特許第6496727号(P6496727)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニアの特許一覧 ▶ ユナイテッド ステイツ ガバメント リプレゼンテッド バイ ザ デパートメント オブ ベテランズ アフェアーズの特許一覧

特許6496727ベータラクタム系抗生物質に対する感受性を迅速に判定するためのアムジノシリン
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6496727
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月3日
(54)【発明の名称】ベータラクタム系抗生物質に対する感受性を迅速に判定するためのアムジノシリン
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/06 20060101AFI20190325BHJP
   C12Q 1/6813 20180101ALI20190325BHJP
   C12Q 1/689 20180101ALI20190325BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20190325BHJP
【FI】
   C12Q1/06
   C12Q1/6813 Z
   C12Q1/689 ZZNA
   !C12N15/09 Z
【請求項の数】14
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2016-529838(P2016-529838)
(86)(22)【出願日】2014年7月22日
(65)【公表番号】特表2016-525357(P2016-525357A)
(43)【公表日】2016年8月25日
(86)【国際出願番号】US2014047684
(87)【国際公開番号】WO2015013324
(87)【国際公開日】20150129
【審査請求日】2017年7月19日
(31)【優先権主張番号】61/857,676
(32)【優先日】2013年7月23日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591052398
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】THE REGENTS OF THE UNIVERSITY OF CALIFORNIA
(73)【特許権者】
【識別番号】516019231
【氏名又は名称】ユナイテッド ステイツ ガバメント リプレゼンテッド バイ ザ デパートメント オブ ベテランズ アフェアーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ハーケ,デービッド
(72)【発明者】
【氏名】チャーチル,バーナード エム.
(72)【発明者】
【氏名】ハルフォード,コリン
【審査官】 柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】 Antimicrob. Agents Chemother., (2013.02), 57, [2], p.936-943
【文献】 Antimicrob. Agents Chemother., (1976), 9, [4], p.701-705
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
Google
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の細菌ベータラクタム系抗生物質に感受性であるかどうかを判定するための方法であって、
(a)前記試料から得られた検体を前記ベータラクタム系抗生物質の非存在下かつアムジノシリンの存在下でオリゴヌクレオチドプローブまたは対のプローブと接触させる段階であって、前記プローブまたは対のプローブが標的配列の全長にわたって標的配列に特異的にハイブリダイズし、前記標的配列がプレリボソームRNA(prRNA)尾部と成熟リボソームRNA(mrRNA)との間のスプライス部位にわたるmrRNAまたはリボソームRNAの連続する25〜35個のヌクレオチドを含む、段階と、
(b)前記試料から得られた検体を前記ベータラクタム系抗生物質の存在下かつアムジノシリンの存在下で前記プローブまたは対のプローブと接触させる段階と、
(c)(a)および(b)の前記検体中の前記標的配列へのプローブハイブリダイゼーションの相対量を検出する段階と、
(d)段階(b)の前記標的配列へのプローブハイブリダイゼーションの量が段階(a)の前記標的配列へのプローブハイブリダイゼーションの量に比べて減少している場合、前記細菌前記ベータラクタム系抗生物質に感受性であると見なす段階と
を含む、方法。
【請求項2】
前記段階(a)および(b)の接触の前に前記検体を増殖培地中に接種することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記rRNAが23S rRNAである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記標的配列が、
(a)大腸菌(E.coli)(すべての腸内細菌科)標的配列:
AATGAACCGTGAGGCTT|AACCTTACAACGCCGAAGCTGTTTTGGCGGATTG(配列番号1);
(b)緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)標的配列:
AATTGCCCGTGAGGCTT|GACCATATAACACCCAAACAATCTGACGATTGT(配列番号2);
(c)化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)標的配列:
AATAGCTCGAGGACTT|ATCCAAAAAGAAATATTGACAACGTTACGGATTCTTG(配列番号3);
(d)黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)標的配列:
AATCGATCGAAGACTT|AATCAAAATAAATGTTTTGCGAAGCAAAATCACTT(配列番号4)
から選択され、
|が前記prRNAとmRNAとの間のスプライス部位を表す、
請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記対のプローブが、
(a)大腸菌(E.coli)(すべての腸内細菌科)プローブ:5’−AAGCCTCACGGTTCATT(配列番号5)およびGGCGTTGTAAGGTT(配列番号6);
(b)緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)プローブ:5’−AAGCCTCACGGGCAATT(配列番号7)およびGGTGTTATATGGTC(配列番号8);
(c)化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)プローブ:AAGTCCTCGAGCTATT(配列番号9)およびATTTCTTTTTGGAT(配列番号10);ならびに
(d)黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)プローブ:AAGTCTTCGATCGATT(配列番号11)およびCATTTATTTTGATT(配列番号12)
から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
段階(a)または(b)の接触の前にprRNAを枯渇させるための前記検体の前処理を実施しない、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記検出が光学アッセイ、電気化学アッセイまたは免疫アッセイを含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記検出が電気化学アッセイを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記段階(a)および(b)の接触の前に前記細菌からrRNAを放出させる条件下で前記細菌を溶解させることをさらに含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記オリゴヌクレオチドプローブまたは対のプローブそれぞれ10〜50ヌクレオチドの長さである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記オリゴヌクレオチドプローブが検出可能なマーカーで標識される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記マーカーが蛍光標識、放射性標識、発光標識、酵素、ビオチン、チオールまたは色素からなる群より選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ベータラクタム系抗生物質である候補抗生物質の抗生物質効果を判定するための方法であって、
(a)試料から得られた検体を前記候補抗生物質の非存在下かつアムジノシリンの存在下でオリゴヌクレオチドプローブまたは対のプローブと接触させる段階であって、前記プローブまたは対のプローブが標的配列の全長にわたって標的配列に特異的にハイブリダイズし、前記標的配列がプレリボソームRNA(prRNA)尾部と成熟リボソームRNA(mrRNA)との間のスプライス部位にわたるmrRNAまたはリボソームRNAの連続する25〜35個のヌクレオチドを含む段階と、
(b)前記試料から得られた検体を前記候補抗生物質の存在下かつアムジノシリンの存在下で前記プローブまたは対のプローブと接触させる段階と、
(c)(a)および(b)の前記検体中の前記標的配列へのプローブハイブリダイゼーションの相対量を検出する段階と、
(d)段階(b)の前記標的配列へのプローブハイブリダイゼーションの量が段階(a)の前記標的配列へのプローブハイブリダイゼーションの量に比べて少なくとも10%減少している場合前記候補抗生物質は効果があると見なす段階と
を含む、方法。
【請求項14】
前記検体が細菌感染症であるか細菌感染症であることが疑われる患者から得られた血液または血清を含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2013年7月23日に出願された米国特許仮出願第61/857,676号の利益を主張するものであり、上記出願の内容全体は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
(連邦支援による研究に関する記述)
本発明は、AI075565の下、米国国立衛生研究所により授与された政府支援を受けてなされたものである。政府は本発明に一定の権利を有する。本研究は米国退役軍人省による支援を受けたものであり、連邦政府は本発明に一定の権利を有する。
【0003】
本発明は全般的には、体液検体をはじめとする試料中の細菌の抗生物質感受性を試験し判定する材料および方法に関する。本発明はこのほか、細菌の抗菌剤に対する生理学的応答を監視する材料および方法に関する。
【背景技術】
【0004】
感染症の診断および治療を導くべく臨床検体中の抗生物質耐性細菌性病原体を検出し同定するための迅速で簡便な方法の開発が喫緊に必要とされている。抗生物質療法は、病原体を同定し、その抗生物質感受性を明らかにすることを土台とする。疾患が重篤なものであるため治療が遅れてはならず、このため、そのような情報が得られる前に治療を開始することが多い。個々の抗生物質の効果は、細菌性病原体の抗生物質に対する耐性によって異なる。抗生物質感受性の迅速な検査法を利用できれば、治療転帰を大幅に改善することが可能になる。
【0005】
抗生物質感受性を検出および試験する迅速で簡便な方法の開発が未だ喫緊に必要とされている。特に、ベータラクタム系抗生物質に対する感受性を検出する方法を開発することが未だ必要とされている。本発明は、以下に記載するように、この要求などに対処するものである。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、目的とする細菌の試料が、ペニシリン結合タンパク質(PBP)に優先的に結合する抗生物質などの抗生物質に感受性であるかどうかを判定する方法を提供する。一実施形態では、方法は、目的とする細菌のリボソームリボ核酸RNA(rRNA)またはプレリボソームRNA(prRNA)の標的配列に特異的に結合するプローブを接触させることを含む。一実施形態では、標的配列は、prRNAと成熟リボソームRNA(mrRNA)の間にジャンクション部位またはスプライス部位を含む。プローブは、捕捉プローブおよび検出プローブなどの単一プローブまたは対のプローブであり得る。一実施形態では、プローブは、prRNA−mrRNAスプライス部位にわたる標的配列に特異的にハイブリダイズする単一プローブである。別の実施形態では、プローブは、全体として、prRNA−mrRNAスプライス部位にわたる標的配列に特異的にハイブリダイズする対のプローブである。例えば、一方のプローブがprRNA−mrRNAスプライス部位の片側にハイブリダイズでき、プローブの他方がスプライス部位にわたる連続する長さのprRNAの標的配列にハイブリダイズする。いくつかの実施形態では、1つまたは複数のプローブがmrRNAまたはprRNAのいずれかに結合する。プローブを、抗生物質の存在下と非存在下の両方で、およびアムジノシリンなどのペニシリン結合タンパク質(PBP)2特異的抗生物質の存在下で試料と接触させる。抗生物質の存在下でのプローブハイブリダイゼーションの量が、抗生物質の非存在下でのプローブハイブリダイゼーションの量に比べて減少している場合、その試料が抗生物質に感受性であることを示す。それに対して、抗生物質の存在下でのプローブハイブリダイゼーションの量が、抗生物質の非存在下でのプローブハイブリダイゼーションの量と同様であれば、その試料が抗生物質に耐性であることを示す。あるいは、抗生物質治療と同時に患者にアムジノシリンを投与できる。その後、細菌感染レベルを監視でき、治療後に細菌感染レベルが低下すれば、それは抗生物質治療に感受性である細菌を原因とする感染症を示す。
