(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
[第1実施形態]
図1〜
図3を参照して、本発明の第1実施形態による浸透取水システム100の全体構成について説明する。なお、浸透取水システム100は、本発明の「護岸壁用浸透取水システム」の一例である。
【0020】
(浸透取水システムの構成)
本発明の第1実施形態による浸透取水システム100は、薬剤の注入などを行わずに、流木などの浮遊物や、ごみ、海洋生物・河川生息生物やプランクトンなどの微生物、懸濁物質(所定の粒径以下の不溶解性物質)などから構成される異物を海水や汽水などの水(原水)から除去して、清澄な水(処理水)を得るためのシステムである。この浸透取水システム100は、
図1に示すように、河口およびその周辺の護岸壁1に設けられており、海岸、沿岸および河川から水(原水)を取水するように構成されている。
【0021】
ここで、第1実施形態では、浸透取水システム100は、護岸壁1の外壁面1a(原水側)に設置された浸透取水構造物2と、護岸壁1の内壁面1b側(処理水側)に設置された取水池3と、浸透取水構造物2と取水池3とを接続する導水部4(
図2参照)とを備えている。浸透取水構造物2は、ろ過材23が収容されることにより、原水をろ過して処理水にする機能を有している。取水池3は、浸透取水構造物2から送られた処理水を貯留する機能を有している。なお、浸透取水構造物2および取水池3は、それぞれ、本発明の「構造物」および「取水井」の一例である。
【0022】
ここで、取水池3に貯留された処理水は、処理設備5に設けられたポンプ(図示せず)などにより取水管5aを介して汲み上げられて、所望の水に処理される。たとえば、処理設備5が淡水化プラントである場合には、逆浸透膜法や蒸発法などによって、清澄な水(処理水)が飲料水などの生活用水に処理される。なお、処理設備5としては、処理水を冷却水として用いるプラントや、処理水を水槽の水として用いる水族館、処理水をプールの水として用いる海水プールおよび競艇場、処理水を養殖池の水として用いる養殖場などが挙げられる。
【0023】
護岸壁1は、河川岸および海岸に沿うように形成されている。また、護岸壁1は、
図2に示すように、水底面Bから原水の水面S1よりも上方(Z1側)の高さ位置まで上下方向(Z方向)に延びるように形成されている。これにより、護岸壁1は、外壁面1a側(X1側)の原水と、内壁面1b側(X2側)の処理水とを仕切るように形成されている。なお、護岸壁1の上下方向の長さL1(
図3参照)は、約10m以上約20m以下であるのが好ましい。
【0024】
<浸透取水構造物の構造>
浸透取水構造物2は、護岸壁1の延びる方向(Y方向)に沿って延びるように形成される第1壁部20aと、第1壁部20aの両端部から護岸壁1と接続(接合)するように護岸壁1に向かって延びる一対の第2壁部20b(
図1参照)とを有する壁部20を含んでいる。この壁部20は、一対の第2壁部20bが護岸壁1の外壁面1aと接合されることによって、護岸壁1と一体的に形成されている。また、壁部20は、水底面Bから原水の水面S1よりも下方(Z2側)の高さ位置まで上下方向に延びるように形成されている。
【0025】
また、浸透取水構造物2には、ろ過材収容部21が設けられている。このろ過材収容部21は、壁部20の内壁面20cと、護岸壁1の外壁面1aと、スクリーン部22の上面22aとによって区画された空間として設けられている。なお、第1壁部20aおよび一対の第2壁部20b(
図1参照)の3辺の内壁面20cと護岸壁1の一辺の外壁面1aとによって、ろ過材収容部21の4つの内壁面(内側面)が構成されているとともに、スクリーン部22の上面22aによって、ろ過材収容部21の底面が構成されている。
【0026】
ろ過材収容部21は、
図1に示すように、壁部20と同様に、護岸壁1の外壁面1aの延びるY方向に沿って長さL2(
図1において、破線)で延びるように形成されている。ここで、長さL2は、約10m以上約10000m以下であるのが好ましい。また、ろ過材収容部21は、
図2に示すように、水面S1と略平行に延びるように設けられている。また、ろ過材収容部21の奥行き方向の距離(第1壁部20aの内壁面20cと護岸壁1の外壁面1aとの距離)D1(
