特許第6497110号(P6497110)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6497110-ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物 図000025
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6497110
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/02 20060101AFI20190401BHJP
   C08L 23/00 20060101ALI20190401BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20190401BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20190401BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20190401BHJP
   C08G 75/04 20160101ALI20190401BHJP
【FI】
   C08L81/02
   C08L23/00
   C08L79/08 B
   C08L83/04
   C08J3/20 ZCES
   C08J3/20CEZ
   C08G75/04
【請求項の数】8
【全頁数】41
(21)【出願番号】特願2015-29444(P2015-29444)
(22)【出願日】2015年2月18日
(65)【公開番号】特開2016-74872(P2016-74872A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2017年12月4日
(31)【優先権主張番号】特願2014-34175(P2014-34175)
(32)【優先日】2014年2月25日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-219087(P2014-219087)
(32)【優先日】2014年10月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 圭
(72)【発明者】
【氏名】井砂 宏之
(72)【発明者】
【氏名】山中 悠司
(72)【発明者】
【氏名】松本 英樹
【審査官】 三原 健治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−046721(JP,A)
【文献】 特開2011−063015(JP,A)
【文献】 特開2008−222889(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/115536(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08G
C08J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体1〜150重量部、(c)オレフィン系エラストマー1〜150重量部を含むポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、電子顕微鏡により観察されるモルフォロジーにおいて、(a)成分が連続相を、(b)成分が一次分散相を形成すると共に、前記一次分散相内に(c)成分が二次分散相を形成する事を特徴とするポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項2】
前記(c)オレフィン系エラストマーの80体積%以上が、二次分散相として、前記(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体からなる一次分散相中に存在する事を特徴とする請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項3】
前記(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体からなる一次分散相の数平均分散粒子径が、1500nm以下である事を特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項4】
前記(c)オレフィン系エラストマーからなる二次分散相の数平均分散粒子径が、1000nm以下である事を特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項5】
前記(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂が、200ppm以上のアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含有する事を特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項6】
前記(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂の重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度が2.5以下であり、常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から340℃まで昇温速度20℃/分で熱重量分析を行った際の100℃〜330℃における重量減少率が0.2重量%以下である事を特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法であって、前記(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂の一部と、前記(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体を予め溶融混練後、前記(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂の残りと、前記(c)オレフィン系エラストマーと更に溶融混練する事を特徴とするポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟かつ高靱性で有りながら、耐熱老化性が飛躍的に優れたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド(以下PPSと略すことがある)樹脂は、優れた耐熱性、耐薬品性、難燃性、電気絶縁性、耐湿熱性など、エンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有していることから、電気・電子部品、通信機器部品、自動車部品などに幅広く利用されている。しかし、比較的堅くて脆い弱点があるため、PPS樹脂にエラストマーを配合して柔軟性を付与する改良がこれまで多数報告されているものの、この場合、エラストマーに起因してPPS樹脂本来の優れた耐熱性や耐薬品性が犠牲になる他、高温熱処理後の機械特性が著しく低下する等の新たな課題を生じてしまう。
【0003】
そこで、PPS樹脂に耐熱性の高い柔軟成分を配合する試みがいくつか報告されている。例えば特許文献1には、エンジニアリング熱可塑性プラスチックに衝撃改良剤としてポリ(イミド−シロキサン)ブロックコポリマーを配合したポリマーブレンドが開示されている。しかし、ポリ(イミド−シロキサン)ブロックコポリマーの配合により、一定の柔軟性と耐衝撃性を付与する事はできるものの、未だ不十分なレベルで有り、嵌合や自由に折り曲げての使用などには限界があるのが現状である。特許文献2には、ポリアリーレンスルフィドにシロキサン変性ポリエーテルイミドを配合したポリアリーレンスルフィドフィルムが開示されている。これにより、脆化が起こり難い離型フィルムを提供することが可能となるが、その技術的要点は、シロキサン変性ポリエーテルイミドの配合により、ポリアリーレンスルフィドの結晶化を抑制し、厚みの厚いフィルムでも均一に延伸可能にするというものであり、柔軟かつ高靱性で有りながら、飛躍的に優れた耐熱老化性を兼備するという点では未だ不十分なレベルであった。特許文献3には、ポリフェニレンスルフィド樹脂とポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体からなる樹脂組成物に、その他の添加物としてオレフィン系共重合体を配合しても良い事が開示されている。しかしこの場合、ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体が一次分散相を形成すると共に、この一次分散相内にオレフィン系共重合体が二次分散相を形成する特定の相構造を形成していないため、高度な柔軟性と靱性を付与する事は可能であっても、通常のエラストマーとの樹脂組成物同様、耐熱老化性は著しく乏しい欠点があった。特許文献4には、ポリフェニレンサルファイドからなる連続相に、コア/シェルポリマー粒子が分散した熱可塑性樹脂組成物が開示されている。しかし、コアは架橋エラストマーからなるため、柔軟性や靱性を付与する点では不十分で有り、また、シェルはポリメチルメタクリレートなどの耐熱性の低い熱可塑性ポリマーであるため、耐熱老化性は著しく劣る欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−199737号公報
【特許文献2】特開2013−139532号公報
【特許文献3】特開2012−46721号公報
【特許文献4】特表2013−531115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はポリフェニレンスルフィド樹脂が本来有する耐熱性、耐薬品性、難燃性を損なう事無く、高い柔軟性、靱性と共に、耐熱老化性が飛躍的に優れたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を提供する事を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリフェニレンスルフィド樹脂とポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体とオレフィン系エラストマーとからなる樹脂組成物において、ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体からなる一次分散相内にオレフィン系エラストマーが二次分散相を形成する特定の相構造を構築する事により、従来技術では難しかった高い柔軟性、靱性と共に飛躍的に優れた耐熱老化性が両立する事を見出し、本発明に到達した。
【0007】
即ち、本発明は以下のとおりである。
1.(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体1〜150重量部、(c)オレフィン系エラストマー1〜150重量部を含むポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、電子顕微鏡により観察されるモルフォロジーにおいて、(a)成分が連続相を、(b)成分が一次分散相を形成すると共に、前記一次分散相内に(c)成分が二次分散相を形成する事を特徴とするポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、
2.前記(c)オレフィン系エラストマーの80体積%以上が、二次分散相として、前記(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体からなる一次分散相中に存在する事を特徴とする1に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、
3.前記(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体からなる一次分散相の数平均分散粒子径が、1500nm以下である事を特徴とする1〜2のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、
4.前記(c)オレフィン系エラストマーからなる二次分散相の数平均分散粒子径が、1000nm以下である事を特徴とする1〜3のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、
5.前記(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂が、200ppm以上のアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含有する事を特徴とする1〜4のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、
6.前記(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂の重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度が2.5以下であり、常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から340℃まで昇温速度20℃/分で熱重量分析を行った際の100℃〜330℃における重量減少率が0.2重量%以下である事を特徴とする1〜4のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、
.1〜6のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法であって、前記(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂の一部と、前記(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体を予め溶融混練後、前記(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂の残りと、前記(c)オレフィン系エラストマーと更に溶融混練する事を特徴とするポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法、
.1〜6のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、弾性率が低く柔軟で高い靱性が発現しながら、耐熱老化性が飛躍的に向上したポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が得られる。これら特性は、嵌め合わせや折り曲げて使用するチューブ、ホース類、とりわけ高温、振動下で使用される自動車エンジン廻りのダクト、ホースなどの用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明のPPS樹脂組成物が形成する相分離構造の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0011】
(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂
本発明で用いられる(a)PPS樹脂は、下記構造式で示される繰り返し単位を有する重合体であり、
【0012】
【化1】
【0013】
耐熱性の観点からは上記構造式で示される繰り返し単位を含む重合体を70モル%以上、更には90モル%以上含む重合体が好ましい。また(a)PPS樹脂はその繰り返し単位の30モル%未満程度が、下記の構造を有する繰り返し単位等で構成されていてもよい。