【0007】
別の実施形態では、この方法は、細菌試料から採取した検体を、抗生物質の非存在下でオリゴヌクレオチドプローブまたは対のプローブと接触させることを含む。一実施形態では、プローブまたは対のプローブは、標的配列の全長にわたって標的配列に特異的にハイブリダイズし、この標的配列は、プレリボソームRNA(prRNA)尾部と成熟リボソームRNA(mrRNA)の間のスプライス部位にわたる細菌リボソームRNA(rRNA)の連続する25〜35個のヌクレオチドからなる。この方法はさらに、試料から採取した検体を、抗生物質の存在下およびアムジノシリン(メシリナムとしても知られる)などのペニシリン結合タンパク質(PBP)2特異的抗生物質の存在下でプローブまたは対のプローブと接触させることと、2つの接触条件下での検体の標的配列へのプローブハイブリダイゼーションの相対量を検出することとを含む。抗生物質の存在下での標的配列へのプローブハイブリダイゼーションの量が、抗生物質の非存在下での標的配列へのプローブハイブリダイゼーションの量に比べて有意な量だけ減少している場合、その試料は抗生物質治療に感受性であると見なされる。任意選択で、この方法は、接触段階の前に検体を増殖培地に接種することをさらに含む。
【0008】
細菌rRNAは16S rRNAまたは23S rRNAであり、あるいは5S rRNAであり得る。rRNAは通常、23S rRNAである。1つまたは複数のオリゴヌクレオチドプローブは通常、それぞれ長さが約10〜50ヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、プローブは長さが12〜30ヌクレオチドであり、他の実施形態では、プローブは長さが14〜20ヌクレオチドの範囲の長さである。任意選択で、オリゴヌクレオチドプローブを検出可能なマーカーで標識する。代表的なマーカーとしては、特に限定されないが、蛍光標識、放射性標識、発光標識、酵素、ビオチン、チオールまたは色素が挙げられる。この方法の検出段階は、光学アッセイ、電気化学アッセイまたは酵素結合免疫測定法(ELISA)などの免疫アッセイを含み得る。
【0009】
一実施形態では、この方法は、接触段階の前に細菌からprRNAを放出させる条件下で細菌を溶解させることをさらに含む。したがって、試料を溶菌剤の存在下で調製し得る。溶菌剤は、標的部位に損傷を与えずにprRNAが放出されるよう選択するのが好ましい。prRNA−mrRNAスプライス部位を標的とすることは、この方法が、プローブを試料と接触させる前にprRNAを枯渇させるための検体の前処理なしで、および測定に干渉するスプライスされたprRNA尾部を含まずに実施され得ることを意味する。このような前処理なしでこの方法を実施できることによって、感受性判定の迅速な処理が容易になる。
【0010】
感受性試験に用いる抗生物質としては、特に限定されないが、リファンピシン、クロラムフェニコール、アミノグリコシド類、キノロン類、またはベータラクタム系抗生物質が挙げられる。さらに、本明細書に記載される方法を用いて、新規抗生物質または候補抗生物質の効果を試験できる。いくつかの実施形態では、この方法を用いて、細菌を含有する検体を採取した対象の診断および治療を導く。例えば、この方法を用いて、検体が感受性を示す抗生物質または抗生物質の種類が特定されれば、この方法は、対象にその抗生物質を投与することをさらに含み得る。
【0011】
このほか、ベータラクタム系抗生物質およびペニシリン結合タンパク質(PBP)に優先的に結合する抗生物質に対する感受性試験の増強および/または加速する方法が提供される。この方法は、アムジノシリンなどのペニシリン結合タンパク質(PBP)2特異的抗生物質の存在下で感受性試験を実施することを含む。この方法は、PBPに優先的に結合する抗生物質、例えばペニシリン系、セファロスポリン系、カルバペネム系、およびモノバクタム系抗生物質などに使用するのに特に適している。PBPに優先的に結合する抗生物質の例としては、特に限定されないが、アンピシリン、ピペラシリン、セフタジジム、セフトリアキソン、イミペネム、およびアズトレオナムが挙げられる。
【0012】
候補抗生物質の抗生物質効果を判定する方法は、試料から採取した検体を候補抗生物質の非存在下でオリゴヌクレオチドプローブまたは対のプローブと接触させ、このプローブまたは対のプローブが、標的配列の全長にわたって標的配列に特異的にハイブリダイズし、この標的配列が、プレリボソームRNA(prRNA)尾部とmrRNAの間のスプライス部位にわたる成熟リボソームRNA(mrRNA)またはリボソームRNAのいずれかの連続する25〜35個のヌクレオチドを含み、試料から採取した検体を、候補抗生物質の存在下およびアムジノシリンなどのPBP2特異的抗生物質の存在下でプローブまたは対のプローブと接触させることと、検体中の標的配列へのプローブハイブリダイゼーションの相対量を検出することとを含み得る。候補抗生物質の存在下での標的配列へのプローブハイブリダイゼーションの量が、候補抗生物質の非存在下での標的配列へのプローブハイブリダイゼーションの量に比べて減少している場合、候補抗生物質は効果があると見なされる。プローブハイブリダイゼーションの量の減少は通常、統計的に有意であり、それはいくつかの場合には少なくとも10%の量であり、好ましくは少なくとも20%であり、いくつかの実施形態では、減少量は30〜90%である。
【0013】
本発明は、細菌試料中の成熟rRNAまたはプレrRNAを検出する装置をさらに提供する。この装置は、一実施形態では、固体担体に固定化したオリゴヌクレオチドプローブを含み、このオリゴヌクレオチドプローブは長さが約10〜50ヌクレオチドであり、標的配列の全長にわたって標的配列に選択的にハイブリダイズできる。標的配列は通常、プレリボソームRNA(prRNA)尾部とmrRNAの間のスプライス部位にわたる成熟リボソームRNA(mrRNA)またはリボソームRNAの連続する25〜35個のヌクレオチドを含む。固体担体は通常、電極または膜である。ELISAウェル、または光学面もまた考慮される。
【0014】
本発明は、本明細書に記載される方法の実施に使用できるキットをさらに含む。このキットは、本明細書に記載されるものから選択されるオリゴヌクレオチドプローブまたは対のオリゴヌクレオチドプローブを含み得る。プローブは任意選択で、検出可能なマーカーで標識されていてもよい。キットは、この方法に使用するプローブ(1つまたは複数)および他の試薬を収納するための1つまたは複数の容器をさらに含み得る。
【0015】
本発明は、細菌培養物の増殖速度を監視するための方法も提供する。この方法は、培養物から採取した検体を、標的配列の全長にわたって標的配列に特異的にハイブリダイズするプローブまたは対のプローブと接触させることを含み、この標的配列は、プレリボソームRNA(prRNA)尾部とmrRNAの間のスプライス部位にわたる成熟リボソームRNA(mrRNA)またはリボソームRNAの連続する25〜35個のヌクレオチドを含む。この方法は、前の時点と比較した;および/または試験対象の増殖培地成分を含む対照もしくはこれを含まない対照と比較した、(a)の検体の標的配列へのプローブハイブリダイゼーションの量を検出することをさらに含む。この方法は、アムジノシリンなどのPBP2特異的抗生物質の存在下で実施し得る。後の時点での標的配列へのプローブハイブリダイゼーションの量が、前の時点での標的配列へのプローブハイブリダイゼーションの量に比べて増加している場合、培養物は増殖している、または対数増殖期にあると見なされる。
【0016】
本発明は、細菌感染症に罹患している患者が、抗生物質感受性細菌を原因とする感染を有するかどうかを判定する方法をさらに提供する。この方法は、患者にアムジノシリンおよびベータラクタム系抗生物質を投与することと、患者の細菌感染レベルを監視することと、抗生物質およびアムジノシリンの投与後に細菌感染レベルが減少する場合、その患者は抗生物質感受性細菌を原因とする感染症に罹患していると判定することとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】プレrRNAプローブ対が標的とする領域を示す図である。16S(配列番号49)および23S(配列番号50)プレrRNA分子の構造を示し、成熟rRNAの末端(ポインター)の位置と、16S 5’尾部(両矢印の2つの矢尻の間にある配列)ならびに16Sおよび23Sスプライス部位(括弧の間)に対する電気化学センサープローブ対が標的とする領域の位置とを含む。
図2】プレrRNAプローブ対の比較を示す図である。増殖の対数期および定常期にある大腸菌(E.coli)の検出についてプローブ対を試験した。対数期細胞および定常期細胞は、プレrRNAがそれぞれ高レベルおよび低レベルであり、定常期細胞に対する対数期細胞のシグナル比が高くなることが予想される。16SプレrRNAに対するプローブ対は対数期細胞に対して高い感度を示したが、定常期細胞に対する対数期細胞のシグナル比は低かった。成熟16Sおよび23S rRNAの末端のスプライス部位を標的とするいくつかのプローブ対は、定常期細胞に対する対数期細胞のシグナル比が他のものよりも高かった。23S rRNAの3’末端のスプライス部位を標的とするプローブ対が、感度と定常期細胞に対する対数期細胞の高いシグナル比とを併せて最も優れていた。
図3A-3B】大腸菌(E.coli)増殖中のプレrRNAおよびrRNAレベルの変動を示す図である。図3A:一晩(ON)培養物をのちに新鮮なMH増殖培地に接種し、37℃で7時間インキュベートしたときの成熟rRNA、プレrRNA、およびそれらの比の変化を測定した。図3B:様々な増殖期中の成熟RNA/プレRNA比および増殖速度の比較。増殖速度曲線は、各30分間でのCFUの変化から求めた加重平均である。エラーバーは標準偏差の概算値である。
図4A-4B】大腸菌(E.coli)の様々な増殖期中の細胞容積対rRNAコピー数を示す図である。図4A:OD600nm≦1.0の密度における細胞容積と1細胞当たりのrRNAコピー数との間の相関。図4B:対数期(2.5時間)〜定常期(7時間)のインキュベーション時間にわたり細胞が次第に小さくなることを示す電子顕微鏡像。エラーバーは標準偏差の概算値である。
図5A-5D】抗生物質に対する成熟rRNAおよびプレrRNAの応答を示す図である。抗生物質によってrRNAおよびプレrRNAに対する効果は異なる。リファンピシン(図5A)およびシプロフロキサシン(図5C)が新たなプレrRNAの転写を選択的に阻害したのに対して、クロラムフェニコール(図5B)およびゲンタマイシン(図5D)の添加は成熟rRNAを選択的に減少させた。エラーバーは標準偏差の概算値である。
図6A-6C】大腸菌(E.coli)のシプロフロキサシン感受性株と耐性株との比較を示す図である。大腸菌(E.coli)のシプロフロキサシン感受性の臨床分離株1種(EC103)およびシプロフロキサシン耐性分離株3種(EC135、EC139、およびEC197)の培養物中のrRNAおよびプレrRNAを測定した。EC103株中のプレrRNA量は、抗生物質添加から15分以内にシプロフロキサシン耐性分離株中のプレrRNA量よりも有意に低かった。エラーバーは標準偏差の概算値である。
図7】1細胞当たりのプレrRNAコピー数と細菌増殖速度との間の相関を示すグラフである。増殖速度は600nmにおける濁度または吸光度増加によって測定された総細胞容積に基づき、120分に、すなわち1細胞当たりのprRNAコピー数のピークと同じ時間に最大に達している。
図8】グラム陰性菌中でのプレrRNAプローブ対の評価を示す図である。成熟rRNA特異的プローブ対から生じたシグナルに対するプレrRNA特異的プローブ対から生じたシグナルの比を、一晩培養物(O/N)または定常期培養物と対数増殖期の培養物とで比較した。プレrRNAのシグナルは、対数期のクレブシエラ(Klebsiella)細胞中で定常期のクレブシエラ(Klebsiella)細胞中より4倍高く、対数期のシュードモナス(Pseudomonas)細胞中で定常期のシュードモナス(Pseudomonas)細胞中より6倍高かった。
図9】セファゾリンに対するプレrRNAの応答を示す図である。対数増殖期の大腸菌(E.coli)感受性株の培養物にセファゾリンを添加すると、30分以内にプレrRNAの量が抗生物質未添加の培養物に比して1対数減少した。エラーバーは標準偏差の概算値である。
