(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、金属製品において、溶接ビードのような突起物を切削するに際し、NC旋盤やマシニングセンタ等の工作機械を用いて切削を行うことが多い。このような工作機械を用いる場合に、工具の回転速度や切込み深さ、送り速度等のパラメータを設定する必要がある。一般には、これらのパラメータは、作業者が被加工物を目視で観察することで見積もった切削すべき突起物の突出量や、金属製品を構成する金属材料の種類等を勘案して、作業者が決定する。
【0006】
しかし、このように、切削時のパラメータを作業者が決定する場合には、切削作業に要する労力が大きくなる。また、適切にパラメータを決定するためには、作業者の熟練を要するため、特に作業者の経験が浅い場合等に、過不足なく突起物の切削を行うことができるパラメータを適切に選択できるとは限らない。また、同種の製品を多数製造する場合に、突起物の突出量や面積が製品個体ごとに一定であるとは限らず、製品の全体形状にもばらつきが存在するため、個体間で同じパラメータを適用して切削を行っても、同じ仕上がりが得られるとは限らない。個体ごとの突起物の形状に応じて、パラメータを適切に設定し、適用することが望まれる。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、溶接ビードのような突起物を切削する切削装置において、突起物の形状に応じた切削条件を適用することができる切削装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明にかかる切削装置は、切削工具を備え、被加工物の表面に形成された突起物を切削する加工部と、前記突起物の突出量および面積を含む形状を光学測定によって計測する計測部と、前記計測部によって計測された前記突起物の形状をもとに、前記加工部における切削条件を設定する制御部と、を有することを要旨とする。
【0009】
また、前記加工部は、ロボットアームを備え、前記ロボットアームには、前記切削工具と、前記切削工具を駆動する工具駆動源とが取り付けられ、前記制御部は、前記計測部の計測結果に基づいて、前記工具駆動源の駆動条件と前記ロボットアームの運動条件を設定することが好ましい。この場合、前記計測部は、前記ロボットアームに取り付けられているとよい。さらに、前記切削装置は、前記ロボットアームを複数備え、該複数のロボットアームのそれぞれに、前記切削工具と前記工具駆動源とが取り付けられ、該複数のロボットアームの1つに前記計測部が取り付けられ、前記制御部は、該1つの計測部の計測結果に基づいて、全工具駆動源の駆動条件と全ロボットアームの運動条件を設定するものであるとよい。また、前記制御部は、前記切削工具による切削中に、前記工具駆動源の負荷と、前記ロボットアームの運動を駆動するロボット駆動源の負荷との少なくとも一方より選択される被監視負荷を監視し、前記被監視負荷が閾値に達すると、前記工具駆動源および前記ロボット駆動源の少なくとも一方の駆動条件を変更し、前記被監視負荷が前記閾値を超えないように制御することが好ましい。
【0010】
また、前記計測部は、光切断法によって計測を行うことが好ましい。そして、前記計測部は、前記加工部によって前記突起物の切削を行った後にも、前記被加工物の表面の計測を行い、前記制御部は、該計測の結果に基づいて、前記被加工物の表面が所定の平滑度に達しているかどうかを判定することが好ましい。この場合に、前記被加工物の表面が、前記所定の平滑度に達していない場合には、再度切削を行うものであるとよい。そして、前記加工部は、前記切削工具を含む複数種の工具を交換可能に備え、前記制御部は、前記被加工物の材質、前記突起物の形状、前記被加工物の表面の平滑度、目標とされる平滑度から選択される少なくとも1つのパラメータに応じて、前記複数種の工具のうちの少なくとも1つを選択して加工を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
上記発明にかかる切削装置においては、計測部によって突起物の形状を実際に測定したうえで、その計測結果に基づいて、制御部が切削装置の切削条件を設定する。これにより、突起物の実際の形状に応じて、切削条件を自動的に選択することができる。作業者が切削条件を逐一設定する必要もない。また、突起物の形状に応じて、適切な切削条件を設定することで、加工部の振動や切削工具の損傷等の不具合を回避しながら、高速回転等の種々の条件で切削工具を使用し、多様な切削の形態を提供することができる。
【0012】
さらに、計測部が、被加工物全体の表面形状を計測し、突起物の形状に加え、被加工物全体における突起物の位置を計測する場合には、作業者が、被加工物全体において切削を行う位置を指定しなくても、高精度に突起物を切削することができる。
【0013】
また、加工部が、ロボットアームを備え、ロボットアームに、切削工具と、切削工具を駆動する工具駆動源とが取り付けられ、制御部が、計測部の計測結果に基づいて、工具駆動源の駆動条件とロボットアームの運動条件を設定する場合には、加工部を簡素な構成としながら、大型の被加工物であっても、突起物の切削を行うことが可能となる。
【0014】
この場合、計測部が、ロボットアームに取り付けられていれば、少なくともロボットアームの可動範囲において、計測部が被加工物の表面形状の測定を行うことができるので、被加工物が大型であっても、その表面の広い領域にわたり、突起物の形状を計測し、それに応じた切削条件の設定を行うことができる。
