(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6496412
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 8/12 20060101AFI20190325BHJP
B23K 26/364 20140101ALI20190325BHJP
H01F 1/147 20060101ALN20190325BHJP
【FI】
C21D8/12 D
B23K26/364
!H01F1/147 183
【請求項の数】23
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-533470(P2017-533470)
(86)(22)【出願日】2015年12月21日
(65)【公表番号】特表2018-508645(P2018-508645A)
(43)【公表日】2018年3月29日
(86)【国際出願番号】KR2015014036
(87)【国際公開番号】WO2016105055
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2017年6月20日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0189060
(32)【優先日】2014年12月24日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2015-0177394
(32)【優先日】2015年12月11日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】クォン、 オ−ヨル
(72)【発明者】
【氏名】イ、 ウォン−ゴル
(72)【発明者】
【氏名】ホン、 ソン−チョル
(72)【発明者】
【氏名】イ、 ギュ−テク
(72)【発明者】
【氏名】パク、 ジョン−テ
(72)【発明者】
【氏名】イム、 チュン−ス
【審査官】
静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/125672(WO,A1)
【文献】
特開2012−087332(JP,A)
【文献】
特開2007−002334(JP,A)
【文献】
特開2004−056090(JP,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2013−0128214(KR,A)
【文献】
国際公開第2012/068868(WO,A1)
【文献】
特開2014−194073(JP,A)
【文献】
特開昭60−103183(JP,A)
【文献】
特開平06−057333(JP,A)
【文献】
国際公開第2004/083465(WO,A1)
【文献】
国際公開第2012/014290(WO,A1)
【文献】
国際公開第2012/165393(WO,A1)
【文献】
特開平06−158166(JP,A)
【文献】
特開平06−057335(JP,A)
【文献】
特開2012−172215(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 8/12
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にグルーブが形成された方向性電磁鋼板において、
前記グルーブは、前記電磁鋼板の表面に金属酸化物層が被覆された状態で形成され、
前記グルーブは、グルーブの幅(Wb)と深さ(Db)との比が3.4:1〜1.5:1と幅が狭くて深さが深く形成されたことを含み、
前記グルーブは、前記グルーブの深さが最大となる地点における曲率半径(RBb)が0.2μm〜100μmであり、
前記グルーブの表面からグルーブの深さ(Db)の1/4地点までの曲率半径(RSb)が4μm〜130μmであり、
前記グルーブの下部には前記グルーブが形成された前記電磁鋼板を熱処理して形成された再結晶が存在する、方向性電磁鋼板。
【請求項2】
前記グルーブは、グルーブの幅(Wb)と深さ(Db)との比が3.2:1〜2:1と幅が狭くて深さが深く形成されたことを含む、請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項3】
前記金属酸化物層は、Mg2SiO4、MgAl2O4、MnO、MnO2、またはMn2SiO4のうちのいずれか1つであるか、またはいずれか1つ以上が複合的に形成されたものである、請求項1又は2に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項4】
前記金属酸化物層は、前記電磁鋼板の表面に1〜20μmの厚さに形成されたものである、請求項3に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項5】
前記金属酸化物層は、前記電磁鋼板の表面に1〜5μmの厚さに形成されたものである、請求項3に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項6】
前記グルーブの深さ(Db)は、電磁鋼板の厚さの3%〜8%である、請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項7】
前記グルーブの上部幅(Wb)は、10μm〜50μmである、請求項6に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項8】
前記グルーブは、線状に形成され、前記線状のグルーブは、電磁鋼板の圧延方向に対して82°〜98°である(90°を含まない)、請求項7に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項9】
冷間圧延した電磁鋼板を、脱炭焼鈍した後に、焼鈍分離剤を塗布し、高温焼鈍によって二次再結晶を形成して、前記電磁鋼板の表面に金属酸化物層を形成する段階と、
