【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明のろう付性に優れる熱交換器用アルミニウム合金フィン材のうち、第1の本発明は、質量%で、Mn:1.0〜2.0%、Cu:0.01〜0.20%、Si:0.5〜1.5%、Fe:0.1〜0.5%、Zn:1.0〜3.0%を含有し、残部がAlと不可避不純物の組成のアルミニウム合金フィン材であって、Al−Mn系アルミニウム合金材をろう付け対象とし、ろう付加熱において、前記アルミニウム合金フィン材の耐力(YSfin)と前記Al−Mn系アルミニウム合金材の耐力(YStube)とが、同一温度での耐力の比(YSfin/YStube)において、加熱温度が250℃〜500℃の範囲で常に0.7≦(YSfin/YStube)≦1.7の範囲であ
り、
前記アルミニウム合金フィン材が、常温において、ろう付後の引張強さが140MPa以上、耐力が50MPa以上であり、
前記Al−Mn系アルミニウム合金材が、常温において、ろう付後の引張強さが150MPa以上、耐力が50MPa以上であることを特徴とする。
【0007】
第2の本発明のろう付性に優れる熱交換器用アルミニウム合金フィン材は、前記第1の本発明において、さらに質量%で、Ti:0.01〜0.20%、Cr:0.01〜0.20%、Mg:0.01〜0.20%のうち、1種または2種以上を含有することを特徴とする。
【0008】
第3の本発明のろう付性に優れる熱交換器用アルミニウム合金フィン材は、前記第1または第2の本発明において、前記Al−Mn系アルミニウム合金材は、質量%で、Mn:1.0〜1.8%、Cu:0.3〜1.0%、Si:0.30〜1.0%、Fe:0.1〜0.5%を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有することを特徴とする。
【0009】
第4の本発明のろう付性に優れる熱交換器用アルミニウム合金フィン材は、前記第1〜第3の本発明のいずれかにおいて、前記Al−Mn系アルミニウム合金材は、さらに、質量%で、Ti:0.01〜0.20%、Cr:0.01〜0.20%、Mg:0.01〜0.50%のうち、1種または2種以上を含有することを特徴とする。
【0010】
第5の本発明のろう付性に優れる熱交換器用アルミニウム合金フィン材は、前記第1〜第4の本発明のいずれかにおいて、前記Al−Mn系アルミニウム合金材がチューブ材の芯材であることを特徴とする。
【0011】
第6の本発明のろう付性に優れる熱交換器用アルミニウム合金フィン材は、前記第1〜第5の本発明のいずれかにおいて、板厚が80μm以下である。
【0013】
第
7の本発明のろう付性に優れる熱交換器用アルミニウム合金フィン材は、前記第1〜第
6の本発明のいずれかにおいて、前記Al−Mn系アルミニウム合金材は
、板厚が250μm以下であることを特徴とする。
【0014】
以下に、本発明における成分などの限定理由を説明する。なお、以下の成分量はいずれも質量%で示される。
【0015】
Mn:1.0〜2.0%
Mnは、Al−(Mn、Fe)−Si系粒子を析出させ、分散強化によるろう付後の強度を得るために含有する。ただし、1.0%未満であると、Al−(Mn、Fe)−Si系金属化合物による分散強化の効果が小さく、所望のろう付後強度が得られない。一方、2.0%を越えると、鋳造性、圧延性などにおいて製造性を悪化させる。このためMn含有量を1.0〜2.0%とする。なお、同様の理由で下限を1.5%、上限を1.8%とするのが望ましい。
Al−(Mn、Fe)−Si系粒子は、Al、Mn、Siを必須の成分として含む。Al−(Mn、Fe)−Si系粒子は、Al、Mn、Siのみで構成されていてもよく、これにFeを含んでいてもよい。以下も同様である。
【0016】
Cu:0.01〜0.20%
Cuは、ろう付け後の強度向上に寄与する。ただし、0.01%未満の含有では、強度向上の効果が小さく、一方、0.20%を超えて含有すると、鋳造性が低下して製造性が悪化し、また、融点が低下してろう付け性が低下する。このため、Cu含有量は、0.01〜0.20%とする。なお、同様の理由で下限を0.05%、上限を0.15%とするのが望ましい。
