(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記樹脂層の前記第1主面の前記金属層に接している部分の前記粗面領域における凹凸形状と、前記金属層の前記第4主面の前記粗面領域における凹凸形状とは、互いに相補的である請求項2に記載の蒸着マスク。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0022】
(蒸着マスクの構造)
図1および
図2を参照しながら、本発明の実施形態による蒸着マスク100を説明する。
図1および
図2は、それぞれ蒸着マスク100を模式的に示す断面図および平面図である。
図1は、
図2中の1A−1A線に沿った断面を示している。
【0023】
蒸着マスク100は、
図1および
図2に示すように、樹脂層10と、樹脂層10上に設けられた金属層20とを備える。つまり、蒸着マスク100は、樹脂層10と金属層20とが積層された構造(金属層20によって樹脂層10が支持される構造)を有する。後述するように、蒸着マスク100を用いて蒸着工程を行う際、蒸着マスク100は、金属層20が蒸着源側、樹脂層10がワーク(蒸着対象物)側に位置するように配置される。
【0024】
樹脂層10は、互いに対向する2つの主面11および12を有する。以下では、2つの主面11および12のうちの、相対的に金属層20に近い主面11を「第1主面」と呼び、相対的に金属層20から遠い主面12を「第2主面」と呼ぶことがある。
【0025】
樹脂層10は、複数の開口部13を含む。複数の開口部13は、ワークに形成されるべき蒸着パターンに対応したサイズ、形状および位置に形成されている。
図2に示している例では、複数の開口部13は、マトリクス状に配置されている。
【0026】
樹脂層10の材料としては、例えばポリイミドを好適に用いることができる。ポリイミドは、強度、耐薬品性および耐熱性に優れる。樹脂層10の材料として、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの他の樹脂材料を用いてもよい。
【0027】
樹脂層10の厚さは、特に限定されない。ただし、樹脂層10が厚すぎると、蒸着膜の一部が所望の厚さよりも薄く形成されてしまうことがある(「シャドウイング」と呼ばれる)。シャドウイングが発生する理由については後に詳述する。シャドウイングの発生を抑制する観点からは、樹脂層10の厚さは、25μm以下であることが好ましい。また、樹脂層10が薄すぎると、樹脂層10の表面に後述するような粗面領域を簡便な方法で形成することが難しい場合がある。粗面領域を好適に形成する観点からは、樹脂層10の厚さは、3μm以上であることが好ましい。また、樹脂層10自体の強度および洗浄耐性の観点からも、樹脂層10の厚さは3μm以上であることが好ましい。
【0028】
金属層20は、互いに対向する2つの主面21および22を有する。以下では、2つの主面21および22のうちの、相対的に樹脂層10から遠い主面21を「第3主面」と呼び、相対的に樹脂層10に近い主面22を「第4主面」と呼ぶことがある。つまり、金属層20は、第4主面22が樹脂層10側に位置するように、樹脂層10の第1主面11上に設けられている。
【0029】
金属層20は、樹脂層10の複数の開口部13を露出させる形状を有する。ここでは、金属層20に複数のスリット(開口部)23が形成されている。
図2に示す例では、列方向に延びるスリット23が行方向に複数並んでおり、金属層20は、全体として梯子状である。蒸着マスク100の法線方向から見たとき、各スリット23は、樹脂層10の各開口部13よりも大きなサイズを有しており、各スリット23内に2個以上の開口部13(
図2中に例示している個数に限定されないのはいうまでもない)が位置している。
【0030】
金属層20の材料としては、種々の金属材料を用いることができる。本実施形態の蒸着マスク100では、金属層20が支持体として機能する。そのため、金属層20の熱膨張係数がなるべく小さいことが好ましく、具体的には、6×10
