(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
水道用や温水用の配管やタンクとして、ポリエチレン(PE)やポリブテン(PB)等の樹脂配管やタンクが使用されている。近年、台所や風呂などの給湯設備の普及により、長時間に亘り、樹脂配管やタンクが温水や熱水などの加熱水に晒されることにより、樹脂配管やタンクが劣化し、亀裂などが生じることが問題となっている。また、水中の不純物や継ぎ手部分の金属の溶出によって樹脂配管がより劣化し易くなっている。特に、ポリエチレンは銅の存在下で酸化劣化による分解が進行する現象(銅害と称される現象)が知られており、銅を含む加熱水に晒されると、劣化がより促進される。そのため、樹脂配管やタンクの耐蝕性などの耐久性を向上させるために、架橋樹脂で形成された配管やタンクが提案されている。
【0003】
特許第2682120号公報(特許文献1)には、密度0.933〜0.939g/cm
3、メルトマスフローレイト0.1〜0.4g/10分のポリエチレンを、シラン化合物をグラフトし未架橋の状態で、架橋を防ぎながら管状に成形し、成形後シラノール縮合触媒及び/又は水放出性物質を反応させて架橋した架橋ポリエチレンからなる温水用架橋ポリエチレン管が開示されている。この文献には、シラン化合物の割合は、ポリエチレン1重量部に対して0.1〜20重量部(特に0.5〜5重量部)と記載され、実施例では、中密度ポリエチレン100重量部に対して200重量部のビニルトリメトキシシランが配合されている。
【0004】
しかし、架橋ポリエチレンで形成された配管では、架橋剤が多量に配合されているため、架橋剤がブリードアウトし易い。さらに、架橋ポリエチレンでも、銅を含む加熱水による劣化の抑制は不十分であった。特に、近年は、100年住宅(100年以上住むための住宅)など、住宅のロングライフが要求されており、配管における更なる耐久性の向上が望まれている。
【0005】
一方、樹脂に対して高い相溶性を示し、撥水性、ガスバリア性(酸化防止性)、難燃性などを付与できる添加剤としてポリシランが知られている。
【0006】
特許第5021875号公報(特許文献2)には、ポリシランの末端が封鎖剤で封鎖された融着剤が開示されている。この文献には、前記融着剤の被着体として、熱可塑性樹脂が記載され、実施例では、ポリエチレン管の融着部に付着させて、ポリエチレン管を接合している。
【0007】
特開2003−268108号公報(特許文献3)には、1又は複数種のポリマーと、ポリシランからなる相溶化剤とを含むプラスチック材料が開示されている。この文献の実施例では、ポリエチレン製ガス管の廃材粉砕物100重量部及び直鎖状ポリメチルフェニルシラン1重量部を溶融混練してストランド状チップを作製している。
【0008】
特開2007−51253号公報(特許文献4)には、溶融成形における樹脂の流動性を向上又は改善するための改質剤として、ポリシラン化合物で構成された改質剤を含む樹脂組成物が開示されている。
【0009】
特開2008−201849号公報(特許文献5)には、超高分子量ポリエチレンの優れた特性(耐衝撃性など)を維持しつつ、引張強度などの機械的強度又は機械的特性を改善できる樹脂組成物として、超高分子量ポリエチレンとポリシランとで構成されている樹脂組成物が開示されている。
【0010】
特許文献4及び5の実施例では、超高分子量ポリエチレン100重量部及び直鎖状ポリメチルフェニルシラン5重量部を溶融混練して成形体を作製している。特許文献3〜5には、樹脂組成物で形成された成形体として、二次元的構造(フィルム、シート、板など)、三次元的構造(管、棒、チューブ、中空品など)の成形体が記載されている。
【0011】
しかし、特許文献2〜5には、金属成分を含む水を流通させるための配管について開示されていない。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[オレフィン系樹脂組成物]
