特許第6496085号(P6496085)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6496085-口腔内崩壊錠 図000006
  • 特許6496085-口腔内崩壊錠 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6496085
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】口腔内崩壊錠
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/20 20060101AFI20190325BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20190325BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20190325BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20190325BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20190325BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20190325BHJP
【FI】
   A61K9/20
   A61K47/26
   A61K47/32
   A61K47/36
   A61K47/38
   A61K47/02
【請求項の数】17
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-523996(P2018-523996)
(86)(22)【出願日】2017年6月15日
(86)【国際出願番号】JP2017022124
(87)【国際公開番号】WO2017217494
(87)【国際公開日】20171221
【審査請求日】2019年2月7日
(31)【優先権主張番号】特願2016-120015(P2016-120015)
(32)【優先日】2016年6月16日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591040753
【氏名又は名称】東和薬品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104639
【弁理士】
【氏名又は名称】早坂 巧
(72)【発明者】
【氏名】奥嶋 智明
(72)【発明者】
【氏名】中村 慶吾
(72)【発明者】
【氏名】奥田 豊
【審査官】 天野 貴子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−515871(JP,A)
【文献】 特開2015−078182(JP,A)
【文献】 特開2004−315483(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/120548(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/035114(WO,A1)
【文献】 国際公開第2017/061426(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/20
A61K 47/02
A61K 47/26
A61K 47/32
A61K 47/36
A61K 47/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔内崩壊錠であって,
a.薬効成分含有粉末及び薬効成分含有顆粒からなる群より選ばれる薬効成分含有組成物と,迅速崩壊性顆粒と,滑沢剤とを含む混合物の圧縮成形体であり,
b.該迅速崩壊性顆粒が,糖アルコールと有機及び無機の親水性且つ非水溶性の添加剤とを含んでなるものであ
(i) 該有機の親水性且つ非水溶性の添加剤として,デンプン又はデンプン誘導体,クロスポビドン及びエチルセルロースを含み,
