【実施例】
【0030】
[実施例1]
酸化亜鉛(平均粒径1.5μm)にθアルミナ(平均粒径0.02μm)を1質量%混合し成形した成形体を、N
2雰囲気にて1100℃で5時間保持後、さらに1400℃に昇温して5時間焼成を行い、酸化亜鉛セラミックスブロックを作製した。この酸化亜鉛セラミックスブロックの体積抵抗率は9.3×10
-4Ωcmであった。得られた酸化亜鉛セラミックスブロックを10mm×10mm×1mmの板状に切り出して酸化亜鉛セラミックス薄板を得た。この薄板の表面を研磨、洗浄したのち、酸化ビスマスをターゲットに用い、高周波プラズマスパッタリングを行い、酸化亜鉛セラミックス薄板の表面に酸化ビスマスのスパッタ膜(厚さ0.3μm)を成膜し、接合体を得た。スパッタにはULVAC機工製RFS−200を用いた。成膜条件は以下のとおり。ターゲットサイズ:直径80mm,RF出力:20W,ガス圧(Ar);2.0Pa,成膜時間:15分。
【0031】
得られた接合体をそのまま抵抗体として用い、抵抗体の両面にAl蒸着電極を設け、電圧非直線抵抗素子を得た(
図1参照)。この電圧非直線抵抗素子の両電極に電圧を印加して電流−電圧特性を測定した。なお、酸化亜鉛セラミックス薄板側に設けられた電極を陽極とし、酸化ビスマスのスパッタ膜に設けられた電極を陰極とした。測定結果を表1及び
図6に示す。1mA/cm
2相当の電流値における制限電圧は2.7V、20A/cm
2相当の電流値における制限電圧は4.3Vであった。
【0032】
【表1】
【0033】
[実施例2]
酸化亜鉛にθアルミナを2質量%混合した以外は、実施例1と同様にして酸化亜鉛セラミックスブロックを作製した。この酸化亜鉛セラミックスブロックの体積抵抗率は1.1×10
-4Ωcmであった。この酸化亜鉛セラミックスブロックを10mm×10mm×1mmの板状に切り出して酸化亜鉛セラミックス薄板とし、この薄板を用いて実施例1と同様にして接合体を製造した。得られた接合体をそのまま抵抗体として用い、抵抗体の両面にAl蒸着電極を設け、電圧非直線抵抗素子とした。この電圧非直線抵抗素子の両電極に実施例1と同様にして電圧を印加して電流−電圧特性を測定した。測定結果を表1及び
図6に示す。1mA/cm
2相当の電流値における制限電圧は2.7V、20A/cm
2相当の電流値における制限電圧は3.4Vであった。
【0034】
[比較例1]
酸化亜鉛に硝酸アルミニウム水溶液をAl
2O
3に換算して0.001質量%となるように添加し、水分量が50質量%となるように水を加え、更に微量のバインダー及び消泡剤を加えた後、超音波撹拌を30分間、羽撹拌を30分間行うことにより混合した。混合後、スプレードライヤーにより造粒して造粒物を得た。造粒物を目開き200μmの篩にて篩通しした後、成形し、脱脂後、大気雰囲気で1400℃、5時間焼成し、酸化亜鉛セラミックスブロックを作製した。この酸化亜鉛セラミックスブロックの体積抵抗率は3.0×10
-1Ωcmであった。得られた酸化亜鉛セラミックスブロックを10mm×10mm×1mmの板状に切り出して酸化亜鉛セラミックス薄板を得た。この酸化亜鉛セラミックス薄板の表面に実施例1と同様にして酸化ビスマスのスパッタ膜を成膜し、接合体を得た。得られた接合体をそのまま抵抗体として用い、抵抗体の両面にAl蒸着電極を設け、電圧非直線抵抗素子とした。この電圧非直線抵抗素子の両電極に実施例1と同様にして電圧を印加して電流−電圧特性を測定した。測定結果を表1及び
図6に示す。1mA/cm
2相当の電流値における制限電圧は2.5V、20A/cm
2相当の電流値における制限電圧は10.2Vであった。
【0035】