【0015】
さらに、切削装置が、ロボットアームを複数備え、該複数のロボットアームのそれぞれに、切削工具と工具駆動源とが取り付けられ、該複数のロボットアームの1つに計測部が取り付けられ、制御部が、その1つの計測部の計測結果に基づいて、全工具駆動源の駆動条件と全ロボットアームの運動条件を設定するものである構成によれば、複数のロボットアームを用いることで、切削を短時間で行うことや、1台のロボットアームでは切削を行うことが困難な大型の被加工物の切削を行うことが、可能となる。この際、計測部は1つのみとし、その計測結果に基づいて全ロボットアームおよび工具駆動源を制御することで、切削装置全体の構成を簡素なものとすることができる。
【0016】
また、制御部が、切削工具による切削中に、工具駆動源の負荷と、ロボットアームの運動を駆動するロボット駆動源の負荷との少なくとも一方より選択される被監視負荷を監視し、被監視負荷が閾値に達すると、工具駆動源およびロボット駆動源の少なくとも一方の駆動条件を変更し、被監視負荷が閾値を超えないように制御する場合には、過剰な負荷による工具駆動源やロボット駆動源への影響を回避しながら、安定して突起物の切削を行うことができる。
【0017】
また、計測部が、光切断法によって計測を行う場合には、突起物を有する被加工物の表面の形状を、簡便に、精度よく計測することができる。
【0018】
そして、計測部が、加工部によって突起物の切削を行った後にも、被加工物の表面の計測を行い、制御部が、該計測の結果に基づいて、被加工物の表面が所定の平滑度に達しているかどうかを判定する場合には、切削を行う前の突起物の形状の認識と、切削後の被加工物の表面の状態の検査の両方を、同一の計測部を用いて行うことができる。
【0019】
この場合に、被加工物の表面が、所定の平滑度に達していない場合に、再度切削を行うものであれば、平滑度を確認するために行った計測の結果を利用して、残存する突起物の形状を認識したうえで、再度の切削を行うことができる。この工程を繰り返すことで、所望の平滑度が得られるまで、突起物の切削を繰り返すことができる。
【0020】
そして、加工部が、切削工具を含む複数種の切削工具を交換可能に備え、制御部が、被加工物の材質、突起物の形状、被加工物の表面の平滑度、目標とされる平滑度から選択される少なくとも1つのパラメータに応じて、複数種の工具のうちの少なくとも1つを選択して加工を行う場合には、多様な被加工物、突起物に対して、同一の切削装置を用いて、切削を含む機械加工を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態にかかる切削装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
[切削装置の構造]
図1に、本発明の一実施形態にかかる切削装置1の概略を示す。本切削装置1は、固定台3に据え付けられた被加工物7の表面の切削を行うものである。
【0024】
切削装置1は、2台のロボットアーム10a,10bを有している。ロボットアーム10a,10bはそれぞれ、6軸を有し、それぞれの軸が、ロボット駆動源としてのサーボモータ(11等)によって駆動される。ロボットアーム10a,10bは、ティーチングによって運動(位置および姿勢の変化)に関する指令を記憶し、その指令を順次呼び出すことで、所定の運動を順次行うことができる。
【0025】
2台のロボットアーム10a,10bの先端には、それぞれ、工具駆動源としてのスピンドルモータ12が取り付けられ、それぞれのスピンドルモータ12の出力軸に、例えばフェースミルカッター等の切削工具13が結合されている。2台のロボットアーム10a,10bは、第一のロボットアーム10aが被加工物7の右半分の領域を切削し、第二のロボットアーム10bが被加工物7の左半分の領域を切削するというように、それぞれの可動範囲に応じて、被加工物7の異なる領域を切削し、協働して被加工物7の全領域を切削することができる。また、各ロボットアーム10a,10bは、複数種の切削工具13を備えていてもよく、さらにグラインダや研磨ディスクをはじめとする研磨工具等、別の種類の工具を備えていてもよい。その場合には、自動工具交換装置(ATC)を備え、それらの間で1つを選択して使用するようにすればよい。
【0026】
さらに、2台のロボットアーム10a,10bのうち、第一のロボットアーム10aには、先端部に、スピンドルモータ12と隣接させて、形状計測装置14が取り付けられている。形状計測装置14は、光学測定によって、表面の各部位の高さをマッピングすることで、金属表面の形状を計測する装置である。形状計測装置14としては、例えば、被加工物7の表面にライン状のレーザー光を出射し、光切断方式によって2次元面上で距離測定を行う計測装置を例示することができる。
【0027】
切削装置1には、さらに、コンピュータ等よりなる制御部(不図示)が設けられている。制御部は、形状計測装置14を制御して、被加工物7の表面の形状を計測させるとともに、計測データを処理し、その計測データに基づいて、2台のロボットアーム10a,10bの各サーボモータ11、および各スピンドルモータ12の駆動を制御する。これにより、制御部は、計測された被加工物7の表面形状に基づいて、ロボットアーム10a,10bの運動と、切削工具13の回転を制御する。