本発明のオレフィン系樹脂組成物は、ポリオレフィン及びポリシランを含み、内部で水と接触させる成形体(水を流通させる配管など)を形成するために用いられる。ポリオレフィンとポリシランとを組み合わせると、ポリオレフィン単独で形成された成形体に比べて成形体の耐久性が向上する理由は明らかではないが、ポリオレフィンの結晶性が関与していると推定できる。すなわち、ポリオレフィンは、通常、結晶域と非晶域とを有しているが、加熱水に晒されると、非晶域が結晶化し、結晶域と非晶域とのバランスが崩れ、ポリオレフィンの可撓性が低下して脆くなり、結晶域と非晶域との境界がウイークポイントとなると推定できる。詳しくは、非晶域は、結晶化により縮小するが、領域全体において非晶域が均一に縮小せず、局部的に縮小されることにより、結晶域との境界で空隙(ボイド)が生じ、可撓性が低下していると推定できる。特に、ポリエチレンなどのポリオレフィンでは結晶域はラメラ晶が成長した断面円形状の球晶を形成している場合が多く、加熱水に晒されることにより、球晶が成長し、脆化が進行していることが推定できる。また、水を流通させる配管では、水圧も掛かるため、劣化を促進していると推定できる。そのため、これまでの技術常識では、ポリオレフィンの結晶性が高くなると、硬さは上昇するものの、靱性(伸びなどの可撓性)は低下し、硬さと靱性とは両立困難なトレードオフの関係にあった。これに対して、本発明では、ポリオレフィンにポリシランを添加すると、非晶域のポリオレフィン鎖間にポリシランが浸透して補強するためか(特に結晶域と非晶域との界面に浸透してウイークポイントを補強し、非晶域での縮小状態を均一化もしくは隙間を埋めることによりボイドの発生を抑制できるためか)、加熱によりポリオレフィンの結晶性が、ポリオレフィン単独よりも更に向上するにも拘わらず、靱性の低下が抑制される。すなわち、長時間使用してもポリオレフィンの劣化は抑制され、成形体に亀裂などが生じない。特に、加熱水中に銅などの金属成分が存在すると、可撓性の低下に加えて、金属イオンがポリマーにおいてフリーラジカルの発生を促進することによりポリマーが分解し、最終的に酸化劣化すると推定できる。このような劣化も非晶域において進行し易いが、ポリシランがポリオレフィンの非晶域に浸透して補強するとともに、ポリシラン自身の撥水性により極性を有する物質との接触を抑制できるためか、酸化劣化も抑制できる。すなわち、ポリシランは、結晶構造に関係する物理的な側面と、酸化劣化に関係する化学的な側面の両面においてポリオレフィンに作用し、その劣化を抑制していると推定できる。
【0024】
(ポリオレフィン)
ポリオレフィンは、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチルペンテン、4−メチルペンテンなどのα−オレフィン(特に、エチレン、プロピレンなどのα−C
2−6オレフィン)を主要な重合成分とする重合体であってもよい。
【0025】
前記α−オレフィン以外の共重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル系単量体[例えば、(メタ)アクリル酸メチルや(メタ)アクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸C
1−6アルキルエステルなど]、不飽和カルボン酸類(例えば、無水マレイン酸など)、ビニルエステル類(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなど)、ジエン類(ブタジエン、イソプレンなど)などが挙げられる。これらの単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0026】
ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリブテン系樹脂などが挙げられる。これらのポリオレフィンは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0027】
これらのポリオレフィンのうち、ポリエチレン系樹脂、ポリブテン系樹脂などのポリC
2−4オレフィン系樹脂が好ましく、ポリシランによる耐久性の向上効果が大きい点から、ポリエチレン系樹脂が特に好ましい。
【0028】
ポリエチレン系樹脂は、ポリエチレンホモポリマー(単独重合体)であってもよく、ポリエチレンコポリマー(共重合体)であってもよい。コポリマーに含まれる共重合性単量体としては、例えば、オレフィン類(例えば、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチルペンテン、4−メチルペンテン、1−オクテンなどのα−C
3−8オレフィンなど)、(メタ)アクリル系単量体[例えば、(メタ)アクリル酸メチルや(メタ)アクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸C
1−6アルキルエステルなど]、不飽和カルボン酸類(例えば、無水マレイン酸など)、ビニルエステル類(例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなど)、ジエン類(ブタジエン、イソプレンなど)などが挙げられる。これらの共重合性単量体は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの共重合性単量体のうち、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチルペンテン、1−オクテンなどのα−C
