(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記間隙連通路が、前記供給流路と前記第1流路との間に作り出される第1連通路と、前記供給流路と前記第2流路との間に作り出される第2連通路を有し、前記第1連通路の通路抵抗と、前記第2連通路の通路抵抗とが異なる請求項1又は2のいずれか一項に記載の弁開閉時期制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されるように内部にスプールを収容した構成では、弁開閉時期制御装置の内部から進角室と遅角室に対する流体の給排の制御が可能となり、流体の制御系の部品点数を低減し、弁開閉時期制御装置の小型化を実現する。
【0008】
弁開閉時期制御装置は、制御弁により進角室と遅角室とに対して流体を選択的に供給することにより相対回転位相を設定するものである。ただし、弁開閉時期制御装置では、例えば、位相制御中にも進角室と遅角室とから流体が僅かにリークする。従って、スプールが中立位置にある状況が継続する場合でも、弁開閉時期制御装置が回転するため遠心力等の作用により、進角室及び遅角室の流体がリークして位相保持の安定性が損なわれ、カムシャフトから作用するカム変動トルクにより相対回転位相が大きく変動(所謂、バタツキ)することがあった。
【0009】
一方、進角室と遅角室とに流体が充填された状態にあれば、カム変動トルクが作用する状況でも弁開閉時期制御装置の相対回転位相は維持し易く、弁の開閉時期が大きく変動することはない。
【0010】
弁開閉時期制御装置の作動油としては、エンジンオイルが用いられるため、特に、エンジン温が上昇して作動油の粘性が低下した場合には進角室及び遅角室からの作動油のリーク量が増大し、位相保持が不安定なものになる。
【0011】
このような課題に対して、特許文献2の構成では、スプールの設定位置に拘わらず進角室と遅角室とに対して流体(作動油)の供給が可能となり、バタツキ等が生じない抑制を可能にするものである。
【0012】
しかしながら、特許文献2に記載されるようにスリーブの外周に連通路を形成するものでは、流体の温度上昇に伴って流体の粘性が低下し流体の流量が増大するだけでなく、スプールや、このスプールを収容する部材の膨張により連通路の断面積が拡大し、流体の流量を更に増大させる結果、流体を無駄に流動させ不都合に繋がるものであった。
【0013】
本発明の目的は、温度上昇に伴い進角室と遅角室とから流体のリーク量が増大する場合でも相対回転位相の変動を抑制し得る弁開閉時期制御装置を合理的に構成する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る弁開閉時期制御装置の特徴構成は、内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、
弁開閉用のカムシャフトと一体回転するよう、前記カムシャフトに固定される従動側回転体と、
前記駆動側回転体と前記従動側回転体とにより区画形成される進角室及び遅角室と、
筒状壁部を備え、前記カムシャフトと同軸芯であり、前記従動側回転体に取付けられる取付部材と、
前記取付部材の前記筒状壁部により区画される空間内部に前記取付部材の軸芯に沿って往復動自在に収容され、外部のポンプから吐出された流体が供給されるスプールとを備え、
前記スプールの移動に応じて、前記進角室及び前記遅角室に対して流体が選択的に流入される又は前記進角室及び前記遅角室から流出されることを許容する第1ポート及び第2ポートが前記取付部材の前記筒状壁部に形成され、
前記第1ポートを前記進角室に連通させる第1流路と、前記第2ポートを前記遅角室に連通させる第2流路が前記従動側回転体に形成され、
前記従動側回転体を形成する材料の熱膨張係数は、前記取付部材を形成する材料の熱膨張係数より大きく、前記取付部材の外周面と前記従動側回転体の内周面とが当接して取付けられるとき、前記第1流路は前記第1ポートに連通し、前記第2流路が前記第2ポートに連通し、
前記取付部材の前記筒状壁部に前記ポンプからの流体が前記スプールに供給される供給ポートが形成され、前記供給ポートに連通する供給流路が前記従動側回転体に形成され、
前記従動側回転体の内周面と前記取付部材の外周面との間に作り出される間隙連通路により、前記供給流路と前記第1流路との間、
