特許第6496084号(P6496084)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6496084
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】口腔内崩壊錠
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/20 20060101AFI20190325BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20190325BHJP
   A61K 47/38 20060101ALN20190325BHJP
   A61K 47/02 20060101ALN20190325BHJP
   A61K 47/32 20060101ALN20190325BHJP
   A61K 47/26 20060101ALN20190325BHJP
   A61K 47/12 20060101ALN20190325BHJP
   A61K 47/42 20170101ALN20190325BHJP
   A61K 47/36 20060101ALN20190325BHJP
【FI】
   A61K9/20
   A61K9/16
   !A61K47/38
   !A61K47/02
   !A61K47/32
   !A61K47/26
   !A61K47/12
   !A61K47/42
   !A61K47/36
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-523995(P2018-523995)
(86)(22)【出願日】2017年6月15日
(86)【国際出願番号】JP2017022119
(87)【国際公開番号】WO2017217491
(87)【国際公開日】20171221
【審査請求日】2019年2月7日
(31)【優先権主張番号】特願2016-120056(P2016-120056)
(32)【優先日】2016年6月16日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591040753
【氏名又は名称】東和薬品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104639
【弁理士】
【氏名又は名称】早坂 巧
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 勇
(72)【発明者】
【氏名】松島 由貴
(72)【発明者】
【氏名】樺島 広子
(72)【発明者】
【氏名】奥田 豊
【審査官】 山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−218322(JP,A)
【文献】 国際公開第00/54752(WO,A1)
【文献】 特開2003−119122(JP,A)
【文献】 松本光雄ら,薬剤学マニュアル,株式会社南山堂,1989年,第1版,p.49,特に「流動性」欄
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00−9/72
A61K 47/00−47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔内崩壊錠であって,薬効成分を含有する顆粒Aと少なくとも崩壊剤とを含んでなる混合物の圧縮成形体であり,
(a)顆粒Aの平均粒子径が300μmを超えず,
(b)顆粒Aの粒度分布指数が3.0以下であり,且つ
(c)顆粒Aの安息角が38°を超え
顆粒A中の薬効成分の含有量が,顆粒Aの素顆粒重量の少なくとも70重量%を占めるものである
口腔内崩壊錠。
【請求項2】
該口腔内崩壊錠中の顆粒Aの割合が少なくとも25重量%である,請求項1の口腔内崩壊錠。
【請求項3】
(d)顆粒Aのアスペクト比が少なくとも0.7である,請求項1又は2の口腔内崩壊錠。
【請求項4】
口腔内崩壊錠の製造方法であって,薬効成分を含有する顆粒Aと少なくとも崩壊剤とを含んでなる混合物を圧縮成形することを含み,ここに