前記金属酸化物層が形成された電磁鋼板の表面にグルーブを形成するが、前記グルーブの幅(Wb)と深さ(Db)との比が3.4:1〜1.5:1と幅が狭くて深さが深く形成されるようにグルーブを形成する段階とを含み、
前記グルーブを形成する段階において、鋼板の幅方向に10μm〜30μm、鋼板の圧延方向に5μm〜20μmのレーザビームを鋼板に照射して一次グルーブを形成した後、前記一次グルーブ上に鋼板の幅方向に35μm〜80μm、鋼板の圧延方向に25μm〜50μmのレーザビームを照射して二次グルーブをさらに形成し、
前記グルーブが形成された前記電磁鋼板を熱処理して、前記グルーブの下部に素地鋼板の再結晶をさらに形成させる、方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記グルーブを形成する段階は、ガウシアン(Gaussian)エネルギー分布を有し、TEM00モードであり、ビーム品質ファクター(factor)のM2が1.0〜1.1の連続波レーザを用いてグルーブを形成する、請求項9に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記連続波レーザは、波長が1.06〜1.08μmの範囲であり、出力は0.5〜5kWであり、エネルギー密度は0.5〜2.0J/mm2である、請求項10に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記連続波レーザは、Nd:YAGレーザまたはファイバーレーザである、請求項11に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項13】
前記レーザは、下記式1の範囲のエネルギー密度を有する、請求項10に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
0.010W−1m/s≦P−1×V≦0.080W−1m/s−−−−(1)
(ここで、Pはレーザの出力(W)、Vはレーザの走査速度(m/s)である。)
【請求項14】
前記グルーブを形成する段階において、前記グルーブの幅(Wb)と深さ(Db)との比が3.2:1〜2:1となるように前記グルーブを形成する、請求項9から13のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項15】
前記グルーブを形成する段階において、前記グルーブの深さが最大となる地点における曲率半径(RBb)が0.2μm〜100μmとなるように前記グルーブを形成する、請求項9から14のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項16】
前記金属酸化物層は、Mg2SiO4、MgAl2O4、MnO、MnO2、またはMn2SiO4のうちのいずれか1つであるか、またはいずれか1つ以上が複合的に形成されたものである、請求項9から15のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項17】
前記金属酸化物層は、1〜20μmの厚さに形成する、請求項16に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項18】
前記金属酸化物層は、1〜5μmの厚さに形成する、請求項16に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項19】
前記金属酸化物層の上部に絶縁コーティング層をさらに形成させる、請求項16に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項20】
前記再結晶を形成させる方法は、絶縁コーティング層を形成する熱処理または応力緩和焼鈍のうちのいずれか1つである、請求項9に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項21】
前記グルーブを形成する段階で形成されるグルーブの深さ(Db)は、電磁鋼板の厚さの3%〜8%である、請求項16に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項22】
前記グルーブを形成する段階で形成されるグルーブの上部幅(Wb)は、10μm〜50μmである、請求項21に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項23】
前記グルーブを形成する段階で形成される線状のグルーブと、電磁鋼板の圧延方向とのなす角度は、82°〜98°である(90°を含まない)、請求項22に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、変圧器などの電気機器の鉄心材料として用いられ、電気機器の電力損失を低減し、効率を向上させるために、鉄損が低くて磁束密度が高い磁気的特性を有する鋼板が要求される。
【0003】
一般に、方向性電磁鋼板は、熱間圧延、冷間圧延と焼鈍工程により、圧延方向に対して{110}<001>方位に配向された集合組織(Goss Texture)を有する材料をいう。
【0004】
このような方向性電磁鋼板において、{110}<001>方位は、鉄の磁化容易軸方向に配向された程度が高いほど、磁気的特性に優れている。
【0005】
方向性電磁鋼板を製造する工程は、まず、電磁鋼板に必要な組成を有する鉄鋼素材をスラブ(slab)に製造し、このスラブを加熱した後、熱間圧延を実施して、熱延鋼板に製造する。その後、この熱延鋼板を、必要に応じて熱延板焼鈍を選択的に実施してから、1回または、必要に応じて数回の冷間圧延を実施して、必要な厚さを有する冷延鋼板を製造する。製造された冷延鋼板は、脱炭焼鈍と、選択的に窒化処理をした後、焼鈍分離剤を塗布した状態で高温焼鈍(最終焼鈍または二次再結晶焼鈍ともいう。)を実施する。
【0006】
このように高温焼鈍を実施してから、選択的に平坦化焼鈍を実施して鋼板の形状を矯正する。そして、このような平坦化焼鈍の前または後に鋼板に張力を付与するために、必要に応じて張力コーティングを実施する。このような張力コーティングは、無機質のコーティング液や、有機−無機複合コーティング液を鋼板の表面に塗布してベーキング(Baking)処理をすると、鋼板の表面に薄い絶縁被膜が形成されるものであり、絶縁コーティングともいう。
