(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来のニッケル水素、鉛蓄電池といった水系電池は、水の電気分解電圧による制約からセル単位の電圧は1.2V程度が限界であった。しかし昨今は、携帯機器の小型化や自然発電エネルギーの有効活用が必要とされており、より高い電圧が得られエネルギー密度が高いリチウムイオン電池の必要性が増してきている。このようなリチウムイオン電池に用いられる包装材として、従来は金属製の缶が多く用いられてきたが、適用する製品の薄型化や多様化等の要求に対し、製造コストが低い等の理由から、アルミニウム箔に樹脂フィルムを積層した材料を袋状に成形したラミネート包装材が多く用いられるようになってきた。
充放電を行う集電体等の発電要素と、上記ラミネート包装材とを組み合わせて形成した二次電池は、電池パックもしくは電池セルとも呼ばれる。
【0003】
図7に、一般的な電池パックを斜視図で示す。この電池パック150は、図示しない発電要素がラミネート包装材(以下、「本体包装材」と称する。)152で密封された電池本体151と、電池本体151から電力が供給される電極端子であるタブ153とを備えている。
【0004】
図8は、タブ153を示す斜視図である。タブ153は、金属端子であるリード154と、リード154の外周面の一部を覆う二次電池用端子被覆樹脂フィルム155とを有している。二次電池用端子被覆樹脂フィルムは「タブシーラント」とも呼ばれるため、本明細書では、以降、二次電池用端子被覆樹脂フィルムを「タブシーラント」と称することがある。
【0005】
タブ153において、リード154の第一の端部154Aは、本体包装材152内の発電要素と電気的に接続され、第二の端部154Bは導電性を有し、電力を供給する対象の外部機器等と接続できるように、少なくとも第二の端部154Bの外面の一部が露出される。タブシーラント155において、少なくとも端部154Aの一部は、本体包装材152に被覆される。
【0006】
タブシーラントにはいくつかの特性が求められる。
第一は、タブシーラントとリードおよび本体包装材との密着性である。タブシーラントとリード、あるいはタブシーラントと本体包装材との間に隙間があると、電池パックの作製時あるいは作製後に液漏れや剥離が発生する可能性がある。
第二は、絶縁性の確保である。リードは電池からの電流取り出し端子であるので、タブシーラントで覆うことにより、リードと他の部材との間の絶縁性を維持する必要がある。
すなわち、タブシーラントとしては、タブシーラントとリードとの密着性および絶縁性の確保に優れたものが好ましく、リードの周囲を隙間なく覆う、封止性の高いものが好ましい。
【0007】
上記の特性を満足させるため、特許文献1では、酸変性ポリプロピレンを介して3層構造のフィルムをリードに接着している。また、特許文献2では、3層構成のタブシーラントの中間層の融点を高くし、絶縁性を確保すると共に、相対的に融点の低い厚さ方向両側の表層によって、タブシーラントとリード端子及び包装材との密着を確保しようとしている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態について、
図1から
図5を参照して説明する。
図1は、本実施形態の二次電池である電池パック1を示す斜視図である。電池パック1の特徴は本体包装材およびタブシーラント(二次電池用端子被覆樹脂フィルム)にあるため、外見は
図7に示した一般的な電池パック150と大きく変わらない。
【0017】
電池パック1は、充放電を行う発電要素11が本体包装材12で包まれた電池本体10と、電池本体に取り付けられて電極端子として機能するタブ20とを備えている。発電要素11としては、二次電池に用いられる公知の各種の発電要素を、適宜選択して用いることができる。
【0018】
本体包装材12は、発電要素11に接触する内層、電池本体10の外面である外層、および金属等で形成されたバリア層を備えるものであればよく、具体的構成は適宜変更することができる。
【0019】
図3に、本体包装材12の層構成の一例を示す。この例では、本体包装材は、発電要素11に接触する内側から、内層31、内層側接着剤層32、腐食防止処理層33、バリア層34、腐食防止処理層33、外層側接着剤層35、外層36が順に積層された7層構造である。
【0020】