【0028】
[被加工物]
本実施形態にかかる切削装置1を用いて切削加工を施される被加工物7は、溶接ビード、バリ、材料の歪み等、除去されるべき突起物74を表面に有する主に金属製の部材であれば、どのようなものであってもかまわない。
【0029】
ここでは、被加工物7の例として、アクスルハウジング5を扱う。アクスルハウジング5は、トラック等の大型車両の後車軸部等に用いられ、車軸およびディファレンシャルギア等を収容する。
図2に示すように、アクスルハウジング5は、胴部51と筒状部52を本体部としてなっており、胴部51は、鋼板が半筒形(断面略U字形又は断面略コの字形)に曲げられ、略円環状に膨出形成されたものであり、ディファレンシャルギアを収容する。そして、胴部51の両端部に、車軸が挿通される中空の筒状部52が形成されている。胴部51と筒状部52の間に形成されている空隙部には、略三角形の三角板53が取り付けられている。アクスルハウジング5の本体部は、2つの分割部材から製造される。つまり、胴部51の円環形状および筒状部52の筒形状を半分に分割した分割部材を2つ製造し、それらの端縁を突き合せて溶接することで、本体部が形成される。その後、胴部51と筒状部52の間の部位に、三角板53が配置され、本体部と三角板53の間の部位が溶接される。
【0030】
このように形成されたアクスルハウジング5には、2つの分割部材の接合部および本体部と三角板53の間の部位に、溶接ビード54が略Y字状に形成されている。これらの溶接ビード54は、後の工程で本体部に取り付けられる部材との干渉を防止する等の観点から、できる限り平坦に除去することが望まれる。そこで、上記実施形態にかかる切削装置1を用いて、これらの溶接ビード54を切削する。
【0031】
切削装置1において切削を行うに際し、被加工物7は、切削工具13の運動に伴って振動しないように、保持具によって、固定台3の上に保持される。被加工物7がアクスルハウジング5である場合について、
図1に示した例では、保持具は、2つの端部保持具31a,31aと、4つの中途保持具(31b,31bおよび胴部51の中心に対しそれらと対称に配置された
図1では表示されない2か所)によって、固定台3に保持されている。端部保持具31aがアクスルハウジング5を上方に押し上げる一方、中途保持具31bがアクスルハウジング5を下方に向かって固定台3に押し付けており、アクスルハウジング5は、上下に撓ませられた状態で保持されている。撓みによって印加される外力と反力が釣り合うことで、アクスルハウジング5が強固に固定台3上で保持され、振動を受けにくくなっている。
【0032】
[切削装置の運転]
上記のような構成を有する切削装置1は、以下で説明するように運転され、アクスルハウジング5等の被加工物7において、溶接ビード54等、表面の突起物74の形状の計測と切削を行う。
【0033】
(1)各工程の概要
図3に、本切削装置1における制御様式を表したフロー図を示す。まず、ステップS0〜S3において、切削加工の準備を行う。つまり、ステップS0の工番設定工程において、作業者が制御部に被加工物7の種類、材質等、被加工物7に関する情報(品種等)の入力を行う。そして、ステップS1において、被加工物7(ワーク)を固定台3に据え付ける。また、切削工具13等に適切な工具を取り付ける。この際、切削加工だけではなく、研磨加工を行う可能性がある場合には、自動工具交換装置を利用して、研磨工具に取り替えられるようにする。それとともに、ステップS2において、制御部が、切削加工のタイプを設定する。つまり、ステップS0の工番設定で品種を設定した被加工物7の形状によって、切削タイプ別のプログラムを判断し、ベースプログラムとして設定する。そして、ステップS3において、切削プログラムの自動計算を行う。つまり、ステップS2で設定したベースプログラムを用いて、ステップS0で工番設定した品種の形状データベースから得られる各部位の寸法(数値)から、実際にロボットアーム10a,10bが移動する座標を自動計算させる。これによって、切削プログラムおよび計測プログラムを自動的に作成する。
【0034】
次に、ステップS4において、突起物74の形状の計測を行う。つまり、制御部が形状計測装置14とロボットアーム10a,10bのサーボモータ11を制御し、ロボットアーム10a,10bの運動を利用して被加工物7の表面全体にレーザー光をスキャンしながら、被加工物7の表面形状を計測させる。これにより、突起物74の形状と位置が検知される。計測方法の詳細については、後述する。
【0035】
そして、ステップS5において、制御部は、計測された突起物74の位置と形状に応じて、切削条件、つまり、ロボットアーム10a,10bのサーボモータ11およびスピンドルモータ12を駆動制御するためのパラメータを、自動的に計算する。具体的には、被加工物7の表面上において、検出された突起物74が存在する位置に切削工具13が配置されるように、ロボットアーム10a,10bの位置を指定するとともに、それぞれの位置において突起物74を削るのにふさわしい切削工具13の回転速度、送り速度(切削方向へ切削工具13を移動させる速度)、切込み深さ(切削工具13を被加工物7に接触させる深さ)の各切削条件を、ステップS3で呼び出したテーブルまたは関係式に基づいて算出する。さらに、それらの切削条件を実現するために必要なサーボモータ11、スピンドルモータ12の駆動条件を算出する。つまり、設定された切削工具13の回転速度そのものが、スピンドルモータ12の回転速度とされ、設定された送り速度および切込み深さを与えるように、ロボットアーム10a,10bの位置、運動速度、そして運動方向が定められる。なお、ここで、突起物74を切削する位置は、±3mm以内の誤差範囲に収まるように定められる。また、スピンドルモータ12の出力は、定格の100%以内となる範囲内で定められる。さらに、各種切削条件は、後述するように、事前の試験によって定めておいた、切削工具13の損傷や被加工物7およびロボットアーム10a,10bの振動(びびり振動)を回避しながら切削加工を行うことができる範囲内で規定される。
