(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
8〜9.5重量部の圧偏大豆と、0.5〜2重量部の乾燥おからとを混合し水分を50〜70重量%に調整してなるOphiocordyceps属子実体形成用培地にOphiocordyceps属を植菌する植菌工程と、
前記植菌工程を経たOphiocordyceps属子実体形成用培地を20〜25℃に保温しつつ培養する培養工程と、
を有するOphiocordyceps属子実体の形成方法。
前記子実体形成培養工程前に、前記Ophiocordyceps属子実体形成用培地に対して、10〜60kVの電圧を1nsec〜250nsecパルス状に印加することを特徴とする請求項5に記載のOphiocordyceps属子実体の形成方法。
前記子実体形成培養工程では、400〜600hPaの気圧雰囲気下で培養を行うことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のOphiocordyceps属子実体の形成方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
このように、冬虫夏草やセミタケは食材や薬剤原料として極めて有用性の高い素材であるが、効率良く大量に生産する培地や製造技術は未だ開発の余地が残されていた。
【0011】
すなわち、研究室等において培地用試薬等を用いて調製した培地であれば比較的効率的にOphiocordyceps属の子実体を形成させることは可能であるが、大量生産向きではなかった。
【0012】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、比較的安価で効率的にOphiocordyceps属の子実体を形成させることのできるOphiocordyceps属子実体形成用培地を提供する。
【0013】
また、本発明は、比較的安価で効率的にOphiocordyceps属の子実体を形成させることのできるOphiocordyceps属子実体形成方法についても提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記従来の課題を解決するために、本発明に係るOphiocordyceps属子実体形成用培地では、(1)8〜9.5重量部の圧偏大豆と、0.5〜2重量部の乾燥おからとを混合し水分を50〜70重量%に調整してなることとした。
【0015】
また、本発明に係るOphiocordyceps属子実体形成用培地は、(2)更に、ネギエキスを添加したことにも特徴を有している。
【0016】
また、本発明に係るOphiocordyceps属子実体の形成方法によれば、(3)8〜9.5重量部の圧偏大豆と、0.5〜2重量部の乾燥おからとを混合し水分を50〜70重量%に調整してなるOphiocordyceps属子実体形成用培地にOphiocordyceps属を植菌する植菌工程と、前記植菌工程を経たOphiocordyceps属子実体形成用培地を20〜25℃に保温しつつ培養する培養工程と、を有することとした。
【0017】
また、本発明に係るOphiocordyceps属子実体の形成方法では、以下の点にも特徴を有する。
(4)前記子実体形成用培地には、ネギエキスを添加すること。
(5)前記培養工程は、初期培養工程と、熟成培養工程と、子実体形成培養工程とよりなり、前記初期培養工程では、前記植菌工程を経たOphiocordyceps属子実体形成用培地を20〜25℃の暗所下にて培養し、前記熟成培養工程では、前記初期培養工程を経たOphiocordyceps属子実体形成用培地を12時間明所下、12時間暗所下の周期で20〜25℃の温度条件下にて培養し、前記子実体形成培養工程は、前記熟成培養工程を経たOphiocordyceps属子実体形成用培地を20〜25℃の温度条件下にて培養しつつ子実体を形成させること。
(6)前記子実体形成培養工程前に、前記Ophiocordyceps属子実体形成用培地に対して、10〜60kVの電圧を1nsec〜250nsecパルス状に印加すること。
