(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0011】
[緩衝器の構造]
図1は、第1実施形態の緩衝器1の縦断面図、
図2は、
図1の減衰力発生装置の上面図、
図3は、
図2のA−A断面の要部を拡大して示した図、
図4及び
図5は、
図3の要部拡大詳細図である。
【0012】
実施形態の緩衝器1は、自動二輪車の後輪を車体に対して懸架する倒立型のリアクッションである。緩衝器1は、
図1に示すように、車体側に取り付けられたシリンダ2の内部に車軸側に取り付けられたピストンロッド3の一部を下方から挿入し、シリンダ2とピストンロッド3との間に不図示の懸架スプリングを介装して構成されている。
【0013】
シリンダ2は、同心状の二重管を成す内筒2aと外筒2bによって構成されている。シリンダ2の上端部には、ダンパケース部4が取り付けられている。このダンパケース部4には、
図2にも示すように、後述するリザーバ30と減衰力発生装置40が設けられている。ダンパケース部4の一部は、車体側取付部24を構成している。この車体側取付部24には、円筒状のラバーブッシュ5が横方向(
図1の左右方向)に挿通して保持されている。ラバーブッシュ5の内側には、略円筒状のカラー6が横方向に挿通して保持されている。そして、シリンダ2の上端部は、車体側取付部24に挿通して保持されたカラー6に挿通する軸によって自動二輪車の車体に取り付けられる。
【0014】
ピストンロッド3の下端部には、車軸側取付部材7が螺着されている。さらに、車軸側取付部材7は、ロックナット8によって強固に結着されている。ピストンロッド3の下端部は、車軸側取付部材7に横方向(
図1の左右方向)に挿通して保持された円筒状のカラー9に挿通する軸を介して自動二輪車の後輪支持部材に取り付けられている。なお、ピストンロッド3の下端部の車軸側取付部材7の直上には、最圧縮状態における緩衝器1の底付きを防ぐためのバンプラバー10がピストンロッド3に挿通して固定されている。
【0015】
シリンダ2の内筒2a内に臨む、ピストンロッド3の上端部には、ピストン11がナット12によって結着されている。ピストン11は、その外周に保持されたピストンリング13を介して内筒2aの内周を上下方向に摺動可能に嵌合されている。
【0016】
シリンダ2の内筒2a内のオイルが作動する作動油室である空間は、ピストン11によって上側のピストン側油室S1と下側のロッド側油室S2と2つの油室に区画されている。この2つの油室のうち、ピストン11側に設けられるのがピストン側油室S1であり、ピストンロッド3側に設けられるのがロッド側油室S2である。これらのピストン側油室S1とロッド側油室S2には、作動流体であるオイルが充填されている。すなわち、緩衝器1では、作動油室であるシリンダ2の内筒2a内の空間は、ピストン11によって区画され、ピストン11よりも車軸側に形成されるロッド側油室S2と、ピストン11よりも車体側に形成されるピストン側油室S1を有する構成となっている。
【0017】
また、
図1に示すように、シリンダ2の外筒2bの下面開口部のピストンロッド3が挿通する部分には、キャップ14が取り付けられている。外筒2bの下端部の内周には、中心をピストンロッド3が上下方向に摺動可能に貫通するロッドガイド15が嵌着されている。そして、ロッドガイド15の上端開口部の内周には、リバウンドラバー16が嵌着されている。ロッドガイド15の中間部の内周には、オイルシール17が嵌着され、下端部の外周には、ダストシール18が嵌着されている。なお、シリンダ2からのオイルの漏出は、オイルシール17のシール作用によって防止され、ダストのシリンダ2内への侵入は、ダストシール18のシール作用によって防止される。
【0018】
ダンパケース部4には、
図1に示すように、シリンダ2の内筒2a内に形成されたピストン側油室S1に開口する油孔19が形成されている。ピストン側油室S1は、油孔19を介して後述する減衰力発生装置40の第1油室S3(
図3参照)に連通している。また、シリンダ2の内筒2aと外筒2bとの間には、円筒状の流路20が形成されている。この流路20の一端(下端)は、内筒2aの下端部に形成された複数の油孔21を介してロッド側油室S2に連通している。一方、流路20の他端(上端)は、外筒2bの上端に形成された複数の油孔22、及びダンパケース部4と外筒2bとの間に形成された流路23を介して、後述する減衰力発生装置40の第3油室S5(
図3参照)に連通している。
【0019】
実施形態の緩衝器1においては、シリンダ2の上端に被着されたダンパケース部4内には、リザーバ30と、減衰力発生装置40とが並設されている。リザーバ30は、袋状のブラダ32を備えている。ここで、ブラダ32は、ゴム等の弾性体によって袋状に成形され、膨張及び収縮が可能な部材である。なお、ブラダ32の内部には、エア等のガスが充填されている。そして、リザーバ30のブラダ32の外部の空間は、リザーバ油室S6を構成している。そのリザーバ油室S6の内部には、作動流体であるオイルが充填される。このリザーバ30のリザーバ油室S6は、シリンダ2にピストンロッド3が進入又は退出されることによるピストンロッド3の体積を補償している。
【0020】
次に、減衰力発生装置40の構成の詳細を
図3乃至
図5を参照して説明する。
【0021】
図3に示すように、減衰力発生装置40は、ダンパケース部4(
