特許第6496255号(P6496255)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6496255-基板保持装置 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6496255
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】基板保持装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20190325BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20190325BHJP
【FI】
   H01L21/68 P
   G03F7/20 521
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-15996(P2016-15996)
(22)【出願日】2016年1月29日
(65)【公開番号】特開2017-135331(P2017-135331A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2018年7月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石野 智浩
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 教夫
【審査官】 井上 和俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−060617(JP,A)
【文献】 特開2014−116433(JP,A)
【文献】 特開平01−319964(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/066758(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
G03F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面に開口している通気路が形成されている平板状の基体と、
前記基体の上面から上方に突出して形成されて基板を支持する複数の突起と、
前記複数の突起の上端よりも0.01〜0.03[mm]だけ低い位置に上端が位置するように前記基体の上面から上方に突出して、前記通気路の開口および前記複数の突起を囲うように形成され、その外径が前記基板の最大径と同じに形成されまたは当該基板の最大径よりも8[mm]以下の範囲で小さく形成されている第1環状凸部と、
周方向について少なくとも一部が前記複数の突起の上端よりも0.001〜0.005[mm]だけ低い位置に上端が位置するように前記基体の上面から上方に突出して、前記第1環状凸部よりも3.0〜10[mm]だけ内側に離間した位置で前記通気路および前記複数の突起のうち少なくとも一部を囲うように形成されている第2環状凸部と、を備えていることを特徴とする基板保持装置。
【請求項2】
請求項1記載の基板保持装置において、
前記第1環状凸部および前記第2環状凸部の間に、前記複数の突起のうち一部が配置されていることを特徴とする基板保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハなどの基板を基体に吸着保持する基板保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基板と基板保持装置の基体との間にパーティクルが介在すると、基板の平面度が低下し、当該基板の露光により回路パターンが形成される半導体製品の歩留まりが低下する。そこで、基板と基体との接触面積の低減を図るため、基体の上面に、基板の外縁部を支持する環状凸部と、環状凸部により囲まれた領域内に配置されて基板を支持する複数のピンと、が形成されている基板保持装置が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
半導体製品の超微細化および超高精度化が進むにつれ、基体と環状凸部との接触によるパーティクルの影響をさらに低減することが要求されている。そこで、環状凸部を複数のピンよりもわずかに低くして基体と環状凸部との接触が回避されるように構成された基体保持装置が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4348734号公報
【特許文献2】特開2001−185607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
基板を吸着保持するために基板と基体との間の空間に負圧が形成される際、基体と環状凸部との間隙を通じた気流が生じ、当該気流に応じたベルヌーイ力が基板の外周縁部に作用するため、基体の平面度の低下を招く。
【0006】
そこで、本発明は、装置におけるリークを防ぎながら外周側の精度向上を図り得る基板保持装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の基板保持装置は、上面に開口している通気路が形成されている平板状の基体と、
前記基体の上面から上方に突出して形成されて基板を支持する複数の突起と、
前記複数の突起の上端よりも0.01〜0.03[mm]だけ低い位置に上端が位置するように前記基体の上面から上方に突出して、前記通気路の開口および前記複数の突起を囲うように形成され、その外径が前記基板の最大径と同じに形成されまたは当該基板の最大径よりも8[mm]以下の範囲で小さく形成されている第1環状凸部と、周方向について少なくとも一部が前記複数の突起の上端よりも0.001〜0.005[mm]だけ低い位置に上端が位置するように前記基体の上面から上方に突出して、前記第1環状凸部よりも3.0〜10[mm]だけ内側に離間した位置で前記通気路および前記複数の突起のうち少なくとも一部を囲うように形成されている第2環状凸部と、を備えていることを特徴とする。
