【文献】
増野敦信,無容器浮遊法による新規機能性ガラスの合成,NEW GLASS,日本,ニューガラスフォーラム,2009年12月,Vol.24, No.4,Pages.37-44,ISSN:0914-6563
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2及び3に記載されている波長変換部材は、母材となるガラスマトリクスがLED素子の熱やその照射光により劣化しにくく、それに伴う変形や変色といった問題が生じにくいという特徴を有している。しかしながら、一般的にガラスの熱伝導率は蛍光体の1/10以下であるため、高出力の励起光を照射した際、蛍光体が過度に発熱し、温度消光を引き起こしたり、ガラスが軟化変形する。
【0007】
以上に鑑み、本発明は、ハイパワーのLEDやLDの光を照射した場合であっても、温度消光や軟化変形が生じにくい結晶化ガラス蛍光体及びそれを用いた波長変換部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の結晶化ガラス蛍光体は、結晶化度が90%以上であり、主結晶としてガーネット型結晶を析出している結晶化ガラスからなることを特徴とする。
【0009】
本願発明の結晶化ガラス蛍光体は、主結晶としてガーネット型結晶を析出してなり、結晶化度が90%以上と非常に高いため、熱伝導性に劣るガラスマトリクスの割合が比較的少ない。そのため、励起光の照射により発生した熱が効率良く外部に放出され、温度消光やガラスマトリクスの軟化変形といった不具合の発生を抑制することが可能となる。本発明において、「主結晶」とは析出結晶のうち最も含有量の多い結晶をいう。
【0010】
なお、蛍光体粉末と、アルミナ等のセラミック粉末の混合粉末を焼結することにより、結晶含有率が高い蛍光体材料を得ることも可能であるが、この場合、各粉末間において気孔が発生しやすくなる。特に、焼結助剤としてバインダーを使用した場合は、気孔の発生が顕著となる。このような気孔は光を過剰に散乱させる傾向があるため、発光色にバラツキが発生しやすくなる。本発明の蛍光体は結晶化ガラスからなるため、緻密であり内部に気孔が発生しにくいため、発光色が均質になりやすい。
【0011】
本発明の結晶化ガラス蛍光体は、モル%で、Y
2O
3+Lu
2O
3+Gd
2O
3 19.99〜50%、Al
2O
3+Ga
2O
3+GeO
2 30〜80%、SiO
2 0〜35、MgO 0〜35、Ce
2O
3+Eu
2O
3 0.01〜5%を含有することが好ましい。
【0012】
このように組成を規制することにより、主結晶としてガーネット型結晶を析出するとともに、90%以上の結晶化度が得られやすくなる。なお、「Y
2O
3+Lu
2O
3+Gd
2O
3」、「Al
2O
3+Ga
2O
3+GeO
2」及び「Ce
2O
3+Eu
2O
3」は、該当する各成分の含有量の合量を意味する。
【0013】
本発明の結晶化ガラス蛍光体は、析出結晶中にAl
2O
3結晶を含むことが好ましい。
【0014】
Al
2O
3結晶は励起光を適度に散乱させる効果を有する。よって、ガーネット型結晶とともにAl
2O
3結晶を析出させることにより、励起光が適度に散乱されてガーネット型結晶に効率良く照射されるため、発光効率の向上が期待できる。
【0015】
本発明の結晶化ガラス蛍光体において、ガーネット型結晶が、YAG結晶またはYAG結晶固溶体であることが好ましい。
【0016】
本発明の結晶化ガラス蛍光体の製造方法は、上記の結晶化ガラス蛍光体を製造するための方法であって、原料を浮遊させて保持した状態で加熱融解させて溶融ガラスを得た後に、溶融ガラスを冷却することにより前駆体ガラス材を得る工程、及び、前駆体ガラスに熱処理を施すことにより結晶化させる工程、を備えることを特徴とする。
【0017】
