特許第6497064号(P6497064)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6497064熱可塑性樹脂組成物を含有する成形物、繊維
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6497064
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物を含有する成形物、繊維
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20190401BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20190401BHJP
   C08L 79/02 20060101ALI20190401BHJP
   C08L 33/02 20060101ALI20190401BHJP
   C08L 33/20 20060101ALI20190401BHJP
   C08L 55/02 20060101ALI20190401BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20190401BHJP
   C08L 67/00 20060101ALI20190401BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20190401BHJP
   C08J 3/12 20060101ALI20190401BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20190401BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20190401BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08K3/08
   C08L79/02
   C08L33/02
   C08L33/20
   C08L55/02
   C08L77/00
   C08L67/00
   C08L69/00
   C08J3/12 ZCER
   C08K9/04
   C08J5/00CEZ
【請求項の数】13
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-259065(P2014-259065)
(22)【出願日】2014年12月22日
(65)【公開番号】特開2016-65194(P2016-65194A)
(43)【公開日】2016年4月28日
【審査請求日】2017年10月17日
(31)【優先権主張番号】特願2013-267987(P2013-267987)
(32)【優先日】2013年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-189963(P2014-189963)
(32)【優先日】2014年9月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148862
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 正樹
(72)【発明者】
【氏名】青木 崇
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 宏之
(72)【発明者】
【氏名】松林 昭博
(72)【発明者】
【氏名】中山 喜美男
(72)【発明者】
【氏名】高橋 淳也
(72)【発明者】
【氏名】庄司 達也
【審査官】 大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−088296(JP,A)
【文献】 特開2012−092275(JP,A)
【文献】 特開2016−065195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L101
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径が100μm〜50mmの範囲である熱可塑性樹脂の表面に、含窒素高分子で保護された金属微粒子が担持され、その含有量が0.0005質量%〜1質量%であり、前記熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート、又はポリエステル樹脂である熱可塑性樹脂組成物を含有する成形物。
【請求項2】
前記含窒素高分子がポリエチレンイミンであることを特徴とする請求項1に記載の成形物
【請求項3】
前記金属微粒子の粒子径が1〜1000nmであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の成形物
【請求項4】
前記金属微粒子が、金・銀・銅・白金またはそれら複合体からなることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の成形物
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂、ABS樹脂、又はポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の成形物
【請求項6】
前記金属微粒子が、抗菌性を有することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の抗菌性を有する成形物
【請求項7】
粒径が100μm〜50mmの範囲である熱可塑性樹脂の表面に、含窒素高分子で保護された金属微粒子が担持され、その含有量が0.0005質量%〜1質量%であり、前記熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート、又はポリエステル樹脂である熱可塑性樹脂組成物を含有する繊維。
【請求項8】
前記含窒素高分子がポリエチレンイミンであることを特徴とする請求項に記載の繊維
【請求項9】
前記金属微粒子の粒子径が1〜1000nmであることを特徴とする請求項又は請求項に記載の繊維
【請求項10】
