特許第6496420号(P6496420)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6496420
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/2334 20110101AFI20190325BHJP
【FI】
   B60R21/2334
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-544396(P2017-544396)
(86)(22)【出願日】2016年7月27日
(86)【国際出願番号】JP2016071995
(87)【国際公開番号】WO2017061163
(87)【国際公開日】20170413
【審査請求日】2018年1月16日
(31)【優先権主張番号】特願2015-201461(P2015-201461)
(32)【優先日】2015年10月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(74)【代理人】
【識別番号】503175047
【氏名又は名称】オートリブ株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】110000349
【氏名又は名称】特許業務法人 アクア特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 豊
(72)【発明者】
【氏名】田伏 啓哉
【審査官】 野口 絢子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−156740(JP,A)
【文献】 特開平11−245759(JP,A)
【文献】 実開平04−009349(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16−21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設置されガスを供給可能なインフレータと、
前記ガスによって前記車両の座席の前方に膨張するメインバッグと、
前記ガスによって前記メインバッグを包囲して膨張するアウタバッグと、
を備え、
前記アウタバッグは、前記座席に着座した乗員に向かって開口し前記メインバッグの一部分を露出させる開口部を有し、
前記アウタバッグは、前記開口部以外の部位でメインバッグの上下左右および車両前方側を包囲していて、
前記アウタバッグが前記メインバッグを包囲して押圧することによって前記メインバッグの一部分が前記開口部から前記座席側に突出することを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項2】
前記アウタバッグは、前記メインバッグの前記開口部から突出する一部分以外の部分を内包していることを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記アウタバッグにおける前記開口部の内側の空間の体積は、前記メインバッグの体積よりも小さいことを特徴とする請求項2に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
当該エアバッグ装置はさらに、前記アウタバッグと前記メインバッグとの谷間の所定箇所に設けられ、該アウタバッグと該メインバッグとを接続している接続部を備えていることを特徴とする請求項2または3に記載のエアバッグ装置。
【請求項5】
当該エアバッグ装置はさらに、前記メインバッグのうち前記インフレータの近傍に設けられたガスを排出するベントホールを備え、
前記アウタバッグは、前記ベントホールに接続され該ベントホールから受けたガスによって膨張することを特徴とする請求項2から4のいずれか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項6】
前記アウタバッグは、円環状に膨張していることを特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項7】
前記メインバッグは、前記インフレータから延びる所定の直線を回転軸にした回転体状に膨張し、
前記アウタバッグは、前記回転体状のメインバッグを包囲する該メインバッグと同心の回転体状に膨張することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項8】
