(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6496064
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】自走式難着雪リング取り外し装置
(51)【国際特許分類】
H02G 1/02 20060101AFI20190325BHJP
H02G 7/16 20060101ALI20190325BHJP
【FI】
H02G1/02
H02G7/16
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-83323(P2018-83323)
(22)【出願日】2018年4月24日
【審査請求日】2018年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000163419
【氏名又は名称】株式会社きんでん
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】特許業務法人あーく特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野村 剛司
【審査官】
石坂 知樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2017−022925(JP,A)
【文献】
特開2014−166107(JP,A)
【文献】
特開平04−156211(JP,A)
【文献】
特開2015−195692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 1/02
H02G 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
難着雪リングが装着された架空線に沿って移動する走行装置と、
前記走行装置に取り付けられて前記難着雪リングを破砕しながら除去する破砕装置と、
を備え、
前記破砕装置は、前記架空線の左右両側に配置されて回転する一対の破砕刃を有し、
前記各破砕刃は、前記架空線を挟んでその上下に対向配置され平面視において前記架空線と直交する水平方向の回転軸の一方および他方にそれぞれ取り付けられて、前記架空線の左右に近接する垂直面内で回転するように保持され、
前記各破砕刃には、それぞれの回転軸を中心とする径方向の回転平面に沿って、中心側から周縁側へと風車状に延び出す複数箇所の刃先部が形成され、
前記両破砕刃が、側面視において互いに同じ向きに回転するように駆動されることにより、前記両破砕刃の刃先部が前記難着雪リングに前後から当接して前記難着雪リングを捻るように破砕する
ことを特徴とする自走式難着雪リング取り外し装置。
【請求項2】
請求項1に記載された自走式難着雪リング取り外し装置において、
前記各破砕刃の刃先部は、回転方向に向かって凹形に湾曲し、その刃渡り長さが前記難着雪リングの外径よりも大きくなるように形成されている
ことを特徴とする自走式難着雪リング取り外し装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載された自走式難着雪リング取り外し装置において、
前記破砕刃の刃先部に、凹凸状もしくは山谷状の鋸刃または細溝状の櫛刃が形成されている
ことを特徴とする自走式難着雪リング取り外し装置。
【請求項4】
請求項1、2または3に記載された自走式難着雪リング取り外し装置において、
前記破砕装置は前記走行装置に対して着脱可能に、かつ、前記破砕刃の位置を前記架空線の線径に応じて調整し得るように取り付けられている
ことを特徴とする自走式難着雪リング取り外し装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載された自走式難着雪リング取り外し装置において、
前記破砕装置は、前記破砕刃の後方に上下一対のガイドローラーを有し、
前記各ガイドローラーは、前記架空線を挟んでその上下に対向配置され平面視において前記架空線と直交する水平方向の回転軸の一方および他方にそれぞれ遊転可能に取り付けられて、前記架空線と前記破砕刃との相対的な位置関係を一定に保持する
ことを特徴とする自走式難着雪リング取り外し装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架空線に沿って移動しながら、架空線に取り付けられている多数個の難着雪リングを自動的に取り外す自走式難着雪リング取り外し装置に関する。