図1参照)に形成された有底筒状のダンパケース26と、このダンパケース26の他端側開口部の内周に一端側が嵌着されたケース51とを備える。そして、ダンパケース26の凹部26a内には、一端側から他端側に向かって、バルブストッパ41、圧側出口チェック弁42、伸側弁座部材43、伸側バルブ44、第1流路部材45、圧側バルブ46、圧側弁座部材47、伸側出口チェック弁48、第2流路部材49、弁体収容部材50が軸方向に順次配設されている。さらに、減衰力発生装置40は、弁体収容部材50に隣接してケース51内に、ソレノイドアクチュエータ60を備える。なお、実施形態の緩衝器1は、ソレノイドアクチュエータ60を使用しているがこれに限定されることなく、ソレノイド以外の駆動機構を用いたアクチュエータを用いてもよい。
【0022】
凹部26a内の伸側弁座部材43より一端側の空間は、ロッド側油室S2(
図1参照)と連通された第3油室S5とされている。また、凹部26a内の伸側弁座部材43と圧側弁座部材47との間の空間は、連通路26bを介してリザーバ油室S6(
図1参照)と連通された第2油室S4とされており、圧側弁座部材47と弁体収容部材50との間の空間は、ピストン側油室S1(
図1参照)と連通された第1油室S3とされている。
【0023】
第2流路部材49は、他端側に位置する大径部49aと、この大径部49aから一端側に延びる小径部49bとを具備している。また、バルブストッパ41、圧側出口チェック弁42、伸側弁座部材43、伸側バルブ44、第1流路部材45、圧側バルブ46、圧側弁座部材47、伸側出口チェック弁48は、それぞれ円環状とされており、これらの部材の中央部に、第2流路部材49の小径部49bが位置するよう配設されている。
【0024】
すなわち、第2流路部材49の小径部49bに、伸側出口チェック弁48、圧側弁座部材47、圧側バルブ46、第1流路部材45、伸側バルブ44、伸側弁座部材43、圧側出口チェック弁42を嵌装し、その一端側の端部をバルブストッパ41で係止した構成となっている。
【0025】
円環状に形成された伸側弁座部材43には、その周方向に沿って複数の伸側入口油路43bと、圧側出口油路43cが形成されている。なお、伸側入口油路43bと、圧側出口油路43cは、伸側弁座部材43の周方向に沿って交互に設けられている。伸側入口油路43bの他端側(出口側)に、伸側弁座部材43の他端側面に当接されるように、複数枚のディスクバルブからなる伸側バルブ44が配設されている。一方、圧側出口油路43cの一端側(出口側)に、伸側弁座部材43の一端側面に当接されるように、ディスクバルブからなる圧側出口チェック弁42が配設されている。
【0026】
同様に、円環状に形成された圧側弁座部材47には、その周方向に沿って複数の圧側入口油路47bと、伸側出口油路47cが形成されている。なお、圧側入口油路47bと、伸側出口油路47cは、圧側弁座部材47の周方向に沿って交互に設けられている。そして、圧側入口油路47bの一端側(出口側)に、圧側弁座部材47の一端側面に当接されるように、複数枚のディスクバルブからなる圧側バルブ46が配設されている。一方、伸側出口油路47cの他端側(出口側)に、圧側弁座部材47の他端側面に当接されるように、ディスクバルブからなる伸側出口チェック弁48が配設されている。
【0027】
円環状の第1流路部材45には、中央部から径方向に向かって放射状に延びる複数の油路45bが形成されている。また、第2流路部材49の小径部49b内には、軸方向に沿って直線状の油路49cが形成されており、大径部49a内には、油路49cと連通され、他端方向かつ外周方向に斜めに延びる油路49dが形成されている。さらに、大径部49aの他端側中央部には、凹陥されるように油路49eが形成されており、この油路49eに連通され、一端側に伸びて大径部49aを貫通する油路49fが形成されている。この油路49fの一端側には、小径部49bの外周面を軸方向に沿って一端側に伸び、第1流路部材45の油路45bが位置する箇所まで、小径部49bの軸方向に延びる溝が形成されている。この溝によって、小径部49bの外周面と圧側バルブ46、圧側弁座部材47、伸側出口チェック弁48の内周面との間に空隙が形成され、この空隙が油路49gを構成している。油路49gは、第1流路部材45に形成された油路45bと連通されている。
【0028】
図4に示すように、弁体収容部材50は円環状に形成されており、他端側がより外径の大きな大径部50aとされ、一端側が大径部50aより外径の小さな小径部50bとされている。また、弁体収容部材50の中央部には、他端側から一端側に向けて階段状に径小となる、大径孔50c、小径孔50d及び中径孔50eからなる貫通孔が形成されている。この貫通孔には弁体52が配設されている。
【0029】
弁体52は、他端側に円板状のフランジ部52aを具備しており、このフランジ部52aの中心部から一端側に延びるニードル部52bを具備している。ニードル部52bの中心には、軸方向に沿ってニードル部52b及びフランジ部52aの内部を貫通する貫通孔からなる連通路52cが形成されている。すなわち、弁体52は、後述するプランジャ室61と弁体52が弁座50fに着座される箇所よりも流体の流れ方向の下流側とが連通される連通路52cを有することになる。また、フランジ部52aには、当該フランジ部52aを貫通する貫通孔からなる油路52dが、周方向に沿って複数形成されている。
【0030】
