特許第6495940号(P6495940)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6495940L−リシン生産能を有する微生物及びそれを用いたL−リシンの生産方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6495940
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】L−リシン生産能を有する微生物及びそれを用いたL−リシンの生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20190325BHJP
   C12P 13/08 20060101ALI20190325BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20190325BHJP
   C12N 15/54 20060101ALN20190325BHJP
   C12N 15/52 20060101ALN20190325BHJP
   C12R 1/15 20060101ALN20190325BHJP
【FI】
   C12N1/21ZNA
   C12P13/08 A
   !C12N15/31
   !C12N15/54
   !C12N15/52
   C12R1:15
【請求項の数】7
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-561009(P2016-561009)
(86)(22)【出願日】2015年4月7日
(65)【公表番号】特表2017-510280(P2017-510280A)
(43)【公表日】2017年4月13日
(86)【国際出願番号】KR2015003478
(87)【国際公開番号】WO2015156583
(87)【国際公開日】20151015
【審査請求日】2016年10月5日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0042397
(32)【優先日】2014年4月9日
(33)【優先権主張国】KR
【微生物の受託番号】KCCM  KCCM11480P
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514158497
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126354
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】バエ,ヒュン ウォン
(72)【発明者】
【氏名】ムーン,ジュン オク
(72)【発明者】
【氏名】ソン,スン キ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒョン ジョン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒョ ジン
(72)【発明者】
【氏名】リム,ソン ジョ
【審査官】 小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−222163(JP,A)
【文献】 特開2009−060791(JP,A)
【文献】 Microbiology,1999年,Vol. 145,p. 503-513
【文献】 J. Biotechnol.,2003年,Vol. 104,p. 99-122
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00 − 1/38
C12P 13/00 − 13/24
C12N 15/00 − 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
改変されていない微生物と比較してより強化されたL−リシン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物であって、
その内在的活性に比較して酢酸キナーゼ(Acetate kinase)タンパク質活性がより強化されており、
前記酢酸キナーゼタンパク質活性が、前記タンパク質をコードするポリヌクレオチドのコピー数を増加させる方法、前記タンパク質をコードする遺伝子の調節配列における変異を導入する方法、前記タンパク質をコードする染色体上の遺伝子の調節配列を活性が強力な配列に置換する方法、前記タンパク質をコードする遺伝子を変異した遺伝子で置換して前記タンパク質の活性を増加させる方法、及び前記タンパク質活性が強化されるように前記タンパク質をコードする染色体上の遺伝子に変異を導入する方法からなる群から選択される少なくとも1つの方法によって強化される、微生物
【請求項2】
前記微生物は、さらに、
(i)ホスホトランスアセチラーゼ(Phosphotransacetylase)タンパク質活性が内在的活性より強化されているか、
(ii)アセチル−CoAシンテターゼ(Acetyl-CoA synthetase)タンパク質活性が導入もしくは強化されているか、又は
(iii)ホスホトランスアセチラーゼタンパク質活性が内在的活性より強化され、かつアセチル−CoAシンテターゼタンパク質活性が導入もしくは強化されている、請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
前記酢酸キナーゼは、配列番号12のアミノ酸配列を有する、請求項1に記載の微生物。
【請求項4】
前記ホスホトランスアセチラーゼは、配列番号13のアミノ酸配列を有する、請求項2に記載の微生物。
【請求項5】
前記アセチル−CoAシンテターゼは、配列番号14のアミノ酸配列を有する、請求項2に記載の微生物。
【請求項6】
前記コリネバクテリウム属微生物はコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)である、請求項1に記載の微生物。
【請求項7】
(i)請求項1〜6のいずれかに記載コリネバクテリウム属微生物を培地中で培養るステップと、
(ii)前記培養された微生物又は培養された培地からL−リシンを回収するステップとを含む、L−リシンの生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L−リシン生産能を有する微生物及びそれを用いたL−リシンの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コリネバクテリウム属菌株は、炭素源としてグルコース(glucose)、スクロース(sucrose)、フルクトース(fructose)だけでなく、グルコン酸(gluconate)、酢酸(acetate)、ピルビン酸(pyruvate)などの有機酸を用いることができる。このうち酢酸は、モノカルボン酸に属する有機酸であり、コリネバクテリウム属微生物が利用すると、受動拡散(passive diffusion)又はモノカルボン酸トランスポーター(MctC, monocarboxylic acid transporter)により細胞内に入り、酢酸キナーゼ(acetate kinase, ackA)によりリン酸化されてアセチルリン酸(acetyl phosphate)に変換され、その後ホスホトランスアセチラーゼ(phosphotransacetylase, pta)によりアセチル−CoA(acetyl coenzymeA)を生成する。生成されたアセチル−CoAは、直ちにTCA(tricarboxylic acid)回路とグリオキシル酸(glyoxylate)回路に入り(非特許文献1)、リシンの前駆体であるオキサロ酢酸(oxaloacetate)を生成する。