図10】プレrRNA検出に含まれる段階を示す流れ図である。
図11】アムジノシリンを加えた場合または加えなかった場合にアンピシリンが成熟rRNAおよびプレrRNAに及ぼす効果を示す一連のグラフである。アンピシリン感受性大腸菌(E.coli)(EC135株)をアンピシリン(16μg/ml)単独、アムジノシリン(1μg/ml)単独、アンピシリン+アムジノシリンで処理するか、いずれでも処理しなかった。(図11A)成熟リボソームRNAレベルに及ぼす効果。(図11B)プレリボソームRNAレベルに及ぼす効果。(図11C)アンピシリン(16μg/ml)+アムジノシリン(1μg/ml)が大腸菌(E.coli)のアンピシリン感受性株(EC135およびEC197)および耐性株(EC96およびEC119)のプレrRNAレベルに及ぼす効果。アムジノシリンによりアンピシリン感受性を短時間で認めることができた。プレrRNAに及ぼす効果の方が成熟rRNAに及ぼす効果よりも顕著であった。
図12】アムジノシリンを加えた場合または加えなかった場合にセフトリアキソンが成熟rRNAおよびプレrRNAに及ぼす効果を示すグラフである。セフトリアキソン感受性大腸菌(E.coli)(EC103株)をセフトリアキソン(8μg/ml)単独、アムジノシリン(1μg/ml)単独、セフトリアキソン+アムジノシリンで処理するか、いずれでも処理しなかった。(図12A)成熟リボソームRNAレベルに及ぼす効果。(図12B)プレリボソームRNAレベルに及ぼす効果。成熟rRNAおよびプレrRNAに対するセフトリアキソンによる効果は、アムジノシリンを加えた場合の方が、アムジノシリンを加えなかった場合よりも60分以上早くみられた。
図13】プレrRNAに及ぼす効果が濃度依存性であることを示すグラフである。セファゾリン感受性大腸菌(E.coli)(EC103株)をアムジノシリン(1μg/ml)+0〜32μg/mlの範囲の濃度のセファゾリンで処理した。(図13A)セファゾリン濃度が32μg/mlのとき、アムジノシリンはプレRNAレベルに何ら効果を及ぼさなかった。(図13B)セファゾリン濃度が4μg/mlのとき、アムジノシリンによりセファゾリン感受性を短時間で認めることができた。(図13C)セファゾリン濃度が高いほどプレrRNAレベルが速く低下した。
図14】ベータラクタム系抗生物質+アムジノシリンが抗生物質感受性細菌および耐性細菌に及ぼす効果を示すグラフである。抗生物質感受性細菌および耐性細菌を、アムジノシリン(1μg/ml)と16μg/mlセファゾリン(図14A)、4μg/mlセフトリアキソン(図14B)、32μg/mlピペラシリン+4μg/mlタゾバクタム(図14C)、および2μg/mlイミペネム(図14D)を含む様々なベータラクタム系抗生物質とを組み合わせて処理した。30〜90分以内に感受性細菌と耐性細菌との間でプレrRNAに対する効果に明らかな差がみられた。
図15】カービー・バウアーディスク拡散法による抗生物質感受性試験の結果を示すデジタル顕微鏡写真である。直径6mmの抗生物質ディスクを、(図15A)アンピシリン感受性(EC135株)、(図15B)アンピシリン耐性(EC96株)、(図15C)セファゾリン感受性(EC103株)、(図15D)セファゾリン耐性(EC96株)、(図15E)イミペネム感受性(EC103株)または(図15F)イミペネム耐性(NDM−1株)の大腸菌(E.coli)叢を播種した寒天プレート上に置いた。各パネルとも、抗生物質のディスクが左側、アムジノシリンのディスクが右側である。画像は37℃で20時間インキュベートした後に得た。アムジノシリンと各被験抗生物質との間に相乗効果は認められなかった。
図16A-16D】アムジノシリンがアンピシリンに誘導される大腸菌(E.coli)のフィラメント形成を阻止することを示す図である。アンピシリン感受性大腸菌(E.coli)(EC103株)細胞の長さを、抗生物質無し、アンピシリン、またはアンピシリン+アムジノシリンで30分間処理した後測定した。抗生物質無し(図16A)、アンピシリン(図16B)、およびアンピシリン+アムジノシリン(図16C)で処理した代表的な細胞のデジタル顕微鏡写真が示されている。図16Dは、アンピシリンによって大腸菌(E.coli)細胞の長さが平均4倍以上増大し、その一部がアムジノシリンによって阻止されたことを示す頻度ヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(詳細な説明)
リボソームRNAは、細菌細胞内に豊富に存在するため、および種特異的シグネチャー配列をプローブハイブリダイゼーションに利用できるという理由から、病原体検出システムの優れた標的分子である(6)(括弧内の数字は「詳細な説明」の節末にある引用文献リストの数字に対応する)。感度の高い界面化学的方法と組み合わせて非特異的なバックグラウンドシグナルを最小限に抑えれば、そのようなrRNAプローブハイブリダイゼーションセンサーによって1mL当たり100個のわずかな細菌をも検出することが可能である(2、7、16)。アッセイのダイナミックレンジの範囲内では、細菌溶解物中の標的rRNA分子の濃度と、電気化学センサーアッセイによって得られるアンペロメトリック電流振幅との間には両対数相関がみられるため、細菌密度を推定することが可能である(9、11)。rRNA検出に基づく細菌定量法の精度は、細胞型および細菌増殖期に応じた1細胞当たりのrRNA分子数の変動によって低下する。大腸菌(E.coli)の1細胞当たりのrRNAコピー数は、対数期中の72,000〜定常期中の6,800未満の幅があると推定されている(1).
【0019】
前駆体リボソームRNA(プレrRNA)は成熟リボソームRNA(rRNA)形成における中間段階であり、細胞の代謝および増殖速度の有用なマーカーである。一実施形態では、本発明は、捕捉プローブおよび検出プローブと、rRNA成熟時にスプライシングによって除去される尾部とをハイブリダイズさせる、大腸菌(Escherichia coli)プレrRNAの電気化学センサーアッセイを提供する。チオール化した捕捉プローブとヘキサンジチオールの共自己組織化および6−メルカプト−1−ヘキサノールによる後処理により金電極表面に調製した三元自己組織化単分子膜(SAM)は、バックグラウンドシグナルを最小に抑え、シグナル/ノイズ比を最大にした。内部較正対照を含めることによって、1細胞当たりのプレrRNAのコピー数を正確に推定することが可能になった。予想された通り、成熟rRNAに対するプレrRNAの比は定常期に低く、対数期に高かった。プレrRNAレベルは大きく変動し、定常期中の1細胞当たり2コピー〜新鮮な増殖培地に接種してから60分以内での1細胞当たり約1200コピーの範囲であった。プレrRNAの合成およびプロセシングの阻害剤としてそれぞれ知られるリファンピシンおよびクロラムフェニコールを用いて、プレrRNAのアッセイの特異性を検証した。DNAジャイレース阻害剤であるシプロフロキサシンはリファンピシンとほぼ同じ作用を示すことが明らかになり、シプロフロキサシン感受性細菌では15分以内にプレrRNAの減少を検出できた。本発明は、細胞代謝に関する洞察および抗生物質感受性の予測因子をもたらす、プレrRNAのアッセイを提供する。
【0020】
最初の抗生物質選択時に抗生物質耐性に関するデータが必要であることに対処するため、臨床検体中の微生物の抗生物質感受性を分析する方法を本明細書に記載する。したがって、本発明は、細菌を含有するか、細菌を含有することが疑われる検体で抗生物質感受性を検出および特定する方法を提供する。いくつかの実施形態では、この方法を用いて、細菌を含有する検体を採取した対象の診断および治療を導く。例えば、この方法を用いて、検体が感受性を示す抗生物質または抗生物質の種類が特定されれば、この方法は対象にその抗生物質を投与することをさらに含み得る。
【0021】
定義
本願で使用される科学技術用語はいずれも、特に明記されない限り、当該技術分野で一般的に用いられる意味を有する。以下の単語または語句については、本願で使用される場合、明記される意味を有する。
【0022】
本明細書で使用される「オリゴヌクレオチドプローブ」とは、その標的核酸配列に対する十分に相補的なヌクレオチド配列をもち、高ストリンジェンシーなハイブリダイゼーション条件下で検出可能なハイブリッドプローブ:標的二本鎖を形成できるオリゴヌクレオチドのことある。オリゴヌクレオチドプローブは単離された化学種であり、標的領域外に追加のヌクレオチドを、そのようなヌクレオチドが高ストリンジェンシーなハイブリダイゼーション条件下でのハイブリダイゼーションを妨げない限り、含んでもよい。非相補的な配列、例えばプロモーター配列、制限酵素認識部位、または触媒活性部位などの所望の二次構造もしくは三次構造を付与する配列などを使用して、本発明のプローブを用いる検出を容易にすることができる。オリゴヌクレオチドプローブを任意選択で、放射性同位元素、蛍光部分、化学発光部分、酵素またはリガンドなどの検出可能なマーカーであって、オリゴヌクレオチドプローブの標的配列へのプローブハイブリダイゼーションを検出または確認できるマーカーで標識してもよい。「プローブ特異性」は、プローブが標的配列と非標的配列とを識別する能力を指す。
【0023】
「核酸」、「オリゴヌクレオチド」または「ポリヌクレオチド」という用語は、一本鎖または二本鎖のいずれかの形態のデオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドポリマーを指し、特に限定されない限り、天然のヌクレオチドと同様の方法で核酸にハイブリダイズする、天然ヌクレオチドの既知の類似体を包含する。
【0024】
本明細書で使用される「検出可能なマーカー」または「標識」とは、核酸プローブに結合するか、核酸プローブの一部として合成される分子のことである。この分子は固有に検出可能であるべきであり、その結果、プローブの検出を可能にする。このような検出可能な部分は多くの場合、放射性同位元素、化学発光分子、酵素、ハプテン、または場合によっては固有のオリゴヌクレオチド配列である。
【0025】
本明細書で使用される「ハイブリッド」または「二本鎖」とは、ワトソン・クリック型塩基対形成または相補的な塩基間の非標準的な塩基対形成による、2つの一本鎖核酸配列の間で形成される複合体のことである。
【0026】
本明細書で使用される「ハイブリダイゼーション」とは、2つの核酸相補鎖が組み合わさって二本鎖構造(「ハイブリッド」または「二本鎖」)を形成する過程のことである。「ストリンジェンシー」は、ハイブリダイゼーション段階とそれに続く処理段階で存在する温度および溶媒組成を表すために使用される。高ストリンジェンシー条件下では、相補性が高い核酸ハイブリッドのみが形成され、相補性の程度が十分でないハイブリッドは形成されない。したがって、アッセイ条件のストリンジェンシーによって、2つの核酸鎖の間でハイブリッドが形成されるのに必要な相補性の量が決まる。標的核酸と形成されるハイブリッドと、非標的核酸と形成されるハイブリッドとの間で安定性の差が最大になるようにストリンジェンシー条件を選択する。例示的なストリンジェンシー条件については、本明細書でのちに記載する。
【0027】
本明細書で使用される「相補性」とは、DNAまたはRNAの一本鎖の塩基配列であって、それぞれの鎖のワトソン・クリック塩基対の間の水素結合によってハイブリッドまたは二本鎖のDNA:DNA、RNA:RNAまたはDNA:RNAを形成し得る塩基配列によって付与される特性のことである。アデニン(A)は通常チミン(T)またはウラシル(U)を相補し、グアニン(G)は通常シトシン(C)を相補する。「完全に相補的」とは、プローブをその標的配列について述べる場合、そのプローブの全長にわたって相補性がみられることを意味する。
【0028】
ヌクレオチド配列およびオリゴヌクレオチドとの関連で本明細書で使用される「隣接(する)」は、2つの隣接する分子が互いに重なり合わず、かつそれらの間にギャップがないように互いに(末端同士が)すぐ隣にあることを意味する。例えば、標的核酸分子の隣接する領域にハイブリダイズした2つのオリゴヌクレオチドプローブは、それらの間に標的配列のヌクレオチド(いずれのプローブとも対を形成していない)を持たない。
【0029】
本明細書で使用される「〜から実質的になる」という語句は、オリゴヌクレオチドが特定のヌクレオチド配列に実質的に類似のヌクレオチド配列を有することを意味する。何らかの付加または削除は、その特定のヌクレオチド配列の非物質的な変形形態であって、それは、オリゴヌクレオチドがその特許請求される特性、例えば高ストリンジェンシーなハイブリダイゼーション条件下で非標的核酸よりもその標的核酸に優先的にハイブリダイズ可能であることなど、を有することを妨げない。
【0030】
当業者であれば、実質的に対応する本発明のプローブが言及される配列と異なっており、それでも同じ標的核酸配列にハイブリダイズし得ることを理解するであろう。この核酸との差は、配列内の同一塩基の割合またはプローブとその標的配列との間で完全に相補的な塩基の割合で記述され得る。上記の割合が100%〜80%であるか、10ヌクレオチドの標的配列中の塩基ミスマッチが0個〜2個である場合、本発明のプローブは実質的にある核酸配列に対応する。好ましい実施形態では、その割合は100%〜85%である。より好ましい実施形態では、この割合は90%〜100%であり、他の好ましい実施形態では、この割合は95%〜100%である。