(ii) 該無機の親水性且つ非水溶性の添加剤が,軽質無水ケイ酸又はメタケイ酸アルミン酸マグネシウムである
口腔内崩壊錠。
【請求項2】
該薬効成分含有顆粒が,薬効成分と,賦形剤,崩壊剤,及び結合剤を含んでなるものである,請求項1の口腔内崩壊錠。
【請求項3】
該迅速崩壊性顆粒中の無機の親水性且つ非水溶性の添加剤の含有割合が0.3〜5重量%である,請求項1又は2の何れかの口腔内崩壊錠。
【請求項4】
該迅速崩壊性顆粒中の有機の親水性且つ非水溶性の添加剤の含有割合が10〜40重量%である,請求項1〜の何れかの口腔内崩壊錠。
【請求項5】
該迅速崩壊性顆粒中の糖アルコールの含有割合が55〜85重量%である,請求項1〜の何れかの口腔内崩壊錠。
【請求項6】
該糖アルコールがマンニトールである,請求項1〜の何れかの口腔内崩壊錠。
【請求項7】
該迅速崩壊性顆粒の平均粒径が10〜300μmである,請求項1〜の何れかの口腔内崩壊錠。
【請求項8】
該薬効成分含有顆粒と該迅速崩壊性顆粒との合計量おける該迅速崩壊性顆粒の割合が45〜70重量%である,請求項1〜の何れかの口腔内崩壊錠。
【請求項9】
請求項1〜の何れかに記載の迅速崩壊性顆粒。
【請求項10】
口腔内崩壊錠の製造方法であって,
a.薬効成分含有粉末及び薬効成分含有顆粒からなる群より選ばれる薬効成分含有組成物を準備するステップと,
b.無機の親水性且つ非水溶性の添加剤と,糖アルコールと,有機の親水性且つ非水溶性の添加剤とを含む混合物の流動層に,有機の親水性且つ非水溶性の添加剤の1種又は2種以上を含む水性懸濁液を噴霧して造粒することを含む,迅速崩壊性顆粒の造粒ステップであって
(i) 該有機の親水性且つ非水溶性の添加剤が,デンプン又はデンプン誘導体,クロスポビドン及びエチルセルロースであり,
(ii) 該無機の親水性且つ非水溶性の添加剤が,軽質無水ケイ酸又はメタケイ酸アルミン酸マグネシウムである
ステップと,
c.該薬効成分含有組成物と該迅速崩壊性顆粒とを混合し,少なくとも滑沢剤を添加して圧縮成形するステップを含むものである,
口腔内崩壊錠の製造方法。
【請求項11】
該薬効成分含有顆粒が,薬効成分と,賦形剤,崩壊剤,及び結合剤を含んでなるものである,請求項10の製造方法。
【請求項12】
該迅速崩壊性顆粒中の無機の親水性且つ非水溶性の添加剤の含有割合が0.3〜5重量%である,請求項10又は11の何れかの製造方法。
【請求項13】
該迅速崩壊性顆粒中の有機の親水性且つ非水溶性の添加剤の含有割合が10〜40重量%である,請求項10〜12の何れかの製造方法。
【請求項14】
該迅速崩壊性顆粒中の糖アルコールの含有割合が55〜85重量%である,請求項10〜13の何れかの製造方法。
【請求項15】
該薬効成分含有顆粒と該迅速崩壊性顆粒との合計量における該迅速崩壊性顆粒の割合が,45〜70重量%である,請求項10〜14の何れかの製造方法。
【請求項16】
該糖アルコールがマンニトールである,請求項10〜15の何れかの製造方法。
【請求項17】
該迅速崩壊性顆粒の平均粒径が10〜300μmに調整されるものである,請求項10〜16の何れかの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,錠剤製造の分野,特に口腔内崩壊錠の分野に関し,取り分け,十分な硬度を備えしかも水の存在下では迅速に崩壊する特性を有するものである,口腔内崩壊錠に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔内崩壊錠剤は,口に含むとごく短時間で嚥液により錠剤全体が崩壊するように設計される錠剤であり,高齢者や小児にとって服用し易い剤形として開発されている(特許文献1〜3)
【0003】