(7)前記子実体形成培養工程では、400〜600hPaの気圧雰囲気下で培養を行うこと。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るOphiocordyceps属子実体形成用培地によれば、8〜9.5重量部の圧偏大豆と、0.5〜2重量部の乾燥おからとを混合し水分を50〜70重量%に調整したため、比較的安価で効率的にOphiocordyceps属の子実体を形成させることのできるOphiocordyceps属子実体形成用培地を提供することができる。
【0019】
また、更に、ネギエキスを添加すれば、よりOphiocordyceps属子実体の収量を向上でき、しかも、Ophiocordyceps属子実体のコルジセピン含量を多くすることができる。
【0020】
また、本発明に係るOphiocordyceps属子実体の形成方法によれば、8〜9.5重量部の圧偏大豆と、0.5〜2重量部の乾燥おからとを混合し水分を50〜70重量%に調整してなるOphiocordyceps属子実体形成用培地にOphiocordyceps属を植菌する植菌工程と、前記植菌工程を経たOphiocordyceps属子実体形成用培地を20〜25℃に保温しつつ培養する培養工程と、を有することとしたため、比較的安価で効率的にOphiocordyceps属の子実体を形成させることのできるOphiocordyceps属子実体形成方法についても提供することができる。
【0021】
また、前記子実体形成用培地には、ネギエキスを添加することとすれば、よりOphiocordyceps属の子実体の収量を向上でき、しかも、Ophiocordyceps属子実体のコルジセピン含量を多くすることができる。
【0022】
また、前記培養工程は、初期培養工程と、熟成培養工程と、子実体形成培養工程とよりなり、前記初期培養工程では、前記植菌工程を経たOphiocordyceps属子実体形成用培地を20〜25℃の暗所下にて培養し、前記熟成培養工程では、前記初期培養工程を経たOphiocordyceps属子実体形成用培地を12時間明所下、12時間暗所下の周期で20〜25℃の温度条件下にて培養し、前記子実体形成培養工程は、前記熟成培養工程を経たOphiocordyceps属子実体形成用培地を20〜25℃の温度条件下にて培養しつつ子実体を形成させることとすれば、Ophiocordyceps属子実体をより堅実かつ安定的に培養することができる。
【0023】
また、前記子実体形成培養工程前に、前記Ophiocordyceps属子実体形成用培地に対して、10〜60kVの電圧を1nsec〜250nsecパルス状に印加すれば、Ophiocordyceps属子実体の形成をより助長することができる。
【0024】
また、前記子実体形成培養工程では、400〜600hPaの気圧雰囲気下で培養を行うこととすれば、Ophiocordyceps属子実体の形成をより助長することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、比較的安価で効率的にOphiocordyceps属の子実体を形成させることのできるOphiocordyceps属子実体形成用培地を提供するものである。
【0027】
特に、本実施形態に係るOphiocordyceps属子実体形成用培地では、8〜9.5重量部の圧偏大豆と、0.5〜2重量部の乾燥おからとを混合し水分を50〜70重量%に調整してなる点に特徴を有している。
【0028】
圧偏大豆は、大豆を蒸気もしくは焙煎により加熱して、圧偏(フレーク状)にしたものであり、飼料等に広く用いられている。
【0029】
圧偏大豆は、通常の大豆よりも扁平な形状で、その縁部に多数のクラックが形成されていることから、水分を吸収して膨潤するのが早く、しかも培地の水分を可及的一定に保つための保水体の役割も有している。
【0030】
乾燥おからは、豆腐や豆乳の製造を行う際に副製するおからを乾燥させたものであり、水分含量が概ね2〜8%程度のものが食用や飼料用として広く市販されている。
【0031】
乾燥おからには、大豆由来の水不溶性繊維分が多く含まれており、Ophiocordyceps属の糖源として極めて有用である。
【0032】