【0031】
「十分に相補的である」または「実質的に相補的である」は、核酸が、高ストリンジェンシーなハイブリダイゼーション条件下で、検出するのに安定なハイブリッドを形成するのに十分な量の連続する相補的なヌクレオチドを有することを意味する。
【0032】
「優先的にハイブリダイズする」は、高ストリンジェンシーなハイブリダイゼーション条件下で、オリゴヌクレオチドプローブが、安定なプローブ:非標的ハイブリッド(ほかの生物体由来の非標的核酸の存在を示す)を形成せずに、それらの標的核酸とハイブリダイズして安定なプローブ:標的ハイブリッドを形成(それにより標的核酸の存在を示す)できることを意味する。このように、プローブは非標的核酸よりも十分に高い程度で標的核酸にハイブリダイズするため、当業者は関連のある細菌の存在を正確に検出し、それらの存在とほかの生物体の存在とを区別することが可能になる。優先的なハイブリダイゼーションは、当該技術分野で公知の技術および本明細書に記載される技術を用いて測定できる。
【0033】
本明細書で使用される病原体の「標的核酸配列領域」は、ほかの種の核酸には存在しない、ある生物体の核酸に存在する核酸配列またはそれに相補的な配列を指す。標的配列に相補的なヌクレオチド配列を有する核酸は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)または転写介在増幅法などの標的増幅技術によって作製し得る。
【0034】
本明細書で使用される「室温」は約20〜25℃を意味する。
【0035】
本明細書で使用される「a」または「an」は、特に明示されない限り、少なくとも1つを意味する。
【0036】
本発明のプローブ
本発明は、細菌rRNAに特異的なオリゴヌクレオチドプローブを提供する。典型的な実施形態では、プローブは標的配列に完全に相補的である。示される細菌種のrRNAとのプローブハイブリダイゼーションに用いられる代表的な標的配列を以下に挙げる。
【0037】
大腸菌(E.coli)(すべての腸内細菌科)標的配列:
AATGAACCGTGAGGCTT|AACCTTACAACGCCGAAGCTGTTTTGGCGGATTG(配列番号1);
【0038】
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)標的配列:
AATTGCCCGTGAGGCTT|GACCATATAACACCCAAACAATCTGACGATTGT(配列番号2);
【0039】
化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)標的配列:
AATAGCTCGAGGACTT|ATCCAAAAAGAAATATTGACAACGTTACGGATTCTTG(配列番号3);
【0040】
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)標的配列:
AATCGATCGAAGACTT|AATCAAAATAAATGTTTTGCGAAGCAAAATCACTT(配列番号4)。
【0041】
上記の配列中、|はprRNAとmRNAの間のスプライス部位を示している。
【0042】
上記の標的配列に対する代表的なプローブ対としては以下のものが挙げられる:
【0043】
大腸菌(E.coli)(すべての腸内細菌科)プローブ:5’−AAGCCTCACGGTTCATT(配列番号5)およびGGCGTTGTAAGGTT(配列番号6);
【0044】
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)プローブ:5’−AAGCCTCACGGGCAATT(配列番号7)およびGGTGTTATATGGTC(配列番号8);
【0045】
化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes)プローブ:AAGTCCTCGAGCTATT(配列番号9)およびATTTCTTTTTGGAT(配列番号10);ならびに
【0046】
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)プローブ:AAGTCTTCGATCGATT(配列番号11)およびCATTTATTTTGATT(配列番号12)。
【0047】
オリゴヌクレオチドは、当該技術分野で公知の様々な技術のいずれを用いて調製してもよい。本発明のオリゴヌクレオチドプローブは、上に示した配列およびのちの実施例の表1に示される配列、および高ストリンジェンシーなハイブリダイゼーション条件下で検出可能なハイブリッドプローブ:標的二本鎖を形成する実質的に同じ能力を示す同等の配列を含む。オリゴヌクレオチドプローブは通常、長さが10〜50ヌクレオチドの範囲内にある。好ましいプローブは長さが10〜35ヌクレオチドであり、一部の条件には10〜25ヌクレオチドが最適である。例えば、室温でハイブリダイゼーションを実施するのであれば、プレrRNAと成熟rRNAの間のスプライス部位のどちらかの側に通常は5〜6ヌクレオチドを有する、より短いプローブを用いることが可能になる。50℃などのより高い温度でハイブリダイゼーションするのであれば、スプライス部位のどちらかの側に、通常は10ヌクレオチド以上を有する、より長いプローブが必要になる。様々な検出可能な標識が当該技術分野で公知であり、特に限定されないが、酵素標識、蛍光標識、および放射性同位元素標識が含まれる。
【0048】
本明細書で使用される「高度にストリンジェントな条件」または「高ストリンジェンシー条件」とは、(1)洗浄に低イオン強度および高温を用いる、例えば、0.015M塩化ナトリウム/0.0015Mクエン酸ナトリウム/0.1%ドデシル硫酸ナトリウムを50℃で用いる条件;(2)ハイブリダイゼーション時にホルムアミドなどの変性剤を用いる、例えば、50%(v/v)ホルムアミドを0.1%ウシ血清アルブミン/0.1%フィコール/0.1%ポリビニルピロリドン/50mMリン酸ナトリウム緩衝剤(pH6.5)および750mM塩化ナトリウム、75mMクエン酸ナトリウムとともに42℃で用いる条件;または(3)50%ホルムアミド、5×SSC(0.75M NaCl、0.075Mクエン酸ナトリウム)、50mMリン酸ナトリウム(pH6.8)、0.1%ピロリン酸ナトリウム、5×デンハルト溶液、超音波処理したサケ精子DNA(50μg/μl)、0.1%SDS、および10%デキストラン硫酸を42℃で用い、42℃で0.2×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム)および55℃で50%ホルムアミドで洗浄した後、EDTAを含有する0.1×SSCからなる高ストリンジェンシーな洗浄を55℃で実施する条件のことである。当業者は、温度、イオン強度などを調整し、必要に応じてプローブの長さなどの因子を調整する方法を理解するであろう。
【0049】
本発明のプローブの利点は、それらが変性剤の使用を必要とせず周囲温度で標的配列に十分な選択性および強度でハイブリダイズできるという点にある。本発明のプローブを用いて、1Mリン酸緩衝液中、室温(または体温)にて天然のpH(7.0)で種特異的標的を検出できる。したがって、本発明の短い(長さが10〜35塩基の)プローブでは、「高度にストリンジェントな条件」は、1Mリン酸緩衝液またはしかるべき塩溶液を含有する緩衝液中で、20℃〜39℃にて天然のpH(7.0前後)で実施するハイブリダイゼーションおよび洗浄を含む。
【0050】
適切な「中程度にストリンジェントな条件」は、5×SSC、0.5%SDS、1.0mM EDTA(pH8.0)の溶液中での前洗浄;50℃〜65℃で、5×SSCでの一晩のハイブリダイゼーション;次いで、0.1%SDSを含有するそれぞれ2×SSC、0.5×SSCおよび0.2×SSCによる65℃で20分間、2回の洗浄を含む。
【0051】
任意のポリヌクレオチドをさらに修飾して安定性を増大させ得る。可能な修飾としては、特に限定されないが、5末端および/または3’末端での隣接配列の付加;主鎖でのホスホジエステラーゼ結合以外のホスホロチオアートまたは2’O−メチルの使用;ならびに/あるいはイノシン、キュエオシンおよびワイブトシン、ならびにアセチル修飾型、メチル修飾型、チオ修飾型などの修飾型のアデニン、シチジン、グアニン、チミンおよびウリジンなどの従来とは異なる塩基の含有が挙げられる。
【0052】
確立された組換えDNA技術を用いて、ヌクレオチド配列を他の様々なヌクレオチド配列に連結できる。例えば、ポリヌクレオチドをプラスミド、ファージミド、ラムダファージ誘導体およびコスミドを含む任意の様々なクローニングベクターにクローン化し得る。特に対象となるベクターとしては、プローブ生成ベクターが挙げられる。ベクターは一般に、少なくとも1種類の生物体で機能する複製起点、便利な制限酵素部位および1つまたは複数の選択マーカーを含む。その他の要素は所望の用途によって決まり、当業者には明らかであろう。
【0053】
抗生物質感受性を検出する方法
本発明は、目的とする細菌の試料が抗生物質に感受性であるかどうかを判定する方法を提供する。一実施形態では、この方法は、目的とする細菌のリボソームRNA(rRNA)またはプレリボソームリボ核酸(prRNA)の標的配列に特異的に結合するプローブを接触させることを含む。一実施形態では、標的配列は、prRNAと成熟リボソームRNA(mrRNA)の間にジャンクション、またはスプライス部位を含む。プローブは、捕捉プローブおよび検出プローブなどの、単一プローブまたは対のプローブであり得る。一実施形態では、プローブは、prRNA−mrRNAスプライス部位にわたる標的配列に特異的にハイブリダイズする単一プローブである。別の実施形態では、プローブは、全体的に、prRNA−mrRNAスプライス部位にわたる標的配列に特異的にハイブリダイズする対のプローブである。例えば、一方のプローブがprRNA−mrRNAスプライス部位の片側にハイブリダイズでき、他方のプローブがスプライス部位にわたる連続する長さのprRNAの標的配列にハイブリダイズする。プローブを、抗生物質の存在下と非存在下の両方で試料と接触させる。抗生物質の存在下でのプローブハイブリダイゼーションの量が、抗生物質の非存在下でのプローブハイブリダイゼーションの量に比べて減少している場合、その試料が抗生物質に感受性であることを示す。
【0054】
この方法の各段階を図10に示される流れ図にまとめる。まず、被験抗生物質の存在下で細菌をインキュベートする。溶解段階で細菌から成熟rRNAおよびprRNAを放出させる。様々な溶解方法が当該技術分野で公知であり、特に限定されないが、アルカリ溶解法、酵素溶解法、超音波処理法、ホモジナイゼーション法、および電気分解法が挙げられる。迅速な溶解およびRNAが最大限に保存される溶解法が好ましい。次いで、プローブをprRNAと接触させて、標的配列とハイブリダイズさせる。当業者に理解されるように、単一プローブを使用するか対のプローブを使用するかは、用いるシグナル検出方法に左右される。例えば、発光シグナルでの使用には単一プローブが選択され、電気化学的検出には、対のプローブ(例えば、捕捉プローブと検出プローブ)の使用が有益である。任意選択で、例えばPCRを用いて、標的を増幅する。しかし、PCRを使用しなくても、例えば1ml当たり250個の細菌を検出可能である。プローブハイブリダイゼーションを介する標的配列と結合したシグナルの検出は、当該技術分野で公知の様々な手段によって達成できる。
【0055】
この上記の方法および本明細書に記載されるその他の方法は、アムジノシリンなどのペニシリン結合タンパク質(PBP)2特異的抗生物質の存在下で接触および/またはハイブリダイゼーションを実施することによって増強できる。ベータラクタム系抗生物質などの抗生物質は、標的病原体の分裂に対しては効果的であるが伸長に対しては効果がない場合、その効果がみられるまでに時間を要するが、この増強は、そのような抗生物質を用いるアッセイに有益である。インキュベーションにアムジノシリンを加えることによって得られる増強は、成熟RNAに対するプローブおよびプレrRNA(スプライス部位にわたる)に対するプローブに有効であり得る。この方法は、細菌感染のため抗生物質による治療を受けている患者から採取した検体を用いて実施できる。この方法を用いて、患者の感染症の原因となっている細菌が抗生物質療法に感受性であるかどうかを判定できる。あるいは、抗生物質治療と同時に患者にアムジノシリンを投与できる。その後、細菌感染レベルを監視でき、治療後の細菌感染レベルの低下は、抗生物質治療に感受性の細菌を原因とする感染症があることを示す。
【0056】
別の実施形態では、この方法は、細菌試料から採取した検体を、抗生物質の非存在下でオリゴヌクレオチドプローブまたは対のプローブと接触させることを含む。一実施形態では、プローブまたは対のプローブは、標的配列の全長にわたって標的配列に特異的にハイブリダイズし、この標的配列は、プレリボソームRNA(prRNA)尾部と成熟リボソームRNA(mrRNA)の間のスプライス部位にわたる細菌リボソームRNA(rRNA)の連続する25〜35個のヌクレオチドからなる。この方法は、試料から採取した検体を抗生物質の存在下でプローブまたは対のプローブと接触させることと、2つの接触条件下で検体中の標的配列へのプローブハイブリダイゼーションの相対量を検出することとをさらに含む。任意選択で、この方法は、接触段階の前に検体を増殖培地に接種することをさらに含む。
