(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6497060
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】ラフテレーンクレーン
(51)【国際特許分類】
B60K 13/04 20060101AFI20190401BHJP
B66C 23/40 20060101ALI20190401BHJP
F01N 3/08 20060101ALI20190401BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20190401BHJP
【FI】
B60K13/04 B
B66C23/40ZAB
F01N3/08 B
B01D53/86 222
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-257065(P2014-257065)
(22)【出願日】2014年12月19日
(65)【公開番号】特開2016-117347(P2016-117347A)
(43)【公開日】2016年6月30日
【審査請求日】2017年10月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】100120318
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 朋浩
(74)【代理人】
【識別番号】100117101
【弁理士】
【氏名又は名称】西木 信夫
(72)【発明者】
【氏名】大森 一也
(72)【発明者】
【氏名】日下 文嗣
(72)【発明者】
【氏名】三谷 健太
【審査官】
稲垣 彰彦
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−40602(JP,A)
【文献】
国際公開第2014/061528(WO,A1)
【文献】
特開2009−79422(JP,A)
【文献】
特開2013−2082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 13/04
B66C 23/00−23/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントアクスル及びリヤアクスルを有する下部走行体と、当該下部走行体の上部に配置されたブーム装置と、走行及び油圧アクチュエータを介したブーム操作を行う単一の操縦部とを有し、上記下部走行体は、下部フレームと、当該下部フレームの端部に着脱自在に設けられたアウトリガと、上記下部フレームの後端部上側に配置され、上記各アクスルを駆動し且つ上記油圧アクチュエータに油圧を供給するエンジンとを有するラフテレーンクレーンであって、
還元剤が貯留された還元剤タンクと、
還元剤供給装置及び当該還元剤供給装置の下流に配置された選択的触媒還元装置を有する排気浄化装置と、を備え、
上記排気浄化装置は、上記下部走行体の前後方向及び上下方向と直交する幅方向において、縦置きされた上記エンジンの側方に隣接して搭載され、
上記還元剤タンクは、上記排気浄化装置の前方で且つ上記エンジンの近傍に配置されているラフテレーンクレーン。
【請求項2】
上記還元剤タンクは、上記排気浄化装置に隣接した位置に配置されている請求項1に記載のラフテレーンクレーン。
【請求項3】
上記還元剤タンクは上記下部走行体の上面から下方に落とし込まれた状態で配置され、当該還元剤タンクの一部が上記上面から露出している請求項1又は2に記載のラフテレーンクレーン。
【請求項4】
上記還元剤タンクは、当該還元剤タンクを囲繞し保護する保護枠を備えている請求項1から3のいずれかに記載のラフテレーンクレーン。
【請求項5】
