特許第6496819号(P6496819)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6496819-高分子フィルムの製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6496819
(24)【登録日】2019年3月15日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】高分子フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 41/46 20060101AFI20190401BHJP
   B29C 41/24 20060101ALI20190401BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20190401BHJP
   B29K 79/00 20060101ALN20190401BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20190401BHJP
【FI】
   B29C41/46
   B29C41/24
   C08J5/18CFG
   B29K79:00
   B29L7:00
【請求項の数】5
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-524869(P2017-524869)
(86)(22)【出願日】2016年6月17日
(86)【国際出願番号】JP2016068153
(87)【国際公開番号】WO2016204285
(87)【国際公開日】20161222
【審査請求日】2017年12月14日
(31)【優先権主張番号】特願2015-123045(P2015-123045)
(32)【優先日】2015年6月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】宇野 隆
(72)【発明者】
【氏名】花田 功治
(72)【発明者】
【氏名】仁木 隼人
【審査官】 ▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−290345(JP,A)
【文献】 特開2010−082992(JP,A)
【文献】 特開2007−160704(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/095317(WO,A1)
【文献】 特開平11−286025(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/018341(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 41/00−41/52
B29C 55/00−55/30
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子フィルムの製造方法であって、
(1)高分子の溶液、当該高分子の前駆体の溶液、または当該高分子の前駆体の溶液と硬化剤とを含む溶液、を調整する工程、
(2)前記溶液を、支持体上に流延し、フィルム状に成形した後に熱処理を行ってゲルフィルムを作製した後、当該ゲルフィルムを当該支持体より引き剥して、当該ゲルフィルムを得る工程、および
(3)前記ゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部を把持して、さらに当該ゲルフィルムを熱処理する工程、を含み、
前記(3)の工程において、前記ゲルフィルムのフィルム幅方向に、均一に熱風を送風する、第一の熱処理を行うとともに、前記把持された前記ゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部に、当該ゲルフィルムのフィルム流れ方向と平行に、連続的に熱風を送風する、第二の熱処理を行うことを特徴とする、高分子フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記第一の熱処理の温度T(℃)と前記第二の熱処理の温度T(℃)とで表されるT−Tが、0.1〜30であることを特徴とする、請求項1に記載の高分子フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記第一の熱処理を行うための第一の熱処理部と前記ゲルフィルムとの距離D、および、前記第二の熱処理を行うための第二の熱処理部と当該ゲルフィルムとの距離Dで表されるD/Dが、0.30以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の高分子フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記高分子フィルムがポリイミドフィルムであることを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の高分子フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記第一の熱処理と前記第二の熱処理とを通じた加熱および乾燥時間(sec)をXとし、前記(3)の工程後の前記ゲルフィルムに含まれる残揮発物量(%)をYとするとき、以下の式(1)を満たすことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の高分子フィルムの製造方法。
Y<0.0283X−1.715X+32.467・・・(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子フィルム(例えば、ポリイミドフィルム)の生産性向上に資する高分子フィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子フィルムの製造方法には様々なものがある。例えば、熱可塑性高分子を用いる場合、その軟化温度が高かったり、軟化温度と分解温度とが近かったりする等の場合は、下記(i)〜(iii)の工程を含む高分子フィルムの製造方法が挙げられる。(i)熱可塑性高分子を溶媒に溶解して高分子の溶液とする、もしくは重合等の高分子化反応に用いられる溶媒による溶液状態をそのまま用いる、等の方法によって高分子の溶液を調整する。(ii)前記高分子の溶液を支持体上に流延し、フィルム状に成形して、支持体上でフィルム上の高分子溶液を加熱および乾燥することによって、自己支持性を有した半乾燥状態のゲルフィルムを作製する。(iii)前記ゲルフィルムを支持体より引き剥し、ゲルフィルム両端部を把持部材により把持した後に、加熱炉中を搬送しながらゲルフィルムを加熱することによって、ゲルフィルムの加熱および乾燥を完了し、その後当該ゲルフィルムの両端部の把持を解放することによって、高分子フィルムを製造する。
【0003】
また、例えばポリイミドのように、それ自身が溶媒に溶けないような物質からフィルムを作製する場合は、当該物質の前駆体を溶媒に溶解することによって溶液とし、必要に応じて硬化剤等を添加した溶液を作製し、続いて、上述した方法で高分子フィルムを作製し、イミド化反応のように加熱と同時に転化反応を進める場合もある。
【0004】
上述したように加熱炉でフィルムの加熱および乾燥を行う場合には、例えばフィルム幅方向(以下、TD方向とも称する)に広いスリット状あるいは多孔穴状のノズルを一定間隔に配置し、且つ当該ノズルをフィルム流れ方向(以下、MD方向とも称する)に一定間隔に配置することによって、フィルム上下からフィルム幅方向に均一に熱風を吹き付ける方法が知られている。しかしながら、フィルム両端部である把持部付近は、例えばクリップおよびピンなどの金属製の把持部材による熱量損失、並びに外気の影響によって、把持部付近の雰囲気温度が下がり易く、また、把持部自体が熱風を遮ってしまうなどの影響によって、フィルム中央部に比べて把持部付近は加熱および乾燥が遅れてしまうという問題を有していた。そこで、フィルム両端部の加熱の程度を上げる方法として、フィルム把持部のみを加熱炉内の他の部分より高い温度で集中的に加熱する製造方法(例えば、特許文献1および特許文献2参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本国公開特許公報「特開2007−160704号(2007年06月28日公開)」
