特許第6496675号(P6496675)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6496675
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】静電チャックヒータ
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/20 20060101AFI20190325BHJP
   H05B 3/12 20060101ALI20190325BHJP
   H05B 3/18 20060101ALI20190325BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20190325BHJP
【FI】
   H05B3/20 376
   H05B3/20 309
   H05B3/12 A
   H05B3/18
   H01L21/68 R
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-31978(P2016-31978)
(22)【出願日】2016年2月23日
(65)【公開番号】特開2017-152137(P2017-152137A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2017年10月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹林 央史
【審査官】 黒田 正法
(56)【参考文献】
【文献】 登録実用新案第3182120(JP,U)
【文献】 特開2011−253083(JP,A)
【文献】 特開平11−283730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/02− 3/86
H01L 21/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電電極とヒータ電極とを埋設したセラミックス製のプレートを備えた静電チャックヒータであって、
前記プレートは、複数の貫通孔を有し、
前記ヒータ電極のうち前記貫通孔を取り囲む部分は、前記ヒータ電極のうち通常の部分と比べて体積抵抗率の高い材料で形成されている、
静電チャックヒータ。
【請求項2】
前記ヒータ電極のうち通常の部分は、前記ヒータ電極のうち前記貫通孔を取り囲む部分に隣接する部分である、
請求項1に記載の静電チャックヒータ。
【請求項3】
前記ヒータ電極は、複数の抵抗発熱層が積層された構造であり、
前記ヒータ電極のうち前記貫通孔を取り囲む部分を構成する少なくとも1つの抵抗発熱層は、前記通常の部分を構成する各抵抗発熱層と比べて体積抵抗率が高い、
請求項1又は2に記載の静電チャックヒータ。
【請求項4】
前記ヒータ電極のうち前記貫通孔を取り囲む部分を構成する少なくとも1つの抵抗発熱層は、前記通常の部分を構成する各抵抗発熱層と比べて体積抵抗率の高い材料で形成され、残りの抵抗発熱層は、前記通常の部分を構成する各抵抗発熱層と同じ材料で形成されている、
請求項3に記載の静電チャックヒータ。
【請求項5】
前記ヒータ電極は、単層の抵抗発熱層である、
請求項1又は2に記載の静電チャックヒータ。
【請求項6】
前記ヒータ電極は、平面視で帯状のラインであり、
前記ヒータ電極のうち前記貫通孔を取り囲む部分は、前記帯状のラインのうち前記貫通孔に最も近接する円弧状の部分である、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の静電チャックヒータ。
【請求項7】
前記複数の貫通孔は、ウエハを持ち上げるリフトピンを挿通するためのピン孔及びウエハの裏面に冷却ガスを供給するためのガス供給孔の少なくとも一方である、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の静電チャックヒータ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の静電チャックヒータであって、