【0003】
しかし、コリネバクテリウム属菌株において酢酸を単独又は混合炭素源として用いて培養する場合には、その濃度によって生長阻害現象が現れるという問題がある。酢酸の代謝速度がグルコースなどの糖類と比較して遅いだけでなく、細胞内に所定濃度以上で存在すると細胞の生長を阻害するので、培養液中の酢酸濃度が増加するに伴って誘導期(lag phase)が長くなり、全体的な培養時間が長くなるという限界があった(非特許文献2)。よって、培養液中の酢酸を迅速に細胞内のアセチル−CoAに変換する方法の必要性が高まっている。
【0004】
しかし、酢酸活性化経路に用いられる酢酸キナーゼ及びホスホトランスアセチラーゼが双方向性を有することから(可逆反応)、アセチル−CoAが再び酢酸に変換されるという問題があると共に、L−リシンの生成に否定的な影響が生じ得ることが報告されているので、効果的な酢酸利用方法の開発は依然として不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】韓国登録特許第10−0930203号公報
【特許文献2】韓国登録特許第10−0397322号公報
【特許文献3】韓国登録特許第10−0924065号公報
【特許文献4】韓国登録特許第10−0073610号公報
【特許文献5】韓国登録特許第10−1126041号公報
【特許文献6】韓国登録特許第10−0159812号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Bacteriol. 2009. 191:940-948
【非特許文献2】Arch. Microbiol. 1991. 155:505-510
【非特許文献3】Microbiol. 1999 145:503-513
【非特許文献4】Appl Microbiol Biotechnol. 2006. 71:870-4
【非特許文献5】Binder et al. Genome Biology 2012, 13:R40
【非特許文献6】Manual of Methods for General Bacteriology. American Society for Bacteriology. Washington D.C., USA, 1981
【非特許文献7】"Biochemical Engineering" by James M. Lee, Prentice-Hall International Editions, pp 138-176
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以下を提供する。
[1]酢酸キナーゼ(Acetate kinase)タンパク質活性が内在的活性より強化された、L−リシン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物。
[2]上記微生物は、さらに、
(i)ホスホトランスアセチラーゼ(Phosphotransacetylase)タンパク質活性が内在的活性より強化されるか、
(ii)アセチル−CoAシンテターゼ(Acetyl-CoA synthetase)タンパク質活性が導入もしくは強化されるか、又は
(iii)ホスホトランスアセチラーゼタンパク質活性が内在的活性より強化され、かつアセチル−CoAシンテターゼタンパク質活性が導入もしくは強化された、上記[1]に記載の微生物。
[3]上記酢酸キナーゼは、配列番号12のアミノ酸配列を有する、上記[1]に記載の微生物。
[4]上記ホスホトランスアセチラーゼは、配列番号13のアミノ酸配列を有する、上記[2]に記載の微生物。
[5]上記アセチル−CoAシンテターゼは、配列番号14のアミノ酸配列を有する、上記[2]に記載の微生物。
[6]上記微生物はコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)である、上記[1]に記載の微生物。
[7](i)上記[1〜6のいずれかの微生物を培養して培養物を得るステップと、
(ii)上記培養物又は微生物からL−リシンを回収するステップとを含む、L−リシンの生産方法。
本発明者らは、発酵過程中に生成される酢酸又は新たな炭素源として提供される酢酸の効率的な利用のための微生物を開発すべく鋭意努力した結果、酢酸活性化経路における酢酸キナーゼ活性を強化した微生物の酢酸利用能とL−リシン生産能が増加したことを確認し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、酢酸キナーゼ(Acetate kinase)タンパク質活性が内在的活性より強化された、L−リシン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、前記微生物を用いてL−リシンを生産する方法を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明による微生物は、酢酸活性化経路が強化されて酢酸利用能が増加した菌株であり、炭素源として酢酸を用いると高い収率でL−リシンを生産できる微生物であるので、製造されたL−リシンは、動物飼料又は動物飼料添加剤だけでなく、ヒトの食品又は食品添加剤、医薬品など、様々な製品に応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1a】対照区であるKCCM11016Pとpta、pta−ackが導入されたKCCM11016P変異株の酢酸非添加培地における酢酸利用能を分析した図である。
図1b】対照区であるKCCM11016Pとpta、pta−ackが導入されたKCCM11016P変異株の酢酸添加培地における酢酸利用能を分析した図である。
図2】強力なプロモーターであるlysCP1プロモーターによりackAを過剰発現させるのためのベクターであるpDZTn−lysCP1−ackAを示す図である。
図3】対照区であるKCCM11016Pとpta、pta−ack、acsが導入されたKCCM11016P変異株の酢酸利用能を分析した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一態様は、酢酸利用能が増加した、L−リシン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物を提供する。具体的には、前記微生物は、酢酸キナーゼ(Acetate kinase)タンパク質活性が内在的活性より強化された、L−リシン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物である。
【0013】
本発明における「L−リシン」とは、塩基性α−アミノ酸の1つであり、体内で合成されない必須アミノ酸であり、化学式がNH(CHCH(NH)COOHである、L−アミノ酸の一種を意味する。
【0014】
酢酸は、モノカルボン酸に属する有機酸であり、コリネバクテリウム属微生物が利用すると、受動拡散又はモノカルボン酸トランスポーターにより細胞内に入り、酢酸キナーゼによりリン酸化されてアセチルリン酸に変換され、その後ホスホトランスアセチラーゼによりアセチル−CoAを生成する。生成されたアセチル−CoAは、直ちにTCA(tricarboxylic acid)回路とグリオキシル酸(glyoxylate)回路に入り、リシンの前駆体であるオキサロ酢酸(oxaloacetate)を生成する。一方、酢酸は、コリネバクテリウム属微生物において炭素源として用いられるが、酢酸を単独又は混合炭素源として用いて培養する場合には、その濃度によって生長阻害現象が現れるという欠点があった(非特許文献2)。