口腔内崩壊錠は,口腔内で水分(唾液)に触れると速やかに崩壊する,という特性を有することが必要である。その一方で,錠剤として生産され,梱包され,出荷され,様々な状況下で運送されて,医療施設や薬局で保管され,そこで包装(PTP包装等)から圧し出され分包されて別の包装で患者に渡されたり,或いは患者のもとで服用直前にPTP包装から圧し出されて口に含まれたりするという,想定し得る様々な取り扱い状況において,振動や衝撃,圧力等の外力によって途中で割れたり摩耗したりすることなく,錠剤としての元の完全な形態が維持できるものでなければならない。従って,種々の外力に耐えて破壊や摩耗を防止できるよう,十分高い硬度を備えている必要がある。然るに,崩壊し易さと硬度というこれら2つの特性を十分に両立させることは容易ではない。薬効成分,賦形剤,その他の添加剤等の錠剤の構成材料が強固に結びついている程,硬度を高くできるが,そうすると崩壊し難くなるという強い傾向があり,逆に成分同士の結びつきが弱い程,崩壊性は高まる傾向にあるが,それでは途中で破壊や摩耗が生じ易くなってしまうからである。このため,それら相反する面を持つそれら両特性をバランスよく兼ね備えた口腔内崩壊錠を如何にして提供するか,そしてまた,十分高い硬度を達成しつつ,崩壊性を如何に高めるかかという点を含めた口腔内崩壊錠の性能の改善のために,開発が進められてきた(特許文献4〜8)。
【0004】
他方,急速に進みつつある社会の老齢化は,口腔内崩壊錠という製剤形態の必要性を増大させる一要因である。このため,既存の種々の薬物で汎用されているタイプの経口剤についても,口腔内崩壊錠の形態が一層求められるようになると予測される。この社会的要請に合致できるよう,口腔内崩壊錠の形態が,特定の医薬に限らず広範な種々の医薬について確実に利用できることが,また更に,崩壊速度を高めた口腔内崩壊錠を提供できることが,望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭58−24410号公報
【特許文献2】特表平6−502194号公報
【特許文献3】WO95/20380号公報
【特許文献4】特許第4551627号公報
【特許文献5】特許第5584509号公報
【特許文献6】特許第5062761号公報
【特許文献7】特許第5062872号公報
【特許文献8】特許第4446177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の背景において,経口で投与される医薬について十分高い硬度を備えつつ,水との接触下でのより迅速な崩壊をもたらすことができる,という優れた特性の口腔内崩壊錠を素早く製剤化できるようにする手段が必要である点に,本発明者は着目した。
【0007】
従って,本発明は,経口投与される種々の薬物について,硬度及び崩壊特性に優れた口腔内崩壊錠の形で迅速に製剤化するのに利用できる汎用性のある製剤化手段を見出し,それにより,そのような性能の口腔内崩壊錠の速やかな提供を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的に沿って研究の結果,本発明者らは,それ自体を打錠すると十分な硬度と極めて迅速な崩壊性とを備えた錠剤を与えるように設計された特定範囲の組成からなる顆粒(迅速崩壊性顆粒)を見出し,更に,当該顆粒を,薬効成分それ自体又はその組成物(粉末や別の適宜の顆粒。薬効成分含有顆粒等ともいう。)と共に常法により混合し打錠することで,十分な硬度と顕著に改善された崩壊速度を兼ね備えた口腔内崩壊錠が得られることを見出し,更に研究を重ねて本発明を完成させた。即ち,本発明は以下のものを提供する。
【0009】
1.口腔内崩壊錠であって,
a.薬効成分含有粉末及び薬効成分含有顆粒からなる群より選ばれる薬効成分含有組成物と,迅速崩壊性顆粒と,滑沢剤とを含む混合物の圧縮成形体であり,
b.該迅速崩壊性顆粒が,糖及び/又は糖アルコールと有機及び/又は無機の親水性且つ非水溶性の添加剤の1種以上とを含んでなるものである,
口腔内崩壊錠。
2.該薬効成分含有顆粒が,薬効成分と,賦形剤,崩壊剤,及び結合剤を含んでなるものである,上記1の口腔内崩壊錠。
3.該有機の親水性且つ非水溶性の添加剤が,デンプン,デンプン誘導体,セルロース誘導体,及びクロスポビドンからなる群より選ばれ,該無機の親水性且つ非水溶性の添加剤が,軽質無水ケイ酸,無水リン酸水素カルシウム,乾燥水酸化アルミニウムゲル,ケイ酸アルミン酸マグネシウム,ケイ酸カルシウム,ケイ酸マグネシウム,合成ケイ酸アルミニウム,含水二酸化ケイ素,リン酸水素カルシウム,沈降炭酸カルシウム,及びメタケイ酸アルミン酸マグネシウムよりなる群より選ばれるものである,上記1又は2の口腔内崩壊錠。