-6/℃未満であることが好ましい。また、金属層20が磁性体であると、蒸着工程において蒸着マスク100を磁気チャックを用いて簡便に保持および固定することができる。熱膨張係数が小さく、且つ、磁性体である金属層20の材料として、例えばインバーを好適に用いることができる。もちろん、インバー以外の金属材料(例えば磁性を有する一部のステンレス鋼やアルミニウム合金など)を用いてもよい。
【0031】
金属層20が上述したような形状を有しているので、樹脂層10の第1主面11は、蒸着マスク100の法線方向から見たとき、金属層20によって覆われて露出していない部分(非露出部分)11aと、スリット23内に露出している部分(露出部分)11bとを含んでいる。非露出部分11aは、金属層20に接している部分であり、露出部分11bは、金属層20に接していない部分である。
【0032】
金属層20の厚さは、特に限定されない。ただし、金属層20が厚すぎると、金属層20が自重で撓んだり、シャドウイングが発生したりするおそれがある。自重による撓みおよびシャドウイングの発生を抑制する観点からは、金属層20の厚さは、100μm以下であることが好ましい。また、金属層20が薄すぎると、破断や変形が生じるおそれがあり、また、ハンドリングが困難となることがある。そのため、金属層20の厚さは、5μm以上であることが好ましい。
【0033】
本実施形態の蒸着マスク100では、樹脂層10の第1主面(金属層20側の表面)11は、凹凸形状を有する粗面領域を含んでいる。より具体的には、第1主面11の非露出部分11aおよび露出部分11bのそれぞれが、粗面領域を含んでいる。なお、
図1では、粗面領域に形成されている微細な凹部および凸部を誇張して示している。これに対し、樹脂層10の第2主面(金属層20とは反対側の表面)12は、粗面領域を含んでいない。つまり、第2主面12は、実質的に平坦である。
【0034】
また、金属層20の第3主面(樹脂層10とは反対側の表面)21も、凹凸形状を有する粗面領域を含んでいる。さらに、金属層20の第4主面(樹脂層10側の表面)22も、凹凸形状を有する粗面領域を含んでいる。
【0035】
既に説明したように、蒸着工程において、蒸着マスク100は、金属層20が蒸着源側、樹脂層10がワーク側に位置するように配置される。そのため、蒸着マスク100の蒸着源側の表面は、金属層20の第3主面21と、樹脂層10の第1主面11の露出部分11bとによって構成される。
【0036】
本実施形態の蒸着マスク100では、金属層20の第3主面21および樹脂層10の第1主面11の露出部分11aのそれぞれが粗面領域を含んでいるので、蒸着工程において蒸着マスク100の蒸着源側の表面に堆積された蒸着材料が、凹凸形状によるアンカー効果によって剥がれにくくなる。従って、蒸着源側の表面に上述したような粗面領域が含まれていない場合(つまり従来の構成)に比べて洗浄周期を長く設定することができる。そのため、蒸着マスク100の長寿命化を図ることができる。
【0037】
また、本実施形態の蒸着マスク100では、樹脂層10の第1主面11の非露出部分11aが粗面領域を含んでいる。そのため、樹脂層10と金属層20との接合面積を増やすことができるので、樹脂層10と金属層20とを強固に接合することができる。
【0038】
また、本実施形態のように、さらに金属層20の第4主面22が粗面領域を含んでいると、樹脂層10と金属層20との接合面積をいっそう増やすことができるので、樹脂層10と金属層20とをいっそう強固に接合することができる。
【0039】
金属層20の第4主面22の粗面領域における凹凸形状と、樹脂層10の第1主面11の非露出部分11aの粗面領域における凹凸形状とが、互いに相補的である(互いに整合している)と、よりいっそう強固な接合を実現することができる。樹脂層10の表面と金属層20の表面とに互いに相補的な凹凸形状を形成する方法については、後に詳述する。
【0040】