ニードル部52bの先端部(一端側端部)には大径部52eが形成されており、大径部52eの後端側(他端側)には、大径部52eより小径の第1段差部52fが形成されている。さらに、第1段差部52fの後端側(他端側)には、第1段差部52fより大径で、その後端側(他端側)の摺動部52hより小径の第2段差部52gが形成されている。第2段差部52gの外径はD1とされており、摺動部52hの外径はD2とされている。これらの外径D2と外径D1の差によって、弁体52の少なくとも一部である円環状の受圧部81(特許請求の範囲における第1の受圧部)が形成されている。この受圧部81の受圧面積は、外径D2と外径D1の差(D2−D1)により形成される環状部分の面積となる。
【0031】
また、第1段差部52fの後端側(他端側)の段部が着座部52iとされており、この着座部52iが、弁体収容部材50の中径孔50eの部分に、中径孔50eの内周側に突出するように配設された弁座50fの内周部の弁座部50iに着座することによって中径孔50eからなる油路を閉塞する構成となっている。弁座50fは、油圧によって弁体52の閉弁方向(一端側)に弾性変形可能な弾性体(特許請求の範囲における第1の弾性体)からなり、円環状に形成されている。本実施形態において、弁座50fは、ディスクバルブから構成されており、その外周部が固定され、弁座部50iを含む内周部が油圧によって弁体52の閉弁方向(一端側)に撓むことができるようになっている。弁体52は、摺動部52hが、弁体収容部材50の小径孔50dに対して摺動することにより、軸方向に沿って移動可能となっている。弁体52における弁座部50iに着座する着座部52iの外径D1は、受圧部81の流体圧を受ける受圧面の最大径であるD2よりも小さくなっている。従って、弁体52の着座部52iは、オイルが油室59から中径孔50e内に形成された油室59a及び油路49eへ流れる流路上で、その開閉により減衰力を発生させている。また、弁座50fの固有振動数は、弁体52の固有振動数より高くなっている。これによって、弁体52の自励振動の発生を防止することができる。
【0032】
弁体収容部材50には、小径孔50dの周囲に位置するように、大径孔50cに開口する円環状の溝50gが形成されており、この溝50g内にはコイルスプリング53(特許請求の範囲における第2の弾性体)が配設されている。このコイルスプリング53の他端側は、弁体52のフランジ部52aの一端側の面に当接しており、弁体52を開弁方向(他端側)に付勢している。フランジ部52aの他端側にはソレノイドアクチュエータ60の作動ロッド67が嵌め込まれており、弁体52は、作動ロッド67によって、閉弁方向に付勢されている。
【0033】
なお、弁体52が弁座50fに着座される際には、流路が閉じられ、弁体52が弁座50fに接触している。このため、仮に弁座50fが開弁方向に弾性変形する場合があっても、流路は閉じられた状態が維持されて、流路が封止されている。一方、弁座50fが閉弁方向に弾性変形した場合には、弁体52と弁座50fとは離間されることにより流路が開かれることになる。
【0034】
弁体収容部材50の小径部50bの一端側及び第2流路部材49の大径部49aの他端側を囲むように筒状のスペーサ54が取り付けられている。このスペーサ54によって、小径部50bと大径部49aとの間に間隙を設け、小径部50bと大径部49aとスペーサ54とによって囲まれた油室55が形成されている。この油室55には、一端側から順に、ディスクバルブからなる伸側チェック弁56、円環状の板バネ57、ディスクバルブからなる圧側チェック弁58が、大径部49aと小径部50bとの間に挟持されるように配設されている。そして、板バネ57が、伸側チェック弁56を大径部49a側に付勢するとともに、圧側チェック弁58を小径部50b側に付勢する。
【0035】
弁体収容部材50には、第1油室S3(
図3参照)と油室55とを連通する油路50hが形成されており、圧側チェック弁58は、この油路50hの油室55に対する開口部を覆うように配設されている。そして、油路50hから油室55内へのオイルの流入を許容するとともに、油室55から油路50hへのオイルの流れを遮断する。
【0036】
一方、伸側チェック弁56は、第2流路部材49の大径部49a内に形成された油路49dの油室55に対する開口部を覆うように配設されており、油路49dから油室55内へのオイルの流入を許容するとともに、油室55から油路49dへのオイルの流れを遮断する。
【0037】
さらに、油室55は、弁体収容部材50の中径孔50eに連通しており、この中径孔50eと弁体52との間に油室59が形成されている。
【0038】
弁体52は、ソレノイドアクチュエータ60によって閉弁方向に付勢され、前述した弁体52の受圧部81、すなわち、弁体52の第2段差部52gと摺動部52hとの間の境界部は、通常は、弁体収容部材50の油室59(中径孔50e)の部分に位置している。前述したとおり、第2段差部52gの外径はD1とされており、摺動部52hの外径はD2とされている。したがって、外径D2と外径D1の差(D2−D1)によって形成される環状領域である受圧部81の受圧面積に応じた圧力が弁体52を開弁する方向に加わる。そして、油室59内にオイルが流入して弁体52の受圧面に所定以上の油圧が加わると、ソレノイドアクチュエータ60の押圧力に抗して弁体52が開弁し、オイルが第2流路部材49に形成された油路49e、油路49f等を通って、
図3に示した第2油室S4内に流入する。また、例えば油室59内の油圧が急激に上昇して弁体52の移動が追い付かないような場合は、
図5に示すように、弁座50fの弁座部50iを含む内周部が一端側に撓んで弁体52の着座部52iとの間に間隙を形成し、油路49eへのオイルの流れを発生させる。
【0039】