【背景技術】
【0002】
送電鉄塔(架線塔)等の間に張り渡されて特別高圧での送電に供される架空線には、絶縁被覆が施されていない金属撚り線(裸線)が用いられる。降雪地帯においては、この架空線に湿った雪が付着して凍結成長する現象が多発する。雪が付着した架空線は、風圧荷重が増大して揺れやすくなり、ギャロッピングと称される激しい自励振動や、架空線同士の異常接触による相間短絡を生じるおそれがある。また、雪が落下すれば、その反動によっても大きく跳ね上がる。さらに、架空線にかかる荷重が鉄塔を変形・倒壊させることもある。そこで、これらの雪害を防ぐため、架空線に難着雪リングが装着される。
【0003】
難着雪リングは、合成樹脂からなる環状の部材で、半円弧状をなす一対の半割体が、互いの一端同士を連続させて開閉可能に形成されており、それらの間に架空線を挟み込み、両半割体の他端同士をスナップ嵌合させて架空線に装着される。この難着雪リングを数十cm間隔で架空線に取り付けることにより、雪の凍結成長が阻害されて、雪が架空線から剥落しやすくなる。
【0004】
しかし、この難着雪リングは、樹脂材料の経年劣化によって落下しやすくなるので、架空線の張替え工事に際しては、あらかじめ架空線から取り外す必要がある。難着雪リングを構成する半割体の他端同士は強固に嵌合されているため、それを取り外すには、ペンチやニッパに類する工具を用いて捻り千切るような作業を行わなければならないが、長い架空線に取り付けられた多数の難着雪リングを手作業で取り外すのは容易でない。従来は、作業者が架空線に宙乗りして移動しながら1個ずつ取り外していたが、かかる作業の労力や危険負担を軽減するため、架空線上を自走しながら難着雪リングを取り外す、様々な種類の難着雪リング取り外し装置が提供されている。
【0005】
それらの難着雪リング取り外し装置は大略的に、架空線に沿って相対移動し得る走行装置と、その走行装置に取り付けられて難着雪リングを1個ずつ除去する破砕装置と、を具備するものとして構成される。破砕装置には、難着雪リングに機械的な外力を与えて難着雪リングを破砕する刃体や爪体等が装備されるが、それらに関しても様々な形態や機構が提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1、2には、架空線の軸線を中心とする放射面上に、該放射面内で回転する円盤状の切断刃を複数個、配置し、該切断刃によって難着雪リングに外側から径方向の切り込みを入れた後、切断刃の後方に配置した楔状の刃体を架空線と難着雪リングとの間に挿し込むようにして、難着雪リングを拡径するように取り外す破砕装置が開示されている。
【0007】
また、特許文献3、4には、架空線の左右両側に、垂直方向の回転軸周りに回転する略歯車状の爪体を対向配置し、それら爪体の周部を難着雪リングの左右に前後から引っ掛けることで、難着雪リングを前後方向に捻るように破砕する破砕装置が開示されている。
【0008】
また、特許文献5には、架空線の下方および上方に、操作ロッドとチェーン体とを互いに対向するように設け、操作ロッドに設けた凹部に難着雪リングの下部を導入しつつ、架空線に沿って連続回転するチェーン体に設けた凸部を難着雪リングの上部に引っ掛けるようにして、難着雪リングを前後方向に捻るように破砕する破砕装置が開示されている。
【0009】
また、特許文献6には、外周に刃面が形成された一対の回転体を、架空線の上方に水平方向に配した共通の回転軸を中心として互いに反対向きに回転させ、それらの刃面を難着雪リングの上部に前後から引っ掛けることで、難着雪リングを前後方向に捻るように破砕する破砕装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2017−77146号公報
【特許文献2】特開2017−73847号公報
【特許文献3】特開2014−166107号公報
【特許文献4】特開2015−195692号公報
【特許文献5】特開2007−166845号公報
【特許文献6】特開2017−22925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