【0015】
細胞内で酢酸をアセチル−CoAに変換する酢酸活性化(activation)経路としては大きく2つの経路があるが、前述したように、コリネバクテリウム属菌株においては酢酸キナーゼとホスホトランスアセチラーゼの2つの酵素が順次作用する。酢酸キナーゼをコードする遺伝子としてはackA、ホスホトランスアセチラーゼをコードする遺伝子としてはptaが知られている(非特許文献3)。他の経路としては、エシェリキア属菌株においてアセチル−CoAシンテターゼ(acetyl-coA synthetase)が関与するが、これをコードする遺伝子としてはacsが知られている(非特許文献4)。しかし、コリネバクテリウム属の活性化経路は可逆的な反応によるものであるので、この経路を単に強化しようとする試みはなかった。
【0016】
しかし、驚くべきことに、本発明者らは、酢酸キナーゼの活性を強化すると、細胞内で酢酸が迅速にアセチル−CoAに変換されるだけでなく、前述した生長阻害の欠点が克服され、L−アミノ酸生産能が増加することを確認することにより、酢酸キナーゼタンパク質活性が内在的活性より強化された、L−リシン生産能を有する新規なコリネバクテリウム属微生物を提供することができた。
【0017】
本発明の具体的な実施例によれば、ackA遺伝子の活性が強化された微生物の酢酸消費速度が速く、菌株の生長においても誘導期が大幅に短縮されることが確認された。それに対して、pta遺伝子の活性が強化された場合は酢酸消費速度が対照区と大差ないことが確認され(図1a及び図1b)、酢酸活性化により酢酸利用能が増加し、生長阻害がなく、L−リシン生産能を増加させる重要なタンパク質は酢酸キナーゼであることが確認された。すなわち、これらの結果から、様々な公知の方法により酢酸キナーゼの活性を強化すると、酢酸利用能が増加し、生長阻害がなく、L−リシンを高収率で生成できる微生物を製造できることが確認された。
【0018】
本発明における、前記酢酸利用能が増加し、L−リシン生産能が増加したコリネバクテリウム属微生物は、酢酸キナーゼ(Acetate kinase)タンパク質活性が内在的活性より強化された、L−リシン生産能を有するコリネバクテリウム属微生物であってもよい。
【0019】
また、前記酢酸利用能が増加し、L−リシン生産能が増加したコリネバクテリウム属微生物は、酢酸キナーゼ(Acetate kinase)タンパク質活性が内在的活性より強化された微生物に、さらに(i)ホスホトランスアセチラーゼ(Phosphotrasnacetylase)タンパク質活性が内在的活性より強化された微生物、(ii)アセチル−CoAシンテターゼ(Acetyl-CoA synthetase)タンパク質活性が導入もしくは強化された微生物、又は(iii)ホスホトランスアセチラーゼタンパク質活性が内在的活性より強化され、かつアセチル−CoAシンテターゼタンパク質活性が導入もしくは強化された微生物であってもよい。
【0020】
本発明者らは、酢酸利用能増加及びL−リシン生産能増加に最も重要な酢酸キナーゼ(Acetate kinase)タンパク質活性が内在的活性より強化された微生物に、さらにホスホトランスアセチラーゼを内在的活性より強化し、及び/又はアセチル−CoAシンテターゼ(Acetyl-CoA synthetase)タンパク質活性を導入もしくは強化すると、酢酸利用能がさらに増加することを確認し、新規な前記微生物を提供するに至った。本発明の一実施例によれば、エシェリキア属菌株由来のアセチル−CoAをコードする遺伝子であるacsをさらに導入すると、酢酸消費速度が速くなることが確認された(図3)。これらの結果は、アセチル−CoAシンテターゼタンパク質活性の導入又は強化も酢酸消費速度を速くし、L−リシン生産能を増加させることを示唆するものである。
【0021】
本発明における「酢酸キナーゼ(acetate kinase, EC 2.7.2.1)」とは、酢酸をリン酸化してアセチルリン酸(acetyl phosphate)を生成する機能を有する酵素を意味する。前記酢酸キナーゼをコードする遺伝子をackAといい、前記タンパク質及び遺伝子配列は公知のデータベースから得られ、例えばNCBIのGenBankなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。前記酢酸キナーゼタンパク質は、例えば配列番号12のアミノ酸配列を有するが、酢酸キナーゼ活性を有するタンパク質配列が制限なく含まれる。
【0022】
本発明における「ホスホトランスアセチラーゼ(phosphotransacetylase, EC 2.3.1.8)」とは、下記反応式によりアセチルリン酸をアセチル−CoAに変換する機能を有する酵素を意味する。
【0023】
【化1】
【0024】
前記ホスホトランスアセチラーゼは、ホスフェートアセチルトランスフェラーゼ(phophate acetyltransferase)やホスホアシラーゼ(phosphoacylase)などと混用される。前記ホスホトランスアセチラーゼをコードする遺伝子をptaといい、前記タンパク質及び遺伝子配列は公知のデータベースから得られ、例えばNCBIのGenBankなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。前記ホスホトランスアセチラーゼタンパク質は、例えば配列番号13のアミノ酸配列を有するが、ホスホトランスアセチラーゼ活性を有するタンパク質配列が制限なく含まれる。
【0025】
本発明における「アセチル−CoAシンテターゼ(acetyl-CoA synthetase, EC 6.2.1.1)」とは、下記反応式によりアセテートをアセチル−CoAに合成する活性を有する酵素を意味する。
【0026】
【化2】
【0027】
前記アセチル−CoAシンテターゼをコードする遺伝子をacsといい、前記タンパク質及び遺伝子配列は公知のデータベースから得られ、例えばNCBIのGenBankなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。前記アセチル−CoAシンテターゼタンパク質は、例えば配列番号14のアミノ酸配列を有するが、アセチル−CoAシンテターゼ活性を有するタンパク質配列が制限なく含まれる。
【0028】
本発明の上記各タンパク質は、上記各配列番号で表されるアミノ酸配列だけでなく、上記配列と80%以上、具体的には90%以上、より具体的には95%以上、特に具体的には97%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。このような相同性を有する配列であって、実質的に上記各タンパク質と同一又は相当する効能を示すタンパク質を示すアミノ酸配列であれば、制限なく含まれる。また、このような相同性を有するアミノ酸配列であれば、一部の配列が欠失、改変、置換又は付加されたアミノ酸配列も本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。
【0029】
また、本発明の上記各タンパク質をコードする遺伝子は、上記各配列番号で表されるアミノ酸をコードするポリヌクレオチド配列だけでなく、上記配列と80%以上、具体的には90%以上、より具体的には95%以上、さらに具体的には98%以上、最も具体的には99%以上の相同性を示すポリヌクレオチド配列であって、実質的に上記各タンパク質と同一又は相当する効能を示すタンパク質をコードする遺伝子配列であれば、制限なく含まれる。さらに、このような相同性を有するポリヌクレオチド配列であれば、一部の配列が欠失、改変、置換又は付加されたポリヌクレオチド配列も本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。