【特許文献2】国際公開公報第2013/018341号(2013年2月7日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した方法では、新たな熱源を確保するための設備が必要であったり、ランニングコストが加算される等の生産性に関する問題等があり、技術的な観点からさらなる改良の余地があった。
【0007】
本発明は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、生産性を向上させ得る高分子フィルムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記の点について鋭意検討を重ねた結果、高分子フィルムの製造方法において、自己支持性を有するゲルフィルムの両端部をさらに乾燥させる工程の際に、ゲルフィルムの幅方向に均一に熱風を送風することによる第一の熱処理を行うとともに、前記把持された部分のゲルフィルムの流れ方向と平行に、ゲルフィルムの両端部に連続的に熱風を送風する第二の熱処理を行うことにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるにいたった。
【0009】
すなわち、本発明は、高分子フィルムの製造方法であって、
(1)高分子の溶液、当該高分子の前駆体の溶液、または当該高分子の前駆体の溶液と硬化剤とを含む溶液、を調整する工程、
(2)前記溶液を、支持体上に流延し、フィルム状に成形した後に熱処理を行ってゲルフィルムを作製した後、当該ゲルフィルムを当該支持体より引き剥して、当該ゲルフィルムを得る工程、および
(3)前記ゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部を把持して、さらに当該ゲルフィルムを熱処理する工程、を含み、
前記(3)の工程において、前記ゲルフィルムのフィルム幅方向に、均一に熱風を送風する、第一の熱処理を行うとともに、前記把持された前記ゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部に、当該ゲルフィルムのフィルム流れ方向と平行に、連続的に熱風を送風する、第二の熱処理を行うことを特徴とする、高分子フィルムの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高分子フィルムの生産性を高めることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態において用いられる、第一の熱処理部および第二の熱処理部を含む加熱炉の概略を示す上面図の一例である。
図2】本発明の一実施形態において用いられる、第一の熱処理部および第二の熱処理部を含む加熱炉の概略を示す正面図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態および実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態および実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。
【0013】
なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)、B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意味する。
【0014】
(1.高分子フィルムの製造方法)
本発明の一実施形態に係る高分子フィルムの製造方法は、以下に示す特徴的な構成を有するものであればよく、その他の具体的な構成、材料、条件および設備等については特に限定されるものではない;
(1)高分子の溶液、当該高分子の前駆体の溶液、または当該高分子の前駆体の溶液と硬化剤とを含む溶液、を調整する工程、
(2)前記溶液を、支持体上に流延し、フィルム状に成形した後に熱処理を行ってゲルフィルムを作製した後、当該ゲルフィルムを当該支持体より引き剥して、当該ゲルフィルムを得る工程、および
(3)前記ゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部を把持して、さらに当該ゲルフィルムを熱処理する工程、を含み、
前記(3)の工程において、前記ゲルフィルムのフィルム幅方向に、均一に熱風を送風する、第一の熱処理を行うとともに、前記把持された前記ゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部に、当該ゲルフィルムのフィルム流れ方向と平行に、連続的に熱風を送風する、第二の熱処理を行う。
【0015】
本発明の高分子フィルムの製造方法は、前記(1)〜(3)の工程を含むことによって、高分子フィルムの生産性を高めることができるという効果を奏する。具体的には、本発明の高分子フィルムの製造方法は、ゲルフィルムの両端部の把持部に、フィルムの流れ方向と平行で連続的に熱処理することにより、把持部周辺の雰囲気温度の低下を抑制することが可能となり、それによって短時間でゲルフィルム両端部の加熱および乾燥を行うことができるという効果を奏する。本発明の高分子フィルムの製造方法ではさらに、把持部付近はフィルムのバタつきによる傷の懸念が無く、また本発明の加熱工程では無理に加熱炉内の温度を上げる必要もないため、品質上の問題を生じることなく効率的にフィルム把持部の加熱および乾燥を行うことができるという効果も奏する。本発明の高分子フィルムの製造方法ではさらに、加熱炉の延長を必要とせずフィルムの搬送速度を上げることが可能となるか、または従来の搬送速度であっても加熱炉を従来技術よりも短縮することが可能となるため、生産性の高い高分子フィルムの製造方法を提供することができるという効果も奏する。
【0016】
以下、本高分子フィルムの製造方法の各工程について詳説する。
【0017】
(2.(1)の工程)
本高分子フィルムの製造方法は、(1)高分子の溶液、当該高分子の前駆体の溶液、または当該高分子の前駆体の溶液と硬化剤とを含む溶液、を調整する工程を含むものであればよく、その他の構成は特に限定されるものではない。
【0018】
本実施形態において、高分子の溶液として供される高分子または高分子前駆体としては、特に限定されないが、例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエステルイミド等のポリイミド類、ポリベンゾイミダゾール、ポリフェニレンベンゾビスオキサゾール等の複素環含有芳香族ポリマー類、アラミド類、芳香族液晶ポリマー等を例示することができる。
【0019】
本実施形態に係る高分子フィルムの製造方法は、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸溶液を使用する方法が好ましく、ポリアミド酸溶液と硬化剤とを含む溶液を使用する方法がより好ましく適用され得る。以下では、本発明の実施形態の一例として、前記のポリイミドの前駆体であるポリアミド酸溶液と硬化剤とを使用する場合について詳述するが、本発明は、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸溶液と硬化剤とを使用する場合に何ら限定されるものではない。
【0020】
<ポリアミド酸>
ポリアミド酸は、通常、芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物とを、実質的に等モル量となるように有機溶媒中に溶解させて、得られた溶液を、制御された温度条件下で、前記芳香族酸二無水物と芳香族ジアミンとの重合が完了するまで攪拌することによって製造される。このようにして得られたポリアミド酸を含むポリアミド酸溶液は、通常5重量%〜35重量%の濃度で得られ、より好ましくは10重量%〜30重量%の濃度で得られる。前記範囲の濃度である場合には、ポリアミド酸溶液は、適当な分子量と溶液粘度とを得る。
【0021】
ポリアミド酸の重合方法としてはあらゆる公知の方法およびそれらを組み合わせた方法を用いることができる。ポリアミド酸の重合方法の特徴は、原料モノマーである芳香族ジアミンならびに芳香族酸二無水物の構造、および原料モノマーの使用割合、その原料モノマーの添加順序、などが挙げられる。特に、このモノマー添加順序を制御することにより、得られるポリイミドの構造および諸物性を制御することができる。具体的には、原料モノマーの添加順序により、シーケンス構造(ブロック構造)を有するポリイミドを得ることも可能である。
【0022】