前記プレートのウエハ載置面とは反対側の面に接合された冷却板
を備え、
前記貫通孔は、前記プレートを貫通すると共に前記冷却板も貫通している、
静電チャックヒータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャックヒータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、静電チャック電極とヒータ電極とを埋設したセラミックス製のプレートと、このプレートにアルミニウムなどの金属からなる支持台とを接合した静電チャックヒータが知られている。静電チャックヒータは、ウエハを均一に加熱することが要求される。そのため、静電チャックヒータのうち温度が低くなる箇所については、その箇所の周辺に配置するヒータ電極の幅や間隔を小さくすることで発熱量を増やすことが提案されている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−16072号公報(段落0010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
静電チャックヒータは、複数の貫通孔を有している。こうした貫通孔としては、プレートに載置されたウエハを持ち上げるリフトピンを挿通するためのピン孔や冷却ガスをウエハの裏面に供給するためのガス供給孔などがある。このような貫通孔の周辺はヒータ電極を配置することができないため、他の箇所に比べて温度が低くなる傾向にある。そのため、貫通孔の周辺に配置するヒータ電極の幅や間隔を小さくすることで発熱量を増やし、均熱性が得られるように設計する。
【0005】
しかしながら、ヒータ電極の幅を小さくしすぎると断線のおそれがあるし、ヒータ電極の間隔を小さくしすぎるとショートのおそれがある。そのため、ヒータ電極の幅や間隔を小さくするのには限度があり、それほど発熱量を増やすことができなかった。また、それほど発熱量を増やすことができないため、ヒータ電極のうち貫通孔に1番近い部分だけでなく、貫通孔に2番目に近い部分や3番目に近い部分も幅や間隔を小さくする必要があった。このようにヒータ電極の幅や間隔の小さな部分の数が多くなると、プレート全体の均熱性を向上することが設計上困難になるという問題があった。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、貫通孔周辺の均熱設計を容易に行えるようにすることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の静電チャックヒータは、
静電電極とヒータ電極とを埋設したセラミックス製のプレートを備えた静電チャックヒータであって、
前記プレートは、複数の貫通孔を有し、
前記ヒータ電極のうち前記貫通孔を取り囲む部分は、前記ヒータ電極のうち通常の部分と比べて体積抵抗率の高い材料で形成されている、
ものである。
【0008】
この静電チャックヒータでは、ヒータ電極のうち貫通孔を取り囲む部分は、ヒータ電極のうち通常の部分と比べて体積抵抗率の高い材料で形成されている。貫通孔にはヒータ電極を形成することができないため、セラミックス製のプレートのうち貫通孔が設けられた箇所は温度が低くなりやすい。しかし、本発明の静電チャックヒータでは、ヒータ電極の端子間に電圧をかけたときの発熱量は、貫通孔を取り囲む部分の方が通常の部分に比べて大きいため、プレートのうち貫通孔が設けられた箇所の温度が低くなるのを抑制することができる。したがって、プレートの貫通孔周辺の均熱設計を容易に行うことができる。
【0009】
ここで、ヒータ電極のうち通常の部分は、例えば、ヒータ電極のうち貫通孔を取り囲む部分に隣接する部分としてもよいし、あるいは、ヒータ電極のうち低温化要素(貫通孔など)の周辺を除いた部分としてもよい。
【0010】
本発明の静電チャックヒータにおいて、前記ヒータ電極は、複数の抵抗発熱層が積層された構造であり、前記ヒータ電極のうち前記貫通孔を取り囲む部分を構成する少なくとも1つの抵抗発熱層は、前記通常の部分を構成する各抵抗発熱層と比べて体積抵抗率が高くなるようにしてもよい。こうすれば、体積抵抗率の高い抵抗発熱層の層数を適宜調整することにより、プレートの貫通孔周辺の均熱設計を容易に行うことができる。例えば、貫通孔を取り囲む部分の体積抵抗率は、通常の部分の体積抵抗率の1倍より大きく5倍以下に設定してもよい。