この場合、油室55、中径孔50eと弁体52との間の油室59等が、特許請求の範囲における、弁座部50iより流体の流れ方向の上流側の第1流路91に相当し、油室59a、油路49e、油路49f等が、特許請求の範囲における、弁座部50iより流体の流れ方向の下流側の第2流路92に相当する。
【0040】
図3に示すように、ソレノイドアクチュエータ60は、コア63と、作動ロッド67と、プランジャ66と、コイル65と、コア64とを備える。
【0041】
ソレノイドアクチュエータ60は、円筒状のケース51の内部に、有底円筒状の2つのコア63,64、環状のコイル65、コア63,64の内部に収容されたプランジャ66、プランジャ66の軸中心部を貫通する中空の作動ロッド67等を収容して構成されている。作動ロッド67は、その軸方向の両端部が円筒状のガイドブッシュ68,69によって軸方向に移動可能に支持されている。そして、弁体収容部材50の大径孔50c内に臨む、作動ロッド67の一端側には、弁体52が結着されている。作動ロッド67の中心部には、軸方向に沿って油路67aが形成されている。また、作動ロッド67のプランジャ66の後端側端部(他端側端部)が位置する部位には、油路67aと、プランジャ66が収容されたプランジャ室61とを連通する油路67bが形成されている。さらに、作動ロッド67の先端側端部(一端側端部)の近傍には、油路67aと弁体収容部材50の大径孔50c内とを連通する油路67cが形成されている。この大径孔50c内に流入したオイルは、弁体52に対して背圧を作用させる。したがって、大径孔50c内が弁体背圧室70となる。すなわち、弁体背圧室70は、第2流路92である油室59a、油路49e、油路49f等とプランジャ室61との間に配置され、それぞれに連通されると共に弁体52に対して閉弁方向に流体圧を作用させている。この場合、実際に背圧を発生させる弁体52における受圧部82(特許請求の範囲における第2の受圧部)は、受圧部81と異なる弁体52の少なくとも一部である。この受圧部82の受圧面積は、前述した受圧部81の受圧面積、すなわち、D2−D1の環状の面積と同じになる。
【0042】
弁座部50iより流体の流れ方向下流側の流路である油路49e内のオイルは、弁体52に形成された連通路52c及び作動ロッド67に形成された油路67a、油路67bを通って、プランジャ室61に流入しており、プランジャ室61内はオイルで満たされている。また、プランジャ室61の他端側には油溜り室71が形成されており、この油溜り室71も連通路52c、油路67aを通って流入したオイルで満たされている。同様に、弁座部50iより流体の流れ方向下流側の流路である油路49e内のオイルは、弁体52に形成された連通路52c及び作動ロッド67に形成された油路67a、油路67cを通って、弁体背圧室70に流入しており、弁体背圧室70内はオイルで満たされている。すなわち、プランジャ室61は、弁体52の着座部52iが弁座50fの弁座部50iに着座される箇所よりも流体の流れ方向の下流側と連通されている。したがって、プランジャ室61、油溜り室71及び弁体背圧室70内の油圧は、油路49e内の油圧と同圧であり、油路49eの油圧は、油路49eと連通する第2油室S4と同圧となっている。したがって、プランジャ室61、油溜り室71及び弁体背圧室70内の油圧は、第2油室S4と同圧となる。
【0043】
第2油室S4には、伸側バルブ44で減衰された後のオイル、及び、圧側バルブ46で減衰された後のオイルが導入される。また、第2油室S4は、リザーバ30と連通されている。このため、第2油室S4は、第1油室S3及び第3油室S5に比べて油圧の変動が少なくかつ低圧となっている。
【0044】
したがって、本実施形態では、プランジャ室61、油溜り室71及び弁体背圧室70内が、より圧力変動が大きく高圧である第1油室S3及び第3油室S5と連通されている場合に比べて、オイルの流れが少なく低圧であるので、プランジャ室61、油溜り室71及び弁体背圧室70内へオイルと共にオイルの中に含まれるバルブ等の摩耗により発生した鉄粉等の汚染物(以下、「コンタミ」と言う。)を押し込む流れが生じにくく、コンタミが入り込む可能性を低くすることができる。これによって、例えば、プランジャ66、作動ロッド67の摺動部等にコンタミが噛み込み、弁体52の駆動に悪影響を与えるような事象が生じる可能性を低減することができる。さらに、プランジャ室61及び弁体背圧室70内に気泡が混入する所謂エア噛みが発生する可能性も低減することができる。
【0045】
[緩衝器の作用]
次に、以上のように構成された緩衝器1の圧側行程と伸側行程の作用を
図6及び
図7を参照して説明する。なお、
図6は、実施形態の緩衝器1の減衰力発生装置40における圧側行程時のオイルの流れを示しており、
図7は、実施形態の緩衝器1の減衰力発生装置40における伸側行程時のオイルの流れを示している。
【0046】
(圧側行程)
自動二輪車の走行中に後輪が路面凹凸に追従して上下動すると、後輪を懸架する緩衝器1のシリンダ2とピストンロッド3が伸縮動する。ピストンロッド3がシリンダ2に対して相対的に上動する圧側行程においては、ピストン側油室S1内のオイルがピストン11によって圧縮されてその圧力が高くなる。すると、このピストン側油室S1内のオイルは、
図1に示す油孔19から
図6に示す減衰力発生装置40の第1油室S3へ供給される。
【0047】
減衰力発生装置40の第1油室S3へ供給されたオイルは、圧側行程時には、第2油室S4に流れ込み、一部のオイルはリザーバ油室S6へ、残りのオイルが第3油室S5へ流れ込む。具体的には、