【0007】
一方、方向性電磁鋼板に磁気的特性を向上させるための目的で磁区の幅を減少させる磁区微細化を実施する。
【0008】
磁区微細化方法は、電磁鋼板の表面に物理的な手段で線状の溝(linear groove)を形成する。このようなグルーブ(groove)を形成する物理的な手段としては、エッチング法やロール法などがあるが、レーザを照射する方法が好まれている。
【0009】
このような磁区微細化方法は、応力除去焼鈍後にも、磁区微細化改善効果の維持の有無によって、一時磁区微細化と永久磁区微細化とに分けられる。
【0010】
レーザ照射によってグルーブを形成する永久磁区微細化方法は、電磁鋼板を製造する工程の中間段階または後の段階で実施することができる。つまり、最終冷間圧延を実施してから、脱炭焼鈍前やその後、または高温焼鈍前やその後、または平坦化焼鈍前やその後にグルーブを形成することができる。
【0011】
レーザによる永久磁区微細化方法は、高出力のレーザを高速に移動する電磁鋼板の表面部に照射し、レーザ照射によってベース部の溶融を伴うグルーブ(groove)を形成させる方法を使用する。この時使用されるレーザとしては、Q−Switchあるいはパルスレーザ、そして連続波レーザがある。
【0012】
このようにレーザを用いて永久磁区微細化を実施する場合、レーザビームを電磁鋼板上に照射する時、レーザビームによって鋼板の表面が溶融を伴いながらグルーブが形成される。
【0013】
したがって、レーザを用いた永久磁区微細化方法は、溶融を伴う深いグルーブを形成するため、グルーブ形成時、レーザエネルギー密度を最小化することが必要である。つまり、グルーブ形成に必要なレーザエネルギー密度を最小化することによって、より低いレーザ出力で高速に線状のグルーブを形成させることができる。
【0014】
また、グルーブ形成時、グルーブの内部に部分または全面に溶融合金層が残留する場合、グルーブ付近の熱影響が大きいため、鋼板表面でレーザの照射された部分で磁束密度の劣化が大きく現れるという欠点がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の一実施形態は、比較的低いエネルギー密度で線状のグルーブが形成され、レーザ照射後にも鉄損改善特性に優れた方向性電磁鋼板を提供する。
【0016】
本発明の他の実施形態は、比較的低いエネルギー密度でグルーブを形成させることができ、レーザ照射後にも鉄損改善特性に優れ、高速にレーザを走査して線状のグルーブを形成させることができる方向性電磁鋼板の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板は、表面にグルーブが形成された方向性電磁鋼板において、前記グルーブは、前記電磁鋼板の表面に非金属酸化物層が被覆された状態で形成され、前記グルーブは、グルーブの幅(Wb)と深さ(Db)との比が3.4:1〜1.5:1と幅が狭くて深さが深く形成されたものであってもよい。
【0018】
前記グルーブは、グルーブの幅(Wb)と深さ(Db)との比が3.2:1〜2:1と幅が狭くて深さが深く形成されたことを含む。
【0019】
前記グルーブ底の深さが最大となる地点における曲率半径(RBb)と、前記グルーブの深さが最大となる地点からグルーブの深さ(Db)の1/4地点までのグルーブ表面における曲率半径(RSb)の垂直接線部を相互連結した接線部の変曲点(Xb)は、前記グルーブの深さの1/2地点(1/2Da)より下部に形成されたものであってもよい。
【0020】
前記グルーブは、前記グルーブの深さが最大となる地点における曲率半径(RBb)が0.2μm〜100μmであってもよい。
【0021】
前記非金属酸化物層は、Mg
2SiO
4、MgAl
2O
4、MnO、MnO
2、またはMn
2SiO
4のうちのいずれか1つであるか、またはいずれか1つ以上が複合的に形成されたものであってもよい。
【0022】
前記非金属酸化物層は、前記電磁鋼板の表面に1〜20μmの厚さに形成されたものであってもよい。このような非金属酸化物層の厚さは、1〜5μmが好ましい。
【0023】
前記グルーブの深さが最大となる地点からグルーブの深さ(D)の1/4地点までのグルーブ表面における曲率半径(R
s)が4μm〜130μmであってもよい。
【0024】
前記グルーブの下部には素地鋼板の再結晶が存在し得る。
【0025】
前記グルーブの深さ(Db)は、電磁鋼板の厚さの3%〜8%であってもよい。
【0026】
前記グルーブの上部幅(Wb)は、10μm〜50μmであってもよい。
【0027】
前記グルーブは、線状に形成され、前記線状のグルーブは、電磁鋼板の圧延方向に対して82°〜98°であってもよい(90°を含まない)。
【0028】
本発明の他の実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法は、冷間圧延した電磁鋼板を、脱炭焼鈍後に焼鈍分離剤を塗布し、高温焼鈍によって二次再結晶を形成して、前記電磁鋼板の表面に非金属酸化物層を形成する段階と、前記非金属酸化物層が形成された電磁鋼板の表面にグルーブを形成するが、前記グルーブの幅(Wb)と深さ(Db)との比が3.4:1〜1.5:1と幅が狭くて深さが深く形成されるようにグルーブを形成する段階とを含む。
【0029】
前記グルーブ形成段階は、ガウシアン(Gaussian)エネルギー分布を有し、TEM
00モードであり、ビーム品質ファクター(factor)のM
2が1.0〜1.1の連続波レーザを用いてグルーブを形成するものであってもよい。
【0030】
前記連続波レーザは、波長が1.06〜1.08の範囲であり、出力は0.5〜5kWであり、エネルギー密度は0.5〜2.0J/mm
2であってもよい。
【0031】
前記連続波レーザは、Nd:YAGレーザやファイバーレーザのうちのいずれか1つであってもよい。
【0032】
前記レーザは、下記式1の範囲のエネルギー密度を有するものであってもよい。
