(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6497422
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】露出型柱脚用座金及びこれを用いた露出型柱脚の定着構造
(51)【国際特許分類】
E04B 1/24 20060101AFI20190401BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20190401BHJP
E02D 27/00 20060101ALI20190401BHJP
【FI】
E04B1/24 R
E04B1/58 511F
E04B1/58 511Z
E02D27/00 D
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-170658(P2017-170658)
(22)【出願日】2017年8月17日
(65)【公開番号】特開2019-35313(P2019-35313A)
(43)【公開日】2019年3月7日
【審査請求日】2018年2月19日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】515079922
【氏名又は名称】株式会社B&B技術事務所
(72)【発明者】
【氏名】角屋 治克
【審査官】
坂本 卓也
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭57−004503(JP,U)
【文献】
登録実用新案第3190056(JP,U)
【文献】
特開2002−364070(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/24
E02D 27/00
E04B 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎コンクリート中に下部を埋設したアンカーボルトの上部に螺合するナットと、前記アンカーボルトのボルト孔を周辺部に備えて鉄骨柱の下端に固着するベースプレートとの間に、該アンカーボルトを挿通孔に挿通した状態で配置され、該ベースプレートを前記ナットの締付けにより前記基礎コンクリート上に固定した状態で、該基礎コンクリート上面と前記ベースプレート下面との間に生じる隙間と、該ベースプレートのボルト孔の内周面と前記アンカーボルトの外周面との間に生じる隙間にそれぞれ無収縮モルタルからなるグラウト材を充填して前記鉄骨柱を前記基礎コンクリート上に定着する露出型柱脚に用いる座金であって、前記グラウト材をその開口部分から外部に漏出させることなく内部に留める幅にした少なくとも2個の空気排出溝が、前記アンカーボルトの挿通孔から径方向外方に向けて、前記ナットの外周縁を越えて露出する長さで設けられていることを特徴とする露出型柱脚用座金。
【請求項2】
前記空気排出溝が放射状に3個設けられている請求項1に記載の露出型柱脚用座金。
【請求項3】
前記空気排出溝の幅が2〜3mmである請求項1または2に記載の露出型柱脚用座金。
【請求項4】
前記空気排出溝の露出長さが10mm以内である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の露出型柱脚用座金。
【請求項5】
基礎コンクリート中に下部を埋設したアンカーボルトの上部に螺合するナットと、前記アンカーボルトのボルト孔を周辺部に備えて鉄骨柱の下端に固着するベースプレートとの間に、該アンカーボルトを挿通孔に挿通した状態で座金を配置し、該ベースプレートを前記ナットの締付けにより前記基礎コンクリート上に固定した状態で、該基礎コンクリート上面と前記ベースプレート下面との間に生じる隙間と、該ベースプレートのボルト孔および前記座金の挿通孔の各内周面と前記アンカーボルトの外周面との間に生じる隙間にそれぞれ無収縮モルタルからなるグラウト材を充填して前記鉄骨柱を前記基礎コンクリート上に定着する露出型柱脚の定着構造であって、前記座金が請求項1ないし4のいずれかに記載の座金であることを特徴とする露出型柱脚の定着構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラーメン構造、ブレース併用ラーメン構造などの鉄骨建築物に設置される露出型柱脚において、その耐震性能の向上に寄与するグラウト材の注入技術に関わるもので、アンカーボルトの上部に螺合する締付け用のナットとベースプレートとの間に設置される座金と、この座金を用いた露出型柱脚の定着構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄骨建築物の柱脚は、複数本のアンカーボルトによって基礎構造物(基礎コンクリート)と緊結接合されている。