【実施例1】
【0030】
以下、本発明の実施例1を図面に基づき説明する。
図12は、深層混合処理工法におけるW/Cの設定装置のブロック図を示し、この装置の根幹をなすものがパソコン(パーソナルコンピューター)10である。このパソコン10には、インターフェイス20を介して入力部23と表示部24とプリンタ25が結合され、また、室内配合試験装置26へのデータの入出力が行われ、さらに、シミュレーション結果メモリ21を介してデータベース22に結合されている。
【0031】
前記パソコン10には、土質調査パラメータ(合算水量等)を演算し、地盤の硬さ、有機質土を判別する演算及び判別回路11と、スラリー曲線作成部12と、比較判定部13と、本施工のC、W/Cの決定部14と、状態格納部15と、地盤特性メモリ16と、材料特性メモリ17と、機械特性メモリ18と、全国・個別スラリー曲線作成部19とを具備し、前記状態格納部15は、前記インターフェイス20を介して外部の回路に結合される。
【0032】
図11に基づき本発明のフローを説明する。
A1:スタート後、この工程では、入力部23からインターフェイス20を介してパソコン10に次の情報が入力される。
発注者の特記仕様書・設計書、建設物の要求特性、建設地点の地盤情報、改良すべき地盤の要求性能設計強度quck、概説地層図等の情報、その他必要情報。
A2:この工程では、改良すべき地盤の土を採集し、土質試験を行い、湿潤密度(ρt)、乾燥密度(ρd)、土粒子の密度(ρs)、自然含水比(Wn)、液性限界(W
L)、塑性限界 (Wp)、塑性指数 (Ip)、N値、粒度分布などのデータを入力部23からパソコン10に入力する。
さらに、入力部23からインターフェイス20を介して室内配合試験装置26に土質試験データが送られる。
【0033】
深層混合処理工法の改良地盤の設計では、構造物全体の安定計算(外部安定計算)と、改良体内に発生する応力の検討(内部安定計算)が必要である。改良体内部に発生する応力の検討に当たっては、材料強度を適切に設定する必要があり、設計基準強度は改良対象土を用いた室内配合試験の一軸圧縮強さをもとに設定している。この設計基準強度は、対象とする構造物にかかる荷重の大きさにより定められている。
【0034】
低強度域:河川堤防の盛土、道路盛土等、改良体にかかる応力が小さい構造体の場合には、改良体はあまり大きな強度を必要とせず、材令28日強度が500〜1,500KN/m
2(平均1,000KN/m
2)程度の目標強度の場合を低強度域とする。
中強度域:擁壁の基礎などの構造物基礎に必要な改良体で、材令28日強度が1,500〜2,500KN/m
2程度(平均2,000KN/m
2)の目標強度の場合を中強度域とする。
高強度域:港湾の護岸・岸壁等、ブロック式、壁式、格子式など高強度の改良体が必要な場合で、材令28日強度が2,500〜3,500KN/m
2(平均3,000KN/m
2)程度の目標強度の場合を高強度域とする。
超高強度域:建築分野での直接基礎や耐震強化岸壁及び液状化対策、レベル2の地震など超高強度の改良体が必要とし、材令28日強度が3,500〜5,000KN/m
2(平均4,000KN/m
2)程度の目標強度の場合を超高強度域とする。
以上のような情報もパソコン10内に記憶される。
【0035】
A3:この工程では、演算及び判別回路11で改良すべき地盤の土がN値>15(硬質地盤か)?を判断し、YesならA10へ移行し、NoならA4に移行する。
A4:この工程では、演算及び判別回路11で改良すべき地盤の土がpH<8(有機質土か)?を判断し、YesならA11へ移行し、NoならA5に移行する。
【0036】
A5:この工程では、改良すべき地盤の土に改良材を混錬して養生することで9本の供試体を作製し、前記室内配合試験装置26により一軸圧縮試験を行う。
この試験では、例えばW/C=100%と設定し、材令Tc=28日のとき、
添加量C=115kgでは、強度q
u28=2609kN/m
2(3本の平均値)
添加量C=170kgでは、強度q
u28=4068kN/m
2(3本の平均値)
添加量C=225kgでは、強度q
u28=6014kN/m
2(3本の平均値)