(a)顆粒Aの平均粒子径が300μmを超えず,
(b)顆粒Aの粒度分布指数が3.0以下であり,且つ
(c)顆粒Aの安息角が38°を超え
顆粒A中の薬効成分の含有量が,顆粒Aの素顆粒重量の少なくとも70重量%を占めるものである
製造方法。
【請求項5】
請求項の製造方法であって,該口腔内崩壊錠中の顆粒Aの割合が少なくとも25重量%である,製造方法。
【請求項6】
(d)顆粒Aのアスペクト比が少なくとも0.7である,請求項4又は5の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,錠剤製造の分野,特に口腔内崩壊錠の分野に関し,十分な硬度を備えしかも水の存在下では迅速に崩壊することを特徴とする口腔内崩壊錠に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔内崩壊錠剤は,口に含むと短時間で嚥液により錠剤全体が崩壊するように設計される錠剤であり,高齢者や小児にとって服用し易い剤形として開発されている(特許文献1〜3)
【0003】
口腔内崩壊錠は,口腔内で水分(唾液)に触れると速やかに崩壊する,という特性を有することが必要である。その一方で,錠剤として生産され,梱包され,出荷され,様々な状況下で運送されて,医療施設や薬局で保管され,そこで包装(PTP包装等)から圧し出され分包されて別の包装で患者に渡されたり,或いは患者のもとで服用直前にPTP包装から圧し出されたりするという,口腔内に入れられるまでの間に想定し得る様々な取り扱い状況において,振動や衝撃,圧力等の外力によって途中で割れたり,崩れたり,摩耗したりすることなく,錠剤としての元の完全な形態が維持できるものでなければならない。そのため,それらの外力に耐え得る十分な硬度を備えている必要がある。然るに,崩壊し易さと十分な硬度というこれら2つの特性を十分に両立させることは容易ではない。薬効成分,賦形剤,その他の添加剤等の錠剤の構成材料が強固に結びついている程,硬度は高まるが,その分崩壊し難くなるという強い傾向があり,逆に,成分同士の結びつきが弱い程,崩壊性は高まる傾向にあるが,硬度が不足することになり,錠剤に破壊や摩耗が生じ易くなってしまうからである。このため,それら相反する面を持つ両特性をバランスよく兼ね備えた口腔内崩壊錠の提供や,十分な硬度を達成しつつ,崩壊性を高めて口腔内崩壊錠の性能を改善するために,開発が進められてきた(特許文献4〜8)。
【0004】
他方,急速に進みつつある社会の老齢化は,口腔内崩壊錠という製剤形態の必要性を増大させる一要因である。このため,既存の種々の薬物で汎用されているタイプの経口剤についても,口腔内崩壊錠の形態が一層求められるようになる潜在的可能性がある。そのような社会的要請が生じたときこれに合致できるよう,口腔内崩壊錠の形態が,特定の医薬に限らず広範な種々の医薬について確実に利用できることが,また,崩壊速度を更に高めた口腔内崩壊錠を提供できることも,望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭58−24410号公報
【特許文献2】特表平6−502194号公報
【特許文献3】WO95/20380号公報
【特許文献4】特許第4551627号公報
【特許文献5】特許第5584509号公報
【特許文献6】特許第5062761号公報
【特許文献7】特許第5062872号公報
【特許文献8】特許第4446177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の背景において,経口で投与される医薬について十分な硬度を備えつつ,水の存在下により迅速な崩壊をもたらすことができる,特性の優れた口腔内崩壊錠を素早く製剤化できるようにする手段が必要である点に,本発明者は着目した。
【0007】