および前記供給流路と前記第2流路との
間において流体を供給可能に連通させる点にある。
【0015】
この特徴構成によると、取付部材の外周面と従動側回転体の内周面とが当接して取付けられるとき、第1流路が第1ポートに連通し、第2流路が第2ポートに連通し、取付部材の筒状壁部に形成された供給ポートに従動側回転体の供給流路が連通する。そして、従動側回転体の内周面と取付部材の外周面との間に作り出される間隙連通路により、供給流路と第1流路との間、
および供給流路と第2流路との
間において、流体を供給可能に連通させる。
つまり、温度上昇に伴い流体の粘性が低下し、進角室と遅角室とからの流体のリーク量が増大した場合には、進角室と遅角室との少なくとも一方に対する流体の供給量の増大が可能となる。これによりカム変動トルクの作用に抗して相対回転位相を維持することが可能となる。
従って、温度上昇に伴い進角室及び遅角室から流体のリーク量が増大する場合でも、進角室と遅角室とに流体を供給して相対回転位相の変動を抑制し得る弁開閉時期制御装置が構成された。
【0016】
本発明に係る弁開閉時期制御装置の特徴構成は、内燃機関のクランクシャフトと同期回転する駆動側回転体と、
弁開閉用のカムシャフトと一体回転するよう、前記カムシャフトに固定される従動側回転体と、
前記駆動側回転体と前記従動側回転体とにより区画形成される進角室及び遅角室と、
筒状壁部を備え、前記カムシャフトと同軸芯であり、前記従動側回転体に取付けられる取付部材と、
前記取付部材の前記筒状壁部により区画される空間内部に前記取付部材の軸芯に沿って往復動自在に収容され、外部のポンプから吐出された流体が供給されるスプールとを備え、
前記スプールの移動に応じて、前記進角室及び前記遅角室に対して流体が選択的に流入される又は前記進角室及び前記遅角室から流出されることを許容する第1ポート及び第2ポートが前記取付部材の前記筒状壁部に形成され、
前記第1ポートを前記進角室に連通させる第1流路と、前記第2ポートを前記遅角室に連通させる第2流路とが前記従動側回転体に形成され、
前記従動側回転体及び前記取付部材の間に設けられ、前記取付部材を形成する材料の熱膨張係数よりも大きな熱膨張係数を有する材料で形成された仕切部材を備え、前記取付部材が前記従動側回転体に取付けられるとき、前記第1流路は前記第1ポートに連通し、前記第2流路が前記第2ポートに連通し、
前記仕切部材の内周面と前記取付部材の外周面との間に作り出される間隙連通路により、前記ポンプからの流体が供給される供給流路と前記第1流路との間、
および前記供給流路と前記第2流路との
間において流体を供給可能に連通させる点にある。
【0017】
この特徴構成によると、取付部材の外周面と仕切部材の内周面とが当接して取付られるとき、第1流路が第1ポートに連通し、第2流路が第2ポートに連通する。そして、取付部材と仕切部材との間に作り出される間隙連通路により、供給流路と第1流路との間、
および供給流路と第2流路との
間において、流体を供給可能に連通させる。
つまり、温度上昇に伴い流体の粘性が低下し、進角室と遅角室とからの流体のリーク量が増大した場合には、進角室と遅角室との少なくとも一方に対する流体の供給量の増大が可能となる。これによりカム変動トルクの作用に抗して相対回転位相を維持することが可能となる。
従って、温度上昇に伴い進角室及び遅角室から流体のリーク量が増大する場合でも、進角室と遅角室とに流体を供給して相対回転位相の変動を抑制し得る弁開閉時期制御装置が構成された。
【0018】
他の構成として、前記間隙連通路が、前記供給流路と前記第1流路との間に作り出される第1連通路と、前記供給流路と前記第2流路との間に作り出される第2連通路を有し、前記第1連通路の通路抵抗と、前記第2連通路の通路抵抗とが異なっても良い。
【0019】
これによると、例えば、進角室と遅角室とのうち、カム変動トルクに抗するものに対して流体を、より多く供給できるように、第1流路と第2流路との通路抵抗を設定することにより、カム変動トルクに抗する力を得ることも可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
〔基本構成〕
図1及び