そして、本実施形態に係るOphiocordyceps属子実体形成用培地では、これら圧偏大豆と乾燥おからとを8〜9.5重量部:0.5〜2重量部の割合で混合し、水分含量を50〜70重量%に調整している。
【0033】
圧偏大豆の重量割合が8重量部を下回る(乾燥おからの重量割合が2重量部を上回る)と、圧偏大豆間に形成された空隙がおからにより充填されて通気性が悪化するため好ましくない。
【0034】
また、圧偏大豆の重量割合が9.5重量部を上回る(乾燥おからの重量割合が0.5重量部を下回る)と、おからが圧偏大豆のつなぎとして機能しなくなるため好ましくない。
【0035】
また、水分含量が50重量%を下回ったり、70重量%を上回ると、セミタケ子実体形成用培地としての保形性が悪化し、また、Ophiocordyceps属の菌糸の生育に悪影響を及ぼすため好ましくない。
【0036】
圧偏大豆と乾燥おからとを8〜9.5重量部:0.5〜2重量部の割合で混合し、水分含量を50〜70重量%に調整することで、Ophiocordyceps属子実体を効率的に形成可能な培地とすることができる。
【0037】
また、このOphiocordyceps属子実体形成用培地には、Ophiocordyceps属子実体形成助長成分として、ネギエキスを添加しても良い。
【0038】
具体的には、ネギ100gあたり1Lの水の割合で湯煮し、得られた煮汁をネギエキスとして前述のOphiocordyceps属子実体形成用培地に添加しても良く、また、この煮汁を乾燥させることにより得られた乾燥物をネギエキスとして添加しても良い。
【0039】
このような構成とすることにより、Ophiocordyceps属の子実体形成をより助長できるとともに、子実体に含まれるコルジセピンの量をより増加させることができる。
【0040】
また、本発明は、比較的安価で効率的にOphiocordyceps属の子実体を形成させることのできるOphiocordyceps属子実体の形成方法を提供するものでもある。
【0041】
特に、本実施形態に係るOphiocordyceps属子実体の形成方法では、8〜9.5重量部の圧偏大豆と、0.5〜2重量部の乾燥おからとを混合し水分を50〜70重量%に調整してなるOphiocordyceps属子実体形成用培地にOphiocordyceps属を植菌する植菌工程と、前記植菌工程を経たOphiocordyceps属子実体形成用培地を20〜25℃に保温しつつ培養する培養工程と、を有する点に特徴を有している。
【0042】
ここで植菌工程においては、前述の本実施形態に係るOphiocordyceps属子実体形成用培地にOphiocordyceps属に属する子嚢菌類、すなわち、Ophiocordyceps sinensis(所謂、冬虫夏草)やOphiocordyceps sobolifera(所謂、セミタケ)等の植菌を行う。植菌する菌の量は特に限定されるものではないが、Ophiocordyceps属子実体形成用培地1kgあたり1.0×10
4cfu程度以上の菌糸を植菌するのが好ましい。1kgあたり1.0×10
4cfuを下回ると、菌糸が培地に十分に蔓延するのに時間を要するため好ましくない。また上限量は特に限定されるものではないが、生産効率的な視点から敢えて目安を述べるならば、例えば1.0×10
6cfuとすることができる。
【0043】
培養工程では、植菌工程を経たOphiocordyceps属子実体形成用培地を20〜25℃に保温しつつ培養することで、子実体の形成を行うこととしている。
【0044】
また、本実施形態に係るOphiocordyceps属子実体の形成方法では、前記子実体形成用培地に、ネギエキスを添加しても良い。ネギエキスは前述の通り、液体状であっても良く、また粉体状として培地中に分散させても良い。
【0045】
また、前記培養工程は、初期培養工程と、熟成培養工程と、子実体形成培養工程とよりなり、前記初期培養工程では、前記植菌工程を経たOphiocordyceps属子実体形成用培地を20〜25℃の暗所下にて培養し、前記熟成培養工程では、前記初期培養工程を経たOphiocordyceps属子実体形成用培地を12時間明所下、12時間暗所下の周期で20〜25℃の温度条件下にて培養し、前記子実体形成培養工程は、前記熟成培養工程を経たOphiocordyceps属子実体形成用培地を20〜25℃の温度条件下にて培養しつつ子実体を形成させることとしても良い。