内層31を構成する成分としては、例えば、ポリオレフィン樹脂または、ポリオレフィン樹脂に無水マレイン酸などをグラフト変成させた酸変成ポリオレフィン樹脂が挙げられる。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、低密度、中密度、および高密度のポリエチレン;エチレン−αオレフィン共重合体;ホモ、ブロック、またはランダムポリプロピレン;プロピレン−αオレフィン共重合体などが挙げられる。これらポリオレフィン樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、内層31は、必要とされる機能に応じて、単層フィルムや、複数の層を積層させた多層フィルムを用いて形成されてもよい。例えば、防湿性を付与すために、エチレン−環状オレフィン共重合体やポリメチルペンテンなどの樹脂を介在させた多層フィルムを用いてもよい。さらに、内層31は各種添加剤、例えば、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤などを配合して形成されてもよい。内層31の厚さは、10〜150マイクロメートル(μm)が好ましく、30〜80μmがより好ましい。内層31の厚さが10μm未満の場合は、本体包装材どうしのヒートシール密着性、内層31とタブシーラントとの密着性が低下する恐れがあり、内層31の厚さが150μmを超える場合は、コスト増加の要因となるため、いずれも好ましくない。
【0021】
内層側接着剤層32としては、一般的なドライラミネーション用接着剤や、酸変性された熱融着性樹脂など公知の材料を適宜選択して用いることができる。
腐食防止処理層33はバリア層34の表裏(表面、裏面)に形成する事が性能上好ましいが、コスト面を考慮して、内層側31側の面のみに設けてもよい。
バリア層34の材料としてはアルミニウム、ステンレス鋼などが挙げられるが、コストや重量(密度)等の観点からはアルミニウムが好適である。
外層側接着剤層35としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリルポリオール等を主剤としたポリウレタン系など一般的な接着剤を用いることができる。
外層36としては、ナイロンやポリエチレンテレフタレート(PET)などの単膜および多層膜を用いることができる。内層31と同様に、各種添加剤、例えば、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤などが外層36に配合されてもよい。また、外層36は、液漏れ時の対策として電解液に不溶な樹脂をラミネートしたり、電解液に不溶な樹脂成分をコーティングしたりすることにより保護層を設けた構成にしてもよい。
【0022】
図2は、タブ20を示す斜視図である。タブ20は、導電性を有するリード(端子)21と、リード21の外周面の一部を覆うように配置されるタブシーラント40とを備えている。
リード21の材質としては金属が一般的であるが、具体的材質は、発電要素11の材質や構造等を考慮して決められるのが好ましい。例えばリチウムイオン電池では、発電要素11として、通常正極の集電体にアルミニウムが用いられ、負極の集電体には銅が用いられる。この場合は、リードも集電体と同様に、正極端子はアルミニウムを用いることが好ましく、電解液への耐食性を考慮して1N30等の純度97%以上のアルミニウム素材を用いる事が好適である。タブ20と本体包装材12とを熱溶着させる(後述)部位では、リード21が屈曲される場合もあるため、柔軟性を付加する目的で、アルミニウム素材として十分な焼鈍により調質したO材を用いることが好ましい。アルミニウム以外のリードに用いる素材としては、ステンレス鋼など、電解液に腐食され難い金属を用いることも可能である。
負極端子は耐食性の面から未処理の銅を用いることは少なく、ニッケルめっきを施した銅、ニッケル、またはステンレス鋼を用いることが好ましい。
ニッケル素材としては、NW2200などの常炭素ニッケル等を用いることが出来る。
ニッケル素材の調質については、正極と同様に柔軟性を付与する目的で、ニッケル素材として十分な焼鈍により調質したO材を用いることが好ましい。
リード21の膜厚については、二次電池のサイズや容量にもよるが、小型用途の電池の場合では50μm以上、蓄電・車載用途等の大型用途の電池の場合などでは、100μm〜500μmとされる場合もある。タブとしての電気抵抗の低減が求められる場合は、リード膜厚をさらに増加させてもよい。