【0057】
抗生物質の存在下で標的配列へのプローブハイブリダイゼーションの量が、米国食品医薬品局によって記載されている抗菌薬感受性試験(AST)システムの基準を十分に満たす程度に減少している場合、試料は抗生物質治療に感受性であると見なされる。例えば、標準的な臨床微生物学的方法と比較して、90%超が基本的一致およびカテゴリー一致であり、3%未満が大きい誤差であり、かつ1.5%未満が極めて大きい誤差である。この基準を満たすプローブハイブリダイゼーションの減少量は試験条件によって異なる。一実施形態では、減少量は、抗生物質の非存在下での標的配列へのプローブハイブリダイゼーションの量と比較したとき、少なくとも10%または少なくとも20%である。別の実施形態では、標的配列へのハイブリダイゼーションの量は、抗生物質の非存在下での標的配列へのプローブハイブリダイゼーションの量に比べて30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または95%減少する。
【0058】
細菌rRNAは16S rRNAまたは23S rRNAであり、あるいは5S rRNAであり得る。rRNAは通常、23S rRNAである。オリゴヌクレオチドプローブ(1つまたは複数)は通常、それぞれ長さが約10〜50ヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、プローブは長さが12〜30ヌクレオチドであり、他の実施形態では、プローブは長さが14〜20ヌクレオチドの範囲の長さである。任意選択で、オリゴヌクレオチドプローブを検出可能なマーカーで標識する。代表的なマーカーとしては、特に限定されないが、蛍光標識、放射性標識、発光標識、酵素、ビオチン、チオールまたは色素が挙げられる。この方法の検出段階は、光学アッセイ、電気化学アッセイまたは免疫アッセイを含み得る。
【0059】
一実施形態では、この方法は、接触段階の前に細菌からrRNAを放出させる条件下で細菌を溶解させることをさらに含む。したがって、試料を溶菌剤の存在下で調製し得る。溶菌剤は、rRNAに損傷を与えずにrRNAが放出されるよう選択するのが好ましい。prRNA−mrRNAスプライス部位を標的とすることは、この方法が、プローブを試料と接触させる前に、prRNAを枯渇させるための検体の前処理を実施せず、測定に干渉するスプライスされたprRNA尾部を含まずに実施され得ることを意味する。このような前処理無しでこの方法を実施できることによって、感受性判定の迅速な処理が容易になる。
【0060】
感受性試験に用いる抗生物質としては、特に限定されないが、リファンピシン、クロラムフェニコール、アミノグリコシド類、キノロン類、またはベータラクタム系抗生物質が挙げられる。さらに、本明細書に記載される方法を用いて、新規抗生物質または候補抗生物質の効果を試験できる。本発明は、細菌感染症であるか、細菌感染症が疑われる対象を治療する方法をさらに提供する。この方法は、本明細書に記載されるように、対象から採取した検体の抗生物質感受性を判定し、検体が感受性を示す抗生物質をその対象に投与することを含む。
【0061】
候補抗生物質の抗生物質効果を判定する方法は、試料から採取した検体を、候補抗生物質の非存在下でオリゴヌクレオチドプローブまたは対のプローブと接触させ、このプローブまたは対のプローブが、標的配列の全長にわたって標的配列に特異的にハイブリダイズし、この標的配列が、プレリボソームRNA(prRNA)尾部と成熟リボソームRNA(mrRNA)の間のスプライス部位にわたる細菌リボソームRNA(rRNA)の連続する25〜35個のヌクレオチドを含み、試料から採取した検体を、候補抗生物質の存在下でプローブまたは対のプローブと接触させることと、検体中の標的配列へのプローブハイブリダイゼーションの相対量を検出することとを含み得る。候補抗生物質の存在下での標的配列へのプローブハイブリダイゼーションの量が、候補抗生物質の非存在下での標的配列とのプローブハイブリダイゼーションの量に比べて少なくとも20%減少している場合、その候補抗生物質は効果があると見なされる。
【0062】
検体中に含まれる細菌は、本明細書に記載される溶解調製法のうちの1つを用いて溶解できる。一実施形態では、溶解調製法は、以下の2つの段階からなる一般的な溶解方法を含む:1%Triton X−100、0.1M KHPO、2mM EDTAおよび1mg/mlリゾチームを含有する緩衝液で細菌を処理する第一段階、次いで1M NaOHで処理する第二段階。一般的な溶解方法を用いれば、グラム陽性菌とグラム陰性菌に別個の溶解緩衝液を使用する必要がなくなる。この実施形態では、時間のかかる細菌RNAおよび/またはDNAの精製段階が不要であり、溶解処理した尿試料を捕捉プローブに直接適用できる。したがって、この方法は、目的とする検体を最初に溶解して病原体の核酸分子を放出することによって、実施できる。
【0063】
あるいは、溶解物は、検体を非変性界面活性剤(例えば、Triton X−100)とリゾチームとを含む第一の溶解緩衝液、またはNaOHを含む第二の溶解緩衝液のいずれかと接触させることによって調製できる。通常、Triton X−100を0.1%、リゾチームを1mg/ml、およびNaOHを1Mで使用する。別の実施形態では、溶解は、検体を両方の緩衝液と連続して接触させること、例えば、検体を第一の溶解緩衝液と接触させる前または後に第二の溶解緩衝液と接触させることを含む。検体の緩衝液(1つまたは複数)との接触は通常、室温で実施する。通常、検体を溶解緩衝液と計10分程度接触させる。第一の溶解緩衝液と第二の溶解緩衝液とを使用する場合、各緩衝液との接触は通常、約5分間である。当業者であれば、溶解緩衝液と接触させる時間および温度を変化させることができ(例えば、温度を高くすると溶解が加速される)、また具体的な検体、標的病原体および他のアッセイ条件に最適化もできることがわかる。
【0064】
この方法は、検体中に存在する病原体(例えば、細菌)の標的核酸分子の検出プローブとのハイブリダイゼーションが可能な条件下で、検体を本発明の1つまたは複数の検出プローブと接触させて、ハイブリダイズした標的核酸分子を生じさせることを含む。捕捉プローブの標的核酸分子とのハイブリダイゼーションが可能な条件下で、1つまたは複数のハイブリダイズした標的プローブを1つまたは複数の捕捉プローブと接触させる。
【0065】
したがって、標的核酸は、最終的には捕捉プローブ(1つまたは複数)および検出プローブ(1つまたは複数)の両方とハイブリダイズする。上記の2つのハイブリダイゼーション段階は任意の順序で実施できるが、一実施形態では、最初に検出プローブが標的核酸とハイブリダイズした後、ハイブリダイズした材料を固定化した捕捉プローブと接触させる。洗浄後、捕捉プローブが結合されている表面に検出プローブ:標的:捕捉プローブ結合体が固定化される。標的核酸に結合したプローブが検出されれば、それは病原体の存在を示す。
【0066】
GeneFluidics社(モンテレーパーク、カリフォルニア州)から入手可能なセンサーアレイなどの電気化学センサーとともに用いる場合、この方法は、標的へのプローブの結合により生じる電流の検出を含む。のちの実施例で説明する一実施形態では、捕捉プローブをビオチンで標識し、ストレプトアビジンで処理した表面に固定化する。この実施例の検出プローブはフルオレセインで標識されており、西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗体が結合する抗原となる。このペルオキシダーゼは、その基質(通常、過酸化水素およびテトラメチルベンジジン)の存在下で、よく特徴付けられた酸化還元反応を触媒し、固定電位下で測定可能な電解還元電流を生じ、これにより標的核酸の存在を検出するための電気化学シグナルを発生させる。当業者であれば、電気化学アッセイに使用し得る代替の標識および酵素がわかる。
【0067】
好ましくは、抗生物質耐性を検出する方法を、目的とする病原体を最初に同定し定量した後に実施する。病原体の同定には、米国特許第7,763,426号に記載されている病原体の存在を検出する方法を用いることができる。病原体の同定により、耐性を試験する抗生物質の選択が導かれる。病原体の定量化により、のちの試験に適した抗生物質と病原体の比が導かれる。次いで、病原体を含有する検体を増殖培地に接種することによって、この方法を実施する。接種は、定量化の結果により決定した希釈度で実施する。この接種は、抗生物質の存在下と非存在下の両方で実施するのが好ましい。次いで、病原体の存在または量を、通常は抗生物質の存在下で接種した検体と非存在下で接種した検体とを比較することによって決定する。抗生物質の存在下で病原体の量がより多ければ、それは、その抗生物質に対して耐性があること示す。比較は通常、抗生物質の存在下で増殖培地に接種した場合と抗生物質の非存在下で増殖培地に接種した場合について、基質と複合体を形成した標識オリゴヌクレオチド(検出プローブ)の量を比較することに基づく。
【0068】
細菌増殖速度を監視する方法
本発明はまた、細菌培養物の増殖速度を監視する方法を提供する。この方法は、培養物から採取した検体を、標的配列の全長にわたって標的配列に特異的にハイブリダイズするプローブまたは対のプローブと接触させることを含み、この標的配列は、プレリボソームRNA(prRNA)尾部と成熟リボソームRNA(mrRNA)の間のスプライス部位にわたる細菌リボソームRNA(rRNA)の連続する25〜35個のヌクレオチドを含む。この方法は、前の時点と比較した;および/または試験対象の増殖培地成分を含む対照もしくはこれを含まない対照と比較した、検体の標的配列へのプローブハイブリダイゼーションの量を検出することをさらに含む。後の時点での標的配列へのプローブハイブリダイゼーションの量が、前の時点での標的配列へのプローブハイブリダイゼーションの量に比べて増加している場合、培養物は増殖している、または対数増殖期にあると見なされる。
【0069】
キットおよび装置
本発明は、細菌試料中の成熟rRNAまたはプレrRNAを検出する装置をさらに提供する。この装置は、一実施形態では、固体担体に固定化したオリゴヌクレオチドプローブを含み、このオリゴヌクレオチドプローブは長さが約10〜50ヌクレオチドであり、標的配列の全長にわたって標的配列に選択的にハイブリダイズできる。標的配列は通常、プレリボソームRNA(prRNA)尾部とmrRNAの間のスプライス部位にわたる成熟リボソームRNA(mrRNA)またはリボソームRNAの連続する25〜35個のヌクレオチドを含む。固体担体は通常、電極または膜である。ELISAウェル、または光学面もまた考慮される。
【0070】
本発明は、本明細書に記載される方法の実施に使用できるキットをさらに含む。このキットは、本明細書に記載されるものから選択されるオリゴヌクレオチドプローブまたは対のオリゴヌクレオチドプローブを含み得る。プローブは任意選択で、検出可能なマーカーで標識されていてもよい。キットは、この方法に使用するプローブ(1つまたは複数)および他の試薬を収納するための1つまたは複数の容器をさらに含み得る。本発明は、本発明の方法を実施するのに使用するアッセイキットをさらに提供する。このキットは、1つまたは複数の本明細書に記載されるプローブ、および任意選択で、容器または基質を含む。一実施形態では、キットは、本発明の1つまたは複数の捕捉プローブを結合させるか、別の方法で固定化する基質を含む。任意選択で、キットは、容器と、捕捉プローブに対応する1つまたは複数の検出プローブとをさらに含む。一実施形態では、基質は電気化学センサーアレイである。
【実施例】
【0071】
以下の実施例は、本発明を説明するためおよび当業者が本発明を作製し使用するのを補助するために提供するものである。これらの実施例は、いかなる形でも本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【0072】
実施例1:電気化学バイオセンシングプラットフォームを用いる前駆体rRNAの高感度検出による迅速な抗菌薬感受性試験
リボソームRNAは、細菌細胞内に豊富に存在するため、および種特異的シグネチャー配列をプローブハイブリダイゼーションに利用できるという理由から、病原体検出システムの優れた標的分子である(6)。感度の高い界面化学的方法と組み合わせて非特異的なバックグラウンドシグナルを最小限に抑えれば、そのようなrRNAプローブハイブリダイゼーションセンサーによって1mL当たり100個のわずかな細菌をも検出することが可能である(2、8、17)。アッセイのダイナミックレンジの範囲内では、細菌溶解物中の標的rRNA分子の濃度と、電気化学センサーアッセイによって得られるアンペロメトリック電流振幅との間には両対数相関がみられるため、細菌密度を推定することが可能である(10、12)。rRNA検出に基づく細菌定量法の精度は、細胞型および細菌増殖相に応じた1細胞当たりのrRNA分子数の変動によって低下する。大腸菌(E.coli)の1細胞当たりのrRNAコピー数は、対数期中の72,000〜定常期中の6,800未満の幅があると推定されている(1)。
【0073】