一般に、結晶化ガラスは原料を坩堝等の溶融容器内で溶融し、冷却して前駆体ガラスを作製し、得られた前駆体ガラスに熱処理を施すことにより結晶化させることにより作製される。しかしながら、本発明の結晶化ガラス蛍光体は、結晶化度が非常に高くなるようガーネット型結晶の化学量論比に近い組成のガラスから作製されるが、この組成域は基本的にガラス化しにくい領域であるため、上記の製造方法では、溶融容器との接触界面を起点として結晶化が進行してしまい、所望の結晶が得られにくい(析出結晶の制御が困難である)という問題がある。
【0018】
ガラス化しにくい組成であっても、溶融容器との界面での接触をなくすことによりガラス化が可能となる。このような方法として、原料を浮遊させた状態で溶融、冷却する無容器浮遊法が知られている。当該方法を用いると、溶融ガラスが溶融容器にほとんど接触することがないため、溶融容器との界面を起点とする結晶化を防止することができ、ガラス化が可能となる。
【0019】
本発明の結晶化ガラス蛍光体の製造方法は、上記の結晶化ガラス蛍光体を製造するための方法であって、原料を浮遊させて保持した状態で加熱融解させて溶融ガラスを得た後に、溶融ガラスを冷却しながら結晶を析出させる工程、を備えることを特徴とする。
【0020】
このように、無容器浮遊法で原料を溶融した後、溶融ガラスの浮遊状態を保ちながら冷却する過程で所望の結晶を析出させてもよい。
【0021】
本発明の波長変換部材は、上記の結晶化ガラス蛍光体を用いたことを特徴とする。
【0022】
本発明の波長変換部材は、上記の結晶化ガラス蛍光体の表面に放熱部材が接合されていることを特徴とする。
【0023】
このようにすれば、励起光の照射により結晶化ガラス蛍光体において発生した熱を、放熱部材を通じて効率良く外部に放出することが可能となる。
【0024】
本発明の波長変換部材は、結晶化ガラス蛍光体と放熱部材が拡散接合または融着接合されていることが好ましい。
【0025】
このようにすれば、結晶化ガラス蛍光体と放熱部材を、接着剤層等を介さずに直接接合することができるため、結晶化ガラス蛍光体において発生した熱を放熱部材に伝達させやすくなる。
【0026】
本発明の波長変換部材は、放熱部材が、Al
2O
3、AlN、Si
3N
4、Cu、Al、Ag、サーメット及びメタルマトリクスコンポジットから選択される少なくも1種からなることが好ましい。
【0027】
本発明の波長変換部材の製造方法は、上記の波長変換部材を製造するための方法であって、結晶化ガラスの原料を浮遊させて保持した状態で加熱融解させて溶融ガラスを得た後に、溶融ガラスを冷却することにより前駆体ガラス材を得る工程、及び、前駆体ガラスと放熱部材を接触させた状態で熱処理を施すことにより、前駆体ガラスの結晶化と、前駆体ガラスと放熱部材の接合を同時に行う工程を備えることを特徴とする。
【0028】
このようにすれば、結晶化ガラス蛍光体と放熱部材が強固に接合した波長変換部材を得ることが可能となる。また、製造工程を減らすことができるため製造効率が向上する。
【0029】
本発明の波長変換部材の製造方法は、上記の波長変換部材を製造するための方法であって、結晶化ガラス蛍光体の原料を浮遊させて保持した状態で加熱融解させて溶融ガラスを得た後に、当該溶融ガラスと放熱部材を接触させた状態で冷却することにより、放熱部材に前駆体ガラスが融着接合した前駆体部材を作製する工程、及び、前駆体部材に熱処理を施すことにより前駆体ガラスを結晶化させる工程、を備えることを特徴とする。
【0030】
上記の方法によっても、結晶化ガラス蛍光体と放熱部材が強固に接合した波長変換部材を得ることが可能となる。また、前駆体ガラスの作製と、前駆体ガラスと放熱部材の接合が同時に行われるため、製造工程をさらに減らすことができる。
【0031】
本発明の波長変換部材の製造方法は、上記の波長変換部材を製造するための方法であって、結晶化ガラス蛍光体の原料を浮遊させて保持した状態で加熱融解させて溶融ガラスを得た後に、当該溶融ガラスと放熱部材を接触させた状態で冷却することにより、溶融ガラスから結晶を析出させると同時に、得られる結晶化ガラスを放熱部材に融着接合させる工程、を備えることを特徴とする、波長変換部材の製造方法。