4.該迅速崩壊性顆粒中の無機の親水性且つ非水溶性の添加剤の含有割合が0.3〜5重量%である,上記1〜3の何れかの口腔内崩壊錠。
5.該迅速崩壊性顆粒中の有機の親水性且つ非水溶性の添加剤の含有割合が10〜40重量%である,上記1〜4の何れかの口腔内崩壊錠。
6.該迅速崩壊性顆粒中の糖及び/又は糖アルコールの含有割合が55〜85重量%である,上記1〜5の何れかの口腔内崩壊錠。
7.該迅速崩壊性顆粒が,該無機の親水性且つ非水溶性の添加剤として軽質無水ケイ酸を含むものである,上記1〜6の何れかの口腔内崩壊錠。
8.該糖及び/又は糖アルコールが,マンニトール及び乳糖よりなる群より選ばれるものである,上記1〜7の何れかの口腔内崩壊錠。
9.該迅速崩壊性顆粒が,該糖及び/又は糖アルコールとしてマンニトールを含み,且つ該有機の親水性且つ非水溶性の添加剤として,セルロース誘導体,デンプン,クロスポビドンを含むものである,上記8の口腔内崩壊錠。
10.該迅速崩壊性顆粒の平均粒径が10〜300μmである,上記1〜9の何れかの口腔内崩壊錠。
11.該薬効成分含有顆粒と該迅速崩壊性顆粒との合計量おける該迅速崩壊性顆粒の割合が45〜70重量%である,上記1〜10の何れかの口腔内崩壊錠。
12.上記1〜10の何れかに記載の迅速崩壊性顆粒。
13.口腔内崩壊錠の製造方法であって,
a.薬効成分含有粉末及び薬効成分含有顆粒からなる群より選ばれる薬効成分含有組成物を準備するステップと,
b.無機の親水性且つ非水溶性の添加剤と,糖及び/又は糖アルコールと,有機の親水性且つ非水溶性の添加剤とを含む混合物の流動層に,有機の親水性且つ非水溶性の添加剤の1種又は2種以上を含む水性懸濁液を噴霧して造粒することを含む,迅速崩壊性顆粒の造粒ステップと,
c.該薬効成分含有組成物と該迅速崩壊性顆粒とを混合し,少なくとも滑沢剤を添加して圧縮成形するステップを含むものである,
口腔内崩壊錠の製造方法。
14.該薬効成分含有顆粒が,薬効成分と,賦形剤,崩壊剤,及び結合剤を含んでなるものである,上記13の製造方法。
15.該有機の親水性且つ非水溶性の添加剤が,デンプン,デンプン誘導体,セルロース誘導体,及びクロスポビドンからなる群より選ばれ,該無機の親水性且つ非水溶性の添加剤が,軽質無水ケイ酸,無水リン酸水素カルシウム,乾燥水酸化アルミニウムゲル,ケイ酸アルミン酸マグネシウム,ケイ酸カルシウム,ケイ酸マグネシウム,合成ケイ酸アルミニウム,含水二酸化ケイ素,リン酸水素カルシウム,沈降炭酸カルシウム,及びメタケイ酸アルミン酸マグネシウムよりなる群より選ばれるものである,上記13又は14の製造方法。
16.該迅速崩壊性顆粒中の無機の親水性且つ非水溶性の添加剤の含有割合が0.3〜5重量%である,上記13〜15の何れかの製造方法。
17.該迅速崩壊性顆粒中の有機の親水性且つ非水溶性の添加剤の含有割合が10〜40重量%である,上記13〜16の何れかの製造方法。
18.該迅速崩壊性顆粒中の糖及び/又は糖アルコールの含有割合が55〜85重量%である,上記13〜17の何れかの製造方法。
19.該薬効成分含有顆粒と該迅速崩壊性顆粒との合計量における該迅速崩壊性顆粒の割合が,45〜70重量%である,上記13〜18の何れかの製造方法。
20.該無機の親水性且つ非水溶性の添加剤が軽質無水ケイ酸である,上記13〜19の何れかの製造方法。
21.該糖及び/又は糖アルコールが,マンニトール,乳糖,トレハロースよりなる群より選ばれるものである,上記13〜20の何れかの製造方法。
22.該糖及び/又は糖アルコールがマンニトールであり,該ステップbにおける該混合物中の有機の親水性且つ非水溶性の添加剤がエチルセルロースである,上記13〜21の何れかの製造方法。
23.該水性懸濁液中の添加剤がデンプン及びクロスポビドンである,上記13〜22の何れかの製造方法。
24.該迅速崩壊性顆粒の平均粒径が10〜300μmに調整されるものである,上記13〜23の何れかの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