【0030】
本発明における「相同性」とは、タンパク質をコードする遺伝子のポリヌクレオチド配列やアミノ酸配列の類似の程度を意味するが、相同性が十分に高いと、該当遺伝子の発現産物は同一又は類似の活性を有する。
【0031】
本発明における「内在的活性」とは、本来微生物が改変されていない状態、すなわち天然状態で有するタンパク質の活性状態を意味する。
【0032】
本発明において「タンパク質活性を内在的活性より強化」するとは、微生物がそのタンパク質活性を有する天然状態より細胞内の活性が向上するように改変することにより、微生物の天然状態より前記タンパク質の細胞内の活性を増加させることを意味する。また、本発明における「タンパク質活性の強化」とは、内在的活性より強化させるだけでなく、特定のタンパク質活性を有さない微生物にそのタンパク質活性が付与されたら、その細胞内の活性がさらに向上するように改変することにより、前記タンパク質の細胞内の活性を増加させることを意味する。
【0033】
このような「強化」には、タンパク質自体の活性が増大して本来の機能以上の効果を発揮することが含まれるだけでなく、前記タンパク質をコードするポリヌクレオチドのコピー数を増加する方法、前記タンパク質をコードする染色体上の遺伝子調節配列に変異を導入する方法、前記タンパク質をコードする染色体上の遺伝子調節配列を活性が強力な配列に置換する方法、前記タンパク質をコードする遺伝子を代替して前記タンパク質活性が増加するように突然変異した遺伝子にする方法、及び前記タンパク質活性が強化されるように前記タンパク質をコードする染色体上の遺伝子に変異を導入する方法からなる群から選択される少なくともいずれかの方法により行われるが、タンパク質活性を内在的活性より強化できるか、導入された活性を強化できる公知の方法が制限なく含まれる。
【0034】
本発明において「タンパク質活性を導入」するとは、特定のタンパク質活性を有さない微生物にそのタンパク質活性を付与することを意味する。
【0035】
このような「タンパク質活性の導入」は、当該分野で周知の様々な方法で行われ、例えば前記タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを染色体に挿入する方法、前記ポリヌクレオチドをベクターシステムに導入して微生物に導入する方法などによりポリヌクレオチドのコピー数を増加する方法、前記タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列の上流に改良された活性を示すプロモーターを導入するか、プロモーターに変異を加えた前記タンパク質を導入する方法、前記タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列の変異体を導入する方法などを用いることができるが、タンパク質活性を導入できる公知の方法が制限なく含まれる。
【0036】
前記ポリヌクレオチドのコピー数の増加は、特にこれらに限定されるものではないが、ベクターに作動可能に連結された形態で行われるか、宿主細胞内の染色体内に挿入されることにより行われる。具体的には、本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチドが作動可能に連結された、宿主に関係なく複製されて機能するベクターが宿主細胞に導入されることにより行われるか、前記ポリヌクレオチドが作動可能に連結された、宿主細胞内の染色体内に前記ポリヌクレオチドを挿入することのできるベクターが宿主細胞に導入されることにより前記宿主細胞の染色体内の前記ポリヌクレオチドのコピー数を増加する方法で行われる。
【0037】
前記ベクターは、好適な宿主内で標的タンパク質を発現させることができるように、好適な調節配列に作動可能に連結された前記標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドのポリヌクレオチド配列を含有するDNA産物であり、前記調節配列には、転写を開始するプロモーター、その転写を調節するための任意のオペレーター配列、好適なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、並びに転写及び翻訳の終結を調節する配列が含まれる。ベクターは、好適な宿主細胞内に形質転換されると、宿主ゲノムに関係なく複製又は機能することができ、ゲノム自体に組み込まれる。
【0038】
本発明に用いられるベクターは、宿主細胞内で複製可能なものであれば特に限定されるものではなく、当業界で公知の任意のベクターを用いることができる。通常用いられるベクターの例としては、天然状態又は組換え状態のプラスミド、コスミド、ウイルス及びバクテリオファージが挙げられる。例えば、ファージベクター又はコスミドベクターとしては、pWE15、M13、λMBL3、λMBL4、λIXII、λASHII、λAPII、λt10、λt11、Charon4A及びCharon21Aなどを用いることができ、プラスミドベクターとしては、pBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系及びpET系などを用いることができる。本発明において使用可能なベクターが特に限定されるわけではなく、公知の発現ベクターを用いることができる。例えば、pDZ、pACYC177、pACYC184、pCL、pECCG117、pUC19、pBR322、pMW118、pCC1BACベクターなどを用いることができる。
【0039】
また、宿主細胞内の染色体挿入用ベクターにより、染色体内に内在的な標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを変異したポリヌクレオチドに置換することができる。あるいは、染色体に導入する外来標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを変異したポリヌクレオチドに置換することができる。前記ポリヌクレオチドの染色体内への挿入は、当業界で公知の任意の方法、例えば相同組換えにより行うことができる。本発明のベクターは、相同組換えを起こして染色体内に挿入されるので、前記染色体に挿入されたか否かを確認するための選択マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。選択マーカーは、ベクターで形質転換した細胞を選択、すなわち標的ポリヌクレオチドが挿入されたか否か確認するためのものであり、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性、表面タンパク質の発現などの選択可能表現型を付与するマーカーを用いることができる。選択剤(selective agent)で処理された環境においては、選択マーカーを発現する細胞のみ生存するか、他の表現形質を示すので、形質転換した細胞を選択することができる。
【0040】