3−8オレフィンが好ましい。共重合性単量体の割合は30モル%以下(例えば、0.01〜30モル%)、好ましくは20モル%以下(例えば、0.1〜20モル%)、さらに好ましくは10モル%以下(例えば、1〜10モル%)程度である。コポリマーは、ランダム共重合体、ブロック共重合体などであってもよい。
【0029】
ポリエチレン系樹脂としては、例えば、低、中又は高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレン−(4−メチルペンテン−1)共重合体などが挙げられる。これらのポリエチレン系樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのポリオレフィン樹脂のうち、結晶域と非晶域とのバランスに優れる点から、中又は高密度ポリエチレン(特に中密度ポリエチレン)が特に好ましい。
【0030】
ポリオレフィン(特にポリエチレンなどのポリエチレン系樹脂)のメルトマスフローレイト(MFR)は、JIS K7210に準拠した測定方法(温度190℃、荷重2.16kg)において、例えば、0.07〜1.0g/10分、好ましくは0.1〜0.8g/10分、さらに好ましくは0.1〜0.7g/10分程度である。MFRが小さすぎると、成形体の耐久性が低下し、MFRが大きすぎると、成形性が低下するとともに、ポリシランによる耐久性の向上効果が低下する。
【0031】
ポリオレフィン(特に、ポリエチレンなどのポリエチレン系樹脂)の密度は、JIS K7112に準拠して、0.910〜0.960kg/m
3程度の範囲から選択できるが、水(特に加熱水)を流通又は収容するための配管やタンクに必要な強度を有し、かつポリシランによる耐久性の向上効果も大きい点から、例えば、0.930〜0.960kg/m
3、好ましくは0.930〜0.950kg/m
3、さらに好ましくは0.930〜0.940kg/m
3程度である。密度が小さすぎると、成形体の耐久性が低下し、大きすぎると、ポリシランによる耐久性の向上効果が低下する。特に、本発明では、適度な分岐鎖の絡み合いにより靱性を向上できるためか、密度0.925〜0.940kg/m
3(特に0.930〜0.935kg/m
3)の中密度ポリポリエチレンが好ましい。
【0032】
ポリオレフィン(特に、ポリエチレンなどのポリエチレン系樹脂)の結晶化度は、例えば、50〜70%、好ましくは50〜60%、さらに好ましくは55〜60%程度である。結晶化度が小さすぎると、成形体の耐久性が低下し、大きすぎると、ポリシランによる耐久性の向上効果が低下する。なお、結晶化度の測定方法は、例えば、XRD(X線回折による面積法)の方法で測定できる。
【0033】
(ポリシラン)
ポリシランとしては、Si−Si結合を有する直鎖状、環状、分岐状、又は網目状の化合物であれば特に限定されないが、通常、下記式(1)及び(2)で表される構造単位のうち少なくとも1つの構造単位を有するポリシランで構成されている場合が多い。
【0035】
(式中、R
1〜R
3は、同一又は相異なって、水素原子、ヒドロキシル基、有機基又はシリル基を示す)
前記式(1)及び(2)において、R
1〜R
3で表される有機基としては、炭化水素基(アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アリール基、アラルキル基)、これらの炭化水素基に対応するエーテル基(アルコキシ基、シクロアルキルオキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基など)などが挙げられる。通常、前記有機基は、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基などの炭化水素基である場合が多い。また、水素原子やヒドロキシル基、アルコキシ基、シリル基などは末端に置換している場合が多い。
【0036】
前記式(1)及び(2)のR
1〜R
3において、アルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシルなどのC
1−14アルキル基(好ましくはC
1−10アルキル基、さらに好ましくはC
1−6アルキル基)が挙げられる。
【0037】
アルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、t−ブトキシ、ペンチルオキシなどのC