前記インフレータ、前記メインバッグおよび前記アウタバッグは、車両のステアリングホイールの中央に収納されていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載のエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緊急時に乗員を拘束するエアバッグ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の車両にはエアバッグ装置がほぼ標準装備されている。エアバッグ装置は、車両衝突などの緊急時に作動する安全装置であって、ガス圧で膨張展開するエアバッグクッションを利用して乗員を受け止めて保護する。エアバッグ装置には、設置箇所や用途に応じて様々な種類がある。例えば、主に前後方向の衝撃から前部座席の乗員を守るために、運転席にはステアリングの中央にフロントエアバッグが設けられていて、助手席の近傍にはインストルメントパネルやその周辺部位にパッセンジャエアバッグが設けられている。他にも、側面衝突やそれに続いて起こるロールオーバ(横転)から前後列の各乗員を守るために、壁部の天井付近にはサイドウィンドウに沿って膨張展開するカーテンエアバッグが設けられ、座席の側部には乗員のすぐ脇へ膨張展開するサイドエアバッグが設けられている。
【0003】
各種エアバッグ装置のエアバッグクッションは、目的や設置環境に応じて、内部が複数の空間に区画されている場合がある。例えば特許文献1に記載の乗員保護装置(フロントエアバッグ)では、エアバッグクッションが、中央の中央気体袋1と、その周囲の外周気体袋3とで構成されている。特許文献1の構成によれば、乗員を拘束する拘束面が扁平に拡大して広い面積になるため、確実に乗員を受け止めることができると述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−132444号公報
【発明の概要】
【0005】
現在では、エアバッグ装置に対して、例えば車両に対して斜め前後方向からの衝撃が加わるいわゆるオブリーク衝突など、変則的な衝突や衝撃への対応も求められている。オブリーク衝突時の乗員は、座席の正面に存在するエアバッグクッションに対して、斜め方向等の変則的な角度で進入する。その場合、乗員の頭部が座席の正面のエアバッグクッションに接触すると、頭部には上から見て首を軸にした回転が生じることがある。このような頭部の回転は、人体の構造からみて乗員の傷害値を高くする要因となりやすいため、これを効率よく防ぎたいという要望がある。
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような課題に鑑み、緊急時に乗員の傷害値を効率よく抑えることが可能なエアバッグ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明にかかるエアバッグ装置の代表的な構成は、車両に設置されガスを供給可能なインフレータと、ガスによって車両の座席の前方に膨張するメインバッグと、ガスによってメインバッグを包囲して膨張するアウタバッグと、を備え、アウタバッグは、座席に着座した乗員に向かって開口しメインバッグの一部分を露出させる開口部を有し、アウタバッグがメインバッグを包囲して押圧することによってメインバッグの一部分が開口部から座席側に突出することを特徴とする。
【0008】
上記構成によって、メインバッグは、アウタバッグの開口部から突出している一部分(後部領域)と、後部領域以外の部分(アウタバッグに内包されている前部領域)とを形成する。特に、メインバッグの後部領域は、座席側に突出していて、アウタバッグよりも乗員に近い。したがって、上記のメインバッグは、アウタバッグよりも早期に乗員に接触することができる。
【0009】
上記構成のメインバッグは、全体積のうちの一部分が乗員に最も早期に接触する後部領域になっていて、残りの大部分が前部領域になっている。膨張時の両部分の基布を曲面として見ると、両部分の任意の位置における曲率半径は、後部領域のほうが前部領域よりも小さい。ここで、メインバッグは、一つのインフレータから受けるガスの圧力によって膨張している。そのため、相対的に曲率半径の小さい後部領域は、それと等しい内圧を有する相対的に曲率半径の大きい前部領域よりも、基布の張力が低い。すなわち、上記エアバッグ装置のクッションは、最も張力の低いメインバッグの後部領域が中央から突出した構成となっている。
【0010】
例えばオブリーク衝突などでは、運転席の乗員は車幅方向の斜め前方へ向かって移動する場合がある。その場合、上記構成では、乗員の頭部は、乗員の近くに存在する張力の低いメインバッグの後部領域から先に接触する。そして、そこから乗員の頭部が斜め前方に移動しようとしても、メインバッグの後部領域に対して車幅方向の外側で膨張しているアウタバッグによって頭部の荷重は吸収され、乗員拘束が達成される。
【0011】