リード21の幅については、組み込まれる発電要素のサイズに依存するが、小型用途では、3〜15mm程度の幅を有するリードが、一般的に用いられる。また、大型用途では、15〜100mm程度の幅を有するリードが用いられるが、100mm以上となる場合もある。リードの厚み・幅は用いられる、発電要素のサイズや電流量に応じて適宜選択される。具体的には、大電流が流れる発電要素ほどリードの断面積を増加させる。
リード21の外面には腐食防止処理を行う事が有効である。リチウムイオン電池のような二次電池においては、電解液にLiPF
6等の腐食成分が含まれてしまう為、リードには腐食防止処理が必須である。本実施形態においても、リード21の外面に腐食防止層22が形成されている(
図4参照)。
リード表面処理としては、クロメート処理やノンクロメート処理などが用いられる。リード表面処理により、リード外面の耐食性を付与すると共に、リードとタブシーラントとの間の密着性を向上させることが出来る。リードとタブシーラントとの密着性付与の目的として、リード表面処理の表面処理液に、シーラントフィルムと密着性の良い樹脂成分を含有する事が望ましい。
【0023】
図4は、タブ20のうちタブシーラント40に被覆された部位を示す拡大断面図である。タブシーラント40は、リード21の外面に接触して配置される最内層41と、最内層41と反対側の表面を形成する(最内層41と反対の位置に形成された)最外層42と、最内層41と最外層42との間に設けられる中間層43とを備えている。
【0024】
最内層41は、リードの外面を周方向にわたって封止し、タブシーラント40とリード21とを密着させる機能を有する。このため、最内層41は、リード21および最内層41が接触する層(本実施形態においては中間層43)の双方との接着性に優れた樹脂で形成されている。例えば本実施形態では、中間層43の材質を考慮し、最内層41の材料として、ポリオレフィン樹脂に無水マレイン酸などをグラフト変性させた酸変性ポリオレフィン樹脂などを用いることができる。
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、低密度、中密度、および高密度のポリエチレン;エチレン−αオレフィン共重合体;ホモ、ブロック、またはランダムポリプロピレン;プロピレン−αオレフィン共重合体などが挙げられる。これらポリオレフィン樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
中間層43と相溶性のよい同系統のポリオレフィン樹脂を用いることで、中間層43との密着性を向上させることが可能となる為、好適である。
【0025】
タブ20は、内層41を対向させた2枚のタブシーラント40、あるいは最内層41が対向するように折り曲げた1枚のタブシーラント40の、対向する最内層41間に挟まれるようにリード21を配置し、リード21とタブシーラント40とを熱融着することにより形成される。このとき、リード21の膜厚方向両側の面は、タブシーラントの最内層と好適に接合されるが、膜厚方向に延びる側面21aは、最内層に対して略垂直となるため、最内層と接触しにくい。
図4に示すように、リード21の側面21aは、加熱により流動性を増した最内層41の一部が、リード21の膜厚方向に流動することで覆われる。したがって、リード21が周方向にわたってタブシーラント40により隙間なく覆われて封止されるためには、熱融着の過程における最内層41の流動性が重要である。
これに加え、発明者らは、側面21aの面積は、リード21の膜厚が増加するにつれて増大するため、リードの膜厚が大きすぎると、最内層の流動性が良くても最内層を形成する材料自体が不足するためにリードの外周面を隙間なく覆いきれず、封止性が十分でなくなる事態が発生することを見出した。すなわち、最内層41の材料の量を規定する最内層の膜厚値は、熱融着の対象であるリードの膜厚を考慮して設定される事が重要である。
【0026】