本発明における「形質転換」とは、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含むベクターを宿主細胞に導入することにより、宿主細胞内で前記ポリヌクレオチドがコードするタンパク質を発現させることを意味する。形質転換したポリヌクレオチドは、宿主細胞内で発現するものであれば、宿主細胞の染色体内に挿入されて位置するか、染色体外に位置するかに関係なく、それら全てを含むものである。また、前記ポリヌクレオチドは、標的タンパク質をコードするDNAやRNAを含むものである。前記ポリヌクレオチドは、宿主細胞に導入されて発現するものであれば、いかなる形態で導入されるものでもよい。例えば、前記ポリヌクレオチドは、自ら発現する上で必要な全ての要素を含む遺伝子構造体である発現カセット(expression cassette)の形態で宿主細胞に導入される。通常、前記発現カセットは、前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーター(promoter)、転写終結シグナル、リボソーム結合部位及び翻訳終結シグナルを含む。前記発現カセットは、自己複製可能な発現ベクター形態であってもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、それ自体の形態で宿主細胞に導入され、宿主細胞において発現に必要な配列と作動可能に連結されたものであってもよい。
【0041】
また、前記「作動可能に連結」されたものとは、本発明の標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの転写を開始及び媒介するようにプロモーター配列と前記遺伝子配列が機能的に連結されたものを意味する。
【0042】
本発明のベクターを形質転換する方法は、ポリヌクレオチドを細胞に導入するいかなる方法であってもよく、当該分野において公知であるように、宿主細胞に適した標準技術を選択して行うことができる。例えば、エレクトロポレーション(electroporation)、リン酸カルシウム(CaPO)沈殿、塩化カルシウム(CaCl)沈殿、微量注入法(microinjection)、ポリエチレングリコール(PEG)法、DEAE−デキストラン法、カチオン性リポソーム法及び酢酸リチウム−DMSO法などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
前記宿主細胞としては、DNAの導入効率が高く、導入されたDNAの発現効率が高い宿主を用いることが好ましく、本発明の目的上、コリネバクテリウム属微生物であることが好ましい。
【0044】
次に、ポリヌクレオチドの発現が増加するように発現調節配列に変異を導入することは、特にこれらに限定されるものではないが、前記発現調節配列の活性がさらに強化されるように、ポリヌクレオチド配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより配列上の変異を誘導して行うこともでき、より高い活性を有するポリヌクレオチド配列に置換することにより行うこともできる。前記発現調節配列には、特にこれらに限定されるものではないが、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、転写及び翻訳の終結を調節する配列などが含まれる。
【0045】
前記ポリヌクレオチド発現単位の上流には、本来のプロモーターの代わりに強力な異種プロモーターが連結される。異種プロモーターの例としては、pcj7プロモーター、lysCP1プロモーター、EF−Tuプロモーター、groELプロモーター、aceAプロモーター、aceBプロモーターなどが挙げられ、コリネバクテリウム由来のプロモーターであるpcj7プロモーター又はlysCP1プロモーターを用いることが好ましい。このようなlysCP1プロモーターの配列及び製造方法は特許文献1に記載されており、上記特許はその全体が本発明の参照例として含まれる。本発明の具体的な実施例によれば、強力なプロモーターであるlysCP1プロモーターにackA遺伝子を連結した際に対照区に比べて向上した酢酸利用能が確認された(図3)。これらの結果は、ackA遺伝子の発現量が増加するにつれて酢酸利用速度が速くなることを示唆するものである。
【0046】
また、染色体上のポリヌクレオチド配列の改変は、特にこれらに限定されるものではないが、前記ポリヌクレオチド配列の活性がさらに強化されるように、ポリヌクレオチド配列の欠失、挿入、非保存的もしくは保存的置換、又はそれらの組み合わせにより発現調節配列上の変異を誘導して行うこともでき、より高い活性を有するように改良されたポリヌクレオチド配列に置換することにより行うこともできる。
【0047】
このようなタンパク質活性の導入又は強化は、対応するタンパク質活性又は濃度が野生型タンパク質や初期の微生物菌株における活性又は濃度に比べて、一般に少なくとも10%、25%、50%、75%、100%、150%、200%、300%、400%又は500%、最大で1000%又は2000%まで増加したものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0048】
本発明における「L−リシン生産能を有する微生物」とは、本発明の目的上、L−リシンを生産できる微生物菌株であり、本発明の操作により培地中の酢酸を効率的に用いて生長速度の低下なくL−酢酸を蓄積できる菌株を意味する。前記微生物には、本発明の酢酸キナーゼタンパク質活性が内在的活性より強化されたあらゆるコリネバクテリウム属微生物が含まれ、例えばコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(Corynebacterium ammoniagenes)、コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス(Corynebacterium thermoaminogenes)、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)又はブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)などが用いられるが、これらに限定されるものではない。例えば、前記コリネバクテリウム属微生物としては、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)を用いることができ、前記コリネバクテリウム・グルタミカムの具体例としては、KCCM11016P(特許文献2)、KCCM10770P(特許文献3)、KCCM11347P(特許文献4)又はCJ3P(非特許文献5)を用いることができるが、これらに限定されるものではない。本発明の具体的な実施例によれば、代表的なコリネバクテリウム属微生物としてコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11016Pを母菌株とし、ackA遺伝子を過剰発現させると、酢酸利用能が増加し、生長阻害現象が生じることなく、L−リシン生産量が増加することが確認された(実施例2〜6)。また、様々なコリネバクテリウム属微生物であるKCCM10770P、KCCM11347P又はCJ3PにおいてackA遺伝子を過剰発現させた場合もL−リシン生産能が増加することが確認された(実施例7)。これらの結果は、ackA遺伝子がコードする酢酸キナーゼが酢酸利用に用いられるコリネバクテリウム属微生物においては、前記タンパク質活性強化によりL−リシン生産能が増加することを示唆するものである。また、ackA遺伝子がコードする酢酸キナーゼの活性強化に、さらにホスホトランスアセチラーゼ活性の強化及び/又はアセチル−CoA活性の導入もしくは強化を行うことにより、酢酸利用能及びL−リシン生産能が増加することが確認された。
【0049】
本発明の他の態様は、(i)酢酸利用能が増加し、L−リシン生産能が増加した、新規な前記コリネバクテリウム属微生物を培養して培養物を得るステップと、(ii)前記培養物又は微生物からL−リシンを回収するステップとを含む、L−リシンの生産方法を提供する。
【0050】
前記L−リシン生産能が増加したコリネバクテリウム属微生物については前述した通りである。
【0051】