従って,本発明は,経口投与される種々の薬物について,硬度及び崩壊特性に共に優れた口腔内崩壊錠の形で迅速に製剤化するのに利用できる汎用性のある製剤化手段を見出し,そのような優れた性能の口腔内崩壊錠の速やかな提供を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的に沿って研究の結果,本発明者らは,有効成分である薬物を含む顆粒(薬効成分含有顆粒)が,ある特定の粒度分布特性と物理特性を有する場合に,当該顆粒を用いて製造した錠剤が,十分高い硬度においても優れた崩壊特性を示すことを見出し,更に検討を重ねて本発明を完成させた。即ち,本発明は以下を提供するものである。
【0009】
1.口腔内崩壊錠であって,薬効成分を含有する顆粒Aと少なくとも崩壊剤とを含んでなる混合物の圧縮成形体であり,
(a)顆粒Aの平均粒子径が300μmを超えず,
(b)顆粒Aの粒度分布指数が3.0以下であり,且つ
(c)顆粒Aの安息角が38°を超えないものである,
口腔内崩壊錠。
2.顆粒A中の薬効成分の含有量が,顆粒Aの素顆粒重量の少なくとも70重量%を占めるものである,上記1の口腔内崩壊錠。
3.該口腔内崩壊錠中の顆粒Aの割合が少なくとも25重量%である,上記1又は2の口腔内崩壊錠。
4.(d)顆粒Aのアスペクト比が少なくとも0.7である,上記1〜3の何れかの口腔内崩壊錠。
5.口腔内崩壊錠の製造方法であって,薬効成分を含有する顆粒Aと少なくとも崩壊剤とを含んでなる混合物を圧縮成形することを含み,ここに
(a)顆粒Aの平均粒子径が300μmを超えず,
(b)顆粒Aの粒度分布指数が3.0以下であり,且つ
(c)顆粒Aの安息角が38°を超えないものである,
製造方法。
6.上記5の製造方法であって,顆粒A中の薬効成分の含有量が,顆粒Aの素顆粒重量の少なくとも70重量%を占めるものである,製造方法。
7.上記5又は6の製造方法であって,該口腔内崩壊錠中の顆粒Aの割合が少なくとも25重量%である,製造方法。
8.(d)顆粒Aのアスペクト比が少なくとも0.7である,上記5〜7の何れかの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
上記の各構成になる本発明によれば,種々の薬効成分含有顆粒を,その薬効成分が何であるかに関わりなく,高い硬度を持ちながら水の存在下では極めて迅速に崩壊する口腔内崩壊錠を,容易に製造することが可能となる。こうして本発明は,種々の薬物について,硬度特性及び崩壊速度との双方に優れた口腔内崩壊錠の迅速,確実且つ容易な提供を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は,実施例1に係る顆粒Aのコーティング前における素顆粒の図面代用走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図2図2は,実施例1に係る顆粒Aの図面代用走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図3図3は,実施例3に係る顆粒Aの図面代用走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図4図4は,比較例1に係る顆粒Aの図面代用走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図5図5は,実施例4に係る顆粒Aのコーティング前における素顆粒の図面代用走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
図6図6は,実施例4に係る顆粒Aの図面代用走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において,「薬効成分含有顆粒」の語は,治療又は予防対象である疾患に向けられた医薬を配合してなる顆粒を包括的に意味する。ここに「薬効成分」は,治療又は予防の対象に応じて適宜選択することができ,特定の具体的な医薬には限定されない。本発明の本質が,顆粒の形態的及び物理的な特性の組合せに存するからである。
【0013】
本発明は,具体的組成に依存しない所定範囲の物理的特性を備えた薬効成分含有顆粒と少なくとも崩壊剤とを含む混合物を打錠して得られる口腔内崩壊錠が,高い硬度と水の存在下での優れた崩壊性とを両立させる,という発見に基づいており,従って,薬効成分含有顆粒を構成する具体的な成分については,薬効成分を含め,特に限定されない。