【0036】
切削条件の計算が済むと、ステップS6において、切削の可否を判断する。これは、制御部が、異物の侵入があるかどうかや、被加工物7の据え付けが正しく行われているかどうか等、異常の有無を判断する工程である。異常が発見されず、切削の開始が可能であると判断すると(ステップS6でOK)、制御部は、ステップS10において、ステップS5で既に算出されている各切削条件に従ってサーボモータ11やスピンドルモータ12が実際に動作できるように、切削装置1の構成部材に対して各種設定を行う。これには例えば、ロボットアーム10a,10bへのティーチングが含まれる。
【0037】
一方、ステップS6で異常を発見し、切削を開始することが不可であると判断すると(ステップS6でNG)、制御部は、ステップS7において、切削装置1の各設備を一時停止し、警告表示等で作業者に異常の確認を促す。これにより、ステップS8で作業者が目視等で異常の有無を確認する。この際、被加工物7を入れ替えなければならないほどの異常が発見されれば(ステップS8でNG)、ステップS9で、作業者が被加工物7の入れ替えを行い、ステップS1に回帰する。ステップS8で、作業者が異常がないと判断した場合や、軽微な異常を発見してその異常を修復した場合には(ステップS8でOK)、作業者は制御部を操作し、ステップS10の切削条件の自動設定を開始させる。
【0038】
ステップS10で切削条件が設定されると、ステップS11で、その切削条件に従って切削が開始される。すなわち、ロボットアーム10a,10bによって、被加工物7の表面において突起物74が存在している位置に切削工具13が配置され、その位置における突起物74の形状に応じた回転速度と送り速度、切込み深さを与えるように、スピンドルモータ12が回転し、ロボットアーム10a,10bが運動する。
【0039】
このようにして切削が進行している間、ステップS12において、切削状況の監視が行われる。つまり、制御部は、スピンドルモータ12と各サーボモータ11の負荷として、これらに流れる電流値を測定し、それぞれ、過負荷状態となる臨界値としてあらかじめ定めておいた閾値を超えないかどうかを監視する。もし、これらの負荷が閾値を超えることがなければ(ステップS12でOK)、そのまま切削が継続され、ステップS5で設定された全領域の切削が終了すると、ステップS13で切削が完了される。
【0040】
一方、ステップS12で、監視しているスピンドルモータ12および各サーボモータ11のいずれか少なくとも一方の負荷が、閾値を超えると(ステップS12でNG)、ステップS19で、フィードバック制御が行われる。このフィードバック制御の詳細については後述するが、スピンドルモータ12および各サーボモータ11の負荷が閾値以下の値となるように、切削工具13の回転数、送り速度、切込み速度の少なくとも1つを変更する制御を行う。もしこのようなフィードバック制御を行っても、過負荷状態を解消できなければ(ステップS19でNG)、ステップS7に回帰し、切削装置1の各部の運転を一時的に停止したうえで、被加工物7や切削工具13の状態が適当であったかを作業者が確認し、適宜交換等を行う。
【0041】
一方、ステップS19でフィードバック制御を正常に行うことができ、スピンドルモータ12とサーボモータ11の過負荷状態を解消することができる場合には(ステップS19でOK)、フィードバック制御を行いながら、切削が進行される。そして、ステップS13で切削が完了される。
【0042】
以上のように、フィードバック制御を経て、あるいはフィードバック制御を経ずに、ステップS13で切削が完了されると、ステップS14で、切削モードから検査モードへ移行され、切削を経た被加工物7の検査が行われる。すなわち、制御部は、形状計測装置14を制御し、ステップS4における切削前の形状計測と同様に、被加工物7の表面全体にレーザー光をスキャンし、被加工物7の表面の形状を計測させる。そして、切削工程において切削した突起物74、あるいは突起物74が存在していた部位について、被加工物7本体の表面からの突出量が基準値Cr(例えば0.5mm)以上となっていれば(ステップS15で、≧Cr)、突起物74の切削が不十分であると判断し、ステップS11に戻って、再度切削が行われる。このようにして、突起物74の突出量が基準値Cr未満となるまで、ステップS11の切削工程と、ステップS15の検査工程とを含むサイクルが繰り返される。ステップS15の検査工程において、突起物74の突出量が基準値Cr未満となっていれば(ステップS15で、<Cr)、切削が十分であると判断され、ステップS16に移る。
【0043】