上記保護枠は、上記還元剤タンクを囲繞する断熱材を備えている請求項4に記載のラフテレーンクレーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、選択還元型触媒装置(Selective Catalytic Reduction:以下、「SCR」と称す。)を搭載したラフテレーンクレーンに関し、詳細には、SCRの構成要素としての尿素水タンクのレイアウトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンの排気中には、粒子状物質(Particulate Matter、以下、「PM」と称す。)や窒素酸化物(以下、「NOx」と称す。)等が含まれており、大気汚染の防止のためにこれらの物質が大気中に放出されることを防ぐ排気浄化装置が従来から開発されている。この排気浄化装置は、PMを捕集するためのディーゼル微粒子捕集フィルタ装置(Diesel Particulate Filter:以下、「DPF」と称す。)、NOxを除去するための酸化触媒装置(Diesel Oxidation Catalyst:以下、「DOC」と称す。)、還元剤供給装置(Decomposition Reactor Tube:以下、「DRT」と称す。)及び選択還元型触媒装置(Selective Catalytic Reduction:以下、「SCR」と称す。)を構成要素として含み、これらが組み合わされることにより所要の排気浄化装置が構成される。
【0003】
ディーゼルエンジンは様々な車両に搭載されるが、車両の種類にかかわらず排気浄化処理の必要性は近年ますます向上しており、乗用車、トラック、クローラ式建設機械等にもSCRが採用されている。そして、SCRによる排気浄化処理では尿素水が使用されるため、車両には尿素水を備蓄しておく尿素水タンクが架装される(たとえば特許文献1及び特許文献2参照)。
【0004】
ラフテレーンクレーンは、一般的に四輪駆動且つ四輪操舵が可能な走行装置を備えており、優れた小回り性及び不整地走行性を発揮する。ラフテレーンクレーンは、単一の運転席を有し、オペレータが運転席から車両走行及びクレーンの操作を行うことができるという特殊な性能を有する。ラフテレーンクレーンは、このような特殊な性能(メリット)を発揮するためにコンパクト設計がなされており、車体全長が短く設定されると共に車体後方にエンジンが配置され、しかもクレーン操作がすべて油圧により制御される。
【0005】
ラフテレーンクレーンに排気浄化装置が搭載される場合において、車体の全長及び全幅についてサイズアップが回避されなければならず、しかも、オペレータが単一の運転席からクレーン操作及び車両走行を行う際の、広い視界及び高い視認性の確保が必要となる。具体的には、排気浄化装置が車体端部から突出しないように、オペレータにとって死角を生じさせないように、しかも、クレーン操作時及びクレーン旋回時に運転席やカウンターウエイト等と干渉しないように、DOC、DRT及びSCRがレイアウトされる(たとえば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4851370号公報
【特許文献2】特許第5054613号公報
【特許文献3】特開平5−213076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、大型ラフテレーンクレーンでは、フロントアクスルあるいはリアアクスルが複数軸構造となっており、しかも、アウトリガ及びブームが車体フレームに対して着脱されることを前提とした構造となっているものがある。フロントアクスルあるいはリアアクスルが複数軸構造とされる理由は、専ら軸重が一定以下に抑えられるためである。また、車体フレームに対してアウトリガやブームが着脱可能な構造とされる理由は、大型ラフテレーンクレーンが使用される国あるいは地域の法制によるものである。すなわち、ある国や地域では、公道を走行する車両に厳しい重量制限(軸重制限)が課せられており、そのため、大型ラフテレーンクレーンが公道上を移動する際には、車体、アウトリガ及びブームがそれぞれトレーラ搬送を余儀なくされる場合があるからである(要請1)。
【0008】
上記尿素水タンクに収容された尿素水は、排気ガス中のNOxを選択的に還元するが、低温環境で凍結し、高温環境で品質が劣化するという性質がある。そのため、ラフテレーンクレーンが寒冷地で使用される場合に尿素水の凍結が回避されなければならず、他方、高温環境下で使用される場合であっても尿素水の温度は一定以下(好ましくは52℃以下)に保たれる必要がある(要請2)。
【0009】