本発明における「培養」とは、微生物を人工的に調節した好適な環境条件で生育させることを意味する。本発明において、コリネバクテリア属微生物を用いてL−リシンを培養する方法は、当業界で周知の方法を用いることができる。具体的には、前記培養は、バッチプロセス又は流加もしくは反復流加プロセス(fed batch or repeated fed batch process)で連続して培養することができるが、これらに限定されるものではない。
【0052】
培養に用いられる培地は、好適な方法で特定菌株の要件を満たすものでなければならない。コリネバクテリア菌株の培養培地は公知である(例えば、非特許文献6)。用いることのできる糖源としては、グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、デンプン、セルロースなどの糖及び炭水化物、大豆油、ヒマワリ油、ヒマシ油、ココナッツ油などの油脂、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸などの脂肪酸、グリセリン、エタノールなどのアルコール、グルコン酸、酢酸、ピルビン酸などの有機酸が挙げられる。これらの物質は単独で用いることもでき、混合物として用いることもできる。用いることのできる窒素源としては、ペプトン、酵母抽出物、肉汁、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、大豆粕及び尿素、又は無機化合物、例えば硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム及び硝酸アンモニウムが挙げられる。窒素源は、単独で用いることもでき、混合物として用いることもできる。用いることのできるリン源としては、リン酸二水素カリウム又はリン酸水素二カリウム、若しくはそれらに相当するナトリウム含有塩が挙げられる。また、培養培地は、成長に必要な硫酸マグネシウム又は硫酸鉄などの金属塩を含有してもよい。前記物質以外にも、アミノ酸及びビタミンなどの必須成長物質が用いられてもよい。また、培養培地に好適な前駆体が用いられてもよい。前述した原料は、培養過程において培養物に好適な方法でバッチ式に又は連続式に添加されてもよい。このような様々な培養方法は、例えば非特許文献7に開示されている。
【0053】
水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどの塩化合物、又はリン酸、硫酸などの酸化合物を好適な方法で用いて培養物のpHを調節してもよい。また、脂肪酸ポリグリコールエステルなどの消泡剤を用いて気泡生成を抑制してもよい。好気状態を維持するために、培養物内に酸素又は酸素含有気体(例えば、空気)を注入してもよい。培養物の温度は、通常20℃〜45℃、具体的には25℃〜40℃であるが、条件に応じて変更することができる。培養は、所望のL−アミノ酸の最大の生成量が得られるまで続ける。これらの目的は通常10〜160時間で達成される。L−リシンは、培養培地中に排出されるか、細胞中に含まれている。
【0054】
本発明のL−リシンを生産する方法は、微生物又は培養物からリシンを回収するステップを含んでもよい。微生物又は培養物からL−リシンを回収する方法は、当業界で公知の方法、例えば遠心分離、濾過、陰イオン交換クロマトグラフィー、結晶化及びHPLCなどを用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0055】
前記回収ステップは、精製工程を含んでもよい。
[実施例]
【0056】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は本発明を例示するためのものにすぎず、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0057】
ackA、pta、又はpta及びackA染色体追加挿入用ベクターの作製
コリネバクテリウム染色体上にackA遺伝子とpta遺伝子をそれぞれ又は同時に追加導入するためのベクターを作製するために、トランスポゾンの遺伝子位置に標的遺伝子を挿入できるようにpDZベクターから考案されたpDZTNベクター(特許文献5)を基本ベクターとして用いた。2つの遺伝子は染色体上でpta−ackA形態のオペロンを形成しているので、追加導入するackA遺伝子の単独過剰発現のために、pta−ackAオペロンのプロモーター部位をackA遺伝子ORF(open-reading frame)の上流に作動可能に連結した。本実施例に用いたプライマー配列を下記表1に示す。
【0058】
ackA遺伝子追加挿入用ベクターを作製するために、既に報告されているポリヌクレオチド配列に基づいてackA遺伝子部位を増幅するためのプライマー(配列番号1及び2)を合成し、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032の染色体を鋳型としたPCRにより約1300bpのackA遺伝子のORF部位を増幅した。ここで、PCRは、94℃で5分間の変性を行い、その後94℃で30秒間の変性、56℃で30秒間のアニーリング、72℃で90秒間の重合を30回繰り返し、その後72℃で7分間の重合反応を行った。ポリヌクレオチド配列の下線部分は制限酵素の認識部位を示す。
【0059】
【表1】
【0060】
さらに、pta−ackAオペロンのプロモーター部位を増幅するためのプライマー(配列番号3及び4)を合成し、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032の染色体DNAを鋳型としたPCRにより約350bpのプロモーター部位を増幅した。ここで、PCRは、94℃で5分間の変性を行い、その後94℃で30秒間の変性、56℃で30秒間のアニーリング、72℃で30秒間の重合を30回繰り返し、その後72℃で7分間の重合反応を行った。
【0061】
PCRで増幅されたDNA断片を制限酵素SpeIとNdeIで処理することによりそれぞれのDNA断片を得て、さらに制限酵素SpeI末端を有するpDZTNベクターに連結し、その後大腸菌DH5αに形質転換し、25mg/lのカナマイシンを含むLB固体培地に塗抹した。PCRにより標的遺伝子が挿入されたベクターで形質転換されたコロニーを選択し、その後周知のプラスミド抽出法を用いてプラスミドを得て、そのプラスミドをpDZTN−Ppta_ackAと命名した。
【0062】
pta遺伝子追加挿入用ベクターを作製するために、pta遺伝子のORF末端部位のプライマー(配列番号5)を合成し、pta遺伝子プロモーターからORF末端までを増幅するためのプライマー(配列番号3及び5)を用いて、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032の染色体を鋳型としたPCRにより、約1750bpのpta遺伝子部位を増幅した。ここで、PCRは、94℃で5分間の変性を行い、その後94℃で30秒間の変性、56℃で30秒間のアニーリング、72℃で90秒間の重合を30回繰り返し、その後72℃で7分間の重合反応を行った。
【0063】
PCRで増幅されたDNA断片を制限酵素SpeIで処理することによりDNA断片を得て、さらに制限酵素SpeI末端を有するpDZTNベクターに連結することによりプラスミドを得て、そのプラスミドをpDZTN−ptaと命名した。
【0064】