【0011】
本発明の静電チャックヒータにおいて、前記ヒータ電極は、単層の抵抗発熱層であってもよい。この場合、単層の抵抗発熱原料層を焼成して単層の抵抗発熱層としてもよいし、複数の抵抗発熱原料層を積層したものを焼成して各抵抗発熱原料層が渾然一体となった単層の抵抗発熱層としてもよい。例えば、前者の場合、貫通孔を取り囲む部分の抵抗発熱原料層の方が通常の部分の抵抗発熱原料層よりも体積抵抗率の高いものを用いてもよい。後者の場合、貫通孔を取り囲む部分の少なくとも1つの抵抗発熱原料層が、通常の部分を構成する各抵抗発熱原料層と比べて体積抵抗率が高いものを用いてもよい。
【0012】
この場合、前記ヒータ電極のうち前記貫通孔を取り囲む部分を構成する少なくとも1つの抵抗発熱層は、前記通常の部分を構成する各抵抗発熱層と比べて体積抵抗率の高い材料で形成され、残りの抵抗発熱層は、前記通常の部分を構成する各抵抗発熱層と同じ材料で形成されていてもよい。こうすれば、抵抗発熱層を1層ずつ作製する場合、貫通孔を取り囲む部分の抵抗発熱層のうち体積抵抗率の高い材料で形成される抵抗発熱層以外は、通常の部分を構成する抵抗発熱層と同時に作製することができる。
【0013】
本発明の静電チャックヒータにおいて、前記ヒータ電極は、平面視で帯状のラインであり、前記ヒータ電極のうち前記貫通孔を取り囲む部分は、前記帯状のラインのうち前記貫通孔に最も近接する円弧状の部分としてもよい。こうすれば、帯状のラインのうち貫通孔に2番目、3番目、……に近接する部分の体積抵抗率を高くする必要がないため、プレート全体の均熱性を向上することが設計上容易になる。
【0014】
本発明の静電チャックヒータにおいて、前記複数の貫通孔は、ウエハを持ち上げるリフトピンを挿通するためのピン孔及びウエハの裏面に冷却ガスを供給するためのガス供給孔の少なくとも一方であってもよい。特にピン孔はガス供給孔に比べて直径が大きいことが多いため、本発明を適用する意義が高い。
【0015】
本発明の静電チャックヒータは、前記プレートのウエハ載置面とは反対側の面に接合された冷却板を備え、前記貫通孔は、前記プレートを貫通すると共に前記冷却板も貫通していてもよい。プレートに冷却板が接合されている場合、プレートのうち貫通孔が設けられた箇所は、抵抗発熱体を配置することができないし貫通孔の周りから冷却板へ熱が逃げやすいため、より低温になりやすい。そのため、本発明を適用する意義が高い。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】静電チャックヒータ10の斜視図である。
図2図1のA−A断面図である。
図3】ヒータ電極16を平面視したときの説明図で、枠内は部分拡大図である。
図4】部分P1の縦断面図すなわち図3のB−B断面図である。
図5】部分P2の縦断面図すなわち図3のC−C断面図である。
図6】プレート12の製造工程図である。
図7】別の実施形態の部分P1の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明の静電チャックヒータ10の斜視図、図2図1のA−A断面図、図3はヒータ電極16を平面視したときの説明図である。
【0018】
静電チャックヒータ10は、プレート12と、冷却板20と、複数の貫通孔24とを備えている。
【0019】
プレート12は、ウエハWを上面に載置可能なセラミックス製(例えばアルミナ製や窒化アルミニウム製)の円板であり、静電電極14とヒータ電極16とを内蔵している。
【0020】
静電電極14は、円形の薄膜形状に形成されている。この静電電極14には、図示しない棒状端子が電気的に接続されている。棒状端子は、静電電極14の下面からプレート12を経たあと電気的に絶縁された状態で冷却板20を通って下方に延び出している。プレート12のうち静電電極14より上側の部分は、誘電体層として機能する。
【0021】