【0014】
【化2】
【0015】
かかる構造を一部有するPPS共重合体は、融点が低くなるため、このような樹脂組成物は成形性の点で有利となる。
【0016】
本発明で用いられる(a)PPS樹脂の溶融粘度に特に制限はないが、より優れた靱性を得る意味からその溶融粘度は高い方が好ましい。例えば30Pa・sを越える範囲が好ましく、50Pa・s以上がより好ましく、100Pa・s以上がさらに好ましい。上限については溶融流動性保持の点から600Pa・s以下であることが好ましい。
【0017】
なお、本発明における溶融粘度は、310℃、剪断速度1000/sの条件下、東洋精機製キャピログラフを用いて測定した値である。
【0018】
以下に、本発明に用いる(a)PPS樹脂の製造方法について説明するが、上記構造の(a)PPS樹脂が得られれば下記方法に限定されるものではない。
【0019】
まず、製造方法において使用するポリハロゲン芳香族化合物、スルフィド化剤、重合溶媒、分子量調節剤、重合助剤および重合安定剤の内容について説明する。
【0020】
[ポリハロゲン化芳香族化合物]
ポリハロゲン化芳香族化合物とは、1分子中にハロゲン原子を2個以上有する化合物をいう。具体例としては、p−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、1,3,5−トリクロロベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、2,5−ジクロロトルエン、2,5−ジクロロ-p-キシレン、1,4−ジブロモベンゼン、1,4−ジヨードベンゼン、1−メトキシ−2,5−ジクロロベンゼンなどのポリハロゲン化芳香族化合物が挙げられ、好ましくはp−ジクロロベンゼンが用いられる。また、異なる2種以上のポリハロゲン化芳香族化合物を組み合わせて共重合体とすることも可能であるが、p−ジハロゲン化芳香族化合物を主要成分とすることが好ましい。
【0021】
ポリハロゲン化芳香族化合物の使用量は、加工に適した粘度の(a)PPS樹脂を得る点から、スルフィド化剤1モル当たり0.9から2.0モル、好ましくは0.95から1.5モル、更に好ましくは1.005から1.2モルの範囲が例示できる。
【0022】
[スルフィド化剤]
スルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物、および硫化水素が挙げられる。
【0023】
アルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0024】
アルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化リチウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を挙げることができ、なかでも水硫化ナトリウムが好ましく用いられる。これらのアルカリ金属水硫化物は、水和物または水性混合物として、あるいは無水物の形で用いることができる。
【0025】
また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物からアルカリ金属硫化物を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
【0026】
あるいは、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素から反応系においてin situで調製されるアルカリ金属硫化物も用いることができる。また、水酸化リチウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と硫化水素からアルカリ金属硫化物を調整し、これを重合槽に移して用いることができる。
【0027】
仕込みスルフィド化剤の量は、脱水操作などにより重合反応開始前にスルフィド化剤の一部損失が生じる場合には、実際の仕込み量から当該損失分を差し引いた残存量を意味するものとする。
【0028】
なお、スルフィド化剤と共に、アルカリ金属水酸化物および/またはアルカリ土類金属水酸化物を併用することも可能である。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムおよびこれら2種以上の混合物を好ましいものとして挙げることができ、アルカリ土類金属水酸化物の具体例としては、例えば水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウムなどが挙げられ、なかでも水酸化ナトリウムが好ましく用いられる。
【0029】
スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいが、この使用量はアルカリ金属水硫化物1モルに対し0.95から1.20モル、好ましくは1.00から1.15モル、更に好ましくは1.005から1.100モルの範囲が例示できる。
【0030】
[重合溶媒]
重合溶媒としては有機極性溶媒を用いるのが好ましい。具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドンなどのN−アルキルピロリドン類、N−メチル−ε−カプロラクタムなどのカプロラクタム類、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホキシドなどに代表されるアプロチック有機溶媒、およびこれらの混合物などが挙げられ、これらはいずれも反応の安定性が高いために好ましく使用される。これらのなかでも、特にN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略記することもある)が好ましく用いられる。
【0031】
有機極性溶媒の使用量は、スルフィド化剤1モル当たり2.0モルから10モル、好ましくは2.25から6.0モル、より好ましくは2.5から5.5モルの範囲が選ばれる。
【0032】
[分子量調節剤]
生成する(a)PPS樹脂の末端を形成させるか、あるいは重合反応や分子量を調節するなどのために、モノハロゲン化合物(必ずしも芳香族化合物でなくともよい)を、上記ポリハロゲン化芳香族化合物と併用することができる。
【0033】
[重合助剤]
比較的高重合度の(a)PPS樹脂をより短時間で得るために重合助剤を用いることも好ましい態様の一つである。ここで重合助剤とは得られる(a)PPS樹脂の粘度を増大させる作用を有する物質を意味する。このような重合助剤の具体例としては、例えば有機カルボン酸塩、水、アルカリ金属塩化物、有機スルホン酸塩、硫酸アルカリ金属塩、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属リン酸塩およびアルカリ土類金属リン酸塩などが挙げられる。これらは単独であっても、また2種以上を同時に用いることもできる。なかでも、有機カルボン酸塩、水、およびアルカリ金属塩化物が好ましく、さらに有機カルボン酸塩としてはアルカリ金属カルボン酸塩が、アルカリ金属塩化物としては塩化リチウムが好ましい。
【0034】
上記アルカリ金属カルボン酸塩とは、一般式R(COOM)n(式中、Rは、炭素数1〜20を有するアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基である。Mは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウムおよびセシウムから選ばれるアルカリ金属である。nは1〜3の整数である。)で表される化合物である。アルカリ金属カルボン酸塩は、水和物、無水物または水溶液としても用いることができる。アルカリ金属カルボン酸塩の具体例としては、例えば、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム、吉草酸リチウム、安息香酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、p−トルイル酸カリウム、およびそれらの混合物などを挙げることができる。
【0035】
アルカリ金属カルボン酸塩は、有機酸と、水酸化アルカリ金属、炭酸アルカリ金属塩および重炭酸アルカリ金属塩よりなる群から選ばれる一種以上の化合物とを、ほぼ等化学当量ずつ添加して反応させることにより形成させてもよい。上記アルカリ金属カルボン酸塩の中で、リチウム塩は反応系への溶解性が高く助剤効果が大きいが高価であり、カリウム、ルビジウムおよびセシウム塩は反応系への溶解性が不十分であると思われるため、安価で、重合系への適度な溶解性を有する酢酸ナトリウムが最も好ましく用いられる。
【0036】
これらアルカリ金属カルボン酸塩を重合助剤として用いる場合の使用量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.01モル〜2モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.1〜0.6モルの範囲が好ましく、0.2〜0.5モルの範囲がより好ましい。
【0037】
また水を重合助剤として用いる場合の添加量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対し、通常0.3モル〜15モルの範囲であり、より高い重合度を得る意味においては0.6〜10モルの範囲が好ましく、1〜5モルの範囲がより好ましい。
【0038】
これら重合助剤は2種以上を併用することももちろん可能であり、例えばアルカリ金属カルボン酸塩と水を併用すると、それぞれより少量で高分子量化が可能となる。
【0039】
これら重合助剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、重合助剤としてアルカリ金属カルボン酸塩を用いる場合は前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが、添加が容易である点からより好ましい。また水を重合助剤として用いる場合は、ポリハロゲン化芳香族化合物を仕込んだ後、重合反応途中で添加することが効果的である。
【0040】
[重合安定剤]
重合反応系を安定化し、副反応を防止するために、重合安定剤を用いることもできる。重合安定剤は、重合反応系の安定化に寄与し、望ましくない副反応を抑制する。副反応の一つの目安としては、チオフェノールの生成が挙げられ、重合安定剤の添加によりチオフェノールの生成を抑えることができる。重合安定剤の具体例としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属水酸化物、およびアルカリ土類金属炭酸塩などの化合物が挙げられる。そのなかでも、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、および水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物が好ましい。上述のアルカリ金属カルボン酸塩も重合安定剤として作用するので、重合安定剤の一つに入る。また、スルフィド化剤としてアルカリ金属水硫化物を用いる場合には、アルカリ金属水酸化物を同時に使用することが特に好ましいことを前述したが、ここでスルフィド化剤に対して過剰となるアルカリ金属水酸化物も重合安定剤となり得る。
【0041】
これら重合安定剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。重合安定剤は、仕込みアルカリ金属硫化物1モルに対して、通常0.02〜0.2モル、好ましくは0.03〜0.1モル、より好ましくは0.04〜0.09モルの割合で使用することが好ましい。この割合が少ないと安定化効果が不十分であり、逆に多すぎても経済的に不利益であったり、ポリマー収率が低下する傾向となる。
【0042】
重合安定剤の添加時期には特に指定はなく、後述する前工程時、重合開始時、重合途中のいずれの時点で添加してもよく、また複数回に分けて添加してもよいが、前工程開始時或いは重合開始時に同時に添加することが容易である点からより好ましい。
【0043】
次に、本発明に用いる(a)PPS樹脂の好ましい製造方法について、前工程、重合反応工程、回収工程、および後処理工程と、順を追って具体的に説明するが、勿論この方法に限定されるものではない。
【0044】
[前工程]
(a)PPS樹脂の製造方法において、スルフィド化剤は通常水和物の形で使用されるが、ポリハロゲン化芳香族化合物を添加する前に、有機極性溶媒とスルフィド化剤を含む混合物を昇温し、過剰量の水を系外に除去することが好ましい。
【0045】
また、上述したように、スルフィド化剤として、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物から、反応系においてin situで、あるいは重合槽とは別の槽で調製されるスルフィド化剤も用いることができる。この方法には特に制限はないが、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜150℃、好ましくは常温から100℃の温度範囲で、有機極性溶媒にアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物を加え、常圧または減圧下、少なくとも150℃以上、好ましくは180〜260℃まで昇温し、水分を留去させる方法が挙げられる。この段階で重合助剤を加えてもよい。また、水分の留去を促進するために、トルエンなどを加えて反応を行ってもよい。
【0046】
重合反応における、重合系内の水分量は、仕込みスルフィド化剤1モル当たり0.3〜10.0モルであることが好ましい。ここで重合系内の水分量とは重合系に仕込まれた水分量から重合系外に除去された水分量を差し引いた量である。また、仕込まれる水は、水、水溶液、結晶水などのいずれの形態であってもよい。
【0047】
[重合反応工程]
有機極性溶媒中でスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物とを200℃以上290℃未満の温度範囲内で反応させることにより(a)PPS樹脂を製造する。
【0048】
重合反応工程を開始するに際しては、望ましくは不活性ガス雰囲気下、常温〜240℃、好ましくは100〜230℃の温度範囲で、有機極性溶媒とスルフィド化剤とポリハロゲン化芳香族化合物を混合する。この段階で重合助剤を加えてもよい。これらの原料の仕込み順序は、順不同であってもよく、同時であってもさしつかえない。
【0049】
かかる混合物を通常200℃〜290℃の範囲に昇温する。昇温速度に特に制限はないが、通常0.01〜5℃/分の速度が選択され、0.1〜3℃/分の範囲がより好ましい。
【0050】
一般に、最終的には250〜290℃の温度まで昇温し、その温度で通常0.25〜50時間、好ましくは0.5〜20時間反応させる。
【0051】
最終温度に到達させる前の段階で、例えば200℃〜260℃で一定時間反応させた後、270〜290℃に昇温する方法は、より高い重合度を得る上で有効である。この際、200℃〜260℃での反応時間としては、通常0.25時間から20時間の範囲が選択され、好ましくは0.25〜10時間の範囲が選ばれる。
【0052】
なお、より高重合度のポリマーを得るためには、複数段階で重合を行うことが有効である場合がある。複数段階で重合を行う際は、245℃における系内のポリハロゲン化芳香族化合物の転化率が、40モル%以上、好ましくは60モル%に達した時点であることが有効である。
【0053】