発明者らが最内層の膜厚について鋭意検討を行った結果、最内層の膜厚がリード21の膜厚の10%以上であれば、リードの周囲が最内層により良好に覆われることを見出した。さらには、最内層の膜厚がリード21の膜厚の20%以上であれば、リード周囲の封止がさらに良好となり、タブシーラントとリードとの密着挙動が安定した。さらに、最内層がリードの周囲を好適に封止するためには、最低でも一定の膜厚がリードの膜厚によらず必要であり、必要な最内層の膜厚が20μm以上である事も見出した。例えばリード21の膜厚が50μmの場合、リード21の膜厚の10%は5μmであるが、最内層の厚さが5μmでは実際には封止が不十分であり、最内層の厚さを20μmまで増すことで安定的に封止を行う事が可能となる。
最内層の膜厚の上限は技術的には存在しないものの、材料コストの観点、タブ20が厚くなりすぎた場合にその部分のみが厚くなる事によるヒートシール難易度の増加、およびヒートシール工程に必要とされる熱量の増加等の懸念がある為、リード21の膜厚以下とされるのが好ましい。
【0027】
最内層の加熱時の流動性を示す指標であるメルトフローレート(MFR)については、2.0g/10min以上であることが好ましい。MFRが2.0g/10min未満では、流動性が少なくリード周囲の封止が不十分と成りやすかった。一方、MFRの上限が30g/10minを超えると樹脂が流れやすすぎるために、最内層の製膜が困難になると共に、融着時に最内層が流動しすぎて部分的に最内層の膜厚が薄くなりすぎる可能性がある。特に、リード21の厚さ方向の両側の面(リード21の厚さ方向の上面および下面)と側面21aとが接続する角部21bにおいて、最内層41が薄くなりやすい。タブ20に外力が作用する際は、角部21bに応力が集中しやすく、角部の最内層が薄いと、応力等により最内層あるいはタブシーラント全体が破断されて、絶縁性が損なわれる可能性がある。このため、最内層のMFRは高すぎないことが好ましい。
最内層41の融点としては、130℃以上、160℃以下の範囲である事が好ましく、さらには135℃以上、150℃以下である事がより好ましい。
最内層41の融点が135℃未満では、十分な耐熱性が得られない。また、最内層41の融点が160℃以上では、タブシーラント40の最内層41とリード21とを融着する際の温度が高くなるため、タブシーラント40とリード21との融着が困難になる。具体的には、最内層41の融点が160℃以上である場合、融着時にタブシーラント40に熱をかけすぎた事により、タブシーラント40の膜厚低下などが引き起こされる可能性がある。
【0028】
最外層42にはヒートシールが可能な熱融着性樹脂が用いられる。最外層42の一部は、本体包装材12とヒートシールされる為、本体包装材と同系統の樹脂が用いられるのが一般的であり、ポリオレフィン系樹脂等が使用されている。
ポリオレフィン樹脂としては、例えば、低密度、中密度、および高密度のポリエチレン;エチレン−αオレフィン共重合体;ホモ、ブロック、またはランダムポリプロピレン;プロピレン−αオレフィン共重合体などが挙げられる。これらポリオレフィン樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
通常のポリオレフィン樹脂を用いてもある程度、タブシーラントと包装材との密着性を得ることは可能であるが、発明者らは、本体包装材12の内層31と同一の樹脂成分を最外層42に含有させることにより、タブシーラントと包装材との密着性が大きく向上することを見出した。なお、本発明において、「同一の樹脂成分」とは、融点およびMFRが同一の化合物を指し、例えば同じポリプロピレンでも融点およびMFRが同一でない化合物は、「同一の樹脂成分」ではないと定義する。
本体包装材12の内層31には、上述したようなポリエチレンやポリオレフィンを主体とした樹脂が用いられ、アンチブロッキング剤、滑剤、酸化防止剤など各種成分が添加されている。本発明では、最外層42にも内層31と同一の成分を含有させる事で最外層42と内層31との相溶性が向上し、タブシーラントと包装材との密着性を向上させる事ができる。
【0029】
加えて、内層31と最外層42とで融点を等しくすると、電池パック1の製造時において、発電要素11を本体包装材12で包む際のヒートシールで、同時に最外層42が融解するため、良好な密着性および封止性が得られる。
最外層42と内層31とが同一の樹脂成分を含有しない場合でも、両者の融点を同等程度(両者の融点差が5℃以下)とすることでヒートシールの際における最外層42と内層31との間の密着性は向上し、一定の効果が得られるが、同一の樹脂成分を有した場合、上述のように相溶性が向上し、さらに最外層42と内層31との間の密着性および封止性が向上するため好適である。具体例としては、内層および最外層ともにランダムポリプロピレンを用いる、内層および最外層の組成を完全に同一にする、内層に含まれる樹脂の一部を最外層に添加する、等が挙げられる。