電気化学センサーは、細菌の抗生物質に対する表現型応答を監視することによって抗生物質感受性を迅速に判定できる可能性を秘めている。抗生物質が抗生物質感受性細菌の細胞代謝を対数期から定常期に移行させると、細胞内のプレrRNAレベルが減少すると予測される。細胞内のプレrRNAプールの大きさは合成と分解の速度によって決定され、この速度は抗生物質によって直接的または間接的に影響を受ける(3)。このような理由から、本発明者らは、プレrRNA量を決定するための電気化学アッセイを開発しその妥当性を検討した。内部標準を用いてセンサーシグナル強度を補正し、これらのシグナルを細菌密度と相関させることによって、本発明者らは、1細胞当たりのrRNAおよびプレrRNAのコピー数を推定できた。本発明者らの研究は、細菌の増殖期中の、および特定の抗生物質に応答したときのrRNAおよびプレrRNAレベルの動態に新たな洞察をもたらす。興味深いことに、本発明者らは、感受性の大腸菌(E.coli)中で、プレrRNAおよび/またはrRNAのレベルがキノロン系抗生物質のシプロフロキサシン、およびアミノグリコシド系抗生物質のゲンタマイシンに迅速に応答することを明らかにした。
【0074】
材料および方法
菌株および培地。UCLAおよび退役軍人局の施設内審査委員会の承認ならびにしかるべき医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律(Health Insurance Portability and Accountability Act)の適用除外を受け、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)臨床微生物学研究所から大腸菌(E.coli)臨床尿分離株EC103(Amp)を入手した。EC103を、12%グリセロールを添加したミュラー・ヒントン(MH)ブロス(Becton Dickinson社、スパークス、メリーランド州)に接種し−80℃で保管した。EC103を、64μg/mlアンピシリンを添加したMHブロス(Sigma社、セントルイス、ミズーリ州)で一晩培養した。EC103をルリアブロス(LB)寒天(MOBIO Laboratories社、カールズバッド、カリフォルニア州)で平板培養し、コロニー形成単位(CFU)を計数した。
【0075】
EC103の増殖および標的コピー数に関する実験。EC103グリセロールストック5μlをアンピシリン添加MHブロス5mlに加え、振盪しながら37℃で一晩インキュベートすることにより、EC103の一晩培養物を調製した。翌日、一晩培養物10μlを500mlフラスコで予め温めて振盪したMHブロス100mlに加えることにより、EC103培養物を希釈した後、250rpmで振盪しながら37℃でインキュベートした。0分後の一晩培養物そのものを含め、30分毎に試料1mlをOD600測定のために採取し、室温のMHブロスで10倍段階希釈(100μlを900μlで希釈)を実施した。細胞密度を、段階希釈物を3連で平板培養することにより決定した。各時点で、培養試料を氷水浴に移すか、そのまま4℃、14,000rpmで3分間、遠心分離した。次いで、吸引により上清を除去し、ドライアイス−エタノール浴で急速冷凍し、−80℃で保管した。
【0076】
ある特定の増殖実験では、150分または210分でのいずれかで1つの培養物に以下に挙げる抗生物質のうちの1つを添加した:25μg/mlリファンピシン(Sigma社、セントルイス、ミズーリ州)、25μg/mlクロラムフェニコール(Sigma社、セントルイス、ミズーリ州)、4μg/mlシプロフロキサシン(Sigma社、セントルイス、ミズーリ州)または16μg/mlゲンタマイシン(Sigma社、セントルイス、ミズーリ州)。150分で抗生物質を添加した後、30分毎ではなく15分毎に試料を採取した。
【0077】
プレリボソームプローブの感度および特異性を比較する実験には、一晩培養物および対数期(OD600=0.1)のEC103培養物から培養試料を採取し、直ちに4℃、14,000rpmで5分間、遠心分離した。吸引により上清を除去した。ペレットをドライアイス−エタノール浴で急速冷凍し、−80℃で保管した。
【0078】
電気化学的検出。細菌rRNAおよびプレrRNAの電気化学的検出を、フォトリソグラフィー的に調製したAu電極アレイ上に固定化されるビオチン化捕捉プローブ(12)およびチオール化捕捉プローブ(2、8)について既に記載されている通りに、変更を伴い実施した。
【0079】
検出プローブのトレーサーとしてフルオレセイン(FITC)、およびレポーター分子として抗FITC−西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を用いるサンドイッチ型ハイブリダイゼーションアッセイによりセンサー応答を評価した。捕捉されたHRPレポーターの活性を電気化学的に測定するための基質には3,3’5,5’−テトラメチルベンジジン(TMB)−Hを選択した。使用した合成オリゴヌクレオチドはいずれもEurofins MWG Operon社から購入し、これらを表1に挙げる。チオール化捕捉プローブには、使い捨ての16センサー露出Au電極アレイをGeneFluidics社(アーウィンデール、カリフォルニア州)から入手した。アレイの各センサーは、中心にある直径2.5mmの作用電極と、それを取り囲むAu対電極およびAu偽基準電極とで構成されていた。センサーチップは、コンピュータ制御されたHelios多チャンネル電気化学ワークステーション(GeneFluidics社、アーウィンデール、カリフォルニア州)によって稼働した。洗浄段階を試薬の添加後に毎回、センサー表面に脱イオン化HOを約2〜3秒間流し、次いで窒素流下で5秒間乾燥させることによって実施した。最初の試薬を添加する前に、露出した金製チップを上記のように乾燥させた。作用センサー表面を機能させるため、10mMトリス−HCl、1mM EDTAおよび0.3MNaCl(pH8.0)中に0.05μΜチオール化捕捉プローブと300μΜ1,6−ヘキサンジチオール(96%、Sigma社、セントルイス、ミズーリ州)の新鮮な混合物を調製し、室温で10分間静置した。この混合物の6μlのアリコートを16センサーアレイの各Au作用電極にかけ、加湿チャンバ内で4℃にて一晩インキュベートした。特に明記されない限り、のちの段階はいずれも室温で実施した。翌日、混合された単分子層修飾されたAuセンサーを次いで10mMトリス−HCl、1mM EDTAおよび0.3M NaCl(pH8.0)中の1mM 6−メルカプト−1−ヘキサノール(97%、Sigma社、セントルイス、ミズーリ州)6 μlで50分間処理し、三元単分子層の界面を得た。
【0080】
ビオチン化捕捉プローブには、5:1の比のメルカプトヘキサノールとメルカプトウンデカン酸とからなる二元SAMで予め覆った16センサーAu電極アレイをGeneFluidics社(アーウィンデール、カリフォルニア州)から入手した。洗浄段階を試薬の添加後に毎回、センサー表面に脱イオン化HOを約2〜3秒間流した後、窒素流下で5秒間乾燥させることによって実施した。センサー表面を機能させるため、脱イオン化HO中のNHS/EDC(50mM N−ヒドロキシスクシンイミド、200mM N−3−ジメチルアミノプロピル−N−エチルカルボジイミド、Sigma社、セントルイス、ミズーリ州)溶液4μlを作用電極に10分間適用することによって、二元SAMのカルボキシル末端基をアミン反応性エステルに変換した。活性化したセンサーを、50mM酢酸ナトリウム(pH5)中5mg/mlの濃度でEZ−Link Amine−PEG−Biotin(Pierce社、ロックフォード、イリノイ州)4μlと10分間インキュベートした。活性化した単分子層に残っている反応基をブロックするため、すべての3つの電極に30μlの1Mエタノールアミン(pH8.5)(Sigma社、セントルイス、ミズーリ州)を10分間適用した。ビオチン化センサーを、RNアーゼを含まないHO(カタログ番号821739、MP Biomedicals社、オーロラ、オハイオ州)中の0.5mg/mlのストレプトアビジン(Pierce社)4μl中で10分間インキュベートした。ストレプトアビジンでコートされたセンサーを、ビオチン化捕捉プローブ(4μl、1Mリン酸緩衝液(pH7.2)中1μΜ)と30分間インキュベートした。電極を、1Mリン酸緩衝液(pH7.2)中の0.05%ポリエチレングリコール3350(PEG、Sigma社、セントルイス、ミズーリ州)4μlで10分間ブロックした。上記のインキュベーションはいずれもガラス製ペトリ皿中で実施した。
【0081】
両方の捕捉プローブ種について、細菌細胞の溶解を、10μlの1M NaOHにしかるべきペレットを再懸濁し室温で5分間インキュベートすることにより実施した。細菌溶解物を、2.5%ウシ血清アルブミン(BSA)(Sigma社、セントルイス、ミズーリ州)を添加した1Mリン酸緩衝液(pH7.2)中の0.25μΜフルオレセイン(FITC)修飾検出プローブを50μl加えることにより中和し、均一なハイブリダイゼーションのために10分間反応させた。この粗製細菌溶解物標的溶液のアリコート(4μl)を捕捉プローブで修飾した各センサーにかけ、15分間インキュベートした。アレイを洗浄し乾燥させた後、0.5U/ml抗FITC西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)Fabフラグメント溶液(Roche社、1Mリン酸緩衝生理食塩水(pH7.2)中の0.5%カゼインで希釈したもの)4μlを各作用電極上に15分間置いた。洗浄および乾燥後、センサーアレイに既製のプラスチック製16ウェルマニホールド(GeneFluidics社、アーウィンデール、カリフォルニア州)を接着した。センサーアレイをチップリーダーに入れ、アレイの各センサーの3つの電極領域に行き渡るようにTMB−H溶液(Enhanced K−Blue TMB Substrate、Neogen社、レキシントン、ケンタッキー州)50μlを置いた。全16個のセンサーについて、電位を−200mVにステップさせ(偽Au基準電極に対して)、60秒での電流をサンプリングすることによって、クロノアンペロメトリー測定を速やかに同時に実施した。各アレイについて、捕捉プローブ、FITC−検出プローブ、および細菌溶解物溶液の代わりの緩衝液(1Mリン酸緩衝液(pH7.2)中の2.5%BSA)を含むネガティブ対照(NC)センサーを試験した。ポジティブ対照(PC)が全てのセンサーアレイに含まれ、成熟rRNAまたはプレ23S 3’JxnプレrRNAプローブ対に対する合成標的オリゴヌクレオチド1nMと、対応する検出プローブとで構成されていた(表1を参照されたい)。
【0082】
分析物の濃度と電気化学シグナルとの間には直線的な両対数相関がみられるため、合成標的分子を含めることにより、電気化学シグナルの強度を正規化し、リボソームおよびプレリボソーム標的分子の濃度を決定した。発生した電気化学シグナルと被験合成標的分子の数との間の関係を用いて、各時点での試料由来の電気化学シグナルを被験体積当たりの標的分子数(濃度)に変換した。次いで、これを平板培養によって決定された各時点のCFU/ml値と組み合わせて、CFU測定値当たりの標的分子数を求めた。
【0083】
凍結水和大腸菌(E.coli)のクライオ電子顕微鏡法(クライオEM)。大腸菌(E.coli)培養物(5μl)を新たにグロー放電させた穴開き炭素グリッドに載せた後、ブロットし、液体エタンで急速凍結させた。凍結水和検体を、電界放射銃と4K×4K電荷結合素子(CCD;有限会社TVIPS、ドイツ)とを備えたPolara G2電子顕微鏡(FEI社、ヒルズボロ、オレゴン州ヒルズボロ、オレゴン州)を用いて、−170℃で撮像した。顕微鏡は300kVで操作し、クライオEM画像はそれぞれ4,700倍(3.76nm/ピクセル)および31,000×(0.57nm/ピクセル)の倍率で記録した。接種後の様々な時点で、9〜14個の細胞を無作為に選択し、その長さと幅を測定した。
【0084】
結果
プレrRNAに対する捕捉プローブおよび検出プローブの開発。rRNAプロセシングの過程で除去されるプレrRNA尾部に対するプローブ対を開発した(図1)。プローブ結合のために接近可能であると予測される16SプレrRNAの5’尾部のある領域は二次構造から比較的免れているため、最初に、この領域に対する様々な長さのプローブ対を設計した。図2に示されるように、上記のプローブ対の一部は、対数増殖期に採取した大腸菌(E.coli)試料に対して良い感度(シグナル/ノイズ比が高い)を示した。しかし、異なる増殖期の大腸菌(E.coli)を試験したところ、これらの16SプレrRNAプローブは定常期に対する対数期のシグナルの比が予想外に低かった(図2)。以上の結果から、このようなプローブはインタクトなプレrRNA分子の信頼できるマーカーではないことが示された。
【0085】