地震時等において、アンカーボルトに破断が生じると柱脚の破壊になり、さらには建物の倒壊に繋がる。このようなことから、柱脚は建造物にとって重要な接合部である。
【0003】
アンカーボルトを用いた柱脚と基礎コンクリートとの接合形式は、露出型柱脚と非露出型柱脚(埋め込み柱脚、根巻き柱脚など)に大別される。地震等で柱脚に負荷される応力の種類としては、軸力、曲げモーメント及びせん断力があり、これらの応力に対して柱脚接合部材及び建築構造躯体が安全であるように設計される。露出型柱脚では、軸力と曲げモーメントとせん断力をアンカーボルトで負担させる。これに対して、非露出型柱脚は、アンカーボルトにせん断力を負担させずに鉄筋やコンクリートなどの他の構造部材に負担させる設計になっている。このことから、露出型柱脚で使用されるアンカーボルトは、非露出型柱脚のものと比較して、地震力等での応力負担の役割は大きく、より安全で慎重な設計が要求される。特に、せん断力への対応に関しては十分な配慮が必要である。
【0004】
そこで、鉄骨柱の下端部に固着したベースプレートの下面とアンカーボルトの下部側を埋設した基礎コンクリート上面との隙間、並びにベースプレートの周辺部に過大孔として形成されているボルト孔とアンカーボルトとの隙間にグラウト材(無収縮モルタル)を充填し、その固化によって柱脚と基礎との一体化を図る技術が広く行なわれている。この従来技術は、グラウト材を介してベースプレートと基礎コンクリートとを密着させ、その摩擦抵抗によりせん断力の伝達を行うもので、グラウト材の注入という比較的簡単な作業によりアンカーボルトとベースプレートとの一体化を確実に実現でき、強固な柱脚構造が得られる点で優れている。
【0005】
上記グラウト材の具体的な充填方法としては、ベースプレートを基礎コンクリート上に設置した後、ベースプレートの周囲を型枠材(堰板)で囲み、液状のグラウト材を適宜の注入孔からベースプレートの下面側に注入し、型枠材で囲まれた空間内に滞留する空気を外部に排出しながらベースプレートの下面全域とアンカーボルトが挿通されているベースプレートのボルト孔の隙間を埋めるものである。この場合、各アンカーボルトの上部に螺合する締付け用のナットとベースプレートとの間に配設される座金を利用する方法がある。この座金は、グラウト材の注入と空気の排出を兼ねる孔がアンカーボルトの挿通孔に連通するように座金の上面側に形成された構造である(特許文献1,2参照)。また、グラウト材の注入をベースプレートあるいは型枠材に設けた注入孔で行い、充填中の空気の排出に関しては座金の下面側に形成した溝あるいは側面に形成した開口部を利用する方法も提案されている(特許文献3,4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−163299号公報(
図3参照)
【特許文献2】特開2005−61104号公報(
図2,4参照)
【特許文献3】特開2002−364070号公報(
図4,5参照)
【特許文献4】特開2004−346509号公報(
図1,2参照)
【0007】
ところで、これら従来の充填方法では、座金に設けた注入孔(空気排出孔を兼用したもの)、または注入孔とは別に設けた空気排出溝からグラウト材が溢れ出し始めると、それ以降のグラウト材の注入圧が急激に低下し、上記したすべての空間を隙間なく充填することが困難になってしまうことがある。このような状況に至り、ベースプレートと基礎コンクリートとの密着一体化が不十分な場合や、地震等で柱脚に引き抜き軸力が働き、摩擦抵抗力が働かない場合には、アンカーボルトが主体的にせん断力を受け持つことになる。