仮に上記尿素水タンクが上記各要請に沿うことなく車体フレームまわりの任意の空間に配置されるならば、尿素水をSCRに供給する配管が無駄に長くなったり、尿素水タンクへの尿素水の充填作業が困難になるおそれがあるうえ、環境温度により尿素水が凍結あるいは品質劣化を起こしてまう等、種々の問題が生じる。そのため、尿素水タンクのレイアウトは、特別の工夫が要求される。
【0010】
本発明は、かかる背景のもとになされたものであって、アウトリガやブームが着脱自在なラフテレーンクレーンであって、コンパクトで優れた小回り性を損うことなく且つ低温環境及び高温環境でもSCRが良好に機能を発揮するように尿素水タンクが最適位置にレイアウトされたラフテレーンクレーンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1) 上記目的が達成されるため、本発明に係るラフテレーンクレーンは、フロントアクスル及びリヤアクスルを有する下部走行体と、当該下部走行体の上部に配置されたブーム装置と、走行及び油圧アクチュエータを介したブーム操作を行う単一の操縦部とを有し、上記下部走行体は、下部フレームと、当該下部フレームの端部に着脱自在に設けられたアウトリガと、上記下部フレームの後端部上側に配置され、上記各アクスルを駆動し且つ上記油圧アクチュエータに油圧を供給するエンジンとを有する。このラフテレーンクレーンは、還元剤が貯留された還元剤タンクと、還元剤供給装置及び当該還元剤供給装置の下流に配置された選択的触媒還元装置を有する排気浄化装置と、を備えている。上記排気浄化装置は、
上記下部走行体の前後方向及び上下方向と直交する幅方向において、縦置きされた上記エンジンの側方に隣接して搭載されている。上記還元剤タンクは、上記排気浄化装置の前方で且つ上記エンジンの近傍に配置されている。
【0012】
この構成によれば、排気浄化装置が搭載されているので、当該ラフテレーンクレーンの排気が浄化され、近年の厳しい排気ガス規制をクリアすることが可能である。還元剤タンクは、排気浄化装置の前方に配置される。したがって、上下部走行体の全長及び全幅が増大することなく還元剤タンクから還元剤供給装置を介した選択的触媒還元装置までの配管が簡単になり、効率的に還元剤が還元剤供給装置に供給される。しかも、還元剤の注入作業も容易である。また、還元剤タンクは、エンジンの近傍に配置される。したがって、エンジンの輻射熱を受けやすい。さらに、エンジンの冷却水を還元剤タンクに供給して当該還元剤タンクを加熱・保温する配管が容易である。加えて、前述の位置に還元剤タンクが配置されるので、アウトリガが着脱自在な構造であっても、還元剤タンクのレイアウト設計に制限がかかることはない。
【0013】
(2) 上記還元剤タンクは、上記排気浄化装置に隣接した位置に配置されているのが好ましい。
【0014】
この構成では、還元剤タンクから還元剤供給装置までの配管がより一層簡単になるという利点がある。
【0015】
(3) 上記還元剤タンクは上記下部走行体の上面から下方に落とし込まれた状態で配置され、当該還元剤タンクの一部が上記上面から露出しているのが好ましい。
【0016】
この構成では、還元剤タンクが下部走行体の上面から露出しているので、還元剤の注入作業がより容易になる。また、還元剤タンクが上記上面から下方に落とし込まれているので、よりコンパクトにレイアウトされる。
【0017】
(4) 上記還元剤タンクは、当該還元剤タンクを囲繞し保護する保護枠を備えているのが好ましい。
【0018】
この構成によれば、保護枠により還元剤タンクが保護されると共に、この保護枠が作業者のステップとして機能する。これにより、たとえばブーム装置を下部走行体に連結しているブーム根元支点ピンの取り外し作業が容易になる。しかも、保護枠がステップとして機能することにより、排気ガス規制の要請も満足することができる。
【0019】
(5) 上記保護枠は、上記還元剤タンクを囲繞する断熱材を備えているのが好ましい。
【0020】