前記芳香族ジアミンとしては、これに限定されるものではないが、例えば、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}ヘキサフルオロプロパン、ビス{4−(3−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、2,2’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、2,2’−ジメトキシベンジジン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、1,3−ジアミノベンゼン(m−フェニレンジアミン)、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、4,4’−(1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン))ビスアニリン、4,4’−(1,3−フェニレンビス(1−メチルエチリデン))ビスアニリン、4,4’−ジアミノベンズアニリド等、またはこれらの2種類以上の組み合わせを挙げることができる。
【0023】
また、前記芳香族酸二無水物としては、これに限定されるものではないが、例えば、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,4’−オキシフタル酸二無水物、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−テトラフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−フランテトラカルボン酸二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン二無水物、4,4’−ヘキサフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル無水物)、p−フェニレンジフタル酸無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物等、またはこれらの2種類以上の組み合わせを挙げることができる。
【0024】
なお、前記芳香族ジアミンと前記芳香族酸二無水物とは、実質的に等モル量となるように反応させればよく、添加の順序、モノマーの組み合わせおよび組成は特に限定されるものではない。
【0025】
ポリアミド酸を製造するための重合用溶媒として用いられる有機溶媒は、芳香族ジアミン成分、芳香族酸二無水物成分、および得られるポリアミド酸を溶解するものであれば、特に限定されるものではない。前記重合用溶媒として、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等を用いれば、得られるポリアミド酸の有機溶媒溶液(ポリアミド酸溶液)をそのまま用いて高分子の溶液を調製することができる。
【0026】
ポリアミド酸を製造するための反応温度は、−10℃〜50℃であることが好ましい。かかる温度範囲内に制御されることにより、良好な反応速度で反応が進み、生産性に優れるため好ましい。また、反応時間も特に限定されるものではないが、通常数分〜数時間である。
【0027】
<硬化剤>
本実施形態において硬化剤とは、脱水剤および触媒の少なくとも一方を含む趣旨である。
【0028】
ここで脱水剤とは、ポリアミド酸を脱水閉環作用により脱水できれば特に限定されるものではないが、例えば、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物、N,N’−ジアルキルカルボジイミド、低級脂肪族ハロゲン化物、ハロゲン化低級脂肪族酸無水物、アリールスルホン酸ジハロゲン化物、チオニルハロゲン化物等を挙げることができる。これらは単独で用いても良いし、2種類以上を適宜組み合わせて用いても良い。これらの中でも、脂肪族酸無水物、および芳香族酸無水物を特に好適に用いることができる。
【0029】
触媒は、ポリアミド酸に対する前記脱水剤の脱水閉環作用を促進する効果を有する成分であれば特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、脂肪族3級アミン、芳香族3級アミン、複素環式3級アミン等を挙げることができる。
【0030】
前記脱水剤および触媒を使用することにより、前記高分子の溶液を液膜化して乾燥する際のゲル化反応を好適に促進させることができる。
【0031】
<高分子の溶液に用いられうる添加剤>
本実施形態で用いられる高分子の溶液は、必要に応じて各種添加剤を含んでいても良い。
【0032】
前記添加剤は特に限定されないが、有機顔料および無機顔料、フィラーなどの不溶性添加剤、有機顔料および無機顔料、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、顔料、染料、脂肪酸エステル、有機滑剤(例えばワックス)等が挙げられる。
【0033】
<高分子の溶液の調製方法>
ポリアミド酸および硬化剤を含む高分子の溶液、または、ポリアミド酸、添加剤および硬化剤を含む高分子の溶液を調製する方法は特に限定されるものではなく、ポリアミド酸溶液中に、硬化剤および場合によっては添加剤を十分に分散または溶解できるような方法であれば良い。
【0034】
ポリアミド酸溶液中に、硬化剤および場合によっては添加剤(以下、「硬化剤等」という場合もある。)を添加するタイミングについても、特に限定されるものではない。硬化剤および場合によっては添加剤を、それぞれについて、ポリアミド酸重合時、ポリアミド酸重合後、支持体に高分子の溶液を液膜化する直前等に添加することが例として挙げられるが、その分散性等を考慮して、最適な時期を選択すれば良い。
【0035】
また、ポリアミド酸溶液中に、硬化剤および場合によっては不溶性添加剤を添加する添加方法についても、特に限定されるものではなく、これらを直接添加する方法、有機溶媒に分散または溶解させて添加する方法などの中から最適な方法を選択すれば良い。
【0036】
硬化剤および場合によっては添加剤の添加については、それぞれをポリアミド酸溶液に用いられているものと同一の有機溶媒に予め分散または溶解させて、硬化剤溶液または場合によっては硬化剤および添加剤を含む溶液を調製しておき、これをポリアミド酸溶液に添加して混合する方法をより好適に用いることができる。この方法では、ポリアミド酸溶液の粘性が高いため、硬化剤等をそのままポリアミド酸溶液に添加するよりも、硬化剤等を分散または溶解させやすい。さらに、硬化剤等を実質的に液体として取り扱うことができるので、硬化剤等を供給させやすくすることができる。
【0037】
(3.(2)の工程)
本実施形態の高分子フィルムの製造方法は、(2)高分子の溶液、当該高分子の前駆体の溶液、または当該高分子の前駆体の溶液と硬化剤とを含む溶液を支持体上に流延し、フィルム状に成形した後に熱処理を行って、ゲルフィルムを作製した後、当該ゲルフィルムを当該支持体より引き剥して、当該ゲルフィルムを得る工程を含むものであればよい。なお、ゲルフィルムを得る(2)の工程を、製膜工程と称する場合がある。
【0038】
前記製膜工程、すなわち、高分子の溶液または高分子の前駆体の溶液をフィルム状に成形する方法としては、特に限定されないが、例えば、ダイキャスト法または種々コーターによる以下の方法が挙げられる。(i)厚みを制限して、高分子の溶液または高分子の前駆体の溶液を、エンドレスベルトまたはドラム等の支持体上に液膜化した後に、自己支持性を有するまで前記支持体上で液膜化した当該溶液を加熱および乾燥することによって、自己支持性が発現したゲルフィルムを作製する。(ii)自己支持性が発現したゲルフィルムを前記支持体より引き剥がし、続いてこのゲルフィルムの幅方向の両端部を固定して当該ゲルフィルムを搬送しながら加熱炉中を通過させることによって、フィルムとしての最終状態を形成させる。
【0039】
以下、好適な製膜工程の一例について詳説する。
【0040】
<製膜工程>
ポリイミドの製膜工程では、前記高分子の溶液をダイスから押し出して、支持体上へキャストして液膜化した後に、さらに加熱および乾燥することによって、ゲルフィルムとする。すなわち、本製膜工程では、キャストされた高分子の溶液からなる液膜を加熱および乾燥することにより、当該液膜中の溶媒を蒸発させるとともに、一定程度イミド化を進行させることによって、自己支持性を発現させ、自己支持性を有するゲルフィルムを得る。ゲルフィルムは、半乾燥状態であり、ゲルフィルムは液膜中に含まれていた溶媒、すなわち揮発成分を含んでいる。