【0033】
0.010W
−1m/s≦P
−1×V≦0.080W
−1m/s−−−−(1)
(ここで、Pはレーザの出力(W)、Vはレーザの走査速度(m/s)である。)
前記グルーブを形成する段階において、前記グルーブの幅(Wb)と深さ(Db)との比が3.2:1〜2:1となるように前記グルーブを形成するものであってもよい。
【0034】
前記グルーブを形成する段階において、前記グルーブ底の深さが最大となる地点における曲率半径(RBb)と、前記グルーブの深さが最大となる地点からグルーブの深さ(Db)の1/4地点までのグルーブ表面における曲率半径(RSb)の垂直接線部を相互連結した接線部の変曲点(Xb)が前記グルーブの深さの1/2地点(1/2Da)より下部に形成されるように前記グルーブを形成するものであってもよい。
【0035】
前記グルーブを形成する段階において、前記グルーブの深さが最大となる地点における曲率半径(RBb)が0.2μm〜100μmとなるように前記グルーブを形成するものであってもよい。
【0036】
前記非金属酸化物層は、Mg
2SiO
4、MgAl
2O
4、MnO、MnO
2、またはMn
2SiO
4のうちのいずれか1つであるか、またはいずれか1つ以上が複合的に形成されたものであってもよい。
【0037】
前記非金属酸化物層は、1〜20μmの厚さに形成するものであってもよい。このような非金属酸化物層の厚さは、1〜5μmが好ましい。
【0038】
前記非金属酸化物層の上部に絶縁コーティング層をさらに形成させることができる。
【0039】
前記グルーブが形成された前記電磁鋼板を熱処理して、前記グルーブの下部に素地鋼板の再結晶をさらに形成させることができる。
【0040】
前記再結晶を形成させる方法は、絶縁コーティング層を形成する熱処理または応力緩和焼鈍のうちのいずれか1つであってもよい。
【0041】
前記グルーブを形成する段階で形成されるグルーブの深さ(Db)は、電磁鋼板の厚さの3%〜8%であってもよい。
【0042】
前記グルーブを形成する段階で形成されるグルーブの上部幅(Wb)は、10μm〜50μmであってもよい。
【0043】
前記グルーブを形成する段階で形成される線状のグルーブと、電磁鋼板の圧延方向とのなす角度は、82°〜98°であってもよい(90°を含まない)。
【0044】
前記グルーブを形成する段階において、鋼板の幅方向に10μm〜30μm、鋼板の圧延方向に5μm〜20μmのレーザビームを鋼板に照射して一次グルーブを形成した後、前記一次グルーブ上に鋼板の幅方向に35μm〜80μm、鋼板の圧延方向に25μm〜50μmのレーザビームを前記一次グルーブに照射して二次グルーブをさらに形成するものであってもよい。
【発明の効果】
【0045】
本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法によれば、高速に進行する鋼板の表面に相対的に幅が狭くて深さが深いグルーブを形成することができる。
【0046】
また、本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法によれば、二次再結晶後に鋼板の表面に形成された非金属酸化物層によって比較的低いエネルギー密度でレーザ照射による磁区微細化を実施することができる。
【0047】
さらに、本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法によれば、レーザ照射によって幅が狭くて深さが深いグルーブを形成させることができ、レーザ照射後にも3%以上の鉄損の改善特性を確保することができる。
【0048】
そして、本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法によれば、高速にレーザを走査して電磁鋼板の表面にグルーブを形成させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板にグルーブが形成された断面を示す写真である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板に形成されたグルーブの断面を示す模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板に形成されたグルーブの断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明の利点および特徴、そしてそれらを達成する方法は、添付した図面と共に詳細に後述する実施形態を参照すれば明確になるであろう。しかし、本発明は、以下に開示される実施形態に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態で実現可能であり、単に本実施形態は本発明の開示が完全になるようにし、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に発明の範疇を完全に知らせるために提供されるものであり、本発明は請求項の範疇によってのみ定義される。明細書全体にわたって同一の参照符号は同一の構成要素を指し示す。
【0051】
したがって、いくつかの実施形態において、よく知られた技術は、本発明が曖昧に解釈されるのを避けるために具体的に説明されない。別の定義がなければ、本明細書で使用される全ての用語(技術および科学的用語を含む)は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に共通して理解できる意味で使用されるはずである。明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」とする時、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに包含できることを意味する。また、単数形は、文章で特に言及しない限り、複数形も含む。
【0052】