架空線の軸線を中心とする放射面上に配置した円盤状の切断刃によって難着雪リングに外側から複数箇所の切り込みを入れる、特許文献1、2に開示されたような破砕装置では、切断刃による難着雪リングの切開が浅いと、架空線と切断刃との間に難着雪リングが根詰まりして走行装置が走行できなくなったり、その後方に配置した楔状の刃体を難着雪リングの内側に押し込んで拡径するのが難しくなったりする。難着雪リングを確実に破砕するには、切断刃の刃先部を架空線に接触するギリギリの位置まで進めなければならないので、切断刃によって架空線まで損傷してしまうおそれが生じる。
【0012】
また、架空線の左右または上下に爪体等を互いに対向させて配置し、それらを難着雪リングの前後に引っ掛けて難着雪リングを破砕する、特許文献3−6に開示されたような破砕装置では、対向配置した爪体を同時に難着雪リングに接触させないと、難着雪リングが円滑に破砕されない。したがって、左右または上下に対向配置した爪体等の回転を精度良く同期させる駆動機構や制御手段が必要になり、その同期を調整する作業が面倒になるとともに、装置が複雑化してコストが嵩む。特に、特許文献5に開示された破砕装置では、チェーン体の構造や駆動機構が一層、複雑になるので、大きな駆動力が必要となり、さらに故障のリスクも増大する。
【0013】
そこで、本発明は、前記従来のような破砕装置よりも簡素で合理的な機構によって、難着雪リングを確実に破砕しうる自走式難着雪リング取り外し装置を提供することを解決課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述の目的を達成するために本発明の自走式難着雪リング取り外し装置が採用した基本的構成は、難着雪リングが装着された架空線に沿って移動する走行装置と、前記走行装置に取り付けられて前記難着雪リングを破砕しながら除去する破砕装置と、を備え、前記破砕装置は、前記架空線の左右両側に配置されて回転する一対の破砕刃を有し、前記各破砕刃は、前記架空線を挟んでその上下に対向配置され平面視において前記架空線と直交する水平方向の回転軸の一方および他方にそれぞれ取り付けられて、前記架空線の左右に近接する垂直面内で回転するように保持され、前記各破砕刃には、それぞれの回転軸を中心とする径方向の回転平面に沿って、中心側から周縁側へと風車状に延び出す複数箇所の刃先部が形成され、前記両破砕刃が、側面視において互いに同じ向きに回転するように駆動されることにより、前記両破砕刃の刃先部が前記難着雪リングに前後から当接して前記難着雪リングを捻るように破砕する、ものとして特徴づけられる。
【0015】
つまり、この発明は、架空線の左右に配置した破砕刃を、架空線の上下に設けた水平方向の回転軸を中心にして垂直面内で回転させ、それら破砕刃の回転平面に沿って形成した刃先部を難着雪リングの前面と後面とに当接させることで、難着雪リングを破砕するようにしたものである。この構成によれば、垂直面内で回転する破砕刃の回転平面に沿って刃先部が形成されているので、刃先部と架空線との間隔が常に一定に保持され、かつ、架空線の左右に配置された破砕刃同士の対向間隔も常に一定に保持される。したがって、破砕刃の回転平面を架空線の至近に配置しても、破砕刃の刃先部が架空線の表面を切削してしまうおそれがない。換言すれば、破砕刃の回転平面を架空線ギリギリまで近づけて、難着雪リングの大径部分に外力を作用させることができるので、小さい駆動力でも確実かつ効率的に難着雪リングを破砕することが可能になる。
【0016】
さらに、この発明においては、破砕刃の刃先部を、回転方向に向かって凹形に湾曲するように形成するとともに、その刃渡り長さが難着雪リングの外径よりも大きくなるように形成することで、一つの刃先部が1個の難着雪リングに当接している時間を延ばすことができる。かかる構成を採用したことにより、左右の破砕刃の刃先部の回転位置に多少のずれがあっても、左右の刃先部の刃渡り長さの範囲内に難着雪リングの一部が引っ掛かりさえずれば、難着雪リングは問題なく破砕される。これにより、左右の破砕刃の刃先部の回転位置を高精度で同期させる必要がなくなって、駆動機構や制御機構を簡素化することができる。
【0017】
さらに、この発明においては、前記破砕刃の刃先部に、凹凸状もしくは山谷状の鋸刃または細溝状の櫛刃を形成するのも好ましい。これにより、破砕刃が難着雪リングを、より確実に捉えやすくなり、難着雪リングの破砕効率がさらに向上する。
【0018】
さらに、この発明においては、前記破砕装置が前記走行装置に対して着脱可能に、かつ、前記破砕刃の位置を前記架空線の線径に応じて調整し得るように取り付けられていると、より好ましい。
【0019】