図2に示すように、内燃機関としてのエンジンEのクランクシャフト1と同期回転する外部ロータ20(駆動側回転体の一例)と、エンジンEの燃焼室の吸気カムシャフト5と同軸芯で一体回転する内部ロータ30(従動側回転体の一例)とを、吸気カムシャフト5の回転軸芯Xを中心に相対回転自在に備えて弁開閉時期制御装置Aが構成されている。
【0022】
この弁開閉時期制御装置Aは、外部ロータ20に対して内部ロータ30を内包しており、内部ロータ30は、中心位置を貫通する連結ボルト38(取付部材の一例)により吸気カムシャフト5に連結している。この連結ボルト38の空間内部には、ボルト軸芯(回転軸芯Xと一致する)と同軸芯で、このボルト軸芯に沿って往復操作自在(往復動自在)にスプール41を収容し、このスプール41を付勢するスプールスプリング42を収容している。また、スプール41を操作する電磁ソレノイド44がエンジンEに支持され、このスプール41とスプールスプリング42と電磁ソレノイド44とで電磁制御弁40が構成されている。
【0023】
弁開閉時期制御装置Aは、電磁制御弁40による作動油(流体の一例)の制御により外部ロータ20と内部ロータ30との相対回転位相を変更し、これにより吸気バルブ5Vの開閉時期の制御を行うように構成されている。尚、この構成では、スプール41とスプールスプリング42とは、内部ロータ30と一体回転する。
【0024】
図1のエンジンE(内燃機関の一例)は、乗用車などの車両に備えられるものを示している。このエンジンEは、クランクシャフト1の上部位置のシリンダブロック2のシリンダボアの内部にピストン3を収容し、このピストン3とクランクシャフト1とをコネクティングロッド4で連結した4サイクル型に構成されている。
【0025】
エンジンEの上部には、吸気バルブ5Vを開閉作動させる吸気カムシャフト5と排気カムシャフトとを備えている。また、エンジンEには、クランクシャフト1で駆動される油圧ポンプP(流体圧ポンプの一例)を備えている。この油圧ポンプPは、エンジンEのオイルパンに貯留される潤滑油を、供給流路8を介して作動油(流体の一例)として電磁制御弁40に供給する。
【0026】
エンジンEのクランクシャフト1に形成した出力スプロケット6と、外部ロータ20のタイミングスプロケット23Sとに亘ってタイミングチェーン7が巻回されている。これにより外部ロータ20はクランクシャフト1と同期回転する。図面には示していないが、排気側のカムシャフトの前端にもスプロケットが備えられ、このスプロケットにもタイミングチェーン7が巻回されている。
【0027】
図2に示すように、弁開閉時期制御装置Aは、クランクシャフト1からの駆動力により外部ロータ20が駆動回転方向Sに向けて回転する。また、内部ロータ30が外部ロータ20に対して駆動回転方向Sと同方向に相対回転する方向を進角方向Saと称し、この逆方向を遅角方向Sbと称する。この弁開閉時期制御装置Aでは、相対回転位相が進角方向Saに変位する際に変位量の増大に伴い吸気圧縮比を高め、相対回転位相が遅角方向Sbに変位する際に変位量の増大に伴い吸気圧縮比を低減するようにクランクシャフト1と吸気カムシャフト5との関係が設定されている。
【0028】
尚、この実施形態では、吸気カムシャフト5に弁開閉時期制御装置Aを備えているが、弁開閉時期制御装置Aを排気カムシャフトに備えることや、吸気カムシャフト5と排気カムシャフトとの双方に備えても良い。
【0029】
〔弁開閉時期制御装置〕
弁開閉時期制御装置Aは、
図1〜
図5に示すように外部ロータ20と内部ロータ30とを備えると共に、内部ロータ30と吸気カムシャフト5との間に挟み込まれるブッシュ状のアダプタ37を備えて構成されている。
【0030】
外部ロータ20は、外部ロータ本体21と、フロントプレート22と、リヤプレート23とを有しており、これらが複数の締結ボルト24の締結により一体化されている。リヤプレート23の外周にはタイミングスプロケット23Sが形成されている。
【0031】
外部ロータ本体21には、回転軸芯Xを基準にして径方向の内側に突出する複数の突出部21Tが一体的に形成されている。内部ロータ30は、外部ロータ本体21の突出部21Tの突出端に密接する円柱状の内部ロータ本体31と、外部ロータ本体21の内周面に接触するように内部ロータ本体31の外周に突出して備えた複数(4つ)のベーン部32とを有している。
【0032】