【0041】
ゲルフィルムの状態での残揮発成分の含有量、イミド化の程度、および加熱炉の温度設定については、ポリアミド酸の種類、得られるポリイミドフィルムの厚み等に応じて、適宜選択すれば良い。すなわち、ゲルフィルムを得る方法および条件は特に限定されるものではなく、液膜から溶媒を一部蒸発させることによって、またはポリアミド酸の一部をイミド化することによって、ゲルフィルムを得ることができるような条件であれば良い。通常は、加熱等による乾燥方法を採用することができる。この場合、支持体上での加熱および乾燥は、好適には60℃〜200℃、さらに好適には80℃〜150℃の温度領域で加熱することにより行うことがより好ましい。これにより、ゲルフィルムを得る工程を好適に進行させることができ、乾燥の初期段階で残揮発成分の含有量を有効に低減させることができるため好ましい。また、加熱方法についても特に限定されるものではなく、従来公知の加熱方法を好適に用いることができる。
【0042】
なお、本明細書において、「残揮発成分」(「残揮発物」とも称する)とは、高分子の溶液に用いられた溶媒成分のうち、ゲルフィルム中に残存した溶媒成分を意味する。
【0043】
また、加熱および乾燥時間については特に限定されるものではないが、1秒〜600秒の範囲内であることが好ましい。加熱および乾燥時間が前記範囲内であれば、ゲルフィルムを効率良く作製することができる。
【0044】
本実施形態で用いられるダイスの具体的な構成は特に限定されるものではなく、公知の各種の構成を好適に用いることができる。また、1層(単層)ダイであってもよく、2層以上の多層ダイであっても良い。
【0045】
本工程において用いられる支持体としては、特に限定されるものではないが、連続的にポリイミドフィルムの製造を行うという観点から、回転しているドラム、エンドレスベルト等を好適に用いることができる。支持体の材質も特に限定されるものではなく、金属、樹脂等であれば良いが、例えば、耐熱性の観点から、ステンレス等の金属であることがより好ましく、ステンレス製のドラム、ステンレス製のエンドレスベルトなどを特に好適に用いることができる。例えば、本工程は、加熱炉内で、好適には加熱された支持体上に、前記高分子の溶液をキャストすることにより行っても良い。加熱された支持体上で行うことにより、加熱時間および乾燥時間の短縮という利点を有する。
【0046】
なお、本実施形態において、フィルム幅方向とは、連続的にキャストされる液膜の製膜方向と垂直な方向を指すものとする。また、液膜が、ゲルフィルムおよびポリイミドフィルムになった場合においては、ゲルフィルムおよびポリイミドフィルムの製膜方向と垂直な方向に相当する方向を指すものとする。また、本実施形態において、フィルム流れ方向とは、連続的にキャストされる液膜の製膜方向を指すものとする。
【0047】
ここで、液膜のフィルム幅方向の端部とは、フィルムの幅方向の両端部をそれぞれ含む一定の幅をいい、加熱炉で加熱するときに固定される領域を含んでいれば良い。両端部の前記端部の幅は、それぞれ、10mm〜200mmであることが好ましく、20mm〜190mmであることがより好ましく、30mm〜180mmであることがさらに好ましく、40mm〜170mmであることが特に好ましい。前記端部の幅が、10mm以上であることにより、加熱炉で加熱するときに、固定できる程度の幅を確保することができる。また、前記端部の幅が、200mm以下であることにより、製品の収率を上げ効率的に製品を取得することが出来る。なお、ここで言う「製品」とは、本発明の高分子フィルムの製造方法によって製造される高分子フィルムのことであり、これ以降も、用語「製品」は、同様のことを意味する。
【0048】
両端のそれぞれの端部の幅は、同じであっても異なっていても良いが、同程度であることがより好ましい。
【0049】
液膜のフィルム幅方向の中央部とは、液膜のフィルム幅方向において、前記端部以外の部分をいい、中央部全体において、厚みが一定であることがより好ましい。中央部全体の厚みが一定であると、製品は、厚みおよびムラなどがなく、品質が良好となり、その結果、製品の歩留まりが高くなるという利点を有する。
【0050】
液膜の全幅は、製造するフィルムの幅に応じて適宜設定され、通常500mm〜3000mmである。
【0051】
前記説明においては、単層のポリイミドフィルムの製造方法を示したが、本実施形態に係る製造方法は、単層のポリイミドフィルムの製造方法に限定されるものではなく、多層のポリイミドフィルムを製造する場合にも好適に用いることができる。また、かかる場合に、多層フィルムを製造する方法としては、従来公知の多層フィルムの製造方法を適宜選択して用いることができる。
【0052】
また、本実施形態に係る高分子フィルムの製造方法は、得られるポリイミドフィルムが、熱可塑性ポリイミドであるか、非熱可塑性ポリイミドであるか、またはそれらの共重合体であるかは、特に限定されない。
【0053】
(4.(3)の工程)
本実施形態の高分子フィルムの製造方法は、(3)前記(2)の工程で得られたゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部を把持して、さらに当該ゲルフィルムを熱処理する工程を含み、当該(3)の工程において、当該ゲルフィルムのフィルム幅方向に、均一に熱風を送風する、第一の熱処理を行うとともに、当該把持された当該ゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部に、当該ゲルフィルムのフィルム流れ方向と平行に、連続的に熱風を送風する、第二の熱処理を行うものであればよく、その他の構成は特に限定されるものではない。
【0054】
また本工程において、ゲルフィルムは熱風の送風により、加熱されるとともに乾燥されるため、本工程は、加熱工程であり、乾燥工程と換言することもできる。また、「加熱工程」や「乾燥工程」は、「加熱および乾燥工程」と換言することもある。
【0055】
<ゲルフィルムの幅方向の両端部の把持>
前記(2)の工程(製膜工程)により得られたゲルフィルムを、当該ゲルフィルムの両端部を把持部材により固定して加熱炉で加熱する。すなわち、本加熱および乾燥工程では、製膜工程により得られたゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部を固定した状態で加熱炉を通し、残存する溶媒の除去ならびにイミド化を完了させることにより、ポリイミドフィルムを得る。
【0056】
ここで、本実施形態で用いられる把持部材は、従来公知のものを好適に用いることができ、特に限定されるものではないが、例えば、ゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部をクリップおよびチャック、ならびにテンターピン等の把持部材で固定して、ゲルフィルムを加熱炉内に搬送するタイプのものを用いることが好ましい。
【0057】
より具体的には、例えば、図2に示すように、支持体から引き剥がしたゲルフィルム1の両端部を、搬送装置カバー7およびブラケット8に挟まれるように配置されたテンターピン6と呼ばれる針状の固定手段に刺して固定することが好ましい。固定化されたゲルフィルム1は広がった状態で支えられており、この状態で加熱炉に搬入して加熱および乾燥される。ゲルフィルム1の加熱が完了し、完全にイミド化されることによってポリイミドフィルムが得られ、その後当該ポリイミドフィルムは、テンターピン6から引き抜かれて回収される。また、前記固定手段として、例えばクリップおよびチャック等のテンターピン6以外の固定手段を用いても良い。
【0058】
本実施形態において、加熱および乾燥処理が行われる加熱炉は、特に限定されず、例えば、テンター炉などが挙げられる。
【0059】
本実施形態における加熱および乾燥処理を行う工程(加熱および乾燥工程)の加熱および乾燥時間(加熱炉内の滞留時間でもある)は特に限定されるものではなく、イミド化が完了できる時間であれば、従来公知の範囲内の時間で焼成することができるが、例えば、1秒〜600秒であることが好ましい。
【0060】
加熱および乾燥工程により得られるポリイミドフィルムの全幅は、製造するフィルムの用途等に応じて適宜設定され、通常500mm〜3000mmである。
【0061】