ヒータ電極16は、図3に示すように、平面視で帯状のラインである。帯状のラインは、特に限定するものではないが、例えば幅0.1〜10mm、厚み0.001〜0.1mm、線間距離0.1〜5mmに設定されていてもよい。このヒータ電極16は、プレート12のうちの外周部において一端162aから他端162bまで一筆書きの要領で配線された外周ヒータ電極162と、プレート12のうちの中央部において一端164aから他端164bまで一筆書きの要領で配線された中央ヒータ電極164とを備えている。外周ヒータ電極162は、線幅及び線間間隔が中央ヒータ電極164よりも狭くなっている。いずれのヒータ電極162,164も縦断面をみると複数の抵抗発熱層が積層された構造となっている。外周ヒータ電極162の一端162aと他端162bには、それぞれ図示しない給電端子が電気的に接続され、中央ヒータ電極164の一端164aと他端164bには、それぞれ図示しない給電端子が電気的に接続されている。これらの給電端子は、外周ヒータ電極162や中央ヒータ電極164の下面からプレート12を経たあと冷却板20を通って下方に延び出している。また、これらの給電端子は、冷却板20と電気的に絶縁されている。
【0022】
冷却板20は、プレート12の裏面にシリコーン樹脂からなる接合層18を介して接合されている。この冷却板20は、金属製(例えばアルミニウム製)であり、冷媒(例えば水)が通過可能な冷媒通路22を内蔵している。この冷媒通路22は、プレート12の全面にわたって冷媒が通過するように形成されている。なお、冷媒通路22には、冷媒の供給口と排出口(いずれも図示せず)が設けられている。
【0023】
複数の貫通孔24は、プレート12、接合層18及び冷却板20を厚さ方向に貫通している。静電電極14やヒータ電極16は、貫通孔24の内周面に露出しないように設計されている。本実施形態では、貫通孔24は、図示しないリフトピンを上下動可能に挿入するためのピン孔である。リフトピンは、プレート12の上面よりも下方へ没入した没入位置と上面よりも上方へ突出した突出位置のいずれかに位置決めされる。リフトピンが没入位置から突出位置へ上昇するとプレート12の上面に載置されたウエハWはプレート12の上面よりも上方へ持ち上げられる。各貫通孔24のうち冷却板20を貫通する冷却板貫通部分には、絶縁管26が挿入されている。絶縁管26は、例えばアルミナなどの絶縁材が筒状に形成されたものである。
【0024】
ここで、中央ヒータ電極164について詳細に説明する。中央ヒータ電極164は、図3に示すように、3つの貫通孔24を避けるように配線されている。貫通穴24の周縁と中央ヒータ電極164のうち貫通穴24に最も近接する箇所との距離は、例えば0.1〜5mmに設定されている。そのため、プレート12のうち貫通孔24が設けられた箇所は温度が高くなりにくい。その点を考慮して、中央ヒータ電極164のうち貫通孔24を取り囲む部分P1(図3の拡大図でグレーで示した部分)は、中央ヒータ電極164のうち通常の部分P2(本実施形態では中央ヒータ電極164のうち貫通孔24を取り囲む部分P1に隣接する部分)と比べて体積抵抗率の高い材料で形成されている。
【0025】
図4は、部分P1の縦断面図すなわち図3のB−B断面図、図5は、部分P2の縦断面図すなわち図3のC−C断面図である。中央ヒータ電極164のうち通常の部分P2を構成する4つの抵抗発熱層P2a〜P2dは、すべて同じ材料で形成されている。中央ヒータ電極164のうち貫通孔24を取り囲む部分P1を構成する4つの抵抗発熱層P1a〜P1dは、すべて同じ材料で形成されているが、これらの体積抵抗率は抵抗発熱層P2a〜P2dを形成する材料と比べて高い。その結果、中央ヒータ電極164の端子間に電圧をかけたときの発熱量は、貫通孔24を取り囲む部分P1の方が通常の部分P2に比べて大きくなる。
【0026】
