(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6496920
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】多糖類繊維およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 2/06 20060101AFI20190401BHJP
C08B 9/00 20060101ALI20190401BHJP
A61L 15/28 20060101ALI20190401BHJP
【FI】
D01F2/06 Z
C08B9/00
A61L15/28 100
【請求項の数】10
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-520185(P2016-520185)
(86)(22)【出願日】2014年6月13日
(65)【公表番号】特表2016-522333(P2016-522333A)
(43)【公表日】2016年7月28日
(86)【国際出願番号】AT2014000123
(87)【国際公開番号】WO2014201482
(87)【国際公開日】20141224
【審査請求日】2017年5月12日
(31)【優先権主張番号】A485-2013
(32)【優先日】2013年6月17日
(33)【優先権主張国】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】507127314
【氏名又は名称】レンチング アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】クラフト、 グレゴール
(72)【発明者】
【氏名】クロナー、 ガート
(72)【発明者】
【氏名】ローダー、 トーマス
(72)【発明者】
【氏名】フィーゴ、 ハインリヒ
【審査官】
松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/177348(WO,A1)
【文献】
国際公開第00/043580(WO,A1)
【文献】
特表2003−528935(JP,A)
【文献】
特開昭60−040102(JP,A)
【文献】
特表2002−535501(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 2/06−2/22
A61L 15/28
C08B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維形成性物質がα(1→3)−グルカンである多糖類繊維の製造方法であって、前記製造方法は繊維形成性物質としてセルロースの代わりにα(1→3)−グルカンを用いるビスコース法であり、CS2を前記α(1→3)−グルカンを含む水酸化ナトリウム溶液に添加することを含み、多糖類繊維の単繊維の繊度が0.1dtex〜10dtexである、多糖類繊維の製造方法。
【請求項2】
前記α(1→3)−グルカンの少なくとも90%はヘキソース単位であり、前記ヘキソース単位の少なくとも50%がα(1→3)‐グリコシド結合によって結合している、請求項1に記載の多糖類繊維の製造方法。
【請求項3】
前記多糖類繊維がステープルファイバーまたは連続フィラメントである、請求項1または請求項2に記載の多糖類繊維の製造方法。
【請求項4】
前記繊維形成性物質に対して、CS2を、30重量%以下使用する、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の多糖類繊維の製造方法。
【請求項5】
CS2をα(1→3)−グルカンを含む水酸化ナトリウム溶液に添加することを含み、繊維形成性物質としてセルロースの代わりにα(1→3)−グルカンを用いるビスコース法を用いて製造された多糖類繊維であって、繊維形成性物質がα(1→3)−グルカンであり、単繊維の繊度が0.1dtex〜10dtexである、多糖類繊維。
【請求項6】
前記α(1→3)−グルカンの少なくとも90%はヘキソース単位であり、前記ヘキソース単位の少なくとも50%がα(1→3)‐グリコシド結合によって結合している、請求項5に記載の多糖類繊維。
【請求項7】
ステープルファイバーまたは連続フィラメントである、請求項5または請求項6に記載の多糖類繊維。
【請求項8】
繊維製品の製造のための請求項5〜請求項7のいずれか1項に記載の多糖類繊維の使用。
【請求項9】
不織布、衛生製品、ならびにその他の吸収性不織布製品および紙の製造のための請求項5〜請求項7のいずれか1項に記載の多糖類繊維の使用。
【請求項10】