また、加熱および乾燥工程により得られるポリイミドフィルムのフィルム幅方向の中央部の厚みは、製造するフィルムの用途等に応じて適宜設定され、通常3μm〜125μmであり、厚みが一定であることがより好ましい。中央部全体の厚みが一定である場合の利点は、液膜のフィルム幅方向の中央部の厚みが一定ある場合と、同様である。前記ポリイミドフィルムのフィルム幅方向の中央部の厚みが3μm以上であると、破断しにくい製品が得られるという利点を有し、ポリイミドフィルムのフィルム幅方向の中央部の厚みが125μm以下であると、(3)の工程におけるゲルフィルムの加熱および乾燥時間が短くなるという利点、すなわち製品の生産性に優れるという利点を有する。
【0062】
なお、ここで、加熱および乾燥工程により得られるポリイミドフィルムの中央部とは、前記液膜のフィルム幅方向の中央部に相当するフィルム幅方向の部分である。加熱および乾燥工程により得られるポリイミドフィルムの両端部とは、前記液膜のフィルム幅方向の端部に相当するフィルム幅方向の部分である。
【0063】
また、ここで、加熱および乾燥工程により得られるポリイミドフィルムは、フィルム幅方向の両端部の厚みがフィルム幅方向の中央部の厚みよりも大きくなっていることが好ましい。フィルム幅方向の両端部の厚みがフィルム幅方向の中央部の厚みよりも大きくなっていることにより、把持部でのフィルムの裂けを防止できるという利点を有する。前記ポリイミドフィルムの両端部の厚みは、前記中央部の厚みの1.0倍〜4倍であることが好ましく、1.1倍〜3倍であることがより好ましく、1.2倍〜2倍であることがさらに好ましい。
【0064】
本実施形態の(3)の工程では、ゲルフィルムのフィルム幅方向に、均一に熱風を送風する、第一の熱処理を行うとともに、当該把持された当該ゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部に、当該ゲルフィルムのフィルム流れ方向と平行に、連続的に熱風を送風する、第二の熱処理を行うことを特徴とする。以下に、本実施形態の加熱および乾燥工程における第一の熱処理方法および第二の熱処理方法について説明する。
【0065】
<第一の熱処理>
本実施形態の第一の熱処理は、ゲルフィルムのフィルム幅方向に、均一に熱を加えることである。
【0066】
ゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部が把持されたゲルフィルム中央部全体を加熱してポリイミドフィルムを得る方法は特に限定されるものではなく、ゲルフィルムを有効に加熱してポリイミドフィルムに焼成できればよく、第一の熱処理部としては、熱線放射装置、熱風送風装置、遠赤外線ヒーターなどが挙げられるが、防爆性やランニングコストの観点から特に熱風送風装置を採用することが好ましい。
【0067】
また、熱風送風装置の具体的な構成は特に限定されるものではないが、残揮発成分の含有量を効率的に低減させる観点から、ゲルフィルムの上下両面からゲルフィルムのフィルム幅方向全体に、且つ均一に熱風を噴射できる装置が好ましい。あるいは、設備レイアウトの制約および目的に応じて、ゲルフィルムの上方の面または下方の面からゲルフィルムのフィルム幅方向全体に、且つ均一に熱風を噴射できる装置を用いることも可能である。例えば、ゲルフィルムのフィルム幅方向に長いスリット状の噴射口あるいは多孔穴状の噴射口を有したノズルをゲルフィルムのフィルム流れ方向に垂直に一定間隔に配置した構成を挙げることができる。
【0068】
図1および2に示すように、本実施形態の第一の熱処理の一例は、テンターピン6を用いてフィルム幅方向5の両端部が把持されたゲルフィルム1の上下両面から、第一の熱処理部2によって、ゲルフィルム1のフィルム幅方向5に、均一に熱風を送風することによる、熱処理である。第一の熱処理部2は、ゲルフィルム1のフィルム流れ方向4に垂直に一定間隔に配置されている。
【0069】
第一の熱処理方法における熱風の風速は、特に限定されず、加熱条件およびゲルフィルムの搬送性によって適宜設定されうるが、通常は0.5m/sec〜30m/secであり、生産性、および製品の歩留まりが高くなるとの観点から、より好ましくは1m/sec〜25m/sec、さらに好ましくは5m/sec〜20m/secである。
【0070】
第一の熱処理の温度T(℃)は、第一の熱処理方法における熱風の温度を意味する。第一の熱処理の温度T(℃)は、イミド化を完了できるとともに、ゲルフィルム中に含まれる残揮発成分の含有量を十分に低減できる温度範囲であれば特に限定されるものではないが、生産性および熱による劣化防止の観点から、200℃〜600℃であることが好ましく、250℃〜500℃であることがより好ましい。また、当該熱風温度は、工程の進行に伴い徐々に温度を上昇させることがより好ましい。
【0071】
また、本実施形態の第一の熱処理方法では、第一の熱処理部からゲルフィルムまでの距離Dは、特に限定されず、加熱条件およびゲルフィルムの搬送性によって適宜設定されうるが、通常は30mm〜300mm程度であり、加熱および乾燥効率、ならびにゲルフィルムを安定して搬送するとの観点から、より好ましくは50mm〜250mm、さらに好ましくは100mm〜200mmである。
【0072】
なお、第一の熱処理部からゲルフィルムまでの距離Dは、図2に示すように、第一の熱処理部2からゲルフィルム1までの最短距離を示す。
【0073】
<第二の熱処理>
本実施形態では、第一の熱処理を行うとともに、前記把持された前記ゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部に、当該ゲルフィルムのフィルム流れ方向と平行に、連続的に熱風を送風する、第二の熱処理を行うことを特徴とする。
【0074】
本実施形態における、ゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部を加熱する第二の熱処理部としては、把持された部分に、ゲルフィルムのフィルム流れ方向と平行に配置した第二の熱処理部によって、ゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部を連続的に加熱する第二の熱処理を行うことができれば特に限定されない。本実施形態における第二の熱処理部としては、例えば、熱風送風装置、赤外線ヒーターなどの、加熱手段を備えた公知の装置を例示できるが、防爆性およびランニングコストの観点から特に熱風送風装置を採用することが好ましい。
【0075】
図2に示すように、本実施形態の第二の熱処理部3は、第一の熱処理部2および搬送装置カバー7に挟まれるように配置され、且つ図1に示すように、ゲルフィルム1のフィルム流れ方向4と平行に配置される。
【0076】
また、ゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部を加熱する熱風送風装置の熱源は特に限定されるものではなく、ゲルフィルムの加熱および乾燥に必要な、温度および風量が確保できれば良い。例えば熱風送風装置の熱源としては、電気ヒーター式の熱風発生器および高温の空気を用いた熱交換器などが挙げられる。本実施形態の第二の熱処理部として熱風送風装置を用いる場合、ゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部を連続的に加熱する装置の具体的な構成は特に限定されるものではなく、公知の各種の構成を好適に用いることができる。例えば、ゲルフィルムのフィルム流れ方向に長いスリット状の噴射口あるいは多孔穴状の噴射口などが挙げられ、それらの構成は、風速および風量、または設置スペース等に応じて適宜設定されれば良い。
【0077】
第二の熱処理では、第二の熱処理部の配置位置は把持方法や把持部材の大きさにより、適宜選定すればよい。また、本実施形態の第二の熱処理部として熱風送風装置を用いる場合、第二の熱処理部のゲルフィルムに対する設置角度は熱風の噴射方向がゲルフィルムの把持部を向いていれば特に限定されるものではなく、設備スペース等に応じて適宜設定すれば良く、ゲルフィルムの上方の面または下方の面、あるいは、上下両面からであってもよい。例えば、テンターピンの場合における第二の熱処理部の配置位置は、効率的な加熱および乾燥の観点から、図1および2のように、ゲルフィルム1のフィルム幅方向5の両端部の上部が好ましい。さらに、効率的な加熱および乾燥の観点から、第二の熱処理部3はゲルフィルム1のフィルム流れ方向4に隙間が生じないように、連続的に配置されることが好ましい。
【0078】
