特許第6496922号(P6496922)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6496922
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3232 20160101AFI20190401BHJP
   F16J 15/3252 20160101ALI20190401BHJP
【FI】
   F16J15/3232 201
   F16J15/3252
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-534346(P2016-534346)
(86)(22)【出願日】2015年6月25日
(86)【国際出願番号】JP2015068299
(87)【国際公開番号】WO2016009803
(87)【国際公開日】20160121
【審査請求日】2017年12月20日
(31)【優先権主張番号】特願2014-146540(P2014-146540)
(32)【優先日】2014年7月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125357
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100085006
【弁理士】
【氏名又は名称】世良 和信
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100096873
【弁理士】
【氏名又は名称】金井 廣泰
(74)【代理人】
【識別番号】100131532
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 浩一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155871
【弁理士】
【氏名又は名称】森廣 亮太
(72)【発明者】
【氏名】吉野 顯
【審査官】 佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭62−183168(JP,U)
【文献】 国際公開第2008/004303(WO,A1)
【文献】 特許第5037682(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/16−15/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに設けられた軸孔と、該軸孔に挿通される軸との間の環状隙間を密封する密封装置において、
前記軸孔の内周面に嵌合される円筒状のケース本体部と、該ケース本体部における密封対象流体側とは反対側の端部から径方向内側に向かって伸びる第1支持部と、を有する金属製のカートリッジケースと、
第1支持部の密封対象流体側に隣接して設けられ、かつ前記軸の外周面に対して摺動自在なシール部を有する樹脂製シール部材と、
該樹脂製シール部材の密封対象流体側に隣接して設けられる弾性部材と、
前記ケース本体部の内周面に固定される円筒部と、該円筒部における密封対象流体側とは反対側の端部から径方向内側に向かって伸びる第2支持部と、前記第2支持部の先端から密封対象流体側に向かって拡径するように伸びるテーパ状部と、を有する金属製の固定部材と、
を備え、
前記円筒部の外径は前記ケース本体部の内径以下に設定されており、かつ、これら円筒部とケース本体部は溶接により固定されると共に、
前記樹脂製シール部材と弾性部材は、第1支持部と第2支持部によって挟み込まれることにより固定されることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
前記固定部材における前記円筒部と第2支持部とを繋ぐ部分の外壁面と、前記弾性部材との間には環状空間が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
【請求項3】
前記弾性部材は、
前記樹脂製シール部材と第2支持部との間に設けられ、かつその外周面が前記ケース本体部の内周面に密着する環状の胴体部と、
該胴体部に一体に設けられ、かつ前記軸の外周面に対して摺動自在なシールリップ部と、を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の密封装置。
【請求項4】
第2支持部に対する前記弾性部材からの反発力が予め定められた範囲となる位置で、前記固定部材が前記ケース本体部に対して固定されていることを特徴とする請求項1,2ま
たは3に記載の密封装置。
【請求項5】
前記第2支持部と前記テーパ状部とを繋ぐ湾曲上に折れ曲がった部分によって前記弾性体シール部材の円筒部の外周面が支持される請求項1〜4のいずれか1項に記載の密封装置。