【0032】
上記の方法によっても、結晶化ガラス蛍光体と放熱部材が強固に接合した波長変換部材を得ることが可能となる。また、溶融ガラスの冷却、結晶析出、結晶化ガラスと放熱部材の融着接合の各工程を同時に行うため、製造工程をさらに減らすことができる。
【0033】
本発明の発光デバイスは、上記の波長変換部材と、波長変換部材に励起光を照射する光源とを備えることを特徴とする。
【0034】
本発明の結晶化ガラス蛍光体の前駆体ガラスは、モル%で、Y
2O
3+Lu
2O
3+Gd
2O
3 19.99〜50%、Al
2O
3+Ga
2O
3+GeO
2 30〜80%、SiO
2 0〜35、MgO 0〜35、Ce
2O
3+Eu
2O
3 0.01〜5%を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、ハイパワーのLEDやLDの光を照射した場合であっても、温度消光や軟化変形が生じにくい結晶化ガラス蛍光体及びそれを用いた波長変換部材を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の結晶化ガラス蛍光体は、主結晶としてガーネット型結晶を析出してなることを特徴とする。ガーネット型結晶とは、一般式A
3B
2C
3O
12で表される結晶(A=Mg、Mn、Fe、Ca、Y、Gd、Lu等;B=Al、Cr、Fe、Ga、Sc等;C=Al、Si、Ga、Ge等)である。特に、YAG結晶(Y
3Al
5O
12結晶)またはYAG結晶固溶体であると、所望の黄色の蛍光を発するため好ましい。YAG結晶固溶体としては、Yの一部をGd、Sc、Ca、Lu及びMgから選択された少なくとも1種の元素で置換、及び/または、Alの一部をGa、Si、Ge及びScから選択された少なくとも1種の元素で置換したものが挙げられる。
【0038】
賦活剤(発光中心)としてはCe、Eu、Er、Pr、Sm等の希土類のイオンや遷移金属イオンが選択される。中でもCeイオン、EuイオンはCe
3+、Eu
3+としてガーネット結晶中に固溶し、紫外〜青色の光を励起光として、緑〜橙色に発光することが知られている。
【0039】
本発明の結晶化ガラス蛍光体の結晶化度は90%以上であり、92%以上、特に95%以上が好ましい。結晶化度が小さすぎると、励起光の照射による発熱により、ガラスマトリクスが軟化変形したり、ガラス成分が揮発する傾向がある。また、温度消光して発光強度が低下する傾向がある。なお、結晶化ガラス蛍光体の結晶化度の上限は特に限定されないが、現実的には100%未満、特に99.9%以下である。
【0040】
本発明の結晶化ガラス蛍光体としては、例えば、モル%で、Y
2O
3+Lu
2O
3+Gd
2O
3 19.99〜50%、Al
2O
3+Ga
2O
3+GeO
2 30〜80%、SiO
2 0〜35、MgO 0〜35、Ce
2O
3+Eu
2O
3 0.01〜5%を含有するものが挙げられる。このように組成を限定した理由を以下に説明する。
【0041】
Y
2O
3、Lu
2O
3及びGd
2O
3はガーネット型結晶を構成する成分である。またガラス化に必要な成分である。Y
2O
3+Lu
2O
3+Gd
2O
3の含有量は19.99〜50%、特に20〜40%であることが好ましい。Y
2O
3+Lu
2O
3+Gd
2O
3の含有量が少なすぎると、ガーネット型結晶の析出が不十分になる傾向がある。一方、Y
2O
3+Lu
2O
3+Gd
2O
3の含有量が多すぎると、溶融温度が高くなりすぎる傾向がある。
【0042】
Al
2O
3、Ga
2O
3及びGeO
2はガーネット型結晶を構成する成分である。またガラス化に必要な成分である。Al
2O
3+Ga
2O
3+GeO
2の含有量は30〜80%、35〜78%、特に40〜75%であることが好ましい。Al