図3参照)は、約0.5m以上約2m以下である。
【0027】
なお、ろ過材収容部21では、浸透取水システム100の希望する取水量に基づいて、長さL2および距離D1が設定される。たとえば、浸透取水システム100において約5000m
3/日の取水量が必要とされる場合で、かつ、浸透取水システム100における平均の取水速度が約10m/日であるとすると、ろ過材収容部21の水平面における面積は約500m
2(=5000m
3/10m)に設定される。これにより、距離D1が約1mである場合には、長さL2は、約500m(=500m
2/1m)に設定される。
【0028】
また、第1実施形態では、浸透取水システム100は、
図2に示すように、ろ過材収容部21に収容されたろ過材23をさらに備えている。ろ過材23は、原水を上方(Z1側)から下方(Z2側)に向かって上下方向に水をろ過するようにろ過材収容部21に収容されている。このろ過材23は、たとえば、上方から下方に向かって徐々に粒径が大きくなるように砂または砂利が配置されることによって形成されている。なお、ろ過材23としては、砂、砂利、樹脂製もしくはセラミック製の球体、樹脂製もしくはセラミック製の多孔質体、不織布、繊維を束ねて球状もしくはペレット状に加工したものなどを一種類または複数種類使用することが可能である。
【0029】
ここで、取水速度が約5m/日以上である場合や、長期間に亘ってろ過材23をろ過材収容部21に収容し続けた場合には、ろ過材23の表面23aに微生物や浮遊物、懸濁物質などによる異物が蓄積して、ろ過材23が閉塞しやすい。そこで、第1実施形態では、
図3に示すように、護岸壁1の外壁面1aに波や流れ(原水の流れ)が入射した場合に、ろ過材収容部21内に収容されたろ過材23の表面23a上に渦流Vが発生する深さ位置に、ろ過材23が配置されている。なお、水面S1とろ過材23の表面23aとの上下方向の距離(深さD2)は、約2m以上約10m以下である。
【0030】
ここで、護岸壁1の外壁面1aに波や流れが入射した際に、外壁面1a近傍では、水面S1側では護岸壁1側に向かい、水中内では護岸壁1から離れる方向に向かう渦流Vが発生する。この際、渦流Vのうち、護岸壁1から離れる方向に向かう流れにより、渦流Vが発生する位置に配置されたろ過材23の表面23aが攪乱される(洗い流される)。これにより、ろ過材23の表面23a近傍に付着した異物が巻き上げられて、ろ過材23の目詰まり(閉塞)が抑制される。
【0031】
なお、ろ過材収容部21からのろ過材23の流出を抑制するために、ろ過材23は、渦流Vにより十分に攪乱される一方、ほとんど巻き上げられない程度の重量を有する材料からなるのが好ましい。また、水を通す一方、ろ過材23は通さない網目を有する所定の大きさの袋にろ過材23を収容することによって、ろ過材23の流出を効果的に抑制することも可能である。
【0032】
スクリーン部22は、
図2に示すように、ろ過材収容部21の底部を構成するように、壁部20の3辺の内壁面20cと、護岸壁1の1辺の外壁面1aとに固定されている。また、スクリーン部22は、ろ過材23が通過しないように、直上に配置されるろ過材23の粒径よりも小さい網目状に形成されている。なお、スクリーン部22は、ろ過材23の粒径よりも小さいスリット状に形成されてもよい。
【0033】
<導水部の構造>
導水部4は、ろ過材収容部21の下方に形成された外壁面側導水部4aと、護岸壁1を貫通するように護岸壁1に形成された導水口4bとを含んでいる。外壁面側導水部4aは、外壁面1a側において、水底面Bと、ろ過材収容部21の下方に位置する第1壁部20aおよび一対の第2壁部20bの内壁面20c(
図1参照)とにより形成される空間により構成されている。導水口4bは、護岸壁1の下端において護岸壁1を貫通することによって、外壁面側導水部4aと取水池3とを接続するように設けられている。また、導水口4bは、護岸壁1に沿ったY方向に、所定の間隔を隔てて複数設けられている。
【0034】
また、導水部4が護岸壁1および浸透取水構造物2の一部から形成されていることによって、導水部4を設けるための水中における工事自体を削減することが可能である。
【0035】
<取水池の構造>