上記の各構成になる本発明によれば,錠剤の構成要素である薬効成分含有顆粒等を,その薬効成分の如何や賦形剤等の組成に依存することなく,従来に比べ高い硬度を持ちながら極めて迅速に水中に分散させることのできる口腔内崩壊錠を,容易に製造することが可能となる。こうして本発明は,種々の薬物について,硬度及び崩壊速度との双方に優れた口腔内崩壊錠の迅速,確実且つ容易な提供を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は,種々の打錠圧で製造した実施例1及び比較例1の口腔内崩壊錠についての崩壊試験−1(日局)の結果を,それらの錠剤の硬度(横軸)と崩壊時間(縦軸)との関係において示したグラフである。
図2図2は,種々の打錠圧で製造した実施例1及び比較例1の口腔内崩壊錠についてのOD-mateによる崩壊時間−2の測定結果を,それらの錠剤の硬度(横軸)と崩壊時間(縦軸)との関係において示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において,「薬効成分含有顆粒」の語は,治療又は予防対象である疾患に向けられた医薬を配合してある顆粒を包括的に意味する。ここに「薬効成分」は,治療又は予防の対象に応じて適宜選択することができ,特定の具体的な医薬には限定されない。本発明の本質が,そのような顆粒を錠剤の形態へと固定するために打錠に際して混合される別の顆粒(迅速崩壊性顆粒)の構成と機能に存するからである。
【0013】
本発明において,「迅速崩壊性顆粒」の語は,十分に高い硬度の錠剤へと打錠された場合にも,水の存在下に急速に崩壊するという特徴を備えた顆粒を意味する。
【0014】
本発明は,水の存在下に,薬効成分含有顆粒等を非常に迅速に分散させる機能を備えた迅速崩壊性顆粒を構成すること,及び当該顆粒を,薬効成分含有顆粒等と共に錠剤の形態に圧縮成形して,口腔内崩壊錠とすることを特徴とする。薬効成分含有顆粒等と迅速崩壊性顆粒とが混合されて圧縮成形された口腔内崩壊錠は,錠剤中で圧縮状態にある迅速崩壊性顆粒が,水の存在下に錠剤全体を(即ち,介在する当該顆粒と物理的に結合して一体に圧縮されている薬効成分含有顆粒等もろとも)非常に迅速に崩壊させる。それにより口腔内崩壊錠としての機能は十全に発揮されるから,薬効成分含有顆粒等における具体的な薬効成分や添加剤の組成とそれらの含有比率には,特段の限定はない。理論に拘束されることは意図しないが,本発明において,個々の迅速崩壊性顆粒が,それを構成する親水性且つ非水溶性の添加剤により,水と接触したとき速やかに水を導き入れて自身の微粒子表面に水を配置させることにより,隣接する構成要素(迅速崩壊性顆粒や薬効成分含有顆粒等)との界面に極めて薄い水の層を形成し,これがそれら隣接構成要素間の結合を断ち切り,また同時にそのような水の層に直に錠剤周囲から水が流入することで,薬効成分含有顆粒等と迅速崩壊性顆粒とからなる錠剤の一体性が急速に失われる(錠剤が崩壊する)ものと推測される。
【0015】
本発明において,迅速崩壊性顆粒の構成に必須の材料である親水性且つ非水溶性の添加剤のうち,無機のものの好ましい例としては,軽質無水ケイ酸,無水リン酸水素カルシウム,乾燥水酸化アルミニウムゲル,ケイ酸アルミン酸マグネシウム,ケイ酸カルシウム,ケイ酸マグネシウム,合成ケイ酸アルミニウム,含水二酸化ケイ素,リン酸水素カルシウム,沈降炭酸カルシウム,及びメタケイ酸アルミン酸マグネシウムが挙げられる。これらのうち,特に好ましい例には,軽質無水ケイ酸,無水リン酸水素カルシウムが含まれる。
【0016】
また,有機の親水性且つ非水溶性の添加剤の好ましい例としては,デンプン,デンプン誘導体,セルロース誘導体,及びクロスポビドンが挙げられる。デンプンの特に好ましい例としては,トウモロコシデンプンや馬鈴薯デンプンが挙げられる。また,デンプン誘導体の特に好ましい例としては,部分アルファー化澱粉(PCS),ヒドロキシプロピルデンプン(HPS)が挙げられる。また,好ましいセルロース誘導体の例としては,エチルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,低置換度ヒドロキシプロピルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロースが挙げられるが,これらに限定されない。特に好ましいものとしては,エチルセルロースが挙げられる。