次に、本実施形態の静電チャックヒータ10の使用例について説明する。この静電チャックヒータ10のプレート12の表面にウエハWを載置し、静電電極14とウエハWとの間に電圧を印加することによりウエハWを静電気的な力によってプレート12に吸着する。この状態で、ウエハWにプラズマCVD成膜を施したりプラズマエッチングを施したりする。また、ヒータ電極16に電圧を印加してウエハWを加熱したり、冷却板20の冷媒通路22に冷媒を循環してウエハWを冷却したりすることにより、ウエハWの温度を一定に制御する。ヒータ電極16に電圧を印加する際には、外周ヒータ電極162の一端162aと他端162bとの間に電圧を印加すると共に、中央ヒータ電極164の一端164aと他端164bとの間に電圧を印加する。すると、外周ヒータ電極162及び中央ヒータ電極164はそれぞれ発熱してウエハWを加熱する。外周ヒータ電極162は、線幅及び線間間隔が中央ヒータ電極164よりも狭くなっている。そのため、外周側の方が中央側よりも発熱量が大きくなる。これは、プレート12の外周側では側面からも放熱する分、中央側と比べて温度が低くなりやすいことを考慮したためである。また、中央ヒータ電極164のうち貫通孔24を取り囲む部分P1の体積抵抗率の方が通常の部分P2に比べて大きい。そのため、中央ヒータ電極164の発熱量は、貫通孔24を取り囲む部分P1の方が通常の部分P2に比べて大きくなる。これは、貫通孔24には中央ヒータ電極164を形成することができないため、プレート12のうち貫通孔24が設けられた箇所は温度が低くなりやすいことを考慮したためである。そして、ウエハWの処理が終了したあと、静電電極14とウエハWとの間の電圧をゼロにして静電気的な力を消失させ、貫通孔24に挿入されているリフトピン(図示せず)を突き上げてウエハWをプレート12の表面から上方へリフトピンにより持ち上げる。その後、リフトピンに持ち上げられたウエハWは搬送装置(図示せず)によって別の場所へ搬送される。
【0027】
次に、静電チャックヒータ10のプレート12の製造手順について説明する。図6は、プレート12の製造工程図である。
【0028】
(a)成形体の作製(図6(a)参照)
第1〜第3の成形体51〜53を作製する。各成形体51〜53は、まず、成形型にアルミナ粉体、焼結助剤としてのフッ化マグネシウム、溶媒、分散剤及びゲル化剤を含むスラリーを投入し、成形型内でゲル化剤を化学反応させてスラリーをゲル化させたあと離型することにより、作製する。
【0029】
溶媒としては、分散剤及びゲル化剤を溶解するものであれば、特に限定されないが、例えば、炭化水素系溶媒(トルエン、キシレン、ソルベントナフサ等)、エーテル系溶媒(エチレングリコールモノエチルエーテル、ブチルカルビトール、ブチルカルビトールアセテート等)、アルコール系溶媒(イソプロパノール、1−ブタノール、エタノール、2−エチルヘキサノール、テルピネオール、エチレングリコール、グリセリン等)、ケトン系溶媒(アセトン、メチルエチルケトン等)、エステル系溶媒(酢酸ブチル、グルタル酸ジメチル、トリアセチン等)、多塩基酸系溶媒(グルタル酸等)が挙げられる。特に、多塩基酸エステル(例えば、グルタル酸ジメチル等)、多価アルコールの酸エステル(例えば、トリアセチン等)等の、2以上のエステル結合を有する溶媒を使用することが好ましい。
【0030】
分散剤としては、アルミナ粉体を溶媒中に均一に分散するものであれば、特に限定されない。例えば、ポリカルボン酸系共重合体、ポリカルボン酸塩、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、リン酸エステル塩系共重合体、スルホン酸塩系共重合体、3級アミンを有するポリウレタンポリエステル系共重合体等が挙げられる。特に、ポリカルボン酸系共重合体、ポリカルボン酸塩等を使用することが好ましい。この分散剤を添加することで、成形前のスラリーを、低粘度とし、且つ高い流動性を有するものとすることができる。
【0031】