本発明の一実施形態は、レーザを用いて鋼板の厚さの3%〜8%以内の深さに鋼板の表面に溝を形成させる場合、レーザ吸収率が高い非金属酸化物層または非金属酸化物層の上部に絶縁コーティングされた鋼板の表面にレーザを照射することによって、比較的低いエネルギー密度で溝を形成させることができ、レーザ照射後にも鉄損改善特性を有し、高速にレーザを走査してグルーブを形成させることができる永久磁区微細化技術である。
【0053】
このような方法で鋼板の表面にグルーブを形成する場合、グルーブの側部や下部には溶融合金層が形成されず、グルーブの上部左右側の鋼板の表面には一部の溶融合金層が残留し得る。
【0054】
このように非金属酸化物層が形成された鋼板の表面にレーザを照射してグルーブの下部および側部に溶融合金層を形成させないことによって、鋼板の長さおよび幅方向に熱処理前後の鉄損が改善された特性を維持させるための条件は次の通りである。
【0055】
まず、鋼板の表面に非金属酸化物層を形成しなければならない。このような非金属酸化物層は、方向性電磁鋼板の製造工程中に焼鈍分離剤を塗布した後、高温焼鈍して二次再結晶を完了した後、鋼板の表面に形成される。
【0056】
高温焼鈍後に鋼板の表面に形成される非金属酸化物層は、Mg
2SiO
4、MgAl
2O
4、MnO、MnO
2、またはMn
2SiO
4のうちのいずれか1つであるか、またはいずれか1つ以上が複合的に形成される。
【0057】
このように鋼板の表面に非金属酸化物層が形成されると、レーザ照射時のレーザ吸収率が非金属酸化物層が形成されていない鋼板より30%以上増加して、相対的に低いエネルギー密度でもグルーブを形成可能で、高い走査速度で線状のグルーブを形成することができる。
【0058】
したがって、非金属酸化物層が形成された鋼板は、非金属酸化物層が形成されていない鋼板に比べてグルーブの形成に必要なレーザ出力は20%以上減少して、鉄損を改善するうえで効率が高い。
【0059】
また、鋼板の表面に非金属酸化物層が形成される場合、このような非金属酸化物層が鋼板表面と物理化学的に強固な結合をなしていて、レーザ照射による熱衝撃にも簡単に破壊されない。
【0060】
このようなレーザ吸収率が高い非金属酸化物層は、鋼板の表面に1〜20μmの厚さに形成することが好ましい。非金属酸化物層の厚さが1μm以下の場合、レーザ吸収率の増加効果が低く、レーザ照射時に非金属酸化物層が熱衝撃によって破壊され、20μm以上の場合、非金属酸化物層を形成させるための工程条件を制御しにくく、グルーブ形成のためのレーザ出力が高くなるという欠点がある。より好ましくは、鋼板の表面に形成される非金属酸化物層の厚さは、1〜5μmである。
【0061】
次に、非金属酸化物層が形成された鋼板の表面に照射されるレーザ特性が最適化されなければならない。
【0062】
非金属酸化物層が形成された鋼板の表面に照射されるレーザ特性は、最終レーザビームのエネルギー分布がガウシアン(Gaussian)エネルギー分布を有していなければならない。エネルギー分布がガウシアンエネルギー分布を有していれば、レーザの発進方式や最終ビームの形状に比較的無関係であるが、連続波レーザやエクステンデッドパルス(Extended Plus)レーザが好ましい。
【0063】
また、ガウシアンエネルギー分布を有するレーザは、シングルモードの光軸中心で最大強度を有するTEM
00モードが好ましい。そして、レーザビームのモードを示すビーム品質ファクター(factor)のM
2は、1.0〜1.1が好ましい。つまり、ガウシアンエネルギー分布を有するレーザは、TEM
00モードのM
2が1.0〜1.1のレーザビームを用いることが好ましい。
【0064】
磁区微細化に使用されるレーザは、波長が1.06〜1.08の波長範囲のレーザが好ましい。したがって、この波長範囲のレーザであればいかなるレーザでも可能であり、Nd:YAGレーザやファイバーレーザを用いることがより好ましい。
【0065】
この時使用されるレーザの出力は0.5〜5kW、レーザのエネルギー密度は0.5〜2.0J/mm
2が好ましい。レーザ出力とエネルギー密度の下限点以下と上限点以上では、折損改善のための適切なグルーブが形成されない。
【0066】
そして、鋼板に照射されるレーザビームの最終形態は楕円形が好ましく、楕円形ビームの圧延方向の幅は0.005〜0.1mmが好ましく、鋼板の幅方向のビームの長さは0.01〜0.2mmが好ましい。
【0067】
また、照射されたレーザビームが鋼板に投入されるエネルギー密度は、レーザの平均出力(P:W=j/s)と走査速度(scan speed:V=m/s)で表すことができ、下記式1の範囲が好ましい。
【0068】
0.010W
−1m/s≦P
−1×V≦0.080W
−1m/s−−−−(1)
(ここで、Pはレーザの出力(W)、Vはレーザの走査速度(m/s)である。)
ここで、レーザのエネルギー密度を式1のように限定した理由は、0.010W
−1m/s未満の場合には、レーザによるグルーブ形成時、グルーブに熱影響が増加することによって鉄損特性が低下する問題があり、0.080W
−1m/s超過の場合、表面に形成されるグルーブが熱処理後の鉄損を改善する程度の深さを形成できない問題が生じ得るからである。
【0069】
以上のように、非金属酸化物層が形成された鋼板の表面に、前述した特性を有するレーザを高速に照射する場合、
図1のような形態のグルーブが鋼板の表面に形成される。
【0070】
図1は、本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板にグルーブが形成された断面写真を示しており、
図2は、方向性電磁鋼板に形成されたグルーブの断面を模式図に示すものである。
【0071】
図1と
図2における(A)は、方向性電磁鋼板の製造工程で冷間圧延工程まで完了して、厚さ0.23mmの電磁鋼板に鉱物油のみを塗布した状態で以下の条件でレーザを照射した鋼板の断面写真であり、
図1と
図2における(B)は、(A)と同一の条件で冷延鋼板を製造した後、MgOを主成分とした焼鈍分離剤を塗布し、二次再結晶焼鈍を行った後、コロイダルシリカおよび金属リン酸塩を含む絶縁コーティング液を塗布する工程をさらに行った電磁鋼板に、以下の条件でレーザを照射した鋼板の断面写真である。