【0017】
迅速崩壊性顆粒の構成に必須の材料である糖及び/又は糖アルコールの好ましい例としては,マンニトール,乳糖,トレハロースが挙げられるが,これらに限定されない。それらのうち,マンニトールは,特に好ましい一例である。
【0018】
迅速崩壊性顆粒が,無機の親水性且つ非水溶性の添加剤(軽質無水ケイ酸その他)を含むものである場合,打錠により圧縮固化された状態の当該顆粒が,水の存在下で錠剤の速やかな崩壊を促進でき,且つ乾燥状態の錠剤が出荷から服用までの間に錠剤が受ける可能性のある衝撃や外力によっては,錠剤としての形態が損なわれることがないよう,十分な硬度を有するためには,迅速崩壊性顆粒中における無機の親水性且つ非水溶性の添加剤の含有割合は,好ましくは0.3〜5重量%,より好ましくは0.5〜3重量%,特に好ましくは0.7〜1.5重量%である。
【0019】
迅速崩壊性顆粒が,有機の親水性且つ非水溶性の添加剤(デンプン,エチルセルロース,クロスポビドンその他)を含むものである場合,打錠により圧縮固化された状態の当該顆粒が,水の存在下で錠剤の速やかな崩壊を促進でき,且つ乾燥状態の錠剤形態が出荷から服用までの間に損なわれることがないよう,十分な硬度を有するためには,迅速崩壊性顆粒中における有機の親水性且つ非水溶性の添加剤の含有割合は,好ましくは10〜40重量%であり,より好ましくは15〜35重量%,特に好ましくは18〜32重量%である。
【0020】
迅速崩壊性顆粒は,親水性且つ非水溶性の添加剤として,有機及び無機の成分を共に含有してもよく,一方のみを含有してもよいが,両者を共に含有することが,一層好ましい。両者を共に含有する場合において,迅速崩壊性顆粒中の無機の親水性且つ非水溶性の添加剤の含有割合は,好ましくは0.3〜5重量%,より好ましくは0.5〜3重量%,特に好ましくは0.7〜1.5重量%であり,有機の親水性且つ非水溶性の添加剤の含有割合は,好ましくは10〜40重量%であり,より好ましくは15〜35重量%,特に好ましくは18〜32重量%である。
【0021】
迅速崩壊性顆粒に含まれる糖及び/又は糖アルコールは,僅かの水に接しこれに溶解したとき局所的な高浸透圧を作り出すことにより,親水性且つ非水溶性の添加剤を通して錠剤周囲の水の更なる量を迅速崩壊性顆粒の内部へと駆動するのに好都合である。迅速崩壊性顆粒における糖及び/又は糖アルコールの含有割合は,好ましくは55〜85重量%であり,より好ましくは60〜80重量%,特に好ましくは65〜75重量%である。
【0022】
本発明の口腔内崩壊錠の構成要素である迅速崩壊性顆粒が,水の存在下において速やかに,錠剤を崩壊させて薬効成分含有顆粒の分散をもたらすには,迅速崩壊性顆粒が十分な割合で配合されている必要があり,薬効成分含有顆粒と迅速崩壊性顆粒との合計量のうち,迅速崩壊性顆粒の割合は,好ましくは45重量%以上,より好ましくは50重量%以上,特に好ましくは55重量%以上である。また,錠剤が必要な硬度を保つ上で,この割合は,好ましくは70重量%以下,より好ましくは65重量%以下であり,特に好ましくは60重量%以下である。
【0023】
口腔内崩壊錠中において,薬効成分含有顆粒の周りを十分取り囲み易いよう,迅速崩壊性顆粒は粒径があまり大きくないことが好ましい。このため,迅速崩壊性顆粒の平均粒径は,好ましくは10〜300μmであり,より好ましくは20〜100μmである。なおここに,「平均粒径」とは,レーザー回折・散乱式粒度分布計を用いて測定した体積基準の粒度分布において小粒子径側から累積して粒子量が50%となる粒子径(D50)をいう。
【0024】
迅速崩壊性顆粒の特に好ましい一例は,糖及び/又は糖アルコールとしてマンニトール,無機の親水性且つ非水溶性の添加剤として,軽質無水ケイ酸,有機の親水性且つ非水溶性の添加剤として,エチルセルロース,デンプン,及びクロスポビドンを配合して構成されたものである。
【0025】
本発明の口腔内崩壊錠の製造は,下記の通りにして行うことができる。
1.薬効成分含有顆粒の準備
