖細胞系であった。生殖細胞系化したPET1073G12のアミノ酸配列は、VHに関しては米国特許第7,723,486号の配列番号2に記載されており、VLに関しては米国特許第7,723,486号の配列番号7に記載されている。生殖細胞系化したPET1074B9のアミノ酸配列は、VHに関しては米国特許第7,723,486号の配列番号12に記載されており、VLに関しては米国特許第7,723,486号の配列番号17に記載されている。生殖細胞系化したPET1287A10では、全てのVHフレーム残基およびVLフレーム残基が生殖細胞系であった。生殖細胞系化したPET1287A10のアミノ酸配列は、VHに関しては米国特許第7,723,486号明の配列番号22に記載されており、VLに関しては米国特許第7,723,486号の配列番号27に記載されている。
【0096】
〔実施例2A〕
米国特許第7,723,486号の実施例4に開示されているTGFβ依存性MLEC増殖アッセイを使用して、抗TGFβ抗体またはその抗原結合フラグメントの中和力価をアッセイすることができた。MLEC増殖アッセイは、Danielpourら、J.Cell.Physiol.、138:79〜86頁(1989)により説明されているアッセイに基づいていた。このアッセイは、ミンク肺上皮細胞に添加したTGFβ1、TGFβ2またはTGFβ3が血清誘導性細胞増殖を阻害するという原理で機能する。細胞増殖の修復を引き起こすTGFβ1、TGFβ2またはTGFβ3の中和に関して抗体を試験した。[
3H]−チミジンの取り込みにより増殖を測定した。抗体の力価を、単一の濃度のTGFβ1、TGFβ2またはTGFβ3を50%のレベルで中和する抗体の濃度(IC
50、nM)と定義した。
【0097】
MLEC増殖アッセイのプロトコル:American Type Culture CollectionからMLEC系統(カタログ番号CCL−64)を得た。10%ウシ胎児血清(FBS)(Gibco)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco)および1%MEM非必須アミノ酸溶液(Gibco)を含有する最小必須培地(MEM、Gibco)中で細胞を増殖させた。T−175フラスコからのコンフルエント細胞をこのフラスコから分離し、遠心沈殿させ、洗浄し、1%FBS、1%ペニシリン/ストレプトマイシンおよび1%MEM非必須アミノ酸溶液を含有するMEMから作製したMLECアッセイ用培地中に再懸濁させた。次いで、細胞のアリコートをトリパンブルーで標識して血球計数器で計数し、細胞ストックを、アッセイ用培地を使用してml当たり1.75×10
5個の細胞に希釈した。この懸濁液100μLを組織培養用の平底96ウェルプレートの各ウェルに添加し、3〜5時間にわたりインキュベートした。
【0098】
TGFβ/抗体溶液の調製:6ng/ml(最終アッセイ濃度の6倍)のTGFβ1、TGFβ2またはTGFβ3の希釈標準溶液、および最終の最大アッセイ濃度の3倍の抗体(1D11.16等の対照を含む)の希釈標準溶液をMLECアッセイ用培地中で調製した。このアッセイにおけるTGFβの最終濃度(1ng/mlまたは40pM)は、TGFβを含まない対照と比較して細胞増殖の約80%の阻害を誘導する濃度(即ちEC
80値)に相当した。
【0099】
希釈プレートの準備:試験抗体および対照抗体の試料を、MLECアッセイ用培地中で3倍の希釈工程で滴定し、TGFβ1、TGFβ2またはTGFβ3の存在下でまたは不存在下でインキュベートした。1D11.16および/または必要に応じて参照抗体を試験し、TGFβ1、TGFβ2もしくはTGFβ3の滴定を実施する全ての実験に、関連する全ての対照を含めた。完了したプレートを、1時間±15分にわたり、加湿した組織培養用インキュベーター中に置いた。
【0100】
平板培養細胞へのTGFβ/抗体溶液の添加:適切なインキュベーション時間の後、希釈プレートの各ウェルから100μLを平板培養MLECに移し、プレートを44±2時間にわたりインキュベーターに戻した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の希釈した10μCi/mlの[
3H]−チミジン25μLを各ウェルに添加した(0.25μCi/ウェル)。次いで、プレートを4時間±30分にわたりインキュベーターに戻した。
【0101】
細胞の回収:各ウェルにトリプシン−EDTA(0.25%、Gibco)100μLを添加し、プレートをインキュベーター中で10分にわたりインキュベートし、TomtecまたはPackard96ウェル細胞回収装置を使用して細胞を回収した。