ゲル化剤としては、例えば、イソシアネート類、ポリオール類及び触媒を含むものとしてもよい。このうち、イソシアネート類としては、イソシアネート基を官能基として有する物質であれば特に限定されないが、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)又はこれらの変性体等が挙げられる。なお、分子内おいて、イソシアネート基以外の反応性官能基が含有されていてもよく、更には、ポリイソシアネートのように、反応性官能基が多数含有されていてもよい。ポリオール類としては、イソシアネート基と反応し得る水酸基を2以上有する物質であれば特に限定されないが、例えば、エチレングリコール(EG)、ポリエチレングリコール(PEG)、プロピレングリコール(PG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリヘキサメチレングリコール(PHMG)、ポリビニルアルコール(PVA)等が挙げられる。触媒としては、イソシアネート類とポリオール類とのウレタン反応を促進させる物質であれば特に限定されないが、例えば、トリエチレンジアミン、ヘキサンジアミン、6−ジメチルアミノ−1−ヘキサノール等が挙げられる。
【0032】
この工程(a)では、まず、アルミナ粉体とフッ化マグネシウム粉体に溶媒及び分散剤を所定の割合で添加し、所定時間に亘ってこれらを混合することによりスラリー前駆体を調製し、その後、このスラリー前駆体に、ゲル化剤を添加して混合・真空脱泡してスラリーとするのが好ましい。スラリー前駆体やスラリーを調製するときの混合方法は、特に限定されるものではなく、例えばボールミル、自公転式撹拌、振動式撹拌、プロペラ式撹拌等を使用可能である。なお、スラリー前駆体にゲル化剤を添加したスラリーは、時間経過に伴いゲル化剤の化学反応(ウレタン反応)が進行し始めるため、速やかに成形型内に流し込むのが好ましい。成形型に流し込まれたスラリーは、スラリーに含まれるゲル化剤が化学反応することによりゲル化する。ゲル化剤の化学反応とは、イソシアネート類とポリオール類とがウレタン反応を起こしてウレタン樹脂(ポリウレタン)になる反応である。ゲル化剤の反応によりスラリーがゲル化し、ウレタン樹脂は有機バインダとして機能する。
【0033】
(b)仮焼体の作製(図6(b)参照)
第1〜第3の成形体51〜53を乾燥したあと脱脂し、更に仮焼することにより、第1〜第3の仮焼体61〜63を得る。成形体51〜53の乾燥は、成形体51〜53に含まれる溶媒を蒸発させるために行う。乾燥温度や乾燥時間は、使用する溶媒に応じて適宜設定すればよい。但し、乾燥温度は、乾燥中の成形体51〜53にクラックが入らないように注意して設定する。また、雰囲気は大気雰囲気、不活性雰囲気、真空雰囲気のいずれであってもよい。乾燥後の成形体51〜53の脱脂は、分散剤や触媒やバインダなどの有機物を分解・除去するために行う。脱脂温度は、含まれる有機物の種類に応じて適宜設定すればよいが、例えば400〜600℃に設定してもよい。また、雰囲気は大気雰囲気、不活性雰囲気、真空雰囲気のいずれであってもよい。脱脂後の成形体51〜53の仮焼は、強度を高くしハンドリングしやすくするために行う。仮焼温度は、特に限定するものではないが、例えば750〜900℃に設定してもよい。また、雰囲気は大気雰囲気、不活性雰囲気、真空雰囲気のいずれであってもよい。
【0034】
(c)電極用ペーストの印刷(図6(c)参照)
第1の仮焼体61の片面にヒータ電極用ペースト71を印刷し、第3の仮焼体63の片面に静電電極用ペースト72をスクリーン印刷する。両ペースト71,72は、いずれも、アルミナセラミック粉末とモリブデン粉末とチタン粉末とバインダと溶媒とを含むものである。バインダとしては、例えば、セルロース系バインダ(エチルセルロースなど)やアクリル系バインダ(ポリメタクリル酸メチルなど)やビニル系バインダ(ポリビニルブチラールなど)が挙げられる。溶媒としては、例えば、テルピネオールなどが挙げられる。印刷方法は、例えば、スクリーン印刷法などが挙げられる。
【0035】
ヒータ電極用ペースト71としては、体積抵抗率の異なるペースト、すなわち高抵抗ペーストと低抵抗ペーストとを用意する。高抵抗ペーストと低抵抗ペーストは、粉末成分の比率を変えることにより体積抵抗率の高低を調整したものである。ヒータ電極用ペースト71を印刷する場合、まず、ヒータ電極16の配線パターンと同形状のパターンに打ち抜かれたマスク(但し貫通孔24を取り囲む部分P1は打ち抜かれていない)を用意し、第1の仮焼体61の片面にこのマスクを被せて低抵抗ペーストを印刷する。次に、部分P1と同形状のパターンに打ち抜かれたマスクに交換し、第1の仮焼体61の片面にこのマスクを被せて高抵抗ペーストを印刷する。これにより、抵抗発熱層P1a,P2aになるペーストの印刷が終了する。この作業を繰り返し行うことにより、抵抗発熱層P1a〜P1d,P2a〜P2dになるペーストの印刷が終了する。