本発明において,薬効成分含有顆粒は,目的とする薬効成分の適量を用い,常法により,適宜の量の適宜の賦形剤,崩壊剤,結合剤等を用いて造粒することにより準備すればよい。
【0026】
2.迅速崩壊性顆粒
本発明において,迅速崩壊性顆粒は,好ましくは,例えば次のようにして行われる。
無機の親水性且つ非水溶性の添加剤(例えば,軽質無水ケイ酸)と,糖及び/又は糖アルコール(例えば,マンニトール)と,有機の親水性且つ非水溶性の添加剤(例えば,エチルセルロース)とを含む混合物の流動層に,有機の親水性且つ非水溶性の添加剤の1種又は2種以上(例えば,デンプン及びクロスポビドン)を含む水性懸濁液を噴霧し,乾燥して造粒する。所望により整粒して,平均粒径等,粒度分布のパラメーターを所望の範囲に揃えることができる。使用する各成分の割合は,迅速崩壊性顆粒について上述した各主成分の含有割合が達成できるように,適宜調整すればよい。
【0027】
3.打錠
薬効成分含有顆粒と迅速崩壊性顆粒に,常法により少量の滑沢剤,流動化剤等を添加して,十分に混合し,打錠する。薬効成分含有顆粒と迅速崩壊性顆粒の使用量は,両者の合計量に対する迅速崩壊性顆粒の割合が,好ましくは45〜65%,より好ましくは60〜80重量%,特に好ましくは65〜75重量%となるように両顆粒を配合して混合し,滑沢剤その他,打錠に際して使用できる適宜の添加剤を所望により更に加えて混合し,打錠することにより,高い硬度を確保しつつ崩壊性を各段に高めた口腔内崩壊錠を得ることができる。
【0028】
なお,本発明において,「硬度」は,下記の実施例に記載の方法で測定される値をいう。即ち,硬度計(TBH 425,ERWEKA社)を用い,その冶具により錠剤の横方向から挟んで徐々に加圧して,錠剤が割れた時点の負荷(N)をいう。
【0029】
本発明の口腔内崩壊錠の硬度に特段の限定はないが,好ましくは55N以上,より好ましくは60N以上,更に好ましくは70N以上,特に好ましくは90N以上である。但し,特定の口腔内崩壊錠について使用までの間に想定される取り扱い環境に応じて,硬度は適宜調整することができる。
【0030】
また,本発明の口腔内崩壊錠において,崩壊時間−1(日局)は,好ましくは25秒以下,より好ましくは22秒以下,更に好ましくは20秒以下,特に好ましくは18秒以下である。
【0031】
下記の実施例に記載のOD-mateを用いて測定される場合の崩壊時間−2は,好ましくは,20秒以下,より好ましは15秒以下,更に好ましくは10秒以下である。
【実施例】
【0032】
以下,実施例を参照して本発明を更に具体的に説明するが,本発明がそれらの実施例に限定されることは意図しない。
【0033】
〔実施例1,比較例1〕 口腔内崩壊錠
次の表に示す組成の錠剤となる比率で各成分を用い,後述の手順に従って,実施例1及び比較例1の口腔内崩壊錠を製造した。
【0034】
【表1】
【0035】
<製造手順>
1.実施例1: D−マンニトール,エチルセルロース,及び軽質無水ケイ酸を混合し,混合物を流動層造粒装置に投入し,これにトウモロコシデンプン及びクロスポビドンの水分散液を噴霧して常法により造粒し,乾燥させ,整粒して顆粒を得た。当該顆粒と,薬効成分(粉末)及びステアリン酸マグネシウムを混合し,4kN〜14kNの種々の打錠圧で直径9mmの錠剤を製造した。
2.比較例1: 軽質無水ケイ酸を用いず,これに対応するよう賦形剤の量を微調整した以外は,実施例1と同様にして,直径9mmの錠剤を製造した。
【0036】
<評価方法>
実施例1及び比較例1で得られた各口腔内崩壊錠について,硬度(N),錠厚(mm),及び崩壊時間(秒)を測定し記録した。
【0037】
1.硬度測定
硬度の測定には硬度計(TBH 425,ERWEKA社)を用いた。当該装置は,錠剤を順次冶具へと送り,冶具によりに錠剤の横方向から挟んで徐々に加圧して,錠剤が割れた時点の負荷(N)を測定する。
【0038】
2.崩壊試験−1(日局)
崩壊試験器(日本薬局方準拠)を用いた。ガラス容器に37℃の水900mLを入れ,錠剤を入れたバスケット(底部が網状)を容器の水中で上下運動させ,錠剤が崩れきるまでの時間(崩壊時間−1)を測定した。
【0039】
3.崩壊試験−2(OD-mate)