ステップS16においては、研磨加工を行うかどうかを選択する。例えば、被加工物7がアクスルハウジング5である場合、筒状部52に対して研磨加工が行われる場合がある。ステップS16では、作業者が制御部を操作して研磨加工を行うかどうかを選択してもよいし、ステップS0およびS2で設定した被加工物7および加工のタイプに基づいて、制御部が自動的に判断を行ってもよい。研磨加工を行わない場合には(ステップS16でNo)、ステップS20で被加工物7の加工を完了する。一方、研磨加工を行う場合には(ステップS16でYes)、ステップS17で、自動工具交換装置を用いて、使用する工具を切削工具13から研磨工具に交換する。そして、ステップS18で研磨を行い、ステップS20で被加工物7の加工を完了する。
【0044】
以上、本実施形態にかかる切削装置1を用いた制御と加工の順序について説明した。以下に、それらの中で主要な工程の詳細について、説明を行う。
【0045】
(2)突起物の形状計測
図3のステップS4およびS15において、形状計測装置14を用いて、被加工物7の表面の形状計測を行い、突起物74の形状を検出する。既述のように、形状計測装置14は、光学測定によって、被加工物7の表面の形状を検出するものであり、例えば、光切断法を原理として用いる。この場合、形状計測装置14から、被加工物7の表面に略垂直に、ライン状のレーザー光を照射する。そして、被加工物7の表面で反射されたレーザー光を、形状計測装置14に設けた撮像装置で検出し、公知の光切断法における画像処理法を適用することで、レーザー光が照射されたライン上の各点について、形状計測装置14からの距離を検出することができる。第一のロボットアーム10aをレーザー光のラインと直交する方向にスキャンしながら測定を行うことで、被加工物7の表面全体の凹凸形状をマッピングすることができる。これにより、溶接ビード54等、被加工物7の表面に形成された突起物74の形状を知ることができる。さらに、被加工物7の端縁(アクスルハウジング5の場合は、筒状部52の端面52a)等の位置を検出し、その位置を基準とすることで、被加工物7全体において突起物74が形成されている位置を明らかにすることもできる。被加工物7がアクスルハウジング5である場合に、2つの分割部材が突き合わされて溶接された筒状部52上の溶接ビード54に略直交するように、レーザー光のラインが照射され、筒状部52の軸に沿ってスキャンされる。
【0046】
このように、光学計測を用いて、突起物74の三次元的形状を知ることができる。例えば突起物74が溶接ビード54である場合、切削条件の決定に際して大きな影響を与えるパラメータとして、以下の各パラメータに特に注目して、溶接ビード54の形状を認識すればよい。
【0047】
図2(b)に、溶接ビード54が形成されたアクスルハウジング5の筒状部52について、レーザー光のラインに沿った断面を模式的に示す。まず、溶接ビード54の突出量を見積もる基準面として、溶接ビード54が形成されていない筒状部52(または胴部51)の表面の高さ、つまり形状計測装置14からの距離を求める。具体的には、溶接ビード54の両脇の部位において筒状部52の高さL1,L3を求め、高い(形状計測装置14までの距離が短い)方の値を、母材の高さとして抽出する。なお、実際には、レーザー光をスキャンすることで、三次元的に距離の計測を行っているので、溶接ビード54を囲むよう測定した複数の点の高さのうち、最も高いものを母材の高さとして抽出する。次に、溶接ビード54の頂部54aの高さL2を求める。さらに、例えば筒状部52の一方の端面52a等、基準点の位置を定めたうえで、その基準点に対する溶接ビード54の頂部54aの位置X1を求める。加えて、溶接面積S、つまり溶接ビード54の面積Sを見積もる。これは、筒状部52の表面から突出している溶接ビード54の領域が、筒状部52の表面に占める面積として見積もる。これらのパラメータを求めることで、この断面の位置においては、位置X1を中心として、面積Sの範囲にわたり、高さL2の点から、突出量H(=L1−L2またはL3−L2)だけ、溶接ビード54を切削すればよいことになる。
【0048】
1か所の断面における突起物74の形状の測定と、切削量の見積もりは、上記のようにして行うことができるが、溶接ビード54をはじめとする突起物74の形状は、溶接条件等、突起物74が形成される際の条件のばらつきや、被加工物7の母材をプレス成形等によって加工する際のスプリングバック等、材料応力に起因する母材自体の歪みによって、位置ごとに異なる。そこで、形状計測装置14によるレーザー光の照射位置を被加工物7の表面でスキャンすることで、照射位置ごとに上記L1〜L3、X1、Sのような突起物74の形状および位置を特定するためのパラメータを求め、切削すべき位置と量を見積もる。
【0049】
具体例として、
図4のようなアクスルハウジング5の溶接ビード54の形状を計測する場合を示す。まず、
図4のP1〜P6のように、形状計測を行うべき計測点を設定する。そして、
図5(a)のように、歪みのない理想的な平面を有する母材と、ばらつきのない溶接条件で一定の高さに形成された溶接ビード54を有する設計値を想定し、その表面から所定の基準高さ(例えば100mm)の高さにある仮想線をセンシング軌跡として設定する。さらに、そのセンシング軌跡を、第一のロボット10aにティーチングにより記憶させる。
【0050】
次に、