図7に示すように、特に、ベースプレート14のボルト孔14aにおいて、アンカーボルト10の周囲が隙間なくグラウト材Gで充填されていない場合には、ベースプレート14の下面にあたるアンカーボルト10のせん断面は、いずれもねじ部であり、外周面が溶接部Wでベースプレート14と一体化されている座金20の挿通孔21の壁面もしくはベースプレート14のボルト孔14aの壁面に対して、線接触または点接触の状態になる。このような接触状態は、アンカーボルト10のせん断面であるねじ部の谷部10aに対して集中荷重Pを与えることになる。
【0008】
斯かる状況において、アンカーボルトが受けるせん断力は、アンカーボルトの軸方向に沿った線状の状態もしくは点の状態での集中的な荷重となる。この集中荷重は、アンカーボルトに応力集中を誘発し、アンカーボルトの早期の脆性的破壊が想定される。すなわち、一般的にボルトのねじ部(三角ねじ)は、切り欠きの集合体であり、このように形状が変化する部分では応力が変化し、付近の平均的な応力より大きくなるからである。
【0009】
さらに、この状態を柱脚単位で考えると、複数本のアンカーボルトとベースプレートの各ボルト孔14aでの互いの軸心の位置関係は、
図8で示すように、施工誤差によりそれぞれの場所で一様ではなく、すべて異なることが想定される。このような状態でせん断力Pが柱脚に作用すると、最初にアンカーボルト10Aがせん断破壊し、10B、10C、10Dの順番で残りのアンカーボルトが破壊してしまうことが予想される。アンカーボルトのせん断力負担は、柱脚の同一断面においてすべてのアンカーボルトに対して均等に作用することが前提であることから、アンカーボルト10A〜10Dに各個撃破的な破壊が想定される状況は、建築物の耐震性を確保する上では避けなければならない事項である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような技術的状況に鑑みなされたもので、グラウト材の充填性向上により、柱脚の耐震性能を向上させることができる露出型柱脚用の座金と、この座金を用いた柱脚の定着構造の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本願の請求項1に係る発明では、基礎コンクリート中に下部を埋設したアンカーボルトの上部に螺合するナットと、前記アンカーボルトのボルト孔を周辺部に備えて鉄骨柱の下端に固着するベースプレートとの間に、該アンカーボルトを挿通孔に挿通した状態で配置され、該ベースプレートを前記ナットの締付けにより前記基礎コンクリート上に固定した状態で、該基礎コンクリート上面と前記ベースプレート下面との間に生じる隙間と、該ベースプレートのボルト孔の内周面と前記アンカーボルトの外周面との間に生じる隙間にそれぞれ無収縮モルタルからなるグラウト材を充填して前記鉄骨柱を前記基礎コンクリート上に定着する露出型柱脚に用いる座金であって、前記グラウト材を
その開口部分から外部に漏出させることなく内部に留める
幅にした少なくとも2個の空気排出溝が、前記アンカーボルトの挿通孔から径方向外方に向けて、前記ナットの外周縁を越えて露出する長さで設けられている、という構成を採用した点に特徴がある。
【0012】
さらに、本願発明では、上記請求項1の構成において、空気排出溝が放射状に3個設けられていること(請求項2)、空気排出溝の幅が2〜3mmであること(請求項3)、空気排出溝の露出長さが10mm以内であること(請求項4)が、それぞれグラウト材を隙間なく充填する上で好適な条件である。また、これらの座金を使用して露出型柱脚の定着構造とすることができる(請求項5)。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、以上のような構成を採用したことにより、グラウト材の充填性が高まり、ベースプレート下面と基礎コンクリート上面との間隙を埋めてそれらの付着定着力を高めるとともに、ベースプレートのボルト孔および座金の挿通孔におけるアンカーボルト周囲の間隙を確実に埋めてアンカーボルトのねじ部をグラウト材で保護することで、露出型柱脚に働くせん断力がアンカーボルトを介して基礎コンクリートへとスムーズに伝達されるようになる。これにより、建築設計者が意図する柱脚の固定性能を確保し、アンカーボルトのねじ部での応力集中による破断が効果的に抑制され、建物の倒壊を防ぐことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(a)〜(c)は、それぞれ本発明に係る露出型柱脚用座金の平面図、正面図および(a)におけるA−A線断面図である。