この構成では、作業中の環境温度が高いとき、あるいはエンジンからの輻射熱が大きい場合に、還元剤タンクの温度上昇を抑えることができる。これにより、還元剤の劣化が防止される。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、アウトリガが着脱自在な構造であっても、還元剤タンクのレイアウト設計に制限がかかることはない。また、還元剤タンクは、エンジンの輻射熱を受けやすいし、さらに、エンジンの冷却水を還元剤タンクに供給して当該還元剤タンクを加熱・保温する配管が容易である。しかも、還元剤タンクから還元剤を選択的触媒還元装置に供給する配管も容易である。つまり、ラフテレーンクレーンの小回り性及び不整地走行性並びにクレーン操作における良好な視認性ないし視界が犠牲にされることなく、還元剤タンクが最適位置にレイアウトされる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るラフテレーンクレーンの斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係るラフテレーンクレーンの背面図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る下部走行体における排気浄化装置及びディーゼルエンジン周辺を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態に係る下部走行体における排気浄化装置及びディーゼルエンジン周辺を示す平面図である。
【
図5】
図5は、本発明の一実施形態に係るラフテレーンクレーンの側面図であって、尿素水タンクの周辺を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好ましい実施形態が、適宜図面が参照されつつ説明される。なお、本実施形態は、本発明に係るラフテレーンクレーンの一態様にすぎず、本発明の要旨を変更しない範囲で実施態様が変更されてもよいことは言うまでもない。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態に係るラフテレーンクレーン10の斜視図である。
【0026】
ラフテレーンクレーン10は、下部走行体11と、下部走行体11の上部に配置された上部作業体12とを有する。
【0027】
下部走行体11は、下部フレーム13を有し、下部フレーム13にフロントアクスル14及びリヤアクスル15が設けられている。フロントアクスル14及びリヤアクスル15の駆動源となるディーゼルエンジン20(
図2、3参照)が下部フレーム13の後端部上側に搭載されている。なお、ディーゼルエンジン20は、エンジン本体(不図示)及びこれを覆うエンジンカバー49とを備えており、本実施形態では、エンジンカバー49をも含めてディーゼルエンジン20と称される。
【0028】
フロントアクスル14及びリヤアクスル15の車輪16、17は、ディーゼルエンジン20によって図示されていないトランスミッションを介して駆動され、且つ図示されていない油圧アクチュエータにより操舵される。
【0029】
下部フレーム13の前端及び後端にそれぞれフロントアウトリガ18及びリヤアウトリガ19が装備されており、上部作業体12の稼働時に車体の安定を保つため、車両外側に張り出される。フロントアウトリガ18は、下部フレーム13の前端に連結されており、下部フレーム13に対して着脱可能である。リヤアウトリガ19は、下部フレーム13の後端に連結されており、下部フレーム13に対して着脱可能である。なお、フロントアウトリガ18及びリヤアウトリガ19と下部フレーム13との連結は、ピンその他の既知の手段が採用される。
【0030】
上記油圧アクチュエータや、上部作業体12に設けられた油圧アクチュエータ29や、上部作業体12に設けられた図示されていない油圧アクチュエータへ油圧を供給する油圧ポンプ(不図示)が下部フレーム13に設けられている。油圧ポンプは、ディーゼルエンジン20によって駆動される。
【0031】
上部作業体12は、後端にカウンタウェイトを設置可能な旋回台22を備えている。旋回台22は、下部フレーム13に旋回ベアリング(不図示)を介して旋回可能に搭載されている。ブーム装置23がブーム根元支点ピン(不図示)を介して旋回台22に連結されている。ブーム装置23は、ブーム根元支点ピンによって起伏可能に支持されている。ブーム装置23は、油圧アクチュエータ29が伸縮することによって起伏する。伸縮ブーム24は、図示されていない油圧アクチュエータを内蔵しており、当該油圧アクチュエータが作動されることにより伸縮する。ブーム装置23は、油圧モータ(不図示)で駆動されるウインチ27を備えており、ウインチ27が作動することによりワークが昇降される。なお、ブーム装置23は、上部作業体12に対して着脱可能である。
