特許第6496551号(P6496551)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6496551
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】免震装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/04 20060101AFI20190325BHJP
   F16C 29/04 20060101ALI20190325BHJP
   E04H 9/02 20060101ALI20190325BHJP
【FI】
   F16F15/04 E
   F16C29/04
   E04H9/02 331D
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-711(P2015-711)
(22)【出願日】2015年1月6日
(65)【公開番号】特開2016-125607(P2016-125607A)
(43)【公開日】2016年7月11日
【審査請求日】2017年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】593063161
【氏名又は名称】株式会社NTTファシリティーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】特許業務法人 志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉村 義文
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 幹夫
【審査官】 鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−067900(JP,A)
【文献】 特表2005−515136(JP,A)
【文献】 特公平06−074609(JP,B2)
【文献】 特開平07−109821(JP,A)
【文献】 特開2011−047514(JP,A)
【文献】 特開2012−237434(JP,A)
【文献】 特開2000−120776(JP,A)
【文献】 特開平11−293954(JP,A)
【文献】 実開昭59−162565(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00− 15/08
F16C 29/00− 31/06
E04H 9/02
F16D 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に設けた支持体と、
前記支持体の可動方向に沿って設けた静止体と、
前記静止体と支持体の一方に設けた軸部に偏心して回転可能に設けられていて前記静止体と支持体の他方を押圧して前記支持体を制動する変形可能な車輪と、
を備え、前記支持体には振動後に基準位置に復帰させるための弾性部材が設置されていることを特徴とする免震装置。
【請求項2】
前記支持体は、ガイドレールに沿って移動可能とした請求項1に記載された免震装置。
【請求項3】
構造物に設けた支持体と、
前記支持体の可動方向に沿って設けられていて前記支持体との距離が次第に短くなる傾斜部を有する静止体と、
前記支持体に設けた軸部に回転可能に設けられていて前記静止体の傾斜部を押圧して前記支持体を制振する車輪と、
を備え、前記傾斜部と車輪の一方が変形可能であることを特徴とする免震装置。
【請求項4】
前記車輪は軸部に偏心して回転可能に設けられている請求項3に記載された免震装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震等の際に支持体が移動や振動をしても制動または免震を行えるようにした免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地震に対する構造安全性や居住性の向上を実現する技術として免震構造技術が存在する。免震構造とは、上部構造物とそれを支える下部構造物の間に、免震装置や減衰装置を配置し、地震の揺れを直接上部構造物に伝えないようにした構造システムである。その形態は、建物全体を免震化した免震建物や、居室の一部、あるいは機器等を免震対象とした免震床や免震台などが存在する。
このような構造システムでは、地震による激しい振動が発生しても、下部構造物に対して免震装置や減衰装置を介することで上部構造物はゆったりと揺れ、単純に固定された場合に比べて、上部構造物の加速度応答が低減される。このことにより、構造の安全性や居住性の向上を図ることができる。
【0003】