また、この発明においては、前記破砕装置が前記破砕刃の後方に上下一対のガイドローラーを有し、前記各ガイドローラーは、前記架空線を挟んでその上下に対向配置され平面視において前記架空線と直交する水平方向の回転軸の一方および他方にそれぞれ遊転可能に取り付けられて、前記架空線と前記破砕刃との相対的な位置関係を一定に保持する、ように構成してもよい。これにより、難着雪リングを破砕しているときの走行姿勢が安定して、難着雪リングの破砕効率がさらに向上する。
【発明の効果】
【0020】
前述のように構成される本発明の自走式難着雪リング取り外し装置は、垂直面内で回転する破砕刃の回転平面に沿って刃先部が形成されており、その刃先部と架空線との間隔が常に一定に保持され、かつ、架空線の左右に配置された破砕刃同士の対向間隔も常に一定に保持されるので、破砕刃の回転平面を架空線の至近に配置して、架空線の表面は損傷することなく、難着雪リングを小さい駆動力で確実に破砕することができる。
【0021】
また、破砕刃の刃先部を、その刃渡り長さが難着雪リングの外径よりも大きくなるように形成することで、刃先部と難着雪リングとの当接時間を延ばして、難着雪リングを確実に破砕することができるので、左右の破砕刃の刃先部の回転位置を高精度で同期させる必要性も少なくなる。
【0022】
これらにより、装置全体の駆動機構や制御機構を簡素化し、コンパクトかつ軽量で故障の少ない装置構成を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態に係る自走式難着雪リング取り外し装置を前方左斜め上から見た外観斜視図である。
【
図2】前記自走式難着雪リング取り外し装置を後方右斜め上から見た外観斜視図である。
【
図3】前記自走式難着雪リング取り外し装置を前方に向かって左側から見た側面図である。
【
図4】前記自走式難着雪リング取り外し装置を前方から見た正面図である。
【
図5】前記自走式難着雪リング取り外し装置の主要な構成部位を分離して、走行装置の骨組と、その骨組に取り付けられる他の装置類とを一覧的に示した分解斜視図である。
【
図6】
図4中の破断位置A−Aに表れる破砕装置の主要部を示した説明図である。
【
図7】破砕装置の主要部を前方左斜め下から見た説明図である。
【
図8】破砕刃を前方から見て、難着雪リングの破砕位置を示した説明図である。
【
図9】難着雪リングに対する左右の破砕刃の当接範囲を示した説明図である。
【
図10】破砕刃の他の実施形態を複数例、示した図である。
【
図11】破砕刃の他の実施形態を複数例、示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1〜
図8は、本発明の一実施形態に係る自走式難着雪リング取り外し装置を示している。この自走式難着雪リング取り外し装置1は、送電鉄塔(図示せず)等の間に張り渡された架空線Wに吊り下げられて、その架空線Wに沿って自走しながら、架空線Wに装着された難着雪リングRを1個ずつ破砕して除去するものである。なお、本発明における「架空線W」には、送電・配電用の架空電線のほか、それらを雷等から保護する架空地線も含むものとする。また、難着雪リングRが装着される架空線Wは通常、複数本の金属素線を螺旋状に束ねた撚り線(裸線)であるが、
図1〜
図7では簡略化のため、架空線Wを単純な円形断面の棒状材のように表している。
【0025】
図1〜
図4は、自走式難着雪リング取り外し装置1の全体的な外観を示している。
図5は、前記自走式難着雪リング取り外し装置1の主要な構成部位を分離して、走行装置の骨組と、その骨組に取り付けられる他の装置類とを一覧的に示している。以下において、自走式難着雪リング取り外し装置1を構成する部位・部材の位置関係や動作の向きを説明する際には、架空線Wに吊り下げられた自走式難着雪リング取り外し装置1が難着雪リングRに向かって移動する向き(図中の白抜き矢印)を「前(前方、前側、前進方向)」と定める。また、自走式難着雪リング取り外し装置1が当該前方に向かう姿勢を基準にして装置各部の「左右」を表すこととする。
【0026】
自走式難着雪リング取り外し装置1は大略的に、架空線Wに沿って移動する走行装置と、その走行装置に取り付けられて難着雪リングRを破砕しながら除去する破砕装置と、それら走行装置および破砕装置に駆動電力を供給する電源装置と、それら全体の駆動を制御する制御装置と、を具備する。なお、それらの装置間を電気的に接続するコード類は図示を省いている。
