特許第6497419号(P6497419)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6497419ビス(ハロスルホニル)アミンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6497419
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】ビス(ハロスルホニル)アミンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/086 20060101AFI20190401BHJP
【FI】
   C01B21/086
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-150850(P2017-150850)
(22)【出願日】2017年8月3日
(62)【分割の表示】特願2014-529417(P2014-529417)の分割
【原出願日】2013年7月24日
(65)【公開番号】特開2017-226597(P2017-226597A)
(43)【公開日】2017年12月28日
【審査請求日】2017年8月3日
(31)【優先権主張番号】特願2012-174209(P2012-174209)
(32)【優先日】2012年8月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004307
【氏名又は名称】日本曹達株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100194250
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 直志
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(72)【発明者】
【氏名】丸山 道明
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/010613(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/148958(WO,A1)
【文献】 特開2003−137850(JP,A)
【文献】 特表平08−511274(JP,A)
【文献】 BERAN,M. and PRIHODA,J.,A new method of the preparation of imido-bis(sulfuric acid) dihalogenide,(F,Cl), and the potassium s,Zeitschrift fuer Anorganische und Allgemeine Chemie,2005年,Vol.631, No.1,p.55-59
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/086
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルファミン酸とハロスルホン酸を含む混合物を加熱して50℃〜140℃にし、
次いでこれにハロゲン化剤を連続的または断続的に添加し、
前記ハロゲン化剤を添加した後、混合物の温度を50℃〜85℃にして反応させることを含み、
前記ハロゲン化剤の全添加量が、スルファミン酸1モルに対して2〜4モルであることを特徴とするビス(ハロスルホニル)アミンの製造方法。
【請求項2】
前記ハロゲン化剤が塩化チオニルである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ハロゲン化剤の全添加量が、スルファミン酸1モルに対して2〜3モルを用いる請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビス(ハロスルホニル)アミンの製造方法に関する。より詳細に、本発明は、スルファミン酸とハロゲン化剤とハロスルホン酸との反応速度を反応初期から反応終期までほぼ一定に制御して、ガスの急激な発生を抑え、且つハロゲン化剤の使用量を減らすことができる工業的製造に有利なビス(ハロスルホニル)アミンの製造方法に関する。
本願は、2012年8月6日に、日本に出願された特願2012−174209号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
ビス(フルオロスルホニル)アミン塩は、電池電解質、電池電解液への添加物、導電性塗膜材料などとして様々な分野において有用な化合物である(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。ビス(クロロスルホニル)アミンは、フッ素化剤と反応させることにより、また、フッ素化剤と反応させた後カチオン交換反応等を行うことにより、様々なビス(フルオロスルホニル)アミン塩に導くことができるため、有用な化合物である(特許文献4、特許文献5、非特許文献1)。