前記金属微粒子が、金・銀・銅・白金またはそれら複合体からなることを特徴とする請求項〜請求項のいずれかに記載の繊維
【請求項11】
前記熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂、ABS樹脂、又はポリエステル樹脂であることを特徴とする請求項〜請求項10のいずれかに記載の繊維
【請求項12】
前記金属微粒子が、抗菌性を有することを特徴とする請求項7〜請求項11のいずれかに記載の抗菌性を有する繊維
【請求項13】
請求項12に記載の抗菌性を有する繊維であり、かつ酸性溶液中に含浸後も抗菌性が保持される繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の高分子を保護剤に用いて被覆された金属微粒子が特定の粒径を有する熱可塑性樹脂の表面に担持された熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【0002】
従来から樹脂に金属微粒子を分散させてそれを用いて成形品を製造すること、具体的には、無機系抗菌剤(銀や銅等を担持した活性炭、アパタイト、ゼオライト等)と熱可塑性樹脂を混ぜて射出成型、押出成型して繊維やフィルム様成型品を製造することが行われている。一般的に抗菌性を有する樹脂は、有機系抗菌剤や無機系抗菌剤を熱可塑性樹脂と溶融混錬もしくは、溶液中に分散させた後に、キャスト、紡糸、押し出し成形、射出成形などの後加工により、抗菌性を付与した樹脂フィルム、繊維、成形体となる。しかしながら、有機系抗菌剤は、樹脂中で再結晶化しやすく、さらにブリードアウトしやすいなどの抗菌効果の持続性や安定性に課題があり、さらに人体安全性の観点からも近年無機系抗菌剤を配合した樹脂が多く使用されてきている。
【0003】
無機系抗菌剤からなる樹脂は、銀イオンや銅イオン等を担持した活性炭、アパタイト、シリカ、ゼオライト等と熱可塑性樹脂を溶融混錬することにより、一旦マスターバッチ化した後、成形体として加工される。特許文献1では、銀イオンを含む溶解性ガラスを滑剤と共に樹脂と溶融混錬押し出しにより、マスターバッチを作製する方法が記載されている。
【0004】
銀化合物を直接樹脂と溶融混錬することにより銀ナノ粒子に還元させてマスターバッチを作ることも出来る。特許文献2では、乳酸銀を樹脂と溶融混錬することで銀ナノ粒子を含有するマスターバッチの製造方法が記載されている。
【0005】
一方、特許文献3では、トリフルオロ酪酸銀を含むメタノール溶液中に、ナイロン6ペレットを浸漬させた後、乾燥させることで簡単にマスターバッチを作製している。これらマスターバッチをナイロン66ペレットと溶融紡糸することで特定の粒子径を有する銀粒子を含有するナイロン繊維が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−255515号公報
【特許文献2】WO2010/098309
【特許文献3】特開平06−287355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の抗菌性の銀微粒子等を樹脂に分散させる方法では、混合が不十分な場合、無機系抗菌剤が偏在して、十分な効果を発揮しない場合がある。そのため改良方法として、特許文献1や特許文献2のように、溶融混錬により、一旦抗菌成分を樹脂中に均一分散させるマスターバッチ化が必要であり、さらに製品化するためには、得られたマスターバッチと樹脂ペレットを再度混練した後、射出成型や押出成型などの後加工を行う必要がある。このため、溶融混錬工程が複数回数必要となり、抗菌成分が凝集などを起こし、想定した配合量ほどの抗菌活性が発現しないことが問題となっていた。
【0008】
また特許文献3では、混錬工程を必要としないでマスターバッチ化しているが、マスターバッチ化の段階では、銀イオンもしくは銀化合物が保護剤のない状態で樹脂中に含浸されているため、後加工における熱加工条件によっては、生成する銀ナノ粒子に偏析や凝集等が発生してしまい、安定的に抗菌性を付与することに問題が生じていた。このため、マスターバッチ化した際に、金属微粒子が保護剤等に被覆されかつ、樹脂に担持され安定化された抗菌性樹脂が求められていた。
【0009】
さらに、ポリアミド繊維を製造する方法として、繊維原料となる樹脂と銀イオン−無機担持体(ゼオライト等)からなる無機系抗菌剤を混合した後、溶融紡糸により繊維化することができるが、無機系抗菌剤の粒子径は2〜20μmと比較的サイズが大きいため、繊維を無機抗菌剤のサイズ以下に細糸化することが出来ないため、新たな無機系抗菌剤による抗菌性の付与方法が求められていた。
【0010】
本発明は、粒径が100μm〜50mmの範囲である熱可塑性樹脂の表面に、含窒素高分子で保護された金属微粒子が担持され、その含有量が0.0005質量%〜1質量%である熱可塑性樹脂組成物であり、溶融混錬によるマスターバッチ工程が不要であり、金属微粒子の凝集が発生しにくい熱可塑性樹脂組成物を提供することである。
【0011】
また本発明は、粒径が100μm〜50mmの範囲である熱可塑性樹脂の表面に、含窒素高分子で保護された金属微粒子が担持され、その含有量が0.0005質量%〜1質量%である熱可塑性樹脂組成物であり、金属化合物の浸漬法によるマスターバッチ化においても、金属微粒子が保護剤で保護され、かつ樹脂と担持されているため、後加工工程を経ても安定して抗菌性効果が発揮できる熱可塑性樹脂組成物を提供することである。
【0012】
また本発明は、粒径が100μm〜50mmの範囲である熱可塑性樹脂の表面に、含窒素高分子で保護された金属微粒子が担持され、その含有量が0.0005質量%〜1質量%である熱可塑性樹脂組成物をマスターバッチとして作成した繊維であり、繊維化後の酸性溶液中での染色工程においても抗菌性効果が保持される繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、本発明をなすに至った。すなわち本発明は以下のとおりである。
[1]粒径が100μm〜50mmの範囲である熱可塑性樹脂の表面に、含窒素高分子で保護された金属微粒子が担持され、その含有量が0.0005質量%〜1質量%であり、前記熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート、又はポリエステル樹脂である熱可塑性樹脂組成物を含有する成形物。