取水池3は、浸透取水構造物2(壁部20)に対応するように、護岸壁1の内壁面1b側に形成されている。また、取水池3に貯留された処理水の汲み上げ量(取水量)を調整することによって、原水の水面S1と取水池3の水面S2との水位差(H1またはH2)を生じさせることが可能である。
【0036】
<取水について>
取水時においては、浸透取水システム100では、水底面Bから取水池3の水面S2(
図2において、実線)までの取水池3の水位を、水底面Bから原水の水面S1までの護岸壁1の外壁面1a近傍の原水の水位よりも、水位差H1だけ低い水位にする。これによって、水位差H1によりろ過材23においてろ過材23側(上方)から導水部4側(下方)への水圧が生じる。この水圧により、原水がろ過材23内を上方から下方に向かって通過する。そして、スクリーン部22および導水部4を介して、取水池3に処理水として流入する。
【0037】
<逆洗について>
また、浸透取水システム100では、渦流Vを用いてろ過材23の洗浄を行うのに加えて、ろ過材23内を導水部4側からろ過材23側に向かって水を逆流させて、ろ過材23を洗浄(逆洗)するように構成されている。具体的には、逆洗時においては、浸透取水システム100では、水底面Bから取水池3の水面S2(
図2において、二点鎖線)までの取水池3の水位を、原水の水位よりも水位差H2だけ高い水位にする。これによって、水位差H2によりろ過材23において導水部4側からろ過材23への水圧が生じる。この水圧により、処理水がろ過材23内を下方から上方に向かって通過(逆流)する。そして、ろ過材23内を通過した処理水は、ろ過材23内の異物とともに、排水として、ろ過材23の表面23aから上方に巻き上げられる。これにより、ろ過材23が洗浄される。この結果、ろ過材23に蓄積した異物の除去のために、ダイバーなどによる定期的な清掃を不要にすることが可能である。なお、取水池3は、本発明の「逆洗機構部」の一例である。
【0038】
なお、水位差H1およびH2の大きさを調整して水圧の大きさを調整することによって、ろ過材23を通過する水の速度(取水速度または逆洗速度)を調整することが可能である。ここで、取水速度は、約5m/日以上であるのが好ましい。また、第1実施形態による浸透取水システム100では、50m/日程度の取水速度であっても、十分に清澄な処理水を取水することが可能である。
【0039】
(第1実施形態の効果)
第1実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0040】
第1実施形態では、上記のように、ろ過材収容部21を含む浸透取水構造物2を護岸壁1の外壁面1aに設置する。これにより、護岸壁1を設置するのに合わせて護岸壁1の外壁面1aに浸透取水構造物2を設置することができるので、浸透取水構造物を護岸壁1とは別個に水底面B上の水中(原水中)に設置する場合と比べて、浸透取水構造物2を容易に設置することができる。また、処理水を、護岸壁1の外壁面1a側のろ過材収容部21内に収容されたろ過材23から護岸壁1の内壁面1b側に導くように導水部4を構成することによって、浸透取水構造物を水底面B上の水中に設置する場合と比べて、導水部4を十分に短くすることができる。これにより、導水部4を設けるための水中における工事の簡素化または水中における工事自体の削減をすることができるとともに、導水部4の構造を簡素化することができる。これらの結果、浸透取水システム100を設けるための設置工事を簡略化するとともに、導水部4の構造を簡素化することができる。
【0041】
また、第1実施形態では、浸透取水構造物2のろ過材収容部21を、護岸壁1の外壁面1aに沿って水面S1と略平行に延びるように設ける。これにより、ろ過材収容部21の延伸が容易なため、ろ過材収容部21が形成される領域を容易に大きくすることができる。これにより、浸透取水システム100の取水量を容易に大きくして、必要な取水量を十分に確保することができる。
【0042】