【0036】
(d)ホットプレス焼成(図6(d)参照)
印刷されたヒータ電極用ペースト71を挟むようにして第1の仮焼体61と第2の仮焼体62とを重ね合わせると共に、印刷された静電電極用ペースト72を挟むようにして第2の仮焼体62と第3の仮焼体63とを重ね合わせ、その状態でホットプレス焼成する。これにより、ヒータ電極用ペースト71が焼成されてヒータ電極16となり、静電電極用ペースト72が焼成されて静電電極14となり、各仮焼体61〜63が焼結し一体化してアルミナセラミックス基体となる。その後、このアルミナセラミックス基体に研削加工又はブラスト加工を施すことにより所望の形状、厚みに調整し、機械加工を施すことにより貫通孔24を形成し、プレート12を得る。ホットプレス焼成では、少なくとも最高温度(焼成温度)において、プレス圧力を30〜300kgf/cm2とすることが好ましく、50〜250kgf/cm2とすることがより好ましい。また、最高温度は、アルミナ粉体にフッ化マグネシウムが添加されているため、フッ化マグネシウムが添加されていない場合に比べて低温(1120〜1300℃)に設定すればよい。雰囲気は、大気雰囲気、不活性雰囲気、真空雰囲気の中から、適宜選択すればよい。
【0037】
以上詳述した本実施形態の静電チャックヒータ10によれば、中央ヒータ電極164の端子間に電圧をかけたときの発熱量は、貫通孔24を取り囲む部分P1の方が通常の部分P2に比べて大きいため、プレート12のうち貫通孔24が設けられた箇所の温度が低くなるのを抑制することができる。したがって、プレート12の貫通孔周辺の均熱設計を容易に行うことができる。
【0038】
また、中央ヒータ電極164は、複数の抵抗発熱層が積層された構造であるため、貫通孔24を取り囲む部分P1の積層構造において体積抵抗率の高い抵抗発熱層の層数を適宜調整することにより、貫通孔周辺の均熱設計を容易に行うことができる。例えば、通常の部分P2に比べて貫通孔24を取り囲む部分P1の体積抵抗率を僅かに高くしたい場合には図7(a),(b)のように1つの抵抗発熱層P1d(又はP1a)の体積抵抗率を高くすればよく、もう少し高くしたい場合には図7(c),(d)のように2つの抵抗発熱層P1c,P1d(又はP1a,P1b)の体積抵抗率を高くすればよく、更に高くしたい場合には図7(e),(f)のように3つの抵抗発熱層P1b〜P1d(又はP1a〜P1c)の体積抵抗率を高くすればよく、最大にしたい場合には図4のようにすべての抵抗発熱層P1a〜P1dの体積抵抗率を高くすればよい。ここで、貫通孔24を取り囲む部分P1が図7(a)〜(f)のいずれかである中央ヒータ電極164の抵抗発熱層を1層ずつ作製する場合、貫通孔24を取り囲む部分P1の抵抗発熱層のうち体積抵抗率の高い材料で形成される抵抗発熱層以外は、通常の部分P2を構成する抵抗発熱層と同時に作製することができる。なお、通常の部分P2に比べて貫通孔24を取り囲む部分P1の体積抵抗率が高くなるのであれば、抵抗発熱層P1a〜P1dの中に体積抵抗率が抵抗発熱層P2a〜P2dより低いものが存在していてもよい。
【0039】
更に、体積抵抗率を高くすべき貫通孔24を取り囲む部分P1を、帯状のラインのうち貫通孔24に最も近接する円弧状の部分としたため、帯状のラインのうち貫通孔24に2番目、3番目、……に近接する部分の体積抵抗率を高くする必要がない。そのため、プレート12全体の均熱性を向上することが設計上容易になる。
【0040】
更にまた、貫通孔24を、ウエハWを持ち上げるリフトピンを挿通するためのピン孔としたが、このピン孔は比較的径が大きいことが多いため、本発明を適用する意義が高い。
【0041】
そしてまた、静電チャックヒータ10は、プレート12のウエハ載置面とは反対側の面に接合された冷却板20を備えているため、プレート12のうち貫通孔24が設けられた箇所はより低温になりやすい。そのため、本発明を適用する意義が高い。