このような免震構造システムを実現するために、免震装置や減衰装置の水平方向の剛性は比較的小さくする必要がある。そのため、それらが存在する免震層には大きな変形が発生する。場合によっては、変形が想定よりも過大になり、許容変形量を超過して衝突する可能性も考えられ、このような場合には大きな衝撃を受ける。このような変形をなるべく小さくするために免震構造物には減衰機構が導入されている。
【0004】
一般的に、減衰機構を多く導入するほど免震層の変形量を小さくできるが、その場合、上部構造物の加速度応答が大きくなる。逆に、減衰機構を少なめに導入すると上部構造物の加速度応答を小さくできるが、今度は免震層の変形量が大きくなる。通常、免震構造物の設計の際には、加速度応答低減効果と変形量抑制効果の両者を見て、バランスの良い設計が行われるが、これらの効果の両立には限界があった。
【0005】
例えば特許文献1に記載された免震装置では、下部構造物に設置した基台と上部構造物に連結した架台とにX−Y方向に配設した凹曲面をなす下部レール及び上部レールと下部レール及び上部レールにそれぞれ当接するローラーとを免震層として設けている。即ち、基台には下部レールと上部レールに当接するローラーとが設置され、被免震物には下向きの上部レールと下部レールに当接するローラーとが設置されている。
そして、地震時には架台と基台との間に設けた上下部レールと各ローラーとで相対的に摺動して振動することで免震性能を発揮する。しかも、地震終了後には上下部レールが凹曲面状に湾曲形成されていることで被免震物が上下部レールの中央位置に復帰するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実用新案登録第3187226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1に記載された免震装置では、上下部レールがそれぞれ凹曲面状に形成されているために振動終了後に各凹曲面の中央位置に各ローラーが復帰するが、振動時の減衰特性はレール全域においてほぼ一定となっている。また、免震装置の許容変形量は、免震装置自体のしくみや免震装置を設置する場所の条件により決定され、必要なだけ大きな変形量を確保するということはできない。
そのため、加速度応答低減効果を高める場合は減衰特性が小さく設定されるため、免震装置が設置される場所に許容される地震動の大きさは、衝突をさせないという免震装置の変形量に支配される。一方、変形量抑制効果を高めることは減衰特性を大きくすることにより可能であり、より大きな地震動に対しても免震装置の変形量を許容変形量以下とすることができるが、減衰特性が大きいため、大きな地震動のみでなく小さな地震動の場合でも上部構造物に大きな加速度を発生させてしまうという欠点があった。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、構造物等を支持する支持体の加速度応答低減効果と変形量抑制効果をバランスさせると共に、支持体の振動等を効率よく低減できるようにした免震装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による免震装置は、構造物に設けた支持体と、支持体の可動方向に沿って設けた静止体と、静止体と支持体の一方に設けた軸部に偏心して回転可能に設けられていて静止体と支持体の他方を押圧して支持体の移動を減衰させる変形可能な車輪と、を備え、前記支持体には振動後に基準位置に復帰させるための弾性部材が設置されていることを特徴とする。
本発明によれば、支持体が静止体に沿って移動した際に、支持体または静止体に設けた車輪が軸部に偏心して回転することで静止体または支持体を押圧して変形することで両者の間に発生する摩擦抵抗によって支持体の移動を減衰させて制振することができる。しかも、複数の車輪を配設した場合、各車輪の角度を一致させて回転による摩擦抵抗を同時に増減調整してもよいし、各車輪の角度を異ならせて個別に増減調整してもよい。
しかも、地震時等に、支持体の振動による移動を車輪の弾性変更によって摩擦抵抗を発揮させて制振させた際、弾性部材の付勢力によって減衰した振動に打ち勝って支持体を基準位置に復帰させることができる。
【0011】
また、支持体は、ガイドレールに沿って移動可能としてもよい。
地震等の際に支持体がガイドレールに沿って振動するために、支持体と静止体の一方に設けた車輪を支持体と静止体の他方に押圧させて摩擦抵抗によって制振することができる。
【0013】
本発明による免震装置は、構造物に設けた支持体と、支持体の可動方向に沿って設けられていて支持体との距離が次第に短くなる傾斜部を有する静止体と、支持体に設けた軸部に回転可能に設けられていて静止体の傾斜部を押圧して支持体を制振する車輪とを備え、傾斜部と車輪の一方が弾性変形可能であることを特徴とする。
本発明によれば、支持体が静止体に沿って移動した際に、車輪が静止体の傾斜部を押圧していずれか一方を弾性変形させることで車輪と静止体の間に発生する摩擦抵抗によって支持体の振動を減衰させて制振することができる。