[2]粒径が100μm〜50mmの範囲である熱可塑性樹脂の表面に、含窒素高分子で保護された金属微粒子が担持され、その含有量が0.0005質量%〜1質量%であり、前記熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート、又はポリエステル樹脂である熱可塑性樹脂組成物を含有する繊維。
さらに、本明細書では以下の発明も開示している。

【0014】
1.粒径が100μm〜50mmの範囲である熱可塑性樹脂の表面に、含窒素高分子で保護された金属微粒子が担持され、その含有量が0.0005質量%〜1質量%であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物
【0015】
2.前記含窒素高分子がポリエチレンイミンであることを特徴とする前記項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0016】
3.前記金属微粒子の粒子径が1〜1000nmであることを特徴とする前記項1又は前記項2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0017】
4.前記金属微粒子が、金・銀・銅・白金またはそれら複合体からなることを特徴とする前記項1〜前記項3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0018】
5.前記熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂、ABS樹脂、又はポリエステル樹脂であることを特徴とする前記項1〜前記項4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0019】
6.前記金属微粒子が、抗菌性を有することを特徴とする前記項1〜前記項5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0020】
7.水または有機溶媒に溶解する金属化合物、金属微粒子の保護剤、及び還元剤を含む溶液に、熱可塑性樹脂を懸濁または浸漬し、溶液中にて熱可塑性樹脂表面に金属微粒子を担持させることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【0021】
8.前記金属微粒子の保護剤が含窒素高分子であることを特徴とする前記項7に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【0022】
9.前記金属微粒子が、金・銀・銅・白金またはそれら複合体からなることを特徴とする前記項7又は前記項8に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【0023】
10.前記項1〜前記項5いずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を含有する成形物。
【0024】
11.前記項1〜前記項5いずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物を含有する繊維。
【0025】
12.前記項6に記載の熱可塑性樹脂組成物を含有する抗菌性を有する成形物。
【0026】
13.前記項6に記載の熱可塑性樹脂組成物を含有する抗菌性を有する繊維。
【0027】
14.前記項6に記載の熱可塑性樹脂組成物を含有する抗菌性を有する繊維であり、かつ酸性溶液中に含浸後も抗菌性が保持される繊維。
【発明の効果】
【0028】
本発明の熱可塑性樹脂の表面に、含窒素高分子で保護された金属微粒子が担持され、 熱可塑性樹脂の粒径が100μm〜50mmの範囲であり、その含有量が0.0005質量%〜1質量%であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物にすること等により、マスターバッチ工程の際の金属微粒子と熱可塑性樹脂の混練工程が不要で、粒子の凝集が発生しにくい熱可塑性樹脂組成物等を提供できるという効果がある。
【0029】
さらに、含窒素高分子で保護された金属微粒子の大きさが1〜1000nmであることから、繊維を製造する際に細糸化することが可能であり、繊維を細糸化した際にも抗菌性が付与された繊維を提供できるという効果がある。
【0030】
さらに、本発明は、金属微粒子が保護剤で被覆され、かつ樹脂と担持されているため、樹脂中での金属微粒子の自由な移動が困難であり、後加工工程等においても凝集が起りにくく、結果として安定的な抗菌効果が発揮できる。
【0031】
さらに、本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いた繊維について、繊維の染色工程などで想定される酸性溶液への含浸においても、金属微粒子が保護剤を介して強固に熱可塑性樹脂と結合しているため、金属成分が溶出することなく、安定的な抗菌効果が保持できるポリ熱可塑性樹脂繊維を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明は、含窒素高分子で保護された金属微粒子を熱可塑性樹脂表面に担持されて抗菌性をなす熱可塑性樹脂組成物とその製造方法およびそれらを用いた成型物に関するものである。
【0033】
(1)熱可塑性樹脂について
熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂等の汎用樹脂材料、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキサイド、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンサルファイド等が挙げられ、これらの中でも、耐熱性、強靭性、成形性のバランスの観点から、ポリアミド樹脂、ABS樹脂、ポリエステル樹脂が好ましい。また、アミド結合を有したり、カルボン酸末端を有する樹脂も好ましい。さらに、容易にカルボン酸に変性される無水マレイン酸変性樹脂なども好ましい。
【0034】