また、第1実施形態では、浸透取水構造物2の壁部20を、浸透取水構造物2の内壁面20cと護岸壁1の外壁面1aとがろ過材収容部21の内壁面を構成するように、護岸壁1の外壁面1aに設置する。これにより、護岸壁1の外壁面1aにろ過材23を接触させた状態でろ過材23をろ過材収容部21に収容することができるので、護岸壁1を貫通するように導水部4の導水口4bを設けるだけで、ろ過材23を通過した処理水を容易に護岸壁1の内壁面1b側に導くことができる。また、4辺を有する矩形状の浸透取水構造物を設ける必要がなく、3辺(護岸壁1の外壁面1aに沿った1辺(第1壁部20a)および外壁面1aと接続する2辺(一対の第2壁部20b))を有する浸透取水構造物2の壁部20を護岸壁1の外壁面1aに設置すればよいので、浸透取水構造物2の構造を簡素化することができる。
【0043】
また、第1実施形態では、護岸壁1の外壁面1a近傍の原水の水位と取水池3の水位との水位差H1により、原水が、ろ過材23を通過して導水部4を介して取水池3に流入されるように構成する。これにより、原水の水位と取水池3の水位との水位差H1を利用して、ポンプなどの動力源を用いることなく、処理水を護岸壁1の内壁面1b側の取水池3に導くことができる。
【0044】
また、第1実施形態では、護岸壁1の外壁面1aに波や流れが入射した場合に、ろ過材収容部21内に収容されたろ過材23の表面23a上に渦流Vが発生する位置に、ろ過材23を配置する。これにより、波や流れによって発生する渦流Vによりろ過材23の表面23aを攪乱する(洗い流す)ことができるので、ろ過材23に付着した微生物や浮遊物、懸濁物質などによるろ過材23の目詰まりを効果的に抑制することができる。
【0045】
また、第1実施形態では、浸透取水構造物2の壁部20を護岸壁1と一体的に形成することによって、護岸壁1を設置するのに合わせて、さらに容易に浸透取水構造物2の壁部20を護岸壁1に設置することができる。
【0046】
また、第1実施形態では、水底面Bから取水池3の水面S2までの取水池3の水位を、原水の水位よりも水位差H2だけ高い水位にすることによって、導水部4側からろ過材23側に向かって水を逆流させることによりろ過材23を洗浄するように取水池3を構成する。これにより、逆流された水により、ろ過材23に付着した微生物や浮遊物、懸濁物質などをろ過材23から原水側に排出することができるので、ろ過材23に目詰まりが生じるのをより効果的に抑制することができる。
【0047】
また、第1実施形態では、水位差H1の大きさを調整して水圧の大きさを調整することによって、ろ過材23を通過する水の速度(取水速度)を調整するように浸透取水システム100を構成する。これにより、所定の大きさに浸透取水構造物2を設置した場合であっても、取水速度を調整することによって、取水量を容易に調整することができる。
【0048】
また、第1実施形態では、ろ過材収容部21に、原水を上方から下方に向かって上下方向にろ過するようにろ過材23を収容する。これにより、水平方向にろ過するようにろ過材がろ過材収容部に水平方向に収容されている場合と比べて、ろ過材23をろ過材収容部21に固定して収容するためのネットなどを用いなくとも、ろ過材23の自重を利用して、ろ過材23を容易にろ過材収容部21内に収容することができる。
【0049】
[第2実施形態]
次に、
図4を参照して、本発明の第2実施形態による浸透取水システム200について説明する。この浸透取水システム200では、上記第1実施形態の導水部4に代えて、複数のスクリーン管104が設置される例について説明する。なお、上記第1実施形態と同様の構成は、第1実施形態と同じ符号を付して図示するとともに説明を省略する。また、浸透取水システム200は、本発明の「護岸壁用浸透取水システム」の一例であり、スクリーン管104は、本発明の「導水部」の一例である。
【0050】
(浸透取水システムの構成)
本発明の第2実施形態による浸透取水システム200は、
図4に示すように、護岸壁101の外壁面1a(原水側)に設置された浸透取水構造物102と、取水池3と、浸透取水構造物102と取水池3とを接続する複数のスクリーン管104とを備えている。
【0051】
<浸透取水構造物の構造>
浸透取水構造物102は、第1実施形態の浸透取水構造物1と同様の壁部20を有している。また、浸透取水構造物102には、ろ過材23が収容されたろ過材収容部121が設けられている。このろ過材収容部121は、
図1に示した第1実施形態と同様の壁部20の第1壁部20aおよび一対の第2壁部20bの内壁面20cと、護岸壁101の外壁面1a(