2O
3+Ga
2O
3+GeO
2の含有量が少なすぎると、ガーネット型結晶の析出が不十分になる傾向がある。一方、Al
2O
3+Ga
2O
3+GeO
2の含有量が多すぎると、溶融温度が高くなりすぎる傾向がある。
【0043】
SiO
2はガーネット型結晶を構成する成分である。SiO
2の含有量は0〜35%、0〜30%、0.1〜20%、特に1〜10%であることが好ましい。SiO
2の含有量が多すぎると、結晶化度が低下しやすくなる。
【0044】
MgOはガーネット型結晶を構成する成分である。MgOの含有量は0〜35%、0〜30%、0.1〜20%、特に1〜10%であることが好ましい。MgOの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。
【0045】
Ce
2O
3、Eu
2O
3はガーネット型結晶中で発光中心となるCe
3+、Eu
3+を供給する成分である。Ce
2O
3+Eu
2O
3の含有量は0.01〜5%、0.01〜4%、特に0.3〜3.5%であることが好ましい。Ce
2O
3+Eu
2O
3の含有量が少なすぎると、蛍光強度が不十分になる傾向がある。一方、Ce
2O
3+Eu
2O
3の含有量が多すぎると、濃度消光により発光効率がかえって低下しやすくなる。なお、Ce
2O
3、Eu
2O
3の各成分の含有量はそれぞれ0.01〜5%、0.01〜4%、特に0.3〜3.5%であることが好ましい。
【0046】
また、上記成分以外にも、本発明の効果を損なわない範囲で種々の成分を含有させることができる。例えば、La
2O
3、Ta
2O
5、TeO
2、TiO
2、MnO
2、Nb
2O
5、Sc
2O
3、Er
2O
3、Sb
2O
3、SnO
2、P
2O
5、Bi
2O
3またはZrO
2等をそれぞれ15%以下、さらには10%以下、特に5%以下、合量で30%以下の範囲で含有させてもよい。なお、MnO
2は蛍光を呈するイオンをガラスマトリクスに対して導入可能な成分である。よって、これらの成分を含有させて、マトリクスガラスの発光とガーネット型結晶の発光との混色を発するようにしてもよい。
【0047】
なお、B
2O
3はガラス化に有効な成分であるが、ガーネット型結晶の構成成分になりにくいため、含有しないことが好ましい。
【0048】
本発明の結晶化ガラス蛍光体は、析出結晶中にAl
2O
3結晶を含んでいてもよい。Al
2O
3結晶は励起光を適度に散乱させる効果を有する。よって、ガーネット型結晶とともにAl
2O
3結晶を析出させることにより、励起光が適度に散乱されてガーネット型結晶に効率良く照射されるため、発光効率の向上が期待できる。本発明の結晶化ガラス蛍光体の析出結晶中において、体積%で、ガーネット型結晶の含有量が65〜100%、Al
2O
3結晶の含有量が0〜35%であることが好ましく、ガーネット型結晶の含有量が70〜99%、Al
2O
3結晶の含有量が1〜30%であることが好ましい。ガーネット型結晶の含有量が少なすぎると、発光強度が低下しやすくなる。Al
2O
3結晶の含有量が多すぎると、励起光及び蛍光の光散乱損失が増加し、発光強度が低下しやすくなる。なお、Al
2O
3結晶以外に、例えばYAlO
3やY
4Al
2O
9等のAl
2O
3を構成に含む他の結晶を、同じく散乱効果を得るために含有させてもよい。
【0049】
本発明の結晶化ガラス蛍光体に含まれる結晶の一次粒子径は1〜100μm、特に1〜50μmが好ましい。ガーネット型結晶の一次粒子径が小さすぎると、蛍光強度が低下しやすくなる。Al
2O
3結晶(あるいはYAlO
3結晶、Y
4Al
2O
9結晶)一次粒子径が小さすぎると、散乱効果が得られにくくなる。一方、ガーネット型結晶やAl
2O
3結晶の一次粒子径が大きすぎると、放熱部材との接合(特に拡散接合)が困難になる傾向がある。
【0050】