が得られた。
【0037】
A6:この工程では、A5工程の一軸圧縮試験結果に基づき、
図4に示すような本発明特有のスラリー曲線を作成する。
従来の特性線は、
図5に示すように、縦軸が一軸圧縮強度で、横軸がセメント系改良材の添加量としている。具体的には、
(1)W/C=100%のときの特性線は、
図5の実線で表される。
(2)W/C=120%のとき、
添加量C=115kgでは、強度q
u28=2486kN/m
2(3本の平均値)
添加量C=170kgでは、強度q
u28=3861kN/m
2(3本の平均値)
添加量C=225kgでは、強度q
u28=5781kN/m
2(3本の平均値)
が得られたことにより、特性線は、
図5の点線で表される。
このように、従来は、W/Cの設定が異なる毎に一軸圧縮試験が行われる。
【0038】
これに対し、本発明では、縦軸が一軸圧縮強度で同一であるが、合算水量(Wg)という概念を導入し、横軸に合算水量(Wg)/セメント系改良材Cとすることにより、W/Cの%が任意の1つのデータがあればよく、W/Cの%に限定されないことを見出した。
本発明によるスラリー曲線の作成例を詳細に説明する。
三河神野地区における実証試験での粘性土(Ac)層の室内配合試験を例に説明する。
対象土の土質は次の通りであった。
湿潤密度 ρt=1.608g/cm
3
乾燥密度 ρd=1.033g/cm
3
土粒子の密度 ρs=2.671g/cm
3
自然含水比 Wn=55.7%
液性限界 W
L=54.2%
塑性限界 Wp=36.9%
塑性指数 Ip=17.3%
【0039】
前記湿潤密度ρt=1.608であるから、対象土の1m
3の重量は、1608kgとなる。
対象土の質量1608=土粒子Ws+自然含水Wwで、
自然含水比=55.7%であるから、Ww=0.557×Wsとなり、
1608=Ws+0.557Ws
したがって、土粒子Ws=1608/1.557=1033kgとなり、
自然含水Ww=1608−1033=575kgとなる。
改良材中の水をΔwとし、これに自然含水Wwを合算した合算水量Wgとすると、
Wg/C=(Ww+Δw)/Cであるから
W/C=100%のとき、Δw=115kg、C=115kgとすると
Wg/C=(575+115)/115=6.0が得られる。
このときの一軸圧縮強度qu=2609kN/m
2である。
この一軸圧縮強度qu=2609kN/m
2とWg/C=6.0を
図4にプロットする。
【0040】
同様にして、W/C=100%、Δw=170kg、C=170kgを添加したとき
Wg/C=(575+170)/170=4.38が得られる。
このときの一軸圧縮強度qu=4068kN/m
2である。
この一軸圧縮強度qu=4068kN/m
2とWg/C=4.38を
図4にプロットする。
同様にして、W/C=100%、Δw=225kg、C=225kgを添加したとき
Wg/C=(575+225)/225=3.55が得られる。
このときの一軸圧縮強度qu=6014kN/m
2である。
この一軸圧縮強度qu=6014kN/m
2とWg/C=3.55を
図4にプロットする。
以上のようにして求めた3点(Wg/C=6.0,qu=2609),(Wg/C=4.38,qu=4068),(Wg/C=3.55,qu=6014)をプロットして
図4の実線で示す双曲線に似たスラリー曲線Aが得られる。
【0041】
ちなみに、本発明のスラリー曲線を得るには、前記室内配合試験の結果(1)又は(2)のいずれか一方のデータがあればよく、W/Cの%に限定されないことを証明するため、前記W/C=120%のときのスラリー曲線を作成してみる。
W/C=120%のとき、Δw=115×1.2=138kg、C=115kgであるから、
Wg/C=(575+138)/115=6.2が得られる。
このときの一軸圧縮強度qu=2486kN/m
2である。
W/C=120%、Δw=170×1.2=204kg、C=170kgを添加したとき
Wg/C=(575+204)/170=4.582が得られる。
このときの一軸圧縮強度qu=3861kN/m
2である。
同様にして、W/C=120%、Δw=225×1.2=270kg、C=225kgを添加したとき