樹脂層10の第1主面11の非露出部分11a、露出部分11b、金属層20の第3主面21および第4主面22のそれぞれは、必ずしもその全体に粗面領域を有していなくてもよく、その一部に実質的に平坦な領域を有していてもよい。少なくとも部分的に粗面領域が設けられていることにより、上述した効果を得ることができる。ただし、粗面領域を設けることによる効果を十分に高くする観点からは、粗面領域がなるべく広いことが好ましく、樹脂層10の第1主面11の非露出部分11a、露出部分11b、金属層20の第3主面21および第4主面22のそれぞれがその略全体に粗面領域を有することがより好ましい。
【0041】
なお、樹脂層10の第2主面12が粗面領域を含んでいてもよいが、本実施形態のように含んでいなくても特段の問題はない。蒸着工程においてメタルマスクを用いる場合、メタルマスクがワークに接触することによるワークへのダメージが懸念される。そのため、メタルマスクのワーク側の表面を粗面化しておくことによってそのようなダメージの低減を図ることが考えられる。これに対し、本実施形態の蒸着マスク100を蒸着工程に用いる場合、ワークに接触するのは樹脂層10のみであるので、ワーク側の表面(樹脂層10の第2主面12)が粗面領域を含んでいなくてもワークへのダメージは小さい。樹脂層10の第2主面12が粗面領域を含んでいない構成、つまり、第2主面12が実質的に平坦である構成を採用すると、第2主面12に粗面領域を形成する工程が必要ないので、蒸着マスク100の製造工程の簡略化および製造コストの低減を図ることができる。
【0042】
ここで、蒸着マスク100の他の構成の例を説明する。
【0043】
図3は、樹脂層10の開口部13および金属層20のスリット23の断面形状の例を示す図である。
図3に示すように、開口部13および/またはスリット23は、蒸着源側に向かうにつれて広がるような形状を有していることが好ましい。つまり、開口部13の内壁面および/またはスリット23の内壁面は、テーパ状である(蒸着マスク100の法線方向に対して傾斜している)ことが好ましい。開口部13および/またはスリット23が、このような形状を有していると、シャドウイングの発生を抑制することができる。開口部13の内壁面のテーパ角(蒸着マスク100の法線方向と開口部13の内壁面とがなす角度)θ1、および、スリット23の内壁面のテーパ角(蒸着マスク100の法線方向とスリット23の内壁面とがなす角度)θ2は、特に制限されないが、例えば25°以上65°以下である。
【0044】
図4および
図5を参照しながら、開口部13および/またはスリット23の内壁面がテーパ状であることによってシャドウイングの発生が抑制される理由を詳しく説明する。
【0045】
図4および
図5は、蒸着マスク100を用いた蒸着工程(ワークである基板50上に蒸着膜51を形成する工程)を模式的に示す図である。
図4は、開口部13およびスリット23の内壁面がテーパ状でない(つまり蒸着マスク100の法線方向に対して略平行である)場合を示しており、
図5は、開口部13およびスリット23の内壁面がテーパ状である場合を示している。なお、
図4および
図5では、樹脂層10および金属層20の表面における凹凸形状の図示を省略している。
【0046】
図4および
図5に示す例では、蒸着源52が基板50に対して相対的に左から右に移動しながら(つまり走査方向は左から右)蒸着が行われる。蒸着材料は、蒸着源52から、蒸着マスク100の法線方向にだけでなく、斜め方向(法線方向に対して傾斜した方向)にも放出される。ここでは、蒸着材料の広がり角をθとする。また、蒸着マスク100の法線方向をD1、方向D1に対して走査方向に(つまり右側に)θ傾斜した方向をD2、走査方向と反対方向に(つまり左側に)θ傾斜した方向をD3とする。
図5に示す例では、開口部13のテーパ角θ1およびスリット23のテーパ角θ2は、蒸着材料の広がり角θと同じである。
【0047】
図4および
図5には、樹脂層10のある開口部13内に蒸着膜51が堆積される期間の始期(時刻t
0)における蒸着源52の位置と、終期(時刻t
1)における蒸着源52の位置とが示されている。時刻t
0は、蒸着源52から放出された蒸着材料が開口部13内に到達し始める時刻であり、このとき、蒸着源52から方向D2に延びる仮想直線L1は、開口部13の蒸着源52のエッジをちょうど通る。また、時刻t