【0102】
データの蓄積および解析:ベータ−プレートリーダー(TopCount、Packard)を使用して、回収した細胞からのデータを読み取った。データを解析してIC
50値および標準偏差値を得た。IC
50値を、Prism2.0(GraphPad)ソフトウェアを使用することにより得た。
【0103】
結果:精製した、PET1073G12の、PET1074B9およびPET1287A10の生殖細胞系化したIgG4を、MLEC増殖アッセイにおいて1D11.16と一緒に試験した。IgG4を、米国特許第7,723,486号の実施例3に記載されているように作製した。PET1073G12およびPET1287A10のIgG4に関する平均IC
50データは、これらの抗体がTGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3に対して1D11.16の力価に類似するまたは近い力価を有することを示した。
【0104】
平均IC
50データは、MLECアッセイにおいて完全な用量反応曲線が得られなかったが、PET1074B9のIgG4がTGFβ1に対してより強力であることを示した。比較として、1D11.16は、91pMの濃度でTGFβ1に対して12%の中和を示し、PET1074B9は、92pMという類似の濃度で78%の中和を示した。
【0105】
〔実施例2B〕
加えて、Biacore(登録商標)3000(GE Healthcare)機器を使用して、GC1008抗体のTGFβアイソフォーム結合親和性を測定した。内製したTGFβ1およびTGFβ2を10mMの酢酸塩(pH4.5)で〜1μg/mLに希釈し、TGFβ3(R&D Systems)を10mMの酢酸塩(pH4.0)で〜2μg/mLに希釈した。GE Healthcareの標準アミンカップリングキットを使用して、CM5センサーチップのフローセル2、3および4に50〜100RUのTGFβ1、TGFβ2およびTGFβ3それぞれを共有結合で固定した。フローセル1を対照表面として使用した。動力学的結合(kinetic binding)を分析するために、GC1008をHBS−EP緩衝液で33.3nM〜1.2nMの1:3に順次希釈し、4個全てのフローセルに5分にわたり3連で注入し、続いて30μL/分の流量の緩衝液で5分解離させた。75μL/分での40mMのHClの2回にわたる30秒の注入により、表面を再生した。BIA Evaluation Software Kit(GE Healthcare)による緩衝液および対照のフローセル屈折率変化の減算後の1:1結合モデルを使用して、各センサーグラムを合わせた。表6に示すK
Dは、25を超える独立したアッセイの平均である。
【0107】
〔実施例3〕
米国特許第7,723,486号の実施例7に記載のラット一側尿管閉塞(UUO)モデルを使用して、慢性腎疾患およびその他の臨床的適応症を処置するための抗体またはその抗原結合フラグメントの生物学的効力を測定することができた。体重250〜280g(約6週齢)の成体のスプラーグドーリーラット(Taconic Farms、Germantown、N.Y.)を、空気、温度および光を制御した環境中で飼育した。UUOを実施するラットの腹側正中線に小さい正中切開を施して、左側の腎臓および尿管上部を露出させた。絹の縫合糸を用いて腎臓の下極のレベルで尿管を結紮し、最初の結紮の約0.2cm下で2回目の結紮を行った。偽手術ラットに同じ外科的プロトコルを施したが、尿管を結紮しなかった。
【0108】
米国特許第7,723,486号に開示されているように、閉塞したラットを、PBS、汎的に中和するマウスモノクローナル抗体(1D11)、アイソタイプを一致させた対照抗体(13C4)、またはヒトのTGF−βを汎的に中和するモノクローナル抗体で処置した。尿管結紮の日から開始して3週間にわたり、ラットに抗体を腹腔内投与した。13C4および1D11を5mg/kg(3回/週)で投与し、汎的に中和するヒト抗体を5mg/kg(5日毎)でラットに与えた。3週の最後に、ラットを屠殺し、3分にわたりPBSを腎臓に灌流させ、mRNAの解析、コラーゲン含有量の測定および組織学的検査のために、灌流させた腎臓を採取した。
【0109】
組織の線維化の程度を評価するために、Kivirikkoらに従って、加水分解抽出物中のヒドロキシプロリンの生化学解析により組織コラーゲン含有量の総量を測定した。コラーゲン含有量の総量に関してSircolコラーゲンアッセイも実施した。Sircolコラーゲンアッセイでは、組織コラーゲンの側鎖へのSiriusレッド色素の特異的結合に基づいて、酸/ペプシン可溶性コラーゲンの総量を測定した。