【
図2】(a)は
図1の座金の取付状態を示す平面図、(b)は露出型柱脚でグラウト材の充填状況を示す断面図である。
【
図3】
図1の座金を露出型柱脚のアンカーボルトに適用した状態を示す平面図である。
【
図4】露出型柱脚でグラウト材を充填する前の状態を示す正面図である。
【
図5】(a)および(b)は、それぞれ露出型柱脚でグラウト材の充填方法を示す断面図と平面図である。
【
図6】(a)および(b)は、それぞれ露出型柱脚でグラウト材の充填方法の他の実施例を示す断面図と平面図である。
【
図7】(a)および(b)は、それぞれアンカーボルトにせん断力を伝える場合の従来技術において、ベースプレートのボルト孔に対するアンカーボルトの接触状況を示す断面図、アンカーボルトがせん断力を受ける状態を示した説明図である。
【
図8】ベースプレートのボルト孔に対するアンカーボルトの位置のばらつきとせん断力の関係を示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明に係る露出型柱脚用座金を示し、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は(a)におけるA−A線での断面図である。図示の露出型柱脚用座金1は、表面と裏面が同じ略台形状からなる座金本体2のほぼ中央にアンカーボルトの挿通孔3が形成されるとともに、座金本体2の肉厚方向に貫通する3個の切り溝状の空気排出溝4a,4b,4cが、挿通孔3を中心にして放射状(120°間隔)に設けられた形状をなしている。これらの空気排出溝4a,4b,4cは、後述する露出型柱脚の定着構造において、グラウト材をその開口部分から外部に漏出させることなく、座金本体2の内部に留めるものであって、アンカーボルトに挿通されナットが螺合した状態で、ナットの外周縁を越えてその先端側部分が露出する長さに設定されている。なお、アンカーボルトの挿通孔3の内径は、使用するアンカーボルトの外径より5〜10mm程度大きく形成されている。
【0016】
図2(a)は、露出型柱脚用座金1の取付状態を示す平面図である。露出型柱脚用座金1は、ベースプレート(図示せず)の周辺部分に過大孔(一般的にはアンカーボルト径プラス10〜20mm程度)として形成されたボルト孔から突出するアンカーボルト10の上端部に螺着する締付け用のナット11とベースプレートとの間に配置される。なお、この実施形態ではナット11と露出型柱脚用座金1の間に、ナット11の対角距離よりやや大きい外径の一般的な丸座金12が挿入されているが、丸座金12は設けなくともよい。図から明らかなように、空気排出溝4a,4b,4cは、それぞれナット11の外周縁と丸座金12を越えてその先端側部分が外部に露出している。
【0017】
図2(b)は、本発明に係る露出型柱脚の定着構造において、グラウト材の充填状況を示す断面図である。基礎コンクリート13の上面から突出するアンカーボルト10は、鉄骨柱(図示せず)の下端に固着されたベースプレート14のボルト孔14aを挿通し、露出型柱脚用座金1と丸座金12を挿入した状態で2個のナット11で締め付けられている。そして、基礎コンクリート13の上面とベースプレート14下面の間隙と、ベースプレート14のボルト孔14aとアンカーボルト10の間隙と、露出型柱脚用座金1の挿通孔3とアンカーボルト10の間隙が、それぞれグラウト材Gで隙間なく一体的に充填された状態になっている。この場合、グラウト材Gは、後述する充填方法により、ベースプレート14の下面からアンカーボルト10を伝わって、ボルト孔14aを通過し、さらに押し上がるようにして露出型柱脚用座金1の挿通孔3の内部にまで隙間なく充填される。本発明で使用するグラウト材Gとしては、無収縮性と高流動性と高強度の3条件を満足する無収縮モルタルが好適であり、その高い流動性によりアンカーボルト10のねじ部(三角ねじ)の谷部10a(谷底)まで確実に充填することができる。