【0014】
例えば,薬効成分含有顆粒には,薬効成分以外に,賦形剤,結合剤,及び甘味剤等の薬学的に許容される添加剤を含んでよい。前記賦形剤の具体例としては,D−マンニトール,乳糖,キシリトール,マルトース,マルチトール,トレハロース,白糖,結晶セルロース,トウモロコシデンプン,リン酸水素Ca,無水リン酸水素Ca等が挙げられ,前記結合剤の具体例としては,ヒプロメロース,ポリビニルピロリドン,ポリビニルアルコール,カルボキシビニルポリマー,カルボキシメチルエチルセルロース,ヒドロキシエチルセルロース,メタクリル酸コポリマー,エチルセルロース,アミノアルキルメタクリレートコポリマー,ヒドロキシプロピルセルロース,メチルセルロース,プルラン等が挙げられるが,これらに限定されない。
【0015】
本発明において,崩壊剤は,本発明の効果を損なわない限り特に限定されず,具体例としては,白糖,乳糖,トレハロース,マルトース等の糖類;D−マンニトール,キシリトール,マルチトール等の糖アルコール類;トウモロコシデンプン,カルボキシメチルスターチナトリウム(プリモジェル),部分アルファー化デンプン(PCS)等の澱粉又は澱粉誘導体;結晶セルロース,低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース類;カルメロース,カルメロースカルシウム,クロスカルメロースナトリウム(アクジゾル)等のカルメロース類;クロスポビドン,リン酸水素Ca,無水リン酸水素Ca等が挙げられるが,これらに限定されない。
本発明において,口腔内崩壊錠には,上記成分以外にも,薬学的に許容可能な添加剤を,本発明の効果を損なわない範囲内で,必要に応じて適宜配合することができる。
【0016】
本発明にいう「薬効成分を含有する顆粒Aと少なくとも崩壊剤とを含んでなる混合物」は,顆粒A及び崩壊剤に加えて他の慣用の添加剤(賦形剤,結合剤,及び甘味剤等)を含んでいてもよく,それらの添加剤は,粉末の形態でも顆粒の形態でも,また両者の混合物であってもよい。
【0017】
本発明において,薬効成分含有顆粒(顆粒A)の平均粒子径は300μmを超えないことが好ましく,280μmを超えないことがより好ましく,250μmを超えないことが特に好ましい。
【0018】
上記において,「平均粒子径」とは,篩い分け法により測定される粒度分布(重量基準)の50%粒子径(D50)をいう。なお,後述の実施例及び比較例においては,JIS Z8801に準拠した標準篩8種(22,30,42,60,83,100,140,200メッシュ)を用いて,篩い分け測定器(株式会社セイシン社製の連続全自動音波振動式篩い分け測定器ロボットシフターRPS-205)により,顆粒の粒度分布を測定した。
【0019】
本発明において,顆粒Aの粒度分布指数は,3.0以下であることが好ましく,2.5以下であることがより好ましく,2.0以下であることが更に好ましく,1.81以下であることが尚も更に好ましく,1.7以下であることが特に好ましい。
【0020】
ここに,「粒度分布指数」とは,粒度分布の広がりの程度を表す指標であり,次の式により定義される値をいう。粒度分布指数が1に近い程,粒子の分布が平均粒子径の近くに集中している。
粒度分布指数=(D50/D10+D90/D50)/2
上の式中,「D10」及び「D90」とは,それぞれ,篩い分け法により測定される粒度分布の10%粒子径及び90%粒子径をいう。
【0021】
本発明において,顆粒Aは,安息角が38°を超えないことが好ましく,36°を超えないことがより好ましく,33°を超えないことが更に好ましい。
【0022】
ここに,「安息角」とは,水平面上に堆積された顆粒の集まりの表面層が,静止状態を保つことができる水平面との間の最大角をいい,本発明において,安息角は,具体的には,第十七改正日本薬局方の「安息角測定法」に準拠して測定される値である。
【0023】
本発明において,顆粒A中の薬効成分の含有量は,顆粒Aの素顆粒重量の少なくとも70重量%を占めることが好ましい。ここに,「素顆粒」とは,顆粒Aがコーティングされている場合は,顆粒A中のコーティング層を含まない部分をいい,顆粒Aがコーティングされていない場合には,顆粒Aそれ自体と同義である。