ポリアミド樹脂は、主鎖中に酸アミド結合(−CONH−)を有するものであり、例えば、脂肪族ポリアミド樹脂、脂環族ポリアミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、及びそれらの組み合わせ又は組み合わせに相当する(共)重合体から選ばれる樹脂を少なくとも1種類含むポリアミド樹脂が挙げられる。ポリアミド樹脂を構成するモノマー単位は、1種類であっても2種類以上であってもよい。
【0035】
上記脂肪族ポリアミド樹脂、脂環族ポリアミド樹脂及び/又は芳香族ポリアミド樹脂としては、ラクタム、アミノカルボン酸、又はジアミンとジカルボン酸の組み合せから誘導されるポリアミド樹脂が挙げられる。
【0036】
これらのポリアミド樹脂の中でも、経済性、汎用性の観点から、脂肪族ポリアミド樹脂又は芳香族ポリアミド樹脂が好ましく、更に加工性、得られる物性バランスの観点から、脂肪族ポリアミド樹脂が特に好ましい。
尚、ポリアミド樹脂として、これらのポリアミドを、それぞれ単独で用いることもできるし、また、2種類以上を混合して用いることもできる。更に、2種類以上の組合せからなる共重合ポリアミドを用いることができる。
【0037】
上記脂肪族ポリアミド樹脂の中でも、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン612、ナイロン6/66、ナイロン6/11、ナイロン6/12、ナイロン6/66/12から選ばれる単独又は併用された脂肪族ポリアミドが好ましく、融点やコスト等の観点から、特に好ましくはナイロン6及びナイロン66であり、最も好ましくはナイロン6である。
【0038】
ABS樹脂とはアクリロニトリル− ブタジエン− スチレンの三成分を主体とした共重合体を主成分とするものをいい、例えばジエン系ゴムに芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体の一種類以上の単量体をブロックあるいはグラフト重合して得られた共重合体およびその共重合体とのブレンド物があげられる。ここで述べるジエン系ゴムとはポリブタジエン、ポリイソプレンやアクリロニトリル− ブタジエン共重合体、スチレン− ブタジエン共重合体等であり、芳香族ビニル単量体としてはスチレン、α − メチルスチレン、各種アルキル置換スチレン等があげられる。シアン化ビニル単量体としてはアクリロニトリル、メタアクリロニトリルおよび各種ハロゲン置換アクリロニトリル等があげられる。上述の共重合体およびその共重合体とのブレンド物の具体例としてはアクリロニトリル− ブタジエン− スチレン三元共重合体やアクリロニトリル− スチレン二元共重合体にポリブタジエンをポリマーアロイ化したものがあげられる。またゴム成分を含まないアクリロニトリル− スチレン二元共重合体についてもこの範囲に当てはまる。このなかでも融点やコスト等の観点から、特に好ましくはアクリロニトリル− ブタジエン− スチレン三元共重合体が用いられる。
【0039】
本発明におけるポリエステル樹脂は、(イ)ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体、(ロ)ヒドロキシカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体および(ハ)ラクトンからなる群より選択される一種以上の残基を主構造単位とする重合体または共重合体である。ここで、主構造単位とは、全構造単位中50モル%以上を占める構造単位を指す。
【0040】
上記ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0041】
上記ジオールまたはそのエステル形成性誘導体としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、ダイマージオールなどの炭素数2〜20の脂肪族グリコール、ポリエチレングリコール、ポリ−1,3−プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの分子量200〜100000の長鎖グリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールFなどの芳香族ジオキシ化合物およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0042】
ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘
導体を構造単位とする重合体または共重合体としては、例えば、ポリエチレンテレフタレ
ート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサ
ンジメチレンテレフタレート、ポリへキシレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレ
ート、ポリプロピレンイソフタレート、ポリブチレンイソフタレート、ポリシクロヘキサ
ンジメチレンイソフタレート、ポリへキシレンイソフタレート、ポリエチレンナフタレー
ト、ポリプロピレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンイソフタレ
ート/テレフタレート、ポリプロピレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレン
イソフタレート/テレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/ナフタレート、ポリプ
ロピレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート/ナフタレート、
ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレート、ポリエチレンテレフタレート
/シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/5−ナトリ
ウムスルホイソフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/5−ナトリウムスルホイソ
フタレート、ポリブチレンテレフタレート/5−ナトリウムスルホイソフタレート、ポリ
エチレンテレフタレート/ポリエチレングリコール、ポリプロピレンテレフタレート/ポ
リエチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/ポリエチレングリコール、ポリエ
チレンテレフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレンテレフタレート
/ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/ポリテトラメチレング
リコール、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート/ポリテトラメチレングリコー
ル、ポリプロピレンテレフタレート/イソフタレート/ポリテトラメチレングリコール、
ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリエ
チレンテレフタレート/サクシネート、ポリプロピレンテレフタレート/サクシネート、
ポリブチレンテレフタレート/サクシネート、ポリエチレンテレフタレート/アジペート
、ポリプロピレンテレフタレート/アジペート、ポリブチレンテレフタレート/アジペー
ト、ポリエチレンテレフタレート/セバケート、ポリプロピレンテレフタレート/セバケ
ート、ポリブチレンテレフタレート/セバケート、ポリエチレンテレフタレート/イソフ
タレート/アジペート、ポリプロピレンテレフタレート/イソフタレート/アジペート、
ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/サクシネート、ポリブチレンテレフタレ
ート/イソフタレート/アジペート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/セ
バケートなどの芳香族ポリエステル樹脂、ポリエチレンオキサレート、ポリプロピレンオ
キサレート、ポリブチレンオキサレート、ポリエチレンサクシネート、ポリプロピレンサ
クシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリプロピレンアジ
ペート、ポリブチレンアジペート、ポリネオペンチルグリコールアジペート、ポリエチレ
ンセバケート、ポリプロピレンセバケート、ポリブチレンセバケート、ポリエチレンサク
シネート/アジペート、ポリプロピレンサクシネート/アジペート、ポリブチレンサクシ
ネート/アジペートなどの脂肪族ポリエステル樹脂などが挙げられる。ここで、「/」は
共重合体を表す。
【0043】
また、上記ヒドロキシカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体としては、例えば、
グリコール酸、乳酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒ
ドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−
2−ナフトエ酸およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。これらを2種以
上用いてもよい。また、これらを構造単位とする重合体または共重合体としては、例えば
、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリグリコール酸/乳酸、ポリヒドロキシ酪酸/β−ヒ
ドロキシ酪酸/β−ヒドロキシ吉草酸などの脂肪族ポリエステル樹脂などが挙げられる。
【0044】
また、上記ラクトンとしては、例えば、カプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラ
クトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどが挙げられる。これらを
2種以上用いてもよい。また、これらを構造単位とする重合体または共重合体としては、
例えば、ポリカプロラクトン、ポリバレロラクトン、ポリプロピオラクトン、ポリカプロ
ラクトン/バレロラクトンなどが挙げられる。
【0045】
これらのポリエステル樹脂のなかでも、難燃性、強度などの機械特性、耐熱性または耐久性により優れる点で、特に好ましくはポリエチレンテレフタレートが用いられる。
【0046】
熱可塑性樹脂の粒径が100μm〜50mmの範囲が好ましく、さらに200μmから20mmがより好ましい。粒子径が100μm以下となると、比表面積が大きくなるため、粉体自体の凝集が強くなり更なる分散剤等が必要となり、好ましくない。また、粒子径が50mm以上では、金属化合物の担持効果が低くなるため、好ましくない。
【0047】
熱可塑性樹脂の形状は、特に限定はされないが、粉末状、ペレット状、チップ状、シート状、繊維状等が工業材料として入手しやすいため好ましい。
【0048】
(2)金属微粒子について
本発明における金属微粒子としては、抗菌性を発現すればどの金属微粒子でも用いることができ、銀、銅、金、白金等は抗菌性を発現することが知られているので好ましい。その中で、容易に化合物を入手しやすいこと、安価に入手しやすいこと、抗菌活性を得られやすい等の観点から銀微粒子を用いることが好ましい。
【0049】
本発明における金属微粒子は、一次粒子径が1nm〜1000nmの範囲にあってさらに2nm〜500nmが好ましい。さらに好ましくは、3nm〜100nmである。その形状は球状、不定形状、塊状、針状、棒状など特に制限されるものではないが、抗菌活性と成型物を得るためには粒子の一次粒子径、形状が揃っていることが好ましい。1000nmより大きい微粒子は、繊維化の際、細線化ができないため好ましくない。
【0050】
本発明における金属微粒子の含有量が、0.0005〜1質量%の範囲にあるのが好ましい。さらに、0.0008〜0.1質量%がより好ましい。0.0005質量%未満では、抗菌活性が得られないため好ましくない。1質量%よりも多い場合には、金属微粒子の凝集が発生する可能性があり、均一な粒子径と分散が得られないことから抗菌性が低下する可能性があり好ましくない。
【0051】