【0110】
ヒトの汎的に中和するモノクローナル抗体で処置したUUOラットは、PBS処置群(3.5±0.3μg/mg乾燥組織、p<0.05)と比較した場合にヒドロキシプロリン含有量の43.4%の減少(1.98±0.26μg/mg乾燥組織)を示した。腎臓の線維化の減少は、Siriusレッド色素に基づくアッセイにより測定した(偽:18.5±2.6、PBS:69.3±3.8、および汎的に中和するヒトモノクロール抗体:35.6±5.2μg/100mg組織、p<0.05対PBS)ように、罹患した腎臓中における可溶化コラーゲンの総量の減少により更に裏付けられた。
【0111】
ヒトの汎的に中和する抗TGF−βモノクローナル抗体の、免疫組織化学的検査による組織線維化を低減する能力も評価した。対照動物では、3週にわたる尿管閉塞により、著しい膨張、細胞の萎縮および壊死/アポトーシス、組織の炎症、ならびに明らかな線維化を伴う尿細管間質拡張を伴う、尿細管構造の広範囲に及ぶ破壊が引き起こされた。糸球体損傷の証拠はほとんどなかった。これに対して、1D11またはヒトの汎的に中和するモノクローナル抗体で処置したラットでは、尿細管の拡大および破壊の減衰、炎症性浸潤物(細胞性)の減少ならびに尿細管間質の拡張および線維化の減少によって判断すると、腎臓の構造の維持が示された。
【0112】
ヒトの汎的に中和する抗TGFβモノクローナル抗体による処置の、TGF−βによって調節される遺伝子発現への効果も測定した。TGFβ1のmRNAは、PBSで処置した動物または13C4対照抗体で処置した動物と比較して、ヒトの汎的に中和するモノクローナル抗体で処置したUUO動物で減少した。PBSまたは13C4で処置した閉塞腎臓と比較して、ヒトおよびマウスの抗TGF−β抗体で処置した閉塞腎臓においてIII型コラーゲンのmRNAレベルの著しい減少も見られ、このことは、コラーゲン合成の減少を示した。
【0113】
腎臓のTGF−β1タンパク質の総量を測定することにより、ヒトの汎的に中和する抗TGF−βモノクローナル抗体の、自己誘導によるTGF−βの合成を減少させる効力を更に確認した。偽手術動物と比較して、閉塞腎臓は組織TGFβ1の総量の著しい増加を示した。しかしながら、ヒトの汎的に中和するモノクローナル抗体を投薬した閉塞ラットでは、両方の対照群で記録されたレベルよりも低い、組織TGF−β1レベルの75%の低下が示された。比較すると、マウスの1D11抗体は、対照群と比較して組織TGF−β1レベルを45%減少させた。上述の結果から、ヒトの汎的に中和する抗TGF−βモノクローナル抗体によるTGF−βの中和が、TGF−β1の産生およびコラーゲンIIIのmRNA発現の阻止と同時にTGF−βの自己分泌調節ループを妨害することを実証した。
【0114】
TGF−β抑制の間接的な指標として、ヒトの汎的に中和する抗TGF−βモノクローナル抗体の平滑筋アクチン(α−SMA)の発現への効果を更に判定した。平滑筋アクチンの発現は、組織線維化に関連しているおよび線維性の結合組織をもたらす、活性化された筋線維芽細胞の指標である。TGF−βは、間質線維芽細胞および常在の上皮細胞の活性化および筋線維芽細胞への形質転換の誘導物質である。標準的なウェスタンブロット分析によりα−SMAタンパク質を検出した。
【0115】
偽手術動物と比較した場合、腎臓が閉塞されたラットでは、組織ホモジネートのウェスタンブロットにより測定した場合にα−SMAタンパク質の劇的な上方制御が示された。ヒトの汎的に中和する抗TGF−βモノクローナル抗体を投薬した閉塞ラットでは、測定可能なα−SMA発現の著しい減少(PBS対照と比較して75%)が示された。
【0116】
これらの結果から、線維性腎臓でのコラーゲン沈着の減少におけるヒトの汎的に中和する抗TGF−βモノクローナル抗体の効力が実証され、この抗体が、重度の腎損傷および尿細管間質性線維症のこのモデルにおける腎臓コラーゲンの産生および沈着の強力な阻害物質であることが明確に示された。肺、肝臓または腎臓等の臓器における組織線維化のプロセスには共通の機序および経路があることから、当業者は、この抗体が、慢性の腎疾患の処置で有用であり、更に病原性の線維化を特徴とするその他の臨床的適応症の処置においても有用であることを認識すると予想される。
【0117】
〔実施例4〕