【0024】
本発明において,該口腔内崩壊錠中の顆粒Aの割合は,少なくとも25重量%であることが好ましく,少なくとも30重量%であることがより好ましい。
【0025】
口腔内崩壊錠の崩壊時間は,顆粒Aを構成する粒子の形状が球に近いと短くなるという傾向が,本発明者により見出された。このため顆粒Aを構成する粒子はアスペクト比がある程度大きい方が好ましく,例えば,0.7以上とし,そのような顆粒を用いて口腔内崩壊錠を製造することがより好ましい。
【0026】
なお本発明において,「アスペクト比」とは,粒子の形状を表す指標であり,ISO 9276−6において,粒子の「フェレー幅/ISO最大長」と定義されている。ここに,粒子の「フェレー幅」(又は「最少フェレー径」)とは,撮影された粒子につきその投影像を挟む平行な2直線の間隔(フェレー径)のうち最少のものをいい,粒子の「ISO最大長」とは,当該粒子の投影像の輪郭線上の任意の2点をそれらの間の長さが最大になるように選択したときの長さをいう。従って,真球の粒子において,アスペクト比は1(最大値)をとる。顆粒Aのアスペクト比は,測定プレート上に分散させた粒子サンプルを顕微鏡等で撮影して得られた画像上で,フェレー幅とISO最大長を粒子毎に計測しそのアスペクト比を算出し,収集されたデータを統計処理することにより得られる。例えば,走査型電子顕微鏡proX PREMIUM II(ジャスコインタナショナル(株))をこの目的で用いることができる。
【実施例】
【0027】
以下,実施例を参照して本発明を更に具体的に説明するが,本発明がそれらの実施例に限定されることは意図しない。
【0028】
〔実施例1〜2〕
次の表に示す組成の錠剤となる比率で各成分を用い,後述の手順に従って,実施例1及び2の口腔内崩壊錠を製造した。
【0029】
【表1】
【0030】
<製造手順>
1.実施例1
(1)薬効成分含有顆粒(顆粒A)の製造
セルトラリン塩酸塩と,D−マンニトール及びヒドロキシプロピルセルロースからなる造粒用添加剤とを混合しつつ,これに精製水を加えて造粒し,乾燥させ,整粒して素顆粒を得た。素顆粒中のセルトラリンの割合は80重量%である。この素顆粒を流動層造粒装置に投入し,これに,ヒプロメロースの水溶液にタルクを分散させて得た分散液を噴霧することにより素顆粒をコーティングし,乾燥させ,整粒して整粒末を得た。整粒末を流動層造粒装置に投入し,これに,アミノアルキルメタクリレートコポリマーEの無水エタノール溶液と精製水との混合液にタルクを分散させて得た分散液を噴霧することにより,素顆粒をコーティングし,エタノール水溶液で経路を洗浄した後,顆粒を乾燥させ,整粒して,薬効成分含有顆粒(顆粒A)を得た。
【0031】
顆粒Aにつき,安息角(°)を計測し,且つ粒度を測定して粒度分布指数を求めた。また顆粒Aコーティング前のもの(素顆粒)についても,粒度を測定して粒度分布指数を求めた。また,顆粒Aのアスペクト比を,走査型電子顕微鏡proX PREMIUM II(ジャスコインタナショナル(株))を用いて求めた。自動画像分析により粒子径と粒子形状のデータを収集し,分析した。
顆粒Aのコーティング前の素顆粒の電子顕微鏡(SEM)画像を図1に,顆粒Aの電子顕微鏡(SEM)画像を図2に示す。
【0032】
(2)薬効成分不含顆粒(顆粒B)
D−マンニトール,セルロース化合物,デンプン,クロスポビドン,軽質無水ケイ酸からなる顆粒成分(崩壊剤を含む)を用いて,流動層造粒により常法に従って造粒,乾燥,整粒して,薬効成分不含顆粒(顆粒B)を製造した。
【0033】
(3)混合,打錠
顆粒A,顆粒B,スクラロース,酸化チタン,軽質無水ケイ酸及び香料を混合し,これに更にステアリン酸マグネシウムを添加・混合して,12kN,14kN及び16kNの3通りの打圧でそれぞれ打錠することにより,実施例1の口腔内崩壊錠を得た。
【0034】
2.実施例2
実施例1と同じ顆粒Aを用いた。顆粒A,結晶セルロース及びクロスポビドン(崩壊剤)を混合し,これに更にステアリン酸マグネシウムを添加・混合して,8kN,10kN及び12kNの3通りの打圧でそれぞれ打錠することにより,実施例2の口腔内崩壊錠を得た。