口腔内での錠剤の崩壊を模した試験器である口腔内崩壊試験器(OD-mate,樋口商会)を用いた。小ビーカーに37℃の水10mLを入れ,実施例及び比較例の各錠剤につき,冶具で挟んで水中に沈め,上部の冶具が錠剤を貫通するまでの時間(崩壊時間−2)を測定し記録した。
【0040】
<評価結果>
上記評価の結果を表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
表2に見られるように,本発明の実施例1の錠剤は,同じ打錠圧での錠剤同士を比較したとき,比較例1の錠剤に比べ,崩壊時間−1(日局)での測定結果及び,及びOD-mateでの測定結果共に,崩壊までの時間が各段に短い。また,硬度と崩壊時間−1(日局及びOD-mate)との関係を示す図1及び2に明瞭に見られるように,実施例1の口腔内崩壊錠は,比較例1の口腔内崩壊錠に比べて,何れの硬度でも崩壊に要する時間が各段に短い。実施例1と比較例1との間の構成上の相違は,顆粒の組成のみであり,このことは,実施例1における顆粒が,錠剤の硬度と迅速崩壊性との関係を著しく改善する効果を有することを示している。
【0043】
〔実施例2〕 口腔内崩壊錠
次の表3に示す組成の錠剤となる比率で各成分を用い,後述の手順に従って,実施例2の口腔内崩壊錠を製造した。
【0044】
【表3】
【0045】
<製造手順>
1.薬効成分含有顆粒
薬効成分及び賦形剤等を用い流動層造粒装置で常法により造粒し,乾燥させ,整粒して顆粒を得た。当該顆粒を,エチルセルロース及びタルクからなるコーティング成分により常法に従ってコーティングして,薬効成分含有顆粒を得た。
【0046】
2.迅速崩壊性顆粒
D−マンニトール,エチルセルロース,及び軽質無水ケイ酸を混合し,混合物を流動層造粒装置に投入し,これにトウモロコシデンプン及びクロスポビドンの水分散液を噴霧して常法により造粒し,乾燥させて迅速崩壊性顆粒を得た。
【0047】
3.混合及び打錠
薬効成分含有顆粒と迅速崩壊性顆粒に添加剤を混合し,打錠して,直径12mmの錠剤を製造した。
【0048】
<評価方法>
得られた錠剤について,実施例1と同様にして硬度,崩壊時間−1(日局),崩壊時間−2(OD-mate)を測定した。結果は次の通りであった。
【0049】
<評価結果>
硬度:135N
崩壊時間−1(日局):17秒
崩壊時間−2(OD-mate):8秒
【0050】
上記結果が示す通り,実施例2の錠剤は,高い硬度を有しているにも拘わらず,従来の口腔内崩壊錠に比べ,極めて迅速な崩壊性を示した。
【0051】
〔実施例3〕 口腔内崩壊錠
次の表4に示す組成の錠剤となる比率で各成分を用い,後述の手順に従って,実施例3の口腔内崩壊錠を製造した。
【0052】
【表4】
【0053】
<製造手順>
1.薬効成分及び賦形剤等を用い流動層造粒装置で常法により造粒し,乾燥させ,整粒して顆粒を得た。当該顆粒を,コーティング剤で常法によりコーティングして,薬効成分含有顆粒を得た。
【0054】
2.迅速崩壊性顆粒
D−マンニトール,エチルセルロース,及び軽質無水ケイ酸を混合し,混合物を流動層造粒装置に投入し,これにトウモロコシデンプン及びクロスポビドンの水分散液を噴霧して常法により造粒し,乾燥させて迅速崩壊性顆粒を得た。
【0055】
3.混合及び打錠
薬効成分含有顆粒と迅速崩壊性顆粒を混合し,これに更に添加剤を加え混合し,打錠して,直径10mmの錠剤を製造した。
【0056】
<評価方法>
得られた錠剤について,実施例1と同様にして,硬度,崩壊時間−1(日局),崩壊時間−2(OD-mate)を測定した。結果は次の通りであった。
【0057】
<評価結果>
硬度:90N
崩壊時間−1(日局):18秒
崩壊時間−2(OD-mate):17秒
【0058】
上記結果に見られるように,実施例3の錠剤は,高い硬度を有すると共に,従来の口腔内崩壊錠に比べ顕著な崩壊性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は,経口投与で用いられる広範な種々の医療用薬物について,高い硬度と水の存在下での極めて優れた崩壊性を併せ持つ口腔内崩壊錠を,確実かつ迅速に提供することを可能にするものとして,有用である。
図1
図2