上記の拘束過程では、乗員の特に頭部を、張力の低いメインバッグの後部領域で比較的柔軟に受けることができる。さらに、メインバッグを包囲して膨張しているアウタバッグによって、乗員を受けたメインバッグを支え、加えて頭部からの荷重を吸収することができる。これらによって、頭部の回転を抑え、傷害値をより低く抑えて拘束することが可能になっている。
【0012】
上記のアウタバッグは、メインバッグの開口部から突出する一部分以外の部分を内包していてもよい。この構成によれば、上述した張力の低いメインバッグの後部領域で乗員を受け、メインバッグをアウタバッグで包囲して支えるという構成が実現できる。
【0013】
上記のアウタバッグにおける開口部の内側の空間の体積は、メインバッグの体積よりも小さくてもよい。この構成によって、メインバッグをアウタバッグによって周囲から押圧し、メインバッグの一部をアウタバッグの開口部から効率よく突出させることができる。
【0014】
当該エアバッグ装置はさらに、アウタバッグとメインバッグとの谷間の所定箇所に設けられ、アウタバッグとメインバッグとを接続している接続部を備えていてもよい。接続部を設けることで、メインバッグとアウタバッグとの谷間の深さを調整し、さらにはメインバッグとアウタバッグとの離間を抑えて乗員拘束時の姿勢を安定させることが可能である。
当該エアバッグ装置はさらに、メインバッグのうちインフレータの近傍に設けられたガスを排出するベントホールを備え、アウタバッグは、ベントホールに接続されベントホールから受けたガスによって膨張してもよい。
【0015】
上記構成では、乗員がメインバッグに接触したときに、メインバッグから流出するガスをアウタバッグの内部に送り、ガスの外部への排出を遅らせることができる。したがって、乗員拘束時にアウタバッグの内圧を高め、アウタバッグでメインバッグを支えてその移動を抑えることが出来る。
【0016】
上記のアウタバッグは、円環状に膨張していてもよい。この構成によっても、メインバッグを包囲するアウタバッグを効率よく実現できる。
【0017】
上記のメインバッグは、インフレータから延びる所定の直線を回転軸にした回転体状に膨張し、アウタバッグは、回転体状のメインバッグを包囲するメインバッグと同心の回転体状に膨張してもよい。例えば、メインバッグは座席から見て円形に膨張し、アウタバッグは円形のメインバッグの外側を包囲するように膨張する構成として実施できる。
【0018】
上記のインフレータ、メインバッグおよびアウタバッグは、車両のステアリングホイールの中央に収納されていてもよい。この構成によって、当該エアバッグ装置をフロントエアバッグとして実施できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、緊急時に乗員の傷害値を効率よく抑えることが可能なエアバッグ装置を提供可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態にかかるエアバッグ装置の概要を例示する図である。
図2図1(b)の膨張展開時のクッションを各方向から例示した図である。
図3図1(b)の膨張展開時のクッションが乗員を拘束する過程を例示した図である。
図4図3のクッションが乗員を拘束する過程を車内側後方から見て例示した図である。
図5図3のクッションが乗員を拘束する過程を車外側後方から見て例示した図である。
図6図2(d)に例示したエアバッグクッションの第1変形例を例示した図である。
図7図2および図6のクッションの評価試験の結果を例示した図である。
図8図2に例示したエアバッグクッションの第2変形例を例示した図である。
【符号の説明】
【0021】
100…エアバッグ装置、102…座席、104…クッション、106…ステアリングホイール、108…収納部、110…カバー、112…インフレータ、114…メインバッグ、116…アウタバッグ、118…アウタバッグの開口部、120…メインバッグの後部領域、121…メインバッグの前部領域、124…内部ベント、126…外部ベント、128…乗員、130…頭部、131…肩、132…メインバッグとアウタバッグとの谷間、134…左側頭部、136…右側頭部、138…顎、150…第1変形例のクッション、152…接続部、200…第2変形例のクッション、202…アウタバッグ、204…開口部、206…アウタバッグに接続しているベントホール、208…ベントホール、210…アウタバッグとメインバッグとの谷間、E1…アウタバッグの内側空間、仮想線L1…仮想線、r1…メインバッグの後部領域の曲率半径、r2…メインバッグの前部領域の曲率半径、φ1…変形例のアウタバッグの開口部の内径、φ2…メインバッグの最大箇所の外径
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0023】