【0035】
〔実施例3,3A〜3D,及び比較例1〕
次の表に示す組成の錠剤となる比率で各成分を用い,後述の手順に従って,実施例3及び比較例1の口腔内崩壊錠を製造した。
【0036】
【表2】
【0037】
<製造方法>
1.実施例3
(1)薬効成分含有顆粒(顆粒A)
イルべサルタンと,D−マンニトール,クロスカルメロースナトリウム,及びヒプロメロースからなる造粒用添加剤1と,スクラロース(甘味剤)とを混合して,造粒し,これに,クエン酸水和物及びヒプロメロースからなる造粒用添加剤2を水溶液として噴霧し,乾燥させ,整粒して,薬効成分含有顆粒(顆粒A)を製造した。顆粒A中のイルべサルタンの割合は,74.2重量%である。
顆粒Aにつき,安息角(°)を計測し,且つ粒度を測定して粒度分布指数を求め,更にアスペクト比も求めた。また,顆粒Aの電子顕微鏡(SEM)画像を図3に示す。
【0038】
(2)薬効成分不含顆粒(顆粒B)
D−マンニトール,セルロース化合物,デンプン,クロスポビドン,軽質無水ケイ酸からなる顆粒成分(崩壊剤を含む)を用いて,流動層造粒により常法に従って造粒,乾燥,整粒して,薬効成分不含顆粒(B顆粒)を製造した。
【0039】
(3)混合,打錠
顆粒A,顆粒B,クロスポビドン,カルメロース,軽質無水ケイ酸及び香料を混合し,これに更にステアリン酸マグネシウムを添加・混合して,打圧13kNで打錠することにより,実施例3の口腔内崩壊錠を得た。
【0040】
2.実施例3A〜3D
製粒条件を4通りに変更した以外は実施例3と同様にして顆粒Aを得,その安息角(°)を計測し,且つ粒度を測定して粒度分布指数を求め,更にアスペクト比も求めた。この顆粒Aを用い,これに実施例3と同様に,顆粒B,クロスポビドン,カルメロース,軽質無水ケイ酸及び香料を混合し,更にステアリン酸マグネシウムを添加・混合し,但し打錠圧は6kN又及び8kNの2通りとして,それぞれ打錠することにより,実施例3A〜実施例3Dの口腔内崩壊錠を得た。
【0041】
3.比較例1
実施例3の顆粒Aと同様にして,但し,粒度分布が異なるように製粒条件を変えて,顆粒Aを製造した。顆粒Aにつき,安息角(°)を計測し,且つ粒度を測定して粒度分布指数を求め,更にアスペクト比も求めた。また,顆粒Aの電子顕微鏡(SEM)画像を図4に示す。
【0042】
薬効成分不含顆粒(顆粒B)も実施例3と同様にして製造し,顆粒A,顆粒B及び添加剤を実施例3と同様に用いて,打圧8kNで打錠することにより,比較例1の口腔内崩壊錠を得た。
【0043】
〔実施例4〕
次の表に示す組成の錠剤となる比率で各成分を用い,後述の手順に従って,実施例4の口腔内崩壊錠を製造した。
【表3】
【0044】
<製造手順>
(1)薬効成分含有顆粒(顆粒A)の製造
プレパガリンと,トウモロコシデンプン及びポビドンからなる造粒用添加剤とを混合して流動層造粒装置に投入し,これに精製水を噴霧して造粒し,乾燥及び整粒を経て,素顆粒を得た。素顆粒中のプレガバリンの割合は79.9重量%である。素顆粒を流動層造粒装置に投入し,これに,アミノアルキルメタクリレートコポリマーEの溶液(エタノール/水)にタルクを分散させて得た分散液を噴霧してコーティングし,乾燥させ,整粒して,顆粒Aを得た。顆粒Aにつき,安息角(°)を計測し,且つ粒度を測定して粒度分布指数を求め,更にアスペクト比も求めた。また顆粒Aコーティング前のもの(素顆粒)についても,粒度を測定して粒度分布指数を求めた。
【0045】
顆粒Aのコーティング前の素顆粒の電子顕微鏡(SEM)画像を図5に,顆粒Aの電子顕微鏡(SEM)画像を図6に示す。
【0046】
(2)薬効成分不含顆粒(顆粒B)
D−マンニトール,セルロース化合物,デンプン,クロスポビドン,軽質無水ケイ酸からなる顆粒成分(崩壊剤を含む)を用いて,流動層造粒により常法に従って造粒し,乾燥させ,整粒して薬効成分不含顆粒(顆粒B)を製造した。
【0047】
(3)混合・打錠
顆粒A,顆粒B,D−マンニトール及びアスパルテームを混合し,これにステアリン酸マグネシウムを添加・混合して,12kN,14kN及び16kNの3通りの打圧でそれぞれ打錠することにより,実施例4の口腔内崩壊錠を得た。