内層31および最外層42の融点としては、130℃以上、160℃以下の範囲である事が好ましく、さらには135℃以上、150℃以下である事がより好ましい。
内層31および最外層42の融点が135℃未満では、十分な耐熱性が得られない。また、内層31および最外層42の融点が160度以上では、包装材12の内層31とタブシーラント40の最外層42とを融着する際の温度が高くなるため、包装材12とタブシーラント40との融着が困難になる。具体的には、熱をかけすぎた事により、タブシーラント40の膜厚低下などが引き起こされる可能性がある。
内層31および最外層42のMFRとしては、最内層と同様に2.0g/10min以上が好適である。最内層ほどシビアではないが、融着時に内層31と最外層42とが溶融・固化して密着性を確保する為には、溶融時の流れ性が重要である。内層31および最外層42のMFRが2.0g/10min以上であれば、内層31および最外層42の溶融時に樹脂が充分に流れ、内層と最外層との間の隙間を樹脂で補填する事ができるため、電池セルの密閉性が向上する。
【0030】
最外層42の厚さは、10μm以上が好ましい。最外層の厚さが10μm未満の場合は、タブシーラントと本体包装材とのヒートシール時に融着する部分が少なく、タブシーラントと本体包装材との密着が不安定になる可能性がある。最外層の厚さの上限については、特に規定するものではないが、タブシーラント全体の厚みとのバランスで設計するのが好ましい。最外層の厚みが大きくなると、最外層の厚みが増加した分、製造コストが増加するため、一般的には好ましくないが、リードや後述する中間層が厚い場合には、必要に応じて厚くすることを禁じるものではない。
【0031】
中間層43は、本発明のタブシーラントの必須の構成ではないが、絶縁性の観点からは中間層を備えるのが好ましい。中間層の材料としては、一般的には、最内層および最外層の熱融着時に溶融し難いように、最内層や最外層よりも融点の高い材料が用いられるのが好ましい。具体的には、中間層と最内層との密着性および中間層と最外層との密着性の観点から、ポリオレフィンが一般的に用いられるが、より絶縁性を向上させたい場合に、PETなどのポリエステルや耐熱性の樹脂を用いる事も可能である。
中間層43にポリオレフィンを用いた場合の融点としては、上記内層31と同様に130℃以上、160℃以下の範囲である事が好ましく、さらには135℃以上、150℃以下である事がより好ましいが、前述したように内層31の融点よりも中間層43の融点が高いことが望ましい。具体的には、中間層43と内層31との融点差が5℃以上ある(内層31の融点よりも中間層43の融点が5℃以上高い)ことが好適である。中間層の融点を最内層より融点差が5℃以上とすることで、内層31および最外層42のMFRが2.0g/10min以上の高いMFRであっても、リードとの融着や外装材との融着時に中間層が溶融し難くなり、中間層の膜厚を維持でき、最終的にシーラント層の膜厚が維持される事により、絶縁性を維持できるため好ましい。
一方で中間層43のMFRとしては、絶縁性を確保するという観点から、10g/10min以下が好適である。
中間層は単層である必要はなく、例えばポリエステル層を、接着剤を介して複数貼合するなどした多層構造であってもよい。中間層の膜厚は10〜200μmが好適であり、20〜100μmがより好適である。中間層が多層構造である場合は、合計の厚みを前記範囲内とすればよい。中間層の膜厚が10μm未満の場合は、絶縁性向上効果が小さくなり、中間層の膜厚が200μmを超える場合はコスト増加の要因となる。但し、中間層についても、リードや最内層とのバランスが重要であり、最内層やリード等が厚くなる場合には中間層もそれに伴い厚くされてもよい。
図5には、中間層が無い場合のタブシーラントの断面図の一例を示し、
図6には、二層構造の中間層43aを備えた、四層構造のタブシーラントの断面図の一例を示す。
【0032】
タブシーラント40の製造方法には特に制限はない。製造方法として、Tダイ法、丸ダイ法などの押し出し成型が有用であるが、多層のインフレーション成型がより好適である。一般に、タブシーラントの材料としては、MFRが10g/10min以下の値の材料が用いられる場合が多く、Tダイ法ではタブシーラントの製膜が安定せず、困難となる場合が多い。インフレーション成型では、このような材料でも皮膜が安定的に形成できる為、タブシーラントの製造に好適である。