図1は、本発明の実施形態にかかるエアバッグ装置100の概要を例示する図である。図1(a)はエアバッグ装置100の稼動前の車両を例示した図である。図1(a)その他の図面において、車両前後方向をそれぞれ矢印F(Forward)、B(Back)、車幅方向の左右をそれぞれ矢印L(Left)、R(Right)、車両上下方向をそれぞれ矢印U(up)、D(down)で例示する。
【0024】
本実施形態では、エアバッグ装置100を、右ハンドル車における運転席用(前列右側の座席)のフロンタルエアバッグとして実施している。以下では、前列右側の座席102を想定して説明を行うため、例えば車幅方向の車外側とは車両右側を意味し、車幅方向の車内側とは車両左側を意味する。
【0025】
エアバッグ装置100のエアバッグクッション(以下、クッション104(図1(b)参照))は、折畳みや巻回等されて、ステアリングホイール106の中央に設けられた収納部108に収納されている。収納部108は、カバー110やその下のハウジング(図示省略)等を含んで構成されている。
【0026】
収納部108には、クッション104の他に、ガス発生装置であるインフレータ112(図2(c)参照)も収納されている。インフレータ112は、不図示のセンサから送られる衝撃の検知信号に起因して稼働し、クッション104(図1(b)参照)にガスを供給する。クッション104は、インフレータ112からのガスによって膨張を開始し、その膨張圧でカバー110を開裂等して座席102に向かって膨張展開する。
【0027】
図1(b)はエアバッグ装置100のクッション104の膨張展開後の車両を例示した図である。クッション104は、立体的に膨らむ袋として形成されていている。クッション104は、その表面を構成する複数の基布を重ねて縫製または接着することや、OPW(One-Piece Woven)を用いての紡織などによって形成されている。
【0028】
図2は、図1(b)の膨張展開時のクッション104を各方向から例示した図である。図2(a)は、図1(b)のクッション104を車外側の上方から見て例示している。本実施形態におけるクッション104は、メインバッグ114およびアウタバッグ116の2つの部位を備えている。
【0029】
メインバッグ114は、クッション104の中心側を構成している部位である。メインバッグ114は、インフレータ112(図2(c)参照)からのガスによって座席102(図1(b)参照)に着座する乗員用の空間内における前方に膨張し、乗員の上半身や頭部を拘束する。
【0030】
アウタバッグ116もまた、インフレータ112(図2(c)参照)からのガスによって膨張している部位である。アウタバッグ116の車両後方側には、開口部118が設けられている。開口部118は、座席102(図1(b)参照)に着座した乗員128(図3(a)参照)を向いて開口していて、メインバッグ114の一部分(後部領域120)を露出させている。アウタバッグ116は、開口部118以外の部位でメインバッグ114を包囲している。特に本実施形態では、アウタバッグ116は、メインバッグ114の上下左右および車両前方側を包囲している。
【0031】
図2(b)は、図2(a)のクッション104を車外側から見て例示している。メインバッグ114の車両後方側(図2(b)中、左側)の後部領域120は、アウタバッグ116の開口部118から露出して座席側(車両後方側)に突出している。後部領域120が座席側に突出していることで、メインバッグ114は乗員との接触をより早期に行うことが可能になっている。メインバッグ114のうち後部領域120以外の残りの大部分は、前部領域121(図2(d)参照)としてアウタバッグ116に内包されている。
【0032】
図2(c)は、図1(b)と同じくクッション104を車両後方側から見て例示している。クッション104は、座席側である車両後方側から見て全体的に円形になっている。中央のメインバッグ114も座席側から見ると円形に膨張していて、アウタバッグ116は円形のメインバッグ114の外側を包囲するように膨張している。
【0033】
図2(d)は、図2(c)のクッション104のA−A断面図である。図2(d)には、前述したインフレータ112も例示している。インフレータ112はディスク型(円盤型)のものであって、ステアリングホイール106(図1(a)参照)の収納部108の内部に設置される。現在普及しているインフレータには、ガス発生剤が充填されていてこれを燃焼させてガスを発生させるタイプや、圧縮ガスが充填されていて熱を発生させることなくガスを供給するタイプ、または燃焼ガスと圧縮ガスとを両方利用するハイブリッドタイプのものなどがある。インフレータ112としては、いずれのタイプのものも利用可能である。
【0034】