【0027】
(走行装置)
走行装置は、骨組となる本体フレーム21に、前後一対の走行ローラー27、27と、それらの走行ローラー27を駆動する走行用モーター29と、を組み付けて構成されている。
【0028】
例示形態の本体フレーム21は、最上部に水平に配置される上部桁材22と、上部桁材22の前後両端近傍にそれぞれ接合されて垂下する前後一対の吊持脚材23と、吊持脚材23の下部に組み付けられた下部枠体25と、を有する。上部桁材22は、例えばアルミ合金製の押出形材からなる汎用の溝付きフレーム部材等を利用して形成されている。吊持脚材23は、例えばアルミ合金製の鋳造材等からなり、その上部には、前方から見て下向きに開口するコ字状部分が形成されて、このコ字状部分が走行ローラー27の回転軸を支持する走行ローラー軸受部24となっている。
【0029】
走行ローラー27、27は前後同一であり、その周面は硬質ゴム等によって略半円の断面形状をなすように形成され、さらにその周面の中央部には一段深い小径の半円形溝28(
図4)が形成されている。この走行ローラー27が、その回転軸を水平にして走行ローラー軸受部24の内側に取り付けられる。走行ローラー軸受部24の外側には走行用モーター29がそれぞれ取り付けられて、その出力軸が走行ローラー27の回転軸に接続され、前後の走行ローラー27が同じ向きに回転する。また、後述する制御装置により、その回転が正逆方向に切り替えられる。
【0030】
吊持脚材23は、走行ローラー軸受部24の片側から下方に延び出し、その途中から走行ローラー27の直下へと湾曲して、下部枠体25に接合されている。下部枠体25は、例えばアルミ合金製の押出形材等からなる汎用の溝付きフレーム部材等を縦横に組み付けて形成されている。この下部枠体25の最下部には、電源装置としてのリチウム電池31が、バランスウェイトを兼ねて取り付けられる。また、下部枠体25の側部には、制御装置の主要部をなす制御ユニット41が取り付けられ、下部枠体25の後部には、その制御ユニット41を遠隔操作するための無線通信ユニット42が取り付けられる。さらに、下部枠体25の上部には、破砕装置によって破砕された難着雪リングRの破片を回収する破片回収バケット33も取り付けられる。
【0031】
この走行装置の前後の走行ローラー27、27を架空線Wに掛止すると、上部桁材22が架空線Wの直上に、架空線Wと平行に保持される。そして、下部枠体25に取り付けた電源装置や制御装置等の重量によって走行装置全体が安定した直立姿勢を保持しながら、前後一対の走行ローラー27、27の回転によって架空線W上を円滑に走行する。
【0032】
(破砕装置)
図6〜
図9は、本発明の要部をなす破砕装置の構成を示している。例示形態の破砕装置は、配転する破砕刃51を備えた左右一対の破砕ユニット61によって構成されている。
【0033】
各破砕ユニット61は、破砕刃51を架空線Wの側方に保持する破砕刃保持アーム62と、破砕刃51を駆動する破砕用モーター63と、破砕用モーター63の駆動力を破砕刃51に伝達する伝達機構と、架空線Wに対する破砕刃51の位置を安定させるガイドローラー68と、破砕刃保持アーム62を本体フレーム21に連結して固定するブラケット71と、をそれぞれ具備している。
【0034】
破砕刃51は、鋼板を切削加工するなどして形成された板状の部材で、
図9に示すように、中心側から周縁側に向けて複数箇所の刃先部52が風車状に延び出した、いわゆる平型手裏剣(風車型手裏剣)のような形状をなしている。例示形態の破砕刃51には、十字状に延び出す4箇所の刃先部52が形成されている。刃先部52は、回転方向に向かって凹形に湾曲し、その刃渡り長さ(刃先の有効長さ:
図9中の符号B)が難着雪リングRの外径よりも十分に大きくなるように形成されている。さらに、刃先部52には、破砕刃51の板厚方向に延びる凹凸状の鋸刃53が、一定間隔で複数条、形成されている。
【0035】
破砕刃51は、その回転軸を水平にする姿勢で破砕刃保持アーム62に取り付けられ、その回転軸が平面視において架空線Wと直交するように架空線Wの近傍に配置されて、垂直面内で回転する。破砕刃保持アーム62は、例えばアルミ合金製の切削材等からなる長矩形の枠体で、その先端近傍が破砕刃51の回転軸を水平に保持する破砕刃軸受部となっている。破砕刃51の回転軸は、破砕刃保持アーム62の外側に組み付けられた伝達機構を介して破砕用モーター63に接続されている。破砕用モーター63は、破砕刃保持アーム62の外側の基端寄りに取り付けられている。伝達機構は、破砕用モーター63の出力軸に接続された駆動側プーリー64と、破砕刃51の回転軸に接続された従動側プーリー65と、両プーリー64、65に亘って巻き掛けられた歯付きベルト66と、歯付きベルト66の外周側に設置されたテンションローラー67と、を含んで構成されている。