第二の熱処理方法における熱風の風速は、特に限定されず、加熱条件およびゲルフィルムの搬送性によって適宜設定されるが、通常は1m/sec〜20m/sec程度であり、生産性、および最終的に得られる高分子フィルムの歩留まりが高くなるとの観点から、より好ましくは3m/sec〜15m/sec、さらに好ましくは5m/sec〜10m/secである。第二の熱処理方法における熱風の風速が1m/sec以上であれば、加熱および乾燥時間を短くすることができるという利点を有し、第二の熱処理方法における熱風の風速が20m/sec以下であれば、製品の破断を裂けることができるという利点を有する。
【0079】
第二の熱処理の温度T(℃)は、第二の熱処理部付近の雰囲気温度を意味する。第二の熱処理の温度T(℃)は、第二の熱処理部から熱風を送風する出口付近の温度を測定することにより、容易に決定され得る。第二の熱処理の温度T(℃)は、ゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部の残揮発成分の含有量を十分に低減できる温度範囲であれば特に限定されるものではないが、生産性、および、熱による製品の劣化防止の観点から、200℃〜600℃であることが好ましく、250℃〜500℃であることがより好ましい。また、当該熱風温度は、工程の進行に伴い徐々に温度を上昇させることがより好ましい。
【0080】
本実施形態において、第一の熱処理の温度T(℃)と第二の熱処理の温度T(℃)との関係は、第一の熱処理の温度T(℃)が第二の熱処理の温度T(℃)よりも高い温度であればよい。第一の熱処理の温度T(℃)と第二の熱処理の温度T(℃)とで表わされるT−Tは、0.1℃〜30℃であることが好ましく、0.1℃〜20℃であることがより好ましく、0.1℃〜16℃あることがとりわけ好ましい。この範囲内であれば、ゲルフィルムのフィルム両端部の残揮発成分の含有量を十分に低減させることができる。
【0081】
第二の熱処理における、第二の熱処理部からゲルフィルムまでの距離Dは、特に限定されず、加熱条件およびゲルフィルムの搬送性によって適宜設定され、通常は3mm〜100mmであり、加熱および乾燥効率、ならびにゲルフィルムを安定して搬送するとの観点から、より好ましくは5mm〜50mm、さらに好ましくは10mm〜30mmである。
【0082】
なお、第二の熱処理部からゲルフィルムまでの距離Dは、図2に示すように、第二の熱処理部3からゲルフィルム1までの最短距離を示す。
【0083】
また、第二の熱処理を行うための第二の熱処理部と当該ゲルフィルムとの距離Dは、第一の熱処理を行うための第一の熱処理部とゲルフィルムとの距離Dと比較して、短いことが好ましいが、特に限定されない。距離DとDとの関係は、例えば、D/Dの式により表すことができ、D/D<1であることが好ましい。
【0084】
本実施形態の第二の熱処理の主な目的は、テンターピンなどの把持部材によって把持される、ゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部において、ゲルフィルムに含まれる揮発成分を除去することである。本実施形態の(3)の工程の後に、ゲルフィルムに含まれる残揮発成分の量を「残揮発物量(%)」と称する。残揮発物量(%)の測定方法および定義は、後述する実施例の中で、詳しく説明される。本実施形態のゲルフィルムのフィルム両端部の残揮発物量(%)は、乾燥効率の観点から、12%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、8%以下であることがさらに好ましく7%以下であることが特に好ましい。また、残揮発物量(%)の下限値も、特に限定されないが、製品が裂けたり、または破れたりしない範囲であることがより好ましい。
【0085】
本実施形態の(3)の工程では、第一の熱処理と第二の熱処理との、用語「第一の」および「第二の」は、単に熱処理方法が二つあることを示す目的で使用されているだけであり、これらの用語が、両熱処理の重要性や熱処理の順序を表しているわけではない。
【0086】
本実施形態の(3)の工程では、第一の熱処理および第二の熱処理の順序は、特に限定されず、第一の熱処理の後に第二の熱処理を行ってもよく、または第一の熱処理と第二の熱処理を同時に行ってもよい。
【0087】
本実施形態の(3)の工程の第一の熱処理と第二の熱処理とを通じた加熱および乾燥時間(sec)をXとし、前記(3)の工程後の前記ゲルフィルムに含まれる残揮発物量(%)をYとするとき、本実施形態の高分子フィルムの製造方法は、コストパフォーマンス、生産性および製品の歩留まりの観点から、以下の式(1)を満たすことが好ましい。
Y<0.0283X−1.715X+32.467・・・(1)
本実施形態の高分子フィルムの製造方法のコストパフォーマンス、生産性および歩留まりなどの効果は、上述したXおよびYを用いて、以下の式(2)によって定義づけられる、残揮発物量除去率によって表されることも可能である。
残揮発物量除去効率=(0.0283X−1.715X+32.467)−Y・・・(2)
本実施形態の前記残揮発物量除去率は、特に限定されないが、コストパフォーマンス、生産性、および製品の歩留まりの観点から、0より大きいことが好ましく、0.5より大きいことがより好ましく、1.0より大きいことがより好ましく、2.0より大きいことがさらに好ましく、3.0より大きいことが特に好ましい。また、残揮発物量除去効率の上限値も、特に限定されないが、製品が裂けたり、または破れたりしない範囲であることがより好ましい。
【0088】
本発明は、以下の構成を有するものであってもよい。
[1]高分子フィルムの製造方法であって、
(1)高分子の溶液、当該高分子の前駆体の溶液、または当該高分子の前駆体の溶液と硬化剤とを含む溶液、を調整する工程、
(2)前記溶液を、支持体上に流延し、フィルム状に成形した後に熱処理を行ってゲルフィルムを作製した後、当該ゲルフィルムを当該支持体より引き剥して、当該ゲルフィルムを得る工程、および
(3)前記ゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部を把持して、さらに当該ゲルフィルムを熱処理する工程、を含み、
前記(3)の工程において、前記ゲルフィルムのフィルム幅方向に、均一に熱風を送風する、第一の熱処理を行うとともに、前記把持された前記ゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部に、当該ゲルフィルムのフィルム流れ方向と平行に、連続的に熱風を送風する、第二の熱処理を行うことを特徴とする、高分子フィルムの製造方法。
[2]前記第一の熱処理の温度T(℃)と前記第二の熱処理の温度T(℃)とで表されるT−Tが、0.1〜30であることを特徴とする、[1]に記載の高分子フィルムの製造方法。
[3]前記第一の熱処理を行うための第一の熱処理部と前記ゲルフィルムとの距離D、および、前記第二の熱処理を行うための第二の熱処理部と当該ゲルフィルムとの距離Dで表されるD/Dが、0.30以下であることを特徴とする、[1]または[2]に記載の高分子フィルムの製造方法。
[4]前記高分子フィルムがポリイミドフィルムであることを特徴とする、[1]〜[3]の何れか1つに記載の高分子フィルムの製造方法。
[5]前記第一の熱処理と前記第二の熱処理とを通じた加熱および乾燥時間(sec)をXとし、前記(3)の工程後の前記ゲルフィルムに含まれる残揮発物量(%)をYとするとき、以下の式(1)を満たすことを特徴とする、[1]〜[4]の何れか1つに記載の高分子フィルムの製造方法。
Y<0.0283X−1.715X+32.467・・・(1)
【実施例】
【0089】
以下、本発明の一実施態様について実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0090】
(フィルムのフィルム幅方向の両端部の残揮発物量)
フィルムのフィルム幅方向の両端部の残揮発物量は、加熱炉から出てきたフィルムについて、フィルム幅方向において、中央部側に一番近い側のピンから外側で且つ流れ方向に200mmの長さでフィルムを切り取った。切り取ったフィルムの重量を測定した後に、エスペック株式会社製、高温恒温器STPH−101を使用して、450℃で、20分間、乾燥し、乾燥後に再びフィルムの重量を測定した。また、乾燥後のフィルムの厚さを測定した。本発明の残揮発物量は、以下の式(3)により、定義される。
【0091】
残揮発物量(%)=((W−W)×100/W)×(Tc/Te)・・・(3)
前記式(3)において、Wは乾燥前のフィルム重量を表し、Wは乾燥後のフィルムの重量を表し、Tcは乾燥後のフィルム中央部の厚さ(μm)を表し、そしてTeは、乾燥後のフィルム端部の厚さ(μm)を表す。