なお、車輪は軸部に偏心して回転可能に設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明による免震装置によれば、地震等による支持体の移動や振動の際に偏心した車輪と静止体を互いに押圧して変形させ、しかも車輪を回転させることで変形量を変化させて摩擦抵抗を増減調整して強弱の変化で制動または制振して、効率よく移動や振動を減衰できる。そのため、本発明によれば、支持体の摩擦抵抗を増減調整することによって、構造物等を支持する支持体の加速度応答低減効果と変形量抑制効果をバランスさせると共に、支持体の移動や振動等を効率よく減衰できる。
【0015】
また、本発明による免震装置によれば、支持体の車輪と静止体の傾斜部とを互いに押圧して変形させることで次第に摩擦抵抗を増大させることで、効率よく移動や振動を減衰できる。そのため、本発明によれば、支持体の摩擦抵抗を調整することによって、構造物等を支持する支持体の加速度応答低減効果と変形量抑制効果をバランスさせると共に、支持体の移動や振動等を効率よく減衰できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第一実施形態による免震装置を示す要部平面図である。
図2図1に示す免震装置の車輪を省略した要部側面図である。
図3図1に示す免震装置のガイドレールの長手方向から見た正面断面図である。
図4図1に示す車輪の拡大図である。
図5】免震装置の制振工程を示す要部平面図であり、(a)は支持体が基準位置にある状態を示す図、(b)は支持体が振動で移動して中程度の減衰状態にあることを示す図、(c)は支持体が最も大きい減衰状態にあることを示す図である。
図6】第二実施形態による免震装置を示す図1と同様な図である。
図7】第三実施形態による免震装置が基準位置にある状態を示す要部平面図である。
図8】免震装置が移動して減衰状態にあることを示す要部平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の第一実施形態による減衰機構を備えた免震装置1について図1から図5に基づいて説明する。
図1から図3は本発明の第一実施形態による免震装置1を示すものであり、建物等の構造物の耐震補強のために用いられる。
本実施形態による免震装置1を構築する下部構造物2には、例えば直線状のガイドレール3が設置され、ガイドレール3上には例えばブロック状の支持体4が設置されている。支持体4は例えば所定間隔で縦横方向に複数個設置され、その上部には構造物が設置されている。ガイドレール3は例えば縦方向または横方向に略平行に複数配設され、各ガイドレール3に沿って構造物を部分的に支える支持体4が所定間隔で複数本設置されているものとし、図1では1つの支持体4と1条のガイドレール3を示している。
【0018】
図2及び図3において、構造物を支える支持体4の下部には基部6が固定され、基部6の下面にはガイドレール3に嵌合されてガイドレール3の天面である摺動面3aと両側面3bに対向する凹部6aが形成されている。凹部6a内の底面には摺動可能な複数のベアリング7が軸受に回転可能に装着されている。なお、凹部6aの側面側やコーナー部にもベアリングが装着されていてもよい。複数のベアリング7は凹部6aの延在方向に所定間隔で設置され、ガイドレール3の摺動面3aに当接して支持体4を揺動可能としている。支持体4は常態において予め設定された基準位置Pに保持されて構造物を支持し、地震等の際には下部構造物2の振動が伝達されてガイドレール3に沿って揺動可能とされている。なお、基部6または支持体4の上部にはガイドレール3に直交する方向に図示しない別の基部6とガイドレール3が配列されている。これによって免振装置1は構造物を直交する2方向の振動に対応して揺動可能に支持している。
【0019】
また、基部6の両側面には上下の支持枠8が水平方向に突出しており、上下の支持枠8間に固定された軸部9には円盤状の車輪10が回転可能に支持されている。車輪10は例えばゴムやウレタン等の弾性体や粘弾性体で変形可能に形成されている。車輪10は軸部9に対して偏心していて回転可能に取り付けられており、軸部9を中心とした車輪10の回転によって車輪10は外側に進退可能とされている。また、車輪10はその回転位置にかかわらず支持体4に非接触となるように支持枠8の長さが設定されている。
なお、図に示す例では、車輪10は支持体4の基部6の両側面に2基ずつ設置されているが、1基または3基以上設けてもよい。
【0020】
また、図1及び図3において、ガイドレール3の両側には間隔をあけて、例えば断面略L字状のガイド部材12がガイドレール3と平行に設置されており、その起立面をガイド壁12aとして示すものとする。なお、ガイド部材12に代えて壁面等が設置されていてもよい。