【0072】
図1で、レーザ照射条件は、1.07μmの波長の連続波ファイバーレーザを用い、この時、鋼板に照射されるファイバーレーザのビームはTEM
00モード、M
2値が1.07のガウシアン形態の楕円形ビームの特性を有するように制御した。ここで、楕円形ビームの大きさは、圧延方向に15μmであり、鋼板の幅方向に40μmであり、レーザの出力は0.9kWであり、レーザのエネルギー密度は1.13J/mm
2であり、レーザ照射間隔は2.5mmであった。
【0073】
図1で用いた電磁鋼板は、重量%で、O:0.0050%、Si:3.1%、C:0.05%、Al:0.03%、Mn:0.07%、N:0.003%、S:0.005%、およびP:0.02%を含み、残部はFeおよびその他不可避に混入した不純物が含まれている電磁鋼板である。
【0074】
図1で、同一のレーザ照射条件で鋼板の表面にグルーブを形成したが、冷間圧延後の鋼板(A)に形成されたグルーブは、幅が45μm、深さが12.9μmであるのに対し、Mg
2SiO
4の非金属酸化物層が形成された鋼板(B)に形成されたグルーブは、幅が30μm、深さが18.2μmであった。ここで、グルーブの幅とは、
図2のように、鋼板の断面からみて、鋼板に形成されたグルーブの入口の幅(Wa、Wb)、つまり、鋼板表面におけるグルーブの最大の幅を意味する。
【0075】
このように同一のレーザ照射条件でグルーブを形成しても、冷間圧延後の鋼板(A)に形成されたグルーブは、その幅が非金属酸化物層が形成された鋼板(B)より大きく、逆に、冷間圧延後の鋼板(A)に形成されたグルーブの深さは、非金属酸化物層が形成された鋼板(B)より深くなかった。この結果は、非金属酸化物層が形成された鋼板(B)の場合、鋼板表面に形成された非金属酸化物層がレーザのエネルギーをより良く吸収(冷延鋼板の場合のレーザエネルギー吸収率は約20%であり、非金属酸化物層が形成された鋼板の場合のレーザエネルギー吸収率は約40%に達する。)して、非金属酸化物層が形成された鋼板(B)の場合のレーザ照射によってより幅が狭くて深さが深いグルーブが形成されるからである。
【0076】
この結果は次のような式で表すことができる。つまり、冷間圧延後の鋼板(A)に形成されたグルーブの幅をWaとし、深さをDaとし、非金属酸化物層が形成された鋼板(B)のグルーブの幅をWbとし、深さをDbとする時、これらの関係式は下記式2で表現される。
【0077】
Wa>Wbでかつ、Da<Db−−−−(2)
そして、電磁鋼板の厚さを0.3mm、0.27mm、そして0.23mmに対して追加的に同一条件で実験した結果、冷間圧延後の鋼板(A)に形成されたグルーブの幅(Wa)と深さ(Da)との比は5:1であり、レーザ照射条件を変化して、深さがさらに深くなっても最大3.5:1程度であることを確認した。
【0078】
しかし、同一の電磁鋼板の厚さを有する非金属酸化物層が形成された鋼板(B)に対して実験した結果、グルーブの幅(Wb)と深さ(Db)との比は3.4:1〜1.5:1程度で、鋼板に形成されたグルーブは幅が相対的に狭くて深さはより深く形成された。
【0079】
したがって、非金属酸化物層が形成された鋼板(B)のグルーブの幅(Wb)と深さ(Db)との比は3.4:1〜1.5:1が好ましく、3.2:1〜2:1がさらに好ましい。前記非金属酸化物層が形成されている鋼板にグルーブを形成させる場合、比較的低いエネルギー密度でグルーブを形成させることができ、グルーブの幅と溝の深さとの比は3.4:1〜1.5:1となることによって、レーザ照射後にも鉄損の改善特性が高く、高速にレーザを走査して電磁鋼板の表面にグルーブを形成させることができる。
【0080】
また、同一のレーザ照射条件で鋼板の表面にグルーブを形成した結果、冷間圧延後の鋼板(A)に形成されたグルーブと、非金属酸化物層が形成された鋼板(B)に形成されたグルーブとの間に形状の差異があった。
【0081】
つまり、冷間圧延後の鋼板(A)に形成されたグルーブと、非金属酸化物層が形成された鋼板(B)に形成されたグルーブは同じく、グルーブの底と表面部が丸く形成されている。このように鋼板に形成されたグルーブの底と表面部が丸く形成されるのは、ガウシアン形態のレーザビームを用いた時、このビーム形態の特性により形成された熱分布図に起因すると見なす。
【0082】
この時、グルーブ底の深さが最大となる地点における丸い部分の曲率半径を(RB
Bottom)とし、グルーブの深さが最大となる地点からグルーブの深さ(D)の1/4地点までのグルーブ表面における曲率半径を(RS
surface)とする時、冷間圧延後の鋼板(A)に形成されたグルーブ底の曲率半径をRBaとし、表面部分の曲率半径をRSaとし、非金属酸化物層が形成された鋼板(B)に形成されたグルーブも同様に、RBbおよびRSbと称する。そして、2つの曲率半径の垂直接線部を相互連結した時、これら接線部の接する地点で変曲点(Xa、Xb)が形成される。このような変曲点(Xa、Xb)は、2つの垂直接線部を連結する線分の1/2地点で形成される。
【0083】
図2に示されているように、冷間圧延後の鋼板(A)に形成されたグルーブの変曲点(Xa)は、形成されたグルーブの深さの1/2地点(1/2Da)より上部に形成されているのに対し、非金属酸化物層が形成された鋼板(B)に形成されたグルーブの変曲点(Xb)は、形成されたグルーブの深さの1/2地点(1/2Da)より下部に形成されている。
【0084】
したがって、電磁鋼板の磁区微細化工程で二次再結晶が完了した後、電磁鋼板をレーザによって磁区を微細化する場合、形成されたグルーブは、変曲点(Xb)をグルーブの深さの1/2地点(1/2Da)より下部に形成されるように工程条件を制御することが好ましい。
【0085】
一方、
図3は、本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板に形成されたグルーブの断面を示す図である。
【0086】
図3を参照すれば、本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板は、鋼板(B)の表面にMg