【0008】
本発明の基板保持装置によれば、基板が複数の突起に当接するように基体に載置された状態で、基板と第1環状凸部との間には間隙が存在する。このため、基体に形成された通気路を通じて基体の上面と基板の下面との間に存在する空間が減圧された際、当該間隙を通じた気流が生じる。しかるに、第1環状凸部の内側に配置されている第2環状凸部と基板との間隙が、第1環状凸部と基板との間隙よりも狭いため、当該気流の速度が抑制される。この分だけ基板に作用するベルヌーイ力の低減が図られ、基体に吸着保持された基板の平面性の向上が図られる。また、第1環状凸部および第2環状凸部はともに基板から離間しているので、基板と基体との接触に由来するパーティクルの影響の軽減も図られている。
【0009】
本発明の一態様の基板保持装置において、前記第1環状凸部および前記第2環状凸部の間に、前記複数の突起のうち一部が配置されている。
【0010】
当該構成の基板保持装置によれば、基板において第1環状凸部と第2環状凸部との間に存在する環状領域が複数の突起により支持される。このため、上記のように弱められたベルヌーイ力が作用しても当該環状領域の変形がより確実に抑止され、基板の平面性の向上が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態としての基板保持装置の上面図。
図2】基体の外周縁部付近における模式的な断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(構成)
図1および図2に示されている本発明の一実施形態としての基板保持装置は、ウエハWF(基板)を吸着保持するための略平板状の基体1を備えている。基体1は、セラミックス焼結体により略平板状に形成されている。基体1は略円板状のほか、多角形板状または楕円板状などのさまざまな形状であってもよい。基体1には上面(表面)に開口している通気路10が形成されている。通気路10は基体1の内部を通るまたは基体1の下面(裏面)に延在する経路に連通していてもよい。通気路10は真空吸引装置(図示略)に接続されている。
【0013】
基体1には、複数の突起20と、基体1の外周縁部において通気路10および複数の突起20を囲う第1環状凸部21と、第1環状凸部21より内側で通気路10および複数の突起20を囲う第2環状凸部22と、が基体1の上面から突出して形成されている。なお、図2では基板支持装置の構成の明確化のため、突起20、第1環状凸部21および第2環状凸部22はデフォルトされており、各構成要素の断面図におけるアスペクト比のほか、幅または高さと相互の間隔との比率などは図2に示されているものとは実際には異なる。
【0014】
複数の突起20は、基体1の中心を中心とする同心円状に周方向および径方向に一定の間隔をおいて配置されている。複数の突起20は、三角格子状、正方格子状などのそのほかの態様で規則的に配置されるほか、周方向または径方向に局所的に疎密の差が生じるように局所的に不規則的に配置されてもよい。突起20の基体1の上面からの突出量はたとえば150〜200[μm]の範囲に含まれるように設計されている。突起20は円柱状、角柱状等の柱状のほか、円錐台状、角錐台状等の錘台状、下部よりも上部の断面積が小さくなるような段差付きの柱状または錘台状などの形状に形成される。突起20の上端部(基板との接触部分)の径は500[μm]以下となるように設計される。突起20の上端部(基板との接触部分)の表面粗さRaは0.05〜0.50[μm]の範囲に含まれるように設計されている。
【0015】
複数の突起20の上端よりもΔH1=0.01〜0.03[mm]だけ低い位置に上端が位置するように第1環状凸部21の基体1の上面からの突出量が設計されている。第1環状凸部21の最外径はウエハWFの外径と同径に形成されまたはウエハWFの外径よりも8[mm]以下の範囲で小さく形成されている。第1環状凸部21の最外径R1+がウエハWFの外径より大きい場合、真空吸着時にリークが発生し精度良く吸着することができない。一方、第1環状凸部21の最外径R1+がウエハWFの外径より8[mm](片側4[mm])を超えて内側に存在している場合、ウエハWFの外周部において保持力を得られない面積が大きいため平坦度が悪化する。
【0016】
第1環状凸部21の断面形状は、高さH1、幅W1の矩形状であるが、このほか、三角形状、台形状、半長円形状などさまざまに設計されてもよい。第1環状凸部21の上端部の表面粗さRaは0.05〜0.50[μm]の範囲に含まれるように設計されている。
【0017】
複数の突起20の上端よりもΔH2=0.001〜0.005[mm]だけ低い位置に上端が位置するように第2環状凸部22の基体1の上面からの突出量が設計されている。第2環状凸部22の断面形状は、高さH2、幅W2の矩形状であるが、このほか、三角形状、台形状、半長円形状などさまざまに設計されてもよい。第2環状凸部22の上端部の表面粗さRaは0.05〜0.5[μm]の範囲に含まれるように設計されている。第2環状凸部22は、その上端外周縁が、第1環状凸部21の上端内周縁からD=3〜10[mm]だけ内側になるように配置されている。
【0018】
なお、基体1の上面において第1環状凸部21と第2環状凸部22との間に存在する環状領域に複数の突起20が形成されていてもよい。基体1の上面において第1環状凸部21外側に存在する環状領域に複数の突起20が形成されていてもよい。
【0019】
(作製方法)