本発明における熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂の場合、金属微粒子を保護する材料として、含窒素高分子が望ましい。特に、分子構造に−NH2を持つものが特に望ましい。これは、ポリアミド樹脂の表面に存在するポリアミド末端のカルボン酸(−COOH)またはカルボニル基(>C=O)と親和性の高く、一部カルボン酸(−COOH)含窒素高分子の−NH2との間で、アミド結合が形成されていると考えられる。このことにより、金属微粒子を被覆した含窒素高分子はポリアミド樹脂表面で強く結合されるため、金属微粒子はポリアミド樹脂内に強く担持され、容易に脱離することがなくなると考えられる。
【0052】
本発明における熱可塑性樹脂は、上記含窒素高分子からなる保護剤との親和性の観点から、分子内にアミド結合を有したり、カルボン酸末端を有するものであれば、ポリアミドに限るものではない。例えば、ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸やペプチド結合を有するたんぱく質、無水マレイン酸変性樹脂例えば無水マレイン酸変性ポリプロピレン等が挙げられる。
【0053】
本発明における含窒素高分子の例として、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルピリジン、ポリビニルピリジン、ポリアニリン、ポリアニリン誘導体、ポリピロール、ポリピロール誘導体等が挙げられる。
【0054】
本発明における含窒素高分子がポリエチレンイミンの場合、重量分子量は200〜10、000が好ましい。さらに、金属微粒子の保護効果による担持量増加の観点から200〜1800がより好ましく、200〜1200が最も好ましい。ポリエチレンイミンの分子量が10,000より大きいと、金属微粒子の保護効果が劣り、担持量が低下するので好ましくない。また、分子量が200以上は、引火点等の観点から取り扱い上好ましい。
【0055】
本発明における熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂の場合、ポリアミド樹脂は、ポリアミド樹脂を分散させた溶液中で、含窒素高分子の共存下に金属種を含むイオンを還元することにより製造される。この方法によれば、還元により生成する金属微粒子が含窒素高分子に被覆された状態でポリアミド樹脂に担持されるので、含窒素高分子がポリアミド樹脂表面で強く結合されるため、金属微粒子はポリアミド粒子内に強く担持され、容易に脱離することがなくなると考えられる。これに対し、還元後の金属微粒子溶液に、ポリアミド樹脂を接触させる方法では、金属微粒子はポリアミドにほとんど担持されない。
【0056】
金属種を含むイオンとしては、金属塩化物、金属臭化物、金属硝酸塩、金属硫酸塩、金属酢酸塩、金属過塩素酸塩等が挙げられる。金属種の還元方法としては、ヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム等の無機還元剤を用いて常温または低温で還元する方法、ポリエチレンイミン、トリエチルアミン等のアミン類を用いて60〜100℃で還流することにより還元する方法、メタノール、エタノール等のアルコール中において60〜80℃で還流することにより還元する方法、アスコルビン酸、ホルムアルデヒド等の有機還元剤を用いて60〜80℃で還流することにより還元する方法、常温で紫外光を照射することにより還元する方法などが挙げられるがこれに限定されるものではない。
また、ポリエチレンイミンなどのように含窒素高分子自体が還元作用を有する場合には、他の還元剤を使用しなくてもよい。
【0057】
(3)熱可塑性樹脂組成物について
熱可塑性樹脂組成物の製造法としては、水または有機溶媒に溶解する金属化合物、及び金属化合物から生成される金属微粒子の保護剤を含む溶液に、熱可塑性樹脂を懸濁または浸漬し、保護剤を介して溶液中にて熱可塑性樹脂表面に金属微粒子を担持させることが出来る。
【0058】
本発明における熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を分散させた溶液中で、含窒素高分子の共存下に金属種を含むイオンを還元することにより製造される。この方法によれば、還元により生成する金属微粒子が含窒素高分子に被覆された状態で熱可塑性樹脂に担持されるので、含窒素高分子が熱可塑性樹脂表面で強く結合されるため、金属微粒子は熱可塑性樹脂内に強く担持され、容易に脱離することがなくなると考えられる。
【0059】
熱可塑性樹脂組成物の製造工程として、熱可塑性樹脂を分散させた溶液、含窒素高分子、金属種を含むイオンおよび還元剤は、イオンを還元する前にすべてを均一に混合することができれば、着色の度合いはそれらの添加順序には影響を及ぼさない。
【0060】
本発明においては、製造した熱可塑性樹脂組成物は、デカンテーション、ろ過あるいは遠心分離などの方法で固液分離させることができる。また、その後真空乾燥や恒温乾燥を用いて乾燥させることができる。
【0061】
熱可塑性樹脂組成物とは、ペレットや粒子を含むものであり、熱可塑性樹脂組成物を含有する成形物とは、ペレットや粒子等を用いて成形した射出成形品、押出成形品、フィルム、繊維等も含むものである。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また粒径、ICP、TEM、抗菌活性値などの測定は次のように行った。
【0063】
(平均粒径)
パウダーの平均粒子径及び粒子径分布は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて、測定した。体積平均粒子径(Dv)は下記数1で表される。
【0064】
【数1】
Xi;個々の粒子径
n;測定数
【0065】
1mmを超えるペレットの粒子径については、ノギス等で実測し、最も長いものを粒子径とした。
【0066】
熱可塑性樹脂化合物中の金属含有量の定量は、乾燥後の熱可塑性樹脂化合物試料5mgを硝酸にて湿式分解後、ICP発光分析法によって、熱可塑性樹脂化合物試料中の金属成分の発光強度から質量分率を求めた。
【0067】
熱可塑性樹脂化合物中の金属微粒子の存在は、熱可塑性樹脂化合物の色および断面のTEM写真によって確認した。
【0068】
熱可塑性樹脂化合物を用いてプレス化した成形シートの抗菌性の試験方法は、JIS規格Z2801(フィルム密着法)に準拠して測定し、試験菌株は大腸菌Escherichia coliNBRC3982を使用した。
【0069】