【0048】
〔評価〕
各実施例及び比較例1の各口腔内崩壊錠について,各打圧での口腔内崩壊錠の硬度及び崩壊時間(日局)を,次のとおりにして測定した。
1.崩壊時間(日局)
崩壊試験器(日本薬局方準拠)を用いた。ガラス容器に37℃の水900mLを入れ,錠剤を入れたバスケット(底部が網状)を容器の水中で上下運動させ,錠剤が崩れきるまでの時間を測定した。
2.硬度
硬度計(TBH 425,ERWEKA社)を用いた。当該装置は,錠剤を順次冶具へと送り,冶具によりに錠剤の横方向から挟んで徐々に加圧して,錠剤が割れた時点の負荷(N)を測定するものである。
【0049】
各口腔内崩壊錠の測定結果を,各顆粒Aの安息角,粒度分布及び粒度分布指数,並びにアスペクト比と共に,以下の表にまとめて示す。実施例1,2及び実施例4については,併せて素顆粒の粒度分布と粒度分布指数も示す。
【0050】
【表4】
【0051】
結果に見られるように,実施例1の口腔内崩壊錠3種は,88N,92N及び120Nという高い硬度を有するにも拘わらず,それぞれ15秒,17秒及び21秒の崩壊時間という,迅速な崩壊性を示している。実施例2の口腔内崩壊錠3種も,82N,105N及び117Nという高い硬度を有していながら,それぞれ12秒,13秒及び17秒の崩壊時間という,非常に速やかな崩壊性を備えている。更には,実施例3の口腔内崩壊錠及び実施例4の口腔内崩壊錠3種も,それぞれ82N,89N,108.7N及び116.7Nという高い硬度を有しつつ,19秒,21秒,23秒及び25秒という優れた崩壊特性を示している。
【0052】
また,実施例1における水準3での硬度120N,実施例2での水準2及び3での硬度それぞれ105N及び117N,実施例4での硬度108.7N及び116.7Nと比べると,比較例1の口腔内崩壊錠は,98Nという相対的に低い硬度であるにも拘らず,崩壊時間は逆に39秒と非常に長い。このことは,比較例1の口腔内崩壊錠に比べて,実施例において打錠に供される組成物それ自体が,比較例1の構成に比べて,同等の硬度でも顕著に優れた崩壊特性を与えるものであることを示している。
【0053】
また,実施例1及び2は,同じ顆粒Aを共通に用い,一方(実施例1)ではこれに別の顆粒(崩壊剤を含む顆粒B)と滑沢剤とを組合せ,他方(実施例2)では顆粒Bの代わりに同量の添加剤(崩壊剤を含む)を粉末のまま用いて打錠したものであるが,共に優れた崩壊特性を備えている。このことは,実施例における優れた崩壊性は,顆粒Aと組み合わせる崩壊剤が顆粒(顆粒B)であるか粉末であるかに拠らず,顆粒Aの特性に起因して優れた崩壊性がもたらされるものであることを示している。
【0054】
更に,実施例の顆粒Aは何れも安息角が38°以下であり高い流動性を有すると共に,粒度分布指数が何れも3.0以下と,粒径が平均粒子径の近くに集中している度合いが高い。これに比べ,比較例1の顆粒Aは,41°という大きな安息角を有して流動性に劣り,同時に粒度分布指数が3.37と大きく,大小の粒径範囲に粒径が大きく広がった粒度分布を示している。これらのことは,顆粒Aにおける相対的に小さな安息角と小さな粒度分布指数との組合せが,実施例の口腔内崩壊錠に高い硬度と優れた崩壊性という特性をもたらすものであることを示している。
【0055】
加えて,同一組成の実施例3A〜3Dにおいて,同一打錠圧で製造した錠剤間で,顆粒Aのアスペクト比が高い方が崩壊時間が短くなる傾向が認められ,これらのうち,実施例3Dに比べて,アスペクト比が0.7以上の顆粒Aを用いた実施例3A〜3Cの方が,硬度と崩壊時間とのバランスのより優れた口腔内崩壊錠を与え得ることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は,経口投与で用いられる広範な種々の医療用薬物について,十分に高い硬度と水の存在下での極めて優れた崩壊性を併せ持つ口腔内崩壊錠を,確実かつ迅速に提供することを可能にするものとして,有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6