2つの遺伝子をオペロン形態で同時に追加導入するためのベクターとして、pta−ackA遺伝子オペロン(配列番号10)のプロモーター予測区間からackA遺伝子のORF末端までを増幅するためのプライマー(配列番号3及び2)を用いて、コリネバクテリウム・グルタミカムATCC13032の染色体を鋳型としたPCRにより、約3000bpのpta−ackA遺伝子部位を増幅した。ここで、PCRは、94℃で5分間の変性を行い、その後94℃で30秒間の変性、56℃で30秒間のアニーリング、72℃で3分間の重合を30回繰り返し、その後72℃で7分間の重合反応を行った。DNA断片を制限酵素SpeIで処理することによりDNA断片を得て、さらに制限酵素SpeI末端を有するpDZTNベクターに連結することによりプラスミドを得て、そのプラスミドをpDZTN−pta−ackAと命名した。
【実施例2】
【0065】
ackA、pta遺伝子染色体導入菌株の酢酸利用能の分析
実施例1で作製した3種のベクターであるpDZTN−Ppta_ackA、pDZTN−pta、pDZTN−pta−ackAを電気パルス法によりコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11016P(上記微生物は、KFCC10881として公開されたが、ブダペスト条約上の国際寄託機関に再寄託され、KCCM11016Pの寄託番号が与えられた。特許文献2,6)に形質転換し、相同組換えにより染色体上に標的遺伝子が挿入された菌株をPCR法で選択的に分離し、KCCM11016P::Ppta_ackA(Tn)、KCCM11016P::pta(Tn)、KCCM11016P::pta−ackA(Tn)と命名した。
【0066】
下記の種培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに上記3種の菌株と対照区を接種し、30℃、200rpmで20時間振盪培養した。その後、下記の生産培地24mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに1mlの種培養液を接種し、37℃、200rpmで96時間振盪培養した。培養中に12時間毎に培養液を採取し、培養液中のグルコース、酢酸の残量、及び562nmにおける吸光度を分析した。その結果を図1a及び図1bに示す。
<種培地(pH7.0)>
ブドウ糖20g,(NHSO 10g,ペプトン10g,酵母抽出物5g,尿素1.5g,KHPO4g,KHPO 8g,MgSO・7HO 0.5g,ビオチン100μg,チアミンHCl 1000μg,パントテン酸カルシウム2000μg,ニコチンアミド2000μg(蒸留水1リットル中)
<生産培地(pH7.0)>
ブドウ糖100g,酢酸アンモニウム7.1g(添加又は非添加),(NHSO40g,大豆タンパク質2.5g,コーンスティープソリッド(corn steep solid)5g,尿素3g,KHPO1g,MgSO・7HO 0.5g,ビオチン100μg,チアミン塩酸塩1000μg,パントテン酸カルシウム2000μg,ニコチンアミド3000μg,CaCO30g(蒸留水1リットル中)
【0067】
図1aに示すように、KCCM11016P::Ppta_ackA(Tn)菌株は、酢酸を添加しない培地において、母菌株KCCM11016Pとは異なり、グルコースの消費中に酢酸を生成し、グルコースを全て消費すると酢酸を消費した。それにより、酢酸キナーゼが酢酸生成に関与していることが確認された。また、酢酸を生成すると共に培養速度が遅くなる現象が観察された。
【0068】
しかし、図1bに示すように、酢酸を添加した培地で培養した場合、KCCM11016P::Ppta_ackA(Tn)菌株は、対照区であるKCCM11016Pと比較して、培養初期に酢酸をむしろ早く消費する傾向を示し、それにより、菌株の生長において対照区に比べて誘導期が大幅に短縮された。KCCM11016P::pta(Tn)菌株は、酢酸消費速度において対照区と大きな差がなかった。ただし、2つの遺伝子がオペロン形態で全て導入されたKCCM11016P::pta−ackA(Tn)菌株は、ackAのみ導入されたKCCM11016P::Ppta_ackA(Tn)菌株より酢酸消費速度がわずかに増加することが確認された。
【0069】
これらの結果から、酢酸生成又は活性化において、ackA遺伝子がコードする酢酸キナーゼが主要酵素であり、培地中に酢酸が存在しない場合は酢酸生成に関与するが、培地中に酢酸が存在する場合は酢酸活性化経路として用いられることが確認された。また、ackAを過剰発現させると、活性化経路の強化により酢酸利用能が大きく増加し、酢酸による生長阻害が減少し、誘導期が短縮されることが確認された。
【実施例3】
【0070】
強力なプロモーターによるackA遺伝子過剰発現菌株の作製及び効果の確認
ackA遺伝子を過剰発現させた場合の酢酸利用能及びその効果を再確認するために、既に報告されている強力なプロモーターであるlysCP1プロモーター(特許文献1)を用いて追加導入するackA遺伝子の発現を誘導した。本実施例で用いたプライマーを下記表2に示す。
【0071】
実施例1に示すpDZTnベクターを基本ベクターとして染色体挿入用ベクターを作製した。既に報告されているポリヌクレオチド配列に基づいてlysCP1プロモーター部位を増幅するためのプライマー(配列番号6及び7)を合成し、コリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11016P−lysCP1(特許文献1)の染色体DNAを鋳型としたPCRにより約450bpのDNA断片を得た。ここで、PCRは、94℃で5分間の変性を行い、その後94℃で30秒間の変性、56℃で30秒間のアニーリング、72℃で30秒間の重合を30回繰り返し、その後72℃で7分間の重合反応を行った。
【0072】
【表2】
【0073】
PCRで増幅されたDNA断片を制限酵素XhoIとNdeIで処理することによりDNA断片を得て、さらに実施例1で作製したNdeIとSpeI末端を有するackA遺伝子のORF部位のDNA断片と共に、制限酵素XhoIとSpeI末端を有するpDZTNベクターに連結し、その後大腸菌DH5αに形質転換し、25mg/lのカナマイシンを含むLB固体培地に塗抹した。PCRにより標的遺伝子が挿入されたベクターで形質転換されたコロニーを選択し、その後周知のプラスミド抽出法を用いてプラスミドを得て、そのプラスミドをpDZTN−lysCP1_ackAと命名した(図2)。
【0074】
作製したベクターpDZTN−lysCP1_ackAを染色体上での相同組換えによりL−リシン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11016Pに形質転換した。その後、PCR法でpDZTN−lysCP1_ackAが染色体上に相同組換えにより挿入されたコロニーを選択的に分離し、KCCM11016P::lysCP1_ackA(Tn)と命名した。
【0075】
KCCM11016P::lysCP1_ackA(Tn)菌株、KCCM11016P::Ppta_ackA(Tn)及び対照区KCCM11016P菌株を実施例2と同様に培養し、12時間毎に培養液中の酢酸残量を分析した。その結果を図3に示す。
【0076】
その結果、KCCM11016P::Ppta_ackA(Tn)菌株は、実施例2の結果と同様に、対照区に比べて向上した酢酸利用能を示した。また、KCCM11016P::lysCP1_ackA(Tn)菌株は、KCCM11016P::Ppta_ackA(Tn)菌株と比較して、酢酸消費速度がさらに増加することが確認された。
【0077】
これらの結果は、ackA遺伝子の発現量が増加するにつれて酢酸利用速度が速くなることを示唆するものである。それにより、ackA遺伝子の過剰発現が酢酸利用能増加の主な原因であることが再確認された。
【実施例4】
【0078】