1−14アルコキシ基が挙げられる。
【0038】
アルケニル基としては、ビニル、アリル、ブテニル、ペンテニルなどのC
2−14アルケニル基が挙げられる。
【0039】
シクロアルキル基としては、シクロペンチル、シクロヘキシル、メチルシクロヘキシルなどのC
5−14シクロアルキル基などが挙げられる。シクロアルキルオキシ基としては、シクロペンチルオキシ、シクロヘキシルオキシなどのC
5−14シクロアルキルオキシ基などが挙げられる。シクロアルケニル基としては、シクロペンテニル、シクロヘキセニルなどのC
5−14シクロアルケニル基などが挙げられる。
【0040】
アリール基としては、フェニル、メチルフェニル(トリル)、ジメチルフェニル(キシリル)、ナフチルなどのC
6−20アリール基(好ましくはC
6−15アリール基、さらに好ましくはC
6−12アリール基)などが挙げられる。アリールオキシ基としては、フェノキシ、ナフチルオキシなどのC
6−20アリールオキシ基などが挙げられる。アラルキル基としては、ベンジル、フェネチル、フェニルプロピルなどのC
6−20アリール−C
1−4アルキル基などが挙げられる。アラルキルオキシ基としては、ベンジルオキシ、フェネチルオキシ、フェニルプロピルオキシなどのC
6−20アリール−C
1−4アルキルオキシ基などが挙げられる。
【0041】
シリル基としては、シリル基、ジシラニル基、トリシラニル基などのSi
1−10シラニル基(好ましくはSi
1−6シラニル基)などが挙げられる。
【0042】
また、R
1〜R
3が、前記有機基(アルキル基、アリール基など)又はシリル基である場合には、その水素原子の少なくとも1つが、置換基(又は官能基)により置換されていてもよい。このような置換基(又は官能基)は、例えば、ヒドロキシル基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基などの前記と同様の基であってもよい。
【0043】
これらのうち、R
1〜R
3は、アルキル基(例えば、メチル基などのC
1−4アルキル基)、アリール基(例えば、フェニル基などのC
6−20アリール基)などである場合が多い。
【0044】
ポリシランが非環状構造(直鎖状、分岐鎖状、網目状)の場合、末端基(末端置換基)は、通常、水素原子、ヒドロキシル基、ハロゲン原子(塩素原子など)、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、シリル基などであってもよい。これらのうち、ヒドロキシル基、メチル基、フェニル基である場合が多く、なかでもメチル基が好ましく、末端基はトリメチルシリル基であってもよい。
【0045】
具体的なポリシランとしては、例えば、前記式(1)で表される構造単位を有する直鎖状又は環状ポリシラン、前記式(2)で表される構造単位を有するポリシラン(分岐鎖状又は網目状ポリシラン)、前記式(1)及び(2)で表される構造単位を組み合わせて有するポリシラン(分岐鎖状又は網目状ポリシラン)などが挙げられる。これらのポリシランにおいて、前記式(1)及び(2)で表される構造単位は、それぞれ、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。なお、分岐鎖状又は網目状ポリシランは、下記式(3)で表される構造単位をさらに含んでいてもよい。
【0047】
代表的なポリシランとしては、鎖状又は環状ポリシラン、例えば、ポリジアルキルシラン[例えば、ポリジメチルシラン、ポリメチルプロピルシラン、ポリメチルブチルシラン、ポリメチルペンチルシラン、ポリジブチルシラン、ポリジヘキシルシラン、ジメチルシラン−メチルへキシルシラン共重合体など]、ポリアルキルアリールシラン[例えば、ポリメチルフェニルシラン、メチルフェニルシラン−フェニルヘキシルシラン共重合体など]、ポリジアリールシラン(例えば、ポリジフェニルシランなど)、ジアルキルシラン−アルキルアリールシラン共重合体(例えば、ジメチルシラン−メチルフェニルシラン共重合体、ジメチルシラン−フェニルヘキシルシラン共重合体、ジメチルシラン−メチルナフチルシラン共重合体など)などが挙げられる。これらのポリシランは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0048】
これらのうち、配管などの成形体の耐久性の向上効果が大きい点から、R
1がアリール基(特にC
6−20アリール基)であり、かつR
2がアリール基(特にC
6−20アリール基)又はアルキル基(特にC
1−6アルキル基)である構造単位(1)を有するポリシラン(特に鎖状又は環状ポリシラン)、例えば、ポリC
1−6アルキルC