なお、ポリハロゲン化芳香族化合物(ここではPHAと略記)の転化率は、以下の式で算出した値である。PHA残存量は、通常、ガスクロマトグラフ法によって求めることができる。
(A)ポリハロゲン化芳香族化合物をアルカリ金属硫化物に対しモル比で過剰に添加した場合
転化率=〔PHA仕込み量(モル)−PHA残存量(モル)〕/〔PHA仕込み量(モル)−PHA過剰量(モル)〕
(B)上記(A)以外の場合
転化率=〔PHA仕込み量(モル)−PHA残存量(モル)〕/〔PHA仕込み量(モル)〕
【0054】
[回収工程]
(a)PPS樹脂の製造方法においては、重合終了後に、重合体、溶媒などを含む重合反応物から固形物を回収する。回収方法については、公知の如何なる方法を採用しても良い。
【0055】
例えば、重合反応終了後、徐冷して粒子状のポリマーを回収する方法を用いても良い。この際の徐冷速度には特に制限は無いが、通常0.1℃/分〜3℃/分程度である。徐冷工程の全行程において同一速度で徐冷する必要はなく、ポリマー粒子が結晶化析出するまでは0.1〜1℃/分、その後1℃/分以上の速度で徐冷する方法などを採用しても良い。
【0056】
また上記の回収を急冷条件下に行うことも好ましい方法の一つであり、この回収方法の好ましい一つの方法としてはフラッシュ法が挙げられる。フラッシュ法とは、重合反応物を高温高圧(通常250℃以上、8kg/cm以上)の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ、溶媒回収と同時に重合体を粉末状にして回収する方法であり、ここでいうフラッシュとは、重合反応物をノズルから噴出させることを意味する。フラッシュさせる雰囲気は、具体的には例えば常圧中の窒素または水蒸気が挙げられ、その温度は通常150℃〜250℃の範囲が選ばれる。
【0057】
[後処理工程]
(a)PPS樹脂は、上記重合、回収工程を経て生成した後、酸処理、熱水処理、有機溶媒による洗浄、アルカリ金属やアルカリ土類金属処理を施されたものであってもよい。
【0058】
酸処理を行う場合は次のとおりである。(a)PPS樹脂の酸処理に用いる酸は、(a)PPS樹脂を分解する作用を有しないものであれば特に制限はなく、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、珪酸、炭酸およびプロピル酸などが挙げられ、なかでも酢酸および塩酸がより好ましく用いられるが、硝酸のような(a)PPS樹脂を分解、劣化させるものは好ましくない。
【0059】
酸処理の方法は、酸または酸の水溶液に(a)PPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。例えば、酢酸を用いる場合、PH4の水溶液を80〜200℃に加熱した中にPPS樹脂粉末を浸漬し、30分間撹拌することにより十分な効果が得られる。処理後のPHは4以上例えばPH4〜8程度となっても良い。酸処理を施された(a)PPS樹脂は残留している酸または塩などを除去するため、水または温水で数回洗浄することが好ましい。洗浄に用いる水は、酸処理による(a)PPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を損なわない意味で、蒸留水、脱イオン水であることが好ましい。
【0060】
熱水処理を行う場合は次のとおりである。(a)PPS樹脂を熱水処理するにあたり、熱水の温度を100℃以上、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは150℃以上、特に好ましくは170℃以上とすることが好ましい。100℃未満では(a)PPS樹脂の好ましい化学的変性の効果が小さいため好ましくない。
【0061】
熱水洗浄による(a)PPS樹脂の好ましい化学的変性の効果を発現するため、使用する水は蒸留水あるいは脱イオン水であることが好ましい。熱水処理の操作に特に制限は無く、所定量の水に所定量の(a)PPS樹脂を投入し、圧力容器内で加熱、撹拌する方法、連続的に熱水処理を施す方法などにより行われる。(a)PPS樹脂と水との割合は、水の多い方が好ましいが、通常、水1リットルに対し、(a)PPS樹脂200g以下の浴比が選ばれる。
【0062】
また、処理の雰囲気は、末端基の分解が好ましくないので、これを回避するため不活性雰囲気下とすることが望ましい。さらに、この熱水処理操作を終えた(a)PPS樹脂は、残留している成分を除去するため温水で数回洗浄するのが好ましい。
【0063】
有機溶媒で洗浄する場合は次のとおりである。(a)PPS樹脂の洗浄に用いる有機溶媒は、(a)PPS樹脂を分解する作用などを有しないものであれば特に制限はなく、例えばN−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホラスアミド、ピペラジノン類などの含窒素極性溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどのスルホキシド・スルホン系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトフェノンなどのケトン系溶媒、ジメチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、トリクロロエチレン、2塩化エチレン、パークロルエチレン、モノクロルエタン、ジクロルエタン、テトラクロルエタン、パークロルエタン、クロルベンゼンなどのハロゲン系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、クレゾール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのアルコール・フェノール系溶媒およびベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒のうちでも、N−メチル−2−ピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミドおよびクロロホルムなどの使用が特に好ましい。また、これらの有機溶媒は、1種類または2種類以上の混合で使用される。
【0064】
有機溶媒による洗浄の方法としては、有機溶媒中に(a)PPS樹脂を浸漬せしめるなどの方法があり、必要により適宜撹拌または加熱することも可能である。有機溶媒で(a)PPS樹脂を洗浄する際の洗浄温度については特に制限はなく、常温〜300℃程度の任意の温度が選択できる。洗浄温度が高くなる程洗浄効率が高くなる傾向があるが、通常は常温〜150℃の洗浄温度で十分効果が得られる。圧力容器中で、有機溶媒の沸点以上の温度で加圧下に洗浄することも可能である。また、洗浄時間についても特に制限はない。洗浄条件にもよるが、バッチ式洗浄の場合、通常5分間以上洗浄することにより十分な効果が得られる。また連続式で洗浄することも可能である。
【0065】
アルカリ金属、アルカリ土類金属処理する方法としては、上記前工程の前、前工程中、前工程後にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法、重合行程前、重合行程中、重合行程後に重合釜内にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法、あるいは上記洗浄工程の最初、中間、最後の段階でアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法などが挙げられる。中でも最も容易な方法としては、有機溶剤洗浄や、温水または熱水洗浄で残留オリゴマーや残留塩を除いた後にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩を添加する方法が挙げられる。アルカリ金属、アルカリ土類金属は、酢酸塩、水酸化物、炭酸塩などのアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオンの形でPPS中に導入するのが好ましい。また過剰のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩は温水洗浄などにより取り除く方が好ましい。上記アルカリ金属、アルカリ土類金属導入の際のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン濃度としてはPPS1gに対して0.001mmol以上が好ましく、0.01mmol以上がより好ましい。温度としては、50℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましく、90℃以上が特に好ましい。上限温度は特にないが、操作性の観点から通常280℃以下が好ましい。浴比(乾燥PPS重量に対する洗浄液重量)としては0.5以上が好ましく、3以上がより好ましく、5以上が更に好ましい。
【0066】
本発明においては、靱性、耐熱老化性に優れたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得る観点から、有機溶媒洗浄と80℃程度の温水または前記した熱水洗浄を数回繰り返すことにより残留オリゴマーや残留塩を除いた後、酸処理もしくはアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩で処理する方法が好ましく、特にアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩で処理する方法が更に好ましい。
【0067】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、極めて柔軟で高い靱性に優れると共に、高温条件下で長時間晒された後も、高い機械特性が保持される。かかる特性を発現するためには、(a)PPS樹脂中に含まれるアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属分の合計が200ppm以上であることが好ましく、より好ましくは500ppm以上であり、更には700ppm以上であることが好ましい。
【0068】
これは例えば、相溶化剤として添加する(d)アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基などの官能基を有する化合物が、エポキシ化合物である場合、(a)PPS樹脂中に含まれるアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属分の合計が200ppm以上になると、(a)PPS樹脂と(d)エポキシ基を有する化合物との反応が促進され、(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体や(c)オレフィン系エラストマーがより微分散化される結果、高い靱性が発現しやすくなるためである。特に相溶化剤が(c)エポキシ基を有する化合物である場合、(a)PPS樹脂中に含まれるアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属はNaであることがより好ましい。
【0069】
また、相溶化剤である(d)アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基を有する化合物の官能基の種類に関わらず、(a)PPS樹脂中に含まれるアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属分の合計が200ppm以上になると、耐熱安定性が向上する結果、高温条件下で長時間晒された後も、高い機械特性が保持される。
【0070】
一方、相溶化剤である(d)アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基などの官能基を有する化合物が、アミノ基、イソシアネート基を有する化合物である場合、(a)PPS樹脂中に含まれるアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属分の合計が200ppm未満になる方が、(a)PPS樹脂との反応は進行しやすいこともある。しかし、前述した耐熱安定性を向上する観点からは、(a)PPS樹脂中に含まれるアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属分の合計が200ppm以上になることが好ましい。従って、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属分の合計が200ppm未満の(a)PPS樹脂と(d)アミノ基、イソシアネート基を有する化合物との反応が完結した後に、前記したアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属処理した(a)PPS樹脂を添加し、最終的な(a)PPS樹脂中に含まれるアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属分の合計が200ppm以上になるよう調節することが好ましい方法として例示できる。その他、(a)PPS樹脂中に含まれるアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属分の合計が200ppm未満および200ppm以上のPPSを同時に併用して(d)アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基を有する化合物との反応に供することも勿論可能である。
【0071】
アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の合計含有量が200ppmを下回る量である場合、耐熱安定性の向上効果が不十分となり好ましくない。アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の合計含有量の上限に制限はないが、耐湿熱性や電気絶縁性を損なわない観点から、3000ppm以下が好ましく、2000ppm以下が更に好ましい。なお、ここで言うアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の合計含有量は、PPS樹脂を灰化した灰分の水溶液を試料とし、原子吸光法により測定した値である。
【0072】
その他、(a)PPS樹脂は、重合終了後に酸素雰囲気下においての加熱および過酸化物などの架橋剤を添加しての加熱による熱酸化架橋処理により高分子量化して用いることも可能である。
【0073】
熱酸化架橋による高分子量化を目的として乾式熱処理する場合には、その温度は160〜260℃が好ましく、170〜250℃の範囲がより好ましい。また、酸素濃度は5体積%以上、更には8体積%以上とすることが望ましい。酸素濃度の上限には特に制限はないが、50体積%程度が限界である。処理時間は、0.5〜100時間が好ましく、1〜50時間がより好ましく、2〜25時間がさらに好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0074】
また、熱酸化架橋を抑制し、揮発分除去を目的として乾式熱処理を行うことも可能である。その温度は130〜250℃が好ましく、160〜250℃の範囲がより好ましい。また、この場合の酸素濃度は5体積%未満、更には2体積%未満とすることが望ましい。処理時間は、0.5〜50時間が好ましく、1〜20時間がより好ましく、1〜10時間がさらに好ましい。加熱処理の装置は通常の熱風乾燥機でもまた回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置であってもよいが、効率よく、しかもより均一に処理する場合は、回転式あるいは撹拌翼付の加熱装置を用いるのがより好ましい。