一方、モノフィラメント溶融紡糸装置を用いて作製した繊維の抗菌性(静菌および殺菌)の試験方法は、JIS規格L1902に準拠して測定し、試験菌株は大腸菌Escherichia coliNBRC3301を使用した。
【0070】
(実施例1)
ポリアミド6ペレット(平均粒径3mm:宇部興産(株)製1013B)20gを水80g中に分散させ、硝酸銀10重量%水溶液0.33g、ポリエチレンイミン(重量平均分子量1800)10重量%水溶液1.00gを添加し、100℃下で150分間撹拌混合した。ポリエチレンイミンで保護された銀ナノ微粒子が担持されたポリアミド6ペレット(抗菌性ポリアミド6ペレット)をろ過にて回収し、水で繰り返し洗浄した後、真空乾燥した。
得られた抗菌性ポリアミド6ペレットは、黄色に着色しており、銀の担持量は0.002質量%であった。本ペレットの断面を透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察したところ、ペレット表面に銀ナノ微粒子の存在を確認でき、その銀ナノ微粒子の平均粒子径は10nmであった。また、本ペレットをラボプラストミルで混練し、プレスにより成型シートを作製した。得られた成型シートのJIS規格Z2801に準拠した大腸菌に対する抗菌活性値は3.1であった。
【0071】
(実施例2)
ポリアミド6パウダー(平均粒径340μm:宇部興産(株)製1022P)20gを水80g中に分散させ、硝酸銀10重量%水溶液0.33g、ポリエチレンイミン(重量平均分子量1800)10重量%水溶液1.00gを添加し、100℃下で150分間撹拌混合した。ポリエチレンイミンで保護された銀ナノ微粒子が担持されたポリアミド6パウダー(抗菌性ポリアミド6パウダー)をろ過にて回収し、水で繰り返し洗浄した後、真空乾燥した。
得られた抗菌性ポリアミド6パウダーは、黄色に着色しており、銀の担持量は0.007質量%であった。本パウダーの断面を透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察したところ、パウダー表面に銀ナノ微粒子の存在を確認でき、その銀ナノ微粒子の平均粒子径は10nmであった。また、本パウダーをラボプラストミルでポリアミド6ペレットと1:7(質量比)で混練し、プレスにより成型シートを作製した。この結果、得られた成型シート中の銀の含有量は、0.00088質量%となっている。得られた成型シートのJIS規格Z2801に準拠した大腸菌に対する抗菌活性値は4.8であった。
【0072】
(比較例1)
ポリアミド6ペレット(平均粒径3mm:宇部興産(株)製1013B)20gを水80g中に分散させ、硝酸銀10重量%水溶液0.33g、ポリエチレンイミン(重量平均分子量1800)10重量%水溶液1.00gを添加し、100℃下で150分間撹拌混合した。ポリエチレンイミンで保護された銀ナノ微粒子が担持されたポリアミド6ペレット(抗菌性ポリアミド6ペレット)をろ過にて回収し、水で繰り返し洗浄した後、真空乾燥した。
得られた抗菌性ポリアミド6ペレットは、黄色に着色しており、銀の担持量は0.002質量%であった。本ペレットの断面を透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察したところ、ペレット表面に銀ナノ微粒子の存在を確認でき、その銀ナノ微粒子の平均粒子径は10nmであった。また、本ペレットをラボプラストミルでポリアミド6ペレットと1:4(質量比)で混練し、プレスにより成型シートを作製した。この結果、得られた成型シート中の銀の含有量は、0.00040質量%となっている。得られた成型シートのJIS規格Z2801に準拠した大腸菌に対する抗菌活性値は0.3であった。
【0073】
(比較例2)
ポリアミド6パウダー(平均粒径340μm:宇部興産(株)製1022P)20gを水80g中に分散させ、硝酸銀10重量%水溶液0.33g、ポリエチレンイミン(重量平均分子量1800)10重量%水溶液1.00gを添加し、100℃下で150分間撹拌混合した。ポリエチレンイミンで保護された銀ナノ微粒子が担持されたポリアミド6パウダー(抗菌性ポリアミド6パウダー)をろ過にて回収し、水で繰り返し洗浄した後、真空乾燥した。
得られた抗菌性ポリアミド6パウダーは、黄色に着色しており、銀の担持量は0.007質量%であった。本パウダーの断面を透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察したところ、パウダー表面に銀ナノ微粒子の存在を確認でき、その銀ナノ微粒子の平均粒子径は10nmであった。また、本ペレットをラボプラストミルでポリアミド6パウダーと1:19(質量比)で混練し、プレスにより成型シートを作製した。この結果、得られた成型シート中の銀の含有量は、0.00035質量%となっている。得られた成型シートのJIS規格Z2801に準拠した大腸菌に対する抗菌活性値は0.3であった。
【0074】
(実施例3)
ポリアミド12ペレット(平均粒径3mm;宇部興産(株)製3012U)20gを水80g中に分散させ、硝酸銀10重量%水溶液0.3g、ポリエチレンイミン(重量平均分子量600)10重量%水溶液0.2gを添加し、70℃下で120分間撹拌混合した。ポリエチレンイミンで保護された銀ナノ微粒子が担持されたポリアミド12ペレット(抗菌性ポリアミド12ペレット)をろ過にて回収し、水で繰り返し洗浄した後、真空乾燥した。
得られた抗菌性ポリアミド12ペレットは、黄色に着色しており、銀の担持量は0.008質量%であった。また、本ペレットをラボプラストミルで混練し、プレスにより成型シートを作製した。得られた成型シートのJIS規格Z2801に準拠した大腸菌に対する抗菌活性値は4.8であった。
【0075】
(実施例4)
アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合合成樹脂;ABS(平均粒径2mm;UMG−ABS社製EX120N)20gを水80g中に分散させ、硝酸銀10重量%水溶液0.6g、ポリエチレンイミン(重量平均分子量600)10重量%水溶液0.2gを添加し、70℃下で180分間撹拌混合した。ポリエチレンイミンで保護された銀ナノ微粒子が担持されたABSペレット(抗菌性ABS)をろ過にて回収し、水で繰り返し洗浄した後、真空乾燥した。
得られた抗菌性ABSは、黄色に着色しており、銀の担持量は0.012質量%であった。