これにより、外部ロータ20に対し内部ロータ30を内包することにより回転方向で隣接する突出部21Tの中間位置で、内部ロータ本体31の外周側に複数の流体圧室Cが形成される。これらの流体圧室Cがベーン部32で仕切られることにより進角室Caと遅角室Cbとが区画形成される。
【0033】
この弁開閉時期制御装置Aでは、外部ロータ本体21と内部ロータ本体31とがアルミニウム合金製であり、連結ボルト38とアダプタ37とが鉄を含む鋼材で構成されている。この材料の設定により、内部ロータ本体31の熱膨張係数が、連結ボルト38とアダプタ37との熱膨張係数より大きく設定されている。
【0034】
この弁開閉時期制御装置Aでは、複数のベーン部32のうちの1つに対して回転軸芯Xに沿う姿勢で形成されたガイド孔26にスライド移動自在にロック部材25を備え、このロック部材25を突出付勢するロックスプリングを備えている。また、リヤプレート23にはロック部材25の係脱が可能なロック凹部が形成されている。これらロック部材25、ロックスプリング、ロック凹部によりロック機構Lが構成されている。
【0035】
このロック機構Lは、ロック部材25がロックスプリングの付勢力によりロック凹部に係合して、相対回転位相を最遅角位相に保持する。
【0036】
図1に示すように、アダプタ37とフロントプレート22とに亘って外部ロータ20と内部ロータ30との相対回転位相(以下、相対回転位相と称する)を、後述する最遅角位相から中間位相まで付勢力を作用させるトーションスプリング28が備えられている。
【0037】
連結ボルト38は、ボルト頭部38Hと雄ネジ部38Sとを有し、雄ネジ部38Sが吸気カムシャフト5の雌ネジ部に螺合することにより、内部ロータ30が、アダプタ37を介して吸気カムシャフト5に連結し、各々が一体回転する。
【0038】
連結ボルト38のうちボルト頭部38Hに近い側に回転軸芯Xを中心とする筒状壁部38Cが形成され、この筒状壁部38Cの内部にスプール41が収容されている。更に、連結ボルト38の外周には作動油を送り出す中間凹部38Aが形成されている。
【0039】
アダプタ37は、連結ボルト38の中間部分の外周面に接触する内径の内周面37Aと、リヤプレート23の内周に接触する外周面37Bと、内部ロータ本体31に接触する第1側壁37S1と、吸気カムシャフト5に接触する第2側壁37S2とを有した筒状に形成されている。
【0040】
図5に示すように、内部ロータ30とアダプタ37との当接面、及び、アダプタ37と吸気カムシャフト5との当接面を貫く位置に回転軸芯Xと平行姿勢となる規制ピン39を嵌合させている。これにより、内部ロータ30とアダプタ37と吸気カムシャフト5とが一体回転する。
【0041】
このアダプタ37は、連結ボルト38の中間凹部38Aから内周面37Aに供給される作動油を外周面37Bに送り出す放射状となる複数(4つ)の導出流路37Dがドリル加工により貫通状態で形成されている。更に、各々の導出流路37Dからの作動油を第1側壁37S1の方向に送り出すように回転軸芯Xと平行姿勢となる複数(4つ)の分岐流路37Eが形成されている。
【0042】
これらの分岐流路37Eは、内部ロータ本体31に形成されたポンプ流路35(第1流路の一例)と連通する。また、第1側壁37S1には、環状凹部37Cから外周面37Bに亘る領域に複数の溝状部37Gが放射状に形成されている。この溝状部37Gは遅角流路34の一部を構成する。
【0043】
〔弁開閉時期制御装置:油路構成〕
作動油の供給により相対回転位相を進角方向Saに変位させる空間が進角室Caであり、これとは逆に、作動油の供給により相対回転位相を遅角方向Sbに変位させる空間が遅角室Cbである。ベーン部32が進角方向Saの作動端(ベーン部32の進角方向Saの作動端の近傍の位相を含む)に達した状態での相対回転位相を最進角位相と称し、ベーン部32が遅角方向Sbの作動端(ベーン部32の遅角方向Sbの作動端の近傍の位相を含む)に達した状態での相対回転位相を最遅角位相と称する。
【0044】
内部ロータ本体31には、油圧ポンプPからの作動油をスプール41に供給するように回転軸芯Xと平行姿勢となるポンプ流路35(供給流路の一例)と、進角室Caに連通する進角流路33(第1流路の一例)と、遅角室Cbに連通する遅角流路34(第2流路の一例)とが形成されている。
【0045】