【0046】
初期培養工程は、Ophiocordyceps属子実体形成用培地の表面及び内部において菌糸を十分に繁殖させるための工程であり、20〜25℃の暗所下にて培養を行う。培養時間は特に限定されるものではないが、前述の植菌量で培養を行った場合、概ね30〜50日程度である。すなわち、菌糸が十分に繁殖するまでの時間は、使用するOphiocordyceps属子実体形成用培地の量によって変動する。
【0047】
熟成培養工程は、十分に繁殖したOphiocordyceps属の菌糸に、生殖成長を促すための培養工程である。具体的には、12時間明所下、12時間暗所下の周期で20〜25℃の温度条件下にて培養を行うことにより、Ophiocordyceps属の菌糸に原基の形成を促す。培養時間は特に限定されるものではないが、前述の植菌量で培養を行った場合、概ね10〜20日程度である。すなわち、初期培養工程と同様、菌糸が十分に生殖成長するまでの時間は、使用するOphiocordyceps属子実体形成用培地の量によって変動する。
【0048】
子実体形成培養工程は、Ophiocordyceps属の子実体形成を行わせるための培養工程である。本子実体形成培養工程を行うことにより、Ophiocordyceps属子実体の伸長育成を行わせることができる。
【0049】
そして、この子実体形成培養工程を行うことにより伸長したOphiocordyceps属子実体は、大凡5〜7cm程度の長さになったところで収穫するのが好ましい。この程度の長さとなったOphiocordyceps属は、有用成分を保ちながらも、十分な収穫量を得ることができる。
【0050】
また、本実施形態に係るOphiocordyceps属子実体の形成方法では、子実体形成培養工程前に、Ophiocordyceps属子実体形成用培地に対して、10kV〜60kVの電圧を1nsec〜250nsecパルス状に印加するようにしても良い。
【0051】
10kV〜60kVの電圧、より好ましくは20kV〜50kVの電圧を、生殖成長したOphiocordyceps属の菌糸が繁殖するOphiocordyceps属子実体形成用培地に対してパルス状に印加することで、子実体の形成を助長することができ、しかも、子実体に含まれるコルジセピン含量をより多くすることができる。
【0052】
また、本実施形態に係るOphiocordyceps属子実体の形成方法では、子実体形成培養工程では、400〜600hPaの気圧雰囲気下で培養を行うようにしても良い。このような培養を行うことにより、Ophiocordyceps属子実体の形成をより良好なものとすることができる。
【0053】
以下、本実施形態に係るOphiocordyceps属子実体形成用培地及び同Ophiocordyceps属子実体形成用培地を用いたOphiocordyceps属子実体の形成方法について、実際の製造例を追いながら更に具体的に説明する。なお、以下の説明では、Ophiocordyceps属に属する担子菌類としてOphiocordyceps sobolifera(所謂、セミタケ)を用いた例について言及するが、これに限定されるものではない。ただし、出願人がOphiocordyceps属に属する担子菌類をOphiocordyceps soboliferaに限定することも妨げない。
【0054】
〔1.セミタケ子実体形成用培地の調製〕
まずは、セミタケ子実体形成用培地の調製について説明する。ここでは、圧偏大豆と乾燥おからとの混合比を7:3〜9.5:0.5とし、水分含量を50〜70%に調製した5種類の子実体形成用培地A1〜E1を調製した。また、比較試験用の培地として、水分含量を60%としつつも、圧偏大豆と乾燥おからとの混合比を上記範囲から上下に逸脱させた比較用培地P1と比較用培地Q1や、圧偏大豆と乾燥おからとの混合比を7:3〜9.5:0.5の範囲内(具体的には、9:1)としつつも、水分含量を上記範囲から上下に逸脱させた比較用培地R1と比較用培地S1も調製した。