【0042】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0043】
例えば、上述した実施形態では、プレート12を外周ゾーンと中央ゾーンの2つに分けてヒータ電極16をゾーンごとに設けた(つまり外周ヒータ電極162と中央ヒータ電極164を設けた)が、2つのゾーンに分けることなくプレート12全体にヒータ電極16を設けてもよいし、3つ以上のゾーンに分けてヒータ電極16をゾーンごとに設けてもよい。いずれにしても、ヒータ電極16のうち貫通孔24を取り囲む部分P1の体積抵抗率が通常の部分P2と比べて高くなるようにすればよい。
【0044】
上述した実施形態では、貫通孔24としてリフトピンを挿通するピン孔を例示したが、特にピン孔に限定されるものではない。例えば、貫通孔24は、プレート12の上面に載置されたウエハWの裏面に冷却ガスを供給してウエハWを冷却するためのガス供給孔であってもよい。
【0045】
上述した実施形態では、ヒータ電極用ペースト71や静電電極用ペースト72をスクリーン印刷したが、特にこれに限定されない。例えば、スクリーン印刷の代わりにPVDやCVD、メッキ等を用いてもよい。
【0046】
上述した実施形態では、通常の部分P2として、ヒータ電極164のうち貫通孔24を取り囲む部分P1に隣接する部分を採用したが、中央ヒータ電極164のうち貫通孔24などのように温度が低くなりやすい低温化要素の周辺を除いた部分であればどこでもよい。
【0047】
上述した実施形態では、図6に示した製法によりプレート12を作製したが、特にこれに限定されない。例えば、上述した実施形態ではスラリーをゲル化することで第1〜第3の成形体51〜53を作製したが、グリーンシートを積層することで第1〜第3の成形体51〜53を作製してもよい。あるいは、第1〜第3の成形体51〜53を仮焼する工程を省略し、第1の成形体51にヒータ電極用ペースト71を印刷すると共に第3の成形体53に静電電極用ペースト72を印刷し、その後、第1〜第3の成形体51〜53をホットプレス焼成してもよい。あるいは、第1の仮焼体61を焼成した第1の焼成体にヒータ電極用ペースト71を印刷したものを印刷面が上になるように金型に入れ、その上にセラミックス造粒顆粒を所定の厚さになるように敷き詰め、その上に第3の仮焼体63を焼成した第3の焼成体に静電電極用ペースト72を印刷したものを印刷面が下になるように載せ、金型の上下から加圧してホットプレス焼成を行うことでプレート12を作製してもよい。
【0048】
上述した実施形態では、ヒータ電極16の縦断面は複数の抵抗発熱層を積層した構造としたが、単層の抵抗発熱層としてもよい。この場合も、ヒータ電極16のうち貫通孔24を取り囲む部分P1は通常の部分P2と比べて体積抵抗率の高い材料で形成されるようにする。単層の抵抗発熱層は、単層の抵抗発熱原料層を焼成して作製してもよいし、複数の抵抗発熱原料層を積層したものを焼成して各抵抗発熱原料層が渾然一体(つまり単層)になるように作製してもよい。例えば、前者の場合、貫通孔24を取り囲む部分P1の抵抗発熱原料層の方が通常の部分P2の抵抗発熱原料層よりも体積抵抗率の高いものを用いてもよい。後者の場合、貫通孔24を取り囲む部分P1の少なくとも1つの抵抗発熱原料層が、通常の部分P2を構成する各抵抗発熱原料層と比べて体積抵抗率が高いものを用いてもよい。
【符号の説明】
【0049】
10 静電チャックヒータ、12 プレート、14 静電電極、16 ヒータ電極、18 接合層、20 冷却板、22 冷媒通路、24 貫通孔、26 絶縁管、51〜53 第1〜第3の成形体、61〜63 第1〜第3の仮焼体、71 ヒータ電極用ペースト、72 静電電極用ペースト、162 外周ヒータ電極、162a 一端、162b 他端、164 中央ヒータ電極、164a 一端、164b 他端、P1 貫通孔24を取り囲む部分、P1a〜P1d 抵抗発熱層、P2 通常の部分、P2a〜P2d 抵抗発熱層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7