そして、図1に示す構造物の設置位置の原点となる静止位置を基準位置Pとし、この位置にある車輪10を図4の拡大図に示す。図4に示す車輪10において、偏心した車輪10の回転中心である軸部9から最も近い距離の外周面の位置をA点とし、A点から左右方向に90度回転した位置をB点、180度回転した位置をC点という。免震装置1の基準位置Pにおいて、車輪10はA点でガイド部材12のガイド壁12aに当接し、そのガイド壁12aとの押圧強度は車輪10の周方向で最も小さく、支持体4が振動等で移動するとA点に当接して車輪10が軸部9を中心に回転することになる。
【0021】
また、地震等によって免震装置1が振動して支持体4がガイドレール3に沿って移動すると、車輪10がガイド壁12aに当接して回転し、ガイド壁12aに当接する位置が、B点、C点、B点と変化する。A点では車輪10がガイド壁12aに当接する程度であり、C点で最も強くガイド壁12aに押圧され、B点ではC点とA点の中間程度の強度でガイド壁12aに押圧されて摩擦抵抗を生じるようになっている。しかも、車輪10が各点A,B,Cでガイド壁12aに押圧されると、車輪10はその押圧強度に応じて圧接されて弾性変形する。
また、支持体4のガイドレール3に沿った両側にばね15の一端が連結され、他端は下部構造物2に固定されている。そのため、地震等の際には支持体4は振動によってガイドレール3に沿って移動可能であるが、振動が終息後またはばね15の付勢力未満となった場合には支持体4はばね15の付勢力によって基準位置Pに戻るようになっている。
【0022】
本実施形態による免震装置1は、地震等によって支持体4が振動し移動すると、ガイド壁12aに当接する車輪10が回転して、A点からB点、C点とガイド壁12aに対する押圧圧力が増大して摩擦抵抗が増大し、減衰機能を発揮する。そして、車輪10のC点がガイド壁12aに当接すると弾性変形と摩擦抵抗が最大になり、その後、B点を介してA点で摩擦抵抗が最小になる。
そのため、支持体4が振動した際に車輪10が軸部9を中心に偏心回転することで、ガイド壁12aに圧接されて摩擦抵抗が変化し、その摩擦抵抗力で減衰効果、制動効果を生じるため、いわゆるポンピングブレーキのような機能を発揮できる。
【0023】
本実施形態による免震装置1は上述の構成を備えており、次に免震装置1による免震方法について図5を中心に説明する。
地震の発生していない状態では、図5(a)に示すように、建築物等の構造物を支える各支持体4はその両側のガイド部材12のガイド壁12a間に挟まれた基準位置Pで安定した状態に保持される。そして、地震発生時には下部構造物2の振動によってガイドレール3に対して支持体4がばね15の付勢力に抗して相対的に振動し、支持体4はガイドレール3の摺動面3aに沿ってベアリング7で摺動する。
【0024】
すると、図5(b)に示すように、支持体4の一方向の移動によってガイド部材12のガイド壁12aに当接する車輪10が90度回転することでガイド壁12aへの当接位置がA点からB点に変位し、車輪10はより強くガイド壁12aに押圧されて次第に変形し、支持体4の移動に対する摩擦抵抗が増大する。そして、車輪10が更に90度回転し、図5(c)に示すように、ガイド壁12aに押圧する位置がB点からC点に移動すると車輪10が一層ガイド壁12aに強く押圧されて更に大きく変形し、最も摩擦抵抗が大きくなる。こうして支持体4の振動によるガイドレール3に沿った移動に強い制動がかけられる。
そして、支持体4の移動によって車輪10は更に90度回転してガイド壁12aへの当接位置がC点からB点に変位し、更に90度回転してB点からA点に変位することで摩擦抵抗による制動力は次第に減衰する。
【0025】
こうして、支持体4の振動によって車輪10がガイド壁12aに押圧力の増減による摩擦抵抗の増減を繰り返しながら複数回の回転を繰り返すことでポンピングブレーキのように強度が増減する摩擦力が働いて振動を減衰させる。そして摩擦力によって支持体4の移動が停止する。
次に、地震によって支持体4が逆方向に振動して、同様に回転する車輪10のガイド壁12aへの押圧変形力の増減によって摩擦抵抗が増減し、振動が減衰して停止する。
【0026】
こうして、ガイドレール3に沿った支持体4の往復振動を繰り返しながら、車輪10のガイド壁12aへの摩擦抵抗の増減を繰り返して支持体4は振動を次第に減衰させる。そして支持体4は地震等による振動力が0に近く減衰させられると、ばね15の付勢力によって基準位置Pに戻り、静止する。この位置で車輪10はA点でガイド壁12aに当接し、ほぼ円形状に弾性復帰する。
そのため、地震の震度が小さい場合には、車輪10の回転によるポンピングブレーキ状の増減変動する摩擦抵抗によって、車輪10の少ない回転数による支持体4の少ない移動距離で振動が減衰して停止し、地震の震度が大きい場合には車輪10の比較的大きな回転数と支持体4の比較的大きな移動距離によって振動が繰り返されて減衰して停止する。