【0075】
但し、本発明の(a)PPS樹脂は、優れた靱性を発現する観点から、熱酸化架橋処理による高分子量化を行わない実質的に直鎖状のPPS樹脂であるか、軽度に酸化架橋処理した半架橋状のPPS樹脂であることが好ましい。その一方で、熱酸化架橋処理を施したPPS樹脂は、クリープ歪みを小さく抑制する観点からは好適であり、適宜、直線状のPPS樹脂と混合して使用することも可能である。また、本発明では、溶融粘度の異なる複数の(a)PPS樹脂を混合して使用しても良い。
【0076】
更に、本発明の樹脂組成物に用いるPPS樹脂として、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂の重量平均分子量/数平均分子量で表される分散度が2.5以下であり、常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から340℃まで昇温速度20℃/分で熱重量分析を行った際の100℃〜330℃における重量減少率が0.2重量%以下であるものを用いることも好ましい態様として挙げられる。
【0077】
前記した重量平均分子量と数平均分子量の比(重量平均分子量/数平均分子量)で表される分散度のより好ましい範囲は、2.3以下であり、2.1以下が更に好ましく、2.0以下がよりいっそう好ましい。分散度が2.5を越える場合は(a)PPS樹脂に含まれる低分子成分の量が多くなる傾向が強く、このことは本発明のPPS樹脂組成物の機械特性を低下させる点から好ましくない。なお、前記重量平均分子量及び数平均分子量は例えば示差屈折率検出器を具備したSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)を使用して求めることができる。
【0078】
前記した常圧の非酸化性雰囲気下で50℃から340℃まで昇温速度20℃/分で熱重量分析を行った際の100℃〜330℃における重量減少率のより好ましい範囲は、0.18重量%以下であり、更に好ましくは0.12重量%であり、0.1重量%以下がよりいっそう好ましい。重量減少率が0.2重量%範囲を超える場合は、たとえば本発明のPPS樹脂組成物を成形加工する際に発生ガス量が増加し、成形品中にボイドなどが形成しやすくなる事によって、機械特性が低下するため好ましくない。
【0079】
なお、前記重量減少率は一般的な熱重量分析によって求めることが可能であるが、この分析における雰囲気は常圧の非酸化性雰囲気を用いる。非酸化性雰囲気とは試料が接する気相における酸素濃度が5体積%以下、好ましくは2体積%以下、更に好ましくは酸素を実質的に含有しない雰囲気、即ち窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気であることを指し、この中でも特に経済性及び取扱いの容易さの面からは窒素雰囲気が特に好ましい。また、常圧とは大気の標準状態近傍における圧力のことであり、約25℃近傍の温度、絶対圧で101.3kPa近傍の大気圧条件のことである。測定の雰囲気が前記以外では、測定中に(a)PPS樹脂の酸化等が起こる場合や、実際に本発明のPPS樹脂組成物の成形加工で用いられる雰囲気と大きく異なるなど、実使用に即した測定になり得ない可能性が生じる。
【0080】
また、重量減少率の測定においては50℃から340℃以上の任意の温度まで昇温速度20℃/分で昇温して熱重量分析を行う。好ましくは50℃で1分間ホールドした後に昇温速度20℃/分で昇温して熱重量分析を行う。この温度範囲は本発明のPPS樹脂組成物を実使用する際に頻用される温度領域であり、また、固体状態の(a)PPS樹脂を溶融させ、その後任意の形状に成形する際に頻用される温度領域でもある。このような実使用温度領域における重量減少率は、実使用時の(a)PPS樹脂からのガス発生量や成形加工の際の口金や金型などへの付着成分量などに関連する。従って、このような温度範囲における重量減少率が少ない方が品質の高い優れた(a)PPS樹脂であるといえる。重量減少率の測定は約10mg程度の試料量で行うことが望ましく、またサンプルの形状は約2mm以下の細粒状であることが望ましい。
【0081】
分散度が2.5以下であり、重量減少率が0.2重量%以下の(a)PPS樹脂は、環式ポリアリーレンスルフィドを加熱することによって得ることができる。環式ポリアリーレンスルフィドとは式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とし、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有する下記一般式(Q)のごとき環式化合物の単量体もしくは混合物であり、
【0082】
【化3】
【0083】
(Q)式の環式化合物を少なくとも50重量%以上含むものであり、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上含むものが好ましい。環式ポリアリーレンスルフィド中に含まれる環式ポリアリーレンスルフィドの上限値には特に制限は無いが、98重量%以下、好ましくは95重量%以下が好ましい範囲として例示できる。通常、環式ポリアリーレンスルフィド中の環式ポリアリーレンスルフィドの重量比率が高いほど、加熱後に得られる(a)PPS樹脂の分子量が高くなる傾向にある。
【0084】
なお、環式ポリアリーレンスルフィドの特に好ましい前記(Q)式の環式化合物としては、主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位
【0085】
【化4】
【0086】
を80モル%以上、特に90モル%以上含有する環式化合物が挙げられる。
【0087】
環式ポリアリーレンスルフィドに含まれる前記(Q)式中の繰り返し数mに特に制限は無いが、4〜50が好ましく、4〜25がより好ましく、4〜15がさらに好ましい範囲として例示でき、8以上を主成分とする前記(Q)式環式化合物がよりいっそう好ましい。後述するように環式ポリアリーレンスルフィドの加熱によるポリアリーレンスルフィドへの転化は環式ポリアリーレンスルフィドが溶融解する温度以上で行うことが好ましいが、mが大きくなると環式ポリアリーレンスルフィドの溶融解温度が高くなる傾向にあるため、環式ポリアリーレンスルフィドの(a)PPS樹脂への転化をより低い温度で行うことができるようになるとの観点でmを前記範囲にすることは有利となる。mが7以下の環式化合物は反応性が低い傾向があるため、短時間で(a)PPS樹脂が得られるようになるとの観点でmを8以上にすることは有利となる。
【0088】
また、環式ポリアリーレンスルフィドに含まれる前記(Q)式の環式化合物は、単一の繰り返し数を有する単独化合物、異なる繰り返し数を有する環式化合物の混合物のいずれでもよいが、異なる繰り返し数を有する環式化合物の混合物の方が単一の繰り返し数を有する単独化合物よりも溶融解温度が低い傾向があり、異なる繰り返し数を有する環式化合物の混合物の使用は(a)PPS樹脂への転化を行う際の温度をより低くできるため好ましい。
【0089】
環式ポリアリーレンスルフィドにおける前記(Q)式の環式化合物以外の成分はポリアリーレンスルフィドオリゴマーであることが特に好ましい。ここでポリアリーレンスルフィドオリゴマーとは、式、−(Ar−S)−の繰り返し単位を主要構成単位とする、好ましくは当該繰り返し単位を80モル%以上含有する線状のホモオリゴマーまたはコオリゴマーである。これらの代表的なものとして、ポリフェニレンスルフィドオリゴマー、ポリフェニレンスルフィドスルホンオリゴマー、ポリフェニレンスルフィドケトンオリゴマー、これらのランダム共重合体、ブロック共重合体及びそれらの混合物などが挙げられる。特に好ましいポリアリーレンスルフィドオリゴマーとしては、ポリマーの主要構成単位としてp−フェニレンスルフィド単位を80モル%以上、特に90モル%以上含有するポリフェニレンスルフィドオリゴマーが挙げられる。
【0090】
ポリアリーレンスルフィドオリゴマーの分子量としては、ポリアリーレンスルフィドよりも低分子量のものが例示でき、具体的には重量平均分子量で10,000未満であることが好ましい。
【0091】
また、環式ポリアリーレンスルフィドの分子量の上限値は、重量平均分子量で10,000以下が好ましく、5,000以下が好ましく、3,000以下がさらに好ましく、一方、下限値は重量平均分子量で300以上が好ましく、400以上が好ましく、500以上がさらに好ましい。
【0092】
(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体
本発明で使用するポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体は、ポリエーテルイミドの繰り返し単位と、ポリシロキサンの繰り返し単位とからなる通常公知の共重合体が挙げられる。好ましくは、以下構造式(化5)で示される繰り返し単位および以下構造式(化6)で示される繰り返し単位からなる。
【0093】
【化5】
【0094】
【化6】
【0095】
なお、上記構造式(化5、6)中のTは、−O−または−O−Z−O−であり、2価の結合手は、3,3’−、3,4’−、4,3’−、4,4’−位にあり、Zは以下構造式(化7)で示される2価の基からなる群および以下構造式(化8)で示される2価の基からなる群より選択される。
【0096】
【化7】
【0097】
【化8】
【0098】
上記構造式(化8)中のXは、C1−5のアルキレン基またはそのハロゲン化誘導体、−CO−、−SO−、−O−、−S−からなる群から選択される。
【0099】
上記構造式(化5、化6)中のRは、6〜20個の炭素原子を有する芳香族炭化水素基およびそのハロゲン化誘導体、2〜20個の炭素原子を有するアルキレン基、3〜20個の炭素原子を有するシクロアルキレン基ならびに以下構造式(化9)で示される基からなる群より選択される2価の有機基である。ここで、QはC1−5のアルキレン基またはそのハロゲン化誘導体、−CO−、−SO−、−O−、−S−からなる群より選択される。
【0100】
【化9】
【0101】
上記構造式(化6)中のmおよびnはそれぞれ1〜10の整数であり、gは1〜40の整数である。
【0102】
また、特に好ましくは、上記構造式(化5、6)の構造にさらに以下構造式(化10)で示される繰り返し単位を含有する。
【0103】
【化10】
【0104】
なお、上記構造式(化10)中のMは、以下構造式(化11)で示される群より選択され(式中のBは−S−または−CO−)、R’は上記で定義したRと同様であるか、以下構造式(化12)で示される2価の基である(式中のmおよびnはそれぞれ1〜10の整数であり、gは1〜40の整数である)。
【0105】
【化11】
【0106】
【化12】
【0107】
上記したポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体の製造方法としては、以下構造式(化13)で示される芳香族ビス(エーテル無水物)と、以下構造式(化14)で示される有機ジアミンとからポリエーテルイミドを製造する公知の方法において、上記構造式(化14)の有機ジアミンの一部または全てを以下構造式(化15)で示されるアミン末端オルガノシロキサンで置き換えることにより製造される。
【0108】
【化13】
【0109】
【化14】
【0110】
【化15】
【0111】
なお、上記構造式(化13)中のT、構造式(化14)中のR、構造式(化15)中のn、m、gは上記で定義したものと同様である。
【0112】
本発明で使用するポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体は、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体のいずれでも良いが、中でもブロック共重合体が柔軟で優れた靱性を発現する上で好ましい。ポリ(エーテルイミド−シロキサン)ブロック共重合体としては、以下構造式(化16)に代表される化学構造が例示できる。
【0113】
【化16】
【0114】
ここで、上記構造式(化16)中のaは1〜10000の整数、nは1〜50の整数、mは2〜40の整数、Rは4価の芳香族基であって以下構造式(化17)から選択される。
【0115】
【化17】
【0116】
上記式(化17)中のTは、C1−5のアルキレン基またはそのハロゲン化誘導体、−CO−、−SO−、−O−、−S−、および−O−Z−O−の2価の基から選択される。なお、Zは前記と同様である。
【0117】
は前記したRと同様である。
【0118】
およびRはそれぞれ独自にC1−8のアルキル基、そのハロゲン置換またはニトリル置換誘導体およびC6−13のアリール基から選択される。
【0119】
上記したポリ(エーテルイミド−シロキサン)ブロック共重合体の製造方法としては、以下構造式(化18)の水酸基末端ポリイミドオリゴマーを以下構造式(化19)のシロキサンオリゴマーとエーテル化条件下で反応させる公知の方法が例示できる。
【0120】
【化18】
【0121】
【化19】
【0122】
但し、n、m、R〜Rは、前記の定義の通りである。また、上記構造式(化19)中のxは、上記構造式(化18)の水酸基末端ポリエーテルイミドオリゴマー中の水酸基との反応により置換されてエーテル結合を形成することの出来るハロゲン、ジアルキルアミノ基、アシル基、アルコキシ基、水素原子である。
【0123】
その他、ポリ(エーテルイミド−シロキサン)ブロック共重合体の製造方法としては、芳香族ビス(エーテル無水物)と、有機ジアミンとからポリエーテルイミドを製造する公知の方法において、反応剤を逐次的に添加することによっても勿論合成可能である。
【0124】
本発明で使用するポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体のガラス転移温度について、特に制限はないが、耐熱性と柔軟性の観点から、140℃以上220℃以下で有ることが好ましく、150℃以上210℃以下であることがより好ましく、160℃以上200℃以下で有ることがさらに好ましい。
【0125】
(c)オレフィン系エラストマー
本発明で用いられる(c)オレフィン系エラストマーは、オレフィン重合体もしくはオレフィン共重合体のどちらであっても良い。
【0126】
オレフィン重合体もしくは共重合体の例としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4ジメチル−1−ヘキセン、4,4ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、9−メチル−1−デセン、11−メチル−1−ドデセン、12−エチル−1−テトラデセンなどのα−オレフィン単独または2種以上を重合して得られる重合体、α−オレフィンとアクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどのα、β−不飽和カルボン酸およびそのアルキルエステルとの共重合体などが挙げられ、中でも、エチレンと炭素数3〜20のα−オレフィンとを共重合して得られるエチレン/α−オレフィン共重合体が、優れた柔軟性と高い靱性を付与する点で好ましい。
炭素数3〜20のα−オレフィンの具体例としては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−オクタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、9−メチル−1−デセン、11−メチル−1−ドデセン、12−エチル−1−テトラデセンおよびこれらの組み合わせが挙げられる。これらα−オレフィンの中でも炭素数4から12であるα−オレフィンを用いた共重合体がよりいっそう好ましい。
