(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
平板状のセラミックス焼結体からなる一対の基体がガラス系材料からなる中間層により接合されることにより構成されている基体と、前記中間層に埋設されている独立した複数の電極と、を備え、
前記中間層における気孔率が3〜10[%]の範囲に含まれていることを特徴とする静電チャック。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、セラミックス焼結体およびガラス中間層の間の熱膨張係数の差のために接合時に応力が発生し、この応力が残留することによって薄型の静電チャックの平面度が悪化する可能性がある。
【0006】
そこで、本発明は、薄型化および平面度向上を図りうる静電チャックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の静電チャックは、平板状のセラミックス焼結体からなる、一対の基体がガラス系材料からなる中間層により接合されることにより構成されている基体と、前記中間層に埋設されている独立した複数の電極と、を備え、前記中間層における気孔率が3〜10[%]の範囲に含まれていることを特徴とする。
【0008】
本発明の静電チャックによれば、ガラス粘度が高いガラス軟化点付近で加熱することにより軟化時に発生するガスをガラス材料中に留めることで、中間層に前記のように制御された気孔を内在させ、一対の基体のそれぞれ(セラミックス焼結体)と、中間層(ガラス系材料)との熱膨張係数の差に由来する残留応力の低減が図られる。このため、静電チャックの薄型化(たとえば1〜2[mm]以下)を図りながらも、静電チャック、ひいてはそのウエハ設置面の平面度の向上が図られる。
【0009】
前記中間層において前記複数の電極の間隙に存在する部分または前記複数の電極と前記基体の外縁との間に存在する部分における気孔率は、電極が中間層の下側に配置された状態で加熱接合されることにより気泡が電極面とは反対面に存在するように制御し、5[%]以下の範囲に含まれていることが好ましい。
【0010】
当該構成の静電チャックによれば、複数の電極の間隙、または、電極および基体の外縁部分の間隙に存在する気孔の過多が回避されている。このため、複数の電極間、または、電極と基体の外縁部分との間の絶縁性が破壊される事態が確実に回避される。
【0011】
本発明の静電チャックの製造方法は、平板状の一対のセラミック焼結体を作製する工程と、一方のセラミックス焼結体の接合面に、相互に独立している複数の電極を配置する工程と、ガラス系材料を含むシートまたは粉末成形体を挟むように前記一対のセラミックス焼結体が接合面を対向させて重ねられた状態で、当該重ね方向に5〜20[g/cm
2]で加圧しながら前記ガラス系材料の軟化点+20〜軟化点+170[℃]の温度で加熱する工程と、を含んでいることを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(構成)
図1〜
図3に示されている本発明の一実施形態としての静電チャックは、略円板形状の基体1と、基体1に埋設されている相互に独立した平板状の複数の電極2と、各電極2に対して電圧を印可するための複数の接続端子20と、を備えている。本実施形態では、基体1の中心を基準として配置されている8つの略扇形状の導電体のうち、周方向に数えて奇数番目に該当する相互に電気的に接続されている4つの導電体からなる一の導電体群と、周方向に数えて偶数番目に該当する相互に電気的に接続されている4つの導電体からなる他の導電体群とにより、一対の電極2が構成されている。
【0014】
基体1は円板状のほか、三角形板状、矩形板状または楕円板状などのさまざまな形状であってもよい。
【0015】
基体1は、セラミックス焼結体からなる第1基体11および第2基体12が、ガラス系材料からなる中間層14により接合されることにより構成されている。セラミックス焼結体としては、Al
2O