【0036】
破砕刃保持アーム62には、ガイドローラー68も取り付けられている。ガイドローラー68は鋼材等の金属導体からなり、その周面は、架空線Wの径に対応するV溝となっている。このガイドローラー68は、その回転軸を水平にした姿勢で破砕刃51のすぐ後方に取り付けられ、架空線Wに接触して遊転することで、走行時における架空線Wと破砕刃51との相対的な位置関係を一定に保持する。また、高電磁界下で使用される自走式難着雪リング取り外し装置1の接地導体も兼ねている。
【0037】
破砕刃51、破砕用モーター63、伝達機構、およびガイドローラー68が組み付けられた破砕刃保持アーム62は、ブラケット71を介して本体フレーム21に取り付けられる。
図6に示すように、ブラケット71は、適宜の締結部材等を介して本体フレーム21に着脱可能に取り付けられる基部72と、その基部72から架空線W側に突設されたアーム支持部73とを有している。アーム支持部73にはスリット付きの連結孔74が形成される一方、破砕刃保持アーム62の基端近傍には円柱状の連結シャフト69が突設され、この連結シャフト69がブラケット71の連結孔74に挿入されてクランプ締結される。破砕刃保持アーム62は、この連結孔74を支軸として任意の角度に回動し、連結孔74のクランプ締結によって所望の角度に固定される。
【0038】
例示形態では、一方の破砕ユニット61の破砕刃保持アーム62が、本体フレーム21の上部桁材22に固定された上側のブラケット71に連結されて、一方の破砕刃51およびガイドローラー68の回転軸は架空線Wの上方に配置されるとともに、その破砕刃51が架空線Wの左側に保持されている。また、他方の破砕ユニット61の破砕刃保持アーム62が、本体フレーム21の下部枠体25を構成する中間部桁材26に固定された下側のブラケット71に連結されて、他方の破砕刃51およびガイドローラー68の回転軸が架空線Wの下方に配置されるとともに、その破砕刃51が架空線Wの右側に保持されている。これら一対の破砕刃51は、前進方向の側方から見て刃先部52が同じ向きになるように取り付けられ、同じ向きに回転する。
【0039】
なお、破砕ユニット61を本体フレーム21に対して斜めに取り付け、破砕刃保持アーム62とブラケット71との連結箇所を回動可能にするのは、架空線Wの線径に応じて破砕刃51の上下位置を調整するためである。また、破砕刃保持アーム62の連結シャフト69をやや長めに形成して、ブラケット71の連結孔74に対する連結シャフト69の挿入深さを調整可能にしておけば、架空線Wの線径に応じて破砕刃51の左右位置(両破砕刃51、51の対向間隔)も変更することができる。
【0040】
このように、架空線Wを挟んでその上下に対向配置された水平方向の回転軸にそれぞれ破砕刃51、51が取り付けられ、それらの破砕刃51、51が架空線Wを挟んでその左右に近接する垂直面内で同じ向きに回転することにより、上側の破砕刃51の回転平面の下半部と、下側の破砕刃51の回転平面の上半部とが、架空線Wに装着された難着雪リングRに当接する。そして、上側の破砕刃51の刃先部52と下側の破砕刃51の刃先部52とが難着雪リングRを前後から挟み込み、難着雪リングRを前後方向に捻るようにして破断、あるいは難着雪リングRのスナップ嵌合を引きちぎるようにして破砕するのである。
【0041】
破砕された難着雪リングRの破片は、破砕刃51の下方に取り付けられた破片回収バケット33内に落下して回収される。また、破砕された難着雪リングRの破片が跳び散って走行ローラー27その他の回転部材等の間に挟まることを防ぐため、前側の走行ローラー27の後方と、後側の走行ローラー27の前方とに、それぞれ破片避け板34、35が取り付けられている。
【0042】
(制御装置)
走行装置および破砕装置の動作は、制御装置によって制御される。例示形態の制御装置は、本体フレーム21の下部枠体25に取り付けられた制御ユニット41および無線通信ユニット42と、本体フレーム21の上部桁材22に取り付けられた走行監視ユニット43と、を含んで構成される。