また、ロック凹部には進角流路33が連通している。従って、進角室Caに作動油が進角流路33に供給されることにより、ロックスプリングの付勢力に抗してロック部材25がロック凹部から離脱しロック状態の解除が可能となる。
【0046】
スプールスプリング42は、スプール41を吸気カムシャフト5から離間する方向に付勢力を作用させるものであり、連結ボルト38には、スプール41の外端側の作動端を決めるストッパー43が備えられている。
【0047】
電磁ソレノイド44は、内部のソレノイドに供給された電力に比例した量だけ突出作動するプランジャ44aを備えており、このプランジャ44aの押圧力によりスプール41を操作する。
【0048】
スプール41は、内端側(吸気カムシャフト5側)と外端側とにランド部41Aが形成され、これらのランド部41Aの中間位置の全周に環状となるグルーブ部41Bが形成されている。このスプール41の内部は中空に形成され、スプール41の突出端にはドレン孔41Dが形成されている。
【0049】
連結ボルト38の筒状壁部38Cには、ポンプ流路35から作動油が供給されるポンプポート38Cp(供給ポートの一例)が形成されている。また、この筒状壁部38Cにはスプール41の作動により進角室Caに対する作動油の給排を行う進角ポート38Ca(第1ポートの一例)と、遅角室Cbに対する作動油の給排を行う遅角ポート38Cb(第2ポートの一例)とが形成されている。尚、進角ポート38Caと遅角ポート38Cbとは回転軸芯Xに沿う方向でポンプポート38Cpを挟む位置に配置されている。
【0050】
内部ロータ本体31の内周にはポンプポート38Cpに連通するポンプ側環状溝35Pが形成され、これに複数(4つ)のポンプ流路35が連通している。また、内部ロータ本体31の内周には、進角ポート38Caに連通する進角側環状溝33Aが形成され、これに複数(4つ)の進角流路33が連通している。更に、アダプタ37の内周には遅角ポート38Cbに連通する遅角側環状溝34Aが形成され、これに複数(4つ)の遅角流路34が連通している。
【0051】
特に、遅角流路34は、
図1、
図3、
図4に示す如く、アダプタ37の内周に形成された遅角側環状溝34Aと、アダプタ37の第1側壁37S1に形成された溝状部37Gと、内部ロータ本体31に穿設される孔状部分とで構成されている。
【0052】
電磁ソレノイド44は、非通電状態では
図1に示す非押圧位置に保持され、この非押圧位置にある場合、スプール41は同図に示す進角ポジションに保持される。また、電磁ソレノイド44に所定電力を通電することでプランジャ44aが内端側の押圧位置に達しスプール41は遅角ポジションに保持される。更に、電磁ソレノイド44にこれより低い電力を通電することにより、プランジャ44aの突出量が制限され遅角ポジションと進角ポジションとの中間となる中立ポジション(
図6に示すポジション)に保持される。
【0053】
吸気カムシャフト5を回転自在に支持するエンジン構成部材10には、油圧ポンプPからの作動油を供給する供給流路8が形成されている。
【0054】
連結ボルト38の内部には、供給流路8からの作動油が供給される供給空間11が形成され、内部にはスプリングとボールとで成るチェック弁45を備えている。この連結ボルト38の外周には、チェック弁45を通過した作動油が供給される中間凹部38Aが全周に亘る環状に形成されている。
【0055】
これにより、油圧ポンプPからの作動油は供給流路8から供給空間11に供給され、更に、チェック弁45から中間凹部38Aに供給される。この中間凹部38Aに供給された作動油は、アダプタ37の内周面37Aから複数の導出流路37Dに送られ、これに連通する分岐流路37E、ポンプ流路35、ポンプポート38Cpを順次介してスプール41のグルーブ部41Bに供給される。
【0056】
作動油が供給される状況においてスプール41が進角ポジション(
図1に示すポジション)に設定された場合には、ポンプポート38Cpからの作動油が進角ポート38Caに送られ、遅角ポート38Cbから作動油が排出される。これとは逆にスプール41が遅角ポジションに設定された場合には、ポンプポート38Cpからの作動油が遅角ポート38Cbに送られ、進角ポート38Caからの作動油が排出される。また、スプール41が中立位置に設定された場合には、進角ポート38Caと遅角ポート38Cbとに対する作動油の給排は遮断される。
【0057】