1は、蒸着源52から放出された蒸着材料が開口部13内に到達しなくなる時刻であり、このとき、蒸着源52から方向D3に延びる仮想直線L2は、開口部13の蒸着源52側のエッジをちょうど通る。
【0048】
図4に示す例では、時刻t
0における蒸着材料の到達点(仮想直線L1と基板50の表面との交点)P1から時刻t
1における蒸着材料の到達点(仮想直線L2と基板50の表面との交点)P2までの間の領域では、蒸着膜51は所望の厚さで形成される。しかしながら、その外側の領域(走査方向における開口部13の一端から点P1までの領域と、走査方向における開口部13の他端から点P2までの領域)では、蒸着膜51は所望の厚さよりも薄くなる。この部分(所望の厚さよりも薄く形成された部分)は、シャドウと呼ばれる。シャドウの幅wは、樹脂層10の厚さdと、蒸着材料の広がり角θを用いて、w=d・tanθと表わされる。つまり、シャドウの幅wは、樹脂層10の厚さdに比例する。
【0049】
これに対し、
図5に示す例では、時刻t
0における蒸着材料の到達点P1および時刻t
1における蒸着材料の到達点P2が、走査方向における開口部13の両端に位置する。そのため、蒸着膜51はその全体にわたって所望の厚さで形成される。つまり、シャドウは形成されない。このように、開口部13および/またはスリット23の内壁面がテーパ状であることにより、シャドウイングの発生を抑制することができる。
【0050】
図6は、金属層20の平面形状(蒸着マスク100の法線方向から見たときの形状)の他の例を示している。
図6に示すように、金属層20は、全体として格子状であってもよい。つまり、行方向だけでなく列方向にも2以上のスリット23が並んでいてもよい。このように、金属層20は、樹脂層10の複数の開口部13を露出させ、且つ、樹脂層10を十分に支持できる限り、どのような形状であってもよい。
【0051】
(粗面領域について)
本願明細書において、「粗面領域」は、実質的に平坦でないと見なせる程度の凹凸形状を有する領域を指す。具体的には、粗面領域は、表面粗さ(算術平均粗さ)Raが50nm以上の領域である。
【0052】
図7に、粗面領域Rの断面構造を拡大して示す。
図7に示すように、粗面領域Rは、微細な凸部1および凹部2を有する。
図7には、凸部1および凹部2の断面形状の輪郭を略円弧状に例示しているが、凸部1および凹部2の断面形状は例示しているものに限定されない。
【0053】
粗面領域Rは、樹脂層または金属層(金属板)の平坦な表面に対して粗面化処理を行うことにより形成することができる。粗面化処理は、機械的な粗面化処理(例えばブラスト処理)であってもよいし、化学的な粗面化処理(例えばエッチング処理)であってもよく、プラズマ処理であってもよい。また、樹脂材料から樹脂層を形成する際、または、金属材料から金属層(金属板)を形成する際に、表面がもともと粗面領域Rを含むように形成される方法を用いてもよい。
【0054】
蒸着材料の剥がれを抑制する効果および樹脂層10と金属層20との接合を強固にする効果を十分に高くする観点からは、粗面領域Rにおける表面粗さRaは、ある程度以上大きいことが好ましく、具体的には、0.1μm以上であることが好ましい。ただし、樹脂層10の第1主面11の粗面領域Rについては、表面粗さRaが1.5μmを超えると、樹脂層10の厚さによっては粗面領域Rの形成自体が困難になる(簡便な方法で形成することが難しい)ことがあるので、粗面領域Rの形成のし易さの観点からは、粗面領域の表面粗さRaは1.5μm以下であることが好ましい。
【0055】
また、上述した効果は、粗面領域Rの形成による表面積の増加率(表面が平坦な場合と比較したときの増加率)によっても見積もることができる。上述した効果を十分に高くする観点からは、表面積増加率が120%以上であることが好ましく、150%以上であることがより好ましい。
【0056】
凸部1のピッチPに特に制限はない。ただし、ピッチPに対する表面粗さRaの比Ra/Pが大きくなりすぎると、凸部1および凹部2の形状によっては、簡便な方法で粗面領域Rを形成することが困難になるおそれがある。そのため、Ra/Pは1未満であることが好ましく、1/2以下であることがより好ましい。
【0057】