【請求項6】
前記テーパ状部の先端は前記弾性体シール部材の円筒部の外周面から離れている請求項1〜5のいずれか1項に記載の密封装置。
【請求項7】
前記第1支持部に周方向に間隔を空けて複数の突起部が設けられ、前記複数の突起部が前記樹脂製シール部材に食い込むように構成されている請求項1〜6のいずれか1項に記載の密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジングと軸との間の環状隙間を密封する密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用のウォーターポンプにおいては、水漏れを防ぐために密封装置が用いられている(特許文献1参照)。図7を参照して、従来例に係る密封装置について説明する。図7は従来例に係る密封装置の模式的断面図である。図示の密封装置700は、ハウジング(不図示)に設けられた軸孔と、この軸孔に挿通される回転軸(不図示)との間の環状隙間を密封する役割を担っている。
【0003】
そして、この従来例に係る密封装置700は、カートリッジケース710に、樹脂製シール部材720とゴムなどからなる弾性体製シール部材730が固定されることにより、1部品として取り扱うことができるように構成されている。カートリッジケース710は、軸孔の内周面に嵌合される円筒状のケース本体部711と、ケース本体部711の密封対象流体側の端部から径方向外側に向かって伸びる外向きフランジ部712と、ケース本体部711の密封対象流体側とは反対側の端部から径方向内側に向かって伸びる内向きフランジ部713とを備えている。樹脂製シール部材720は、互いに嵌合固定される一対の金属製の第1支持部材740及び第2支持部材750により挟持されることにより強固に固定されている。弾性体製シール部材730は、第2支持部材750の外周面とケース本体部711の内周面との間の環状隙間を密封する外周シール部731と、回転軸の外周面に対して摺動自在なシールリップ部732とを備えている。
【0004】
第1支持部材740及び第2支持部材750により固定された樹脂製シール部材720と、弾性体製シール部材730とが、ケース本体部711の内周面側に装着された状態で、アダプタ760が圧入により嵌合される。これにより、樹脂製シール部材720と弾性体製シール部材730の軸線方向の位置決め固定がなされる。また、内向きフランジ部713の先端が加締められることにより、樹脂製シール部材720と弾性体製シール部材730の径方向の位置決め固定がなされる(図中の加締め部714参照)。
【0005】
ここで、アダプタ760は、上記の通り、圧入により固定される。一般的に、圧入による固定の場合には、摺動抵抗が高くなることから、圧入する部材の位置決めを、精度よく行うことは困難である。しかしながら、図7に示す従来例に係る密封装置700の場合には、樹脂製シール部材720は第1支持部材740及び第2支持部材750により強固に固定されており、かつ第2支持部材750の外周面側は、弾性体製シール部材730の外周シール部731により弾性的に押圧されている。そのため、樹脂製シール部材720の姿勢は安定的に保たれる。これにより、樹脂製シール部材720の機能は十分に発揮される。また、弾性体製シール部材730の外周シール部731により、第2支持部材750の外周面とケース本体部711の内周面との間の環状隙間が密封されるため、外周面側の密封機能も十分に発揮される。
【0006】
このように、図示の密封装置700においては、アダプタ760の位置決め精度が低くても、密封装置としての機能は十分に発揮される。しかしながら、この密封装置700の場合には、複数の部材が必要となり部品点数が多いという欠点がある。一般的に部品点数が多くなるとコストが高くなるだけでなく、寸法誤差も大きくなりやすいため、寸法管理も厳しく行わなければならない。また、弾性体製シール部材730の外周シール部731により、第2支持部材750の外周面とケース本体部711の内周面との間の環状隙間を密封する構成を採用しているため、径方向の寸法を小さくするのが困難という欠点もある。従って、ハウジングと軸との間の環状隙間が狭い場合には、上記の密封装置700の構成を採用するのは困難な場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5037682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、密封機能を安定的に発揮させつつ、部品点数の削減を可能とし、かつ径方向の小型化を可能とする密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0010】
すなわち、本発明の密封装置は、
ハウジングに設けられた軸孔と、該軸孔に挿通される軸との間の環状隙間を密封する密封装置において、