【0092】
(フィルム傷)
フィルム傷は、加熱炉から出てきたフィルムについて、フィルムを目視することによって、フィルム傷の有無を判定した。
【0093】
(フィルム裂け)
フィルム裂けは、加熱炉から出てきたフィルムについて、フィルムを目視することによって、フィルムの裂け目の有無を判定した。
【0094】
(合成例1)
N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)中で、ピロメリット酸二無水物、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミンのモル比が4/3/1の割合になるように重合し、高分子の前駆体の溶液である、ポリアミド酸溶液を得た。
【0095】
(製造例1)
合成例1で得られたポリアミド酸溶液に、脂肪族酸無水物である無水酢酸、複素環式3級アミンであるイソキノリンおよびDMFからなる硬化剤を混合して高分子の前駆体の溶液と硬化剤とを含む溶液とし、これをTダイから連続的に押出し、ステンレス製のエンドレスベルト上に塗布した。
【0096】
(実施例1)
製造例1で塗布したポリアミド酸溶液と硬化剤との、高分子の前駆体の溶液と硬化剤とを含む溶液を、110℃で75秒間、加熱および乾燥させ、自己支持性を有したゲルフィルムを得た。このゲルフィルムをエンドレスベルトから引き剥がした後、ゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部をテンターピンで把持し、搬送しながらテンター炉内で、第一の熱処理および第二の熱処理を行うことによって、ゲルフィルムを加熱および乾燥し、膜厚12.5μmのポリイミドフィルムを得た。本実施例において、第一の熱処理の温度Tは、275℃とし、第二の熱処理の風速は10m/secとした。この時、温度Tは259℃であった。第一の熱処理および第二の熱処理は、同時に行い、両熱処理によるゲルフィルムの加熱および乾燥の時間は、25秒間とした。得られたフィルムのフィルム幅方向の両端部の残揮発物量は7.0重量%であり、残揮発物量除去効率は、0.28であった。運転条件および得られた結果を表1に示す。
【0097】
(比較例1)
製造例1で塗布したポリアミド酸溶液と硬化剤との、高分子の前駆体の溶液と硬化剤とを含む溶液を、110℃で75秒間、加熱および乾燥させ、自己支持性を有したゲルフィルムを得た。このゲルフィルムをエンドレスベルトから引き剥がした後、ゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部をテンターピンで把持し、搬送しながらテンター炉内で、第一の熱処理のみを行うことによって、ゲルフィルムを加熱および乾燥し、膜厚12.5μmのポリイミドフィルムを得た。本比較例において、第一の熱処理の温度Tは、275℃とし、第二の熱処理は行わなかった。第一の熱処理によるゲルフィルムの加熱および乾燥の時間は、25秒間とした。得られたフィルムのフィルム幅方向の両端部の残揮発物量は7.7重量%であり、残揮発物量除去効率は、−0.42であった。運転条件および得られた結果を表1に示す。なお、比較例1における第二の熱処理の温度は、実施例1において第二の熱処理の温度を測定した位置と同位置において測定した、雰囲気温度である。
【0098】
(実施例2)
製造例1で塗布したポリアミド酸溶液と硬化剤との、高分子の前駆体の溶液と硬化剤とを含む溶液を、120℃で60秒間、加熱および乾燥させ、自己支持性を有したゲルフィルムを得た。このゲルフィルムをエンドレスベルトから引き剥がした後、ゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部をテンターピンで把持し、搬送しながらテンター炉内で、第一の熱処理および第二の熱処理を行うことによって、ゲルフィルムを加熱および乾燥し、膜厚12.5μmのポリイミドフィルムを得た。本実施例において、第一の熱処理の温度Tは、275℃とし、第二の熱処理の風速は10m/secとした。この時、温度Tは259℃であった。第一の熱処理および第二の熱処理は、同時に行い、両熱処理によるゲルフィルムの加熱および乾燥の時間は、20秒間とした。得られたフィルムのフィルム幅方向の両端部の残揮発物量は8.8重量%であり、残揮発物量除去効率は、0.69であった。運転条件および得られた結果を表1に示す。
【0099】
(比較例2)
製造例1で塗布したポリアミド酸溶液と硬化剤との、高分子の前駆体の溶液と硬化剤とを含む溶液を、120℃で60秒間、加熱および乾燥させ、自己支持性を有したゲルフィルムを得た。このゲルフィルムをエンドレスベルトから引き剥がした後、ゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部をテンターピンで把持し、搬送しながらテンター炉内で、第一の熱処理のみを行うことによって、ゲルフィルムを加熱および乾燥し、膜厚12.5μmのポリイミドフィルムを得た。本比較例において、第一の熱処理の温度Tは、275℃とし、第二の熱処理は行わなかった。第一の熱処理によるゲルフィルムの加熱および乾燥の時間は、20秒間とした。得られたフィルムのフィルム幅方向の両端部の残揮発物量は10.2重量%であり、残揮発物量除去効率は、−0.71であった。運転条件および得られた結果を表1に示す。なお、比較例2における第二の熱処理の温度は、実施例1において第二の熱処理の温度を測定した位置と同位置において測定した、雰囲気温度である。
【0100】
(実施例3)
製造例1で塗布したポリアミド酸溶液と硬化剤との、高分子の前駆体の溶液と硬化剤とを含む溶液を、130℃で50秒間、加熱および乾燥させ、自己支持性を有したゲルフィルムを得た。このゲルフィルムをエンドレスベルトから引き剥がした後、ゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部をテンターピンで把持し、搬送しながらテンター炉内で、第一の熱処理および第二の熱処理を行うことによって、ゲルフィルムを加熱および乾燥し、膜厚12.5μmのポリイミドフィルムを得た。本実施例において、第一の熱処理の温度Tは、275℃とし、第二の熱処理の風速は10m/secとした。この時、温度Tは259℃であった。第一の熱処理および第二の熱処理は、同時に行い、両熱処理によるゲルフィルムの加熱および乾燥の時間は、17秒間とした。得られたフィルムのフィルム幅方向の両端部の残揮発物量は10.3重量%であり、残揮発物量除去効率は、1.19であった。運転条件および得られた結果を表1に示す。
【0101】
(比較例3)
製造例1で塗布したポリアミド酸溶液と硬化剤との、高分子の前駆体の溶液と硬化剤とを含む溶液を、130℃で50秒間、加熱および乾燥させ、自己支持性を有したゲルフィルムを得た。このゲルフィルムをエンドレスベルトから引き剥がした後、ゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部をテンターピンで把持し、搬送しながらテンター炉内で、第一の熱処理のみを行うことによって、ゲルフィルムを加熱および乾燥し、膜厚12.5μmのポリイミドフィルムを得た。本比較例において、第一の熱処理の温度Tは、275℃とし、第二の熱処理は行わなかった。第一の熱処理によるゲルフィルムの加熱および乾燥の時間は、17秒間とした。得られたフィルムのフィルム幅方向の両端部の残揮発物量は12.3重量%であり、残揮発物量除去効率は、−0.81であった。運転条件および得られた結果を表1に示す。なお、比較例3における第二の熱処理の温度は、実施例1において第二の熱処理の温度を測定した位置と同位置において測定した、雰囲気温度である。
【0102】
(実施例4)
製造例1で塗布したポリアミド酸溶液と硬化剤との、高分子の前駆体の溶液と硬化剤とを含む溶液を、110℃で75秒間、加熱および乾燥させ、自己支持性を有したゲルフィルムを得た。このゲルフィルムをエンドレスベルトから引き剥がした後、ゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部をテンターピンで把持し、搬送しながらテンター炉内で、第一の熱処理および第二の熱処理を行うことによって、ゲルフィルムを加熱および乾燥し、膜厚12.5μmのポリイミドフィルムを得た。本実施例において、第一の熱処理の温度Tは、300℃とし、第二の熱処理の風速は10m/secとした。この時、温度Tは286℃であった。第一の熱処理および第二の熱処理は、同時に行い、両熱処理によるゲルフィルムの加熱および乾燥の時間は、25秒間とした。得られたフィルムのフィルム幅方向の両端部の残揮発物量は6.4重量%であり、残揮発物量除去効率は、0.88であった。運転条件および得られた結果を表1に示す。