図6に鎖線矢印で示すように、第1油室S3へ供給されたオイルの一部は、第1油室S3から圧側弁座部材47の圧側入口油路47bを通過して、複数のディスクバルブからなる圧側バルブ46を押し開いて第2油室S4へ流れ込む。一方、第1油室S3へ供給された残りのオイルは、弁体52と弁座50fとの隙間等を介して第2油室S4へ流れ込む。このとき、圧側バルブ46を通過したオイルは、第1油室S3から弁体52と弁座50fとの隙間等を介して流れてきたオイルと合流して第2油室S4へ流れ込む。これらの第2油室S4へ流れ込んだオイルは、そのうちの一部であるピストンロッド3のシリンダ2内への進入体積分のオイルがリザーバ油室S6に流れ、残りのオイルが伸側弁座部材43の圧側出口油路43cを通過し、圧側出口油路43cの出口部分に配設された圧側出口チェック弁42を押し開いて第3油室S5へ流れ込む。第3油室S5に流れ込んだオイルは、第3油室S5から
図1に示す流路23、シリンダ2の外筒2bに形成された油孔22、内筒2aと外筒2bとの間の流路20及び内筒2aに形成された油孔21を経てロッド側油室S2へ流れ込む。このとき、オイルが圧側バルブ46を通過する際の流動抵抗によって、緩衝器1には圧側減衰力が発生する。
【0048】
図6に一点鎖線矢印で示すように、第1油室S3へ供給されたオイルの一部は、弁体収容部材50に形成された油路50hを通り、油路50hの出口部分に配設された圧側チェック弁58(
図4参照)を押し開いて油室55内に流入する。油室55内に流入したオイルは、さらに弁体収容部材50の中径孔50e内の油室59に流入し、ソレノイドアクチュエータ60によって閉弁方向に押圧された弁体52を開き、第2流路部材49に形成された油路49e、油路49f及び油路49gを通り、さらに、第1流路部材45に形成された油路45bを通って第2油室S4に流れ込み、圧側バルブ46を通過したオイルと合流する。
【0049】
上記のオイルの流れにおいて、弁体52をソレノイドアクチュエータ60による一端側へ働く閉弁方向の力及びコイルスプリング53の他端側へ働く開弁方向の力とのバランスの中で押し開く。この際、ソレノイドアクチュエータ60に供給される電流を変化させ、ソレノイドアクチュエータ60に発生する推力を調整し、弁体52の弁座部50iへの閉弁方向の力を制御することによって弁体52の開度(弁体52の開弁圧)を変化させることができる。このようにソレノイドアクチュエータ60への供給電流を変化させて弁体52の開度を調整することによって、弁体52の着座部52iと弁座部50iとの隙間を通過するオイルの流動抵抗を調整する。これにより、オイルが弁体52と弁座部50iとの隙間を通過する際に生じる減衰力の大きさを調整することができる。
【0050】
具体的には、ソレノイドアクチュエータ60への供給電流が小さい場合には、ソレノイドアクチュエータ60の推力による弁体52の弁座部50iへの押圧力が小さく、弁体52の開弁圧も小さくなる。このため、弁体52の開度が大きくなって該弁体52を流れるオイルの流動抵抗が小さくなり、この流動抵抗によって発生する圧側減衰力も小さくなる。
【0051】
逆に、ソレノイドアクチュエータ60への供給電流が大きい場合には、ソレノイドアクチュエータ60の推力による弁体52の弁座部50iへの押圧力が大きく、弁体52の開弁圧も大きくなる。このため、弁体52の開度が小さくなり、該弁体52を流れるオイルが絞られてその流動抵抗が大きくなり、この流動抵抗によって発生する圧側減衰力も大きくなる。
【0052】
また、減衰力発生装置40では、弁体52が着座する弁座50fが、油圧で弁体52の閉弁方向(一端側)に弾性変形可能な弾性体から形成されている。これによって、例えば、閉弁状態から急激に油圧が上昇したような場合、弁座50fの弁座部50iを含む内周部が油圧によって撓みオイルの流れを許容する。したがって、プランジャ66に作用する慣性等によって弁体52の応答遅れが生じた場合であっても、オイルの流れを発生させることにより、減衰力がオーバーシュートしたり、弁体52の自励振動によって弁開度が変動し、減衰力が発振して不安定となる等の事象が発生することを抑制することができる。
【0053】
圧側行程においては、ピストンロッド3のシリンダ2の内筒2a内への進入体積分の量のオイルは、
図6に鎖線矢印にて示すように、第2油室S4から連通路26bを通ってリザーバ30のリザーバ油室S6(
図1参照)へ供給される。そのため、リザーバ30のブラダ32が収縮して内部のガスが圧縮される。このガスの圧縮によって、ピストンロッド3のシリンダ2の内筒2a内への進入に伴う内筒2a内の容積変化が補償される。
【0054】
(伸側行程)
次に、緩衝器1の伸長行程時の作用を、
図7を参照して説明する。
【0055】
ピストンロッド3がシリンダ2に対して相対的に下動する伸側行程においては、ピストン11がピストンロッド3とともにシリンダ2の内筒2a内を下動する。そのため、ロッド側油室S2内のオイルがピストン11によって圧縮されてその圧力が高くなる。すると、このロッド側油室S2内のオイルは、
図1に示す内筒2aに形成された油孔21、内筒2aと外筒2bとの間の流路20、外筒2bに形成された油孔22及び流路23を経て、
図7に示す減衰力発生装置40の第3油室S5へ供給される。
【0056】
減衰力発生装置40の第3油室S5へ供給されたオイルは、伸側行程時には、第2油室S4へ流れ込み、リザーバ油室S6から流れてきたオイルと合流して、第1油室S3へ流れ込む。具体的には、