【0127】
その他、反応性の官能基を含有するオレフィンの重合体もしくは共重合体も挙げられる。
例えば、エポキシ基を含有するオレフィンとしては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、エタクリル酸グリシジル、イタコン酸グリシジル、シトラコン酸グリシジルなどが、カルボキシル基およびその塩、酸無水物基を含有するオレフィンの例としては、無水マレイン酸、無水フマル酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、エンドビシクロ−(2,2,1)−5−ヘプテン−2,3−ジカルボン酸無水物などが挙げられる。
【0128】
これらのエポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基などを含有する単量体成分を導入する場合の方法としては、重合時に共重合せしめたり、オレフィン重合体もしくはオレフィン共重合体にラジカル開始剤を用いてグラフト導入するなどの方法を用いることができる。
【0129】
エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基を含有する単量体成分を導入した場合、その導入量は、オレフィン系樹脂全体に対して0.001〜40モル%、好ましくは0.01〜35モル%の範囲内であるのが好ましい。
【0130】
本発明で特に有用なエポキシ基を含有するオレフィン系共重合体としては、α−オレフィンとα,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルを必須共重合成分とするオレフィン共重合体が挙げられる。上記α−オレフィンとしては、エチレンが好ましく挙げられる。また、これら共重合体にはさらに、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなどのα,β−不飽和カルボン酸およびそのアルキルエステル等を共重合することも可能である。
【0131】
本発明においては、α,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステル1〜30重量%を必須共重合成分とするオレフィン共重合体が好ましく、α,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステル5〜25重量%を必須共重合成分とするオレフィン共重合体がより好ましく、α,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステル15〜20重量%を必須共重合成分とするオレフィン共重合体が柔軟性とゲル化抑制の観点から更に好ましい。
【0132】
上記α,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルは、
【0133】
【化20】
【0134】
(Rは水素原子または低級アルキル基を示す)で示される化合物であり、具体的にはアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジルおよびエタクリル酸グリシジルなどが挙げられるが、中でもメタクリル酸グリシジルが好ましく使用される。α−オレフィンとα,β−不飽和カルボン酸のグリシジルエステルを必須共重合成分とするオレフィン共重合体の具体例としては、エチレン/プロピレン−g−メタクリル酸グリシジル共重合体(”g”はグラフトを表す、以下同じ)、エチレン/ブテン−1−g−メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体およびエチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体が挙げられる。中でも、エチレン/メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン/アクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体およびエチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸グリシジル共重合体から選ばれた共重合体が好ましく用いられる。
【0135】
更に具体的には、住友化学製“ボンドファースト”E(エチレン:グリシジルメタクリレート=88重量%:12重量%)、“ボンドファースト”2C(エチレン:グリシジルメタクリレート=94重量%:6重量%)、“ボンドファースト”7L(エチレン:グリシジルメタクリレート:メチルアクリレート=70重量%:3重量%:27重量%)、“ボンドファースト”7M(エチレン:グリシジルメタクリレート:メチルアクリレート=67重量%:6重量%:27重量%)、ボンドファースト”CG5001(エチレン:グリシジルメタクリレート=81重量%:19重量%)、アルケマ製“LOTADER”AX8900(エチレン:グリシジルメタクリレート:メチルアクリレート=68重量%:8重量%:24重量%)などが例示できる。
【0136】
本発明で特に有用なカルボキシル基、酸無水物基を含有するオレフィン系共重合体としては、炭素数6〜12のα−オレフィンを用いたエチレン・α−オレフィン共重合体に、カルボキシル基、酸無水物基が導入されたものが好ましく、中でもエチレン・1−ブテン共重合体、エチレン・プロピレン共重合体にカルボキシル基、酸無水物基が導入されたものがより好ましい。
【0137】
反応性官能基を有しないオレフィン(共)重合体と、反応性官能基を有するオレフィン(共)重合体を併用する際、優れた引張破断伸度を発現する観点からは、反応性官能基を有するオレフィン(共)重合体の配合割合を相対的に大きくすることが好ましい。具体的に、反応性官能基を有しないオレフィン(共)重合体と、反応性官能基を有するオレフィン(共)重合体の合計量を100重量%とした場合、反応性官能基を有するオレフィン(共)重合体の割合を20%以上とすることが好ましく、40%以上とすることがより好ましく、50%以上とすることが更に好ましい。反応性官能基を有するオレフィン(共)重合体の配合量の上限は特に限定されるものではなく、100重量%となっても特に問題無いが、増粘する可能性が有るので、所望の溶融粘度に従って適宜調整する必要がある。
【0138】
本発明の(c)オレフィン系樹脂は、ASTM−D1238に従って190℃、2160g荷重で測定したメルトフローレート(以下MFRと略す)が、0.01〜70g/10分であることが好ましく、さらに好ましくは0.03〜60g/10分である。MFRが0.01g/10分未満の場合は、樹脂組成物の流動性が低くなり好ましくない。MFRが70g/10分を超える場合は、成形品の形状によっては、その衝撃強度が低くなる場合もあり好ましくない。
【0139】
本発明の(c)オレフィン系樹脂の密度は850〜990kg/mが好ましい。密度が990kg/mを越えると靭性が低下する傾向を示し、好ましくない。密度が850kg/m未満ではハンドリング性が低下するため好ましくない。
【0140】
(d)アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基を有する化合物
本発明では、高靱性かつ耐熱老化性が飛躍的に向上したポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得るべく、(d)アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基を有する化合物を、相溶化剤として添加することが好ましい。但し、ここで言う相溶化剤には、前記した反応性官能基を含有する(c)オレフィン系エラストマーを含まない。
【0141】
エポキシ基含有化合物としてはビスフェノールA、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロカテコール、ビスフェノールF、サリゲニン、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン、ビスフェノールS、トリヒドロキシ−ジフェニルジメチルメタン、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、1,5−ジヒドロキシナフタレン、カシューフェノール、2,2,5,5,−テトラキス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサンなどのビスフェノール類のグリシジルエーテル、ビスフェノールの替わりにハロゲン化ビスフェノールを用いたもの、ブタンジオールのジグリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル系エポキシ化合物、フタル酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル系化合物、N−グリシジルアニリン等のグリシジルアミン系化合物等々のグリシジルエポキシ樹脂、エポキシ化大豆油等の線状エポキシ化合物、ビニルシクロヘキセンジオキサイド、ジシクロペンタジエンジオキサイド等の環状系の非グリシジルエポキシ樹脂などが挙げられる。
【0142】
またその他ノボラック型エポキシ樹脂も挙げられる。ノボラック型エポキシ樹脂はエポキシ基を2個以上有し、通常ノボラック型フェノール樹脂にエピクロルヒドリンを反応させて得られるものである。また、ノボラック型フェノール樹脂はフェノール類とホルムアルデヒドとの縮合反応により得られる。原料のフェノール類としては特に制限はないがフェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、ビスフェノールA、レゾルシノール、p−ターシャリーブチルフェノール、ビスフェノールF、ビスフェノールSおよびこれらの縮合物が挙げられる。
【0143】
さらにエポキシ基を有するアルコキシシランが挙げられる。かかる化合物の具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物などが例示できる。
【0144】
アミノ基含有化合物としてはアミノ基を有するアルコキシシランが挙げられる。かかる化合物の具体例としては、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物などが挙げられる。
【0145】
イソシアネート基含有化合物としては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,5−トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートなどのイソシアネート化合物やγ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリクロロシランなどのイソシアネート基含有アルコキシシラン化合物を例示することができる。
【0146】
中でも優れた靱性と耐熱老化性を達成する上で、イソシアネート基を1個以上含む化合物またはエポキシ基を1個以上含む化合物であることが好ましく、さらにはイソシアネート基を含有するアルコキシシランやエポキシ基を含有するアルコキシシランであることがより好ましい。
【0147】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物における(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂と(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体と(c)オレフィン系エラストマーとの配合割合は、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体が1〜150重量部、(c)オレフィン系エラストマーが1〜150重量部である必要がある。(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体が1重量部を下回る場合、十分な柔軟性、靱性が発現しないばかりか、耐熱老化性は著しく低下する。(c)オレフィン系エラストマーが1重量部を下回る場合、柔軟性が低く優れた靱性も発現しにくくなる。一方、(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体、(c)オレフィン系エラストマーが150重量部を超える場合、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂が本来有する耐熱性や耐薬品性、難燃性が低下するばかりか、溶融粘度が高くなり成形加工性が著しく劣るために好ましくない。(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体のより好ましい配合量としては、柔軟性、靱性のみならず、飛躍的に優れた耐熱老化性が発現する観点から、5〜100重量部が挙げられ、10〜85重量部が更に好ましく、20〜70重量部が最も好ましい。(c)オレフィン系エラストマーのより好ましい配合量としては、優れた柔軟性と高靱性を発現する観点から、5〜100重量部が挙げられ、耐熱老化性との高位バランス化の観点からは、10〜80重量部がより好ましく、15〜60重量部が更に好ましく、20〜30重量部が益々好ましい範囲として例示できる。特に、前述したメタクリル酸グリシジル共重合量が15%以上のα−オレフィン共重合体の様に結晶性が低く、柔軟性に優れる(c)オレフィン系エラストマーを選択した場合には、少ない配合量で柔軟性を付与することが可能であると同時に、耐熱老化性を向上できる点から、20〜25重量部が最も好ましい範囲として例示できる。
【0148】
本発明における(d)アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基を有する化合物の配合量としては、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対して、0.1〜30重量部が好ましく、0.3〜10重量部がより好ましく、0.5〜5重量部がさらに好ましい範囲として例示できる。配合量が0.1重量部を下回る場合、(a)ポリフェニレンスルフィド中における(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体、(c)オレフィン系エラストマーの分散性が劣るために好ましくなく、配合量が30重量部を超える場合には、溶融粘度が著しく増加するだけで無く、成形加工中にゲル状物が形成するために好ましくない。
【0149】
PPS樹脂組成物のモルフォロジー
本発明のPPS樹脂組成物は、PPS樹脂が本来有する優れた耐熱性、耐薬品性、難燃性を損なう事無く、柔軟性と靱性に優れると共に、飛躍的に耐熱老化性が向上したものである。かかる特性を発現するためには、図1で模式的に示す通り、電子顕微鏡により観察されるモルフォロジーにおいて、(a)PPS樹脂が連続相を、(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体が一次分散相を形成すると共に、この一次分散相内に(c)オレフィン系エラストマーが二次分散相を形成する必要がある。この様に、比較的耐熱性の劣る(c)オレフィン系エラストマーが、比較的耐熱性に優れる(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体の一次分散相中に、二次分散相として存在する事により、柔軟性、高靱性であるのみならず、これまでに無い優れた耐熱老化性が発現するのである。