6−20アリールシラン(例えば、ポリC
1−3アルキルC
6−10アリールシラン)、ポリジC
6−20アリールシラン(例えば、ポリジC
6−10アリールシラン)が好ましい。さらに、ポリオレフィンに対する相溶性に優れ、配管などの成形体の機械的特性を向上できる点から、鎖状ポリアルキルアリールシラン、環状ジアリールシラン(特に鎖状ポリアルキルアリールシラン)が好ましい。
【0049】
ポリシランは、加熱により結晶化が進行するポリオレフィン中での自由度を担保できる点から、ポリオレフィンに対する反応性基(例えば、ラジカル重合性基)を実質的に含まないのが好ましく、前記反応性基を含まないのが特に好ましい。
【0050】
ポリシランの平均重合度は、ケイ素原子換算(すなわち、一分子あたりのケイ素原子の平均数)で、例えば、2〜100、好ましくは3〜80、さらに好ましくは5〜50(特に10〜30)程度であってもよい。ポリシランの重量平均分子量は、GPC(ポリスチレン換算)による測定方法において、例えば、50〜30000(例えば、100〜20000)、好ましくは100〜3000(例えば、150〜2000)、さらに好ましくは200〜1000(特に300〜800)程度である。重合度及び分子量が小さすぎると、配管などの成形体の耐久性が低下するとともに、ブリードアウトし易くなり、重合度及び分子量が大きすぎると、樹脂特性を低下させるとともに、ポリオレフィン鎖間への浸透が困難となるためか、配管などの成形体の機械的特性が低下する。ポリシランの重合度を比較的低く調整するために、末端をトリメチルシリル基で封止してもよい。
【0051】
ポリシランは、室温(例えば、15〜25℃程度)で、固体状、液体状のいずれであってもよく、例えば、取り扱い性などの点から、固体状であってもよく、ポリオレフィンに均一に分散し易い点から、液体状のポリシランであってもよい。
【0052】
ポリシランの割合は、ポリオレフィン100重量部に対して0.01重量部以上(例えば、0.01〜10重量部)であってもよく、例えば、0.1〜10重量部(例えば、0.15〜10重量部)、好ましくは0.2〜8重量部(例えば、0.2〜6重量部)、さらに好ましくは0.25〜5重量部(特に0.3〜4重量部)程度である。さらに、ポリシランの割合は、機械的強度や経済性などの点から、ポリオレフィン100重量部に対して0.01〜3重量部、好ましくは0.05〜2重量部、さらに好ましくは0.1〜1重量部程度であってもよい。ポリエチレンにとって異物であるポリシランは1000ppm以下の少量で配合されるのが従来の技術常識であったが、本発明では1000ppmを超えても成形体の機械的特性を向上できる。ポリシランの割合が少なすぎると、配管などの成形体の耐久性が低下し、多すぎると、配管などの成形体の機械的特性が低下する上に、表面にブリードアウトして水を汚染する。
【0053】
(オレフィン系樹脂組成物の特性及び調製方法並びに成形体)
本発明のオレフィン系樹脂組成物は、ポリオレフィン及びポリシランに加えて、慣用の添加剤、例えば、難燃剤、充填剤、安定剤(例えば、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤など)、可塑剤、軟化剤、界面活性剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤などを含んでいてもよい。
【0054】
本発明のオレフィン系組成物は、架橋剤を含んでいなくても、配管などの成形体の耐久性を向上できる。そのため、本発明のオレフィン系組成物は、ブリードアウトを抑制できる点から、架橋剤(特に重合性基を有する架橋剤)を実質的に含まないのが好ましく、架橋剤を含まないのが特に好ましい。
【0055】
本発明のオレフィン系樹脂組成物は、耐久性に優れ、加熱水に晒されても、機械的特性の低下が抑制され、破断伸びの低下を抑制できる。特に、銅などの金属成分を含む加熱水に晒されても、機械的特性の低下が抑制され、例えば、110℃の塩化銅水溶液中に1000時間浸漬後の破断伸びは500%以上、好ましくは500〜600%、さらに好ましくは520〜550%程度である。
【0056】
さらに、本発明のオレフィン系樹脂組成物は、加熱水に晒されても、酸化劣化が抑制され、例えば、0.3MPaの加圧下、110℃の熱水中に3000時間浸漬後の酸化誘導時間は、45分以上、好ましくは48分以上、さらに好ましくは50分以上であってもよい。特に、銅などの金属成分を含む加熱水に晒されても、酸化劣化が抑制され、例えば、110℃の塩化銅水溶液中に1000時間浸漬後の酸化誘導時間は、38分以上、好ましくは40分以上、さらに好ましくは45分以上であってもよい。また、表面での酸化カルボニル強度(酸化に由来する1730cm