仮想線L1は、インフレータ112から仮想的に延ばした直線である。本実施形態では、メインバッグ114およびアウタバッグ116は共に、仮想線L1を回転軸にした回転体状の構成になっている。メインバッグ114は、仮想線L1を回転軸とした回転体状に膨張している。アウタバッグ116は、メインバッグ114を包囲して、メインバッグ114と同心の回転体状に膨張している。回転体状のアウタバッグ116は、メインバッグ114の後部領域120(開口部118から突出する一部分)以外の部分を内包している。なお、メインバッグ114およびアウタバッグ116は必ずしも回転体形状でなくてもよく、例えば後部領域120が前部領域121の中央に対して偏った位置に形成される構成であってもよい。
【0035】
メインバッグ114およびアウタバッグ116は共に、インフレータ112からのガスによって膨張展開する。アウタバッグ116へのガスの供給は、メインバッグ114に設けられたベントホール(内部ベント124)から行われる。
【0036】
内部ベント124は、メインバッグ114のうち車両前方側(図2(d)中、右側)のインフレータ112の近傍に設けられていて、メインバッグ114の内部からガスを排出する。アウタバッグ116は、内部ベント124に接続していて、内部ベント124から受けたガスによって膨張している。アウタバッグ116には、その車両前方側に外部ベント126が設けられている。外部ベント126は、アウタバッグ116の内部からガスをクッション104の外部に排出する。
【0037】
上述したように、メインバッグ114の後部領域120は、アウタバッグ116の開口部118から露出し、座席に着座した乗員側(図2(d)中、左側)に向かって突出している。この、メインバッグ114の後部領域120の突出は、アウタバッグ116がメインバッグ114を押圧することによって生じている。
【0038】
図2(c)に例示するように、アウタバッグ116における開口部118からその奥にかけての内側の空間(内側空間E1)は、メインバッグ114の大きさよりも小さく設定されている。すなわち、アウタバッグ116の内側空間E1の体積は、メインバッグ114の全体の体積よりも小さい。この構成によって、図2(d)に例示するように、アウタバッグ116はメインバッグ114をその周囲から効率よく押圧し、内側空間E1に収まりきらなかったメインバッグ114の後部領域120が開口部118から座席側に突出する。
【0039】
本実施形態では、クッション104全体のうち、メインバッグ114の後部領域120とそれ以外の部位とで基布の張力に差異が現れる構成になっている。具体的には、中央のメインバッグ114の後部領域120は基布の張力が低く、メインバッグ114の前部領域121は相対的に基布の張力が高くなっている。
【0040】
図2(d)に例示するように、メインバッグ114の全体積のうち、後部領域120は一部分であって、残りの大部分は前部領域121になっている。ここで、図2(c)に例示するように、膨張時の両部分の基布を曲面として見ると、任意の位置における後部領域120のおおよその曲率半径r1は、前部領域121の曲率半径r2よりも小さい(r1<r2)。
【0041】
一般に、基布の張力(T)は、圧力(P)と曲率半径(r)によって表すことができる(T=P×r)。メインバッグ114は、一つのインフレータ112(図2(d)参照)から受けるガスの圧力によって膨張している。そのため、相対的に曲率半径r1の小さい後部領域120は、それと等しい内圧を有する相対的に曲率半径r2の大きい前部領域121よりも、基布の張力が低くなっている。すなわち、本実施形態のクッション104は、最も張力の低いメインバッグ114の後部領域120が中央から突出した構成となっている。
【0042】
本実施形態のクッション104では、上述した構成によって、緊急時に乗員の傷害値を効率よく抑えることを可能にしている。以下、図4図6を参照して、クッション104が乗員を拘束する過程について説明する。
【0043】
図3は、図1(b)の膨張展開時のクッション104が乗員128を拘束する過程を例示した図である。図3の各図は、クッション104および乗員128を車両上方から見て、オブリーク衝突を想定した現象を例示している。図3(a)に例示するように、車両に衝撃が発生すると、クッション104が座席102(図1(b)参照)の車両前方に膨張展開する。
【0044】
図3(b)は、乗員128がメインバッグ114に接触した直後を例示している。図3(b)の乗員128は、図3(a)の状態から車内側斜め前方(図3(b)中、右側斜め下方)に移動している。メインバッグ114の後部領域120は、座席に着座した乗員側(図3(b)中、上側)に突出していて、アウタバッグ116よりも乗員128に近い。したがって、メインバッグ114の後部領域120は、クッション104の全体のうちアウタバッグ116等よりも最も早期に乗員128に接触する。