[比較例2]
酸化亜鉛に硝酸アルミニウム水溶液をAl
2O
3に換算して0.002質量%となるように添加した以外は、比較例1と同様にして酸化亜鉛セラミックスブロックを作製した。この酸化亜鉛セラミックスブロックの体積抵抗率は1.5×10
-1Ωcmであった。この酸化亜鉛セラミックスブロックを10mm×10mm×1mmの板状に切り出して酸化亜鉛セラミックス薄板とし、この薄板を用いて実施例1と同様にして接合体を製造した。得られた接合体をそのまま抵抗体として用い、抵抗体の両面にAl蒸着電極を設け、電圧非直線抵抗素子とした。この電圧非直線抵抗素子の両電極に実施例1と同様にして電圧を印加して電流−電圧特性を測定した。測定結果を表1及び
図6に示す。1mA/cm
2相当の電流値における制限電圧は2.6V、20A/cm
2相当の電流値における制限電圧は8.8Vであった。
【0036】
[比較例3]
酸化亜鉛にCo
3O
4,MnO
2,NiO粉末を酸化亜鉛に対してそれぞれ1.2,0.50,0.47質量%となるように混合し、硝酸アルミニウム水溶液をAl
2O
3に換算して0.0018質量%添加した。この混合粉を成形し大気雰囲気で1300℃、1時間ホットプレス焼成し、酸化亜鉛セラミックスブロックを作製した。この酸化亜鉛セラミックスブロックの体積抵抗率は2.1×10
-1Ωcmであった。この酸化亜鉛セラミックスブロックを10mm×10mm×1mmの板状に切り出して酸化亜鉛セラミックス薄板とし、この薄板を用いて実施例1と同様にして接合体を製造した。得られた接合体をそのまま抵抗体として用い、抵抗体の両面にAl蒸着電極を設け、電圧非直線抵抗素子とした。この電圧非直線抵抗素子の両電極に実施例1と同様にして電圧を印加して電流−電圧特性を測定した。測定結果を表1及び
図6に示す。1mA/cm
2相当の電流値における制限電圧は2.7V、20A/cm
2相当の電流値における制限電圧は9.0Vであった。
【0037】
以上のように、体積抵抗率が3.0×10
-1Ωcmの酸化亜鉛セラミックス薄板を用いた比較例1の電圧非直線抵抗素子に比べて、体積抵抗率が1.0×10
-1Ωcm以下(特に1.0×10
-3Ωcm以下)の酸化亜鉛セラミックス薄板を用いた実施例1,2の電圧非直線抵抗素子では、高電流領域(例えば20A/cm
2以上の領域)の発生電圧が低く、電子回路の保護機能に優れていることがわかった。
【0038】
[実施例3]
実施例2と同様にして作製した接合体を2つ用意した。一方の接合体の酸化亜鉛セラミックス薄板ともう一方の接合体の酸化ビスマスのスパッタ膜との間にAu−Ge合金(質量比でAu/Ge=88/12)の箔(厚さ50μm)を挟んで両接合体を重ね合わせた。その状態で、不活性雰囲気下、420℃、10分間の熱処理を行い、両接合体を接合し、積層型の抵抗体を得た。得られた抵抗体の両面にAl蒸着電極を設け、電圧非直線抵抗素子を得た(
図2参照)。この電圧非直線抵抗素子の両電極に電圧を印加して電流−電圧特性を測定した。なお、酸化亜鉛セラミックス薄板に設けられた電極を陽極とし、スパッタ膜に設けられた電極を陰極とした。その結果、図示しないが、実施例2と同様の電圧非直線抵抗特性を示すことを確認した。この場合の非直線性領域(電流0.01〜2A/cm
2の領域)の制限電圧は実施例2に比べておよそ2倍であった。
【0039】
[実施例4]
酸化亜鉛に硝酸アルミニウム水溶液をAl
2O
3に換算して0.1質量%となるように添加した以外は、比較例1と同様にして酸化亜鉛セラミックスブロックを作製した。この酸化亜鉛セラミックスブロックの体積抵抗率は1.0×10