−1付近のピークの面積値)は、110℃の塩化銅水溶液中に1000時間浸漬後であっても、浸漬前のカルボニル強度に対して、4倍以下(例えば、1〜4倍)、好ましくは3倍以下、さらに好ましくは2倍以下(特に1.5倍以下)であってもよい。なお、酸化誘導時間及び酸化カルボニル強度は、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0057】
本発明のオレフィン系樹脂組成物は、ポリオレフィンとポリシランとを慣用の方法により混合して調製でき、ペレット状などのポリオレフィンとポリシランとを溶融混合することにより調製してもよい。
【0058】
本発明の成形体は、内部で水と接触する成形体であればよく、通常、水を流通又は収容するための配管又はタンク(容器)であり、加熱水や金属成分を含む水に対する耐久性が高いため、水道用や温水用配管又はタンクとして利用するのが好ましい。金属成分としては、例えば、銅、亜鉛、鉄などの金属を含む金属成分などが挙げられる。これらの金属成分のうち、ポリオレフィンの分解促進能が大きい点から、銅を含む金属成分に対して適用するのが好ましい。さらに、金属成分を含む温水や熱水などの加熱水に晒されると、ポリオレフィンの分解が促進されるため、加熱水を流通させる給湯器(温水器)や暖房器などの温水用配管又はタンク(特に温水用配管)が特に好ましい。
【0059】
本発明の成形体(配管など)は、慣用の成形法、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法などにより、オレフィン系樹脂組成物を成形して形成できる。
【0060】
本発明の成形体(配管など)の厚みは、1.0mm以上であればよく、例えば、1.0〜7.0mm、好ましくは1.0〜5.0mm、さらに好ましくは1.0〜4.0mm程度である。
【実施例】
【0061】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例で得られた試験片の特性及び評価は次のようにして測定した。
【0062】
[引張試験]
比較例1及び実施例1〜6では、JIS K7161に準拠し、得られた樹脂組成物でダンベル型試験片を作製し、引張試験機(インストロン社製「万能試験機」)を用いて、試験速度100mm/分で引張試験を行ない、降伏強度及び破断伸びを測定した。なお、試験片は、110℃の5重量%塩化銅水溶液に1000時間浸漬させ、浸漬による変化を評価した。
【0063】
一方、比較例2及び実施例7〜9では、得られた配管を切削加工して試験片を作製し、前記方法で破断伸びを測定した。なお、試験片は、0.3MPaの加圧下、110℃の熱水に3000時間浸漬させ、浸漬による変化を評価した。
【0064】
[FT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)マッピング]
110℃の塩化銅水溶液(5重量%の割合で塩化銅を含む水溶液)に1000時間浸漬させた試験片の断面をFT−IR(サーモフィッシャーサイエンティフィック(Thermo Fisher Scientific)(株)製)で透過マッピングにより観察し、ポリエチレンの劣化により発生したカルボニル基を確認した。
【0065】
[透過電子顕微鏡(TEM)観察]
電界放出型透過電子顕微鏡(日本電子(株)製「JEM−210M」)で試験片のナノ組織を観察した。
【0066】
[耐酸化性(OIT)]
熱分析装置(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製「Q20」)を用いて、試験片の酸化誘導時間(分)を測定した。測定は、室温〜210℃、昇温速度99.9℃/分において、窒素雰囲気を50ml/分で酸素を供給して酸素雰囲気に切り換えて行った。また、比較例1及び実施例1〜6では、110℃の5重量%塩化銅水溶液に試験片を1000時間浸漬させる前後において、酸化誘導時間(分)を測定した。一方、比較例2及び実施例7〜9では、0.3MPaの加圧下、110℃の熱水に配管を3000時間浸漬させる前後において、酸化誘導時間(分)を測定した。
【0067】
[酸化カルボニル強度]
FT−IR(サーモフィッシャーサイエンティフィック(Thermo Fisher Scientific)(株)製「Nicolet 6700 FT-IR 、Nicolet Continuμm」)を用いて、110℃の5重量%塩化銅水溶液に1000時間浸漬した試験片の厚み方向での断面薄片を作製し、透過法にて測定した。測定したスペクトルより1730cm
−1付近の酸化カルボニル基の面積値を算出した。