本発明の結晶化ガラス蛍光体は、励起光を照射することにより、励起光より長波長の蛍光を発する。例えば、紫外〜青色の励起光を、緑色、黄色、橙色または赤色の蛍光に変換する。励起光のピークは、紫外光としては200〜420nm程度、青色光としては420〜495nm程度である。蛍光のピークは、緑色光として495〜570nm程度、黄色光としては570〜590nm程度、橙色光としては590〜620nm程度、赤色光としては620〜780nm程度である。
【0051】
なお、所望の発光波長を得るために、異なる発光波長を有する2種以上の結晶化ガラス蛍光体を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
本発明の結晶化ガラス蛍光体の形状は特に制限されず、例えば、板状、柱状、球状、半球状、半球ドーム状等が挙げられる。
【0053】
結晶化ガラス蛍光体の大きさや厚みは、目的とする出射光の色合い等に応じて適宜調整すればよい。例えば、結晶化ガラス蛍光体が板状である場合、その厚みは0.1mm〜4mm、特に0.15〜2mmとすることが好ましい。また、結晶化ガラス蛍光体が球状である場合、その直径は0.1〜3mm、特に0.15〜2mmであることが好ましい。結晶化ガラス蛍光体の厚みや直径が小さすぎると、機械的強度が低下しやすくなったり、取扱いが困難になる傾向がある。一方、結晶化ガラス蛍光体の厚みや直径が大きすぎると、所望の色合いが得られにくくなったり、結晶化ガラス蛍光体を用いた発光デバイスが大型化する傾向がある。
【0054】
本発明の結晶化ガラス蛍光体は例えば無容器浮遊法により作製することができる。
図1は、無容器浮遊法により結晶化ガラス蛍光体を作製するための製造装置の一例を示す模式的断面図である。
【0055】
図1に示されるように、結晶化ガラス蛍光体の製造装置1は、成形型10を有する。成形型10は溶融容器としての役割も果たす。成形型10は、成形面10aと、成形面10aに開口している複数のガス噴出孔10bとを有する。ガス噴出孔10bは、ガスボンベなどのガス供給機構11に接続されている。このガス供給機構11からガス噴出孔10bを経由して、成形面10aにガスが供給される。ガスの種類は特に限定されず、空気や酸素等の酸化性ガス、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス、水素等の還元性ガスを用いることができる。
【0056】
製造装置1を用いて結晶化ガラス蛍光体を製造するに際しては、まず、原料塊12を成形面10a上に配置する。原料塊12としては、例えば、原料粉末をプレス成形等により一体化したものや、原料粉末をプレス成形等により一体化した後に焼結させた焼結体や、目標ガラス組成と同等の組成を有する結晶の集合体等が挙げられる。
【0057】
次に、ガス噴出孔10bからガスを噴出させることにより、原料塊12を成形面10a上で浮遊させる。すなわち、原料塊12を、成形面10aに接触していない状態で保持する。その状態で、レーザー光照射装置13からレーザー光を原料塊12に照射する。これにより原料塊12を加熱溶融して溶融ガラスを得る。
【0058】
その後、溶融ガラスを冷却することにより、前駆体ガラスを得る。例えば、ガラス溶融中にレーザー光の照射を瞬時に停止し、急冷することにより前駆体ガラスを得る。この際の冷却速度は1℃/秒以上、特に10℃/秒以上であることが好ましい。上限は特に限定されないが、現実的には100℃/秒未満である。前駆体ガラスの組成は、上述の結晶化ガラス蛍光体の組成と同様であるため、その説明を割愛する。前駆体ガラスに対して熱処理を施して結晶化させることにより、結晶化ガラス蛍光体が得られる。前駆体ガラスの熱処理温度は、前駆体ガラスのガラス転移温度以上、特に前駆体ガラスのガラス転移温度+50℃以上であることがより好ましい。熱処理温度が低すぎると、所望の結晶が析出しにくくなる。一方、熱処理温度の上限は特に限定されないが、高すぎると析出結晶が融解するおそれがあるため、前駆体ガラスのガラス転移温度+1000℃以下であることが好ましい。
