(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6496701
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】コークス炉の補修用のモジュールブロックを運搬する炉上台車
(51)【国際特許分類】
C10B 29/06 20060101AFI20190325BHJP
C10B 29/02 20060101ALI20190325BHJP
F27D 1/16 20060101ALI20190325BHJP
【FI】
C10B29/06
C10B29/02
F27D1/16 Q
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-217142(P2016-217142)
(22)【出願日】2016年11月7日
(65)【公開番号】特開2018-76393(P2018-76393A)
(43)【公開日】2018年5月17日
【審査請求日】2018年1月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】599090615
【氏名又は名称】株式会社メガテック
(74)【代理人】
【識別番号】100105968
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】長尾 康平
(72)【発明者】
【氏名】隈元 幸裕
(72)【発明者】
【氏名】大里 泰之
(72)【発明者】
【氏名】高野 要
(72)【発明者】
【氏名】迫 佳司
(72)【発明者】
【氏名】李 崇基
(72)【発明者】
【氏名】田口 和孝
(72)【発明者】
【氏名】山田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】一之瀬 智史
【審査官】
森 健一
(56)【参考文献】
【文献】
実開平6−37340(JP,U)
【文献】
特開2001−19969(JP,A)
【文献】
特開2015−10145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B 29/02
C10B 29/06
F27D 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス炉の燃焼室の壁体と天井を補修する際に、コークス炉上を走行してモジュールブロックを運搬する炉上台車であって、前記モジュールブロックを積載するブロック積載床と、該ブロック積載床を前記コークス炉上に設置された装炭車走行用レールに沿って走行させるためのブロック積載床車輪と、前記ブロック積載床上に設置されかつ前記装炭車走行用レールに対して平行な門型クレーン走行用レールと、該門型クレーン走行用レールに沿って門型クレーンを走行させるための門型クレーン車輪と、前記門型クレーンによって水平に支持されかつ前記装炭車走行用レールに対して垂直なメインビームと、該メインビームを上下方向に昇降させる昇降装置と、前記メインビームを水平方向に移動させる横移動装置と、前記メインビームに沿って走行するメインホイストと、を有することを特徴とするコークス炉補修用の炉上台車。
【請求項2】
前記ブロック積載床車輪と前記門型クレーン車輪がモーターによって駆動されることを特徴とする請求項1に記載のコークス炉補修用の炉上台車。
【請求項3】
前記昇降装置がパワーシリンダーであることを特徴とする請求項1または2に記載のコークス炉補修用の炉上台車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉の燃焼室の壁体と天井を補修する際に、コークス炉上でモジュールブロックを運搬する台車(以下、炉上台車という)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図3はコークス炉の要部を模式的に示す水平断面図であり、
図4は燃焼室壁体の例を模式的に示す斜視図である。
一般にコークス炉は、
図3に示すように、石炭を乾留する炭化室2、燃料ガスを燃焼させる燃焼室1、燃焼排ガスの余熱を利用して燃料ガスや燃焼用空気を予め加熱する蓄熱室(図示せず)で構成され、燃焼室1と炭化室2は交互に配置される。つまり
図4に示すように、互いに隣接する炭化室2を隔離する耐火煉瓦の壁体3の内部に燃焼室1が形成される。
そしてコークス炉の操業中に、炭化室2へ石炭を装入し、さらに燃焼室1で発生する燃焼熱によって乾留した後、得られたコークスを炭化室2から排出する作業が繰り返し行なわれる。その結果、耐火煉瓦で形成される壁体3が損耗し、燃焼室1から燃焼排ガスや未燃焼の燃料ガスが炭化室2内に漏出するという問題が生じる。