これにより、スプール41を進角ポジション、遅角ポジション、中立ポジションに設定された場合には、相対回転位相は進角方向Saが変位し、遅角方向Sbに変位し、相対回転位相は保持される。
【0058】
〔連通路:外周側連通路〕
本発明の弁開閉時期制御装置Aでは、スプール41が中立ポジションにある状況でも、進角室Caと遅角室Cbとから作動油がリークする構成であるため、
図6、
図7に示すように、リークした作動油を進角室Caと遅角室Cbとに補うために複数(4つ)の外周側連通路51を連結ボルト38の外周に形成している。この外周側連通路51は、油温が上昇した場合に作動油の粘性の低下を利用して供給油量を増大させるようにも構成されている。
【0059】
この外周側連通路51は、連結ボルト38の外周を溝状に切削加工した外周側進角連通路51F(第1連通路の一例)と、外周側遅角連通路51R(第2連通路の一例)とで構成されている。外周側進角連通路51Fは、ポンプ流路35(厳密にはポンプ側環状溝35P)と進角流路33(厳密には進角側環状溝33A)とを連通させ、進角室Caに作動油を供給する位置に形成されている。また、外周側遅角連通路51Rは、ポンプ流路35(厳密にはポンプ側環状溝35P)と遅角流路34(厳密には遅角側環状溝34A)とを連通させ、遅角室Cbに作動油を供給する位置に形成されている。
【0060】
本発明の外周側連通路51は、連結ボルト38の外周に溝状に形成していたが、これに代えて、
図8に示すように、連結ボルト38の外面の全周の切削加工により形成しても良い。また、
図9に示すように、連結ボルト38の外周の一部をDカット状に切削加工することで形成しても良い。
【0061】
また、外周側連通路51は、連結ボルト38の外面に粗面に形成することにより流体の流通が可能となる空間により形成しても良い。
【0062】
特に、外周側進角連通路51Fに作動油が流れる進角側連通距離Laと、外周側遅角連通路51Rに作動油が流れる遅角側連通距離Lbとは異なる値に設定されている。具体的には、進角側連通距離Laを遅角側連通距離Lbより短くすることにより(La<Lb)、外周側進角連通路51Fに作動油が流れる際の通路抵抗を、外周側遅角連通路51Rに作動油が流れる際の通路抵抗より低くしている。これにより、進角流路33に流れる作動油の油量を、遅角流路34に流れる油量より多くして、カム変動トルクに抗する力を得るようにしている。
【0063】
また、連結ボルト38の外面に形成される外周側進角連通路51Fと外周側遅角連通路51Rとの溝深さを異ならせても良い。これによっても、外周側進角連通路51Fの通路抵抗を、外周側遅角連通路51Rの通路抵抗より低くして進角流路33に供給される作動油の油量を、遅角流路34に供給される作動油の油量より多くしている。
【0064】
この外周側連通路51では、外周側進角連通路51Fと外周側遅角連通路51Rとを溝状やDカット状に形成する場合に、これらを回転軸芯Xと平行となる同一の直線上に配置する必要はなく、これらを異なる直線上に配置しても良い。また、外周側進角連通路51Fと外周側遅角連通路51Rとの一方だけを形成しても良い。
【0065】
〔連通路:内周側連通路〕
本発明では、
図10、
図11に示すように、リークした作動油を進角室Caと遅角室Cbとに補うために内部ロータ本体31の内周に複数(4つ)の内周側連通路52を形成している。この内周側連通路52は、油温が上昇した場合に作動油の粘性の低下を利用して供給油量を増大させるようにも構成されている。
【0066】
この内周側連通路52は、内部ロータ本体31の内面を溝状に切削加工することにより形成される内周側進角連通路52F(第1連通路の一例)と、内周側遅角連通路52R(第2連通路の一例)とで構成されている。内周側進角連通路52Fはポンプ流路35と進角流路33とを連通させ、進角室Caに作動油を供給する位置に形成されている。また、内周側遅角連通路52Rは、ポンプ流路35と遅角流路34とを連通させ、遅角室Cbに作動油を供給する位置に形成されている。
【0067】
本発明の内周側連通路52は、内部ロータ本体31の内周に溝状に形成していたが、これに代えて、
図12に示すように、内部ロータ本体31の内周の全周の切削加工により形成しても良い。また、