【0059】
または、溶融ガラスを冷却しながら結晶を析出させることにより、結晶化ガラス蛍光体を得ることも可能である。例えば、ガラス溶融中にレーザー光の出力を徐々に低下させ、溶融ガラスの温度を緩やかに低下させながら結晶を析出させることにより、結晶化ガラス蛍光体を得ることができる。この際の冷却速度は1000℃/秒以下、特に700℃/秒以下であることが好ましい。下限は特に限定されないが、現実的には100℃/秒以上である。
【0060】
なお、原料塊12を加熱溶融する工程と、溶融ガラス、さらには前駆体ガラスの温度が少なくとも軟化点以下となるまで冷却する工程とにおいては、少なくともガスの噴出を継続し、原料塊12、溶融ガラス、さらには前駆体ガラスと成形面10aとの接触を抑制することが好ましい。なお、加熱溶融する方法としては、レーザー光を照射する方法以外にも、輻射加熱であってもよい。
【0061】
上記した無容器浮遊法以外にも、原料塊を火炎中に投入して溶融した後、急冷することにより、前駆体ガラスを得ることも可能である。このようにして得られた前駆体ガラスに熱処理を施して結晶化させることにより、結晶化ガラス蛍光体を得ることができる。
【0062】
本発明の結晶化ガラス蛍光体の表面には、反射防止膜や、特定波長を選択的に透過または吸収する波長選択膜を必要に応じて形成することができる。本発明の結晶化ガラス蛍光体は耐熱性に優れるため、高温成膜が必要とされる誘電体多層膜も容易に形成することができる。
【0063】
なお、本発明の結晶化ガラス蛍光体の表面に放熱部材を接合することが好ましい。それにより、励起光の照射により結晶化ガラス蛍光体に発生した熱をさらに効率良く外部に放出することが可能となる。
【0064】
図2は、結晶化ガラス蛍光体の表面に放熱部材が接合された波長変換部材の一実施形態を示す模式的斜視図である。
図2に示す波長変換部材21は、板状の結晶化ガラス蛍光体22の一方の主面に放熱部材23が接合されている。なお、結晶化ガラス蛍光体22の両主面に放熱部材23を接合しても構わない。
【0065】
図3の(a)は、結晶化ガラス蛍光体の表面に放熱部材が接合された波長変換部材の別の実施形態を示す模式的斜視図であり、(b)は(a)のA−A’断面図を示す。
図3に示す波長変換部材31において、円柱状の結晶化ガラス蛍光体22が、板状の放熱部材23の略中央部に設けられた孔部23a内に接合されている。
【0066】
放熱部材としては、結晶化ガラス蛍光体より熱伝導率が高いものであれば特に限定されず、例えば熱伝導率が10W/mk以上、15W/mk以上、特に20W/mk以上であるものを用いることが好ましい。放熱部材2の具体例としては、Al
2O
3、AlN、Si
3N
4、Cu、Al、Ag、サーメット、メタルマトリクスコンポジット(MMC)等が挙げられる。サーメットとは、金属の炭化物や窒化物など硬質化合物の粉末を金属の結合材と混合して焼結した複合材料をいい、具体的にはCrC/NiCr、WC/Co等が挙げられる。メタルマトリクスコンポジットとは、セラミックスを添加して性質改善をした合金をいい、具体的にはAl/SiC、Si/SiC等が挙げられる。これらは単独で使用しても良く、2種以上を複合させて使用しても良い。なかでもAl
2O
3は結晶化ガラス蛍光体と強固に接合しやすいため好ましい。放熱部材中には、熱膨張係数調整や反射率向上を目的としてZrO
2やTiO
2等が添加されていてもよい。
【0067】
放熱部材は励起光や蛍光に対して透明であってもよく、励起光や蛍光を反射させるものであってもよい。あるいは、放熱部材が光散乱特性を有するものであってもよい。
【0068】
結晶化ガラス蛍光体と放熱部材は、熱伝導率の低い樹脂やガラス等の接着剤を介することなく、直接接合していることが好ましい。具体的には、結晶化ガラス蛍光体と放熱部材が拡散接合または融着接合されていることが好ましい。これにより、結晶化ガラス蛍光体において発生した熱を効率良く放熱部材に伝導させることができる。