【0018】
上記グラウト材G(無収縮モルタル)の配合例としては、無収縮セメントと骨材(珪砂)の重量比が50%、水セメント比は30%以下、骨材(珪砂)のサイズは2〜3mm以下である。このような配合の無収縮モルタルを狭小空間(3mm以上)に充填させることは、適度な注入圧と空気排出孔があれば可能である。ところが、2〜3mm以下の間隙では、無収縮モルタルの骨材サイズよりも狭くなることから、その入り口
(空気排出孔の内面側)で骨材が止まり、セメントミルクだけが流れ出る状態になる。しばらくすると、その場所に骨材が集積して堰の状態になり、セメントミルクの流出も完全に止まる。このような無収縮モルタルの特性により、露出型柱脚用座金1の空気排出溝4a,4b,4cの
下面側で骨材が止まり、空気排出溝4a,4b,4cの内部
にセメントミルクを注入できることから、露出型柱脚用座金1の挿通孔3とアンカーボルト10の間隙にグラウト材G(無収縮モルタル)が充填されたことを確認できる。本発明では、特に、堅牢で拘束された空間になっているアンカーボルト10の周囲において、無収縮モルタルが密実充填状態で凝結することにより拘束効果(コンファインド効果)が発揮され、通常得られる圧縮強度の数倍の強度になり、またその他の隙間も無収縮モルタルで充填されて柱脚が一体化し、耐震性能を高めることができる。
【0019】
上記のとおり、グラウト材Gによりベースプレート14の下面と基礎コンクリート13との付着定着力を高め、アンカーボルト10のねじ部の周辺、特に谷部10aまでも含めてグラウト材Gで保護することで、柱脚に作用するせん断力が、アンカーボルト10を介して基礎コンクリート13へとスムーズに伝達させ、建築設計者が意図する柱脚の固定性能を確保し、アンカーボルト10のねじ部において、谷部10aへの応力集中によるアンカーボルト10の破断を効果的に抑制し、建物の倒壊を防ぐことが可能になる。
【0020】
グラウト材Gを充填する箇所は、後述するように型枠材で囲まれた閉鎖空間であるので、その充填に際してはベースプレート14の下面側に滞留する空気の排出が必要となる。空気の排出が不十分であると、その箇所はグラウト材Gの充填不良箇所となる。このことから、適度な開口面積を持つ空気抜き手段が必要であり、本発明の露出型柱脚用座金1では、アンカーボルト10の挿通孔3に連通する配置形態で3個の空気排出溝4a,4b,4cを設けている。その意図は、アンカーボルト10が露出型柱脚用座金1の挿通孔3に接触した状況によっては、空気排出溝4a,4b,4cのいずれかがアンカーボルト10の外周面で塞がれ、空気抜きの役割を果たせない状況が想定されるからである。このような場合であっても、残りの2個の空気排出溝でその役割を果たすことができる。なお、空気排出溝は、少なくとも2個設ければよく、この場合には対向位置が望ましい。
【0021】
本発明の露出型柱脚用座金における空気排出溝は、充填時における空気の排出が目的であり、グラウト材(無収縮モルタル等)を露出型柱脚用座金の内部に留め、その漏出がないものとしているが、ほんのわずかなセメントミルクが漏れ出る程度では、その効果に大差がないので、この条件に含まれる。具体的には、空気排出溝の幅は2〜3mm、空気排出溝の露出長さはナットの外周縁から10mm以下が好ましい。この範囲を超えると、空気排出溝からグラウト材が漏れ出し、それ以降の注入圧力が大きく低下するので、必要な箇所に隙間なく充填することが困難になる。
【0022】
図3は、露出型柱脚用座金1を露出型柱脚のアンカーボルト10に適用した状態を示す平面図である。鉄骨柱15の下端に固着された矩形状からなるベースプレート14の四隅のボルト孔にアンカーボルト10を挿通し、露出型柱脚用座金1を挿入して上方からナット11で締め付ける。なお、ベースプレート14の下面側におけるグラウト材Gの充填状態は上記
図2に関わる記載のとおりである。露出型柱脚用座金1は、アンカーボルト10の挿通孔3の周囲に広い面と断面積を有しており、さらにその外周を
図7の従来技術のようにベースプレート14と溶接した場合には、ベースプレート14の曲げ変形の変位量の低減、およびベースプレート14の曲げ応力の低減により寄与することができる。