図4参照)と、水底面Bとによって区画された空間として設けられている。
【0052】
<スクリーン管の構造>
複数のスクリーン管104は、ろ過材収容部121(ろ過材23)の下部において、護岸壁101に沿ったY方向に所定の間隔を隔てて配置されている。また、スクリーン管104は、護岸壁101を貫通するように、護岸壁101に対して直交するX方向に延びている。これにより、スクリーン管104の取水池3側(X2側)の端部は、護岸壁101の内壁面1b側に露出している。
【0053】
また、スクリーン管104は、多数のスリット104aを有している。これにより、取水時にろ過材23を上方から下方に通過した水は、スリット104aを介してスクリーン管104内に流入することによって、取水池3に処理水が取水される。また、逆洗時にスクリーン管104を逆流する水は、スリット104aを介してろ過材23を下方から上方に通過することによって、ろ過材23内の異物とともに、排水として、ろ過材23の表面23aから上方に巻き上げられる。
【0054】
また、複数のスクリーン管104は、護岸壁101を貫通するように設けられた孔部に挿入されることによって配置されている。この結果、スクリーン管104を配置するための水中における工事自体を削減することが可能である。なお、第2実施形態のその他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0055】
(第2実施形態の効果)
第2実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0056】
第2実施形態では、上記のように、ろ過材収容部121を含む浸透取水構造物102を護岸壁101の外壁面1aに設置する。これにより、上記第1実施形態と同様に、浸透取水システム200を設けるための設置工事を簡略化することができるとともに、スクリーン管104の構造を簡素化することができる。
【0057】
また、第2実施形態では、複数のスクリーン管104を用いることによって、上記第1実施形態の外壁面側導水部4aとは異なり、ろ過材収容部121の下方に空間を確保する必要がないので、浸透取水構造物102を上下方向に小型化することができる。なお、第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0058】
[第3実施形態]
次に、
図5を参照して、本発明の第3実施形態による浸透取水システム300について説明する。この浸透取水システム300では、上記第2実施形態の浸透取水システム200に、2つの浸透取水構造物102および202を上下方向に設けて2段構造にした例について説明する。なお、上記第1および第2実施形態と同様の構成は、第1および第2実施形態と同じ符号を付して図示するとともに説明を省略する。また、浸透取水システム300は、本発明の「護岸壁用浸透取水システム」の一例であり、浸透取水構造物202は、本発明の「構造物」の一例である。
【0059】
(浸透取水システムの構成)
本発明の第3実施形態による浸透取水システム300は、
図5に示すように、護岸壁201の外壁面1a(原水側)に設置され、ろ過材23が収容される2つの浸透取水構造物102および202と、取水池3と、浸透取水構造物102または202と取水池3とを接続する複数のスクリーン管104とを備えている。
【0060】
<浸透取水構造物の構造>
浸透取水構造物102および202は、上下方向(Z方向)に所定の間隔を隔てて形成されることによって、2段構造に形成されている。また、下側(Z2側)の浸透取水構造物102は、第2実施形態の浸透取水構造物102と同様の構成を有している。一方、上側(Z1側)の浸透取水構造物202の壁部220は、第2実施形態の浸透取水構造物102の壁部20の構成に加えて、水平面内で延びる底部220dを含んでいる。この壁部220は、護岸壁201と一体的に形成されている。また、上側の浸透取水構造物202の壁部220は、原水の水面S1よりも下方の高さ位置まで形成されている。
【0061】