図13に示すように、内部ロータ本体31において回転軸芯Xに沿う方向に形成した孔部によって形成しても良い。尚、内周側連通路52を孔部によって形成する場合には、進角側環状溝33Aとポンプ流路35と遅角側環状溝34Aとに連通するように孔部の穿設位置が設定される。
【0068】
また、内周側連通路52は、内部ロータ本体31の内周に粗面に形成することにより流体の流通が可能となる空間により形成しても良い。
【0069】
特に、内周側進角連通路52Fに作動油が流れる進角側連通距離Laと、内周側遅角連通路52Rに作動油が流れる遅角側連通距離Lbとは異なる値に設定されている。具体的には、進角側連通距離Laを遅角側連通距離Lbより短くすることにより(La<Lb)、内周側進角連通路52Fに作動油が流れる際の通路抵抗を、内周側遅角連通路52Rに作動油が流れる際の通路抵抗より低くしている。
【0070】
また、内部ロータ本体31の内周を切削加工することで内周側進角連通路52Fと内周側遅角連通路52Rとの溝深さを異ならせても良い。これによっても、内周側進角連通路51F2通路抵抗を、内周側遅角連通路52Rの通路抵抗より低くして進角流路33に供給される作動油の油量を、遅角流路34に供給される作動油の油量より多くしている。
【0071】
この内周側連通路52では、内周側進角連通路52Fと内周側遅角連通路52Rとを溝状に形成する場合に、これらを回転軸芯Xと平行となる同一の直線上に配置しているが、これらを異なる直線上に配置しても良い。内周側進角連通路52Fと内周側遅角連通路52Rとの一方だけを形成しても良い。
【0072】
尚、内部ロータ本体31は押出加工により形成されるものであることから、この押出加工に用いられるダイスの形状の設定により溝部を形成しても良い。
【0073】
〔連通路:間隙連通路〕
本発明では、
図14に示すように、内部ロータ本体31と連結ボルト38との熱膨張係数の差を利用して、温度が上昇した場合に各々の間に作り出される間隙により間隙連通路53が形成されている。この間隙連通路53は、油温が上昇した場合に作動油の粘性の低下を利用して供給油量を増大させるようにも機能する。
【0074】
間隙連通路53は、間隙進角連通路53F(第1連通路の一例)と間隙遅角連通路53R(第2連通路の一例)とで構成されている。間隙進角連通路53Fはポンプ流路35と進角流路33とを連通させ、進角室Caに作動油を供給する位置に形成されている。間隙遅角連通路53Rはポンプ流路35と遅角流路34とを連通させ、遅角室Cbに作動油を供給する位置に形成されている。
【0075】
特に、間隙進角連通路53Fに作動油が流れる進角側連通距離Laと、間隙遅角連通路53Rに作動油が流れる遅角側連通距離Lbとは異なる値に設定されている。具体的には、間隙進角連通路53Fに作動油が流れる際の通路抵抗を、間隙遅角連通路53Rに作動油が流れる際の通路抵抗より低くしている。これにより、進角流路33に流れる作動油の油量を、遅角流路34に流れる油量より多くしている。
【0076】
〔連通路:間隙連通路の変形例〕
この変形例の間隙連通路53は、
図15、
図16に示すように、内部ロータ本体31の内周でポンプ流路35と進角流路33との間に進角側ブッシュ55(仕切部材の一例)を備え、ポンプ流路35と遅角流路34との間に遅角側ブッシュ56(仕切部材の一例)を備えて構成されている。
【0077】
進角側ブッシュ55と遅角側ブッシュ56とは、連結ボルト38より熱膨張係数が大きい材料が用いられ、内部ロータ本体31の内周に隙間無く嵌め込み固定されている。作動油の油温が設定値未満である場合には、その内周が連結ボルト38の外周に接触する。
【0078】
また、作動油の温度が上昇した場合に進角側ブッシュ55と連結ボルト38との熱膨張係数の差から間隙進角連通路53Fが現れ、遅角側ブッシュ56と連結ボルト38との間に間隙遅角連通路53Rが現れる。この間隙進角連通路53Fと間隙遅角連通路53Rとで間隙連通路53が形成される。
【0079】
これにより、油温が低い場合には、間隙進角連通路53Fと間隙遅角連通路53Rとは作り出されず、進角室Caと遅角室Cbとに作動油は供給されない。これに対して、作動油の温度が上昇した場合には、間隙進角連通路53Fと間隙遅角連通路53Rとが作り出され、スプール41がニュートラル位置にあっても進角室Caと遅角室Cbとに対して作動油を供給する。
【0080】