【0003】
ビス(クロロスルホニル)アミンの合成法として、スルファミン酸と塩化チオニルとクロロスルホン酸とを混ぜ合わせ、その混合物を加熱して反応させる方法が知られている(特許文献3、特許文献4、特許文献6、非特許文献2、非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表平08−511274号公報
【特許文献2】特開2010−121114号公報
【特許文献3】特開2010−168249号公報
【特許文献4】特開2010−189372号公報
【特許文献5】特表2004−522681号公報
【特許文献6】特開平08−217745号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Inorg.Synth.11,138-140(1968年)
【非特許文献2】Eur.J.Org.Chem.5165-5170(2010年)
【非特許文献3】Z.Anorg.Allg.Chem.631,55-59(2005年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スルファミン酸と塩化チオニルとクロロスルホン酸との反応を完結させるために、80℃以上の温度に加熱する必要がある。塩素化剤として賞用される塩化チオニルは、その沸点が76℃である。塩化チオニルを含有する混合物を80℃以上に昇温すると塩化チオニルが蒸発して反応系から塩化チオニルが失われる。そのため、反応系に塩化チオニルを過剰に添加する必要がある。そこで、反応初期の温度を低くし、反応終期の温度を高くするという方法を試みた。この方法によれば塩化チオニルの消失は少なくて済むが、初期反応温度から終期反応温度に切り替える際などに多量のガスが急激に発生することがあるので工業的な製造方法としては不適当であった。
【0007】
本発明の課題は、スルファミン酸とハロゲン化剤とハロスルホン酸との反応速度を反応初期から反応終期までほぼ一定に制御して、ガスの急激な発生を抑え、且つハロゲン化剤の使用量を減らすことができる工業的製造に有利なビス(ハロスルホニル)アミンの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、以下の態様の発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下のものを包含する。
(1)スルファミン酸とハロスルホン酸を含む混合物を加熱して室温より高い温度にし、次いでこれにハロゲン化剤を添加することを含む、ビス(ハロスルホニル)アミンの製造方法。
(2)室温より高い温度が50℃〜140℃である(1)に記載の製造方法。
(3)ハロゲン化剤を複数回に分けて添加する(1)または(2)に記載の製造方法。
(4)ハロゲン化剤が塩化チオニルである(1)〜(3)いずれか1項に記載の製造方法。
(5)スルファミン酸1モルに対し、塩化チオニル2〜3モルを用いる(4)に記載の製造方法。
(6)ハロゲン化剤を添加した後、混合物の温度を50℃〜85℃にて反応させることをさらに含む(1)〜(5)いずれか1項に記載の製造方法。
(7)ハロゲン化剤を添加した後、混合物の温度を86℃〜105℃にて反応させることをさらに含む(1)〜(5)いずれか1項に記載の製造方法。
(8)ハロゲン化剤を添加した後、混合物の温度を106℃〜140℃にて反応させることをさらに含む(1)〜(5)いずれか1項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法は、スルファミン酸とハロゲン化剤とハロスルホン酸との反応速度を反応初期から反応終期までほぼ一定に制御して、ガスの急激な発生を抑え、且つハロゲン化剤の使用量を減らすことができるので、ビス(ハロスルホニル)アミンの工業的製造に有利である。また、本発明の製造方法によれば、高収率でビス(ハロスルホニル)アミンを製造できるため、工業的製造に有利である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態に係るビス(ハロスルホニル)アミンの製造方法は、スルファミン酸とハロスルホン酸を含む混合物を加熱して室温より高い温度にし、次いでこれにハロゲン化剤を添加することを含むものである。なお、ビス(ハロスルホニル)アミンは、式(3)で表される化合物である。但し、式(3)中のXはハロゲン原子を示す。Xは、同じでもよいし、異なってもよい。ビス(ハロスルホニル)アミンの具体例としては、N−(フルオロスルホニル)−N−(クロロスルホニル)アミン、ビス(クロロスルホニル)アミンなどが挙げられる。