図5(b)に示すように、形状計測装置14を用いて、例えば計測点P2と計測点P3の中点のように、基準点Psを設定、検出する。そして、この基準点Psの高さが基準高さ(100mm)となるように、第一のロボットアーム10aにより、形状計測装置14を配置する。
【0051】
そして、上記で記憶させたセンシング軌跡に沿って、第一のロボットアーム10aを運動させ、レーザー光をスキャンしながら、各計測点P1〜P6の高さを実際に計測する。
図5(c)に、計測結果の一例を示す(
図4のA−A断面)。計測点P1で99.4mm、計測点P2で99.8mm、計測点P3で100.8mm、…というように、各点における計測結果は、設計どおりにアクスルハウジング5の製造、溶接が行われている場合の値である100mmからずれている。
【0052】
さらに、
図5(d)のように、各計測点P1〜P6について、基準点Psに対する高さのずれを算出する。上記の例では、計測点P1で−0.6mm、計測点P2で−0.2mm、計測点P3で+0.8mm、…となる。そして、基準点Psにおいて溶接ビード54を切削する量を設定したうえで、各点P1〜P6において、
図5(d)に示した高さのずれの分だけ、切削工具13の刃先の高さを変更しながら、切削を行えばよいことになる。つまり、計測点P1、P2,P3の位置を切削する際には、基準点Psを切削する時に比べ、切削工具13の刃を、それぞれ、0.6mm上方、0.2mm上方、0.8mm下方に移動させて切削を行えばよいことになる。なお、計測点と計測点の間の領域においては、線形補間等を用い、高さのずれを適宜算出すればよい。
【0053】
(3)切削条件の選択
上記のように、被加工物7上の各点において切削すべき突起物74の量を見積もった後、
図3のステップS5において、そのような切削を適切に実現できるように、切削工具13の種類(材質、カッタ刃径、カッタ刃数等)に加え、切削工具13の回転速度、送り速度、切込み深さ等の切削条件を定める必要がある。これは、例えば、切削を想定している突起物74と同種の材料を用いて、種々の突出量Hおよび溶接面積Sを有するモデル突起物を形成し、様々な切削条件で切削を行い、適切に切削を行うことができる切削条件を探索することによって行えばよい。そして突起物74の突出量Hおよび溶接面積Sと、得られた適切な切削条件との関係をテーブルまたは関係式として、制御部に記憶させておけばよい。ここで、適切に切削を行うことができるとは、切削工具13の損傷や切削中のロボットアーム10a,10bの振動等、切削の進行を妨げる現象を避けながら、突起物74を所望の平滑度が得られるまで問題なく切削することができる状態を指す。
【0054】
ある突出量Hと溶接面積Sを有する突起物74を問題なく切削することができる切削条件にはある程度の幅があると考えられるが、その限界は、主に切削工具13の損傷とロボットアーム10a,10bの振動によって規定される。例えば、切削工具13の損傷は、切削時の切削抵抗Rが大きいほど起こりやすい。切削抵抗Rは、切削する物質に固有の比切削抵抗をKs、切削断面積(単位時間あたりに切削される面積)をAとして、
R=Ks×A (式1)
と表される。ここで、切削工具13の刃数、切込み深さ、送り速度を一定とすると、切削工具13の1刃あたりの送り速度は、切削工具13の回転数に反比例し、その結果、切削断面積Aも切削工具13の回転数に反比例する。よって、1刃あたりの送り速度に対する比切削抵抗Ksの若干の依存性はあるものの、切削工具13の回転数を上げるほど、切削抵抗Rが小さくなるという傾向が見られる。
【0055】
図6に、フェースミルカッターの回転速度および送り速度を変化させながら、高張力鋼(55kgf/mm
2ハイテン鋼)をガスシールドアーク溶接用ソリッドワイヤ(JIS YGW11)で溶接して形成した溶接ビード54を切削した際の、切削の可否についての評価結果を示す。ここでは、横軸をカッターの回転速度とし、縦軸を1刃あたりの送り速度(=送り速度/(回転速度×刃数))として、良好に切削を行うことができた場合を○、ロボットアーム10a,10bの振動が大きくて切削が行えなかった場合を▲、工具の摩耗によりコーティングの剥がれが見られた場合をハッチング入りの○で示している。なお、刃径および刃数が異なる複数のメーカーのカッターを用いて評価を行ったが、全ての結果を同じグラフに表示している。
【0056】
図6を見ると、回転速度が5000rpm未満ではロボットアーム10a,10bの振動が大きく、切削が行えなかったのに対し、回転速度が5000rpm以上では、ロボットアーム10a,10bの振動が小さく、切削を良好に行うことができた。また、1刃あたりの送り量を0.05mm/s未満とした場合には、工具の摩耗により、コーティングが剥がれ始め、工具が使用できなくなったのに対し、0.05mm/s以上とすれば、カッターの刃の摩耗が小さく抑えられ、切削を良好に行うことができた。以上より、この試験で用いたのと同じ材料に対して、同じロボットアーム10a,10bを用いて切削を行う場合に、カッターの刃径および刃数によらず、回転速度が5000rpm以上、1刃あたりの送り速度が0.05mm/s以上の範囲で切削条件を選択すれば、刃の摩耗およびロボットアーム10a,10bの振動を避けて、良好な切削を行うことができる。
【0057】
(4)フィードバック制御
切削を行っている間に、
図3のステップS12で切削状況の監視を行い、もし切削工具13の回転を駆動するスピンドルモータ12およびロボットアーム10a,10bの運動を駆動する各サーボモータ11の少なくとも1つの負荷(被監視負荷)が、閾値を超えると、ステップS19でフィードバック制御が行われ、過負荷状態が解消される。このフィードバック制御の一例をここで説明する。