【0032】
下部走行体11の運転及び上部作業体12の操作を行うための単一の操縦部26が、下部走行体11に支持されている。下部走行体11の運転とは、例えばラフテレーンクレーン10を走行させるための車輪16、17の駆動及び操舵である。上部作業体12の操作とは、例えば油圧アクチュエータ29及び伸縮ブーム24に内蔵された油圧アクチュエータを介したブーム装置23の起伏及び伸縮(ブーム操作)である。
【0033】
本実施形態に係るラフテレーンクレーン10の特徴とするところは、ディーゼルエンジン20に隣接して後に詳述される排気浄化装置30が搭載されており、排気浄化装置30に含まれる尿素水タンク50(特許請求の範囲に記載された「還元剤タンク」に相当)が後述のようにレイアウトされている点である。
【0035】
図2は、本発明の一実施形態に係るラフテレーンクレーン10の背面図である。排気浄化装置30は、ディーゼルエンジン20から排出される排気ガスの供給を受け、これを浄化する装置である。排気浄化装置30は、車両後方から見て左側に配置されている。排気浄化装置30は、ディーゼルエンジン20に隣接して搭載されている。本実施形態では、排気浄化装置30にカバー34が設けられている。カバー34は、排気浄化装置30が雨や塵に晒されることを防止する。
【0036】
図3は、下部走行体11における排気浄化装置30及びディーゼルエンジン20周辺を示す斜視図である。
図4は、下部走行体11における排気浄化装置30及びディーゼルエンジン20周辺を示す平面図である。なお、これらの図は、排気浄化装置30及びディーゼルエンジン20のレイアウトを示すものであり、図によってはカバー34やエンジンカバー49などの図示が省略されている。
【0037】
ラフテレーンクレーン10は、所定の還元剤(本実施形態では尿素水)を貯留した尿素水タンク50と、排気浄化装置30とを備えている。排気浄化装置30は、酸化触媒装置(以下、「DOC」と称される。)31と、尿素水を介して排気中の酸化窒素を還元する選択的触媒還元装置(以下、「SCR」と称される。)32と、SCR32に上記尿素水を供給する還元剤供給装置(以下、「DRT」と称される。)33とを備えている。
【0038】
ディーゼルエンジン20からの排気は、まずDOC31に供給され、順次DRT33及びSCR32を通過して排気ガスとしてマフラー37から大気へと排出される。なお、本実施形態では、マフラー37は、上記排気ガスが排出される際の音を低減するもの(いわゆる消音装置)であって、SCR32あるいはその一部を示すものではない。
【0039】
DOC31は、ディーゼルエンジン20のエキゾーストパイプ38に接続されている。DOC31の構造は既知である。DOC31は、排気中に含まれる未燃燃料(HC等)や一酸化炭素(CO)の処理、及び排気中の一酸化窒素(NO)を二酸化窒素(NO2)に酸化することを主目的としている。DOC31は、排気温度の上昇に伴い、COを二酸化炭素(CO2)に酸化し、HCを燃焼する機能を有している。本実施形態では、DOC31はケーシングを備えており、このケーシングの外形形状は円柱状である。DOC31の中心軸線は、車両の前後方向すなわち下部フレーム13の長手方向39に沿っている。エキゾーストパイプ38から出た排気は、DOC31を長手方向39の前方へ流れる。
【0040】
SCR32は、排気中に還元剤を供給して窒素酸化物(NOx)を還元し、最終的に排気を窒素(N2)と水(H2O)の混合気に変換して大気中に放出する装置である。本実施形態では、DRT33は、排気中のNOxを還元するために尿素水を供給する。DRT33が排気中に尿素水を噴射すると、加水分解されてアンモニア(NH3)が生成され、このNH3によってNOxが還元される。なお、SCR32の構造及びDRT33の構造も既知である。
【0041】