-1Ωcmであった。この酸化亜鉛セラミックスブロックを10mm×10mm×1mmの板状に切り出して酸化亜鉛セラミックス薄板とし、この薄板を用いて実施例1と同様にして接合体を製造した。得られた接合体をそのまま抵抗体として用い、抵抗体の両面にAl蒸着電極を設け、電圧非直線抵抗素子とした。この電圧非直線抵抗素子の両電極に実施例1と同様にして電圧を印加して電流−電圧特性を測定した。測定結果を表1及び
図6に示す。1mA/cm
2相当の電流値における制限電圧は2.6V、20A/cm
2相当の電流値における制限電圧は6.1Vであった。
【0040】
[実施例5]
酸化亜鉛にθアルミナを0.5質量%混合した以外は、実施例1と同様にして酸化亜鉛セラミックスブロックを作製した。この酸化亜鉛セラミックスブロックの体積抵抗率は8.9×10
-3Ωcmであった。この酸化亜鉛セラミックスブロックを10mm×10mm×1mmの板状に切り出して酸化亜鉛セラミックス薄板とし、この薄板を用いて実施例1と同様にして接合体を製造した。得られた接合体をそのまま抵抗体として用い、抵抗体の両面にAl蒸着電極を設け、電圧非直線抵抗素子とした。この電圧非直線抵抗素子の両電極に実施例1と同様にして電圧を印加して電流−電圧特性を測定した。測定結果を表1及び
図6に示す。1mA/cm
2相当の電流値における制限電圧は2.7V、20A/cm
2相当の電流値における制限電圧は5.2Vであった。
【0041】
以上の実施例1,2,4,5及び比較例1〜3につき、酸化亜鉛セラミックス層の体積抵抗率(Ωcm)と20A/cm
2相当の電流値における制限電圧との関係を表すグラフを
図7に示す。
図7から、酸化亜鉛セラミックス層の体積抵抗率が1.0×10
-1Ωcmを境界として、20A/cm
2相当の電流値における制限電圧が大きく変化していることがわかる。すなわち、酸化亜鉛セラミックス層の体積抵抗率が1.0×10
-1Ωcmを超える領域では20A/cm
2相当の電流値における制限電圧は大きな値であるが、1.0×10
-1Ωcmを境としてそれ以下の領域では制限電圧が急激に小さくなることがわかる。
【0042】
[実施例6]
実施例2と同様にして作製した酸化亜鉛セラミックスブロックを10mm×10mm×1mmの板状に切り出して酸化亜鉛セラミックス薄板を得た。この薄板の表面を研磨、洗浄したのち、酸化ビスマスにSb
2O
3,Co
3O
4,MnO
2粉末をそれぞれ酸化ビスマスに対し2.5,6.7,1.8質量%となるように混合、成形し大気雰囲気で700℃、2時間焼成したものをターゲットに用い、高周波プラズマスパッタリングを行い、酸化亜鉛セラミックス薄板の表面に酸化ビスマスを主成分とするスパッタ膜(厚さ0.3μm)を成膜し、接合体を得た。スパッタにはULVAC機工製RFS−200を用いた。成膜条件は以下のとおり。ターゲットサイズ:直径80mm,RF出力:20W,ガス圧(Ar);2.0Pa,成膜時間:20分。得られた接合体をそのまま抵抗体として用い、抵抗体の両面にAl蒸着電極を設け、電圧非直線抵抗素子とした。この電圧非直線抵抗素子の両電極に実施例1と同様にして電圧を印加して電流−電圧特性を測定した。その結果、図示しないが、実施例2と同様の電圧非直線抵抗特性を示すことを確認した。測定結果を表2に示す。1mA/cm
2相当の電流値における制限電圧は2.6V、20A/cm
2相当の電流値における制限電圧は3.2Vであった。
【0043】
【表2】
【0044】
[実施例7]