前記多糖類繊維がステープルファイバーまたは連続フィラメントである、請求項8または請求項9に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維形成性材料としてα(1→3)−グルカンを含む多糖類繊維の製造方法、それからなる繊維、ならびにそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
多糖類は、それらが再生可能な原料から得ることが可能な材料であることから、ますます重要になりつつある。最も多く存在する多糖類の一つはセルロースである。ほぼセルロースのみからなる綿繊維は、多糖類の重要性の一例である。しかしながら、他のセルロース系原料から得られた材料、例えば、セルロース系合成繊維もまた、重要性が高まり続けている。
【0003】
一般名「ビスコース繊維」および「モダール繊維」は、BISFA(国際化繊協会)によって、水酸化ナトリウム水溶液および二硫化炭素(CS
2)を用いたセルロースの化学的誘導体化によって製造されたセルロース繊維に与えられた。
【0004】
「モダール繊維」という名前は、BISFAによって定義された総称であって、規定の高湿潤強度および同様に規定の高湿潤モジュラス(すなわち、湿潤状態で繊維の伸びを5%生じさせるのに必要な力)を有するセルロース繊維を表す。
【0005】
しかしながら、今日まで、ビスコースおよびモダール型の繊維の大規模生産については、ただ一つの方法のみが受け入れられており、すなわち、ビスコース法とその変形である。
【0006】
多くの特許明細書およびその他の出版物から、どのようにこの方法が行われるか、当業者にはかなり前から一般に知られている。モダール繊維の製造方法は、例えば、AT287.905Bから知られている。
【0007】
この既知のビスコース法において、CS
2は二つの本質的な機能を有する。
1.アルカリセルロースとの反応で、アルカリ性溶液に可溶なキサントゲネートに変化する。
2.「紡糸浴における効果」。
【0008】
このビスコース紡糸浴において、コロイド化学的(セルロースキサントゲン酸ナトリウムの凝固)および化学的(このキサントゲネートの水和セルロースへの分解)工程が並行して行われる。両方が、使用されたCS
2に影響される。
【0009】
資源を節約し、環境に優しい新しいリヨセル法と比較して、ビスコース法は深刻な不利益、すなわち大量のCS
2および水酸化ナトリウム水溶液の使用がある。この問題は、モダール繊維の製造においてさらに度合が高まって存在する。以下の本文では、ビスコース法およびビスコース繊維という用語は、モダール法およびそれによって製造された繊維を含む、すべてのビスコース法とそれらの変形を網羅するために使用される。
【0010】
ビスコース法において今までのところ用いられているセルロース系原料は、主に木材から得られたパルプである。多くの研究にもかかわらず、CS
2およびNaOHの使用をそれぞれ顕著に減らすであろうビスコース技術に基づいた方法を開発することはいまだに可能にはなっていない。
【0011】
US7,000,000は、α(1→3)‐グリコシド結合によって結合したヘキソースの繰り返し単位から実質的になる多糖類の溶液を紡糸することによって得られた繊維を記載している。これらの多糖類は、サッカロースの水溶液をStreptococcus salivariusから単離したグルコシルトランスフェラーゼ(GtfJ)と接触させることによって製造することが可能である(Simpson et al.,Microbiology,vol.41,pp 1451−1460(1995))。この文脈では、「実質的に」とは、この多糖鎖内では、他の結合形態も存在し得る偶発的な欠陥位置が存在していてもよいことを意味する。本発明では、これらの多糖類を「α(1→3)−グルカン」と呼ぶことにする。
【0012】
US7,000,000は、第一に、単糖類からのα(1→3)−グルカンの酵素的製造の可能性を開示している。この方法で、比較的短鎖の多糖類が、モノマー単位の損失なくこれらポリマー鎖がこれらモノマー単位から構築されたように製造することができる。短鎖セルロース分子の製造と比較して、このα(1→3)−グルカンの製造は、ポリマー鎖が短いほど、この場合における反応器での必要とされるであろう滞留時間が短時間だけなので、より安価になり続ける。
【0013】
US7,000,000によれば、このα(1→3)−グルカンは、誘導体化、好ましくはアセチル化されるものである。好ましくは、その溶媒は有機酸、有機ハロゲン化合物、フッ素化アルコール、またはかかる成分の混合物である。これら溶媒は、高価であり、かつ再生には手間がかかる。
【0014】
しかしながら、α(1→3)−グルカンが希水酸化ナトリウム水溶液(おおよそ4%〜5.5%)に溶解することも研究で示されている。
【0015】