【0043】
制御ユニット41は、マイクロコンピュータによる制御回路を金属製の電磁界遮蔽ボックス内に収容して形成され、電源装置としてのリチウム電池31と、走行用モーター29および破砕用モーター63と、にそれぞれ接続されている。制御回路には、走行用モーター29の[正回転(前進)/逆回転(後進)/停止]を切り替える走行制御回路と、破砕用モーター63の[回転(破砕)/停止]を切り替える破砕制御回路とが、互いに連動して動作するように組み込まれている。
【0044】
走行監視ユニット43は、架空線Wに常時、接触して遊転する走行監視ローラー44と、その走行監視ローラー44に取り付けられた回転検出センサ(図示せず)と、を有している。走行監視ローラー44および回転検出センサは、細長い板状材等からなる走行監視ローラー保持アーム46を介して、上部桁材22の後端に取り付けられている。回転検出センサによる検出信号は、制御ユニット41に組み込まれたシーケンサ(プログラマブルコントローラ)に送信される。走行装置および破砕装置の駆動中に、例えば難着雪リングRが完全に破砕されず、架空線W上に残留してガイドローラー68に引っ掛かってしまった場合、回転検出センサは、走行監視ローラー44の回転異常を検出してシーケンサに送信する。その異常信号を受信したシーケンサは、その状態が所定時間(例えば5秒程度)継続したら走行用モーター29を停止させる。そして一旦、走行用モーター29を短時間(例えば0.5秒程度)、逆回転させて走行装置を少し後退させた後、停止させ、走行用モーター29を正回転に切り替えて、再度、前進させる。その間、破砕刃51は正回転を継続させて、破砕されずに残留していた難着雪リングRを完全に破砕する。このような制御プログラムを組み込むことにより、難着雪リングRを着実に破砕しながら、走行装置を円滑に前進させることができる。
【0045】
無線通信ユニット42は、図示しないリモコン装置と無線接続され、作業者はそのリモコン装置を介して、地上等の安全な場所から制御装置を遠隔操作することができる。また、必要に応じて、回転検出センサによる検出信号が、走行監視情報として無線通信ユニット42からリモコン装置側に送信される。
【0046】
このように構成された自走式難着雪リング取り外し装置1は、その要部をなす破砕装置が垂直面内で回転する一対の破砕刃51、51を備えており、それらの破砕刃51には回転平面に沿って刃先部52が形成されているので、刃先部52と架空線Wとの間隔が常に一定に保持され、かつ、架空線Wを挟んで対向する破砕刃51同士の間隔も常に一定に保持される。したがって、破砕刃51の回転平面を架空線Wの至近まで寄せることが可能になり、その場合でも破砕刃51が架空線Wを損傷することなく、難着雪リングRの大径部分に外力を作用させて、難着雪リングRを確実かつ効率的に破砕することができる。
【0047】
また、
図9に示すように、破砕刃51の刃先部52の刃渡り長さが難着雪リングRの外径よりも大きくなるように形成されており、その刃先部52が同一面内で回転し続けるので、一つの刃先部52が1個の難着雪リングRに当接する時間が長くなる。そのため、左右の破砕刃51、51の刃先部52の回転位置に多少のずれがあっても、どちらか一方の破砕刃51の一つの刃先部52の一部分が難着雪リングRに引っ掛かりさえすれば、間もなく他方の破砕刃51の刃先部52も難着雪リングRに引っ掛かって、前後から協働的に破砕力を作用させる。こうして、左右の破砕刃51、51が難着雪リングRを前後から捕まえるタイミングに時間的な余裕が生まれるので、左右の破砕刃51の刃先部52の回転位置を高精度で同期させる必要性が小さくなり、その分、破砕装置や制御装置の機構を簡素化することができる。
【0048】
かかる構成は、自走式難着雪リング取り外し装置1全体の軽量化およびコンパクト化にも大きく寄与する。この種の自走式難着雪リング取り外し装置1は、車両による移動が困難な山間部等で使用されることも多いので、荷役運搬作業や組立て作業における労力を軽減しうるように、軽量かつコンパクトで容易に分解組立てができることが望まれるが、前述のような構成は、そのような要望にも十分に応え得るものとなる。
【0049】
(破砕刃の形態)