【0076】
(実施例5)
ポリアクリロニトリルフレーク(平均粒径7mm;三井バレックス社製1000S)10gを水40g中に分散させ、硝酸銀10重量%水溶液0.18g、ポリエチレンイミン(重量平均分子量1800)10重量%水溶液0.52gを添加し、70℃下で180分間撹拌混合した。ポリエチレンイミンで保護された銀ナノ微粒子が担持されたポリアクリロニトリルパウダー(抗菌性ポリアクリロニトリルパウダー)をろ過にて回収し、水で繰り返し洗浄した後、真空乾燥した。
得られた抗菌性ポリアクリロニトリルパウダーは、黄色に着色しており、銀の担持量は0.090質量%であった。
【0077】
(実施例6)
ポリエチレンテレフタレートペレット(平均粒径2mm;帝人製TRN−8550FF)20gを水80g中に分散させ、硝酸銀10重量%水溶液0.63g、ポリエチレンイミン(重量平均分子量300)10重量%水溶液0.22gを添加し、70℃下で60分間撹拌混合した。ポリエチレンイミンで保護された銀ナノ微粒子が担持されたポリエチレンテレフタレートペレット(抗菌性ポリエチレンテレフタレートペレット)をろ過にて回収し、水で繰り返し洗浄した後、真空乾燥した。
得られた抗菌性ポリエチレンテレフタレートペレットは、黄色に着色しており、銀の担持量は0.010質量%であった。
【0078】
(比較例3)
銀イオン含有無機系抗菌剤含有ポリアミド6マスターバッチ(富士ケミカル製バクテキラーMB(NY−10KB(KAI))とポリアミド6ペレット(平均粒径3mm:宇部興産(株)製1013B)を1:19(質量比)にてラボブラストミルで混練し、無機抗菌剤含有ポリアミド6の樹脂組成物を得た。得られた樹脂は白色であり、樹脂組成物中の銀の含有量は、0.002質量%であった。得られた樹脂組成物をプレスにより成型シートを作製した。得られた成型シートのJIS規格Z2801に準拠した大腸菌に対する抗菌活性値は0であった。
【0079】
(実施例7)
ポリアミド6ペレット(平均粒径3mm:宇部興産(株)製1013B)2000gを水6000g中に分散させ、硝酸銀10重量%水溶液33g、ポリエチレンイミン(重量平均分子量1800)10重量%水溶液100gを添加し、95℃下で150分間撹拌混合した。ポリエチレンイミンで保護された銀ナノ微粒子が担持されたポリアミド6ペレット(抗菌性ポリアミド6ペレット)をろ過にて回収し、水で繰り返し洗浄した後、真空乾燥した。
得られた抗菌性ポリアミド6ペレットは、黄色に着色しており、銀の担持量は0.006質量%であった。
このようにして得た銀担持ポリアミド6ペレットをモノフィラメント溶融紡糸装置を用いて繊維形状に成型加工した。繊維径を光学顕微鏡で測定したところ、180μmであった。得られた銀担持ポリアミド6繊維のJIS規格L1902に準拠した大腸菌に対する静菌活性値、および殺菌活性値は6.1以上、および3.1以上であり、十分な抗菌性を有していることが確認された。
【0080】
(比較例4)
ポリアミド6ペレット(平均粒径3mm:宇部興産(株)製1013B)を用い、実施例9と同様の条件で銀を含有しないポリアミド6繊維を作製した。繊維径を光学顕微鏡で測定したところ、181μmであった。得られたポリアミド6繊維のJIS規格L1902に準拠した大腸菌に対する静菌活性値、および殺菌活性値は0.2、および−2.7であり、抗菌活性を示さなかった。
【0081】
(実施例8)
ポリアミド6ペレット(平均粒径3mm:宇部興産(株)製1013B)200gを水800g中に分散させ、硝酸銀10重量%水溶液3.3g、ポリエチレンイミン(重量平均分子量600)10重量%水溶液10.0gを添加し、100℃下で150分間撹拌混合した。ポリエチレンイミンで保護された銀ナノ微粒子が担持されたポリアミド6ペレット(抗菌性ポリアミド6ペレット)をろ過にて回収し、水で繰り返し洗浄した後、真空乾燥した。
得られた抗菌性ポリアミド6ペレットは、黄色に着色しており、銀の担持量は0.025質量%であった。本ペレットの断面を透過型電子顕微鏡(TEM)にて観察したところ、ペレット表面に銀ナノ微粒子の存在を確認でき、その銀ナノ微粒子の平均粒子径は10nmであった。また、本ペレットをラボプラストミルで混練し、プレスにより成型シートを作製した。得られた成型シートのJIS規格Z2801に準拠した大腸菌に対する抗菌活性値は5.1であった。
【0082】
(実施例9)
実施例8で得られた抗菌性ポリアミド6ペレットをラボプラストミルでポリアミド6ペレットと約1:1.6(質量比)で混練し、プレスにより成型シートを作製した。この結果、得られた成型シート中の銀の含有量は、0.0095質量%となっている。得られた成型シートのJIS規格Z2801に準拠した大腸菌に対する抗菌活性値は5.1であった。このサンプルをpH=3.9の酢酸水溶液に含浸し、100℃で30分間および60分加熱した。このような処理を施したのちの成型シートのJIS規格Z2801に準拠した大腸菌に対する抗菌活性値は30分で4.5、60分で5.0となり、酸性溶液中に含浸させても十分な抗菌性を保持していることを確認した。
【0083】
(実施例10)
実施例7で得られた抗菌性ポリアミド繊維を界面活性剤と炭酸ナトリウム溶液で洗浄後、赤色染料(Kayanol Milling Red-BW:日本化薬製)0.5質量%(対繊維)、酢酸アンモニウム1質量%および酢酸3質量%からなる水溶液(PH=4.0)中に繊維を含浸させ、100℃で30分間染色した。後洗浄後、ポリアミド繊維は赤色を呈した。染色後のポリアミド繊維のJIS規格L1902に準拠した大腸菌に対する静菌活性値、および殺菌活性値は5.7以上、および3.1以上であり、染色後も十分な抗菌性を保持していることが確認された。
【0084】
(比較例5)
比較例3と同様の方法にて、銀の担持量が0.0090質量%となるように作成した成型シートのJIS規格Z2801に準拠した大腸菌に対する抗菌活性値は4.7であった。このサンプルをpH=3.9の酢酸水溶液に含浸し、100℃で30分間および60分加熱した。このような処理を施したのちの成型シートのJIS規格Z2801に準拠した大腸菌に対する抗菌活性値は0であり、抗菌性がないことを確認した。実施例9と比較して、酸性溶液への含浸によって多くの銀が溶出してしまった結果、抗菌性が消失したと考えられる。