Wg/C=(575+270)/225=3.755が得られる。
このときの一軸圧縮強度qu=5781kN/m
2である。
以上のようにして求めた3点(Wg/C=6.2,qu=2486),(Wg/C=4.582,qu=3861),(Wg/C=3.755,qu=5781)をプロットして
図4の点線で示す双曲線に似たスラリー曲線Bが得られる。
【0042】
以上のようにして求めたスラリー曲線AとBは、同一線上に重なった状態となる。このことは、W/C=80%、100%、120%などと異なっても、同一の特性を有する対象土であれば、予め設定した任意のW/Cについて、セメントの添加量の少なくとも3つの異なる試供体、すなわち平均値をとるため3個ずつ9個の試供体を作製すれば済むこととなる。
【0043】
図4に示した本発明のスラリー曲線A(又はB)から任意のW/Cにおける必要セメント量は、次の手順で求めることができる。
目標強度としてqu=3000kN/m
2を設定したものとすると、
図4のスラリー曲線から、Wg/C=5.4という値が得られる。
ここで、W/C=100%、セメント添加量をCとすると
Δw=(W/C)/100×C=(100)/100×C=Cとなり
Wg/C=(575+C)/C=5.4
5.4C−C=575 C=130.7kg/m
3となる。
この値は、
図5の実線の特性線の横軸Cから求めた130kg/m
3と一致する。
【0044】
同様に、W/C=120%、セメント添加量をCとすると
Δw=(W/C)/100×C=(120)/100×C=
1.2Cとなり
Wg/C=(575+1.2C)/C=5.4
5.4C−1.2C=575 C=136.9kg/m
3となる。
この値は、
図5の点線の特性線の横軸Cから求めた137kg/m
3と一致する。
以上のように、
図4のスラリー曲線のみでW/Cの割合を種々換えたときのセメント添加量を得ることができる。
【0045】
A7:この工程では、A6工程のスラリー曲線と、全国・個別スラリー曲線作成部19で作成した全国・個別スラリー曲線と比較判定する。全国・個別スラリー曲線は、
図6〜
図10に示すように、土質により、また、土の算出する地区により異なる曲線となるが、ある程度の幅を持った近似した曲線が得られることが判明した。詳細は、後述する。
そこで、A7の工程では、前記全国・個別スラリー曲線から逸脱しているかどうかを判定する。逸脱している場合には、A5の工程に戻り、土質試験データを再確認し、室内配合試験を再度行い、A6〜A8を繰り返す。
【0046】
A8:この工程では、前記全国・個別スラリー曲線の範囲内にあり、A1の工程で設定した目標強度の範囲内にあれば、次工程に移行する。もし、A6工程のスラリー曲線が前記全国・個別スラリー曲線から著しく逸脱しており、A1の工程で設定した目標強度の範囲から外れていれば、A5の工程での室内配合試験に問題があると考えられるので、A5の工程に戻り、再度供試体を作製し、前記室内配合試験装置26により一軸圧縮試験を行う。
【0047】
A9:この工程では、A8の工程がYesであれば、パソコン10の本施工のC、W/Cの決定部14で本施工の添加量CとW/Cを決定し、状態格納部15に記憶する。この状態格納部15に記憶されたデータは、インターフェイス20を介して表示部24で表示され、プリンタ25で印刷され、さらに、シミュレーション結果メモリ21に記録され、最後にデータベース22に記録される。
【0048】
A10:この工程では、A3工程でN値>15(硬質地盤か)?がYesになると、掘削回転軸の羽根切り回数の調整、その他の補助装置の使用を設定し、前記A9工程に送られる。
【0049】
A11:この工程では、A4工程でpH<8(有機質土か)?がYesのとき、強度を確保するために有機質土に特殊添加剤や特殊セメントを使用して前記A5工程に送られ、室内配合試験を行う。
【0050】
A12:この工程では、全国の工事における地盤情報、地層情報、室内配合結果などがデータベースとしてデータベース22に記憶される。
【0051】
A13:この工程では、前記データベース22のデータに基づき、本発明による方法で作成した全国・個別スラリー曲線が記録されている。以下、具体的に説明する。