タブシーラント40の押し出し成型における押し出し温度は180〜300℃が好ましく、200〜250℃がより好適である。押し出し温度が180℃未満では、樹脂の溶融が不十分であるため、溶融粘度が大きすぎてスクリューからの押し出しが不安定になる可能性がある。一方、押し出し温度が300℃を超えた場合は、樹脂の酸化や劣化が激しくなり、フィルムの品質が低下してしまう。スクリューの回転数、ブロー比、引き取り速度等は、設定膜厚を考慮して適宜設定されてよい。また、タブシーラントの各層の膜厚比は各スクリューの回転数を変更する事で調整する事が出来る。
なお、本発明のタブシーラントは、接着剤を用いたドライラミネーションや、製膜したフィルム同士をサンドウィッチラミネーションで積層する方法等の、多層押し出し以外の方法によっても製造可能である。
【0033】
上記のように構成された各構成を用いた電池パック1の製造手順について説明する。
(タブの製造)
タブシーラント40とリード21とは、加熱による最内層41の溶融と、加圧によるタブシーラント40とリード21との密着とを同時に行いながら熱融着する。タブシーラント40とリード21との間に、十分な密着性および封止性を得るために、最内層41の樹脂材料の融点以上の温度まで加熱を行う。
この時、タブシーラント全体が溶融することを防ぐため、加熱温度は最外層42の樹脂材料の融点以下とするのが好ましい。タブシーラント40が中間層43を備える場合は、加熱温度は最外層42の樹脂材料の融点以下とするのが好ましい。例えば、加熱温度は140℃〜170℃程度が適当である。加熱、加圧時間も剥離強度と生産性を考慮して決定する必要があり、1〜60秒程度が好ましい。但し、生産タクトを優先する場合は、170℃を超える温度で加圧時間を短時間にして熱融着する事も可能である。例えば、170〜200℃にて3〜20秒といった条件設定も可能である。
【0034】
(発電要素の被覆)
上記のように製造されたタブ20の一方の端部を発電要素11と電気的に接続し、発電要素11およびタブ20の一部を本体包装材12で密封すると、電池パック1が完成する。このとき、発電要素11の周縁においては、本体包装材12の対向する内層31どうしが熱融着されるが、タブ20を内層31で被覆する部分ではタブ20(リード21のみまたはリード21およびタブシーラント40)を挟んで熱融着が行われるため、内層31どうしの熱融着よりも多くの熱量が必要である。
本体包装材12のヒートシールの温度条件としては、160〜210℃が好適である。
本体包装材12のヒートシールの温度が160℃未満ではタブシーラント40の溶融不足により、本体包装材12とタブシーラント40との密着不良が発生しやすい。また、本体包装材12のヒートシールの温度が210℃を超える場合は、外層36に一般的に使用される材料(例えばナイロン等)が融解する可能性がある。
ヒートシール時間は1〜10秒が好適である。1秒未満では、溶融不足による密着不良が発生しやすく、10秒を超える場合はタクトが長くなり、生産性が低下する。
タブを挟んで熱融着が行われる部位は、他の部分よりも厚くなるため、ヒートシールバーにザグリ等により凹部を設けるなどして、タブ周辺で本体包装材のみが熱融着される部分にも、好適に圧力が加わるようにしてもよい。
【0035】
以上説明したように、本実施形態のタブシーラント40によれば、最内層41が酸変性ポリオレフィンを含む膜厚20μm以上の層であり、かつ最内層41のMFRが2.0g/10min以上である。このため、リード21に熱融着する際に、最内層41が好適に流動して側面21aを含むリード21の外面の一部を周方向にわたり好適に封止することができる。
【0036】
また、本実施形態の電池パック1によれば、タブシーラント40の最内層41の膜厚を、20μm以上かつリード21の膜厚の10%以上とすることで、リード21の周囲を好適に封止し、かつ絶縁の信頼度の高い電池パックとすることができる。
さらに、タブシーラント40の最外層42と、本体包装材12の内層31とが同一の樹脂成分を含有することで、本体包装材とタブシーラントとを好適に密着させ、液漏れ等を好適に防ぐ電池パックとすることができる。最外層42と内層31とで融点を同等とすることでも同様の効果が得られ、両方の条件を満たすことで、さらに高い効果を得ることができる。