図7に鎖線矢印にて示すように、第3油室S5へ供給されたオイルの一部は、第3油室S5から伸側弁座部材43の伸側入口油路43bを通り、伸側入口油路43bの出口部分に設けられた伸側バルブ44を押し開いて第2油室S4へ流入する。一方、第3油室S5へ供給された残りのオイルは、弁体52と弁座50fとの隙間等を介して第2油室S4へ流れ込む。このとき、伸側バルブ44及び弁体52と弁座50fとの隙間等を通過したオイルは、リザーバ油室S6から流れてきたピストンロッド3のシリンダ2内からの退出体積分のオイルと合流して第2油室S4へ流れ込む。これらの第2油室S4へ流入したオイルは、圧側弁座部材47の伸側出口油路47cを通り、伸側出口油路47cの出口部分に設けられた伸側出口チェック弁48を押し開いて第1油室S3へ流入する。そして、第1油室S3へ流れ込んだオイルは、第1油室S3から
図1に示す油孔19を通ってピストン側油室S1に流れ込む。このとき、オイルが伸側バルブ44を通過する際の流動抵抗によって、緩衝器1には伸側減衰力が発生する。
【0057】
図7に一点鎖線矢印で示すように、第3油室S5へ供給されたオイルの一部は、第2流路部材49の油路49c、油路49dを通り、油路49dの出口部分に配設された伸側チェック弁56(
図4参照)を押し開いて油室55内に流入する。油室55内に流入したオイルは、さらに弁体収容部材50に形成された中径孔50e内の油室59に流入し、ソレノイドアクチュエータ60によって閉弁方向に押圧された弁体52を開き、第2流路部材49に形成された油路49e、油路49f及び油路49gを通り、さらに、第1流路部材45に形成された油路45bを通って第2油室S4に流れ込み、伸側バルブ44を通過したオイルと合流する。
【0058】
上記のオイルの流れにおいて、弁体52をソレノイドアクチュエータ60による一端側へ働く閉弁方向の力及びコイルスプリング53の他端側へ働く開弁方向の力とのバランスの中で押し開く。この際、ソレノイドアクチュエータ60に供給される電流を変化させ、ソレノイドアクチュエータ60に発生する推力を調整し、弁体52の弁座部50iへの閉弁方向の力を制御することによって弁体52の開度(弁体52の開弁圧)を変化させることができる。このようにソレノイドアクチュエータ60への供給電流を変化させて弁体52の開度を調整することによって、弁体52の着座部52iと弁座部50iとの隙間を通過するオイルの流動抵抗を調整する。これにより、オイルが弁体52と弁座部50iとの隙間を通過する際に生じる減衰力の大きさを調整することができる。
【0059】
具体的には、ソレノイドアクチュエータ60への供給電流が小さい場合には、ソレノイドアクチュエータ60の推力による弁体52の弁座部50iへの押圧力が小さく、弁体52の開弁圧も小さくなる。このため、弁体52の開度が大きくなって該弁体52を流れるオイルの流動抵抗が小さくなり、この流動抵抗によって発生する伸側減衰力も小さくなる。
【0060】
逆に、ソレノイドアクチュエータ60への供給電流が大きい場合には、ソレノイドアクチュエータ60の推力による弁体52の弁座部50iへの押圧力が大きく、弁体52の開弁圧も大きくなる。このため、弁体52の開度が小さくなり、該弁体52を流れるオイルが絞られてその流動抵抗が大きくなり、この流動抵抗によって発生する伸側減衰力も大きくなる。
【0061】
減衰力発生装置40では、弁体52が着座する弁座50fが、油圧で弁体52の閉弁方向(一端側)に弾性変形可能な弾性体から形成されている。これによって、この伸側行程においても、例えば、閉弁状態から急激に油圧が上昇したような場合、弁座50fの弁座部50iを含む内周部が油圧によって撓みオイルの流れを許容する。したがって、プランジャ66に作用する慣性等によって、弁体52の応答遅れが生じた場合であっても、オイルの流れを発生させることにより、減衰力がオーバーシュートしたり、弁体52の自励振動によって弁開度が変動し、減衰力が発振して不安定となる等の事象が発生することを抑制することができる。
【0062】
伸側行程においては、ピストンロッド3のシリンダ2の内筒2a内からの退出体積分の量のオイルは、
図7に鎖線矢印で示すように、リザーバ30のリザーバ油室S6(
図1参照)から連通路26bを通って第2油室S4へ流れ込み、伸側バルブ44を通過したオイルと合流する。メイン流路を流れるオイルと合流したオイルは、第2油室S4から、圧側弁座部材47の伸側出口油路47cを通り、伸側出口油路47cの出口部分に設けられた伸側出口チェック弁48を押し開いて第1油室S3へ流入する。そして、第1油室S3へ流れ込んだオイルは、第1油室S3から
図1に示す油孔19を通ってピストン側油室S1に流れ込む。そのため、リザーバ30のブラダ32が膨張して内部のガスが膨張し、このガスの膨張によってピストンロッド3のシリンダ2の内筒2a内からの退出に伴う内筒2a内の容積変化が補償される。
【0063】
(フェイル時)
ソレノイドアクチュエータ60が正常に動作しないフェイル時には、弁体52を開弁方向に付勢するコイルスプリング53に抗して、弁体52を閉弁方向(一端側)に移動させる推力(電磁力)が発生しない。このため、弁体52は、コイルスプリング53の付勢力によって開弁方向(他端側)に移動する。ここで、緩衝器がフェイルセーフ機能を有しない場合、弁体52が全開状態となって、弁体52を通過するオイルの流動抵抗が低下するために圧側及び伸側減衰力が急減して自動二輪車の操縦安定性が害されることになる。
【0064】