ackA遺伝子過剰発現菌株のリシン生産能の分析
実施例3で作製したコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11016P::lysCP1_ackA(Tn)菌株のリシン生産能を確認するために、対照区KCCM11016Pと共に実施例2と同様に培養し、培養終了後にHPLCを用いて分析したL−リシン濃度を下記表3に示す。
【0079】
【表3】
【0080】
その結果、表3に示すように、酢酸を添加せずにグルコースのみ炭素源として用いて培養した場合、KCCM11016P::lysCP1_ackA(Tn)は対照区と同レベルのリシン生産能を示した。しかし、酢酸が含まれる培地で培養した場合、KCCM11016P::lysCP1_ackA(Tn)菌株は対照区に比べてリシン収率(総炭素源収率=リシン濃度/(グルコース+酢酸添加量))が平均12%増加することが確認された。
【0081】
これらの結果は、酢酸活性化経路が強化されると、酢酸利用能の増加だけでなく、L−リシン生産能も増加することを裏付けるものである。また、これらの結果は、炭素源として酢酸を用いる場合に、本発明のack遺伝子が強化された菌株を用いると、細胞の生長阻害がなく、培養時間を短縮できると共に、リシンを高収率で生産できることを示唆するものである。
【0082】
よって、本発明者らは、前記酢酸利用能及びL−リシン生産能が増加したKCCM11016P::lysCP1_ackA(Tn)菌株をコリネバクテリウム・グルタミカム「CA01−2278」と命名し、2013年11月22日付けでブダペスト条約上の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(KCCM)に寄託番号KCCM11480Pとして寄託した。
【実施例5】
【0083】
acs遺伝子導入菌株の作製及び効果分析
エシェリキア由来の酢酸活性化経路をコリネバクテリウムの染色体上に挿入するために、エシェリキア由来の酢酸活性化経路として知られるacs遺伝子(配列番号11)を得て、実施例1のpDZTnベクターを基本ベクターとして染色体挿入用ベクターを作製した。コリネバクテリウム由来pta−ackA遺伝子のプロモーターをacs遺伝子開始コドンの上流に作動可能に連結することにより発現を誘導した。本実施例で用いたプライマーを下記表4に示す。
【0084】
既に報告されているポリヌクレオチド配列に基づいてacs遺伝子部位を増幅するためのプライマー(配列番号8及び9)を合成し、E.coli W菌株(ATCC9637)の染色体を鋳型としたPCRにより約2000bpのacs遺伝子のORF部位を増幅した。ここで、PCRは、94℃で5分間の変性を行い、その後94℃で30秒間の変性、56℃で30秒間のアニーリング、72℃で2分間の重合を30回繰り返し、その後72℃で7分間の重合反応を行った。
【0085】
【表4】
【0086】
実施例1で用いたpta−ackAオペロンのプロモーターDNA断片と共に制限酵素SpeIとNdeIで処理することにより各DNA断片を得て、さらに制限酵素SpeI末端を有する染色体挿入用pDZTNベクターに連結し、その後大腸菌DH5αに形質転換し、25mg/lのカナマイシンを含むLB固体培地に塗抹した。PCRにより標的遺伝子が挿入されたベクターで形質転換されたコロニーを選択し、その後周知のプラスミド抽出法を用いてプラスミドを得て、そのプラスミドをpDZTN−Ppta−acsと命名した。
【0087】
前述したように作製したベクターを電気パルス法により実施例2で作製したコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM11016P::Ppta_ackA(Tn)に形質転換し、相同組換えにより染色体上にacs遺伝子が挿入された菌株を選択したが、ここでPpta_ackA遺伝子が既に挿入されているトランスポゾンとは異なるトランスポゾンに挿入されたコロニーをPCR法で選択的に分離し、KCCM11016P::Ppta_ackA(Tn)−Ppta_acs(Tn)と命名した。
【0088】
KCCM11016P::Ppta_ackA(Tn)−Ppta_acs(Tn)菌株及び対照区KCCM11016P::Ppta_ackA(Tn)菌株を実施例2と同様に培養し、12時間毎に培養液中の酢酸残量を分析した。
【0089】
その結果、KCCM11016P::Ppta_ackA(Tn)−Ppta_acs(Tn)菌株は対照区と比較して酢酸消費速度がわずかに増加することが確認された(図3)。
【0090】
これらの結果は、コリネバクテリウム属微生物にackA遺伝子過剰発現だけでなく、エシェリキア属由来の外来遺伝子であるacs遺伝子導入も酢酸消費速度を速くし、L−リシンの生産能を増加させることを示唆するものである。
【実施例6】
【0091】
L−リシン生産菌株由来のackA遺伝子過剰発現菌株のL−リシン生産能の比較
ackA過剰発現菌株のリシン生産能増加効果を確認するために、コリネバクテリウム属由来の様々なリシン生産菌株を対象にL−リシン生産能を比較した。
【0092】
代表的なリシン生産菌株コリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10770P(特許文献3)、KCCM11347P(上記微生物は、KFCC10750として公開されたが、ブダペスト条約上の国際寄託機関に再寄託され、KCCM11347Pが与えられた。特許文献4)、CJ3P(非特許文献5)の3種に挿入し、その後L−リシン生産能を比較した。
【0093】
実施例3で作製したベクターpDZTN−lysCP1_ackAを染色体上での相同組換えによりコリネバクテリウム・グルタミカムKCCM10770P、KCCM11347P、CJ3Pにそれぞれ形質転換した。その後、PCR法でコロニーを選択的に分離し、各菌株をKCCM10770P::lysCP1_ackA(Tn)、KCCM11347P::lysCP1_ackA(Tn)、CJ3P::lysCP1_ackA(Tn)と命名した。
【0094】
上記菌株のリシン生産能を比較するために、各対照区と共に実施例2と同様に培養し、培養終了後にHPLCを用いて分析したL−リシン濃度を下記表5に示す。
【0095】
【表5】
【0096】
その結果、表5に示すように、リシン生産菌株由来のackA過剰発現菌株は全てL−リシン生産能が増加した。KCCM10770P::lysCP1_ackA(Tn)菌株は、対照区KCCM10770Pと比較してリシン濃度が約11%増加した。KCCM11347P::lysCP1_ackA(Tn)菌株は、対照区KCCM11347Pと比較してリシン濃度が約10%増加した。CJ3P::lysCP1_ackA(Tn)菌株は、対照区CJ3Pと比較してリシン濃度が約11%増加した。
【0097】
よって、これらの結果から、グルタミカム属由来の様々な系列のL−リシン生産菌株において、酢酸キナーゼの活性増加はL−リシン生産能を増加させる効果があることが分かった。
【0098】
以上の説明から、本発明の属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、上記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明の範囲は、明細書ではなく特許請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態を含むものであると解釈すべきである。
【表6】
図1a
図1b
図2
図3
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]