凸部1および凹部2の断面形状の輪郭が略円弧状である場合について、表面粗さRaが1μm、ピッチPが4μmのとき(つまりRa/P=1/4のとき)の表面積増加率を試算したところ、157%であり、洗浄周期を十分に長くできることがわかった。
【0058】
また、サイズが大きく異なる凹凸形状が混在していてもよい。例えば、
図8に示すように、相対的に大きな(例えばμmオーダー)凸部1および凹部2が、相対的に小さな(例えばnmオーダー:具体的には数百nm)凸部3および凹部4をその表面に有していてもよい。このような構成により、蒸着材料の剥がれを抑制する効果および樹脂層10と金属層20との接合を強固にする効果をいっそう高くすることができる。
【0059】
(蒸着マスクの製造方法)
図9(a)〜(e)を参照しながら、蒸着マスク100の製造方法の例を説明する。
図9(a)〜(e)は、蒸着マスク100の製造工程を示す工程断面図である。
【0060】
まず、
図9(a)に示すように、互いに対向する2つの主面21’および22’を有する支持基板20’を用意する。ここでは、支持基板20’として、金属板を用意する。
【0061】
次に、
図9(b)に示すように、金属板20’の主面21’および22’のそれぞれに、粗面化処理を行うことによって凹凸形状を有する粗面領域を形成する。粗面化処理としては、公知の種々の粗面化処理を用いることができる。粗面化処理として例えばサンドブラスト処理を行う場合、投射材の粒径などを調節することにより、所望のサイズの凹凸形状を形成することができる。
図8に示した構造(サイズが大きく異なる凹凸形状が混在する構造)を形成する場合には、投射材の粒径を変えて複数回投射を行えばよい。
【0062】
続いて、
図9(c)に示すように、金属板20’の主面21’および22’の一方22’上に樹脂材料を付与することによって、樹脂層10を形成する。ここでは、溶媒に溶かした樹脂材料を主面22’上に塗布し、その後焼成することによって樹脂層10を形成することができる。このとき、得られる樹脂層10の表面(金属板20’側の表面)11には、金属板20’の粗面領域における凹凸形状が転写されている。また、樹脂層10の、金属板20’とは反対側の表面12は、レベリングによって平坦となり得る。樹脂層10の、凹凸形状が転写されている表面11および平坦な表面12が、それぞれ完成した蒸着マスク100における樹脂層10の第1主面11および第2主面12となる。
【0063】
次に、
図9(d)に示すように、金属板20’をパターニングする(複数のスリット23を形成する)ことによって、所定の形状を有する金属層20を得る。金属板20’のパターニングは、例えばフォトリソグラフィプロセスにより行うことができる。金属板20’の2つの主面21’および22’は、それぞれ金属層20の第3主面21および第4主面22となる。
【0064】
その後、
図9(e)に示すように、樹脂層10に複数の開口部13を形成する。開口部13の形成は、例えばレーザ加工によって行うことができる。このようにして、蒸着マスク100が得られる。
【0065】
上述した製造方法によれば、支持基板(金属板)20’の粗面領域における凹凸形状が樹脂層10の表面11に転写される。そのため、樹脂層10の表面11に対して別途粗面化処理を行うことなく、凹凸形状(粗面領域)を形成することができる。また、転写元である支持基板(金属板)20’が蒸着マスク100における金属層20となるので、樹脂層10の第1主面11の非露出部分11aと、金属層20の第4主面22とが、相補的な凹凸形状を有する。そのため、樹脂層10と金属層20とを強固に接合することができる。
【0066】
なお、金属板20’以外の支持基板を転写元として用いてもよい。
図10(a)〜(g)を参照しながら、蒸着マスク100の製造方法の他の例を説明する。
図10(a)〜(g)は、蒸着マスク100の製造工程を示す工程断面図である。
【0067】
まず、
図10(a)に示すように、互いに対向する2つの主面31および32を有する支持基板30を用意する。ここでは、支持基板30として、2つの主面31および32のうちの一方32が粗面領域を含むガラス基板を用意する。このガラス基板30は、平坦な2つの主面を有するガラス基板の一方の主面に粗面化処理を行うことによって得られる。粗面化処理としては、公知の種々の粗面化処理を用いることができる。