実施例6と同様にして作製した接合体を2つ用意した。一方の接合体の酸化亜鉛セラミックス薄板ともう一方の接合体の酸化ビスマスのスパッタ膜との間にAu−Ge合金(質量比でAu/Ge=88/12)の箔(厚さ50μm)を挟んで両接合体を重ね合わせた。その状態で、不活性雰囲気下、420℃、10分間の熱処理を行い、両接合体を接合し、積層型の抵抗体を得た。得られた抵抗体の両面にAl蒸着電極を設け、電圧非直線抵抗素子を得た(
図2参照)。この電圧非直線抵抗素子の両電極に電圧を印加して電流−電圧特性を測定した。なお、酸化亜鉛セラミックス薄板に設けられた電極を陽極とし、スパッタ膜に設けられた電極を陰極とした。この電圧非直線抵抗素子の両電極に実施例1と同様にして電圧を印加して電流−電圧特性を測定した。その結果、図示しないが、実施例2と同様の電圧非直線抵抗特性を示すことを確認した。測定結果を表2に示す。1mA/cm
2相当の電流値における制限電圧は5.2V、20A/cm
2相当の電流値における制限電圧は6.4Vであり、実施例6の2倍であった。
【0045】
[実施例8]
実施例6と同様にして作製した接合体を2つ用意した。一方の接合体の酸化亜鉛セラミックス薄板ともう一方の接合体の酸化ビスマスのスパッタ膜との間にAg箔(厚さ20μm)を挟んで両接合体を重ね合わせて、不活性雰囲気下、700℃、30分間の熱処理を行い、両接合体を接合し、積層型の抵抗体を得た。得られた抵抗体の両面にAl蒸着電極を設け、電圧非直線抵抗素子を得た(
図2参照)。この電圧非直線抵抗素子の両電極に電圧を印加して電流−電圧特性を測定した。なお、酸化亜鉛セラミックス薄板に設けられた電極を陽極とし、スパッタ膜に設けられた電極を陰極とした。この電圧非直線抵抗素子の両電極に実施例1と同様にして電圧を印加して電流−電圧特性を測定した。その結果、図示しないが、実施例2と同様の電圧非直線抵抗特性を示すことを確認した。測定結果を表2に示す。1mA/cm
2相当の電流値における制限電圧は5.3V、20A/cm
2相当の電流値における制限電圧は6.6Vであり、実施例6のおよそ2倍であった。
【0046】
[比較例4]
実施例6と同様にして作製した接合体を2つ用意した。一方の接合体の酸化亜鉛セラミックス薄板ともう一方の接合体の酸化ビスマスのスパッタ膜との間にAg箔(厚さ20μm)を挟んで両接合体を重ね合わせて、不活性雰囲気下、900℃、30分間の熱処理を行い、両接合体を接合し、積層型の抵抗体を得た。得られた抵抗体の両面にAl蒸着電極を設け、電圧非直線抵抗素子を得た(
図2参照)。この電圧非直線抵抗素子の両電極に電圧を印加して電流−電圧特性を測定した。なお、酸化亜鉛セラミックス薄板に設けられた電極を陽極とし、スパッタ膜に設けられた電極を陰極とした。この電圧非直線抵抗素子の両電極に実施例1と同様にして電圧を印加して電流−電圧特性を測定した。その結果、作製した抵抗体により、電圧非直線抵抗特性を示すものと示さないものが見られた。測定結果を表2に示す。電圧非直線抵抗特性を示したものでも、1mA/cm
2相当の電流値における制限電圧は5.3V、20A/cm
2相当の電流値における制限電圧は15.0Vであり、実施例6の2倍よりはるかに高い制限電圧となった。
【0047】
以上の実施例6〜8及び比較例4から、酸化ビスマス層に酸化ビスマス以外の他の酸化物(ここではSb
2O
3,Co
3O
4,MnO
2)が含まれる場合、700℃より高い温度の熱処理により接合体同士を接合すると、電圧非直線特性の発現が不安定になったり、制限電圧が高くなったりして、高電流領域の発生電圧を低く抑えた電圧非直線抵抗素子を得ることができないおそれがあることがわかった。
【0048】
なお、上述した実施例は本発明の一例に過ぎず、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。