【0052】
図6は、三河地区における砂質土層(As)と粘土層(Ac)の材令28日の試験杭の強度とその平均強度を、縦軸が一軸圧縮強度とし、横軸が(Wg/C)としたときの本発明による方法で描いたスラリー曲線図である。
図6は、三河地区試験杭の高炉セメントB種を用いた材齢28日の一軸圧縮強度と合算水量(Wg)に対するセメント量(C)の比(Wg/C)の相関関係である。粘性土と砂質土に明らかに相関関係の違いがみられる。
【0053】
図7は、今回の発明を実証するために集計した海底粘土・大阪Ac、海底粘土・東京Ac、海底粘土・熊本Acの全国土質(海底粘土)、普通ポルトランドセメント及び高炉セメントB種を使用した材齢28日の一軸圧縮強度と(Wg/C)の相関図である。
図7より次のことが言える。
低強度域 500KN/m
2〜1,500KN/m
2:Wg/C=8.0±2.0
中強度域 1,500KN/m
2〜2,500KN/m
2:Wg/C=5.5±1.5
高強度域 2,500KN/m
2〜3,500KN/m
2:Wg/C=4.5±1.5
超高強度域 3,500KN/m
2〜4,500KN/m
2:Wg/C=3.5±1.5
海底粘土のWg/Cと材齢28日一軸圧縮強度の相関式は次式で表すことができる。
10,500(Wg/C)f
−1.26≦qu28≦71,300(Wg/C)f
−1.33
海底粘土の(Wg/C)と材齢28日一軸圧縮強度の平均値の相関式は次式で表すことが出来る。
qu28=23,300(Wg/C)f
−1.26
【0054】
図8は、今回の発明を実証するために集計した全国砂質土・東京As・千葉As、普通ポルトランドセメント及び高炉セメントB種を使用した材齢28日の一軸圧縮強度と(Wg/C)の相関図である。
図8より次のことが言える。
低強度域 500KN/m
2〜1,500KN/m
2:Wg/C=4.5±1.5
中強度域 1,500KN/m
2〜2,500KN/m
2:Wg/C=3.5±1.5
高強度域 2,500KN/m
2〜3,500KN/m
2:Wg/C=3.0±1.5
超高強度域 2,500KN/m
2〜3,500KN/m
2:Wg/C=2.0±1.0
海底粘土のWg/Cと材齢28日一軸圧縮強度の相関式は次式で表すことが出来る。
qu28≦5700(Wg/C)f
−1.10
海底粘土の(Wg/C)と材齢28日一軸圧縮強度の平均値の相関式は次式で表すことが出来る。
qu28=10,800(Wg/C)f
−1.14
【0055】
図9は、今回の発明を実証するために集計した全国土質(シルト質粘土)、普通ポルトランドセメント及び高炉セメントB種を使用した材齢28日一軸圧縮強度と(Wg/C)の相関図である。
図9より次のことが言える。
低強度域 500KN/m
2〜1,500KN/m
2:Wg/C=8.0±2.0
中強度域 1,500KN/m
2〜2,500KN/m
2:Wg/C=5.5±1.5
高強度域 2,500KN/m
2〜3,500KN/m
2:Wg/C=4.5±1.5
超高強度域 2,500KN/m
2〜3,500KN/m
2:Wg/C=3.5±1.0
シルト質粘土のWg/Cと材齢28日一軸圧縮強度の相関式は次式で表すことが出来る。
23,600(Wg/C)f
−1.42≦qu28≦21,300(Wg/C)f
−0.99
シルト質粘土の(Wg/C)と材齢28日一軸圧縮強度の平均値の相関式は次式で表すことが出来る。
qu28=22,000(Wg/C)f
−1.45
【0056】
図10は、今回の発明を実証するために集計した全国土質(有機質土)、特殊セメントを使用した材齢28日の一軸圧縮強度と(Wg/C)の相関図である。
図10より次のことが言える。
低強度域 500KN/m
2〜1,500KN/m
2:Wg/C=4.0±2.0
中強度域 1,500KN/m
2〜2,500KN/m
2:Wg/C=3.0±1.5
高強度域 2,500KN/m
2〜3,500KN/m
2:Wg/C=2.5±1.5
有機質土の(Wg/C)と材齢28日一軸圧縮強度の平均的な相関式は次式で表すことが出来る。
qu28=19,400(Wg/C)f
−2.63