【0150】
この場合、配合した(c)オレフィン系エラストマーの内の80体積%以上が、一次分散相では無く、二次分散相として、(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体からなる一次分散相中に存在する事が好ましく、更には(c)オレフィン系エラストマーの内の90体積%以上が、二次分散相として存在する事がより好ましい。二次分散相として存在する(c)オレフィン系エラストマーが80体積%を下回る場合、(c)オレフィン系エラストマーが一次分散相として存在する体積割合が増加することから、比較的耐熱老化性が劣るために好ましくない。
【0151】
ここで、二次分散相として存在する(c)オレフィン系エラストマーの体積%については、以下の方法により見積もる事ができる。まず、本発明のPPS樹脂組成物のペレットもしくは成形品について、その中心部から0.1μm以下の薄片を断面積方向に切削後、四酸化ルテニウムで染色し、透過型電子顕微鏡にて1000〜5000倍程度の倍率で相構造を撮影する。次いで、その撮影写真中における(c)オレフィン系エラストマー由来の任意の100個の分散粒子について、一次分散相を形成する(c)オレフィン系エラストマーの面積部分、二次分散相を形成する(c)オレフィン系エラストマーの面積部分を切り出して秤量した重量をそれぞれV1、V2としてから、V2/(V1+V2)の100分率を計算する。
【0152】
なお、(a)PPS樹脂、(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体、(c)オレフィン系エラストマーそれぞれの判別は、(a)PPS樹脂と(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体のみの組成物、(a)PPS樹脂と(c)オレフィン系エラストマーのみの組成物を、前記同様に相構造観察した際のコントラストから判断する事が出来る。
【0153】
また、高度な靱性を付与するためには、(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体からなる一次分散相の数平均分散粒子径が、1500nm以下である事が好ましく、1300nm以下がより好ましく、1000nm以下である事が更に好ましい。(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体からなる一次分散相の数平均分散粒子径が、1500nmを超えると、(a)PPS樹脂との界面から剥離を起こし易くなり、熱処理する以前の靱性が低下する傾向にあるため好ましくない。一次分散相について、数平均分散粒子径の下限は特に限定しないが、生産性の観点から50nm以上が好ましい。
【0154】
また、高度な柔軟性、靱性と共に、優れた耐熱老化性が発現するためには、(c)オレフィン系エラストマーからなる二次分散相の数平均粒子径が、1000nm以下である事が好ましく、900nm以下がより好ましく、800nm以下である事が更に好ましい。(c)オレフィン系エラストマーからなる二次分散相の数平均粒子径が1000nmを超えると、同量の添加量であっても弾性率が比較的高くなったり、引張伸びや衝撃強度を初めとする靱性が低くなる場合がある他、耐熱老化性がそれ程は向上し難くなるために好ましくない。二次分散相について、数平均分散粒子径の下限は特に限定しないが、生産性の観点から10nm以上が好ましい。
【0155】
なお、ここでいう数平均分散粒子径とは、本発明のPPS樹脂組成物ペレットまたは成形品の中心部から、0.1μm以下の薄片を断面積方向に切削後、四酸化ルテニウムで染色し、透過型電子顕微鏡にて1000〜5000倍程度の倍率で拡大して観察した際の任意の100個の、(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体もしくは(c)オレフィン系エラストマーの分散部分について、まずそれぞれの最大径と最小径を測定して平均値をその分散粒子径とし、その後それらの平均値を求めた数平均分散粒子径である。
【0156】
本発明のPPS樹脂組成物は、PPS樹脂が本来有する優れた耐熱性、耐薬品性、難燃性を損なう事無く、高度な柔軟性と靱性に優れると共に、飛躍的に耐熱老化性が向上したものである。ここで言う柔軟性とは、(長さ)125mm×(幅)12mm×(厚さ)6mmの曲げ試験片を、試験間距離100mm、クロスヘッド速度3mm/分の条件にて測定した際の曲げ弾性率によって定量する事が出来る。この曲げ弾性率が3.4GPa以下である事が好ましく、3.0GPa以下である事がより好ましく、1.5GPa以下である事がより一層好ましく、1.0GPa以下である事が更に好ましい。
【0157】
また、ここで言う靱性とは、ASTM1号ダンベル試験片を、試験間距離100mm、クロスヘッド速度10mm/分の条件にて測定した際の引張破断伸度によって定量する事が出来る。この引張伸度は30%以上である事が好ましく、50%以上である事がより好ましく、100%以上である事が更に好ましい。
【0158】
また、ここで言う耐熱老化性とは、空気中180℃にて500hr処理した後のASTM1号ダンベル試験片の引張破断伸度を、処理前の引張破断伸度で除した100分率で定義する引張伸度保持率により定量する事ができる。空気中180℃にて500hr処理した後のASTM1号ダンベル試験片の引張破断伸度は、5%以上が好ましく、20%以上がより好ましく、50%以上である事がさらに好ましい。引張破断伸度保持率は20%以上である事が好ましく、40%以上である事がより好ましく、50%以上である事が更に好ましい態様として例示できる。なお、引張破断伸度の測定方法については、前述した靱性の定量方法に準拠する。
【0159】
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の製造方法
本発明のPPS樹脂組成物を製造する方法としては、溶融状態での製造や溶液状態での製造等が可能であるが、簡便さの観点から、溶融状態での製造が好ましく使用できる。溶融状態での製造については、押出機による溶融混練や、ニーダーによる溶融混練等が使用できるが、生産性の観点から、連続的に製造可能な押出機による溶融混練が好ましく使用できる。押出機による溶融混練については、単軸押出機、二軸押出機、四軸押出機等の多軸押出機、二軸単軸複合押出機等の押出機を1台以上で使用できるが、混練性、反応性、生産性向上の点から、二軸押出機、四軸押出機等の多軸押出機が好ましく使用でき、二軸押出機による溶融混練が最も好ましい。
【0160】
本発明のPPS樹脂組成物を製造するより具体的な方法としては、必ずしもこの限りでは無いが、(a)PPS樹脂、(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体、(c)オレフィン系エラストマーを、二軸の押出機に供給して、(a)PPS樹脂の融点+5〜100℃の加工温度で溶融混練する方法を代表例として挙げることができる。
(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体の一次分散相内に、(c)オレフィン系エラストマーからなる二次分散相を形成するためには、せん断力を比較的強くする必要があることから、二軸押出機のスクリューアレンジ構成において、ニーディング部が3箇所以上、更に好ましくはニーディング部が4箇所以上配置されることがより好ましい。
ニーディング部箇所の上限としては、1箇所あたりのニーディング部の長さとニーディング部の間隔によって変化し得るが、10箇所以下が好ましく、8箇所以下がより好ましい。また、押出機のスクリュー全長に対するニーディング部の合計の長さの割合が、10〜60%の範囲が好ましく、より好ましくは15〜55%、さらには20〜50%の範囲が好ましい。
【0161】
二軸押出機のスクリュー長さLとスクリュー直径Dの比であるL/Dは、10以上が望ましく、20以上がより好ましく、30以上がさらに好ましい。二軸押出機のL/Dの上限は通常60である。この際の周速度としては、15〜50m/分の範囲が選択され、20〜40m/分がより好ましく選択される。二軸押出機のL/Dが10未満の場合には、混練部分が不足するため、(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体、(c)オレフィン系エラストマーの分散性が低下すると共に、(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体の一次分散相内に、(c)オレフィン系エラストマーからなる二次分散相が形成する特定の相分離構造を構築しにくくなる。
【0162】
更に、切り欠き部を有する撹拌スクリューを組み込んだスクリューアレンジを配して溶融混練する方法も好ましい方法として例示できる。ここで「切り欠き」とは、スクリューフライトの山部分を一部削って出来たものをいう。切り欠き部を有する撹拌スクリューは樹脂充填率を高くすることが可能であると共に、従来の樹脂をすりつぶす手法のニーディングとは異なり、発熱による樹脂の分解を抑制するのみならず、撹拌・掻き混ぜを主体とする混練を行うことが出来るため、(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体の一次分散相内に、(c)オレフィン系エラストマーからなる二次分散相が形成した特定の相分離構造が構築され易くなる。
【0163】
切り欠き部を有する撹拌スクリューとしては、樹脂充満による溶融樹脂の冷却効率向上、撹拌・混練性向上の観点から、スクリュー直径をDとするとスクリューピッチの長さが0.1D〜0.3D、かつ切り欠き数が1ピッチあたり10〜15個である切り欠き部を有する撹拌スクリューであることが好ましい。ここでスクリューピッチの長さとは、スクリューが360度回転したときの、スクリューの山部分間のスクリュー長さをいう。
【0164】
また、押出機のスクリュー全長に対する切り欠き部を有する撹拌スクリュー部の合計の長さの割合は、前記L/Dのうちの3〜20%であることが好ましく、5〜15%であることがより好ましい。
【0165】
スクリュー回転数については、本発明の特定の相構造を形成する観点から、150rpm以上が好ましく、200rpm以上がより好ましい。スクリュー回転数の上限については、特に制限されないが、押出機への負荷軽減の観点から1500rpm以下であることが好ましい。
【0166】
原料の混合順序については特に制限はなく、全ての原材料を配合後上記により溶融混練する方法、一部の原材料を配合後上記の方法により溶融混練し、これと更に残りの原材料を配合し溶融混練する方法、あるいは一部の原材料を配合後、2軸の押出機により溶融混練中にサイドフィーダーを用いて残りの原材料を混合する方法など、いずれの方法を用いてもよい。中でも、(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体と(c)オレフィン系エラストマーを溶融混練中に、サイドフィーダーを用いて(a)PPS樹脂と混合する方法は、(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体の一次分散相内に、(c)オレフィン系エラストマーからなる二次分散相が形成した特定の相分離構造を構築する上で有利である。また、(a)PPS樹脂と(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体を溶融混練中に、サイドフィーダーを用いて(c)オレフィン系エラストマーと混合する方法は、(c)オレフィン系エラストマーの熱劣化を抑制し、高度な柔軟性と靱性を付与する点で有利である。
【0167】
また、(a)PPS樹脂と、(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体の界面密着性を向上し、引張伸度をより一層向上するためには、一部の(a)PPS樹脂と、(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体とを予め溶融混練した後、残りの(a)PPS樹脂と、(c)オレフィン系エラストマーと更に溶融混練する手法が好ましく例示で出来る。この予め溶融混練する際、一部の(a)PPS樹脂と(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体との配合重量割合は、7:3〜1:9が好ましく、6:4〜2:8がより好ましく、4:6〜3:7が更に好ましい範囲として例示できる。
【0168】
この様に予め溶融混練する際の(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体量を、(a)PPS樹脂よりも相対的に多くすることにより、(a)PPS樹脂と(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体の界面密着性を向上するのみならず、残りの(a)PPS樹脂と(c)オレフィン系エラストマーと更に溶融混練する際、(c)オレフィン系エラストマーが、(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体からなる一次分散相中に、比較的小さな粒径で二次分散相を形成し易くなる。
【0169】
また、一部の(a)PPS樹脂と、(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体とを予め溶融混練する際に、(d)アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基を有する化合物を相溶化剤として添加する事が一層好ましい。なお、最終的な組成物を得る上で、一部の(a)PPS樹脂と、(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体と、(d)アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基を有する化合物とを予め溶融混練してペレット化した後、残りの(a)PPS樹脂と、(c)オレフィン系エラストマーと配合して更に溶融混練しても良いし、一部の(a)PPS樹脂と、(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体と、(d)アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基からなる群より選ばれる少なくとも一種の官能基を有する化合物とを予め溶融混練中に、サイドフィーダーを用いて残りの(a)PPS樹脂と、(c)オレフィン系エラストマーと更に溶融混練する事も可能である。
【0170】
その他、少量添加剤成分については、他の成分を上記の方法などで混練しペレット化した後、成形前に添加して成形に供することも勿論可能である。
【0171】
無機フィラー