図10は、破砕刃51の他の実施形態を示している。(a)〜(d)に示すように、一つの破砕刃51には2箇所ないし8箇所程度の刃先部52を形成することができる。実用的には、刃先部52の数を4箇所〜6箇所にした場合、刃先部52の刃渡り長さと、前後の刃先部52の間隔との兼ね合いから、左右の破砕刃51、51の刃先部52同士が互いに好ましい位置で向かい合うタイミングが増えるとともに、走行装置の走行速度と破砕刃51の回転速度とのバランスも良くなるので、左右の破砕刃51、51の間に難着雪リングRを着実に捉えやすくなって、特に好ましい。
【0050】
また、
図11は、破砕刃51に形成する刃先部52の他の実施形態を示している。刃先部52は、(a)のように破砕刃51の板厚方向に切断されているほか、(b)のように斜めの刃面が形成されていてもよい。また、刃先部52には、難着雪リングRに対する食い付き効果を高めるため、(c)のような山谷状の鋸刃53や、(d)のような細溝状の櫛刃54が形成されていてもよい。さらに、図示は省くが、回転方向に向かう刃先部52の湾曲形状は、刃先部52の刃渡り長さと難着雪リングRの大きさとの兼ね合いで、より直線的な形状や、卍状に深く屈曲した形状等に改変されてもよい。
【0051】
以上、本発明にかかる自走式難着雪リング取り外し装置の好適な実施形態を例示したが、本発明の技術的範囲は、例示形態によって限定的に解釈されるべきものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて概念的に解釈されるべきものである。本発明の実施に際しては、特許請求の範囲において具体的に特定していない部材・部品の形状、材質、構造、位置関係、接合形態や、各装置を駆動する制御プログラム等を、例示形態と実質的に同程度の作用効果が得られる範囲内で適宜、改変して実施することが可能である。
【0052】
例えば、走行装置には、架空線に沿って自走する従来公知の装置類の構造や駆動機構、制御手段等を適用することが可能であり、本体フレームの構造や、破砕装置の連結形態等も適宜改変可能である。また、例示形態では、2個の走行ローラーを2個の走行用モーターによってそれぞれ駆動し、2個の破砕刃を2個の破砕用モーターによってそれぞれ駆動しているが、1個のモーターで2個のローラーあるいは2個の破砕刃を駆動するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の自走式難着雪リング取り外し装置は、降雪地帯における架空線の張替え工事に幅広く活用することができる。架空線の張替え工事に際しては、自走式難着雪リング取り外し装置の後方に曳航ロープを介して複数個の吊り金車を繋ぎ、難着雪リングを破砕しながら吊り金車を牽引して、架空線張替え用のメッセンジャロープを延線する、といった使い方も可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 自走式難着雪リング取り外し装置
21 本体フレーム
22 上部桁材
23 吊持脚材
24 走行ローラー軸受部
25 下部枠体
26 中間部桁材
27 走行ローラー
28 半円形溝
29 走行用モーター
31 リチウム電池(電源装置)
33 破片回収バケット
34 破片避け板
41 制御ユニット
42 無線通信ユニット
43 走行監視ユニット
44 走行監視ローラー
46 走行監視ローラー保持アーム
51 破砕刃
52 刃先部
53 鋸刃
54 櫛刃
61 破砕ユニット
62 破砕刃保持アーム
63 破砕用モーター
64 駆動側プーリー
65 従動側プーリー
66 歯付きベルト
67 テンションローラー
68 ガイドローラー
69 連結シャフト
71 ブラケット
72 基部
73 アーム支持部
74 連結孔
R 難着雪リング
W 架空線
【要約】
【課題】従来よりも簡素で合理的な機構によって、難着雪リングを確実に破砕しうる自走式難着雪リング取り外し装置を提供する。
【解決手段】自走式難着雪リング取り外し装置1は、架空線Wに沿って移動する走行装置と、走行装置に取り付けられて難着雪リングRを破砕・除去する破砕装置と、を備える。破砕装置は架空線Wの左右両側に配置されて回転する一対の破砕刃51を有し、各破砕刃51は、架空線Wの上下に対向配置された水平方向の回転軸にそれぞれ取り付けられて、架空線Wの左右に近接する垂直面内で回転する。各破砕刃51には、回転軸を中心とする径方向の回転平面に沿って中心側から周縁側へと風車状に延び出す刃先部52が形成される。左右の破砕刃51は側面視において互いに同じ向きに回転し、両破砕刃51の刃先部52が難着雪リングRに前後から当接して難着雪リングRを捻るように破砕する。
【選択図】
図7