前記軸孔の内周面に嵌合される円筒状のケース本体部と、該ケース本体部における密封対象流体側とは反対側の端部から径方向内側に向かって伸びる第1支持部と、を有する金属製のカートリッジケースと、
第1支持部の密封対象流体側に隣接して設けられ、かつ前記軸の外周面に対して摺動自在なシール部を有する樹脂製シール部材と、
該樹脂製シール部材の密封対象流体側に隣接して設けられる弾性部材と、
前記ケース本体部の内周面に固定される円筒部と、該円筒部における密封対象流体側とは反対側の端部から径方向内側に向かって伸びる第2支持部と、を有する金属製の固定部材と、
を備え、
前記円筒部の外径は前記ケース本体部の内径以下に設定されており、かつ、これら円筒部とケース本体部は溶接により固定されると共に、
前記樹脂製シール部材と弾性部材は、第1支持部と第2支持部によって挟み込まれることにより固定されることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、金属製の固定部材における円筒部の外径はケース本体部の内径以下に設定されており、かつ、これら円筒部とケース本体部は溶接により固定される構成が採用されている。これにより、圧入により固定する場合に比べて、固定部材の位置決め精度を高くすることができる。そのため、樹脂製シール部材を位置決め固定するために、従来のように別途専用の部材(上記従来例における金属製の第1支持部材740及び第2支持部材750に相当)が必要になることはない。従って、部品点数を削減することが可能となる。また、固定部材の位置決め精度を高くすることができるため、樹脂製シール部材の姿勢を安定させることができる。従って、密封機能を安定的に発揮させることができる。また、樹脂製シール部材の外周面の外側に、弾性体からなる部材の一部(上記従来例における弾性体製シール部材730の外周シール部731に相当)を配置させる必要もないので、密封装置の径方向の小型化が可能となる。
【0012】
前記固定部材における前記円筒部と第2支持部とを繋ぐ部分の外壁面と、前記弾性部材との間には環状空間が形成されているとよい。
【0013】
これにより、溶接の際に発生した熱が、弾性部材に伝わることを抑制することができる。
【0014】
前記弾性部材は、
前記樹脂製シール部材と第2支持部との間に設けられ、かつその外周面が前記ケース本体部の内周面に密着する環状の胴体部と、
該胴体部に一体に設けられ、かつ前記軸の外周面に対して摺動自在なシールリップ部と、を備えるとよい。
【0015】
これにより、弾性部材によって、ケース本体部の内周面と軸の外周面との間を密封することができる。そして、上記の通り、固定部材の位置決め精度を高くすることができるため、弾性部材の位置決め精度を高くでき、弾性部材の姿勢を安定させることができる。また、弾性部材の胴体部におけるケース本体部の内周面に対する密着力の精度を高めることができる。従って、樹脂製シール部材の外周面の外側に、弾性体からなる部材の一部(上記従来例における弾性体製シール部材730の外周シール部731に相当)を配置させなくても、外周面側の密封機能を十分に発揮させることができる。
【0016】
第2支持部に対する前記弾性部材からの反発力が予め定められた範囲となる位置で、前記固定部材が前記ケース本体部に対して固定されているとよい。
【0017】
これにより、樹脂製シール部材及び弾性部材を精度よく位置決め固定させることができる。
【0018】
なお、上記各構成は、可能な限り組み合わせて採用し得る。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明によれば、密封機能を安定的に発揮させつつ、部品点数の削減を可能とし、かつ径方向の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1はウォーターポンプの模式的断面図である。
図2図2は本発明の実施例1に係る密封装置の模式的断面図である。
図3図3は本発明の実施例1に係る密封装置の組み立て方を説明する図である。
図4図4は本発明の実施例2に係る密封装置の模式的断面図である。
図5図5は本発明の実施例3に係る密封装置の模式的断面図である。
図6図6は本発明の実施例4に係る密封装置の模式的断面図である。
図7図7は従来例に係る密封装置の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0022】
(適用例)