【0003】
そこで、燃焼室1の壁体3を適宜補修しなければならないが、コークス炉の燃焼室1と炭化室2を全て停止して補修を行なうのはコークスの生産に支障を来たす。したがって、コークス炉を操業しながら、補修の対象となる燃焼室1のみ燃焼を停止して、補修を行なう。その補修工事の手順は、
(A)補修すべき燃焼室1の壁体3と天井を解体して炉外へ搬出し、
その後、
(B)新たに壁体3と天井を構築する
という2段階の工程に大別される。
従来から上記(B)の工程では、作業員が炉内で耐火煉瓦を1個ずつ積み上げて壁体3と天井を構築している。しかし、耐火煉瓦の積み上げを手作業で行なうので、極めて長時間を要する。しかも作業環境が高温であるから、作業員の安全を確保するための装備が必要となり、施工コストの上昇を招く。
【0004】
そこで、耐火煉瓦を積み上げて所定の形状(すなわち壁体3や天井の一部をなす形状)に成形した耐火煉瓦集合体(以下、モジュールブロックという)を、炉外の地組場で予め製作しておき、上記(B)の工程でそのモジュールブロックを炉内に搬入して、壁体3と天井を構築する補修工事が普及し始めている。モジュールブロックを用いることによって、補修工事を効率良く行なうことが可能となり、工期の短縮を図ることができる。しかも、作業員の負荷が軽減され、安全性が向上するという効果も得られる。
ところがモジュールブロックは、寸法の大きい重量物であるから、作業員が持ち運ぶのは不可能である。
この問題に対して、モジュールブロックをコークス炉内に搬入する装置が開発されている。
【0005】
たとえば特許文献1には、路面を走行する運搬車に載置したモジュールブロックを吊り上げてコークス炉内に搬入する装置が開示されている。しかしこの技術は、天井の下側に取り付けられた炉内ビームに沿って、吊り具を走行させてモジュールブロックを炉内に搬入するので、燃焼室の壁体のみ解体して再び構築する場合に使用できるが、天井も解体して再び構築する場合には使用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-19969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来の技術の問題点を解消し、コークス炉の燃焼室の壁体および天井を新たに構築するためのモジュールブロックを補修工事の場所へ効率良く運搬し、さらに、そのモジュールブロックを炉内へ容易かつ安全に搬入することができる炉上台車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、コークス炉の燃焼室の壁体および天井を、モジュールブロックで新たに構築するためには、天井の上方から吊り下ろす必要があることから、天井の上面に設置されている装炭車走行用レールに着目した。装炭車走行用レールは、上記の工程(A)が終了した後(すなわち補修すべき燃焼室の壁体と天井を解体して炉外へ搬出した後)も取り外されず、炉体を支持する構造物(以下、炉体構造物という)とともに天井上面の所定の位置に残留する。したがって、装炭車走行用レールを走行する炉上台車でモジュールブロックを運搬すれば、補修工事の場所へ効率良く運搬できる。
また、炉上台車は天井の上方を走行するので、炉上台車からモジュールブロックを吊り下ろすことによって、燃焼室の壁体のみならず天井も新たに構築することができる。
【0009】
本発明は、このような知見に基づいてなされたものである。
すなわち本発明は、コークス炉の燃焼室の壁体と天井を補修する際に、コークス炉上を走行してモジュールブロックを運搬する炉上台車であって、モジュールブロックを積載するブロック積載床と、ブロック積載床をコークス炉上に設置された装炭車走行用レールに沿って走行させるためのブロック積載床車輪と、ブロック積載床上に設置されかつ装炭車走行用レールに対して平行な門型クレーン走行用レールと、門型クレーン走行用レールに沿って門型クレーンを走行させるための門型クレーン車輪と、門型クレーンによって水平に支持されかつ装炭車走行用レールに対して垂直なメインビームと、メインビームを上下方向に昇降させる昇降装置と、メインビームを水平方向に移動させる横移動装置と、メインビームに沿って走行するメインホイストと、を有するコークス炉補修用の炉上台車である。
【0010】