WO2013/052730A1は、繊維形成性物質として、α(1→3)−グルカンを有し、溶媒としてNMMOを用いたいわゆるアミン‐オキシド法で紡糸することによって製造された繊維を開示している。このアミン‐オキシド法は、根本的にビスコースまたはモダール法とは異なりかつ、完全に異なる製造工場を必要とする方法で設計される。ビスコース製造工場は、単に簡単な変更ではこのアミン‐オキシド法に転換することはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
かかる従来技術を考慮して、本目的は、したがって、製造される繊維単位当たりのCS
2および水酸化ナトリウム水溶液の使用量を顕著に減らすことを可能にする多糖類繊維の別の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述した目的は、繊維形成性物質がα(1→3)−グルカンである多糖類繊維の新規な製造法であって、修正ビスコース法である方法によって解決される。その過程でα(1→3)−グルカンを含む水酸化ナトリウム溶液に少量のCS
2を添加するこの方法は、ビスコース様繊維を製造するのに使用することができる。この繊維形成性物質に対して、多くても30%のCS
2が使用され、好ましくは25%未満のCS
2が使用され、より好ましくは15%未満のCS
2が使用される。繊維形成性材料に対して計算して、好ましくは、5重量%〜30重量%の量のCS
2が使用され、より好ましくは、5重量%〜25重量%であり、最も好ましくは5重量%〜15重量%である。本発明では、かかる繊維もまた、これがセルロースの代わりに別の繊維形成性多糖類、すなわち前記α(1→3)−グルカンを含んではいるが、ビスコース繊維と呼ぶことにする。
【0018】
意外にも、セルロースの場合と異なり、この修正法において、CS
2は水酸化ナトリウム水溶液にこの多糖類を溶解するためにではなく、紡糸浴中でのフィラメントの形成を遅くするためにのみ必要であることが発見された。
【0019】
本発明によれば、紡糸溶液中でのNaOH濃度は、紡糸溶液の総量に対して計算して、4.0重量%〜5.5重量%であるべきである。この範囲外では、グルカンの溶解性は十分ではない。
【0020】
本発明では、「繊維」という用語は、規定の繊維長を備えるステープルファイバーおよび連続フィラメントの両方を含むものとする。後述する本発明の原則はすべて、概してステープルファイバーおよび連続フィラメントの両方に適用する。
【0021】
本発明の繊維の単繊維の繊度は、0.1〜10dtexであり得る。好ましくは、0.5〜6.5dtexであり、より好ましくは、0.9〜6.0dtexである。ステープルファイバーの場合、その繊維長は、通常0.5〜120mmであり、好ましくは20〜70mmであり、より好ましくは35〜60mmである。連続フィラメントの場合、このフィラメント糸の中の個々のフィラメントの本数は、50〜10,000であり、好ましくは、50〜3000である。
【0022】
前記α(1→3)−グルカンは、サッカロースの水溶液をStreptococcus salivariusから単離したグルコシルトランスフェラーゼ(GtfJ)と接触させることによって製造することが可能である(Simpson et al.,Microbiology,vol.41,pp 1451−1460(1995))。
【0023】
本発明の方法の好ましい実施形態において、α(1→3)−グルカンの少なくとも90%はヘキソース単位であり、これらヘキソース単位の少なくとも50%はα(1→3)‐グリコシド結合によって結合している。
【0024】
本発明の繊維の製造方法は、以下のステップからなる。
1.希水酸化ナトリウム水溶液中でα(1→3)−グルカン溶液を調製する。
2.CS
2を添加および混合し、短時間の後熟成、濾過、ならびにこの紡糸溶液を脱気する。
3.前記α(1→3)−グルカン含有紡糸溶液を、紡糸口金から硫酸紡糸浴に押し出し、この繊維を延伸し、後処理する。
【0025】
紡糸溶液中での繊維形成性物質の濃度は、4重量%〜18重量%でよく、好ましくは、4.5重量%〜15重量%である。
【0026】
本発明の方法に使用されるα(1→3)−グルカンの重量平均DP
wとして表される重合度は、200〜2000でよく、500〜1000の値が好ましい。
【0027】
セルロースおよびα(1→3)−グルカンを含むビスコースまたはモダール繊維もまた、本発明の主題である。
【0028】
好ましい実施形態において、本発明のビスコース繊維のα(1→3)−グルカンの少なくとも90%はヘキソース単位であり、これらヘキソース単位の少なくとも50%がα(1→3)‐グリコシド結合によって結合している。
【0029】