【0023】
次に、本発明に係る露出型柱脚の定着構造について、グラウト材の充填方法を説明する。
図4は、鉄骨柱15の建て入れが完了し、グラウト材を充填する前の状態を示したものであって、本発明の露出型柱脚用座金1がベースプレート14とナット11の間に挟まれるように設けられている。ベースプレート14を固着した鉄骨柱15は、基礎コンクリート13の上面に設けたレベルモルタル16で支持され、アンカーボルト10とナット11で緊結された状態である。レベルモルタル16の高さは、20〜50mm程度とし、その大きさは、ベースプレート14を取り付ける鉄骨柱15の寸法の2/3程度とし、グラウト材が充填されるアンカーボルト10の周囲に10mm以上の間隙が確保されていることを確認する。
【0024】
図5(a),(b)は、それぞれ露出型柱脚でグラウト材の充填方法を示す断面図と平面図である。鉄骨柱15の建て入れが完了した後、ベースプレート14の外周面に型枠材17を密着させて取り付ける。なお、充填する無収縮モルタル等のグラウト材Gが型枠材17の上部や下部から流出しないようにシールを行う。ベースプレート14には、あらかじめグラウト材Gの注入孔14bが形成されている。そして、グラウト充填用ロート18を注入孔14bに差し込み、グラウト材Gをゆっくりと流し入れる。グラウト材Gは、ベースプレート14の下面と基礎コンクリート13との隙間を満たし、さらにベースプレート14のボルト孔14aを上昇して露出型柱脚用座金1の挿通孔3にまで到達し、アンカーボルト10の周囲の隙間を確実に埋めることができる。
図6は、
図5とは別の充填方法を示す実施例である。この実施例は、型枠材17に注入孔を形成し、型枠材17の側面からグラウト充填用ロート18でグラウト材Gを充填する方法である。
【0025】
無収縮モルタル等のグラウト材Gは、流動性の優れたもの使用することが重要である。ベースプレート14の下面全域とナット11の直下まで完全に充填させるには、適度なグラウト材Gの流動速度と適度な注入圧力が必要である。これを満足する方法として、
図5,6に示すように、ある程度の高さと20mm程度の注入孔を有するグラウト充填用ロート18を使用する。グラウト材Gの注入作業は,グラウト充填用ロート18の頂部近くまでグラウト材Gで満たす。グラウト材Gを満たす高さHは、アンカーボルト10の頂部高さまでを目安とする。このような条件により、グラウト充填用ロート18中のグラウト材Gの質量が適度な注入圧力となって継続的な充填が可能になり、グラウト材Gですべての隙間を埋めることができる。
【0026】
このように、無収縮性、高強度および高流動性備えた無収縮モルタルからなるグラウト材でベースプレートの下面からアンカーボルトとベースプレートのボルト孔および露出型柱脚用座金との間隙まで確実に充填し、アンカーボルトのナットより下方向に現れるねじ部分をすべて無収縮モルタルで被覆状態にすることで、ねじ部に発生する応力集中を抑制し、また柱脚単位で各アンカーボルトに均等なせん断力を負担させることで、建築物の耐震性能を向上する。また、座金の挿通孔、ベースプレートのボルト孔をアンカーボルトの外径よりやや広くすることで、無収縮モルタル等のグラウト材の充填性を改善し、さらには、鉄骨工事への合理化に繋がる。
【0027】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば空気排出溝の数の変更など、本発明の技術思想内でさまざまな変更実施が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明に係る露出型柱脚用座金は、鉄骨造の柱脚部に使用された場合にその優位性が発揮され、構造躯体の耐震性能、施工性、経済性を向上させる手段としてさらなる展開が期待される。
【符号の説明】
【0029】
1…露出型柱脚用座金、2…座金本体、3…挿通孔、4a,4b,4c…空気排出溝、10…アンカーボルト、10a…谷部、11…ナット、12…丸座金、13…基礎コンクリート、14…ベースプレート、14a…ボルト孔、15…鉄骨柱、16…レベルモルタル、17…型枠材、18…グラウト充填用ロート、20…座金、21…挿通孔