前記構成の基板保持装置は、たとえば次のような手順で作製される。すなわち、原料粉末から略円板状の成形体が作製され、この成形体が焼成されることで略円板状の焼結体が作製される。原料粉末としては、たとえば純度97%以上の炭化ケイ素、必要に応じてこれに適量の焼結助剤が添加された混合原料粉末が用いられる。そのほか、アルミナ粉末等、他のセラミックス粉末が原料粉末として用いられてもよい。そのうえで、当該焼結体に通気路10、複数の突起20、第1環状凸部21および第2環状凸部22などがブラスト加工またはミリング加工などの適当な加工法にしたがって形成される。前記工程によって前記構成の基板保持装置の基体1が製造される。
【0020】
(機能)
前記構成の基板保持装置によれば、ウエハWFが複数の突起20に当接するように基体1に載置された状態で、ウエハWFと第1環状凸部21との間には間隙が存在する。このため、基体1に形成された通気路10を通じてウエハWFの上面と基体1の下面との間に存在する空間が減圧された際、当該間隙を通じた気流が生じる(図2/黒矢印参照)。しかるに、第1環状凸部21の内側に配置されている第2環状凸部22とウエハWFとの間隙が、第1環状凸部21とウエハWFとの間隙よりも狭いため、当該気流の速度が抑制される。この分だけウエハWFの外周縁に下方に作用するベルヌーイ力の低減が図られ、基体1に吸着保持されたウエハWFの平面性の向上が図られる。また、第1環状凸部21および第2環状凸部22はともにウエハWFから離間しているので、ウエハWFと基体1との接触に由来するパーティクルの影響の軽減も図られている。
【0021】
(実施例)
(実施例1)
炭化ケイ素の焼結体からなる、径φ300[mm]、厚さt1.2[mm]の略円板状の基体1に通気路10が形成された。基体1の上面に略円柱状の複数の突起20、複数の突起20を取り囲む略円環状の第1環状凸部21および第1環状凸部21の内側にある略同心円状の第2環状凸部22が形成された。複数の突起20は、3.6[mm]間隔で三角格子状に配置され、複数の突起20が第1環状凸部21および第2環状凸部22により挟まれている略円環状の領域にも配置されている。各突起20は、高さH150[μm]、径φ300[μm]、上端面の表面粗さRa0.1[μm]になるように形成された。第1環状凸部21は、複数の突起20の上端よりもΔH1=0.01[mm]だけ低い位置に上端が位置するように、幅W1が200[μm](内径R1-299[mm]、外径R1+299.4[mm])、上端面の表面粗さRa0.1[μm]になるように形成された。第2環状凸部22は、複数の突起20の上端よりもΔH2=0.001[mm]だけ低い位置に上端が位置するように、幅W2は200[μm](内径R2-289[mm]、外径R2+289.4[mm])、上端面の表面粗さRa0.1[μm]になるように形成された。すなわち、第1環状凸部21および第2環状凸部22の間隔Dが4.8[mm]に調節された。このようにして実施例1の基板保持装置が作製された。
【0022】
すなわち、(ΔH1、R1-、ΔH2、R2-)が(0.01[mm]、299[mm]、0.001[mm]、289[mm])に設計された条件下で実施例1の基板保持装置が作製された。
【0023】
(実施例2)
ΔH1が0.03[mm]に変更されたほかは実施例1と同様の条件下で実施例2の基板保持装置が作製された。
【0024】
(実施例3)
R1-が296[mm]に変更されたほかは実施例1と同様の条件下で実施例3の基板保持装置が作製された。
【0025】
(実施例4)
ΔH2が0.005[mm]に変更されたほかは実施例1と同様の条件下で実施例4の基板保持装置が作製された。
【0026】
(実施例5)
R2-が280[mm]に変更されたほかは実施例1と同様の条件下で実施例5の基板保持装置が作製された。
【0027】
(評価方法)
各実施例の基板保持装置により径φ300[mm]、厚さt0.7[mm]の略円板状の基板を保持されている状態の基板の平坦度LTV(Local Thickness Variation)がレーザー干渉計により測定された。この評価結果が、各実施例の基板保持装置における突起20、第1環状凸部21および第2環状凸部22のそれぞれのサイズ等とともに表1にまとめて示されている。
【0028】
【表1】
【0029】
(比較例)
(比較例1)
第2環状凸部22が省略されたほかは実施例1と同様の条件下で比較例1の基板保持装置が作製された。
【0030】
(比較例2)
第1環状凸部21が省略されたほかは実施例1と同様の条件下で比較例2の基板保持装置が作製された。
【0031】
(比較例3)
ΔH1が0.004[mm]に変更されたほかは実施例1と同様の条件下で比較例3の基板保持装置が作製された。
【0032】
(比較例4)
ΔH1が0.04[mm]に変更されたほかは実施例1と同様の条件下で比較例4の基板保持装置が作製された。
【0033】
(比較例5)
R1-が294[mm]に変更されたほかは実施例1と同様の条件下で比較例5の基板保持装置が作製された。
【0034】
(比較例6)
ΔH2が0.01[mm]に変更されたほかは実施例1と同様の条件下で比較例6の基板保持装置が作製された。
【0035】
(比較例7)
R2-が294[mm]に変更されたほかは実施例1と同様の条件下で比較例7の基板保持装置が作製された。
【0036】
(比較例8)
R2-が276[mm]に変更されたほかは実施例1と同様の条件下で比較例8の基板保持装置が作製された。
【0037】
各比較例の基板保持装置の評価結果が、突起20、第1環状凸部21および第2環状凸部22のそれぞれのサイズ等とともに表2にまとめて示されている。
【0038】
【表2】
【0039】
表1および表2を比較すると、各実施例の基板保持装置によれば、各比較例の基板保持装置と比較して、基板の平坦度が高いことがわかる。
【符号の説明】
【0040】
1‥基体、10‥通気路、20‥突起、21‥第1環状凸部、22‥第2環状凸部、WF‥ウエハ(基板)。
図1
図2