GC1008(Fab)−TGFβ2複合体の構造を下記のようにして決定した。C末端がHis6タグである(配列番号11)組み換えGC1008(Fab)をHEK293FS細胞中で過度的に発現させ、Nickel−NTA親和性樹脂で精製し、続いてサイズ排除クロマトグラフィーで精製した。精製したGC1008(Fab)をTGFβ2ホモ二量体と混合し、この複合体を、サイズ排除クロマトグラフを使用して単離した。GC1008(Fab)−TGFβ2複合体を35% PEG400、100mM 2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸(pH6.0)中において20℃で結晶化させ、播種およびpH最適化により更に最適化した。空間群P2
12
12において2.83Åに最終データセットを収集し、Grutter(2008)に開示されているGC1008(Fab)−TGFβ3構造に置き換えた分子を使用して構造を解いた。GC1008(Fab)−TGFβ2複合体の構造を
図1に示す。
【0118】
〔実施例5〕
GC1009(scFv)−TGFβ1複合体の構造を下記のようにして決定した。C末端がHis6タグである(配列番号11)組み換えGC1009(scFv)を大腸菌(E.coli)中で過剰発現させ、Nickel−NTA親和性樹脂で精製し、続いてサイズ排除クロマトグラフィーで精製した。精製したGC1009(scFv)をTGFβ1ホモ二量体と混合し、この複合体を、サイズ排除クロマトグラフを使用して単離した。GC1009(scFv)−TGFβ1複合体を16% PEG4K、0.1M クエン酸塩(pH5.0)、4% 2−プロパノール中において21℃で結晶化させた。空間群C2において3.00Åに構造を決定し、この構造を、実施例4で決定したGC1008(Fab)−TGFβ2構造に置き換えた分子を使用して解いた。GC1009(scFv)−TGFβ1複合体の構造を
図2に示す。
【0119】
〔実施例6〕
GC1008の重鎖または軽鎖のどちらかをコードするプラスミドを、PCRベース変異誘発反応でのテンプレートとして使用した。コードするDNAの変異を行って、コードされた重鎖アミノ酸配列の155個の単一アミノ酸置換およびコードされた軽鎖アミノ酸配列の1個の単一アミノ酸置換を引き起こした。QuikChange(登録商標)Lightning Site−Directed Mutagenesisキット(Agilent Technologies、Santa Clara CA)を製造業者の説明書に従って使用して、縮重コドン(NNK)により特定のアミノ酸または20種全てのアミノ酸のどちらかに対して設計した1組のフォワードプリマ−およびリバースプライマーを使用してDNA変異を引き起こした。配列決定による確認後、Expi293F(商標)宿主細胞懸濁液(Life Techonologies Corp.、Grand Island、NY)中にトランスフェクトするために、同定した変異体DNAを野生型の軽鎖DANまたは重鎖DNAと対にした。トランスフェクション後4日目に馴化培地(1mL)を回収し、1mLのプロテインA PhyTip(登録商標)カラム(PhyNexus,Inc.、San Jose、CA)およびPureSpeed(商標)12チャンネルピペット(Rainin Instrument LLC、Oakland、CA)を使用して精製した。精製したバリアント抗体サンプルを、100RUレベルのTGFβ1を固定した表面、TGFβ2を固定した表面およびTGFβ3を固定した表面を使用して50nMの濃度でBiacore(登録商標)3000(GE Healthcare)上において2連で分析した。バリアントの解離速度(k
d)を野生型対照のk
dで割ることにより、k
dの倍率変化を得た。(k
dバリアント/k
d野生型)が1未満である場合には親和性の増加が示され、この値が1を超える場合には減少が示された。ヒートマップを作成して結果を視覚化した。TGFβに対する親和性を完全に失っているバリアントを、番号なしの黒色で示した。結果を表7A、表7Bおよび表7Cに示す。
【0123】
表7のヒートマップ分析を
図5で可視化しており、
図5はTGFβに結合したGC1008の3D構造を示す。灰色の鎖はGC1008を表し、黒色の鎖はTGFβ2を表す。表7Aの下部で示した、ヒートマップ分析で使用したカラースキームに従って、残基I52、I54およびV55を黒色の文字で標識し、残基Y27、S31、N32およびD56を灰色で標識し、残基S30およびE74を白色で標識した。より小さいフォントで標識した更に6個の残基P53、N59、G101、V103、L104およびA93(軽鎖)は、ヒートマップ分析に従って同じ色である。変異誘発分析に基づいて、敏感な位置のほとんど(黒色の文字のI52、I54、V55)は、完全に保存されたTGFβの疎水性パッチ領域のコアと相互作用するパラトープ残基であるが、耐性のある位置のほとんど(白色の文字のS30、E74)は更に離れており、TGFβのヘリックス3領域と相互作用する。