実施形態の緩衝器1では、弁体52が最も開弁方向に移動した状態(コイルスプリング53が弁体背圧室70、大径孔50c、溝50gの空間内部で最も伸長した状態)では、弁体52のニードル部52bの先端部(一端側端部)に形成された大径部52eが弁体収容部材50の弁座50fに近接した位置に停止した状態となる。この状態では、弁座50fにおける弁座部50iとは異なる部位と大径部52eとの間に流路が狭窄される僅かな間隙が形成され、この間隙がオイルの流れを許容する。そして、この間隙をオイルが流れる際の流路抵抗により、減衰力が発生し、フェイルセーフ機能が発揮される。すなわち、弁体52を通過するオイルの急増による減衰力の急低下が防がれ、自動二輪車の操縦安定性の低下が防がれる。
【0065】
なお、フェイル時には、弁体52の大径部52eと、弁座50fの一端側との間に形成された間隙によって発生する流路抵抗により、減衰力が発生し、間隙を境にしてその上流側が高圧になり、下流側が低圧となる。したがって、この場合、通常時とは異なり、弁体52の大径部52eと、弁座50fの一端側との間の間隙より上流側が、第1流路91となり、下流側が第2流路92となる。
【0066】
上記のように、実施形態の緩衝器1では、上流側である油室59等の第1流路91の流体圧は、下流側である油室59a、油路49e、油路49f等の第2流路92の流体圧よりも相対的に高圧になる。このため、第2流路92と連通されている弁体背圧室70の流体圧は、第2流路92の流体圧と同圧であることより、第1流路91の流体圧は、弁体背圧室70の流体圧よりも相対的に高圧となる。ここで、弁体52の少なくとも一部である受圧部81、第1流路91の流体圧により開弁方向に受圧され、受圧部81と異なる弁体52の少なくとも一部である受圧部82が、第2流路92の流体圧により閉弁方向に受圧され、受圧部81の受圧面積と受圧部82の受圧面積とが同じであることより、弁体52は、受圧部81における第1流路91の流体圧から受圧部82における第2流路92の流体圧を差し引いた差分の圧力に応じた荷重で開弁方向に押圧される。また弁体52は、ソレノイドアクチュエータ60により閉弁方向の推力を受けている。さらに弁体52は、コイルスプリング53により開弁方向の弾性力を受けている。即ち、弁体52は、受圧部81における第1流路91の流体圧から受圧部82における第2流路92の流体圧を差し引いた差分の圧力に応じた開弁方向の荷重と、閉弁方向のソレノイドアクチュエータ60の推力と、開弁方向のコイルスプリング53の弾性力とのバランスにより、弁座部50iから開閉されることになる。
【0067】
ここで、閉弁方向のソレノイドアクチュエータ60の推力が、受圧部81における第1流路91の流体圧から受圧部82における第2流路92の流体圧を差し引いた差分に応じた開弁方向の荷重及び開弁方向のコイルスプリング53の弾性力よりも大きい場合で、第1流路91の流体圧から第2流路92の流体圧を差し引いた差分の圧力に応じた荷重による弁座50fの弾性変形が小さい場合は、弁体52は弁座50fの弾性変形に追従する。このため、弁体52と弁座部50iとは封止されたまま維持され、第1流路91から第2流路92へ流体が流れることはない。
【0068】
一方で、閉弁方向のソレノイドアクチュエータ60の推力が、受圧部81における第1流路91の流体圧から受圧部82における第2流路92の流体圧を差し引いた差分に応じた開弁方向の荷重及び開弁方向のコイルスプリング53の弾性力よりも大きい場合で、第1流路91の流体圧から第2流路92の流体圧を差し引いた差分に応じた荷重による弁座50fの弾性変形が大きい場合には、弁体52は弁座50fの弾性変形に追従することなく離間する。このため、弁体52と弁座部50iとの間に隙間が生じ、第1流路91から第2流路92へ流体が流れる。
【0069】
さらに、閉弁方向のソレノイドアクチュエータ60の推力が、受圧部81における第1流路91の流体圧から受圧部82における第2流路92の流体圧を差し引いた差分に応じた開弁方向の荷重及び開弁方向のコイルスプリング53の弾性力よりも小さい場合には、弁体52が移動して弁座部50iから離間する。このため、弁体52と弁座部50iとの間に隙間が生じ、第1流路91から第2流路92へ流体が流れる。このとき、プランジャ66の慣性力等でソレノイドアクチュエータ60の推力が適切に弁体52に伝達されず、弁体52に応答遅れが生じ、弁体52が弁座部50iから適切に開かなかったとしても、弁座50fが閉弁方向に弾性変形されることにより、弁体52と弁座50fとの間に隙間が生じ、第1流路91から第2流路92へ流体が流れることができる。
【0070】
このように本実施形態の緩衝器1では、プランジャ66に作用する慣性等によって、弁体52の応答遅れが生じた場合であっても、弁座50fが弾性変形されることにより、第1流路91から第2流路92へ流体が流れを生じさせることができるので、減衰力がオーバーシュートしたり、弁体52の自励振動によって弁開度が変動し、減衰力が発振して不安定となる等の事象が発生することを抑制することができる。
【0071】
また、本実施形態の緩衝器1では、弁座50fの固有振動数は、弁体52の固有振動数より高くなっている。これによって、弁体52の自励振動の発生を防止することができる。
【0072】
また、本実施形態の緩衝器1では、プランジャ室61、油溜り室71及び弁体背圧室70内へオイルと共にコンタミが入り込む可能性を低くすることができ、例えば、プランジャ66、作動ロッド67の摺動部等にコンタミが噛み込み、弁体52の駆動に悪影響を与えるような事象が生じる可能性を低減することができる。さらに、プランジャ室61、油溜り室71及び弁体背圧室70内に気泡が混入する所謂エア噛みが発生する可能性も低減することができる。