図1を参照して、本発明の実施例に係る密封装置100の適用例を説明する。図1は自動車用のウォーターポンプ10の模式的断面図である。ウォーターポンプ10は、回転軸21と、回転軸21が挿通される軸孔を有するハウジング30とを備えている。回転軸21には、回転軸21の回転を円滑にするためのベアリング22が取り付けられている。また、回転軸21の一端側には不図示のベルト等によって回転駆動力が与えられるプーリー23が取り付けられており、他端側には冷却水(LLC)を圧送するためのインペラー24が取り付けられている。そして、本実施例に係る密封装置100は、この冷却水が外部(すなわち、密封対象流体側(L)とは反対側(A))に漏れてしまうことを抑制するために、回転軸21とハウジング30との間の環状隙間に配置される。つまり、本実施例においては、密封対象流体は冷却水である。ただし、本発明に係る密封装置は、他の用途に適用してもよい。
【0023】
(実施例1)
図2及び図3を参照して、本発明の実施例1に係る密封装置100について説明する。本実施例に係る密封装置100は、ハウジング300に設けられた軸孔と、軸孔に挿通される軸200との間の環状隙間を密封する役割を担っている。密封装置100が上記の自動車用のウォーターポンプ10に適用される場合には、ハウジング300は上記のハウジング30に相当し、軸200は上記の回転軸21に相当する。
【0024】
<密封装置の構成>
特に、図2を参照して、本実施例に係る密封装置100の構成について説明する。密封装置100は、カートリッジケース110に、樹脂製シール部材120と弾性部材(ゴムなどの弾性体からなる部材)としての弾性体製シール部材130が固定されることにより、1部品として取り扱うことができるように構成されている。そして、この密封装置100は、これらの3部材と、カートリッジケース110に樹脂製シール部材120と弾性体製シール部材130を固定するための金属製の固定部材140と、カートリッジケース110の外周側に設けられる外周シール部材150とから構成される。
【0025】
カートリッジケース110は、円筒状のケース本体部111と、ケース本体部111における密封対象流体側(L)に設けられる外向きフランジ部112と、ケース本体部111における密封対象流体側(L)とは反対側(A)に設けられる第1支持部113とを一体に備えている。
【0026】
ここで、ケース本体部111は、ハウジング300に設けられた軸孔の内周面に嵌合により固定される。また、このケース本体部111の外周に、弾性被膜により構成される外周シール部材150が設けられている。この外周シール部材150によって、密封装置100とハウジング300の軸孔との間から水漏れ等が発生してしまうことをより確実に抑制することができる。なお、ケース本体部111がハウジング300に設けられた軸孔に嵌合により固定される過程で、外周シール部材150の一部は削り取られる。しかしながら、ハウジング300の軸孔の開口端縁付近には面取り310により形成された環状空間S1が設けられている。これにより、外周シール部材150の一部が削り取られてできたカスは、この環状空間S1に溜められる。これにより、カスが密封対象流体側(L)に侵入してしまうことを抑制することができる。
【0027】
外向きフランジ部112は、ケース本体部111における密封対象流体側(L)の端部から径方向外側に向かって伸びるように構成されている。この外向きフランジ部112がハウジング300の端面に突き当たるまでカートリッジケース110をハウジング300の軸孔に嵌合させることにより、カートリッジケース110の位置決めを行うことができる。
【0028】
第1支持部113は、ケース本体部111における密封対象流体側(L)とは反対側(A)の端部から径方向内側に向かって伸びるように構成されている。また、この第1支持部113の先端部分は、密封対象流体側(L)に向かって傾斜するように構成され、樹脂製シール部材120を支持するバックアップ部114をなしている。更に、第1支持部113には、周方向に間隔を空けて設けられる複数の突起部113aが形成されている。これら複数の突起部113aは樹脂製シール部材120に食い込むように構成されている。これにより、樹脂製シール部材120がカートリッジケース110から抜け落ちてしまうことを抑制することができる。
【0029】
樹脂製シール部材120は、胴体部121と、胴体部121における径方向の内側から密封対象流体側(L)に向かって伸びるシール部122とを一体に備えている。この樹脂製シール部材120は、第1支持部113の密封対象流体側(L)に隣接して設けられる。そして、胴体部121が第1支持部113に密着し、シール部122の内周面が軸200の外周面に対して摺動自在な状態で密着する。また、胴体部121とシール部122との間の湾曲状に折れ曲がった部分が、バックアップ部114によって支持された状態となる。なお、樹脂製シール部材120は、カートリッジケース110に組み付けられる前の状態(つまり、外力を受けていない状態)においては、中心に孔の空いた円板状の部材である。ただし、軸200が挿入されやすいように、シール部122となる樹脂製シール部材120の内周端部分は、予め密封対象流体側(L)に向かって、ある程度折り曲げておくのが望ましい。