3のほか、AlNなどが採用される。第1基体11および第2基体12は異なるセラミックスからなってもよいが、熱膨張係数の差による応力の低下を図るため、同一種類(かつ同一組成)のセラミックスからなることが好ましい。中間層14を構成するガラス系材料としては、石英、ソーダ石灰ガラス、硼珪酸ガラスなどが採用される。第1基体11および第2基体12の接合時の加熱による残留応力の低下を図る観点から、ソーダ石灰ガラス、硼珪酸ガラスのような低融点ガラスが用いられることが好ましい。
【0016】
ジョンソン−ラーベック力またはクーロン力によりウエハWを設置面111に設置保持する観点および基体1の全体的な機械的強度の確保の観点から、第1基体11が第2基体12よりも薄く形成されること(第2基体12が第1基体11よりも厚く形成されること)が好ましい。
【0017】
第1基体11の上端面111(一方の主面)がウエハWの設置面を構成する。複数の平板状の電極2が第1基体11の下端面112(他方の主面)に設けられている。接続端子20は、各電極第2基体12の下端面122まで連続している。
【0018】
中間層14の厚み方向について第1基体11の下端面112から各電極2の端面22に至るまでの第1中間層141における気孔率が5[%]以下の範囲に含まれている。第1中間層141が、複数の電極2の間隙および電極2と基体1の外縁との間隙に存在する中間層14の部分に該当する。中間層14の厚み方向について各電極2の端面22から第2基体12の上端面121(一方の主面)に至るまでの第2中間層142における気孔率が3〜10[%]の範囲に含まれている。すなわち、中間層14における気孔率が3〜10[%]の範囲に含まれている。
【0019】
なお、中間層14が第1中間層141のみからなっていてもよい。すなわち、中間層14の厚さが各電極2の厚さと同一であってもよい。
【0020】
(作製方法)
セラミックス粉末にバインダおよび水またはアルコール水溶液が添加されたうえで混錬されることでスラリーが作製される。当該スラリーが型に流し込まれ、乾燥されることで略円板状の一対のセラミックス成形体が作製される。セラミックス成型体は顆粒化したセラミックス粉末をプレス等の圧力により固めることで製作されても構わない。各セラミックス成形体は、脱脂によりバインダが除去された後、焼成されることにより、第1基体11および第2基体12のそれぞれを構成する第1セラミックス焼結体および第2セラミックス焼結体が作製される。セラミックス粉末として、平均粒径が1〜10[μm]の範囲に含まれ、かつ、純度が99.5[%]以上、より好ましくは99.9[%]以上のセラミックス粉末が用いられる。
【0021】
第1セラミックス焼結体の接合面に、相互に独立している複数の電極が印刷により形成される。バルク金属(金属箔)が電極2として第1セラミックス焼結体の接合面に配置されてもよい。第2セラミックス焼結体の接合面にガラス系材料を含むシートまたは粉末成形体が貼付けられる。貼付けは、例えばセラミックス焼結体表面に塗布された糊材等により固定されることで行われる。
【0022】
必要に応じてシートに含まれているバインダが脱脂により除去された後、第1セラミックス焼結体および第2セラミックス焼結体が接合面を対向させて重ねられる。そして、第1セラミック焼結体および第2セラミックス焼結体が、これらの重ね方向に5〜20[g/cm
2]で加圧されながらガラス系材料の軟化点+20[℃]〜軟化点+170[℃]の温度で加熱される。接合のための加熱時間は、2〜5[hr]の範囲に含まれるように調節されることが好ましい。軟化したガラス系粉末が冷却されることによって第1セラミックス焼結体(第1基体11)および第2セラミックス焼結体(第2基体12)を接合する中間層14が構成される。
【0023】
加圧・加熱工程に際して、第1セラミックス焼結体が第2セラミックス焼結体の下側に配置されてもよい。加圧・加熱工程において、第1セラミックス焼結体よりも第2セラミックス焼結体が高温になるように加熱されてもよい。たとえば、第1セラミックス焼結体に当接させる押圧部材の温度が、第2セラミックス焼結体に当接させる押圧部材の温度よりも高くなるように制御されることにより、温度差が実現される。
【0024】