【0073】
また、本実施形態の緩衝器1では、減衰力発生装置40が、圧側行程における減衰力を発生させる圧側バルブ46と伸側行程における減衰力を発生させる伸側バルブ44を備えている。すなわち、弁体52の着座部52iと弁座50fの弁座部50iによる減衰力可変装置を備えた減衰力の発生する構造に加えて、別途設けられた減衰力の発生する構造を有することになり、減衰力の調整幅が広がることになる。
【0074】
また、本実施形態の緩衝器1では、圧側行程時の減衰発生箇所を流れるオイルの下流側流路であると共に、伸側程時の減衰発生箇所を流れるオイルの下流側流路である第2油室S4を、リザーバ30に連通した構成となっている。従って、高圧油室(圧側行程時の上流側のピストン側油室S1/伸側行程時の上流側のロッド側油室S2)のオイルは、圧側行程では、圧側バルブ46及び弁体52と弁座50fとの隙間だけを通過し、伸側行程では、伸側バルブ44及び弁体52と弁座50fとの隙間だけを通過する。すなわち、圧側行程と伸側行程の両行程で、高圧油室のオイルは、必ずそれぞれの行程での各減衰発生箇所だけを通過し、該減衰発生箇所の上流側で他に分岐することがないから、これらの減衰発生箇所だけの設定により簡易かつ安定的に所望の減衰力を得ることができる。
【0075】
また、圧側行程と伸側行程の両行程で、圧側行程時の減衰発生箇所の下流側のロッド側油室S2と伸側行程時の減衰発生箇所の下流側のピストン側油室S1は絞りを介さずにリザーバ油室S6に連通しており、それらの下流側室の圧力はリザーバ油室S6の圧力(ガス室の封入圧)と同圧に維持される。従って、伸側行程から圧側行程への反転応答性/圧側行程から伸側行程への反転応答性(オイル弾性や気泡による圧側減衰力/伸側減衰力の発生の遅れ)は、ガス室の封入圧のみにより決定され、安定する。
【0076】
また、本実施形態の緩衝器1では、弁体52を開弁方向に付勢するコイルスプリング53を備えている。これにより、例えば、ソレノイドアクチュエータ60が故障した際には、コイルスプリング53による付勢力により、弁体52を弁座50fから確実に開弁方向に移動させることができる。そして、弁体52が弁座部50iから開弁方向に最も移動した時、弁体52の少なくとも一部(大径部52e)と弁座50fにおける弁座部50iと異なる箇所との間に流路が狭窄される間隙が生じ、該間隙に流体が流れることにより減衰力が発生する。すなわち、例えば、ソレノイドアクチュエータ60が故障した際に弁体52に対する閉弁方向の推力がなくなった場合等で、弁体52が弁座部50iから開弁方向に最も移動した場合であっても、弁体52の少なくとも一部と弁座50fとの間に間隙が生じることにより、弁座部50iだけでなく弁体52と弁座50fとの間で流路が絞られる箇所が生じるため、この間隙により確実に減衰力を発生させることができる。
【0077】
また本実施形態では、パイロット構造を持たず、ディスクバルブによる伸側バルブ44及び圧側バルブ46と並列に配設した弁を持つことで、追加的な減衰力可変を行う構造の場合について説明したが、パイロット弁に同様な構造を適用可能なのは勿論である。例えば、1つのメインバルブと、この1つのメインバルブにその閉弁方向の内圧を作用させる1つのパイロット室と、このパイロット室の内圧を調整する減衰力調整部とを備えた減衰力発生機構を具備する緩衝器においても、この減衰力調整部に本発明の弁体52及び弁座50f等を適用してもよいのは勿論である。
【0078】
また本実施形態では、シリンダ2の外部に減衰力発生装置40を設けて成る自動二輪車のリアクッションとして使用される緩衝器1に対して適用した一例を示したが、本発明は、シリンダ2の内部のピストン11に減衰力発生装置40をコンパクトに組み込んで成るリアクッションとして使用される緩衝器に対しても同様に適用可能である。このように減衰力発生装置40をピストン11の内部に設けることによって、減衰力発生装置40が緩衝器1の外部に突出することなくコンパクトな構成とすることができる。
【0079】
また本実施形態では、車体側にシリンダを取り付け、車軸側にピストンロッドを取り付けて成る倒立型の緩衝器に対して本発明を適用した一例を示した。さらに、本発明は、車体側にピストンロッドを取り付け、車軸側にシリンダを取り付けて成る正立型の緩衝器に対しても同様に適用可能なのは勿論である。
【0080】
また本発明は、シリンダ又はインナチューブ若しくはアウタチューブの外部に減衰力発生装置を設けて成る自動二輪車のフロントフォークとして使用される緩衝器、或いは、シリンダ又はインナチューブ若しくはアウタチューブの内部のピストンに減衰力発生装置をコンパクトに組み込んで成るフロントフォークとして使用される緩衝器に対しても同様に適用して上記と同様の効果を得ることができるのは勿論である。なお、特許請求の範囲における、シリンダ及びシリンダ内に摺動可能に嵌装されたピストンには、インナチューブに直接ピストンが摺動する構造の場合においても同様に適用できるのは勿論である。
【0081】
本実施形態では、自動二輪車の後輪を車体に対して懸架するリアクッションとして使用される緩衝器に対して本発明を適用した一例を示した。さらに、本発明は、自動二輪車以外の他の任意の車両の車輪を懸架する緩衝器に対しても同様に適用できるのは勿論である。
【0082】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。