【0069】
結晶化ガラス蛍光体と放熱部材を拡散接合する方法としては、放電プラズマ焼結機を用いた接合方法が挙げられる。また、結晶化ガラス蛍光体と放熱部材を融着接合する方法としては、結晶化ガラス蛍光体と放熱部材を接触させた状態で、電気炉内で加熱したり、加熱プレス機を用いてプレスする方法が挙げられる。あるいは、前駆体ガラスと放熱部材を接触させた状態で熱処理を施すことにより、前駆体ガラスの結晶化と、得られる結晶化ガラスと放熱部材の接合を同時に行ってもよい。接合時の雰囲気は大気、中性、還元のいずれの雰囲気でも構わないが、放熱部材やプレス金型が劣化しにくい雰囲気を選択することが好ましい。融着接合は結晶化ガラス蛍光体(または前駆体ガラス)のガラス転移温度以上でおこなうことが好ましい。このようにすれば、接合時に結晶化ガラス蛍光体(または前駆体ガラス)が軟化変形しやすく、放熱部材との接合強度が向上しやすくなる。
【0070】
結晶化ガラス蛍光体と放熱部材を接合(特に融着接合)した場合、両者の界面に概ね50μm以下の接合層(ガラス相または異質相)が観察される場合がある。この接合層は厚みが非常に小さいため、波長変換部材の光学特性及び放熱性に関して実用上ほとんど影響を与えない。
【0071】
また、前駆体ガラスと放熱部材を接触させた状態で熱処理して、両者の接合と前駆体ガラスの結晶化を同時に行ってもよい。例えば、
図4に示すように、結晶化ガラス蛍光体と放熱部材を、無容器浮遊装置を用いて以下のようにして融着接合することができる。
【0072】
まず、無容器浮遊装置の成形型(図示せず)の上方に
図3に示すような、孔部を有する放熱部材23を水平に設置し、孔部23a上に結晶化ガラス蛍光体の原料塊12を載置する(
図4(a))。
【0073】
成形型から供給されたガスGを、孔部23aを通じて原料塊12に対して噴出させることにより原料塊12を浮遊させながら、レーザー光照射装置13からレーザー光を原料塊12に照射する。これにより原料塊12は融解し、溶融ガラスとなる(
図4(b))。
【0074】
ガスGの噴出を停止することにより、溶融ガラスは孔部23a内に嵌め込まれる。その後、レーザー光の照射を停止することにより、溶融ガラスは冷却固化して前駆体ガラスになると同時に、孔部23a内で放熱部材23と融着接合して前駆体部材が得られる。ここで、ガスGの噴出の停止とレーザー光の照射の停止を同時に行ってもよいし、レーザー光の照射を停止した後、ガスGの噴出を停止してもよい。さらに、前駆体部材に対して熱処理を施して前駆体ガラスを結晶化させることにより、結晶化ガラス蛍光体22が放熱部材23の孔部23a内に融着接合される(
図4(c))。あるいは、溶融ガラスが孔部2a内に嵌め込まれた後、レーザー光の出力を徐々に低下させ、溶融ガラスの温度を緩やかに低下させながら結晶を析出させることにより、得られる結晶化ガラス蛍光体22を放熱部材23の孔部23a内に融着接合させてもよい。その後、必要に応じて研磨等の加工を行うことにより、
図3に示すような波長変換部材を得る。
【0075】
本発明の発光デバイスは、上記の波長変換部材と、波長変換部材に励起光を照射する光源とを備えてなる。光源から照射された励起光は波長変換部材で波長変換され、蛍光として外部に発せられる。波長変換部材としては透過型(励起光照射面の反対側から蛍光が出射される)であってもよく、反射型(励起光照射面と同じ側から蛍光が出射される)であってもよい。また、蛍光と、波長変換されずに波長変換部材を透過した励起光との合成光を外部に発するようにしてもよいし、蛍光のみを外部に発するようにしてもよい。光源としてはLEDやLD等を使用することができる。
【実施例】
【0076】
以下に、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0077】
(1)結晶化ガラス蛍光体
表1、2は、本発明の結晶化ガラス蛍光体の実施例(試料A〜L)及び比較例(M〜P)を示す。