【0045】
図3(c)は、図3(b)の乗員128がさらに車内側斜め前方図3(c)中、右側斜め下方)へ移動した図である。本実施形態では、メインバッグ114の外側には、アウタバッグ116が存在している。これによって、乗員128が後部領域120への接触後にさらに移動しようとしても、その荷重はアウタバッグ116によって吸収され、移動は抑えられる。この作用によって、乗員128の頭部130は、メインバッグ114とその外側のアウタバッグ116との間の谷間132付近にて受け止められ、拘束される。
【0046】
図3(c)に例示しているように、頭部130はメインバッグ114とアウタバッグ116との間の谷間132に入るようにして、両側の側頭部(左側頭部134、右側頭部136)までもがメインバッグ114およびアウタバッグ116に接触し拘束される。
【0047】
図3(c)の状態において、仮に、クッション104以外の単一のひとまとまりのクッションのみが乗員128の前方に存在していた場合、斜めへ移動する乗員128の頭部130がそのクッションに接触すると、頭部130とクッションとの摩擦によって頭部130と肩131との動きに差異が生じ、頭部130には肩131等に対して車両上方側から見て首を軸に時計回りの回転力(頸椎を軸にした左右に振り向く回転力)が生じることがある。頭部130にこのような回転が起こると、乗員128の傷害値は高くなる傾向にある。
【0048】
そこで本実施形態では、乗員128の頭部130を、先に張力の低いメインバッグ114の後部領域120から接触させ、次いでメインバッグ114の車幅方向の外側に存在するアウタバッグ116によって荷重を吸収する構成としている。これによって、乗員128の頭部130の動きを肩131の動きとそろえて拘束している。特に、メインバッグ114とアウタバッグ116との間の谷間132付近にて、頭部130を肩131に対して回転を最小限にして拘束している。このようにして、本実施形態では、乗員128の頭部130の回転を大幅に減少または打消し、頭部の角速度を小さくすることで頭部130の回転に伴う乗員128の傷害値を抑えることができる。
【0049】
図2(d)を参照して説明したように、本実施形態では、メインバッグ114から流出するガスは、内部ベント124を通じてアウタバッグ116の内部に送られた後に、アウタバッグ116の外部ベント126から外部へと排出される。この構成によって、乗員128がメインバッグ114の後部領域120に接触したときに、アウタバッグ116の内圧をより高めることができる。例えば、メインバッグ114の後部領域120は乗員128の荷重に応じて柔軟に窪み、その分のガスがアウタバッグ116に入ることでアウタバッグ116が車両後方側へ突出し、結果として谷間132付近にて頭部130の両側の側頭部(左側頭部134、右側頭部136)をメインバッグ114およびアウタバッグ116で包むようにして受け止めることもできる。そして、アウタバッグ116の内圧を高めることで、メインバッグ114をアウタバッグ116で支え、クッション104全体の移動を抑えることができる。また、上記構成によって、クッション104から外部へのガスの排出を遅らせ、クッション104の圧力をより長く保持することも可能になる。
【0050】
これら本実施形態の構成によれば、オブリーク衝突時だけでなく、通常の車両前後方向の衝突時においても、高い乗員拘束性能を拘束し、乗員の傷害値および移動を抑えることができる。
【0051】
図4および図5を参照して、図3とは別方向からもクッション104が乗員128を拘束する過程を説明する。図4は、図3のクッション104が乗員128を拘束する過程を車内側後方から見て例示した図である。図4(a)に例示するように、車内側斜め前方(図4(a)中、左方)へ移動する乗員128の前方には、メインバッグ114が膨張展開する。図4(b)に例示するように、乗員128の頭部130は、下部の顎138の付近からメインバッグ114の後部領域120に接触する。後部領域120が顎138付近に接触することで、本実施形態であれば頭部130の前方へ倒れ込む方向の回転をも抑えることができる。
【0052】
図4(c)に例示するように、車内側斜め前方(図4(c)中、左方)へ移動する乗員128の頭部130は、左側頭部134をアウタバッグ116に接触させるようにして、谷間132の入口付近で受け止められる。また、頭部130は、谷間132の内部に入り込むようにして拘束される場合もある。このとき、メインバッグ114およびアウタバッグ116は、乗員128の頭部130の他、肩131や胸なども拘束する。これら作用によって、クッション104は、乗員128の頭部130と肩131等との動きをそろえることができ、頭部130の肩131に対して左右に振り向く回転、および頭部130を上下や左右に傾けるいずれの回転をも最小限に抑えて拘束する。このようにして、クッション104は、乗員128の傷害値を大幅に抑えることができる。