【0030】
弾性体製シール部材130は、環状の胴体部131と、胴体部131の径方向の内側から密封対象流体側(L)に向かって伸びる円筒部132と、円筒部132の端部から径方向内側に傾斜するシールリップ部133とを一体に備えている。この弾性体製シール部材130は、樹脂製シール部材120の密封対象流体側(L)に隣接して設けられる。そして、胴体部131が、樹脂製シール部材120における胴体部121の密封対象流体側(L)に密着し、円筒部132の内周面の少なくとも一部が樹脂製シール部材120におけるシール部122の外周面に密着する。また、シールリップ部133は、樹脂製シール部材120におけるシール部122の先端よりも更に密封対象流体側(L)で、軸200の外周面に対して摺動自在な状態で密着する。更に、胴体部131は、樹脂製シール部材120における胴体部121と、後述する固定部材140における第2支持部142との間に設けられ、かつその外周面がケース本体部111の内周面に密着するように構成されている。
【0031】
金属製の固定部材140は、円筒部141と、円筒部141における密封対象流体側(L)とは反対側(A)の端部から径方向内側に向かって伸びる第2支持部142と、第2支持部142の先端から密封対象流体側(L)に向かって拡径するように伸びるテーパ状部143とから構成される。円筒部141は、ケース本体部111の内周面に固定される。ここで、円筒部141の外径はケース本体部111の内径以下に設定されており、かつ、これら円筒部141とケース本体部111は溶接により固定される。溶接により固定する部位は、図2中矢印X1に示すように円筒部141の密封対象流体側(L)の端部の部分でもよいし、矢印X2に示すように、ケース本体部111の内周面と円筒部141の外周面との間の部分でもよい。ただし、後者の場合には、溶接の際に発生する熱が、弾性体製シール部材130に伝わり難くするために、円筒部141の密封対象流体側(L)の端部の付近とするのが望ましい。また、第2支持部142とテーパ状部143とを繋ぐ湾曲状に折れ曲がった部分によって、弾性体製シール部材130における円筒部132の外周面が支持されている。これにより、シールリップ部133が軸200の外周面から離れてしまうことが抑制されている。また、テーパ状部143の先端は弾性体製シール部材130における円筒部132の外周面から離れているので、円筒部132を傷つけてしまうことはない。
【0032】
上述した樹脂製シール部材120と弾性体製シール部材130は、カートリッジケース110における第1支持部113と固定部材140における第2支持部142によって挟み込まれることにより固定される。また、固定部材140における円筒部141と第2支持部142とを繋ぐ部分144の外壁面と、弾性体製シール部材130との間には環状空間S2が形成されている。
【0033】
<密封装置の組み立て方>
特に、図3を参照して、本実施例に係る密封装置100の組み立て方について説明する。本実施例においては、密封装置100を組み立てる際に、土台となる受け治具500と、押圧部材600と、レーザー光源650が用いられる。受け治具500は、土台部510と円筒部520とを備えている。まず、この受け治具500に対して、樹脂製シール部材120と弾性体製シール部材130と固定部材140とを予め装着させたカートリッジケース110が組み込まれる。ここで、固定部材140における円筒部141の外径はケース本体部111の内径以下に設定されているので、カートリッジケース110に対して固定部材140を装着する際の押圧力は殆どゼロである。なお、受け治具500における円筒部520の内径は、ケース本体部111の外径よりも僅かに大きく設定されている。これにより、受け治具500に対してカートリッジケース110を組み込む際に必要な押圧力も殆どゼロである。
【0034】
次に、押圧部材600に設けられた円筒状の押圧部610の先端により、固定部材140における第2支持部142が、受け治具500の土台部510に向かって押圧される。そして、押圧時の荷重が、予め定められた範囲内となるように押圧部材600の位置を保持させた状態で、レーザー光源650からレーザー光Lが射出されて、円筒部141とケース本体部111とが溶接により固定される。ここで、上記の通り、固定部材140における円筒部141の外径はケース本体部111の内径以下に設定されており、円筒部141とケース本体部111との間で摩擦は殆ど生じない。従って、押圧部材600によって固定部材140における第2支持部142を押圧する際の押圧力は、第2支持部142に対する弾性体製シール部材130からの反発力と等しい。従って、上記の溶接によって、第2支持部142に対する弾性体製シール部材130からの反発力が予め定められた範囲となる位置で、固定部材140がケース本体部111に対して固定されることになる。