本実施形態では、DRT33は、円筒状パイプ42と、円筒状パイプ42に連続された供給バルブ43とを備えており、尿素水タンク50から尿素水を導入する。供給バルブ43は、尿素水タンク50にパイプ53を介して接続されており、所定の圧力で尿素水を円筒状パイプ42内に噴射する。DRT33は、DOC31と直列に配置されている。すなわち、DRT33の中心軸線がDOC31の中心軸線と一致しており、DRT33は、DOC31の長手方向39の前側に配置され且つ前方に延びている。DOC31を通過した排気は、長手方向39に沿って流れてDRT33の円筒状パイプ42に流入し、供給バルブ43から尿素水の供給を受ける。
【0042】
SCR32はケーシングを備えており、その外形形状は円柱状に形成されている。SCR32の中心軸線は、ラフテレーンクレーン10の長手方向39に沿っている。本実施形態では、SCR32は、DOC31と並列配置されており、両者を略U字状に形成された連結パイプ44が連結している。DRT33を通過した排気は、連結パイプ44に進入し、UターンしてDRT33の下流に配置されたSCR32に流入する。SCR32では、前述のように排気が浄化され、N2及びH2Oとして排出される。
【0044】
図3に示される尿素水タンク50は、一般的に尿素水に対して耐食性が高く、耐候性及び耐衝撃性に優れた樹脂やステンレス等の材料で形成される。尿素水タンク50の形状は特に限定されるものではないが、本実施形態では概ね直方体状に形成されている。
【0045】
図5は、本発明の一実施形態に係るラフテレーンクレーン10の側面図であって、尿素水タンク50の周辺を示す図である。
図5が示すように、尿素水タンク50は、リヤアクスル15のうち前側アクスルよりも後方、且つ後側アクスルよりも前方に配置されている。また、
図3、4が示すように、尿素水タンク50は、DOC31、DRT33、及びSCR32の前方に配置されている。また、尿素水タンク50は、車両後方から見てディーゼルエンジン20の左側近傍に配置されている。すなわち、尿素水タンク50は、排気浄化装置30の前方で且つディーゼルエンジン20の近傍に配置されている。
【0046】
図3が示すように、尿素水タンク50は、支持台54に支持されている。支持台54は、下部フレーム13に固定されている。支持台54は、上側が開放された箱形状である。尿素水タンク50は、尿素水タンク50の下部が支持台54の内部に入り込んだ状態で、支持台54に支持されている。なお、支持台54の下方には、下部フレーム13に固定された補強フレーム55が配置されている。支持台54は、補強フレーム55によって支持されている。
【0047】
図5が示すように、支持台54は、下部走行体11の上面56よりも下方に配置されている。また、支持台54の上方に、開口(不図示)が形成されている。尿素水タンク50は、この開口に挿通されており、上面56から下方に落とし込まれた状態で配置されている。尿素水タンク50の上部は、上記開口を通じて下部走行体11よりも上方に突出して露出している。
【0048】
図5が示すように、尿素水タンク50は、尿素水タンク50を囲繞し保護する保護枠60を備えている。保護枠60は、尿素水タンク50を上方から覆っている。保護枠60は、支持台54の上端部57(
図3参照)にビス58によって固定されている。保護枠60は、枠を構成する各フレームの厚みを増したり、当該各フレームを屈曲させたりすることによって補強されている。これにより、保護枠60は、作業者が乗るステップとして機能する。
【0049】
保護枠60は、尿素水タンク50を囲繞する断熱材を備えていてもよい。断熱材の種類は特に限定されず、例えばグラスウールなどの繊維系断熱材でもよいし、ウレタンフォームなどの発泡系断熱材でもよい。断熱材は、保護枠60の外側に貼り付けられる。なお、断熱材は、保護枠60の内側に貼り付けられてもよいし、保護枠60の外側及び内側の双方に貼り付けられてもよい。また、断熱材は、貼り付け以外の手段によって保護枠60に取り付けられてもよい。例えば、保護枠60が中空に構成されており、断熱材が保護枠60の内部空間に配置されてもよい。
【0051】
ラフテレーンクレーン10は、排気浄化装置30を搭載しているので、ラフテレーンクレーン10の排気が浄化され、近年の厳しい排気ガス規制をクリアすることが可能である。排気浄化装置30に含まれる尿素水タンク50は、