2SiO
4などのような非金属酸化物層20が形成されており、磁区微細化処理によって鋼板の表面にグルーブが形成されている。このような非金属酸化物層20の上部に絶縁コーティング層が選択的に形成されてもよい。
【0087】
鋼板に形成された相対的に幅が狭くて深さが深いグルーブは、グルーブの深さが最大となる地点における曲率半径(RBb)が0.2μm〜100μmであってもよい。より具体的には0.2μm〜50μmであってもよい。
【0088】
グルーブの深さが最大となる地点(Dbの下頂点)における曲率半径(RBb)が0.2μm未満の場合、グルーブの内部に素地鋼板の溶融物が残留して、絶縁コーティング後に電気絶縁特性を確保しにくく、100μm超過の場合、鉄損改善率が低下することがある。
【0089】
グルーブの深さが最大となる地点からグルーブの深さ(Db)の1/4地点までのグルーブ表面における曲率半径(RSb)が4μm〜130μmであることを含む。ここで、グルーブの深さ(Db)は、鋼板表面のグルーブが形成されていない部分からグルーブの深さが最大となる地点までの距離を意味する。
【0090】
また、グルーブの深さが最大となる地点からグルーブの深さ(Db)の1/4地点までのグルーブ表面における曲率半径(RSb)が4μm未満の場合、グルーブの内部に素地鋼板の溶融物が残留して、絶縁コーティング後に電気絶縁特性を確保しにくく、130μm超過の場合、鉄損改善率が低下することがある。しかし、レーザ照射によって形成される溶融物は、
図3の符号40で表しているように、グルーブ上部の外側表面に凝固して残留し得る。
【0091】
前記グルーブの深さ(Db)は、電磁鋼板の厚さの3%〜8%であってもよい。より具体的には4%〜8%であってもよい。3%未満の場合、鉄損改善のための適正な深さのグルーブが形成されず、8%を超える場合、熱影響部が増加してゴス集合組織(Goss Texture)の成長に悪影響を及ぼすことがある。
【0092】
また、前記グルーブの上部幅(Wb)は、10μm〜50μmであってもよい。10μm未満の場合、鉄損改善のための適正な幅が維持されず、50μm超過の場合、熱影響部が増加して磁性が低下することがある。
【0093】
さらに、
図3を参照すれば、グルーブの下部には、熱影響によって素地鋼板の再結晶30が形成されていてよい。このように、電磁鋼板は、熱処理後に再結晶30が形成されると、幅が狭い磁区によって鉄損改善特性を示すようになる。このような再結晶30は、グルーブの下部に不連続的に形成されてもよく、連続的にも形成されてもよい。
【0094】
グルーブの下部に再結晶30を形成する方法は、レーザ照射によってグルーブを形成した後、鋼板を熱処理して形成することができる。このような熱処理方法には、絶縁コーティング後、熱処理(Heat treatment)したり、応力緩和焼鈍を実施する方法がある。
【0095】
また、前記グルーブは、電磁鋼板の圧延方向に対して82°〜98°に形成される。グルーブを90°を含まない斜線状に形成することによって、半磁場を弱くして磁性を向上させることができる。
【0096】
以下、先に説明した方向性電磁鋼板を製造するための本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法を説明する。
【0097】
本発明の一実施形態による方向性電磁鋼板の製造方法は、二次再結晶焼鈍によって鋼板の表面に非金属酸化物層が形成された後、鋼板の表面にレーザを照射して鋼板の表面にグルーブを形成する段階を含む。
【0098】
一般に、方向性電磁鋼板の製造工程は、Si 3重量%のスラブ(slab)を熱間圧延および熱延板焼鈍、冷間圧延、脱炭焼鈍(一次再結晶焼鈍)、高温焼鈍(二次再結晶焼鈍)、平坦化焼鈍、絶縁コーティングの順に行われる。
【0099】
レーザ照射による磁区微細化処理は、冷間圧延後や二次再結晶焼鈍後に実施することができるが、本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法は、脱炭焼鈍(一次再結晶焼鈍)後、鋼板の表面に焼鈍分離剤を塗布してから、高温焼鈍(二次再結晶焼鈍)をして鋼板の表面に非金属酸化物層を形成させた後、鋼板の表面にレーザを照射して磁区微細化を実施することができる。
【0100】
鋼板の表面に非金属酸化物層を形成する方法は、電磁鋼板の製造工程によって冷延鋼板を製造した後、脱炭焼鈍をし、MgOを主成分とし、その他添加物からなる焼鈍分離剤を鋼板上に塗布し、高温焼鈍をして、Mg
2SiO
4(フォルステライト)、MgAl
2O
4(スピネル)、MnO、MnO
2、Mn
2SiO
4などの非金属酸化物が単独または複合的に存在する非金属酸化物層を形成する方法が好ましい。
【0101】
このように、鋼板の表面に非金属酸化物を形成した後、直ちにレーザを照射して磁区微細化を実施してもよく、非金属酸化物層の上部にコロイダルシリカと金属リン酸塩を含む絶縁コーティング液を塗布および熱処理して、鋼板の表面に絶縁被膜を追加的に形成した後、レーザを照射して磁区微細化を実施してもよい。
【0102】
このように、鋼板の表面に非金属酸化物層が形成される場合、該層がレーザ吸収率を増加させて、相対的に低いエネルギー密度でもグルーブを形成することができる。
【0103】
このように、非金属酸化物層が形成された鋼板の表面にレーザを照射して磁区を微細化する場合、レーザの照射条件は上記式(1)を満足することができる。
【0104】
この時使用されるレーザビームは、エネルギー分布がガウシアンエネルギー分布を有していれば、レーザの発進方式に無関係であるが、連続波レーザやエクステンデッドパルス(Extended Plus)レーザが好ましい。
【0105】
ガウシアンエネルギー分布を有するレーザは、シングルモードの光軸中心で最大強度を有するTEM
00モードが好ましい。そして、レーザビームのモードを示すビーム品質ファクター(factor)のM
2は、1.0〜1.1が好ましい。
【0106】