【0035】
なお、受け治具500と押圧部材600のうちのいずれか一方に荷重センサーを設けておき、この荷重センサーにより検出される荷重が、予め定められた範囲となった際に押圧部材600の移動を停止させ、溶接が行われるようにすると好適である。また、レーザー光源650のみ固定させた状態で、レーザー光Lを射出させつつ、受け治具500と押圧部材600と共に密封装置100を回転させることで、全周に亘って溶接を行うことができる。また、本実施例では、レーザー光Lにより溶接する場合を示したが、溶接については、その他の各種公知技術(例えば、TIG溶接)を採用することができる。なお、溶接する部分については、上記の通り、全周に亘って溶接してもよいし、周方向に間隔を空けて数か所に溶接してもよい。
【0036】
<本実施例に係る密封装置の優れた点>
以上説明したように、本実施例に係る密封装置100によれば、金属製の固定部材140における円筒部141の外径はケース本体部111の内径以下に設定されている。そして、これら円筒部141とケース本体部111は溶接により固定される構成が採用されている。これにより、圧入により固定する場合に比べて、固定部材140の位置決め精度を高くすることができる。そのため、樹脂製シール部材120を位置決め固定するために、従来のように別途専用の部材(上記従来例における金属製の第1支持部材740及び第2支持部材750に相当)が必要になることはない。従って、部品点数を削減することが可能となる。なお、固定部材140には円筒部141が備えられており、この円筒部141がケース本体部111に固定されるため、固定部材140がケース本体部111に対して軸線方向に傾いてしまうことはない。これにより、固定部材140の姿勢を安定的に維持させることができる。なお、仮に、円筒部141を有していない固定部材140を用いた場合、第2支持部142の外周端縁をケース本体部111に溶接により固定することが考えられる。しかしながら、この場合には、第2支持部142の内周側が密封対象流体側(L)に向かうように傾斜してしまい、樹脂製シール部材120及び弾性体製シール部材130の姿勢が不安定になってしまうことが懸念される。
【0037】
また、固定部材140の位置決め精度を高くすることができるため、樹脂製シール部材120の姿勢を安定させることができ、密封機能を安定的に発揮させることができる。また、樹脂製シール部材120の外周面の外側に、弾性体からなる部材の一部(上記従来例における弾性体製シール部材730の外周シール部731に相当)を配置させる必要もないので、密封装置100の径方向の小型化が可能となる。
【0038】
また、固定部材140における円筒部141と第2支持部142とを繋ぐ部分144の外壁面と、弾性体製シール部材130との間には環状空間S2が形成されている。これにより、溶接の際に発生した熱が、弾性体製シール部材130に伝わることを抑制することができる。
【0039】
更に、上記の通り、固定部材140の位置決め精度を高くすることができるため弾性体製シール部材130の位置決め精度も高くでき、弾性体製シール部材130の姿勢を安定させることができる。また、弾性体製シール部材130の胴体部131におけるケース本体部111の内周面に対する密着力の精度を高めることができる。従って、樹脂製シール部材120の外周面の外側に、弾性体からなる部材の一部(上記従来例における弾性体製シール部材730の外周シール部731に相当)を配置させなくても、外周面側の密封機能を十分に発揮させることができる。
【0040】
また、第2支持部142に対する弾性体製シール部材130からの反発力が予め定められた範囲となる位置で、固定部材140がケース本体部111に対して固定されている。これにより、樹脂製シール部材120及び弾性体製シール部材130を精度よく位置決め固定させることができる。
【0041】
(実施例2)
図4には、本発明の実施例2が示されている。本実施例においては、固定部材の構成が実施例1の場合とは異なる場合を示す。その他の構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0042】
上記実施例1に係る固定部材140の場合には、第2支持部142の先端から密封対象流体側(L)に向かって拡径するように伸びるテーパ状部143が設けられている。このテーパ状部143は、上記の通り、シールリップ部133が軸200の外周面から離れてしまうことを抑制するために設けられている。しかしながら、使用環境によっては、シールリップ部133が軸200の外周面から離れてしまうおそれがないことがある。そこで、本実施例に係る金属製の固定部材140aの場合には、円筒部141と、円筒部141における密封対象流体側(L)とは反対側(A)の端部から径方向内側に向かって伸びる第2支持部142のみから構成されている。このように、本実施例に係る固定部材140aは、実施例1で示した固定部材140の場合のように、テーパ状部143は設けられていない。