特に、この間隙連通路53の変形例では、間隙進角連通路53Fに作動油が流れる進角側連通距離Laと、間隙遅角連通路53Rに作動油が流れる遅角側連通距離Lbとを異なる値に設定されている。つまり、進角側連通距離Laは進角側ブッシュ55の回転軸芯Xに沿う方向での厚みであり、遅角側連通距離Lbは遅角側ブッシュ56の回転軸芯Xに沿う方向での厚みである。
【0081】
この変形例においても、進角側連通距離Laを遅角側連通距離Lbより短くすることにより(La<Lb)、間隙進角連通路53Fに作動油が流れる際の通路抵抗を、間隙遅角連通路53Rに作動油が流れる際の通路抵抗より低くしている。
【0082】
この変形例では進角側ブッシュ55と遅角側ブッシュ56との一方だけを内部ロータ本体31の内周に備えても良い。この場合、内部ロータ本体31のうちブッシュを備えない部位の内周面を連結ボルト38の外周面に接触させることになる。
【0083】
〔連通路:間隙連通路の変形例〕
この変形例は、前述した進角側ブッシュ55と遅角側ブッシュ56との何れか一方の内周を加工することにより溝状の流路を形成するものである。
【0084】
このように進角側ブッシュ55と遅角側ブッシュ56との何れか一方の内周に溝状の流路を形成することにより、作動油の温度が低い場合にも、進角室Caと遅角室Cbとの少なくとも何れか一方への作動油の供給を可能にすると共に、油温が上昇した場合に作動油の粘性の低下を利用して供給油量を増大させることを可能にする。
【0085】
〔連通路の他の実施形態〕
実施形態では、連結ボルト38の外側と、内部ロータ本体31の内側との何れかに連通路を形成しているが、連結ボルト38の外周に溝状等の連通路を形成し、内部ロータ本体31の内周に溝状等の連通を形成することで、2種の連通路を組み合わせて連通路を構成しても良い。
【0086】
また、ポンプ流路35からの作動油を進角流路33に供給する連通路と、ポンプ流路35からの作動油を遅角流路34に供給する連通路とに通路抵抗を設定する場合に、例えば、連結ボルト38の外周や内部ロータ本体31の内周に形成される溝部を、進角流路33に近い側ほど深く形成することや、進角流路33に近い側ほど溝幅を広くすることで流路抵抗を設定しても良い。
【0087】
〔実施形態の作用・効果〕
弁開閉時期制御装置Aは、進角室Caと遅角室Cbとから作動油がリークする構成を有しており、弁開閉時期制御装置Aの回転に伴う遠心力によってもリークが助長される。この作動油のリーク量は、作動油温が低温で作動油の粘性が高い場合に少なく、温度上昇に伴い粘性が低下するほど増大する。従って、油温が上昇した状況でスプール41が中立ポジションにある場合には、進角室Caと遅角室Cbとからの作動油のリーク量が増大し、吸気カムシャフト5から作用するカム変動トルクにより相対回転位相が変動する、バタツキを招くものであった。
【0088】
これに対して、本発明では、内部ロータ本体31と連結ボルト38との境界部分においてポンプポート38Cpからの作動油を、進角流路33又は遅角流路34に流すための連通路を形成することにより、進角室Caと遅角室Cbとからリークする作動油の油量を補い、進角室Caと遅角室Cbとの少なくとも何れか一方に作動油を充填することによりカム変動トルクにより相対回転位相のバタツキを抑制する。
【0089】
特に、作動油は油温の上昇に伴い粘性が低下しリーク量が増大する状況であっても、内部ロータ本体31と連結ボルト38との熱膨張係数の差から、連通路を介して進角室Ca又は遅角室Cbに供給する作動油の油量を増大させ、リーク量を補うだけの作動油を進角室Caと遅角室Cbとに供給して相対回転位相の変動を抑制している。
【0090】
更に、弁開閉時期制御装置Aが吸気カムシャフト5に備えられたものでは、カム変動トルクが遅角方向Sbに作用する。このような理由から、スプール41が中立ポジションにある場合でも、進角室Caと遅角室Cbとから作動油がリークすることにより相対回転位相が遅角方向Sbに変位する。
【0091】
このような課題に対応するため、進角側連通距離Laを遅角側連通距離Lbより短くすることや、第1連通路の通路抵抗を第2連通路の通路抵抗より小さくしている。これにより、進角室Caに対して遅角室Cbより多くの作動油を供給し、相対回転位相が遅角方向への変位を抑制し、カム変動トルクによる相対回転位相のバタツキを抑制する。