【0055】
具体的な各培地の調製方法としては、まず、圧偏大豆と乾燥おからとをそれぞれ表1に示す通りに秤量して混合し、水を添加して混練した。
【表1】
【0056】
次に、調製したそれぞれの培地2.5kgを、株式会社エフテック製のキノコ培養袋に収容し、大凡10cm×20cm×20cmの立方体に成形した上で121℃にて30分間オートクレーブ処理し、その後放置冷却することで滅菌された培地とした。なお、表1にて合計重量が2.5kgに満たないものは更に1バッチ追加して調製した。
【0057】
このようにして調製した培地のうち、子実体形成用培地A1〜E1について性状を観察したところ、いずれの子実体形成用培地A1〜E1においても適度な保形性を有しており、また、培地中に適度な空隙が形成されていることが確認された。
【0058】
一方、比較用培地P1を観察したところ、つなぎとして機能するおからの量が圧偏大豆量に対して少なく、上述した立方体形状は崩壊しており、保形性に難があった。
【0059】
また、比較用培地Q1を観察したところ、つなぎとして機能するおからの量が多すぎるため、保形性は有するものの培地中の空隙がおからによって充填されてしまっており、通気性の観点から問題を有していた。
【0060】
また、比較用培地R1を観察したところ、水分含量が少なすぎるため、保形性に難があった。
【0061】
また、比較用培地S1を観察したところ、水分が多すぎるため極めてハンドリングが悪く、また、保形性も悪化していた。
【0062】
これらの結果から、本実施形態に係る子実体形成用培地A1〜E1は、圧偏大豆と乾燥おからとの混合比を7:3〜9.5:0.5とし、水分含量を50〜70%に調製しているため、良好なセミタケ子実体形成用培地として機能可能であることが示された。
【0063】
〔2.植菌工程〕
次に、調製した滅菌済みの子実体形成用培地A1〜E1、及び比較用培地P1,Q1,R1,S1に対し、セミタケ(Ophiocordyceps sobolifera)の植菌を行った。具体的には、5×10
3cfu/mlの胞子を含む菌液50mlを調製した各培地状に散布し植菌を行った。
【0064】
〔3.初期培養工程〕
次に、植菌を行った子実体形成用培地A1〜E1、及び比較用培地P1,Q1,R1,S1に対して初期培養を行った。具体的には、20〜25℃に温度調整された培養室を暗所化し、30日間培養した。
【0065】
〔4.熟成培養工程〕
次に、初期培養工程を経た子実体形成用培地A1〜E1、及び比較用培地P1,Q1,R1,S1に対して、熟成培養を行った。具体的には、20〜25℃に温度調整された培養室内において、照明装置を12時間点灯させ、その後12時間消灯するサイクルに設定し、10日間培養を行った。
【0066】
〔5.子実体形成培養工程〕
次に、熟成培養工程を経た子実体形成用培地A1〜E1、比較用培地P1,Q1,R1,S1に対して、子実体形成培養を行った。具体的には、20〜25℃に温度調整された培養室を明所化し、大気圧雰囲気下にて20日間培養した。
【0067】
〔6.収穫工程〕
子実体形成培養工程を行った後、各培地上に形成されたセミタケ子実体を指先でつみ取ることで収穫を行った。なお、収穫は、5cm以上の長さに生長したセミタケ子実体を対象とした。
【0068】
〔7.収量比較〕
次に、子実体形成用培地A1〜E1、比較用培地P1,Q1,R1,S1より得られた子実体の重量について、それぞれ比較を行った。その結果を表2に示す。
【表2】
【0069】
表2からも分かるように、子実体形成用培地A1〜E1はいずれも、比較用培地P1,Q1,R1,S1に比して、より多くの子実体を収穫することができた。また、実験室にてセミタケの子実体形成培養に用いられるポテトグルコース培地を用いた際の子実体100gを得るのに必要な培地量は500gであり、同培地1kgあたり2000円の費用が必要となるが、子実体形成用培地A1〜E1は高くとも200円程度であることから、本実施形態に係るセミタケ子実体形成用培地は、比較的安価且つ効率的にセミタケの子実体を形成可能であることが示された。
【0070】
〔8.ネギエキス添加による違いの検証〕