【0068】
[融解熱量]
比較例1及び実施例1〜6では、熱分析装置(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製「Q2000」)を用いて、60℃、90℃及び110℃の熱水にそれぞれ1000時間浸漬した試験片の融解熱量を測定した。一方、比較例2及び実施例7〜9では、熱分析装置を用いて、0.3MPaの加圧下、110℃の熱水に3000時間浸漬した配管の融解熱量を測定した。
【0069】
試料量は2mgで昇温速度は10℃/分で行い、80〜130℃で見られる吸熱ピークに対して熱量を算出した。熱量の算出は、試料中のポリエチレン量に対して単位重量あたりの熱量で行った。
【0070】
比較例1
射出成形機((株)ニイガタマシンテクノ製「NN1000」)を用いて、シリンダー温度240℃、スクリュー回転数が50rpmのもと、トップフィーダーからポリエチレン(ASTM D1238規格のPE−RT、メルトマスフローレイト0.64g/10分、密度0.933kg/m
3、結晶化度58.1%)を投入し、溶融混練して試験片を作製した。
【0071】
実施例1
射出成形機のサイドフィーダーから、ポリエチレン99.7重量部に対して0.3重量部の割合でポリシラン(ポリメチルフェニルシラン、重量平均分子量520、末端:トリメチルシリル基)をポリエチレンに添加して混練する以外は比較例1と同様にして試験片を作製した。
【0072】
実施例2
ポリシランの割合をポリエチレン99重量部に対して1重量部に変更する以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。
【0073】
実施例3
ポリシランの割合をポリエチレン97重量部に対して3重量部に変更する以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。
【0074】
比較例及び実施例で得られた試験片を引張試験に供した結果を
図1及び2に示す。
図1から明らかなように、塩化銅水溶液に浸漬後、加熱により、比較例及び実施例ともに、降伏強度は向上した。さらに、
図2から明らかなように、塩化銅水溶液に浸漬後、比較例1の試験片では破断伸びが500時間を超える辺りから急激に低下するのに対して実施例1〜3の試験片では破断伸びの低下は抑制され、特に、実施例3では上昇した。
【0075】
また、比較例及び実施例で得られた試験片をFT−IRマッピング試験に供した結果、比較例1の試験片では、酸化劣化によるカルボニル基の存在が確認できたのに対し、実施例1〜3の試験片ではカルボニル基の存在は確認できなかった。
【0076】
また、比較例及び実施例で得られた試験片について、酸化カルボニル強度を測定した結果を
図3に示す。なお、
図3において、浸漬前の比較例1の試験片について測定した結果を参考例1として示す。
図3の結果から明らかなように、実施例1〜3の試験片は、比較例1の試験片よりも表面近傍でのカルボニル基の発生が抑制されている。特に、実施例2及び3の試験片は、表面における強度が、参考例1に対して1.5倍未満であり(参考例1:0.0344、実施例2:0.457、実施例3:0.0423)、カルボニル基の発生が抑制されている。
【0077】
また、比較例1及び実施例3で得られた試験片について、TEM観察した結果を
図4及び5に示す。
図4から明らかなように、比較例1の試験片では、空洞のような欠陥(写真中に観察できる丸枠で囲んだ黒点)が観察できたが、
図5から明らかなように、実施例3の試験片では、ポリシランによりポリエチレンの非晶域が補強されるためか、劣化や亀裂の原因となる空洞は観察できなかった。なお、
図4中において、欠陥に相当するす黒点を丸枠で囲んだが、
図4及び5において、濃色領域として現れている部分は、染色した非晶領域である。
【0078】
さらに、比較例及び実施例で得られた試験片について、耐酸化性(OIT)を測定した結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
表1の結果から明らかなように、実施例の試験片は比較例の試験片よりも耐酸化性に優れており、特に、塩化銅水溶液浸漬後において、実施例3は、比較例1の1.4倍に増加した。
【0081】
実施例4
ポリシランの割合をポリエチレン94重量部に対して6重量部に変更する以外は実施例1と同様にして試験片を作製した。
【0082】
実施例5
ポリシランとして、重量平均分子量16,300のポリシラン(ポリメチルフェニルシラン)を用いる以外は実施例4と同様にして試験片を作製した。
【0083】
実施例6