ガラス層(中間層14)により接合された第1セラミックス焼結体および第2セラミックス焼結体が機械加工されることにより、厚さおよび表面粗さが調節される。設置面111の表面粗さRaは0.01〜1.0[μm]の範囲に含まれるように調節される。第2セラミックス焼結体(第2基体12)の他方の主面から中間層14を経て電極2まで連通する穴が穿設され、この穴に接続端子20が設けられる。これにより、本発明の一実施形態としての静電チャックが作製される。
【0025】
(実施例)
(実施例1)
平均粒径5[μm]、純度99.5%以上のアルミナ粉末を原料粉末として、φ300[mm]、厚さ1[mm]の略円板状の第1セラミックス焼結体および第2セラミックス焼結体が作製された。第1セラミックス焼結体の他方の主面にAgペーストが印刷され、
図1に示されているような配置パターンを有する、厚さ10[μm]の一対の電極2が形成された。一対の電極2の最小間隔および電極2と基体1の外縁までの最小間隔がともに3[mm]に設計された。日本琺瑯釉薬(株)製PCS−F(組成:SiO2−Al2O3−B2O3−RO(Rはアルカリ成分)−CaO、ガラス軟化点:680[℃])を含む厚さ100[μm]のシートまたは粉末成形体がガラス系材料として用いられた。
【0026】
ガラス系材料を含むシートを挟むように重ねられた第1セラミックス焼結体および第2セラミックス焼結体が、第1セラミックス焼結体が接合炉内の下側になるように設置されて、その重なり方向について5[g/cm
2]で加圧された状態で、3[hr]にわたって700[℃](ガラス軟化点+20[℃])で加熱された。これにより、厚さ0.07[mm]の中間層14が形成された。その後、第1基体11の厚さが0.30[mm]になり、第2基体12の厚さが0.63[mm]になるように第1基体11および第2基体12が加工されることにより、厚さ1.00[mm]の基体1を有する実施例1の静電チャックが作製された。
【0027】
(実施例2)
第1セラミックス焼結体および第2セラミックス焼結体が、その重なり方向について20[g/cm
2]で加圧された状態で、3[hr]にわたって700[℃]で加熱されたほかは、実施例1と同様の条件にしたがって実施例2の静電チャックが作製された。
【0028】
(実施例3)
第1セラミックス焼結体および第2セラミックス焼結体が、その重なり方向について5[g/cm
2]で加圧された状態で、3[hr]にわたって800[℃](ガラス軟化点+120[℃])で加熱されたほかは、実施例1と同様の条件にしたがって実施例3の静電チャックが作製された。
【0029】
(実施例4)
第1セラミックス焼結体および第2セラミックス焼結体が、その重なり方向について10[g/cm
2]で加圧された状態で、3[hr]にわたって800[℃]で加熱されたほかは、実施例1と同様の条件にしたがって実施例4の静電チャックが作製された。
【0030】
(実施例5)
第1セラミックス焼結体および第2セラミックス焼結体が、その重なり方向について5[g/cm
2]で加圧された状態で、3[hr]にわたって850[℃](ガラス軟化点+170[℃])で加熱され、第1基体11の厚さが0.20[mm]になり、第2基体12の厚さが0.63[mm]になるように第1基体11および第2基体12が加工されることにより、厚さ0.90[mm]の基体1に加工されるほかは、実施例1と同様の条件にしたがって実施例5の静電チャックが作製された。
【0031】
(実施例6)
第1セラミックス焼結体および第2セラミックス焼結体が、その重なり方向について20[g/cm
2]で加圧された状態で、3[hr]にわたって850[℃]で加熱されたほかは、実施例5と同様の条件にしたがって実施例6の静電チャックが作製された。
【0032】
(実施例7)
ガラス系材料が日本琺瑯釉薬(株)製4692(組成:SiO2−B2O3−R2O−RO(Rはアルカリ成分)、ガラス軟化点:630[℃])となり、第1セラミックス焼結体および第2セラミックス焼結体が、その重なり方向について5[g/cm
2]で加圧された状態で、3[hr]にわたって650[℃](ガラス軟化点+20[℃])で加熱されたほかは、実施例1と同様の条件にしたがって実施例7の静電チャックが作製された。
【0033】
(実施例8)
第1セラミックス焼結体および第2セラミックス焼結体が、その重なり方向について20[g/cm