【0058】
図7(a)に示すように、時刻t1において、あるサーボモータ11に流れる電流が閾値Th1に達したのが検出されると、制御部は、一旦ロボットアーム10a,10bによる切削工具13の送り運動を停止し、切削を中断する。そして、ロボットアーム10a,10bの運動速度を変更することで、切削工具13の送り速度を、もとよりも小さい(遅い)値に変更する。そのうえで、送り運動を開始し、切削を再開する。送り速度を小さくすると、切削断面積Aが小さくなり、切削抵抗Rが下がる(式1参照)。よって、サーボモータ11の負荷が低減される。
【0059】
一方、
図7(b)のように、時刻t2において、スピンドルモータ12に流れる電流が閾値Th2に達したのが検出されると、制御部は、スピンドルモータ12の回転速度を上げる(速くする)。この際、切削工具13の送り速度はもとのまま維持され、切削は継続される。切削工具13の回転速度を上げると、工具1刃あたりの送り速度が下がり、切削断面積Aが小さくなるので、切削抵抗Rが下がる(式1参照)。これにより、スピンドルモータ12の負荷が低減される。
【0060】
スピンドルモータ12に流れる電流が閾値Th2に達した際、
図7(b)のようにスピンドルモータ12の回転数を上げる代わりに、あるいは、スピンドルモータ12の回転数を上げてもスピンドルモータ12の負荷が閾値を下回らない場合に、ロボットアーム10a,10bの位置および/または運動速度を変更することで、
図7(c)のように、切削工具13の切込み深さを浅くすればよい。この際、切削工具13の送り速度はもとのまま維持され、切削は継続される。切込み深さを浅くすると、切削断面積Aが小さくなるので、切削抵抗Rが下がる(式1参照)。これにより、スピンドルモータ12の負荷が低減される。
【0061】
[切削装置の特性]
上記実施形態にかかる切削装置1においては、形状計測装置14を用いた光学測定によって突起物74の形状を認識したうえで、その形状を有する突起物74を切削するのに好適な切削条件を設定し、突起物74の切削を行う。よって、切削工具13の損傷や、ロボットアーム10a,10bをはじめとする切削装置1を構成する部材の振動による切削性の低下を防止しながら、突起物74を適切な切削条件で切削することができる。突起物74の目視等によって作業者が切削条件を判断する必要がないので、作業者の熟練の程度によらず、同様の仕上がりを得ることができる。
【0062】
また、従来のように、作業者が切削条件を判断して切削を行う場合には、切削のみで突起物74を完全に除去できるように切削条件を定めることが難しく、切削によって除去しきれなかった突起物74を、グラインダ等の研磨工具を用いて、手作業で除去していた。しかし、上記の切削装置1においては、所望の平滑度に達するように、計測された突起物74の正確な形状に基づいて切削パラメータを設定すれば、このような手作業による仕上げを必要とせず、突起物74の除去工程を簡素化することができる。加えて、手作業時の粉塵や騒音等による作業環境の悪化を排除することができる。
【0063】
さらに、上記実施形態にかかる切削装置1においては、被加工物7全体において、突起物74の形状を測定したうえで、各部位ごとに切削条件を決定して切削を行うので、突起物74の形状や被加工物7本体の形状にばらつきがあっても、突起物74を適切な条件で切削することができる。また、突起物74の形状の測定を、光学測定を用いて非接触で行っているので、計測工程によって、被加工物7の表面に跡が残ったり、切削工程等、別の工程に影響を及ぼしたりすることが起こりにくい。特に、計測に光切断法を用いることで、簡便な構成で、被加工物7の表面の凹凸形状を精度よく計測することができる。
【0064】
また、突起物74の形状を計測する際に、特に突出量Hと溶接面積Sに注目して計測を行うことで、切削すべき材料の量を、簡便に定めることができる。また、突起物74の形状に加え、端面52a等を基準として、被加工物7全体における突起物74の位置X1を計測することで、作業者が切削を行う位置を指定する必要なく、突起物74が存在する位置を的確に切削することができる。
【0065】
形状計測装置14による突起物74の形状計測を切削加工の前に一度のみ行い、その計測結果に従って切削加工を実行して、加工を終了してもよいが、
図3のステップS15のように、切削加工の完了後に、再度形状計測装置14を用いて被加工物7の表面形状を測定することが好ましい。これにより、行った切削加工によって所望の平滑度が達成できているかを確認することができる。所望の平滑度が達成されていない場合には、その計測結果をもとに、再度切削条件を定め、切削を行うことが好ましい。このように、形状計測と切削加工のサイクルを繰り返して行うことで、同一の形状計測装置14を用いて切削条件の決定と切削後の被加工物7の表面状態の確認の両方を行いながら、所望の平滑度に達するまで切削を行うことができる。なお、このサイクルによって切削を複数回行う場合に、突起物74の形状に基づいて切削条件を決定するためのテーブルまたは関係式として、毎回同じものを用いてもよいし、1回目は突起物74の大部分を削り取れるように高速で切削するが、2回目以降は、表面の平滑度を上げるべく低速で切削するというように、サイクルごとに別のテーブルや関係式を用いてもよい。