図3が示すように排気浄化装置30の前方に配置されている。したがって、下部走行体11及び上部作業体12の全長及び全幅が増大することなく尿素水タンク50からDRT33を介してSCR32までの配管が簡単になり、効率的に尿素水がDRT33に供給される。しかも、尿素水タンク50は、
図5が示す位置に配置されていることから、尿素水タンク50が車体側面の外方を臨む位置に配置されることになるため、尿素水タンク50への尿素水の注入作業も容易である。また、尿素水タンク50は、車両後方から見てディーゼルエンジン20の左側近傍に配置されている。したがって、尿素水タンク50は、ディーゼルエンジン20の輻射熱を受けやすい。さらに、ディーゼルエンジン20の冷却水を尿素水タンク50に供給して尿素水タンク50を加熱・保温する配管が容易である。加えて、前述の位置に尿素水タンク50が配置されるので、本実施形態におけるラフテレーンクレーン10のようにアウトリガ18、19が着脱自在な構造であっても、尿素水タンク50のレイアウト設計に制限がかかることはない。以上より、ラフテレーンクレーン10の小回り性及び不整地走行性並びにクレーン操作における良好な視認性ないし視界が犠牲にされることなく、尿素水タンク50が最適位置にレイアウトされる。
【0052】
また、
図5が示すように、尿素水タンク50が下部走行体11の上面56から露出しているので、尿素水タンク50への尿素水の注入作業がより容易になる。また、尿素水タンク50が下部走行体11の上面56から下方に落とし込まれているので、尿素水タンク50がよりコンパクトにレイアウトされる。
【0053】
また、
図5が示すように、保護枠60が尿素水タンク50を囲繞しているため、保護枠60により尿素水タンク50が保護されると共に、保護枠60が作業者のステップとして機能する。これにより、たとえばブーム装置23を下部走行体11に連結しているブーム根元支点ピンの取り外し作業が容易になる。しかも、保護枠60が作業者のステップとして機能することにより、排気ガス規制の要請も満足することができる。
【0054】
また、保護枠60に断熱材が貼り付けられている場合には、作業中の環境温度が高いとき、あるいはディーゼルエンジン20からの輻射熱が大きい場合に、尿素水タンク50の温度上昇を抑えることができる。これにより、尿素水の劣化が防止される。
【0056】
上述した実施形態では、尿素水タンク50は、
図5が示す位置に配置されているが、当該位置に限定されるものではない。例えば、パイプ53の配管が多少複雑になることが許容されるならば、尿素水タンク50は、車両後方からディーゼルエンジン20の右側に配置されてもよい。また、尿素水タンク50は、フロントアクスル14とリヤアクスル15との間のスペースに配置されてもよい。要するに、尿素水の注入作業が容易であり、且つディーゼルエンジン20の輻射熱の影響を受けやすい位置であれば、他の部位に尿素水タンク50が配置されてもよい。
【0057】
上述した実施形態では、排気浄化装置30は、
図2が示すように車両後方から見てディーゼルエンジン20の左側に隣接する位置に配置されているが、当該位置に限定されるものではない。例えば、排気浄化装置30は、車両後方から見てディーゼルエンジン20の右側に隣接する位置に配置されていてもよい。
【0058】
上述した実施形態では、尿素水タンク50は、
図5が示すように排気浄化装置30との間に隙間を空けて配置されているが、尿素水タンク50は、排気浄化装置30に隣接した位置に配置されていてもよい。具体的には、尿素水タンク50は、連結パイプ44の前側近傍に配置されていてもよい。尿素水タンク50が連結パイプ44の前側近傍に配置されることにより、尿素水タンク50からDRT33までの配管がより一層簡単になるという利点がある。
【符号の説明】
【0059】
10・・・ラフテレーンクレーン
11・・・下部走行体
12・・・上部作業体
13・・・下部フレーム
14・・・フロントアクスル
15・・・リヤアクスル
18・・・フロントアウトリガ
19・・・リヤアウトリガ
20・・・ディーゼルエンジン
23・・・ブーム装置
26・・・操縦部
29・・・油圧アクチュエータ
30・・・排気浄化装置
31・・・DOC(酸化触媒装置)
32・・・SCR(選択的触媒還元装置)
33・・・DRT(還元剤供給装置)
50・・・尿素水タンク