次に、上述した各子実体形成用培地のうち、子実体形成用培地A1に対してネギエキスを添加することにより、セミタケの子実体の収穫量の違いや、コルジセピン含量の違いについて検証を行った。
【0071】
ネギエキスは次の通り調製した。すなわち、10Lの水に約5cmの長さに切断した1000gのネギを投入し、60分間沸騰させて熱水抽出を行いつつ煮汁を得、この煮汁を凍結乾燥させることにより10gのネギエキス粉末を得た。
【0072】
次に、前述の子実体形成用培地A1(2.5kg)に対し、2.5gのネギエキスを添加して均一に分散させ、ネギエキスを含有する子実体形成用培地A2の調製を行った。
【0073】
次に、子実体形成用培地A1と、子実体形成用培地A2とに対し、前述の〔2.植菌工程〕〜〔6.収穫工程〕と同様に処理を行い、セミタケの子実体を得た。得られたセミタケ子実体の収穫重量及びコルジセピン含量について検討を行った。なお、コルジセピン含量の測定は、得られたセミタケの子実体80gを熱水で2時間抽出し、濾過して得られた濾液を凍結乾燥して乾燥物を得、この乾燥物を所定量のメタノールに溶解した後にポアサイズが0.45μmのメンブレンフィルタで濾過した液をHPLCに供することで行った。HPLCでの測定条件は、ODSカラム(4.5mm×150mm)、移動層はメタノール:KH
2PO
4buffer=15:85、流速は1ml/min、検出波長は254nmで行った。その結果を表3に示す。
【表3】
【0074】
図3からも分かるように、本実施形態に係るセミタケ子実体形成用培地は、さらにネギエキスを添加することにより、セミタケ子実体の増収を図ることができ、しかも、子実体の単位量あたりに含まれるコルジセピン量を増加させることができる。
【0075】
なお、具体的な実験結果は割愛するが、本発明者の研究によれば、培地に添加するネギエキスの量は、培地2.5kgあたり2.5gが最も好ましく、1〜5gの範囲内で収穫量やコルジセピン含量の向上を図ることが可能である。1gを下回るとこれらの効果は発揮されにくくなり、また、5gを超えて添加しても効果は増強されず、寧ろ収量やコルジセピン含量が低下に転じるため好ましくない。
【0076】
〔9.高電圧パルス印加よる違いの検証〕
次に、前述の子実体形成用培地A1に対し、高電圧パルスを印加して電圧印加工程を行うことにより、セミタケの子実体の収穫量の違いや、コルジセピン含量の違いについて検証を行った。
【0077】
具体的には、子実体形成用培地A1(100g)を500ml容ポリプロピレン容器2つにそれぞれ収容し、120℃にて30分間滅菌処理して放冷した後、前述の〔2.植菌工程〕〜〔4.熟成培養工程〕と同様に処理を行った。熟成培養工程を経た各容器中の培地には菌糸が十分に繁殖しており、また、検鏡により原基が形成されているのが確認された。
【0078】
次いで、2つ作成した子実体形成用培地A1のボトル1本に対し、友信工業株式会社製高電圧パルス電源(Weve Motion Gun:TYC-1)を用い、10kV〜60kVの電圧を100nsecに亘りパルス状に印加処理した。なお、以下の説明において、電圧印加工程を経た子実体形成用培地A1には各符号に「v」を付して、子実体形成用培地A1vと称する。
【0079】
そして、電圧印加工程を経ていない子実体形成用培地A1、及び、電圧印加工程を経た子実体形成用培地A1vについて、前述の〔5.子実体形成培養工程〕及び〔6.収穫工程〕を行って、セミタケ子実体を得た。得られたセミタケ子実体の収穫重量を
図1に示す。
【0080】
図1からも分かるように、電気パルス刺激によってセミタケ子実体の発生量が最大32 gとなり、無処理の12 gに比べ、子実体発生量が著しく増加することが明らかになった。
【0081】
また、印加電圧の違いによって効果に差がみられ、30 kVで最も良好な結果が得られた。無処理に比べ印加区では267%の発生率(BE:Biological Efficiency)となった。
【0082】
次に、コルジセピンについて定量を行った。
図2に示すように、コルジセピンの含有量が著しく増加して子実体発生量の場合と同様に30 kV印加で著しい効果が認められた。