【0027】
なお、上述した説明では、基準位置Pにある支持体4の各車輪10は軸部9との距離が最も小さいA点でガイド部材12のガイド壁12aに当接し、摩擦抵抗の最も小さい角度に位置する。そのため、地震が発生した場合、震度の小さい地震でも支持体4は移動し易いという特性を有している。これに対し、基準位置Pにおいて、車輪10がB点やC点等でガイド壁12aに当接していると、地震時に初期振動に対する摩擦による移動抵抗が大きく、小さな地震時の支持体4の移動を抑制できることになる。
【0028】
上述のように本実施形態による免震装置1によれば、地震等の際に支持体4がガイドレール3に沿って往復振動しても、両側の車輪10が軸部9に偏心して支持されてガイド壁12aに押圧されているために、支持体4の移動によって車輪10が偏心回転することでガイド壁12aとの間で摩擦抵抗がポンピングブレーキ状に増減変動して制動と制振を働かせることができる。そのため、支持体4で保持された建造物等の構造物の加速度応答を低減させながら車輪10の変形量の抑制を達成でき、振動を効率よく減衰させて免震することができる。
特に、本実施形態では、加速度応答低減効果と変形量抑制効果をバランスさせて制振できる。
【0029】
なお、本発明は上述の実施形態による免震装置1に限定されることはなく、本発明の要旨を変更しない範囲で適宜の変更や置換等が可能であり、これらはいずれも本発明に含まれる。以下に、本発明の変形例や他の実施形態について説明するが、上述の実施形態と同一または同様な部分、部材には同一の符号を用いて説明を省略する。
例えば、上述した実施形態では、支持体4の両側に取り付けた4つの車輪10は基準位置Pにおいて軸部9から最も距離の短いA点がガイド壁12aに当接し、支持体4の移動によって4つの車輪10で同期してB点,C点がガイド壁12aに押圧変形されて摩擦抵抗が増減するようにしたが、車輪10を個別に異なる点でガイド壁12aに当接させてもよい。この場合、支持体4の振動に対する摩擦抵抗の増減変動が小さくなる。
【0030】
次に本発明の第二実施形態による免震装置1Aについて図6により説明する。
図6に示す免震装置1Aにおいて、支持体4に設けた各車輪10は中心に軸部9が取り付けられ、偏心していない。そして、ガイドレール3の両側に配設させたガイド部材12は支持体4の基準位置Pから離間した位置から次第にガイド壁12aがガイドレール3側に湾曲する湾曲部12bが形成されている。
【0031】
そのため、地震等で支持体4が振動した場合、振動で移動する支持体4は両側に設けた車輪10がガイド部材12のガイド壁12aに沿って摺動し、湾曲部12bに至ると次第に湾曲するガイド壁12aの湾曲部12bによって車輪10との摩擦力が増大して制動がかけられる。しかも、ガイド壁12aの湾曲部12bは次第にガイドレール3側に湾曲するため、次第に車輪10との間の摩擦力が増大し、徐々に制動がかけられて停止する。
そして、支持体4が逆方向に振動すると、同様に逆方向のガイド壁12aの湾曲部12bで次第に増大する制動がかけられる。こうして支持体4は左右方向に振動しつつ減衰させられ、振動が0に近くなるとばね15の付勢力が振動力に打ち勝って支持体4を基準位置Pに戻す。
【0032】
本第二実施形態の場合、車輪10を湾曲部12bで弾性変形させて制動させてもよく、車輪10はゴムやウレタン等の弾性部材で形成することが好ましい。また、この構成に代えて、車輪10を金属等の剛性の高い物質で形成し、ガイド壁12aの湾曲部12bにゴム板やウレタン板等のシート状の弾性部材を貼り付けるようにしてもよい。
【0033】
或いは、車輪10を第一実施形態のようにゴム等の弾性部材で形成し、しかも軸部9に偏心させて取り付けるようにしてもよい。この場合、ガイド壁12aの湾曲部12bは金属等の高剛性部材でもよいし、弾性部材でもよい。
この場合には、車輪10による制動力が第一実施形態の場合よりも大きくなる上に、湾曲部12bを移動する車輪10の摩擦抵抗がポンピングブレーキのように増減変動して、制動力が増減変動する特性を呈するため、加速度応答低減効果と変形量抑制効果をバランスさせることができる。
また、ガイド部材12のガイド壁12aに形成した湾曲部12bに代えて直線状の傾斜部を設けてもよく、本明細書の傾斜部は湾曲部12bと直線状の傾斜部の両方を含むものとする。
【0034】
次に本発明の第三実施形態による免震装置1Bについて図7及び図8により説明する。
図7及び図8に示す免震装置1Bにおいて、支持体4に車輪10を設けていない。車輪10はガイドレール3の両側で支持体4が基準位置Pから移動した際に支持体4の側面4aによって押圧可能な位置に複数配列されている。車輪10は偏心した位置で下部構造物2等から起立する軸部9に回転可能に支持されており、複数の軸部9はガイドレール3に平行な直線L上に所定間隔で配列されていることが好ましい。