【0011】
【化1】
【0012】
本発明で使用するスルファミン酸は、式(1)で表される公知物質である。スルファミン酸は、市販されたものを使用してもよい。スルファミン酸は、反応に供する前に乾燥処理して、含有する水を除去したものが好ましい。乾燥処理の方法は、特に限定されないが、加熱乾燥、減圧乾燥などの一般的に用いられる方法を挙げることができる。
【0013】
【化2】
【0014】
本発明で使用するハロスルホン酸は、式(2)で表される公知物質である。但し、式(2)中のXはハロゲン原子を示す。ハロスルホン酸は、市販されたものを使用してもよい。ハロスルホン酸は、反応に供する前に乾燥処理して、含有する水を除去したものが好ましい。乾燥処理の方法は、特に限定されないが、加熱乾燥、減圧乾燥などの一般的に用いられる方法を挙げることができる。ハロスルホン酸としては、フルオロスルホン酸、クロロスルホン酸が好ましく、クロロスルホン酸がより好ましい。
【0015】
【化3】
【0016】
本発明で使用するハロゲン化剤は特に限定されず、市販品を用いることができる。ハロゲン化剤は、反応に供する前に乾燥処理して、含有する水を除去したものが好ましい。乾燥処理の方法は、特に限定されないが、加熱乾燥、減圧乾燥などの一般的に用いられる方法を挙げることができる。ハロゲン化剤としては、三塩化リン、五塩化リン、塩化チオニル、フッ化チオニルなどを挙げることができる。反応終了後の精製が容易であるという観点からは、塩化チオニルが好ましい。
【0017】
スルファミン酸およびハロスルホン酸を含有する混合物は、スルファミン酸に対するハロスルホン酸のモル比が、好ましくは0.9〜1.2、より好ましくは0.95〜1.05である。
該混合物はスルファミン酸およびハロスルホン酸以外にそれらを溶解または分散するための溶剤を必要に応じて含んでいてもよい。溶剤はスルファミン酸とハロゲン化剤とハロスルホン酸との反応を阻害しないものであれば特に制限されないが、好ましくは芳香族プロトンを持たない化合物である。
【0018】
スルファミン酸およびハロスルホン酸を含有する混合物は、ハロゲン化剤を添加する前に加熱される。加熱された混合物はハロゲン化剤を添加する際における温度が、室温より高い温度、好ましくは50〜140℃、より好ましくは60℃〜80℃である。このような温度に調整することにより、ガスが急激に発生することを防ぐことができる。
【0019】
ハロゲン化剤の添加量は、特に限定されない。例えば、スルファミン酸1モルに対するハロゲン化剤の添加量は、好ましくは2〜4モル、より好ましくは2〜3モルである。ハロゲン化剤の添加量が2モルを下回ると収率や純度が低下する傾向がある。
【0020】
ハロゲン化剤を添加する仕方は、特に限定されないが、連続的に徐々に添加してもよいし、断続的に徐々に添加してもよいし、間を開けて複数回に分けて添加してもよい。
連続的または断続的に添加する場合には、急激な反応速度の増大を防ぐために、添加速度を低く抑えることが好ましい。添加速度は、反応器の規模、設定した反応温度により、適宜設定することができる。複数回に分けて添加する場合は、急激な反応速度の増大を防ぐために、1度に添加する量を低く抑えることが好ましい。1度に添加する量は、反応器の規模、設定した反応温度により、適宜設定することができる。
【0021】
ハロゲン化剤を添加した後、温度を調整しながらさらに反応させることができる。ハロゲン化剤を添加した後の混合物の温度は、反応器の規模や所望の反応速度に制御するために種々設定でき、通常は室温より高い温度、好ましくは50〜140℃、より好ましくは60℃〜80℃である。また、ハロゲン化剤を添加した後の混合物の温度は、例えば、50℃〜85℃に設定することができ、86℃〜105℃に設定するができ、または106℃〜140℃に設定することができる。
反応時間は特に限定されないが、通常、48時間以下であり、好ましくは24時間以下である。
【0022】
当該反応は触媒の存在下に行うことができる。触媒としては塩基触媒が好ましい。塩基触媒としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリ(ヒドロキシエチル)アミン、メチルピペリジン、ジメチルピペラジン、ジアザビシクロオクタンなどの脂肪族三級アミン化合物; トリメチルフォスフィン、トリエチルフォスフィンなどのトリアルキルフォスフィンを挙げることができる。触媒の使用量はスルファミン酸1モルに対して好ましくは0.0001〜0.1モルである。
触媒は、ハロゲン化剤を添加する前に混合物に仕込んでもよいし、ハロゲン化剤の添加と同時に添加してもよいし、ハロゲン化剤を添加した後に添加してもよい。これらのうち、ハロゲン化剤を添加する前に混合物に仕込んでおく方法が好ましい。