【0066】
上記形状計測装置14のような計測部を用いて突起物74の形状を測定し、その計測結果に基づいて制御部で自動的に切削条件を設定する構成は、ロボットアーム10a,10bを有するような加工部に限らず、任意の形態の加工部を有する切削装置に組み込むことができる。そのような切削装置としては、NC旋盤やマシニングセンタ等が考えられる。しかし、既存のそれらの装置に、被加工物7全体の表面形状を計測できるような計測部を設け、しかもその計測結果に基づいて自動的に切削条件を設定できるようにすることは困難であり、また大きなコストを有する。そもそも、上記アクスルハウジング5のような大型の被加工物7を、これらの装置に収容して切削すること自体も困難である。これに対し、上記のように、ロボットアーム10a,10bを用いて加工部を構成し、計測部もロボットアーム10a,10bに設けるようにすれば、簡便で自由度の高い構成で、計測部および制御部を導入することができる。
【0067】
上記のように、ロボットアーム10a,10bの先端に切削工具13とともに形状計測装置14を取り付けておけば、ロボットアーム10a,10bの可動範囲において、切削加工と形状計測の両方を行うことができる。このように、簡素な構成によって、種々の形状、大きさを有する被加工物7について、形状計測に基づく適切な条件で切削加工を行うことができる。特に被加工物7が大型である場合や、短時間で切削を行いたい場合にも、上記のように、ロボットアームを複数設置し、それぞれに切削工具13を取り付けておくことで、広い範囲で切削加工を行うことや、複数台で並行して短時間で切削加工を完了することが可能となる。
【0068】
この際、形状計測装置14は、複数のロボットアームのうち、1台にのみ取り付けておき、その計測結果をもとに、全ロボットアームにおける切削条件を設定すればよい。このようにすることで、形状計測装置14を1つのみ備える簡素な構成で、少なくとも、そのロボットアームの可動範囲内において、被加工物7の形状を計測することができ、切削条件の設定に利用することができる。また、複数のロボットアームに形状計測装置14を設ける場合には、複数の形状計測装置14の間で計測結果を整合させるための処理が必要となるが、形状計測装置14が1つであれば、そのような処理を行う必要もない。もし1つのロボットアームの可動範囲で、形状計測が必要な全領域がカバーできないような場合には、適宜計測結果を整合させる処理工程を設けたうえで、複数のロボットアームに形状計測装置14を取り付けてもよい。
【0069】
一般的なロボットアームは、可動部を有する等の理由により、NC旋盤やマシニングセンタよりも剛性において劣ることが多い。よって、切削条件によっては、ロボットアームに大きな振動を生じ、切削工程に影響を与えたり、ロボットアーム自体に損傷が発生したりする可能性がある。しかし、上記実施形態にかかる切削装置1においては、許容される以上の振動がロボットアーム10a,10bに生じない範囲内で、切削工具13の回転速度等、切削条件が決定されている(
図6参照)。よって、ロボットアーム10a,10bの剛性の低さによる振動の発生を回避しながら、切削加工を行うことができる。
図6に示した例では、フェースミルカッターの回転速度を5000rpm以上としているが、従来一般のNC旋盤では、この種のフェースミルカッターが5000rpmもの高速で使用されることはない。上記実施形態にかかる切削装置1においては、
図6のような試験結果に基づき、突起物74の形状の測定結果から、高速での切削工具13の回転を含む切削条件を決定することで、ロボットアーム10a,10bおよび切削工具13を振動や摩耗から保護しながら、ロボットアーム10a,10bの剛性の低さをカバーして、突起物74の切削を行うことができる。
【0070】
さらに、上記実施形態にかかる切削装置1においては、形状計測の結果に基づいて各部の損傷や振動を避けるように切削条件を設定することに加え、設定した切削条件で実際に切削を行う間、スピンドルモータ12とサーボモータ11の負荷を監視し続け、過負荷状態を招かないように、フィードバック制御を行っている。これにより、万一、切削条件のばらつきや切削加工の履歴等の要因で切削工具13やロボットアーム10a,10bに過剰な負荷が印加されそうになっても、実際に過負荷状態となってしまうのを防止し、安定して切削加工を進行させることができる。
【0071】
最後に、上記切削装置1においては、自動工具交換装置を用いて、複数の切削工具13や、研磨工具等、別の種類の工具を交換して使用可能としておくことで、多様な被加工物7、突起物74に対して、要求される平滑度等に応じて、多様な加工を提供することができる。どの工具を使用するかの選択も、切削工具の回転速度等と同様に切削条件の1つとみなすことができ、被加工物7の材質や形状、突起物74の種類や形状、現状および目標の平滑度等のパラメータに応じて、工具の選択を行えばよい。また、多種類の工具を使用可能としておくことで、ロボットアーム10a,10bは、被加工物7の両面を加工する場合に、被加工物7を持ち上げて裏返す等、突起物74の除去に限らず、多様な工程に対応することができる。
【0072】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。例えば、本発明が実現されるものであれば、工程の詳細や順序は、上記したものに限られない。