【0053】
図5は、図3のクッション104が乗員128を拘束する過程を車外側後方から見て例示した図である。図5(a)に例示するように、車内側斜め前方(図5(a)中、左側斜めやや上方)へ移動する乗員128の前方には、メインバッグが膨張展開する。図5(b)に例示するように、乗員128の頭部130は、下部の顎138側からメインバッグ114の後部領域120に接触する。
【0054】
図5(c)に例示するように、頭部130は谷間132の入口付近にて、左側頭部134をアウタバッグ116に接触させ、さらに張力が低く柔軟なメインバッグ114に右側頭部136も接触させて受け止められる。これら作用によって、クッション104は、乗員128の頭部130と肩131等との動きをそろえ、頭130を肩131等に対していずれの方向にも振り向かせたり傾けさせたりすることなく、頭部130の回転を最小限にして拘束する。
【0055】
以上の構成によって、本実施形態のクッション104は、緊急時に乗員128の傷害値を効率よく抑えることを可能にしている。
【0056】
上記では、図3(c)を参照しながら、頭部130に生じる回転の例として時計回りの回転を挙げた。しかし、緊急時の状況によっては、例えば乗員128は車外側斜め前方に移動し、頭部130には上方から見て首を中心に反時計回りの回転が生じる場合もある。この反時計回りの回転に対しても、本実施形態のクッション104によればメインバッグ114およびその周囲のアウタバッグ116を利用して減少または打ち消し、そして頭部130の角速度を小さくすることができる。すなわち、本実施形態のエアバッグ装置100は、車幅方向のいずれに移動する乗員128に対しても、同様の効果を得ることができる。
【0057】
(第1変形例)
図6は、図2(d)に例示したエアバッグクッション104の第1変形例を例示した図である。以降、既に説明した構成要素と同じものについては、同じ符号を付することによって説明を省略する。また、既に説明した構成要素と同じ名称のものについては、異なる符号を付していても、特に明記しない場合は同じ機能を有するものとする。
【0058】
図6に例示するクッション150は、アウタバッグ116とメインバッグ114との谷間132の所定箇所に接続部152を設けている。接続部152は、アウタバッグ116とメインバッグ114とを縫製等によって接続している。例えばクッション150では、アウタバッグ116の前部領域121の車両前後方向の中央にて接続部152を設けている。接続部152を設けることで、メインバッグ114とアウタバッグ116との谷間132の深さ等を調整することが可能である。
【0059】
本実施形態では、図4(c)等を参照して説明したように、乗員128の頭部130は、谷間132の付近で拘束される。クッション150では、接続部152によってメインバッグ114とアウタバッグ116を接続しているため、谷間132のより浅い位置にて乗員128の頭部130を拘束することができる。換言すると、接続部152で谷間132の深さを調整することは、左側頭部134(図4(c)参照)に対するアウタバッグ116の干渉の程度を調整することにもなる。また、谷間132に接続部152を設けることで、メインバッグ114とアウタバッグ116との離間を抑えられ、乗員拘束時のクッション150全体の姿勢をより安定させることができる。
【0060】
(評価試験)
上記説明したクッション104、150の評価試験の例を説明する。図7は、図2および図6のクッション104、150の評価試験の結果を例示した図である。縦軸は、ダミー人形の頭部の角速度を表し、横軸は時間を表している。試験は、各クッションに対して斜め方向にダミー人形の頭部を接触させることで行った。
【0061】
サンプル名「Base」は比較例であって、単一のひとまとまりのクッションである。Baseの角速度の最初のピークは、ダミー人形の接触直後の角速度を示している。そして、いったん下方へ下がった後、しばらくして再び二度目のピークが現れている。これは、ダミー人形の移動が停止するときの角速度を示している。
【0062】
サンプル名「♯1」は、図2に例示したクッション104の実施例である。♯1では、最初のピークがBaseと同じ程度の時間から現れているが、その値はBaseよりも低くなっている。さらに、♯1では、Baseのような二度目のピークが現れていない。このように、♯1では、Baseよりも柔軟かつ頭部を回転させずに拘束可能であることが分かる。
【0063】