2]で加圧された状態で、3[hr]にわたって750[℃](ガラス軟化点+120[℃])で加熱されたほかは、実施例7と同様の条件にしたがって実施例8の静電チャックが作製された。
【0034】
(評価方法)
各実施例の静電チャックを作製する際、基体の接合時に用いられたガラス系材料、圧力および温度、ならびに、静電チャックを構成する基体1、第1基体11および第2基体12のそれぞれの厚さが表1にまとめて示されている。各実施例の静電チャックの中間層14、第1中間層141および第2中間層142のそれぞれにおける気孔率、設置面111の反り量(平面度)、ならびに、基体1の絶縁耐力の測定結果が表1にまとめて示されている。
【0035】
設置面111に対して垂直な基体1の複数(たとえば5つ)の断面のそれぞれを観察し、当該断面において設置面111に対して平行な方向について第1中間層141および第2中間層142のそれぞれの延在長に対する、気孔の長さの比率を算出し平均化することで第1中間層141および第2中間層142のそれぞれにおける気孔率として測定された。第1中間層141における気孔率および第2中間層142における気孔率の平均値が中間層14における気孔率として測定された。設置面111の反り量は、三次元測定器により測定された。基体1の絶縁耐力は、電極間に高電圧を印加することによって測定された。
【0037】
表1から次のことがわかる。実施例1〜8の静電チャックによれば、接合温度がガラス軟化点+20〜ガラス軟化点+170[℃]の範囲に含まれ、かつ、接合圧力が5〜20[g/cm
2]の範囲に含まれることにより、中間層14における気孔率が3〜10[%]の範囲に含まれている。このため、基体1またはその設置面111の反り量が0.33[mm]以下である。
【0038】
実施例1および3〜8の静電チャックによれば、接合温度がガラス軟化点+20〜ガラス軟化点+170[℃]の範囲に含まれ、かつ、接合圧力が5〜20[g/cm
2]の範囲に含まれることにより、第1中間層141における気孔率が5[%]以下の範囲に含まれている。このため、基体1の絶縁耐力が8[kV]以上である。特に、実施例3〜6、および8の静電チャックによれば、接合温度がガラス軟化点+120〜ガラス軟化点+170[℃]の範囲に含まれ、かつ、接合圧力が5〜20[g/cm
2]の範囲に含まれることにより、第1中間層141における気孔率が4.5[%]以下の範囲に含まれている。このため、基体1の絶縁耐力が10[kV]以上とさらに高くなっている。
【0039】
(比較例)
(比較例1)
第1セラミックス焼結体および第2セラミックス焼結体が、その重なり方向について20[g/cm
2]で加圧された状態で、3[hr]にわたって680[℃]で加熱されたほかは、実施例1と同様の条件にしたがって比較例1の静電チャックが作製された。
【0040】
(比較例2)
第1セラミックス焼結体および第2セラミックス焼結体が、その重なり方向につい100[g/cm
2]で加圧された状態で、3[hr]にわたって850[℃]で加熱されたほかは、実施例1と同様の条件にしたがって比較例2の静電チャックが作製された。
【0041】
(比較例3)
第1セラミックス焼結体および第2セラミックス焼結体が、その重なり方向について20[g/cm
2]で加圧された状態で、3[hr]にわたって900[℃]で加熱されたほかは、実施例1と同様の条件にしたがって比較例3の静電チャックが作製された。
【0043】
比較例1の静電チャックによれば、接合温度がガラス軟化点であることにより、中間層14における気孔率が10[%]を超えている。このため、基材加工中にガラス接合層から基材が剥離している。
【0044】
比較例2の静電チャックによれば、接合温度がガラス軟化点+170[℃]の範囲に含まれているが、接合圧力が20[g/cm
2]を超えていることで中間層14における気孔率が3[%]を下回っている。このため、基材加工後の反り量が1.0[mm]と大きくなっている。
【0045】
比較例3の静電チャックによれば、接合温度がガラス軟化点+170[℃]の範囲を超えていることで中間層14における気孔率が3[%]を下回っている。このため、基材加工後の反り量が1.2[mm]と大きくなっている。