様々な乾式および湿式紙、不織布、衛生製品、例えば止血栓、おりものシート、およびおむつ等、ならびにその他の不織布、特に吸収性不織布製品の製造のためだけでなく、糸、織布、または編地等の繊維製品の製造のための本発明の繊維の使用もまた、本発明の主題である。
【0030】
以下、実施例を参照しながら本発明を説明する。しかしながら、本発明はこれら実施例に明確に限定されないだけでなく、同一の発明の概念に基づく他の実施形態のすべてをも含む。
【0031】
実施例
α(1→3)−グルカン類の重合度は、GPCによってDMAc/LiCl中で測定した。次に、特定された重合度は常に重量平均重合度(DP
w)である。
【0032】
(実施例1)
DP
wが800のα(1→3)−グルカン9.1%およびNaOH4.5重量%を含むグルカン水溶液をCS
27.5%(繊維形成性材料に対して計算した重量%)と反応させた。このようにして得たビスコースは、繊維形成性材料9重量%、NaOH4.5重量%、およびイオウ0.57重量%を含んでいた。紡糸口金を用いて、この溶液を、硫酸100g/l、硫酸ナトリウム330g/l、および硫酸亜鉛35g/lを含む再生浴に押し出した。この紡糸口金は、直径50μmの穿孔を1053有していた。含窒素助剤(Leomin AC80)2.5重量%をこのビスコース紡糸溶液に添加した。適切な繊維の強度を出すために、おおよそ75%の延伸を第二浴(92℃、15g/lのH
2SO
4)で行った。この延伸速度は30m/分であった。
得られた繊維の特性を表1に示す。
【0033】
(実施例2)
DP
wが1000のα(1→3)−グルカン11%およびNaOH4.8重量%を含むグルカン水溶液をCS
215%(繊維形成性材料に対して計算した重量%)と反応させた。このようにして得たビスコースは、繊維形成性材料10.8重量%、NaOH4.7重量%、およびイオウ1.37重量%を含んでいた。紡糸口金を用いて、この溶液を、硫酸100g/l、硫酸ナトリウム330g/l、および硫酸亜鉛45g/lを含む再生浴に押し出した。この紡糸口金は、直径50μmの穿孔を1053有していた。含窒素助剤3重量%をこのビスコース紡糸溶液に添加した。適切な繊維の強度を出すために、おおよそ75%の延伸を第二浴(92℃、15g/lのH
2SO
4)で行った。この延伸速度は25m/分であった。得られた繊維の特性を表1に示す。
【0034】
(実施例3)
DP
wが800のα(1→3)−グルカン12.5%およびNaOH4.4重量%を含むグルカン水溶液をCS
212%(繊維形成性材料に対して計算した重量%)と反応させた。このようにして得たビスコースは、繊維形成性材料12.3重量%、NaOH4.3重量%、およびイオウ1.24重量%を含んでいた。紡糸口金を用いて、この溶液を、硫酸90g/l、硫酸ナトリウム330g/l、および硫酸亜鉛45g/lを含む再生浴に押し出した。この紡糸口金は、直径50μmの穿孔を1053有していた。含窒素助剤1重量%をこのビスコース紡糸溶液に添加した。適切な繊維の強度を出すために、おおよそ75%の延伸を第二浴(92℃、15g/lのH
2SO
4)で行った。この延伸速度は27m/分であった。得られた繊維の特性を表1に示す。
【0035】
【表1】
<付記>
<項1>
繊維形成性物質がα(1→3)−グルカンである多糖類繊維の製造方法であって、前記方法は修正ビスコース法である、多糖類繊維の製造方法。
<項2>
前記α(1→3)−グルカンの少なくとも90%はヘキソース単位であり、前記ヘキソース単位の少なくとも50%がα(1→3)‐グリコシド結合によって結合している、<項1>に記載の方法。
<項3>
前記繊維がステープルファイバーまたは連続フィラメントである、先行するいずれかの<項>に記載の方法。
<項4>
前記繊維形成性物質に対して、CS2を、30重量%以下使用する、好ましくは25重量%未満使用する、より好ましくは15重量%未満使用する、先行するいずれかの<項>に記載の方法。
<項5>
修正ビスコース法を用いて製造された多糖類繊維であって、繊維形成性物質がα(1→3)−グルカンである、多糖類繊維。
<項6>
前記α(1→3)−グルカンの少なくとも90%はヘキソース単位であり、前記ヘキソース単位の少なくとも50%がα(1→3)‐グリコシド結合によって結合している、<項5>に記載の繊維。
<項7>
前記繊維がステープルファイバーまたは連続フィラメントである、先行するいずれかの<項>に記載の繊維。
<項8>
糸、織布、または編地等の繊維製品の製造のための<項5>に記載の繊維の使用。
<項9>
不織布、衛生製品、とりわけ止血栓、おりものシート、およびおむつ、ならびにその他の吸収性不織布製品および紙の製造のための<項5>に記載の繊維の使用。
<項10>
前記繊維がステープルファイバーまたは連続フィラメントである、先行するいずれかの<項>に記載の使用。