サンプル名「♯2」は、図6に例示したクッション150の実施例である。♯2もまた、最初のピークの値がBaseよりも低くなっている。さらに、♯2も、Baseのような二度目のピークが現れていない。♯2もまた、Baseよりも柔軟かつ頭部を回転させずに拘束可能であることが分かる。
【0064】
図7の評価試験からも、上述した各実施形態のクッション104、150であれば、緊急時に乗員128の傷害値を効率よく抑制可能であることが分かる。
【0065】
(第2変形例)
図8は、図2に例示したエアバッグクッション104の第2変形例を例示した図である。図8(a)は、クッション200を車外側の上方から見て例示している。クッション200では、アウタバッグ202が、円環状に膨張する構成となっている。
【0066】
アウタバッグ202もまた、ガスによって膨張している部位である。アウタバッグ202は、メインバッグ114の所定箇所を上下左右から環状に包囲している。アウタバッグ202の中央の開口部204は座席102(図1(b)参照)に着座した乗員128(図3(a)参照)側を向いて開口していて、メインバッグ114の後部領域120を露出させている。メインバッグ114の後部領域120以外の部分(前部領域121)は、一部がアウタバッグ202に包囲され、残りの部位がアウタバッグ202から車両前方側に露出している。
【0067】
図8(b)は、図8(a)のクッション200を車外側から見て例示している。メインバッグ114の車両後方側の後部領域120は、アウタバッグ202の開口部204から露出して座席側(車両後方側)に突出している。
【0068】
図8(c)は、クッション200を車両後方側から見て例示している。円環状のアウタバッグ202は、円形のメインバッグ114の所定箇所を包囲するように膨張している。助手席側から見たアウタバッグ202の開口部204の内径φ1は、同じく助手席側から見たメインバッグ114の最大箇所の外径φ2よりも小さく設定されている(φ1<φ2)。これによって、メインバッグ114の一部分が、アウタバッグ202の開口部204によって締め付けられるように押圧され、後部領域120が形成されている。
【0069】
図8(d)は、図8(c)のクッション200のB−B断面図である。アウタバッグ202もまた、仮想線L1を回転軸にした、メインバッグ114と同心の回転体状に膨張している。
【0070】
アウタバッグ202は、メインバッグ114に設けられたベントホール206に接続していて、メインバッグ114を通じてガスを受給している。メインバッグ114には他のベントホール208も設けられていて、ベントホール208を通じてガスを外部に排出している。
【0071】
図8(c)に例示するように、クッション200においても、後部領域120のおおよその曲率半径r1は前部領域121の曲率半径r2よりも小さい(r1<r2)。そして、相対的に曲率半径r1の小さい後部領域120は、それと等しい内圧を有する相対的に曲率半径r2の大きい前部領域121よりも、基布の張力が低くなっている。
【0072】
クッション200もまた、図3図5を参照して説明したクッション104と同様に、乗員128の頭部130を、先に張力の低いメインバッグ114の後部領域120から接触させ、次いでメインバッグ114の車幅方向の外側で膨張しているアウタバッグ202によって荷重を吸収することができる。そして、乗員128の頭部130と肩131等との動きをそろえ、頭部130を肩131等に対して振り向かせたり傾けさせたりすることなく、そしてメインバッグ114とアウタバッグ202との間の谷間210付近にて頭部130の回転(特に、頸椎を軸にした左右に振り向く回転)を最小限に抑えて拘束できる。
【0073】
上記説明では、当該エアバッグ装置100を運転席用のフロンタルエアバッグとして実施した。しかしながら、当該エアバッグ装置100は、運転席以外の箇所にも設置可能である。例えば、前部座席の後側に設けることで、後部座席の正面に膨張展開するフロンタルエアバッグとしても実施可能である。
【0074】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、以上に述べた実施形態は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、この発明は、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨の記載がない限り、それに限定されるものではない。
【0075】
したがって、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、緊急時に乗員を拘束するエアバッグ装置に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8