また、浸透取水構造物202には、ろ過材23が収容されるろ過材収容部221が設けられている。ろ過材収容部221は、底部220dを含む壁部220の内壁面20cと、護岸壁201の外壁面1aとによって区画された空間として設けられている。また、浸透取水構造物202のろ過材収容部221(ろ過材23)の下部に、複数のスクリーン管104が配置されている。
【0062】
また、第3実施形態では、浸透取水構造物102および202(ろ過材収容部121および221)のろ過材23は、略同時に逆洗が行われるように構成されている。これにより、上側の浸透取水構造物202(ろ過材収容部221)からの排水が、下側の浸透取水構造物102(ろ過材収容部121)から取水されるのを抑制することが可能である。なお、第3実施形態のその他の構成は、上記第1および第2実施形態と同様である。
【0063】
(第3実施形態の効果)
第3実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0064】
第3実施形態では、上記のように、ろ過材収容部121および221をそれぞれ含む浸透取水構造物102および202を護岸壁201の外壁面1aに設置する。これにより、上記第1実施形態と同様に、浸透取水システム300を設けるための設置工事を簡略化することができるとともに、スクリーン管104の構造を簡素化することができる。
【0065】
また、第3実施形態では、浸透取水構造物102および202を、上下方向に所定の間隔を隔てて護岸壁201の外壁面1aに設置することによって、浸透取水構造物102および202を設置可能な護岸壁201の長さが小さい場合であっても、必要な取水量を確実に確保することができる。なお、第3実施形態のその他の効果は、上記第1および第2実施形態と同様である。
【0066】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0067】
たとえば、上記第1〜3実施形態では、本発明の護岸壁用浸透取水システムを、海水や汽水などの水(原水)から清澄な水(処理水)を得るためのシステムとして用いた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明の護岸壁用浸透取水システムは、原水の種類や原水の取水位置に拘わらず、原水から異物が除去された処理水を必要とするすべての設備に適用可能である。たとえば、ろ過材収容部を含む構造物を湖畔などの護岸壁の外側面に設置するとともに、ろ過材を通過した処理水を護岸壁の内壁面側に導く導水部を設けることによって、本発明の護岸壁用浸透取水システムを、湖畔などからの水(原水)から清澄な水(処理水)を得るためのシステムとして用いてもよい。
【0068】
また、上記第1〜第3実施形態では、水位差H1またはH2を利用して、取水時にろ過材23内を原水側から処理水側に向かって水を通過させ、逆洗時にろ過材23内を処理水側から原水側に向かって水を逆流させた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、取水時にろ過材内を原水側から処理水側に向かって水を通過させ、逆洗時にろ過材内を処理水側から原水側に向かって水を逆流させることが可能なように構成されていればよい。たとえば、
図6に示す第2実施形態の変形例(第1変形例)の浸透取水システム400のように、取水池3ではなく、導水管303aに接続されたポンプ303を用いて、取水時にろ過材23内を原水側(上方)から処理水側(下方)に向かって水を通過させることが可能なように構成してもよい。なお、浸透取水システム400では、ポンプ303を用いてろ過材23内を下方から上方に向かって水を逆流させることによって、ろ過材23を洗浄(逆洗)することも可能である。また、導水管303aは、スクリーン管104に接続されている。また、浸透取水システム400およびポンプ303は、それぞれ、本発明の「護岸壁用浸透取水システム」および「逆洗機構部」の一例である。
【0069】
また、