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物には、必須成分ではないが、本発明の効果を損なわない範囲で無機フィラーを配合して使用することも可能である。かかる無機フィラーの具体例としてはガラス繊維、炭素繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、チタン酸カリウムウィスカ、酸化亜鉛ウィスカ、炭酸カルシウムウィスカー、ワラステナイトウィスカー、硼酸アルミニウムウィスカ、アラミド繊維、アルミナ繊維、炭化珪素繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維、石コウ繊維、金属繊維などの繊維状充填材、あるいはフラーレン、タルク、ワラステナイト、ゼオライト、セリサイト、マイカ、カオリン、クレー、パイロフィライト、シリカ、ベントナイト、アスベスト、アルミナシリケートなどの珪酸塩、酸化珪素、酸化マグネシウム、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属化合物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ドロマイトなどの炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの硫酸塩、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなどの水酸化物、ガラスビーズ、ガラスフレーク、ガラス粉、セラミックビーズ、窒化ホウ素、炭化珪素、カーボンブラックおよびシリカ、黒鉛などの非繊維状充填材が用いられ、なかでもガラス繊維、シリカ、炭酸カルシウムが好ましく、さらに炭酸カルシウムやシリカが、防食材、滑材の効果の点から特に好ましい。またこれらの無機フィラーは中空であってもよく、さらに2種類以上併用することも可能である。また、これらの無機フィラーをイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物およびエポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用してもよい。中でも炭酸カルシウムやシリカ、カーボンブラックが、防食材、滑材、導電性付与の効果の点から好ましい。
【0172】
かかる無機フィラーの配合量は、(a)ポリフェニレンスルフィド樹脂100重量部に対し、30重量部以下の範囲が選択され、10重量部未満の範囲が好ましく、1重量部未満の範囲がより好ましく、0.8重量部以下の範囲が更に好ましい。下限は特に無いが0.0001重量部以上が好ましい。無機フィラーの配合は材料の弾性率向上に有効である反面、30重量部を越えるような多量の配合は靱性の大きな低下をもたらすため、好ましくない。無機フィラーの含有量は、靱性と剛性のバランスから用途により適宜変えることが可能である。
【0173】
その他の添加物
さらに、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物には本発明の効果を損なわない範囲において、(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体、(c)オレフィン系エラストマー以外の樹脂を添加配合しても良い。その具体例としては、ポリアミド樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリアリルサルフォン樹脂、ポリケトン樹脂、ポリアリレート樹脂、液晶ポリマー、ポリエーテルケトン樹脂、ポリチオエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、四フッ化ポリエチレン樹脂などが挙げられる。
【0174】
また、改質を目的として、以下のような化合物の添加が可能である。ポリアルキレンオキサイドオリゴマ系化合物、チオエーテル系化合物、エステル系化合物、有機リン系化合物などの可塑剤、有機リン化合物、ポリエーテルエーテルケトンなどの結晶核剤、モンタン酸ワックス類、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸アルミ等の金属石鹸、エチレンジアミン・ステアリン酸・セバシン酸重縮合物、シリコーン系化合物などの離型剤、次亜リン酸塩などの着色防止剤、(3,9−ビス[2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン)などの様なフェノール系酸化防止剤、(ビス(2,4−ジ−クミルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト)などのようなリン系酸化防止剤、その他、水、滑剤、紫外線防止剤、着色剤、発泡剤などの通常の添加剤を配合することができる。上記化合物は何れも組成物全体の20重量%を越えると(a)PPS樹脂本来の特性が損なわれるため好ましくなく、10重量%以下、更に好ましくは1重量%以下の添加がよい。
【0175】
本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、射出成形、押出成形、圧縮成形、吹込成形、射出圧縮成形など、各種成形手法により成形可能であるが、中でも射出成形用途として有用である。また、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、柔軟で引張破断伸度に極めて優れると共に、耐熱老化性に優れる特徴から、比較的成形加工温度が高く、溶融滞留時間の長い押出成形用途としても有用である。更に、本発明のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、メルトテンションや伸張粘度などの特性にも優れる特徴から、吹込(ブロー)成形用途としても有用である。具体的には、押出ブロー、射出ブロー、シートブローの他、三次元ブローやサクションブローなどの多次元ブローなどが挙げられる。また、種々特性を複合的に付与する観点から、二種二層、三種三層、二種五層などの多層ブローとして設計する事も好適である。

射出成形により得られる成形品の用途としては、発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバーター、継電器、電力用接点、開閉器、機遮断機、ナイフスイッチ、他極ロッド、電気部品キャビネットなどの電気機器部品、センサー、LEDランプ、コネクター、ソケット、抵抗器、リレーケース、小型スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品等に代表される電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスク等の音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品等に代表される家庭・事務電気製品部品;オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品:顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計等に代表される光学機器・精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター、ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンシオメーターベース、排気ガスバルブ等の各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプとダクト、ターボダクト、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケース等の自動車・車両関連部品、携帯電話、ノート型パソコン、ビデオカメラ、ハイブリッド自動車、電気自動車などの一次電池または二次電池用のガスケット等々を例示できる。
【0176】
押出成形により得られる成形品としては、丸棒、角棒、シート、フィルム、チューブ、パイプなどが挙げられ、更に具体的な用途としては、給湯器モーター、エアコンモーター、駆動モーター用などの電気絶縁材料、フィルムコンデンサー、スピーカー振動板、記録用の磁気テープ、プリント基板材料、プリント基板周辺部品、半導体パッケージ、半導体搬送トレイ、工程・離型フィルム、保護フィルム、自動車用フィルムセンサー、ワイヤーケーブルの絶縁テープ、リチウムイオン電池内の絶縁ワッシャー、熱水や冷却水、化学薬品用のチューブ、自動車用の燃料チューブ、熱水配管、化学プラントなどの薬品配管、超純水や超高純度溶媒用の配管、自動車配管、フロンや超臨界二酸化炭素冷媒用の配管パイプ、研磨装置用のワークピース保持リングなどが例示できる。その他、ハイブリッド自動車や電気自動車、鉄道、発電設備のモーターコイル用巻線の被覆成形体、家電用の耐熱電線ケーブル、自動車内の配線に使用されるフラットケーブル等のワイヤーハーネスやコントロールワイヤー、通信、伝送用、高周波用、オーディオ用、計測用などの信号用トランスまたは車載用トランスの巻線の被覆成形体などが例示できる。
【0177】
吹込(ブロー)成形により得られる成形品の用途としては、自動車用の燃料タンク、オイルタンク、レゾネーター、インタークーラー、インテークマニホールド、ターボダクト、吸排気ダクト、ラジエターパイプ、ラジエターヘッダー、エクスパンジョンタンク、オイル循環パイプなどが例示できる。
【0178】
中でも、ハイブリッド自動車や電気自動車、鉄道、発電設備のモーターコイル用巻線の被覆成形体や、高温環境下に晒される自動車の燃料関係・排気系・吸気系各種パイプとダクト、とりわけターボダクトとして有用である。
【0179】
これら各種成形品は、熱板溶着、レーザー溶着、誘導加熱溶着、高周波溶着、スピン溶着、振動溶着、超音波溶着、射出溶着などの二次加工に供する事も勿論可能である。
【実施例】
【0180】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれのみに限定されるものではない。
【0181】
以下の実施例において、材料特性については次の方法により評価した。
【0182】
[射出成形]
住友重機械製射出成形機SE75−DUZを用い、樹脂温度320℃、金型温度150℃とする条件にて、ASTM1号ダンベル試験片および(長さ)125mm×(幅)12mm×(厚さ)6mmの曲げ試験片を成形した。
【0183】
[相構造観察]
前記、射出成形したASTM1号ダンベル試験片の中央部を樹脂の流れ方向に対して直角方向に切断し、その断面の中心部から、−20℃で0.1μm以下の薄片を切削した後、四酸化ルテニウムにより染色した。これを日立製作所製H−7100型透過型電子顕微鏡(分解能(粒子像)0.38nm、倍率50〜60万倍)にて、1000〜5000倍に拡大して写真撮影し、相構造の形成を確認した。
【0184】
(a)PPS樹脂、(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体、(c)オレフィン系エラストマーそれぞれの判別は、(a)PPS樹脂と(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体のみの組成物、(a)PPS樹脂と(c)オレフィン系エラストマーのみの組成物を、前記同様に相構造観察した際のコントラストから判断した。
(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体が一次分散相を形成し、この一次分散相内に(c)オレフィン系エラストマーが二次分散相を形成する場合、二次分散相として存在する(c)オレフィン系エラストマーの体積%は、次の方法により見積もった。即ち、前記の通り相構造を観察した撮影写真中における、(c)オレフィン系エラストマー由来の任意の100個の分散粒子について、一次分散相を形成する(c)オレフィン系エラストマーの面積部分、二次分散相を形成する(c)オレフィン系エラストマーの面積部分を切り出して秤量した重量をそれぞれV1、V2としてから、V2/(V1+V2)の100分率を計算した。
【0185】
(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体からなる一次分散相、(c)オレフィン系エラストマーからなる二次分散相の数平均分散粒子径については、前記の通り相構造を観察した撮影写真における(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体もしくは(c)オレフィン系エラストマーの任意の分散粒子100個について、まずそれぞれの最大径と最小径を測定して平均値をその分散粒子径とし、その後それらの数平均値を計算する事により求めた。
【0186】
[アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属含有量]
(a)PPS樹脂または前記の射出成形したPPS樹脂組成物5gを500℃の電気炉で灰化した後、0.1規定塩酸水溶液、0.1%塩化ランタン水溶液で希釈した水溶液を試料とし、島津製作所製原子吸光分光光度計AA−6300を用いた原子吸光法により測定した。
【0187】
[乾熱処理]
前記、射出成形により得られたASTM1号ダンベル試験片を180℃に設定したギヤオーブンに入れ、500時間処理してから室温で24hr以上放冷した。
【0188】
[引張試験]
前記、射出成形した乾熱処理前後のASTM1号ダンベルについて、テンシロンUTA2.5T引張試験機を用い、チャック間距離114mm、試験間距離100mm、引張速度10mm/minの条件で引張破断伸度を測定した。
【0189】
また、乾熱処理後の引張破断伸度を乾熱処理前の引張破断伸度で除した100分率を引張破断伸度保持率として計算した。
【0190】
[曲げ試験]
前記、射出成形した曲げ試験片について、インストロン製5561型曲げ試験機を用い、試験間距離100mm、クロスヘッドスピード3mm/分の条件にて曲げ試験を行った。
【0191】
[参考例1]PPS樹脂(a)−1
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8267.37g(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2957.21g(70.97モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11434.50g(115.50モル)、酢酸ナトリウム2583.00g(31.50モル)、及びイオン交換水10500gを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14780.1gおよびNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0192】
次にp−ジクロロベンゼン10235.46g(69.63モル)、NMP9009.00g(91.00モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で238℃まで昇温した。238℃で95分反応を行った後、0.8℃/分の速度で270℃まで昇温した。270℃で100分反応を行った後、1260g(70モル)の水を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後200℃まで1.0℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷した。
【0193】
内容物を取り出し、26300gのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別し、得られた粒子を31900gのNMPで洗浄、濾別した。これを、56000gのイオン交換水で数回洗浄、濾別した後、0.05重量%酢酸水溶液70000gで洗浄、濾別した。70000gのイオン交換水で洗浄、濾別した後、得られた含水PPS粒子を80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。得られた(a)−1は、溶融粘度が200Pa・s(310℃、剪断速度1000/s)、アルカリ金属とアルカリ土類金属の合計含有量が65ppmであった。