【0023】
スルファミン酸とハロゲン化剤とハロスルホン酸とは、例えば、非特許文献3によれば、反応式(A)または(B)で表されるような反応を起こしているようである。
【0024】
【化4】
【0025】
【化5】
【0026】
この反応式からわかるように、スルファミン酸1モルとハロスルホン酸1モルとハロゲン化剤としての塩化チオニル2モルが反応すると、亜硫酸ガス(SO2)2モルと、塩酸ガス(HCl)3モルが生成する。スルファミン酸とハロゲン化剤(塩化チオニル)とハロスルホン酸と混ぜ合わせ、該混合物を加熱し温度を上げて反応させると、反応速度が速くなりすぎ、亜硫酸ガスと塩酸ガスが急激に発生し、反応器の圧力が高くなるなどの支障を来たすことがある。
これに対して、本発明の方法によると、スルファミン酸とハロゲン化剤とハロスルホン酸との反応速度を反応初期から反応終期までほぼ一定に制御して、ガスの急激な発生を抑えることができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜に変更を加えて実施することが勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0028】
実施例1
攪拌器、温度計および還流管を取り付けた500mlの反応容器に、スルファミン酸97.1g(1.00mol)およびクロロスルホン酸121.2g(1.04mol)を入れ撹拌して混合液を得た。この混合液を撹拌下に加熱して70℃にした。次いで、これに塩化チオニル237.9g(2.00mol)を1時間かけて滴下した。引き続き70℃にて6時間反応させた。 次いで0.5時間かけて温度を80℃に上げた。その後、塩化チオニル119.0g(1.00mol)を1時間かけて滴下した。次いで1.9時間かけて温度を90℃に上げ、引き続き90℃にて4時間反応させた。
その後、温度を130℃に上げ、130℃にて2時間反応させた。このときに未反応の塩化チオニルが蒸発し系外に排出された。
上記の反応中にガスの急激な発生はなかった。
得られた反応液を減圧蒸留した。105℃以上/7torrの留分として無色透明の液状物〔ビス(クロロスルホニル)アミン〕206.6g(0.97mol、スルファミン酸基準の収率97%、塩化チオニル基準の収率32%)を得た。
【0029】
実施例2
攪拌器、温度計および還流管を取り付けた2000mlの反応容器に、スルファミン酸268.0g(2.76mol)およびクロロスルホン酸334.5g(2.87mol)を入れ撹拌して混合液を得た。この混合液を撹拌下に加熱して70℃にした。次いで、これに塩化チオニル656.7g(5.52mol)を1.5時間かけて滴下した。引き続き70℃にて6時間反応させた。 その後、塩化チオニル131.3g(1.10mol)を0.2時間かけて滴下した。次いで3時間かけて温度を90℃に上げ、引き続き90℃にて4時間反応させた。
その後、温度を130℃に上げ、130℃にて2時間反応させた。このときに未反応の塩化チオニルが蒸発し系外に排出された。
上記の反応中にガスの急激な発生はなかった。
得られた反応液を減圧蒸留した。100℃以上/7.5torrの留分として無色透明の液状物〔ビス(クロロスルホニル)アミン〕553.6g(2.59mol、スルファミン酸基準の収率94%、塩化チオニル基準の収率39.1%)を得た。
【0030】
比較例1
攪拌器、温度計および還流管を取り付けた500mlの反応容器に、スルファミン酸9.71g(0.10mol)、クロロスルホン酸12.12g(0.104mol)、および塩化チオニル29.74g(0.25mol)を入れ撹拌して混合液を得た。この混合液を撹拌下に加熱して温度を70℃に上げ、引き続き70℃で4時間反応させた。
2時間かけて温度を130℃に上げ、130℃にて2時間反応させた。130℃に温度を上げている最中にガスが急激に発生した。
得られた反応液を減圧蒸留した。110℃以上/7torrの留分として無色透明の液状物〔ビス(クロロスルホニル)アミン〕7.74g(0.036mol、スルファミン酸基準の収率36%、塩化チオニル基準の収率14.4%)を得た。
【0031】
以上の結果から、本発明の方法によると、ガスの急激な発生を抑制して、高収率でビス(ハロスルホニル)アミンを製造できることがわかる。また、ビス(ハロスルホニル)アミンの収量に対するハロゲン化剤の使用量を顕著に減少させることができることもわかる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の製造方法は、スルファミン酸とハロゲン化剤とハロスルホン酸との反応速度を反応初期から反応終期までほぼ一定に制御して、ガスの急激な発生を抑え、且つハロゲン化剤の使用量を減らすことができるので、ビス(ハロスルホニル)アミンの工業的製造に有利である。