【0043】
固定部材140aに関する構成以外の構成については、上記実施例1の場合と同一であるので、その説明は省略する。本実施例に係る密封装置100aにおいても、上記実施例1に係る密封装置100の場合と同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0044】
(実施例3)
図5には、本発明の実施例3が示されている。上記実施例1においては、カートリッジケースが1部材により構成される場合を示したが、本実施例においては、カートリッジケースが2部材により構成される場合を示す。その他の構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0045】
本実施例に係るカートリッジケース110aは、第1カートリッジケース110Aと、この第1カートリッジケース110Aに圧入により嵌合固定される第2カートリッジケース110Bとから構成される。第1カートリッジケース110Aは、円筒状のケース本体部111と、ケース本体部111における密封対象流体側(L)に設けられる外向きフランジ部112とを一体に備えている。第2カートリッジケース110Bは、ケース本体部111における密封対象流体側(L)とは反対側(A)に設けられる第1支持部113を備えている。この第1支持部113の先端部分は、実施例1の場合と同様に、密封対象流体側(L)に向かって傾斜するように構成され、樹脂製シール部材120を支持するバックアップ部114をなしている。なお、ケース本体部111,外向きフランジ部112,第1支持部113及びバックアップ部114の役割や機能については、実施例1で説明した通りである。
【0046】
カートリッジケース110aに関する構成以外の構成については、上記実施例1の場合と同一であるので、その説明は省略する。本実施例に係る密封装置100bにおいても、上記実施例1に係る密封装置100の場合と同様の効果が得られることは言うまでもない。なお、本実施例に係る密封装置100bにおいて、上記実施例2で示した固定部材140aを採用することもできる。
【0047】
(実施例4)
図6には、本発明の実施例4が示されている。上記実施例1においては、弾性部材が弾性体製シール部材の場合を示したが、本実施例においては、弾性部材は密封機能を有していない場合を示す。その他の構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0048】
本実施例に係る弾性部材160は、円筒状の部分のみで構成されている。つまり、上記各実施例で示した弾性体製シール部材130における胴体部131に相当する部分のみから構成されている。なお、本実施例に係る弾性部材160はシールリップ部を備えていないので、実施例2で示した固定部材140aを採用している。
【0049】
弾性部材160に関する構成以外の構成については、上記実施例1の場合と同一であるので、その説明は省略する。本実施例に係る密封装置100cにおいても、弾性体製シール部材130に関係する作用効果を除き、上記実施例1に係る密封装置100の場合と同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0050】
(その他)
上記各実施例においては、カートリッジケース110,110aにおける第1支持部113にバックアップ部114を設ける場合の構成を説明したが、使用環境により樹脂製シール部材120を支持する必要がない場合には、バックアップ部114を設けなくてもよい。
【符号の説明】
【0051】
10 ウォーターポンプ
21 回転軸
22 ベアリング
23 プーリー
24 インペラー
30 ハウジング
100,100a,100b,100c 密封装置
110,110a カートリッジケース
110A 第1カートリッジケース
110B 第2カートリッジケース
111 ケース本体部
112 外向きフランジ部
113 第1支持部
113a 突起部
114 バックアップ部
120 樹脂製シール部材
121 胴体部
122 シール部
130 弾性体製シール部材
131 胴体部
132 円筒部
133 シールリップ部
140,140a 固定部材
141 円筒部
142 支持部
143 テーパ状部
150 外周シール部材
160 弾性部材
200 軸
300 ハウジング
500 受け治具
510 土台部
520 円筒部
600 押圧部材
610 押圧部
650 レーザー光源
L レーザー光
S1,S2 環状空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7