次いで、標的配列がインタクトなプレrRNAにのみ存在するように、プレrRNA尾部と成熟rRNAとの間のスプライス部位とハイブリダイズするようプローブ対を設計した(図1)。これらの標的配列は、プレrRNAがプロセシングを受けて成熟rRNAになる過程で消化されて2つの断片に分かれるため、消化後は、標的配列のいずれの断片も、シグナルを発生する程度に十分にプローブと結合しない。プローブ対を16S rRNAの5’および3’スプライス部位ならびに23S rRNAの3’スプライス部位への結合について試験した。プローブ対を、捕捉プローブから検出プローブおよび検出プローブから捕捉プローブの両方向で試験した。図2に示されるように、スプライス部位を標的とするプレrRNAプローブ対は、定常期に対する対数期のシグナルの比がより高かった。これらの結果は、捕捉プローブがプレrRNA尾部に結合し、検出プローブが成熟rRNA領域に結合してインタクトなプレrRNAに対する特異性が得られるプレrRNAサンドイッチハイブリダイゼーションアッセイを用いたCangelosiら(3)の結果と一致する。23S rRNA3’スプライス部位に対する2種類のプローブ対のうちの1つは高いシグナルを発生し、定常期に比して対数期の細胞で相対的に高いシグナル比を有した。この捕捉プローブ(プレ23S 14m 3’JxnC)と検出プローブ(プレ23S 17m 3’JxnD)の対をのちのプレrRNA測定用に選択した。
【0086】
成熟rRNAの決定には、表1に明記される捕捉プローブおよびFITC−検出プローブを用いた。
【0087】
成熟rRNAとプレrRNAの増殖期の比較。本発明者らは、新鮮なMH培地への接種前および接種後の大腸菌(E.coli)の一晩培養物についてシグナルを成熟rRNAとプレrRNAとで比較した。標的rRNAおよびプレrRNAの濃度を、既知濃度の合成人工標的オリゴヌクレオチドを内部較正対照として各電気化学センサーチップに含めることによって推定した。これらの合成標的オリゴヌクレオチドは、捕捉プローブおよび検出プローブの両方とハイブリダイズすることにより機能した。1細胞当たりのコピー数を、細菌溶解物中のrRNA標的数および細胞数の濃度から計算した。本発明者らは、試料を氷浴で冷やし、4℃に冷却した遠心分離機で遠心分離することによって、プレrRNAおよびrRNAの測定値のばらつきを抑えることができることを発見した。一方、細胞は、特に増殖誘導期中および対数増殖期初期に低温ショックに対し感受性であった。このような理由から、培養物を低温の培地ではなく室温の培地で希釈することによって、正確な平板培養計数を得た。
【0088】
一晩培養物を新鮮な増殖培地に接種した直後(表2、時間0)、1細胞当たりのプレrRNAが2コピーから55倍の110コピーに増加し、rRNA合成の急激な誘導が示された。この時点で、プレrRNAに対する成熟rRNAの比は最低値の54:1に達した。図3に示されるように、インキュベーション開始から2時間はプレrRNAレベルが増大し続け、インキュベーションの120分後に最大に達し1細胞当たり1,200コピーであった。プレrRNAが成熟rRNAに変換されたため、接種の150分後に成熟rRNAのコピー数が最大に達し、1細胞当たり98,000コピーを上回った。その後、成熟rRNAおよびプレrRNAはともに徐々に減少したが、増殖速度は210分後に最大に達し1時間当たりの細胞内濃度の増加が1.1対数単位であり、これは倍加時間16.5分に相当する。増殖のより後期には、プレrRNAのコピー数が成熟rRNAのコピー数よりも速い速度で減少し、最終的にはプレrRNAに対する成熟rRNAの比は1000:1を上回るまで増大した。
【0089】
図4Aに示されるように、対数増殖期および対数増殖期後期中には、細胞容積と1細胞当たりのrRNAコピー数との間に良い相関がみられ、細胞質内のrRNA密度が比較的一定であることが示された。この相関は細胞密度がOD600nmを上回ると失われ、この時点で、細胞容積は安定していたのに対し、rRNAコピー数は減少し続けた。クライオ電子顕微鏡法を実施して、様々な増殖期での大腸菌(E.coli)の細胞容積を測定した。図4Bに示されるように、大腸菌(E.coli)の細胞は、細胞が対数期から定常期に移行するにつれて、次第により短く細くなった。細胞の大きさの平均値は、最大で2.8μm(長さ4.87μm×幅0.85μm)、最小で0.45μm(長さ1.35μm×幅0.65)であった。
【0090】
抗生物質が成熟rRNAレベルおよびプレrRNAレベルに及ぼす効果。プレrRNA捕捉プローブおよび検出プローブが所望の標的に対して選択的であることを確認するため、リファンピシンおよびクロラムフェニコールがプレrRNAレベルに及ぼす効果を成熟rRNAと比較して検討した。これまで報告されている通り(3)、リファンピシンの添加がプレrRNAを選択的に減少させたのに対し、クロラムフェニコールはプレrRNAを選択的に増加させた(図5Aおよび5B)。シプロフロキサシンおよびゲンタマイシンがプレrRNAレベルおよび成熟rRNAレベルに及ぼす効果も検討した。図5Cに示されるように、シプロフロキサシンはリファンピシンと同等の効果を及ぼし、プレrRNAレベルが15分以内に有意に減少したのに対して、成熟rRNAは抗生物質添加から45分後まで対照レベルにとどまった。これとは対照的に、この抗生物質はシプロフロキサシン耐性微生物のプレrRNAレベルには何ら効果を及ぼさなかった(図6)。ゲンタマイシンを添加すると、プレrRNAのレベルに影響することなく、成熟rRNAが減少した(図5D)。
【0091】
【表1】
略号:ヌクレオチド数(m)、捕捉プローブ(C)、検出プローブ(D)、スプライス部位(Jxn)、逆方向(R)。
略号:FITC(F)、ビオチン(B)、チオール(S)。
は、その高シグナル/ノイズ比に基づいて選択された捕捉プローブ/検出プローブ対を示す。
【0092】
【表2】
対数単位で表した30分当たりの増殖速度。
1時間当たりの倍加数。
世代時間(分)。
1細胞当たりのコピー数。
【0093】
考察
本発明者らは、プレrRNAの検出および定量化のための電気化学センサーアッセイについて記載する。プレrRNAはrRNA転写時に生成する不安定なrRNA前駆体分子のプールである。プレrRNAは、成熟過程で除去される5’尾部および3’尾部の存在により成熟rRNAと異なる。プレrRNAが総rRNAに占める割合は比較的少ない(0.1%〜10%)ため、その検出には高感度のアッセイを必要とする。必要とされる感度を達成するため、本発明者らの電気化学Auセンサーアッセイは、チオール化捕捉プローブと共固定化した後に希釈剤として6−メルカプト−1−ヘキサノールを組み込んだヘキサンジチオールを含む三元界面の使用に依存する。この新規な界面は、表面のブロッキングを大幅に改善し、ハイブリダイゼーション効率を最大限に高めて、標的核酸の超高感度の電気化学的検出を可能にすることが示されている(2、8、17)。本明細書に記載される電気化学的サンドイッチハイブリダイゼーションアッセイなどの直接的な核酸検出法には、qRT−PCRなどの標的増幅を必要とする方法に勝る固有の利点がある。本発明者らは、大腸菌(E.coli)の様々な増殖期中にプレrRNAを定量化することに成功し、増殖の定常期および増殖期のそれぞれにおいて1細胞当たりのコピー数が2から1,200コピーへと大幅にシフトすることを明らかにした。1細胞当たりのプレrRNAのコピー数が電気化学的に定量化されたのはこれが初めてである。本発明者らが観察したプレrRNAコピー数の600倍の増加は、蛍光検出を用いてCangelosiらにより報告された50倍の増加(3)よりも相当大きい値である。このような差が生じた理由としては、検出限界が低いことおよび大腸菌(E.coli)株の種類が考えられる。Cangelosiらは大腸菌(E.coli)株ATCC11775を検討しており、この菌株は1895年にMigulaによって分離されたもので、継代を重ねるうちに代謝が変化した可能性がある。これに対して、本発明者らの研究は、比較的速い最大倍加時間16.5分を有する最近分離された野生型の尿路病原性大腸菌(E.coli)株で実施したものである。
【0094】
プレrRNAおよび成熟rRNAに及ぼす効果は抗生物質によって異なる。リファンピシンは原核生物のDNA依存性RNAポリメラーゼの阻害剤である。プレrRNAは成熟rRNAへと迅速にプロセシングを受けるため、特に対数増殖期中に、転写を阻害すると直ちにプレrRNAのプールが減少する。これに対して、クロラムフェニコールおよびゲンタマイシンはタンパク質合成阻害剤である。クロラムフェニコールは、細菌リボソームの23Sサブユニットに結合することにより作用してタンパク質合成を阻害するのに対し、ゲンタマイシンは、リボソームの校正機能を阻害することにより作用し、それによって翻訳エラーと未成熟な状態でのペプチド鎖終止をもたらす。いずれの場合にせよ、これらのタンパク質合成阻害剤はプレrRNA合成を直接阻害しない。したがって、推測ではあるが、リボソームの形成および安定性に必要なタンパク質が失われたため、成熟rRNAのプールの減少が観察された。クロラムフェニコールの場合、プレrRNAプロセシングの阻害により、成熟rRNAの減少だけでなくプレrRNAの増加も生じた(図5B)。
【0095】
シプロフロキサシンは、DNA超らせんを導入および解消する細菌トポイソメラーゼであるDNAジャイレースの活性を阻害する、キノロン系抗生物質である。超らせんの解消は、DNA複製の前にだけでなくRNA転写の前にもDNAをほどくために必要である(16)。リファンピシンの場合と同じく、シプロフロキサシンによってRNA転写を阻害したところ、プレrRNAが急速に減少し、この減少は抗生物質から15分以内に検出可能となった。キノロン耐性は通常、キノロンのジャイレースへの結合を妨げるジャイレース変異によって生じる。予想された通り、シプロフロキサシン耐性微生物では、シプロフロキサシンを添加してもプレrRNAレベルに何ら効果は認められなかった(図6)。
【0096】
臨床検体に含まれる細菌の感受性を、臨床的意思決定に影響を及ぼすのに十分な時間枠で判定する方法に対する関心はかなり高い。現在用いられている臨床細菌学的方法の主な欠点は、臨床検体を処理する際に固形寒天培地上で細菌を分離する必要があるという点である。迅速に抗生物質感受性を試験できない場合、臨床医は通常、「経験に基づく」抗生物質治療を開始し、これは可能性のある微生物とその抗生物質耐性のパターンに関する予備知識に基づいて抗生物質を選択することを意味する。菌血症に用いられる経験に基づく抗生物質は通常、可能性のある多種多様な細菌性病原体を治療する広域性のものである。この方法は、特にキノロン耐性率が通常20〜30%である複雑性尿路感染症を管理する際に問題である(5)。さらに、広域抗生物質の過剰使用は、患者の細菌叢に選択圧をかけ、かつ耐性微生物の定着に有利に働くことによって、抗生物質耐性の出現の一因となる。
【0097】
最初の抗生物質選択の時点で抗生物質耐性に関するデータが必要であることに対処するには、臨床検体中の微生物の抗生物質感受性を分析する方法が必要である。電気化学センサーアッセイは、尿路感染症患者由来のヒト臨床尿検体で検証が実施されている(9、11)。プレrRNAの電気化学センサーアッセイは、RNA転写を直接的または間接的に阻害するリファンピシンおよびシプロフロキサシンなどの抗生物質に感受性の細菌を特定するのに有用であると予想される。最初にプレrRNAレベルを激減させた後に抗生物質がプレrRNAの補充を阻害する能力を測定することによって、抗生物質感受性試験のこの方法を他の薬物に拡張することが可能であると考えられる(4)。しかし、抗生物質は広く多岐にわたる機序で作用するため、総合的な抗生物質感受性試験を達成するには様々な方法が必要であると思われる。例えば、本発明者らは、ATP生物発光を適用して、抗生物質を添加した増殖培地および添加していない増殖培地に臨床尿検体を接種してから120分以内に尿路病原菌の抗菌物質感受性を判定することに成功している(7)。治療の時点でこのようなアッセイを臨床検体中の細菌に適用すれば、患者に個別の抗生物質療法が可能になると思われる。
【0098】
実施例2:細菌の増殖期を評価するためのプレrRNAの使用
1細胞当たりのプレrRNAコピー数と細菌増殖速度との間の相関を図7に示す。増殖速度は600nmにおける濁度または吸光度増加によって測定された総細胞容積に基づき、1細胞当たりのprRNAコピー数のピークと同じ時間である、120分で最大に達している。図8は、グラム陰性菌でのプレrRNAプローブ対の評価を示している。成熟rRNA特異的プローブ対から生じたシグナルに対するプレrRNA特異的プローブ対から生じたシグナルの比を、一晩培養物(O/N)または定常期培養物と対数増殖期の培養物とで比較した。プレrRNAのシグナルは、対数期のクレブシエラ(Klebsiella)細胞中で定常期のクレブシエラ(Klebsiella)細胞中より4倍高く、対数期のシュードモナス(Pseudomonas)細胞中で定常期のシュードモナス(Pseudomonas)細胞中より6倍高かった。図9は、セファゾリンに対するプレrRNAの応答を示している。対数増殖期の大腸菌(E.coli)感受性株の培養物にベータラクタム系抗生物質のセファゾリンを添加すると、30分以内にプレrRNAの量が抗生物質未添加の培養物に比して1対数減少した。エラーバーは標準偏差の概算値である。
【0099】
参考文献
1.Bremner,H.,and P.P.Dennis.1996.Modulation of chemical composition and other parameters of the cell by growth rate,p.1553−1569.In F.C.Neidhardt(ed.),
Escherichia coli and Salmonella,vol.2.ASM Press,Washington,D.C.