本発明の炉上台車は、ブロック積載床車輪と門型クレーン車輪がモーターによって駆動されることが好ましい。また、昇降装置としてパワーシリンダーを使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、コークス炉の燃焼室の壁体および天井を新たに構築するためのモジュールブロックを補修工事の場所へ効率良く運搬し、さらに、そのモジュールブロックを炉内へ容易かつ安全に搬入することが可能となり、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の炉上台車からコークス炉内へモジュールブロックを吊り下ろす例を模式的に示す垂直断面図である。
【
図3】コークス炉の要部を模式的に示す水平断面図である。
【
図4】
図2の壁体の例を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、補修すべき燃焼室の壁体と天井を解体して炉外へ搬出(上記(A)の工程)した後、本発明の炉上台車5を用いてモジュールブロック4を運搬し、そのモジュールブロック4を吊り下ろす例を模式的に示す垂直断面図である。
図2は、
図1中の炉上台車の正面図である。なお
図1は、壁体3を下部から順次構築(上記(B)の工程)していく過程を示しており、天井は解体された状態で開放されている。したがって
図1に示すように、モジュールブロック4を炉上台車5からコークス炉内へ吊り下ろすことができる。
【0014】
そして、新たな壁体3の構築が終了すると、引き続き、天井を新たに構築していく。そのときも炉上台車5でモジュールブロック4を運搬し、そのモジュールブロック4を吊り下ろして作業を行なう。炉上台車5は、天井の上面に設置されている装炭車走行用レール6を走行するので、このように吊り下ろして作業を進めることが可能である。
【0015】
以下では
図1を参照して、壁体3を新たに構築する例について説明する。なお、
図1ではコークス炉に併設される押出機と消火車は図示を省略するが、
図1の右側を便宜的に押出機側とし、左側を消火車側とする。
【0016】
補修工事で使用するモジュールブロック4は、炉外の地組場で耐火煉瓦や不定形耐火物等を用いて予め製作されており、地組場からコークス炉近辺まで運送機器(たとえばトラック等)で搬送される。一方で炉上台車5はコークス炉上の待機場所で待機しており、クレーン(図示せず)等の吊り上げ装置でモジュールブロック4を運送機器から吊り上げて、炉上台車5のブロック積載床9に積載する。
【0017】
既に説明した通り、コークス炉の補修工事においては、コークス炉を操業しながら、補修の対象となる燃焼室のみ燃焼を停止して、補修を行なう。したがって、補修すべき燃焼室の壁体と天井を解体して炉外へ搬出した後も、炉体構造物7は解体せずに残置する。装炭車走行用レール6は、その炉体構造物7に固定されているので、モジュールブロック4を積載した炉上台車5の荷重を支えることができる。
【0018】
炉上台車5は、装炭車走行用レール6を走行するためのブロック積載床車輪8を備えている。ブロック積載床車輪8が駆動装置を取り付けていない場合は、作業員が炉上台車5を押すことによって装炭車走行用レール6上を走行する。作業員の負荷を軽減するためには、ブロック積載床車輪8に駆動装置を取り付けることが好ましい。ブロック積載床車輪8の駆動装置は、モーター(たとえば電動モーター、油圧モーター等)などの従来から知られている機器を使用する。
こうして、炉上台車5は、待機場所から補修すべき燃焼室の場所へ移動する。
【0019】
ブロック積載床9の上面には、門型クレーン10を走行させるためのレール17(以下、門型クレーン走行用レールという)が設置される。なお、その門型クレーン走行用レール17は装炭車走行用レール6に対して平行に設置され、門型クレーン10は門型クレーン走行用レール17に沿って走行(
図2中の矢印C)できるように門型クレーン車輪18を備えている。門型クレーン車輪18が駆動装置を取り付けていない場合は、作業員が門型クレーン10を押すことによって門型クレーン走行用レール17上を走行する。作業員の負荷を軽減するためには、門型クレーン車輪18に駆動装置を取り付けることが好ましい。門型クレーン車輪18の駆動装置は、モーター(たとえば電動モーター、油圧モーター等)などの従来から知られている機器を使用する。
【0020】
ただしコークス炉の燃焼室の補修は高温の環境で行なうので、油圧モーターの作動油が漏出した場合に、作業の安全性に関わる問題(たとえば漏出した作動油からの出火等)を引き起こす。したがって、ブロック積載床車輪8および門型クレーン車輪18の駆動装置として電動モーターを使用することが好ましい。
【0021】