【0037】
本実施形態のタブシーラントおよび電池パックについて、実施例および比較例を用いてさらに説明するが、本実施形態は、実施例の具体的内容にもとづいて何ら限定されるものではない。まず、実施例および比較例に共通の手順について説明する。
(1)タブの作製
リードとして、幅5mm、長さ30mmのリードを用い、厚さが100μmのリードおよび厚さが400μmのリードの2種類を準備した。材質は、正極側リードをアルミニウムとし、負極側リードをニッケルとした。正負極とも、両面にノンクロム系表面処理を行った。
タブシーラントの組成、膜厚等は各実施例において詳細に示すが、寸法としては幅15mm、長さ10mmのタブシーラントを用いた。最内層41どうしを対向させた2枚のタブシーラントの間にリードを配置し、155℃および10秒の条件で熱融着を行った。
(2)評価用電池パックの作製
本体包装材として、外層:ナイロン(厚さ25μm)、外側接着剤層:ポリエステルポリオール系接着剤(厚さ5μm)、バリア層:アルミニウム箔(厚さ40μm、A8079−O材)、内側接着剤層:酸変性ポリプロピレン(以下PPa、厚さ30μm)、および内層:ポリプロピレン(以下PP、厚さ40μm)の構成の包装材を用いた。アルミニウム箔の両面にはノンクロム系表面処理を行い、腐食防止処理層を形成した。PPとしては、ブロック系で融点が153℃のPPを用いた。
本体包装材のサイズを50mm×90mmの長方形とし、前記長方形の長辺の中点で二つ折りとし、長さ45mmの二つ折り部を形成した。前記二つ折り部の一方に正極・負極のタブを挟んで、190℃および5秒の条件でヒートシールを行った。
残りの辺のヒートシールは190℃および3秒で行った。まず、長さ50mmの辺をヒートシールで接合し、その後ジエチルカーボネートおよびエチレンカーボネートの混合液に6フッ化リン酸リチウムを添加した電解液を2ml充填し、最後にタブの対面のヒートシールを行った。これにより、発電要素が封入されていない、タブ評価可能な電池パックを作製した。
【0038】
(実施例1)
最内層にMFRが6.0g/10min、融点が145℃のPPaを用い、中間層にMFRが1.8g/10min、融点が160℃のPPを用い、最外層にMFRが8.0g/10min、融点が153℃であり本体包装材の内層と同一組成(以下、「組成A」と称する。)のPPを用いた。各層の材料樹脂を、三種三層のインフレーション押し出し(以下インフレ法)で積層し、実施例1のタブシーラントを作製した。インフレ法の条件は、溶融温度を210℃およびブロー比を2.2と設定し、各層の膜厚が30μmであり、三層合計の厚さ(総厚)が90μmとなるようにタブシーラントを作成した。膜厚100μmのリードを用いてタブを作製した。
(実施例2)
タブシーラントの厚みを、各層20μmとし、総厚60μmにした点を除き実施例1と同様の手順で実施例2のタブシーラントを作製した。膜厚100μmのリードを用いてタブを作製した。
【0039】
(実施例3)
タブシーラントは実施例1と同一であり、膜厚150μmのリードを用いてタブを作製した。
(実施例4)
タブシーラントの厚みを、各層50μmとし、総厚150μmにした点を除き実施例1と同様の手順で実施例4のタブシーラントを作製した。膜厚400μmのリードを用いてタブを作製した。
【0040】
(実施例5)
実施例5では、タブシーラントに中間層を設けず、最内層と最外層の2層構成のタブシーラントを作製した。各層の材料および形成方法は実施例1と同一とし、最内層を30μmとし、最外層を60μm、総厚90μmとした。膜厚100μmのリードを用いてタブを作製した。
(実施例6)
最外層に組成AのPPを30%、別のPP(融点153℃)を70%添加して、トータルのMFRを9.0g/10min、融点を153℃としたPP(以下、「組成B」と称する。)を用いた点を除き、実施例1と同様の手順で実施例6のタブシーラントを作製した。膜厚100μmのリードを用いてタブを作製した。
(実施例7)
最内層にMFRが2.0g/10min、融点145℃のPPaを用い、最外層にMFRが2.5g/10min、融点が153℃であるPP(以下、「組成C」と称する。)を用いた点を除き、実施例1と同様の手順で実施例7のタブシーラントを作製した。膜厚100μmのリードを用いてタブを作製した。