【0017】
Si:0.5〜1.5%
Siは、Al−(Mn、Fe)−Si系粒子を析出させ、分散強化によるろう付後の強度を得るために含有する。ただし、0.5%未満の含有では、Al−(Mn、Fe)−Si系金属間化合物による分散強化の効果が小さく、所望のろう付後強度が得られない。一方、1.50%を超えて含有すると、融点が低下してろう付け性が低下する。このため、Si含有量を0.5〜1.50%とする。なお、同様の理由で下限を1.00%、上限を1.20%とするのが望ましい。
【0018】
Fe:0.1〜0.5%
Feは、Al−(Mn、Fe)−Si系粒子を析出させ、分散強化によるろう付後の強度を向上させる効果がある。ただし、0.5%を超えて含有すると、鋳造性、圧延性などにおいて製造性を悪化させ、耐食性が低下する。このため、Fe含有量は、0.1〜0.5%以下とする。また、上記効果を得るため、Fe含有量は0.2〜0.4%とするのが望ましい。
【0019】
Zn:1.0〜3.0%
Znは、アルミニウム合金の電位を卑にする作用があり、犠牲陽極効果を得て耐食性を向上させるために含有する。ただし、1.0%未満の含有では、所望の耐食性向上効果が得られない。一方、3.0%を超えて含有すると融点が低下し、ろう付加熱時に局部溶融が発生する。このため、Zn含有量を1.0〜3.0%とする。なお、同様の理由で下限を1.5%、上限を2.5%とするのが望ましい。
【0020】
Ti:0.01〜0.20%、Cr:0.01〜0.20%、Mg:0.01〜0.20%のうち、1種または2種以上
Ti、Cr、Mgは金属間化合物を形成し、分散強化および固溶強化により強度が向上するので、所望により1種以上を含有する。ただし、それぞれ含有量が下限未満であると、分散強化および固溶強化への影響が小さく、強度が向上する効果が小さい。Ti、Crがそれぞれの上限を超えると、鋳造時の晶出物が粗大化し、製造性が低下する。また、Mgは、上限を超えるとろう付性を低下させる。
したがって、それぞれの含有量を上記範囲に定める。なお、同様の理由でTi、Cr、Mg:下限0.03%、上限0.15%とするのが望ましい。
【0021】
板厚:80μm以下
フィン材の厚さが薄いことにより、ろう付け時の強度が課題になり、本願発明の効果が顕著になる。
【0022】
ろう付後に、引張強さ140MPa以上、耐力50MPa以上
熱交換器使用時に十分な耐久強度を得るために上記引張強さ、耐力を規定する。
部材の薄肉化に伴い、高強度材が求められている。フィン材のろう付後強度が低いと車載搭載時に熱交換器に負荷される繰り返しの振動や冷却水の膨張、圧縮により、フィン破断が生じやすくなる。このような破断部ではフィンのチューブ膨張、圧縮を抑制する効果が得られず、チューブは太鼓状に膨張して、早期の破断つまり内部冷却水の漏れにつながる。これまでの実績ではフィン板厚が80μm以下となった場合でもろう付後の引張強さが140MPa以上有していれば、市場でのフィン破断を大幅に軽減できることが分かっている。
耐力は弾性限度を示しており、ろう付後の耐力が低い場合、車載搭載時の繰り返し振動により、フィン破断に至らなくても、塑性変形を生じて原形を留めず、複数段のフィンが変形する事でコア収縮が生じる。フィン板厚が80μm以下となった場合でもろう付後の耐力50MPa以上有していれば、上記影響を軽減できることが分かっている。
【0023】
Al−Mn系アルミニウム合金材
本発明のろう付け対象となるAl−Mn系アルミニウム合金材は、成分が特定のものに限定されるものではないが、好適には質量%で、Mn:1.0〜1.8%、Cu:0.3〜1.0%、Si:0.30〜1.0%、Fe:0.1〜0.5%を含有し、さらに、所望によりTi:0.01〜0.20%、Cr:0.01〜0.20%、Mg:0.01〜0.50%のうち、1種または2種以上を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有するものが挙げられる。以下にその理由を説明する。
Al−Mn系アルミニウム合金材は、チューブ材やヘッダー材が例示される。
Al−Mn系アルミニウム合金材は、単材でもよく、また、少なくともろう付け側にろう材がクラッドされたクラッド材によって提供されるものであってもよい。