各車輪10について、上述した第一実施形態と同様に、軸部9から最も径方向の距離が短い外周面の位置をA点、A点と180度対向する位置で軸部9から最も径方向の距離が長い位置をC点、A,C点から90度離れた両側の位置をB点とする。
【0035】
支持体4が基準位置Pにある場合、図7に示すように、支持体4から離間した各車輪10はいずれもA点がガイドレール3側に位置しているものとする。そして、地震等が発生した場合、基準位置Pに保持された支持体4は振動によってガイドレール3に沿って移動し始める。すると、支持体4に最も近接する位置にある両側の車輪10(これを便宜的に第一の車輪10Aとする)が支持体4の側面4aの先端に押されて軸部9回りに回転すると、支持体4は90度回転した車輪10のB点に押されて摩擦抵抗を受けるため、振動が減衰される。B点で支持体4の側面4aを押圧する車輪10は当接面が広がって変形し圧縮される。
更に移動する支持体4は次の車輪10(これを第二の車輪10Bとする)を軸部9回りに回転させて変形させて同様にB点で押される。このとき、第一の車輪10Aは押圧する支持体4の側面4aに更に押されて回転するため、C点で支持体4を強く押圧し最も扁平に変形される。支持体4は車輪10のC点で押されることで最も高強度の押圧力を受けて最も高い摩擦力を支持体4に与えて振動を減衰させる。
【0036】
また、更に振動で移動する支持体4は次の車輪10(これを第三の車輪10Cとする)を軸部9回りに回転させて同様にB点で支持体4は押される。このとき、図8に示すように、第一の車輪10Aは押圧する支持体4の側面4aに更に押されて回転するため、B点で支持体4を押圧して変形し、第二の車輪10Bは支持体4の側面4aに更に押されて回転するため、C点で広く圧縮変形して支持体4を最も強く押す。この状態で、支持体4は両側の3組の車輪10で最も強い制動を受けて一層減衰させられ、この位置で振動が大きく低減され、摩擦抵抗の増減変動によって強弱の変化で振動を減衰させられて静止するものとする。
そして、振動の復帰力により、または、ばね15の付勢力により、支持体4は逆方向に移動し始め、反対側に同様に配列された車輪10によって同様に増減変動する摩擦抵抗によって減衰させられる。
こうして支持体4は左右方向に振動しつつ強弱の変化で減衰させられ、振動が0に近くなるとばね15の付勢力が振動力に打ち勝って支持体4は基準位置Pに戻される。
【0037】
なお、第三実施形態において、地震の震度が小さければ、1対または2対の車輪10に押圧されることで支持体4が振動を減衰させることができる。
また、支持体4の移動方向に設置する車輪10は3つに限定されるものではなく、その設置数は任意である。
【0038】
なお、上述した各実施形態では、ガイドレール3が直動ガイドレールであるが、本発明は直線状のガイドレール3に限定されるものではなく、湾曲したカーブ状のガイドレール3を採用してもよい。この場合、ガイドレール3に沿って一対のガイド部材12も同様に湾曲形成させる。
また、各実施形態ではガイドレール3に沿って振動可能な支持体4の両側にガイド部材12や車輪10を設けたが、ガイド部材12や車輪10はガイドレール3の片側にだけ設けていてもよい。この場合でも振動の減衰を達成することができる。
【0039】
また、本実施形態では、免震装置1においてガイドレール3の両側または片側にガイド部材12または車輪10を配設して減衰機構を設置したが、本発明はこのような構成に限定されるものではない。
例えば、第三実施形態において、複数の車輪10を任意の間隔で設置して支持体4の制振を行うようにしてもよく、車輪10は任意の支持体4の振動を制御するために適宜の位置に設置できる。そのため、支持体4の振動または移動方向と車輪10の軸部9とが同一間隔であれば、支持体4のガイドレール3を設置しなくてもよい。
【0040】
なお、上述した実施形態では地震の際の免震装置1の減衰機構について説明したが、本発明は免震装置1に限定されるものではなく、走行する支持体4の制動をガイドする制動装置に採用してもよい。
しかも、複数の車輪10を配設した場合、各車輪10のA,B,C点の角度を一致させて回転による摩擦抵抗を同時に増減調整してもよいし、各車輪のA,B,C点の角度を異ならせて個別に摩擦抵抗と制振力を増減調整してもよい。
また、本発明において、支持体4の車輪10は押圧部材を構成する。ガイド部材12や軸部9を支持する下部構造物2等は静止体を構成する。
【符号の説明】
【0041】
1 免震装置
2 下部構造物
3 ガイドレール
4 支持体
6 基部
7 ベアリング
8 支持枠
9 軸部
10 車輪
12 ガイド部材
12a ガイド壁
12b 湾曲部
15 ばね
P 基準位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8