【0068】
次に、
図10(b)に示すように、ガラス基板30の、粗面化領域を含む主面32上に樹脂材料を付与することによって、樹脂層10を形成する。例えば、溶媒に溶かした樹脂材料を主面32上に塗布し、その後焼成することによって樹脂層10を形成することができる。このとき、得られる樹脂層10の表面(ガラス基板30側の表面)11には、ガラス基板30の粗面領域における凹凸形状が転写されている。また、樹脂層10の、ガラス基板30とは反対側の表面12は、レベリングによって平坦となり得る。樹脂層10の、凹凸形状が転写されている表面11および平坦な表面12が、それぞれ完成した蒸着マスク100における樹脂層10の第1主面11および第2主面12となる。
【0069】
続いて、
図10(c)に示すように、樹脂層10をガラス基板30から剥離する。樹脂層10の剥離は、例えばレーザリフトオフ法により行うことができる。また、樹脂層10とガラス基板30との密着力が比較的弱い場合には、ナイフエッジなどを用いて機械的に剥離を行ってもよい。樹脂層10とガラス基板30との密着力は、樹脂層10の形成条件(焼成温度等)を調整したり、ガラス基板30に表面処理(撥水処理等)を行ったりすることにより、弱くすることができる。樹脂層10は、ガラス基板30上に形成された後すぐに(他の工程を経ることなく)剥離されてよいので、樹脂層10とガラス基板30との密着力が強い必要はない。
【0070】
上述したようにして樹脂層10を得るのとは別途に、
図10(d)に示すように、互いに対向する2つの主面21’および22’を有する金属板20’を用意する。金属板20’の主面21’および22’のそれぞれは、凹凸形状を有する粗面領域を含んでいる。
【0071】
次に、
図10(e)に示すように、樹脂層10を、凹凸形状を転写された表面11が金属板20’側に位置するように、金属板20’に接合する。例えば、樹脂層10を金属板20’に対して、接着剤により貼り付ける。
【0072】
続いて、
図10(f)に示すように、金属板20’をパターニングする(複数のスリット23を形成する)ことによって、所定の形状を有する金属層20を得る。金属板20’のパターニングは、例えばフォトリソグラフィプロセスにより行うことができる。金属板20’の2つの主面21’および22’は、それぞれ金属層20の第3主面21および第4主面22となる。
【0073】
その後、
図10(g)に示すように、樹脂層10に複数の開口部13を形成する。開口部13の形成は、例えば、レーザ加工によって行うことができる。このようにして、蒸着マスク100が得られる。
【0074】
図10(a)〜(g)を参照しながら説明した製造方法では、凹凸形状の転写元である支持基板(ガラス基板)30を、繰り返し使用することができる。そのため、支持基板30の表面にいったん凹凸形状を所望の仕様で形成しさえすれば、その後は樹脂層10の表面11に所望の仕様の凹凸形状を再現性良く形成できる。本実施形態の蒸着マスク100では、金属層20は、支持体として機能し得るサイズ・形状であればよいので、蒸着源側の表面に占める樹脂層10の第1主面11の割合が、金属層20の第3主面21の割合よりも高いことがある。そのため、樹脂層10の表面11に再現性良く凹凸形状を形成できると、本実施形態の蒸着マスク100による効果を安定して得られる。
【0075】
なお、
図10(a)〜(g)を参照しながら説明した製造方法において、ガラス基板以外の支持基板を用いてもよい。
【0076】
(有機半導体素子の製造方法)
本発明の実施形態による蒸着マスク100は、有機半導体素子の製造方法における蒸着工程に好適に用いられる。
【0077】
以下、有機EL表示装置の製造方法を例として説明を行う。
【0078】
図11は、トップエミッション方式の有機EL表示装置200を模式的に示す断面図である。
【0079】
図11に示すように、有機EL表示装置200は、アクティブマトリクス基板(TFT基板)210および封止基板220を備え、赤画素Pr、緑画素Pgおよび青画素Pbを有する。