ポリシランとして、重量平均分子量1,600のポリシラン(ポリメチルフェニルシラン)を用いる以外は実施例4と同様にして試験片を作製した。
【0084】
実施例4〜6及び比較例1で得られた試験片の融解熱量(ポリエチレン部換算)を測定した結果を表2に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
表2の結果から明らかなように、ポリシランを配合した実施例の試験片では、配合していない比較例よりも融解熱量が上昇し、結晶性が向上している。
【0087】
すなわち、この結果及び
図1の結果から、ポリシランの配合により試験片の強度は若干低下するが、ポリエチレンの結晶性についてはポリシランの配合により向上することがわかる。しかし、この結果及び
図2の結果から、ポリシランを添加すると、結晶性が向上するにも拘わらず、従来の技術常識とは異なり、靱性は向上している。なお、
図3の結果から、1000時間の浸漬では、酸化劣化は試験片の内部まで進行しておらず、試験片の強度に対する影響が少ないことを考慮すると、異物であるポリシランの配合によりポリエチレンの強度は若干低下するものの、加熱により結晶性は向上するにも拘わらず、靱性は向上しており、このような本発明の効果は、異質であり、かつ顕著な効果である。
【0088】
比較例2
押出成形機((株)プラ技研製「単軸押出機」)を用いて、成形温度180〜220℃において、トップフィーダーからポリエチレン(ASTM D1238規格のPE−RT、メルトマスフローレイト0.64g/10分、密度0.933kg/m
3、結晶化度58.1%)を投入し、溶融混練して、内径10mm、外径13mmの配管を作製した。
【0089】
実施例7
押出成形機のトップフィーダーから、ポリエチレン99.7重量部に対して0.3重量部の割合でポリシラン(ポリメチルフェニルシラン、重量平均分子量600、末端:トリメチルシリル基)をポリエチレンに添加して混練する以外は比較例2と同様にして配管を作製した。
【0090】
実施例8
ポリシランの割合をポリエチレン99重量部に対して1重量部に変更する以外は実施例7と同様にして配管を作製した。
【0091】
実施例9
ポリシランの割合をポリエチレン97重量部に対して3重量部に変更する以外は実施例7と同様にして配管を作製した。
【0092】
比較例2及び実施例9で得られた配管について、0.3MPaの加圧下、110℃の熱水に3000時間浸漬した前後のTEM観察し、配管表面に観察できる球晶のサイズを測定した結果を表3に示す。なお、球晶のサイズは、TEM像より任意の10個の球晶について測定し、平均値を算出した。
【0093】
【表3】
【0094】
また、配管の表面をTEM観察した結果(TEM像)を
図6に示す。
図6から明らかなように、比較例2の配管では、浸漬前から5μmを超える径の球晶が観察でき、3000時間浸漬後には球晶が成長していたのに対して、実施例9の配管では、浸漬前から5μmを超える径の球晶は存在せず、3000時間浸漬後の球晶は成長していなかった。
【0095】
また、比較例2及び実施例7〜9で得られた配管を引張試験に供した結果を表4に示す。なお、破断伸びは浸漬前(0時間)に対する相対値で表す。
【0096】
【表4】
【0097】
表4の結果から明らかなように、比較例2の配管では2000時間浸漬後に破断伸びが4%以上低下しているのに対して、実施例7〜9の配管では、3000時間浸漬後も破断伸びの低下は3%未満であった。
【0098】
また、比較例2及び実施例7〜9で得られた配管について、耐酸化性(OIT)を測定した結果を表5に示す。
【0099】
【表5】
【0100】
表5の結果から明らかなように、実施例の配管は、比較例の配管よりも耐酸化性に優れていた。
【0101】
さらに、比較例2及び実施例7〜9で得られた配管の融解熱量(ポリエチレン部換算)を測定した結果を表6に示す。
【0102】
【表6】
【0103】
表6の結果から明らかなように、いずれの配管でも、熱水への浸漬により融解熱量が上昇し、結晶性が向上している。特に、ポリシランを配合した実施例の配管では、配合していない比較例よりも融解熱量が若干上昇し、結晶性が若干向上している。
【0104】
すなわち、この結果及び表4の結果から、実施例及び比較例ともに、熱水への浸漬により結晶性の向上に伴い、強度も向上していると推定できるにも拘わらず、比較例では破断伸びが低下していることが観察できる。この原因は、実施例では、強度が向上するとともに、撥水性を有するポリシランを添加することで、熱水中の金属イオンを寄せ付けず、酸化劣化の抑制により脆化が抑制されるのに対して、比較例では、酸化劣化に加えて、球晶の肥大化も関係していると推定できる。