図7に示す第2変形例の浸透取水システム500のように、上記第1実施形態の構成に加えて、波や流れにより発生する渦流や逆洗時の排水により巻き上げられたろ過材23がろ過材収容部21から流出するのを抑制するための流出抑制部401cを設けてもよい。流出抑制部401cは、ろ過材収容部21の上方にろ過材収容部21に対向するように形成されているとともに、護岸壁401から離れる方向に向かって斜め上方に傾斜するように、護岸壁401に一体的に設けられている。これにより、ろ過材23が巻き上げられたとしても、巻き上げられたろ過材23は流出抑制部401cに当たることによってその勢いが減衰される。この結果、巻き上げられたろ過材23は沈降して、再度ろ過材収容部21内に戻る。したがって、軽量のろ過材23を用いた場合であっても、波や流れにより発生する渦流や逆洗時の排水に起因するろ過材23の流出を抑制することが可能である。
【0070】
さらに、流出抑制部401cを護岸壁401から離れる方向に向かって斜め上方に傾斜するように形成することによって、排水をろ過材収容部21から離れる方向に導くことができるので、排水が取水されるのを抑制することが可能である。なお、この際、流出抑制部401cと壁部20との間の開口部を、上部開口部406aと下部開口部406bとに区切る壁部407を新たに設けてもよい。これにより、排水を上部開口部406aからろ過材収容部21から離れる方向に効率的に排出することが可能である。なお、浸透取水システム500は、本発明の「護岸壁用浸透取水システム」の一例である。
【0071】
また、上記第1実施形態では、ろ過材収容部21の底部をスクリーン部22により構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、
図8に示す第3変形例のろ過材収容部521のように、上記第3実施形態の浸透取水構造物202の底部220dと同様に、壁部520および護岸壁501と一体的に設けられた底部520dをろ過材収容部521に設けてもよい。この底部520dには、底部520dを上下方向に貫通する複数の孔部520eが形成されている。また、側面に開口が設けられた複数の蓋部材522が、複数の孔部520eのろ過材収容部521側(上側)の端部を各々覆うように配置されている。これにより、孔部520eと蓋部材522の側面の開口とを介して、ろ過材23と導水部4との間の水の流通が行われる。
【0072】
また、上記第1〜第3実施形態では、逆洗時にろ過材内を下方から上方に向かって水を逆流させた例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、空圧機器などを用いて逆洗時にろ過材内を下方から上方に向かって空気を逆流させることによって、空気の流れに伴うようにろ過材内の水と異物とを排水として構造物の外部に排出してもよい。なお、
図6に示した第1変形例に示す浸透取水システム400では、導水管303aに空気を逆流させて逆洗を行うことができるので、別個に逆洗のための配管を設ける必要がない。
【0073】
また、上記第1および第2実施形態では、1つの浸透取水構造物を護岸壁に設置した例を示し、上記第3実施形態では、2段構造の浸透取水構造物102および202を護岸壁201に設置した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、護岸壁に3つ(3段)以上の多段化された構造の浸透取水構造物を設置してもよい。
【0074】
また、上記第2および第3実施形態では、ろ過材内に複数のスクリーン管を配置した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、スクリーン管の代わりに、ろ過材が略通過しない程度の穴径を有する穴が複数形成された穴あき(多孔)パイプや、ろ過材が略通過しない程度の大きさの網目を有するとともに、枝管とろ過材との間を仕切る網状のスクリーンを用いてもよい。
【0075】
また、上記第1〜第3実施形態では、護岸壁の外壁面をろ過材収容部の内壁面を構成するようにした例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、護岸壁の外壁面を用いずに、4辺を有する矩形状の浸透取水構造物の4つの内壁面により、ろ過材収容部の内壁面(内側面)を構成するようにしてもよい。
【0076】
また、上記第1〜第3実施形態では、浸透取水構造物を護岸壁と一体的に形成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、浸透取水構造物を護岸壁と別個に形成した後、護岸壁の外壁面に設置するようにしてもよい。