磁区微細化に使用されるレーザは、波長が1.06〜1.08の波長範囲のレーザが好ましい。したがって、この波長範囲のレーザであればいかなるレーザでも可能であり、Nd:YAGレーザやファイバーレーザを用いることがより好ましい。
【0107】
この時使用されるレーザの出力は0.5〜5kW、レーザのエネルギー密度は0.5〜2.0J/mm
2が好ましい。
【0108】
そして、鋼板に照射されるレーザビームの最終形態は楕円形が好ましく、楕円形ビームの圧延方向の幅は0.005〜0.1mmが好ましく、鋼板の幅方向のビームの長さは0.03〜0.2mmが好ましい。
【0109】
前記条件を満足するようにレーザを照射して、電磁鋼板の厚さの3%〜8%の深さを有するグルーブを形成することができる。
【0110】
一実施形態において、レーザを照射してグルーブを形成した後、前記グルーブ上に幅と長さが異なるレーザビームを再び照射して、グルーブの深さが最大となる地点における曲率半径(RBb)が0.2μm〜100μmであり、グルーブの深さが最大となる地点からグルーブの深さ(D)の1/4地点までのグルーブ表面における曲率半径(RSb)が4μm〜130μmとなるようにグルーブを形成することができる。
【0111】
他の実施形態において、鋼板の幅方向に10μm〜30μm、鋼板の圧延方向に5μm〜20μmのレーザビームを鋼板に照射して一次グルーブを形成した後、前記一次グルーブ上に鋼板の幅方向に35μm〜80μm、鋼板の圧延方向に25μm〜50μmのレーザビームを照射して二次グルーブを形成することができる。このようにしてグルーブの深さが最大となる地点における曲率半径(RBb)が0.2μm〜100μmであり、グルーブの深さが最大となる地点からグルーブの深さ(D)の1/4地点までのグルーブ表面における曲率半径(RSb)が4μm〜130μmとなるようにグルーブを形成することができる。
【0112】
しかし、前記実施形態において、前記グルーブを形成する方法は例示的なものに過ぎず、グルーブの深さが最大となる地点における曲率半径(RBb)が0.2μm〜100μm、グルーブの深さが最大となる地点からグルーブの深さ(D)の1/4地点までのグルーブ表面における曲率半径(RSb)が4μm〜130μmのグルーブの形状を有する場合、本発明の目的を達成できるが、グルーブの形成方法は特に制限されない。
【0113】
そのため、他の実施形態において、前記グルーブを形成する方法は、レーザ照射による方法が好ましいが、機械的研磨によってグルーブを形成したり、化学的エッチングによってグルーブを形成することも含む。
【実施例】
【0114】
以下、実施例を通じて詳細に説明する。ただし、下記の実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の内容が下記の実施例によって限定されるものではない。
【0115】
まず、O:0.0050重量%、Si:3.0重量%、C:0.05重量%、Al:0.03重量%、Mn:0.07重量%、N:0.003重量%、S:0.005重量%、およびP:0.02重量%を含み、残部はFeおよびその他不可避不純物が含まれているスラブを準備した。
【0116】
前記スラブを1100℃で加熱した後、熱間圧延して、熱延鋼板を製造した。以降、前記熱延鋼板を冷間圧延して、0.3mmの厚さの冷延鋼板を製造した。
【0117】
そして、このように製造された冷延鋼板を脱炭焼鈍および窒化処理をし、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を鋼板の片面あたり8g/m
2となるように塗布した後、鋼板を二次再結晶焼鈍を実施した。
【0118】
このような二次再結晶焼鈍によって鋼板の表面に約3〜5μmの厚さのMg
2SiO
4(フォルステライト)被膜層を形成した。
【0119】
次に、Mg
2SiO
4(フォルステライト)被膜層が形成された厚さ0.30mmの電磁鋼板に、ガウシアンビーム形態の連続波ファイバーレーザを照射して磁区微細化処理をした。
【0120】
この時、ファイバーレーザの出力は900Wとし、走査速度を調節して、下記表1のようなV/P値を満足するようにした。また、レーザ照射によるグルーブ形成時、グルーブの深さが最大となる地点(Db)における曲率半径(RBb)と、グルーブの深さが最大となる地点からグルーブの深さ(D)の1/4地点までのグルーブ表面における曲率半径(RSb)は、表1の値を有するようにした。この時、線状のグルーブは、電磁鋼板の圧延方向と85°の角度を有するように形成した。
【0121】
【表1】
【0122】
表1において、鉄損改善率は、レーザを照射してグルーブを形成する前の電磁鋼板の鉄損(W
1)と、レーザを照射してグルーブを形成した後の鉄損(W
2)を測定して、(W
1−W
2)/W
1で計算した。
【0123】
表1のように、本発明のレーザ照射条件とグルーブ形成条件を満足する発明例は、全て鉄損改善率が3%以上を示しているが、本発明のレーザ照射条件とグルーブ形成条件を満足しない比較例は、全て鉄損改善率が3%以下と確認された。
【0124】
また、表1のように、グルーブの下部に熱処理によって再結晶を形成した場合には、鉄損改善率が良好であるが、グルーブの下部に再結晶が形成されていないものは、鉄損改善率が不調であるか、より悪くなることが分かる。
【0125】
以上、添付した図面を参照して本発明の実施例を説明したが、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明がその技術的な思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施可能であることを理解するであろう。
【0126】
そのため、以上に述べた実施例はあらゆる面で例示的なものであり、限定的ではないと理解しなければならない。本発明の範囲は、上記の詳細な説明よりは後述する特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の意味および範囲、そしてその均等概念から導出されるあらゆる変更または変更された形態が本発明の範囲に含まれると解釈されなければならない。