そして、門型クレーン10によってメインビーム13が水平に支持される。メインビーム13は装炭車走行用レール6に対して垂直に支持される。また、門型クレーン10の支柱にはメインビーム13を上下方向に移動(
図1中の矢印A)させるための昇降装置14、および、メインビーム13を水平方向(すなわち長手方向)に移動(
図1中の矢印B)させるための横移動装置16が配設される。
【0022】
なお、油圧シリンダーを用いてもメインビーム13を昇降あるいは移動させることは可能であるが、油圧シリンダーの作動油が漏出する惧れがある。コークス炉の燃焼室の補修は、高温の環境で行なうので、作動油の漏出は作業の安全性に関わる問題(たとえば漏出した作動油からの出火等)を引き起こす。したがって本発明では、モーター、ギヤ、ネジで構成される電動シリンダー(いわゆるパワーシリンダー)を昇降装置14として使用し、モーター、ラック、ピニオンギアで構成されるラック・アンド・ピニオンを横移動装置16として使用し、両方を組み合わせて使用することが好ましい。
【0023】
メインビーム13には、ホイストクレーン12(以下、メインホイストという)が走行可能に取り付けられる。そして門型クレーン10がメインホイスト12とともに、門型クレーン走行用レール17上を走行して、ブロック積載床9に積載されたモジュールブロック4の上方にメインホイスト12が到達した時に停止する。引き続き、メインホイスト12を操作してモジュールブロック4をブロック積載床9から吊り上げる。
【0024】
次に、モジュールブロック4を吊り上げたメインホイスト12とともに門型クレーン10が門型クレーン走行用レール17上を走行して、補修すべき燃焼室の開放された天井から、モジュールブロック4をメインホイスト12で吊り下ろして炉内に搬入し、壁体3を新たに構築する。
【0025】
本発明の炉上台車5の門型クレーン10は、昇降装置14と横移動装置16を備えているので、門型クレーン走行用レール17上を走行する際にダクト19等との衝突を容易に回避できる。
【0026】
こうして補修すべき燃焼室の開放された天井の位置で停止した門型クレーン10からモジュールブロック4をメインホイスト12で吊り下ろすことによって、押出機側から消火車側に至る壁体3の中央部分のみならず、メインビーム13を長手方向(矢印Bの方向)に横移動させることによって押出機側の端部や消火車側の端部にもジュールブロック4をメインホイスト12で吊り下ろすことができる。
【0027】
このようにして新たな壁体3の構築が終了すると、引き続き、炉上台車5を用いてモジュールブロック4を運搬し、そのモジュールブロック4をメインホイスト12で吊り下ろして、天井を新たに構築する。
【0028】
以上に説明した通り、本発明の炉上台車を使用することによって、コークス炉の燃焼室の壁体および天井を新たに構築するためのモジュールブロックを補修工事の場所へ効率良く運搬し、さらに、そのモジュールブロックを炉内へ容易かつ安全に搬入することが可能となる。
【0029】
なお
図1では、吊り具15の例として、モジュールブロック4の側面を挟持する例を示したが、吊り具15の構成は特に限定しない。たとえば、モジュールブロック4を板状の床に載置する吊り具等も、支障なく使用できる。
【0030】
また、本発明の炉上台車は、1燃焼室の壁体と天井を全て再構築する場合のみならず、壁体と天井を部分的に再構築する場合にも使用できる。
【実施例】
【0031】
コークス炉(炉高6m、炉長34フリュー)の1燃焼室の壁体と天井を全て解体して炉外へ搬出(上記(A)の工程)した後、
図1に示す本発明の炉上台車を用いてモジュールブロックを炉内に搬入して、壁体と天井を新たに構築(上記(B)の工程)した。モジュールブロックは、組み込まれる壁体や天井の部位に応じて形状が異なるが、合計93個のモジュールブロックを地組場で製作した。これを発明例とする。
【0032】
一方、従来は、壁体を全て解体して炉外へ搬出(上記(A)の工程)した後、作業員が耐火煉瓦を積み上げて、壁体を再構築(上記(B)の工程)していた。これを従来例とする。
【0033】
発明例と従来例について、上記(B)の工程に要した日数を比較したところ、発明例の所要日数Mは、従来例の所要日数Nに対してM/Nは約1/3であった。
【符号の説明】
【0034】
1 燃焼室
2 炭化室
3 壁体
4 モジュールブロック
5 炉上台車
6 装炭車走行用レール
7 炉体構造物
8 ブロック積載床車輪
9 ブロック積載床
10 門型クレーン
11 支柱
12 メインホイスト
13 メインビーム
14 昇降装置
15 吊り具
16 横移動装置
17 門型クレーン走行用レール
18 門型クレーン車輪
19 ダクト