【0041】
(比較例1)
膜厚構成を、10μm/50μm/30μm(最内層/中間層/最内層、以下同様。)の総厚90μmにし、最外層を組成Bとした点を除き実施例4と同様の手順で比較例1のタブシーラントを作製した。膜厚100μmのリードを用いてタブを作製した。
(比較例2)
タブシーラントは実施例6と同一であり、膜厚400μmのリードを用いてタブを作製した。
【0042】
(比較例3)
中間層を設けない点を除き、比較例1と同様の手順で比較例3のタブシーラントを作製した。膜厚100μmのリードを用いてタブを作製した。
(比較例4)
最外層にMFR8.0g/10min、融点165℃のPP(以下、「組成D」と称する。)を用いた点を除き、比較例1と同様の手順で比較例4のタブシーラントを作製した。膜厚100μmのリードを用いてタブを作製した。
【0043】
(比較例5)
最外層に組成DのPPを用い、Tダイ法(押し出し温度230℃)で製膜した点を除き、実施例6と同様の手順で比較例5のタブシーラントを作製した。膜厚400μmのリードを用いてタブを作製した。
(比較例6)
最外層に組成DのPPを用い、Tダイ法(押し出し温度230℃)で製膜した点を除き、比較例3と同様の手順で比較例6のタブシーラントを作製した。膜厚100μmのリードを用いてタブを作製した。
【0044】
(比較例7)
最外層に組成DのPPを用い、Tダイ法(押し出し温度230℃)で製膜した点を除き、比較例4と同様の手順で比較例7のタブシーラントを作製した。膜厚100μmのリードを用いてタブを作製した。
(比較例8)
Tダイ法(押し出し温度230℃)で製膜した点を除き、実施例7と同様の手順で比較例8のタブシーラントを作製しようと試みたが、製膜ができなかった。材料のMFRが低すぎることが原因と考えられた。
【0045】
各実施例および各比較例のタブおよび電池パックを、以下の方法で評価した。
(評価1:製膜性)
タブシーラントの製膜時に、シワやピンホール等無く製膜出来たものを適合(○)とした。一部にシワの入ったものを×、製膜が出来なかったものを××とした。
(評価2:リード封止性)
各例のタブを高浸透性染色液(商品名ミクロチェック、(株)タイホーコーザイ製)に浸漬したあと、リードとタブシーラントとの間に染色液が浸入したか否かを目視により確認した。リードとタブシーラントとの間に染色液の浸入が認められたものを×、染色液の浸入が認められなかったものを適合(○)とした。
(評価3:密着性)
評価用電池パックを80℃環境で1週間および4週間保管し、封入した電解液の液漏れが発生しなかった評価用電池パックを適合(○)とした。
(評価4:絶縁性)
評価用電池パックの負極リードと、包装材との絶縁性をテスターにて測定した。比較例8を除く各例について100検体の測定を行い、ショートが5検体未満だったものを適合(○)とした。
【0048】
実施例においては、いずれも製膜性、リード封止性、密着性、および絶縁性の全ての項目で適合していた。
一方、比較例では、いずれもリード封止性が悪く、密着性も不十分であった。最内層の膜厚がリード膜厚の10%未満であった比較例2および5や、最内層の膜厚がリード膜厚の10%以上であるものの20μm未満であった比較例1、3、および6では、リード封止性および密着性のいずれも十分でなかった。特に、タブシーラントの最外層と本体包装材の内層とが同一の樹脂成分を含有していない比較例4〜7では密着性の低下が著しかった。実施例では、最外層と内層とで同一成分を含有することおよび最外層と内層とで融点が同等であることの少なくともいずれか一方を満たしているため、密着性の低下が防止されたと考えられる。
【0049】
また、タブシーラントの形成の際に、インフレ法では、安定的に製膜が可能であったが、比較例5から7に示すように、Tダイ法では一部製膜が困難であり、比較例8のように全く製膜できない例もあった。
以上の結果より、本発明のタブシーラントを用いることで、リード周囲の封止性およびタブシーラントとリードとの密着性がすぐれ、かつ絶縁性にも優れたタブおよび電池パックを安定的に作製することができることが示された。
【0050】
以上、本発明の各実施形態および実施例について説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成要素の組合せを変えたり、各構成要素に種々の変更を加えたり、削除したりすることが可能である。