2.Campuzano,S.,et al.201 1.Biosens Bioelectron 26:3577−3584.
3.Cangelosi,G.A.,and W.H.Barbant.1997.J Bacteriol 179:4457−4463.
4.Cangelosi,G.A.,et al.1996.Antimicrob Agents Chemother 40: 1790−1795.
5.Cullen,et al.2011.Br J Urol Int[Epub ahead of print].
6.Fuchs,B.M.,et al.1998.Appl Environ Microbiol 64:4973−4982.

7.Ivancic,V.,et al.2008.J Clin Microbiol 46: 1213−1219.
8.Kuralay,F.,et al.201 1.Talanta 85:1330−1337.
9.Liao,J.C,et al.2006.J Clin Microbiol 44:561−570.
10.Liao,J.C,et al.2007.J Mol Diagn 9:158−168.
11.Mach,K.E.,et al.2009.J Urol 182:2735−2741.
12.Mastali,M.,et al.2008.J Clin Microbiol 46:2707−2716.
13.Sun,C.P.,et al.2005.Mol Genet Metab 84:90−99.
14.Wang,J.2006.Analytical Electrochemistry.J.Wiley,New York.
15.Wang,J.2008.Electrochemical glucose biosensors.Chem Rev 108:814−825.
16.Willmott,C.J.,et al.1994.J Mol Biol 242:351−363.
17.Wu,J.,et al.2010.Anal Chem 82:8830−8837.
18.Wu,J.,et al.2009.Anal Chem 81 : 10007−10012.
【0100】
実施例3:ベータラクタム系抗生物質に対する感受性の迅速な判定のためのアムジノシリン
キノロン系抗生物質のシプロフロキサシンに対する感受性を迅速に判定するには、成熟rRNAの代わりに前駆体rRNA(プレrRNA)のレベルを測定することが必要であった。本研究では、本発明者らは、ベータラクタム系抗生物質が成熟rRNAおよびプレrRNAに及ぼす効果を検討した。細菌は、それが感受性を示すベータラクタム系抗生物質の存在下で分裂することはできないが、一定期間にわたって伸長し続け得る。分裂せずに伸長する過程はフィラメント形成と呼ばれる。ペニシリン結合タンパク質(PBP)3に優先的に結合するベータラクタム系抗生物質は、フィラメント形成をより引き起こしやすい。フィラメント形成は、細胞壁の破裂による細胞溶解が起こるまで1時間以上にわたって持続し得る。フィラメント形成の間、細胞内の成熟rRNAおよびプレrRNAが増加し、rRNAまたはプレrRNAベースのアッセイが感受性細菌と耐性細菌とを識別する能力を妨げる。
【0101】
本発明者らは、PBP2結合化合物であるアムジノシリン(メシリナムとしても知られる)が、ベータラクタム系抗生物質によって引き起こされるフィラメント形成を防ぐことを発見した。フィラメント形成が阻止される結果として、アムジノシリンをベータラクタム系抗生物質と組み合わせた場合30〜45分以内に成熟rRNAおよびプレrRNAのレベルが減少する。アンピシリンなどの一部のベータラクタム系抗生物質では、アムジノシリンの効果は抗生物質の濃度と無関係である。セファゾリンおよびイミペネムなどの他の抗生物質では、アムジノシリンの効果は抗生物質の濃度に依存する。例えば、32μg/mlの濃度では、セファゾリンはアムジノシリンの有無に関係なく、30分以内にプレrRNAの減少を起こす。これに対して、4μg/mlの濃度では、セファゾリンはアムジノシリンが存在しなければプレrRNAの減少を起こさない。
【0102】
アムジノシリンの効果は、3つの主要なクラスのベータラクタム系抗生物質、すなわちペニシリン、セファロスポリン、およびカルバペネムに属する抗生物質で明らかにされている。アンピシリン、ピペラシリン、セファゾリン、セフォタキシム、およびイミペネムを含む抗生物質感受性アッセイへのアムジノシリンの添加は、抗生物質感受性細菌と抗生物質耐性細菌との迅速な識別を可能にする。重要なことに、アムジノシリン単独ではrRNAまたはプレrRNAのレベルに何ら効果を及ぼさなかった。さらに、ディスク拡散試験では、アムジノシリンが細菌のベータラクタム系抗生物質に対する感受性を増大させないことが明らかになった。換言すれば、アムジノシリンによって抗生物質耐性細菌がベータラクタム系抗生物質に感受性であるようにみえることはない。上記の研究は、PBP2特異的化合物が抗生物質感受性の迅速な判定を可能にすることを最初に明らかにしたものである。
【0103】
アムジノシリンを加えた場合または加えなかった場合にアンピシリンが成熟rRNAおよびプレrRNAに及ぼす効果を示すグラフを図11A〜11Cに示す。アンピシリン感受性大腸菌(E.coli)(EC135株)をアンピシリン(16μg/ml)単独、アムジノシリン(1μg/ml)単独、アンピシリン+アムジノシリンで処理するか、いずれでも処理しなかった。アムジノシリンによりアンピシリン感受性を短時間で認めることができた。プレrRNAに及ぼす効果の方が成熟rRNAに及ぼす効果よりも顕著であった。
【0104】
アムジノシリンを加えた場合または加えなかった場合にセフトリアキソンが成熟rRNAおよびプレrRNAに及ぼす効果を示すグラフを図12A〜12Bに示す。セフトリアキソン感受性大腸菌(E.coli)(EC103株)をセフトリアキソン(8μg/ml)単独、アムジノシリン(1μg/ml)単独、セフトリアキソン+アムジノシリンで処理するか、いずれでも処理しなかった。成熟rRNAおよびプレrRNAに対するセフトリアキソンによる効果は、アムジノシリンを加えた場合の方が、アムジノシリンを加えなかった場合よりも60分以上早くみられた。
【0105】
プレrRNAに及ぼす効果が濃度依存性であることを示すグラフを図13A〜13Cに示す。セファゾリン感受性大腸菌(E.coli)(EC103株)をアムジノシリン(1μg/ml)+0〜32μg/mlの範囲の濃度のセファゾリンで処理した。セファゾリン濃度が32μg/mlのとき、アムジノシリンはプレRNAレベルに何ら効果を及ぼさなかった。セファゾリン濃度が4μg/mlのとき、アムジノシリンによりセファゾリン感受性を短時間で認めることができた。セファゾリン濃度が高いほどプレrRNAレベルが速く低下した。
【0106】
ベータラクタム系抗生物質+アムジノシリンが抗生物質感受性細菌および耐性細菌に及ぼす効果を示すグラフを図14A〜14Dに示す。抗生物質感受性細菌および耐性細菌を、アムジノシリン(1μg/ml)+16μg/mlセファゾリン、4μg/mlセフトリアキソン、32μg/mlピペラシリン+4μg/mlタゾバクタム、および2μg/mlイミペネムを含む様々なベータラクタム系抗生物質で処理した。30〜90分以内に感受性細菌と耐性細菌との間でプレrRNAに対する効果に明らかな差がみられた。
【0107】
図15A〜15Fは、カービー・バウアーディスク拡散法による抗生物質感受性試験の結果を示すデジタル顕微鏡写真を示す。直径6mmの抗生物質ディスクを、アンピシリン感受性(EC135株)、アンピシリン耐性(EC96株)、セファゾリン感受性(EC103株)、セファゾリン耐性(EC96株)、イミペネム感受性(EC103株)またはイミペネム耐性(NDM−1株)の大腸菌(E.coli)叢を播種した寒天プレート上に置いた。各パネルとも、抗生物質のディスクが左側、アムジノシリンのディスクが右側である。画像は37℃で20時間インキュベートした後に得た。アムジノシリンと各被験抗生物質との間に相乗効果は認められなかった。
【0108】
図16A〜16Dに示されるデータは、アムジノシリンがアンピシリンに誘導される大腸菌(E.coli)のフィラメント形成を阻止することを示す。アンピシリン感受性大腸菌(E.coli)(EC103株)細胞の長さを、抗生物質無し、アンピシリン、またはアンピシリン+アムジノシリンで30分間処理した後測定した。抗生物質無し(図16A)、アンピシリン(図16B)、およびアンピシリン+アムジノシリン(図16C)で処理した代表的な細胞のデジタル顕微鏡写真が示されている。図16Dは、アンピシリンによって大腸菌(E.coli)細胞の長さが平均4倍以上増大し、その一部がアムジノシリンによって阻止されたことを示す頻度ヒストグラムである。
【0109】
当業者には、上述の記載に開示される概念および具体的な実施形態が、本発明の同じ目的を遂行するためにその他の実施形態を修正また設計する基礎として容易に用い得るものであることが理解されよう。上記のものは本発明の好ましい実施形態を十全に記載したものであるが、様々な代替物、修正物および均等物を用い得る。したがって、上述の記載は、添付の特許請求の範囲により定められる本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
図1
図2
図3A-3B】
図4A-4B】
図5A
図5B
図5C
図5D
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
図15C
図15D
図15E
図15F
図16A
図16B
図16C
図16D
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]