【0080】
TFT基板210は、絶縁基板と、絶縁基板上に形成されたTFT回路とを含む(いずれも不図示)。TFT回路を覆うように、平坦化膜211が設けられている。平坦化膜211は、有機絶縁材料から形成されている。
【0081】
平坦化膜211上に、下部電極212R、212Gおよび212Bが設けられている。下部電極212R、212Gおよび212Bは、赤画素Pr、緑画素Pgおよび青画素Pbにそれぞれ形成されている。下部電極212R、212Gおよび212Bは、TFT回路に接続されており、陽極として機能する。隣接する画素間に、下部電極212R、212Gおよび212Bの端部を覆うバンク213が設けられている。バンク213は、絶縁材料から形成されている。
【0082】
赤画素Pr、緑画素Pgおよび青画素Pbの下部電極212R、212Gおよび212B上に、有機EL層214R、214Gおよび214Bがそれぞれ設けられている。有機EL層214R、214Gおよび214Bのそれぞれは、有機半導体材料から形成された複数の層を含む積層構造を有する。この積層構造は、例えば、下部電極212R、212Gおよび212B側から、ホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層および電子注入層をこの順で含んでいる。赤画素Prの有機EL層214Rは、赤色光を発する発光層を含む。緑画素Pgの有機EL層214Gは、緑色光を発する発光層を含む。青画素Pbの有機EL層214Bは、青色光を発する発光層を含む。
【0083】
有機EL層214R、214Gおよび214B上に、上部電極215が設けられている。上部電極215は、透明導電材料を用いて表示領域全体にわたって連続するように(つまり赤画素Pr、緑画素Pgおよび青画素Pbに共通に)形成されており、陰極として機能する。上部電極215上に、保護層216が設けられている。保護層216は、有機絶縁材料から形成されている。
【0084】
TFT基板210の上述した構造は、TFT基板210に対して透明樹脂層217によって接着された封止基板220によって封止されている。
【0085】
有機EL表示装置200は、本発明の実施形態による蒸着マスク100を用いて以下のようにして製造され得る。
図12(a)〜(d)および
図13(a)〜(d)は、有機EL表示装置200の製造工程を示す工程断面図である。なお、以下では、蒸着マスク100を用いてワーク上に有機半導体材料を蒸着する(TFT基板210上に有機EL層214R、214Gおよび214Bを形成する)工程を中心に説明を行う。
【0086】
まず、
図12(a)に示すように、絶縁基板上に、TFT回路、平坦化膜211、下部電極212R、212G、212Bおよびバンク213が形成されたTFT基板210を用意する。TFT回路、平坦化膜211、下部電極212R、212G、212Bおよびバンク213を形成する工程は、公知の種々の方法により実行され得る。
【0087】
次に、
図12(b)に示すように、真空蒸着装置内に保持された蒸着マスク100に、搬送装置によりTFT基板210を近接させて配置する。このとき、樹脂層10の開口部13が赤画素Prの下部電極212Rに重なるように、蒸着マスク100とTFT基板210とが位置合わせされる。また、TFT基板210に対して蒸着マスク100とは反対側に配置された不図示の磁気チャックにより、蒸着マスク100をTFT基板210に対して密着させる。
【0088】
続いて、
図12(c)に示すように、真空蒸着により、赤画素Prの下部電極212R上に、有機半導体材料を順次堆積し、赤色光を発する発光層を含む有機EL層214Rを形成する。このとき、蒸着マスク100の蒸着源側(ワークであるTFT基板210の反対側)の表面にも、有機半導体材料が堆積される。
【0089】
次に、
図12(d)に示すように、搬送装置によりTFT基板210を1画素ピッチ分ずらし、樹脂層10の開口部13が緑画素Pgの下部電極212Gに重なるように、蒸着マスク100とTFT基板210との位置合わせを行う。また、磁気チャックにより、蒸着マスク100をTFT基板210に対して密着させる。