【0083】
一方、無処理区では、子実体絶乾1 gあたり42 mgであるのに対し、印加区では88 mg と大幅に増加することが分かった。コルジセピンは3'-deoxyadenosineとも呼ばれ、ヌクレオシドの一つのアデノシンの3'位からヒドロキシル基(OH基)を失った構造である。期待される機能性としては、DNAやRNA合成阻害作用があると言われている。そのため、悪性細胞の増殖抑制効果があると考えられている(Kredich and Guarino, 1961)。
【0084】
上述のように、電圧印加工程を経ることにより、代謝産物であるコルジセピンの含有率が大きく増大し、しかも、子実体の発生量が上昇することが確認された。
【0085】
〔10.減圧培養による違いの検証〕
次に、前述の子実体形成用培地A1に対し、子実体形成培養工程で400〜600hPaの気圧雰囲気下で培養を行うことにより、セミタケの子実体の収穫量の違いや、コルジセピン含量の違いについて検証を行った。
【0086】
具体的には、子実体形成用培地A1(100g)を500ml容ポリプロピレン容器2つにそれぞれ収容し、120℃にて30分間滅菌処理して放冷した後、前述の〔2.植菌工程〕〜〔4.熟成培養工程〕と同様に処理を行った。熟成培養工程を経た各容器中の培地には菌糸が十分に繁殖しており、また、検鏡により原基が形成されているのが確認された。
【0087】
次いで、2つ作成した子実体形成用培地A1のボトル1本を、400〜600hPaに圧力調整した恒温培養器中に載置して子実体形成培養工程を行った。なお、以下の説明において、子実体形成培養工程で400〜600hPaの気圧雰囲気下で培養が行われた子実体形成用培地A1には各符号に「d」を付して、子実体形成用培地A1dと称する。
【0088】
そして、減圧雰囲気下に暴露していない子実体形成用培地A1、及び、減圧雰囲気下に暴露された子実体形成用培地A1dについて、前述の〔6.収穫工程〕を行って、セミタケ子実体を得た。得られたセミタケ子実体の収穫重量を
図3に示す。
【0089】
図3からも分かるように、減圧雰囲気下への暴露によってセミタケ子実体の発生量が最大30gとなり、無処理の12gに比べ、子実体発生量が著しく増加することが明らかになった。
【0090】
また、圧力の違いによって効果に差がみられ、600hPaを超える圧力では、セミタケ子実体の増収効果は顕著ではなく、400hPa未満に圧力を低下させると、セミタケ子実体の収量は寧ろ顕著な減少を示した。
【0091】
次に、コルジセピンについて定量を行った。
図4に示すように、コルジセピンの含有量が著しく増加して子実体発生量の場合と同様に400〜600hPaの気圧雰囲気下で著しい効果が認められた。
【0092】
上述してきたように、本実施形態に係るOphiocordyceps属子実体形成用培地では、8〜9.5重量部の圧偏大豆と、0.5〜2重量部の乾燥おからとを混合し水分を50〜70重量%に調整してなることとしたため、比較的安価で効率的にOphiocordyceps属の子実体を形成させることのできるOphiocordyceps属子実体形成用培地を提供することができる。
【0093】
また、本実施形態に係るOphiocordyceps属子実体の形成方法によれば、8〜9.5重量部の圧偏大豆と、0.5〜2重量部の乾燥おからとを混合し水分を50〜70重量%に調整してなるOphiocordyceps属子実体形成用培地にOphiocordyceps属を植菌する植菌工程と、前記植菌工程を経たOphiocordyceps属子実体形成用培地を20〜25℃に保温しつつ培養する培養工程と、を有することとしたため、比較的安価で効率的にOphiocordyceps属の子実体を形成させることのできるOphiocordyceps属子実体形成方法についても提供することができる。
【0094】
最後に、上述した各実施の形態の説明は本発明の一例であり、本発明は上述の実施の形態に限定されることはない。このため、上述した各実施の形態以外であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計等に応じて種々の変更が可能であることは勿論である。