【0024】
Mn:1.0〜1.8%
Mnは、Al−(Mn、Fe)−Si系粒子を析出させ、分散強化によるろう付後の強度を得るために含有する。ただし、1.0%未満であると、Al−(Mn、Fe)−Si系金属化合物による分散強化の効果が小さく、所望のろう付後強度が得られない。一方、1.8%を越えると、鋳造性、圧延性などにおいて製造性を悪化させる。このためMn含有量を1.0〜1.8%とする。なお、同様の理由で下限を1.3%、上限を1.6%とするのが望ましい。
Al−(Mn、Fe)−Si系粒子は、Al、Mn、Siを必須の成分として含む。Al−(Mn、Fe)−Si系粒子は、Al、Mn、Siのみで構成されていてもよく、これにFeを含んでいてもよい。以下も同様である。
【0025】
Cu:0.30〜1.0%
Cuは、ろう付け後の強度向上に寄与する。ただし、0.3%未満の含有では、強度向上の効果が小さく、一方、1.0%を超えて含有すると、鋳造性などが低下して製造性が悪化し、また、融点が低下してろう付け性が低下する。このため、Cu含有量は、0.3〜1.0%とする。なお、同様の理由で下限を0.5%、上限を0.8%とするのが望ましい。
【0026】
Si:0.30〜1.0%
Siは、Al−(Mn、Fe)−Si系粒子を析出させ、分散強化によるろう付後の強度を得るために含有する。ただし、0.30%未満の含有では、Al−(Mn、Fe)−Si系金属間化合物による分散強化の効果が小さく、所望のろう付後強度が得られない。一方、1.0%を超えて含有すると、融点が低下してろう付け性が低下する。このため、Si含有量を0.30〜1.0%とする。なお、同様の理由で下限を0.5%、上限を0.7%とするのが望ましい。
【0027】
Fe:0.1〜0.5%
Feは、Al−(Mn、Fe)−Si系粒子を析出させ、分散強化によるろう付後の強度を向上させる効果がある。ただし、0.5%を超えて含有すると、鋳造性、圧延性などにおいて製造性を悪化させ、耐食性が低下する。このため、Fe含有量は、0.5%以下とする。また、上記効果を得るため、Fe含有量は下限を0.1%、上限を0.3%とするのが望ましい。
【0028】
Ti:0.01〜0.20%、Cr:0.01〜0.20%、Mg:0.01〜0.50%のうち、1種または2種以上
Ti、Cr、Mgは金属間化合物を形成し、分散強化および固溶強化により強度が向上するので、所望により1種以上を含有する。ただし、それぞれ含有量が下限未満であると、分散強化および固溶強化への影響が小さく、強度が向上する効果が小さい。Ti、Crがそれぞれの上限を超えると、鋳造時の晶出物が粗大化し、製造性が低下する。また、Mgは、上限を超えるとろう付性を低下させる。
したがって、それぞれの含有量を上記範囲に定める。なお、同様の理由でTi、Cr、Mg:下限0.03%、上限0.15%とするのが望ましい。
【0029】
ろう付後の引張強さが150MPa以上、耐力が50MPa以上、板厚が250μm以下
部材の薄肉化に伴い、高強度材が求められている。チューブ材のろう付後強度が低いと車両搭載時に熱交換器に負荷される繰り返しの振動や冷却水の膨張、圧縮により、チューブ破断が生じやすくなる。このような破断部では、チューブは太鼓状に膨張して、早期の破断つまり内部冷却水の漏れにつながる。これまでの実績ではチューブ板厚が250μm以下となった場合でもろう付後の引張強さ150MPa以上有していれば、市場でのチューブ破断を大幅に軽減できることが分かっている。
耐力は弾性限度を示しており、ろう付後の耐力が低い場合、車両搭載時の繰り返し振動により、チューブ破断に至らなくても、塑性変形を生じて原形を留めず、複数段のチューブが変形する事でコア収縮が生じる。チューブ板厚が250μm以下となった場合でもろう付後の耐力が50MPa以上有していれば、上記影響を軽減できることが分かっている。
【0030】
加熱温度が250℃〜500℃の範囲で常に0.7≦(YS
fin/YS
tube)≦1.7
当該フィン材と被接合部材に関して、ろう付加熱時に各温度での強度差が上記範囲内に収まることで、フィン材の座屈あるいは被接合部材の変形を抑制でき優れたろう付材料が得られる。