【0090】
続いて、
図13(a)に示すように、真空蒸着により、緑画素Pgの下部電極212G上に、有機半導体材料を順次堆積し、緑色光を発する発光層を含む有機EL層214Gを形成する。このとき、蒸着マスク100の蒸着源側の表面にも、有機半導体材料が堆積される。
【0091】
次に、
図13(b)に示すように、搬送装置によりTFT基板210を1画素ピッチ分さらにずらし、樹脂層10の開口部13が青画素Pbの下部電極212Bに重なるように、蒸着マスク100とTFT基板210との位置合わせを行う。また、磁気チャックにより、蒸着マスク100をTFT基板210に対して密着させる。
【0092】
続いて、
図13(c)に示すように、真空蒸着により、青画素Pbの下部電極212B上に、有機半導体材料を順次堆積し、青色光を発する発光層を含む有機EL層214Bを形成する。このとき、蒸着マスク100の蒸着源側の表面にも、有機半導体材料が堆積される。
【0093】
次に、
図13(d)に示すように、有機EL層214R、214Gおよび214B上に、上部電極215および保護層216を順次形成する。上部電極215および保護層216の形成は、公知の種々の方法により実行され得る。このようにして、TFT基板210が得られる。
【0094】
その後、TFT基板210に対して封止基板220を透明樹脂層217により接着することにより、
図11に示した有機EL表示装置200が完成する。
【0095】
なお、ここでは、1枚の蒸着マスク100を順次ずらすことによって、赤画素Pr、緑画素Pgおよび青画素Prに対応する有機EL層214R、214Bおよび214Gを形成する例を説明したが、赤画素Pr、緑画素Pgおよび青画素Prの有機EL層214R、214Bおよび214Gにそれぞれ対応する3枚の蒸着マスク100を用いてもよい。赤画素Pr、緑画素Pgおよび青画素Prの有機EL層214R、214Bおよび214Gのサイズ・形状が同じである場合には、ここで例示したように1枚の蒸着マスク100を用いてすべての有機EL層214R、214Bおよび214Gを形成することができる。
【0096】
既に説明したように、
図12(c)、
図13(a)および(c)に示す蒸着工程(真空蒸着により有機EL層214R、214Gおよび214Bを形成する工程)において、蒸着マスク100の蒸着源側の表面にも蒸着材料が堆積される。堆積された蒸着材料が予め設定された所定の厚さに達すると、蒸着マスク100の洗浄が行われる。例えば、所定の厚さを1μmに設定し、1回の蒸着により約30nmの成膜が行われるとすると、33回蒸着を行う度に洗浄することになる。蒸着マスク100の洗浄は、例えば、超音波によるウェット洗浄、純水によるリンスおよび減圧乾燥を順次行うことにより実行される。
【0097】
既に説明したように、本実施形態の蒸着マスク100を用いると、蒸着工程において蒸着源側の表面に堆積された蒸着材料が、アンカー効果によって剥がれにくくなる。従って、洗浄周期を従来よりも長く設定することができる。そのため、蒸着マスク100の長寿命化を図ることができる。
【0098】
なお、上記の説明では、トップエミッション方式の有機EL表示装置200を例示したが、本実施形態の蒸着マスク100がボトムエミッション方式の有機EL表示装置の製造にも用いられることはいうまでもない。
【0099】
また、本実施形態の蒸着マスク100を用いて製造される有機EL表示装置は、必ずしもリジッドなデバイスでなくてもよい。本実施形態の蒸着マスク100は、フレキシブルな有機EL表示装置の製造にも好適に用いられる。フレキシブルな有機EL表示装置の製造方法においては、支持基板(例えばガラス基板)上に形成されたポリマ層(例えばポリイミド層)上に、TFT回路などが形成され、保護層の形成後にポリマ層がその上の積層構造ごと支持基板から剥離(例えばレーザリフトオフ法が用いられる)される。TFT基板の封止には、封止基板に代えて封止フィルムが用いられる。
【0100】
また、本実施形態の蒸着マスク100は、有機EL表示装置以外の有機半導体素子の製造にも用いられ、特に、高精細な蒸着パターンの形成が必要とされる有機半導体素子の製造に好適に用いられる。