【0194】
[参考例2]PPS樹脂(a)−2
PPS洗浄時における0.05重量%酢酸水溶液を0.05重量%酢酸カルシウム一水和物水溶液とした以外は、参考例1と同様にして脱水、重合、洗浄、乾燥を行った。得られた(a)−2は、溶融粘度が280Pa・s(310℃、剪断速度1000/s)、アルカリ金属とアルカリ土類金属の合計含有量が320ppmであった。
【0195】
[参考例3]PPS樹脂(a)−3
攪拌機を具備したステンレス製オートクレーブに、水硫化ナトリウムの48重量%水溶液を14.03g(0.120モル)、96%水酸化ナトリウムを用いて調製した48重量%水溶液12.50g(0.144モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)615.0g(6.20モル)、及びp−ジクロロベンゼン(p−DCB)18.08g(0.123モル)を仕込んだ。反応容器内を十分に窒素置換した後、窒素ガス下に密封した。
【0196】
400rpmで撹拌しながら、室温から200℃まで約1時間かけて昇温した。この段階で、反応容器内の圧力はゲージ圧で0.35MPaであった。次いで200℃から270℃まで約30分かけて昇温した。この段階の反応容器内の圧力はゲージ圧で1.05MPaであった。270℃で1時間保持した後、室温近傍まで急冷してから内容物を回収した。
【0197】
得られた内容物をガスクロマトグラフィー及び高速液体クロマトグラフィーにより分析した結果、モノマーのp−DCBの消費率は93%、反応混合物中のイオウ成分がすべて環式PPSに転化すると仮定した場合の環式PPS生成率は18.5%であることがわかった。
【0198】
得られた内容物500gを約1500gのイオン交換水で希釈したのちに平均目開き10〜16μmのガラスフィルターで濾過した。フィルターオン成分を約300gのイオン交換水に分散させ、70℃で30分攪拌し、再度前記同様の濾過を行う操作を計3回行い、白色固体を得た。これを80℃で一晩真空乾燥し、乾燥固体を得た。
【0199】
得られた固形物を円筒濾紙に仕込み、溶剤としてクロロホルムを用いて約5時間ソックスレー抽出を行うことで固形分に含まれる低分子量成分を分離した。
抽出操作後に円筒濾紙内に残留した固形成分を70℃で一晩減圧乾燥しオフホワイト色の固体を約6.98g得た。分析の結果、赤外分光分析における吸収スペクトルよりこれはフェニレンスルフィド構造からなる化合物であり、また、重量平均分子量は6,300であった。
【0200】
クロロホルム抽出操作にて得られた抽出液から溶媒を除去した後、約5gのクロロホルムを加えてスラリーを調製し、これを約300gのメタノールに攪拌しながら滴下した。これにより得られた沈殿物を濾過回収し、70℃で5時間真空乾燥を行い、1.19gの白色粉末を得た。この白色粉末は赤外分光分析における吸収スペクトルよりフェニレンスルフィド単位からなる化合物であることを確認した。また、高速液体クロマトグラフィーにより成分分割した成分のマススペクトル分析(装置;日立製M−1200H)、さらにMALDI−TOF−MSによる分子量情報より、この白色粉末はp−フェニレンスルフィド単位を主要構成単位とし繰り返し単位数4〜13の環式化合物を約98重量%含み、本発明のポリアリーレンスルフィドの製造に好適に用いられる環式ポリフェニレンスルフィド混合物であることが判明した。なお、GPC測定を行った結果、環式ポリフェニレンスルフィド混合物は室温で1−クロロナフタレンに全溶であり、重量平均分子量は900であった。
【0201】
上記の方法で得られた環式ポリフェニレンスルフィド混合物2gをガラス製アンプルに仕込み、アンプル内を窒素で置換した。340℃に温調した電気炉内にアンプルを設置し60分間加熱した後、アンプルを取り出し室温まで冷却し、黒色固体を得た。生成物は1−クロロナフタレンに250℃で全溶であった。HPLC測定の結果、環式ポリフェニレンスルフィドのPPSへの転化率は96.5%であることがわかった。得られたPPS樹脂(a)−3の重量平均分子量は76,000、分散度は2.11であることがわかった。得られた生成物のNa含有量は3ppm、100℃〜330℃の加熱時重量減少率は0.089%であった。
【0202】
[参考例4]ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体(b)−1
市販のポリ(エーテルイミド−シロキサン)ブロック共重合体(SABICイノベーティブプラスチックス製“SILTEM1500”)を用いた。ガラス転移温度は170℃であった。
【0203】
[参考例5]ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体(b)−2
市販のポリ(エーテルイミド−シロキサン)ブロック共重合体(SABICイノベーティブプラスチックス製“SILTEM1700”)を用いた。ガラス転移温度は200℃であった。
【0204】
[参考例6]オレフィン系エラストマー(c)−1
オレフィン系エラストマーの合計を100重量%とした場合、エチレン・1−ブテン共重合体(三井化学製“タフマー”TX610)を60重量%、エチレン・グリシジルメタクリレート共重合体(住友化学製“ボンドファースト”E、エチレン:グリシジルメタクリレート=88重量%:12重量%)を40重量%の割合でブレンドしたものを用いた。
【0205】
[参考例7]オレフィン系エラストマー(c)−2
オレフィン系エラストマーの合計を100重量%とした場合、エチレン・1−ブテン共重合体(三井化学製“タフマー”TX610)を40重量%、エチレン・グリシジルメタクリレート共重合体(住友化学製“ボンドファースト”E、エチレン:グリシジルメタクリレート=88重量%:12重量%)を60重量%の割合でブレンドしたものを用いた。
【0206】
[参考例8]オレフィン系エラストマー(c)−3
オレフィン系エラストマーの合計を100重量%とした場合、エチレン・1−ブテン共重合体(三井化学製“タフマー”TX610)を40重量%、エチレン・グリシジルメタクリレート・メチルアクリレート共重合体(アルケマ製“LOTADER”AX8900、エチレン:グリシジルメタクリレート:メチルアクリレート=68重量%:8重量%:24重量%)を60重量%の割合でブレンドしたものを用いた。
【0207】
[参考例9]オレフィン系エラストマー(c)−4
エチレン・グリシジルメタクリレート共重合体(住友化学製“ボンドファースト”E、エチレン:グリシジルメタクリレート=88重量%:12重量%)を用いた。
【0208】
[参考例10]オレフィン系エラストマー(c)−5
エチレン・グリシジルメタクリレート共重合体(住友化学製“ボンドファースト”CG5001、エチレン:グリシジルメタクリレート=81重量%:19重量%)を用いた。
【0209】
[参考例11]相溶化剤(d)
エポキシ基を有するシランカップリング剤として2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(信越化学工業製KBM−303)を用いた。
【0210】
[実施例1〜7、11〜12、比較例1〜4]
表1、表3に示す(a)PPS樹脂と(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体と(c)ポリオレフィン系エラストマーと(d)相溶化剤を、表1、表3に示す割合でドライブレンドした後、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45、ニーディング部3箇所、L/Dに対する切り欠き部を有するスクリューの割合10%)を用い、スクリュー回転数300rpmにて、ダイス出樹脂温度が330℃以下となるようにシリンダー温度を設定して溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。
130℃で一晩乾燥したペレットを射出成形に供し、成形片の相分離構造、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の含有量、熱処理前後の引張破断伸度、引張破断伸度保持率、曲げ弾性率を評価した。結果は表1、表3に示す通りであった。
【0211】
[実施例8]
(d)相溶化剤を添加しない以外は、実施例1と同様に溶融混練、ペレット化、成形品の特性評価を行った。結果は表1に示す通りであった。
【0212】
[実施例9]
二軸押出機のニーディング部を5箇所、L/Dに対する切り欠き部を有するスクリューの割合を0%にした以外は、実施例1と同様に溶融混練、ペレット化、成形品の特性評価を行った。結果は表1に示す通りであった。
【0213】
[実施例10]
二軸押出機のスクリュー回転数を150rpmとした以外は、実施例1と同様に溶融混練、ペレット化、成形品の特性評価を行った。結果は表1に示す通りであった。
【0214】
[実施例13〜14]
表2に示す(a)PPS樹脂100重量部のうち55重量部と、(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体35重量部と、(d)相溶化剤2重量部をドライブレンドした後、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45、ニーディング部3箇所、L/Dに対する切り欠き部を有するスクリューの割合10%)を用い、スクリュー回転数300rpmにて、ダイス出樹脂温度が330℃以下となるようにシリンダー温度を設定して予め溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。
【0215】
次いで、得られたペレットと、表2に示す(a)PPS樹脂100重量部のうち残りの45重量部と、(c)オレフィン系エラストマー45重量部をドライブレンドした後、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45、ニーディング部3箇所、L/Dに対する切り欠き部を有するスクリューの割合10%)を用い、スクリュー回転数300rpmにて、ダイス出樹脂温度が330℃以下となるようにシリンダー温度を設定して溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。
130℃で一晩乾燥したペレットを射出成形に供し、成形片の相分離構造、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の含有量、熱処理前後の引張破断伸度、引張破断伸度保持率、曲げ弾性率を評価した。結果は表2に示す通りであった。
【0216】
[実施例15]
表2に示す(a)PPS樹脂100重量部のうち15重量部と、(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体35重量部と、(d)相溶化剤2重量部をドライブレンドした後、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45、ニーディング部3箇所、L/Dに対する切り欠き部を有するスクリューの割合10%)を用い、スクリュー回転数300rpmにて、ダイス出樹脂温度が330℃以下となるようにシリンダー温度を設定して予め溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。
【0217】
次いで、得られたペレットと、表2に示す(a)PPS樹脂100重量部のうち残りの85重量部と、(c)オレフィン系エラストマー45重量部をドライブレンドした後、真空ベントを具備した日本製鋼所製TEX30α型二軸押出機(L/D=45、ニーディング部3箇所、L/Dに対する切り欠き部を有するスクリューの割合10%)を用い、スクリュー回転数300rpmにて、ダイス出樹脂温度が330℃以下となるようにシリンダー温度を設定して溶融混練し、ストランドカッターによりペレット化した。
130℃で一晩乾燥したペレットを射出成形に供し、成形片の相分離構造、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の含有量、熱処理前後の引張破断伸度、引張破断伸度保持率、曲げ弾性率を評価した。結果は表2に示す通りであった。
【0218】
[実施例16]
(c)オレフィン系エラストマーを(c)−5とし、配合量を25重量部とした以外は、実施例14と同様に溶融混練、ペレット化、成形品の特性評価を行った。結果は表2に示す通りであった。
【0219】
[比較例5]
二軸押出機のニーディング部を2箇所、L/Dに対する切り欠き部を有するスクリューの割合を0%、スクリュー回転数を100rpmとした以外は、実施例1と同様に溶融混練、ペレット化、成形品の特性評価を行った。結果は表3に示す通りであった。
【0220】
上記実施例と比較例の結果を比較して説明する。
【0221】
【表1】
【0222】
【表2】
【0223】
【表3】
【0224】
実施例1〜16では、(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体が一次分散相を形成すると共に、その一次分散相内に(c)オレフィン系エラストマーが二次分散相を形成する特定の相構造を構築する事により、高度な柔軟性と靱性が発現すると共に、乾熱処理前後の引張破断伸度保持率が高く、飛躍的に優れた耐熱老化性を示した。
【0225】
特に、実施例11〜12では、反応性官能基を有する(c)オレフィン系エラストマーの配合割合を増加することによって、熱処理前の引張破断伸度が飛躍的に向上すると共に、熱処理後の引張破断伸度も改善された。
【0226】
また、実施例13〜15では、(a)PPS樹脂の一部と、(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体と、(d)相溶化剤を予め溶融混練した後、残りの(a)PPS樹脂と、(c)オレフィン系エラストマーと更に溶融混練する事により、熱処理前後の引張破断伸度がより一層向上した。
【0227】
更に、グリシジルメタクリレート共重合量の多い(c)−4を選択した実施例16では、(c)オレフィン系エラストマーの配合量が比較的少なくとも、同様の柔軟性を付与する事ができ、これにより熱処理後の引張破断伸度が益々向上した。
【0228】
一方、比較例1〜3の様に、(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体を配合しない場合、(c)オレフィン系エラストマーの配合量によっては、比較的優れた柔軟性と靱性が乾熱処理前には発現するものの、乾熱処理後の引張破断伸度は極めて低く、引張破断伸度保持率も同様に低いものであった。
【0229】
反対に、比較例4の様に、(c)オレフィン系エラストマーを配合しない場合、乾熱処理前には高い靱性が発現するものの、柔軟性は不十分であり、乾熱処理前後の引張破断伸度保持率は実施例1〜10に比較すると低いものであった。
【0230】
また、比較例5の様に、(c)オレフィン系エラストマーが二次分散相を形成せず、(b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体、(c)オレフィン系エラストマーのいずれもが一次分散相を形成する場合には、比較的優れた柔軟性と靱性が乾熱処理前には発現するものの、乾熱処理前後の引張破断伸度保持率は、比較例1〜3と同様に極めて低かった。
【符号の説明】
【0231】
1 (a)PPS樹脂連続相
2 (b)ポリ(エーテルイミド−シロキサン)共重合体からなる一次分散相
3 (c)オレフィン系エラストマーからなる二次分散相
図1