【0103】
(実施例5)
製造例1で塗布したポリアミド酸溶液と硬化剤との、高分子の前駆体の溶液と硬化剤とを含む溶液を、120℃で60秒間、加熱および乾燥させ、自己支持性を有したゲルフィルムを得た。このゲルフィルムをエンドレスベルトから引き剥がした後、ゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部をテンターピンで把持し、搬送しながらテンター炉内で、第一の熱処理および第二の熱処理を行うことによって、ゲルフィルムを加熱および乾燥し、膜厚12.5μmのポリイミドフィルムを得た。本実施例において、第一の熱処理の温度Tは、300℃とし、第二の熱処理の風速は10m/secとした。この時、温度Tは286℃であった。第一の熱処理および第二の熱処理は、同時に行い、両熱処理によるゲルフィルムの加熱および乾燥の時間は、20秒間とした。得られたフィルムのフィルム幅方向の両端部の残揮発物量は7.4重量%であり、残揮発物量除去効率は、2.09であった。運転条件および得られた結果を表1に示す。
【0104】
(実施例6)
製造例1で塗布したポリアミド酸溶液と硬化剤との、高分子の前駆体の溶液と硬化剤とを含む溶液を、130℃で50秒間、加熱および乾燥させ、自己支持性を有したゲルフィルムを得た。このゲルフィルムをエンドレスベルトから引き剥がした後、ゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部をテンターピンで把持し、搬送しながらテンター炉内で、第一の熱処理および第二の熱処理を行うことによって、ゲルフィルムを加熱および乾燥し、膜厚12.5μmのポリイミドフィルムを得た。本実施例において、第一の熱処理の温度Tは、300℃とし、第二の熱処理の風速は10m/secとした。この時、温度Tは286℃であった。第一の熱処理および第二の熱処理は、同時に行い、両熱処理によるゲルフィルムの加熱および乾燥の時間は、17秒間とした。得られたフィルムのフィルム幅方向の両端部の残揮発物量は8.2重量%であり、残揮発物量除去効率は、3.29であった。運転条件および得られた結果を表1に示す。
【0105】
(実施例7)
製造例1で塗布したポリアミド酸溶液と硬化剤との、高分子の前駆体の溶液と硬化剤とを含む溶液を、130℃で50秒間、加熱および乾燥させ、自己支持性を有したゲルフィルムを得た。このゲルフィルムをエンドレスベルトから引き剥がした後、ゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部をテンターピンで把持し、搬送しながらテンター炉内で、第一の熱処理および第二の熱処理を行うことによって、ゲルフィルムを加熱および乾燥し、膜厚12.5μmのポリイミドフィルムを得た。本実施例において、第一の熱処理の温度Tは、300℃とし、第二の熱処理の風速は8m/secとした。この時、温度Tは286℃であった。第一の熱処理および第二の熱処理は、同時に行い、両熱処理によるゲルフィルムの加熱および乾燥の時間は、17秒間とした。得られたフィルムのフィルム幅方向の両端部の残揮発物量は10.6重量%であり、残揮発物量除去効率は、0.89であった。運転条件および得られた結果を表1に示す。
【0106】
(実施例8)
製造例1で塗布したポリアミド酸溶液と硬化剤との、高分子の前駆体の溶液と硬化剤とを含む溶液を、130℃で50秒間、加熱および乾燥させ、自己支持性を有したゲルフィルムを得た。このゲルフィルムをエンドレスベルトから引き剥がした後、ゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部をテンターピンで把持し、搬送しながらテンター炉内で、第一の熱処理および第二の熱処理を行うことによって、ゲルフィルムを加熱および乾燥し、膜厚12.5μmのポリイミドフィルムを得た。本実施例において、第一の熱処理の温度Tは、300℃とし、第二の熱処理の風速は6m/secとした。この時、温度Tは286℃であった。第一の熱処理および第二の熱処理は、同時に行い、両熱処理によるゲルフィルムの加熱および乾燥の時間は、17秒間とした。得られたフィルムのフィルム幅方向の両端部の残揮発物量は11.3重量%であり、残揮発物量除去効率は、0.19であった。運転条件および得られた結果を表1に示す。
【0107】
(実施例9)
製造例1で塗布したポリアミド酸溶液と硬化剤との、高分子の前駆体の溶液と硬化剤とを含む溶液を、130℃で50秒間、加熱および乾燥させ、自己支持性を有したゲルフィルムを得た。このゲルフィルムをエンドレスベルトから引き剥がした後、ゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部をテンターピンで把持し、搬送しながらテンター炉内で、第一の熱処理および第二の熱処理を行うことによって、ゲルフィルムを加熱および乾燥し、膜厚12.5μmのポリイミドフィルムを得た。本実施例において、第一の熱処理の温度Tは、300℃とし、第二の熱処理の風速は11m/secとした。この時、温度Tは286℃であった。第一の熱処理および第二の熱処理は、同時に行い、両熱処理によるゲルフィルムの加熱および乾燥の時間は、17秒間とした。得られたフィルムのフィルム幅方向の両端部の残揮発物量は6.0重量%であり、残揮発物量除去効率は、5.48であった。運転条件および得られた結果を表1に示す。
【0108】
(比較例4)
製造例1で塗布したポリアミド酸溶液と硬化剤との、高分子の前駆体の溶液と硬化剤とを含む溶液を、120℃で60秒間、加熱および乾燥させ、自己支持性を有したゲルフィルムを得た。このゲルフィルムをエンドレスベルトから引き剥がした後、ゲルフィルムのフィルム幅方向の両端部をテンターピンで把持し、搬送しながらテンター炉内で、第一の熱処理のみを行うことによって、ゲルフィルムを加熱および乾燥し、膜厚12.5μmのポリイミドフィルムを得た。本比較例において、第一の熱処理の温度Tは、250℃とし、第二の熱処理は行わなかった。第一の熱処理によるゲルフィルムの加熱および乾燥の時間は、20秒間とした。得られたフィルムのフィルム幅方向の両端部の残揮発物量および残揮発物量除去効率は、フィルムが裂けたため、測定できなかった。運転条件および得られた結果を表1に示す。なお、比較例4における第二の熱処理の温度は、実施例1において第二の熱処理の温度を測定した位置と同位置において測定した、雰囲気温度である。
【0109】
【表1】
【0110】
実施例1および比較例1、実施例2および比較例2、ならびに実施例3および比較例3の対比からわかるように、表1の結果は、(3)の工程における加熱および乾燥時間、ならびに第一の熱処理の温度T(℃)を同一条件としたとき、第二の熱処理を行うことによりフィルムのフィルム幅方向の両端部の残揮発物量を低減できることを示している。
【0111】
また、実施例1および実施例4、実施例2および実施例5、ならびに実施例3および実施例6の対比からわかるように、表1の結果は、(3)の工程における加熱および乾燥時間、ならびに第二の熱処理の風速を同一条件としたとき、第一の熱処理の温度を高くすることによって、フィルムのフィルム幅方向の両端部の残揮発物量を低減できることも示している。
【0112】
また、実施例6、実施例7、および実施例8の対比からわかるように、表1の結果は、(3)の工程における加熱および乾燥時間、ならびに第一の熱処理の温度T(℃)を同一条件としたとき、第二の熱処理の風速を適切に設定することにより両端部残揮発物量を低減できることも示している。
【0113】
さらに、実施例6および実施例9の対比からわかるように、第二の熱処理の風速が一定の速度を超えた場合は、フィルムに傷が生じる可能性がある。
【0114】
また、比較例4および比較例2の対比からわかるように、表1の結果は、(3)の工程における加熱および乾燥時間、ならびに第二の熱処理を同一条件としたとき、第一の熱処理の温度T(℃)が一定の温度を下回った場合は、フィルムが裂ける可能性がある。
【符号の説明】
【0115】
1 ゲルフィルム
2 第一の熱処理部
3 第二の熱処理部
4 フィルム流れ方向(MD方向)
5 フィルム幅方向(TD方向)
6 テンターピン
7 搬送装置カバー
8 ブラケット
図1
図2