【0078】
【表1】
【0079】
【表2】
【0080】
まず、表に示すガラス組成となるように原料を調合した。原料はボールミルで混合した後、金型を用いてプレス成型して予備成型体とした。次に、予備成型体を大気中1000℃で焼成して焼結体を得た。焼結体を質量約50mgになるように切断して原料塊を得た。
【0081】
図1に準じた無容器浮遊装置を用いて原料塊を溶融した。具体的には、原料塊を成形型上に載置し、空気を用いて浮遊させた状態で、出力100Wの二酸化炭素レーザーを照射し、2000℃で加熱して溶融した。その後、レーザー照射を停止し、溶融ガラスを冷却することにより前駆体ガラスを得た。得られた前駆体ガラスにつき、粉末X線回折装置(株式会社リガク RINT2100)を用いた測定行った結果、結晶は析出しておらず非晶質であることが確認された。
【0082】
得られた前駆体ガラスを、大気中、ガラス転移温度+750℃で熱処理することにより結晶化ガラス蛍光体を得た。
【0083】
ガラス転移温度は、前駆体ガラスを粉砕して目開き45μmの篩を通過させて得られたガラス粉末について、DTA(示差熱分析計)を用いて測定を行い、得られた曲線の低温側からの第一変曲点の温度を採用した。
【0084】
結晶化度及び各析出結晶の含有量は粉末X線回折装置によって測定した。
【0085】
得られた結晶化ガラス蛍光体の全光束値は次のようにして測定した。結晶化ガラス蛍光体を直径3mm、厚み200μmの円盤状に加工した。校正された積分球内で、200mAの電流で点灯した青色LEDによって結晶化ガラス蛍光体を励起し、得られた光を光ファイバーを通じて小型分光器(オーシャンオプティクス製USB−4000)に取り込み、制御PC上に発光スペクトル(エネルギー分布曲線)を得た。発光スペクトルから全光束値を算出した。
【0086】
表1、2から明らかなように、実施例である試料A〜Lの試料は主結晶としてガーネット型結晶を析出しており、結晶化度が92%以上と高いため、全光束値が8ルーメン以上と高かった。一方、比較例である試料M及びNはガラス化せず、析出結晶中にもガーネット型結晶は含まれていなかった。試料Oはガラス化したものの、前駆体ガラスの熱処理により結晶が析出しなかった。試料Pは結晶化度が43%と低く、全光束値が3ルーメンと低かった。
【0087】
(2)結晶化ガラス蛍光体と放熱部材が接合されてなる波長変換部材
表3、4は、本発明の結晶化ガラス蛍光体と放熱部材が接合されてなる波長変換部材の実施例(試料1〜10)を示す。
【0088】
【表3】
【0089】
【表4】
【0090】
上記で得られた結晶化ガラス蛍光体を直径2mm、厚み1mmの円柱状に加工した。また、表3、4に記載された各放熱部材(10mm×10mm×1mm)を準備し、その略中央部に直径2mmの孔部を形成した。放熱部材の孔部に結晶化ガラス蛍光体を嵌め込み、表に記載の方法により、または接合剤を用いて接合した。なお、試料7ではガラスペーストとしてB
2O
3−Na
2O−SiO
2系ガラス(軟化点500℃)を用いた。
【0091】
拡散接合は放電プラズマ焼結装置(住友石炭鉱業(株) SPS−1300)を用い、1300℃で15分、0.2トンで加圧することにより行った。また、融着接合は同じく放電プラズマ焼結装置を用い、1500℃で15分、0.4トンで加圧することにより行った。。
【0092】
接合状態及び接合層厚みは、接合部付近の研磨断面を電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製S−4300SE)を用いて観察することにより、確認及び測定した。
【0093】
表3、4から明らかなように、試料1〜6では、結晶化ガラス蛍光体が放熱部材と拡散接合または融着接合しており、全光束値が14ルーメン以上と高かった。一方、結晶化ガラス蛍光体と放熱部材を、接合剤を用いて接合した試料7〜10では全光束値が11ルーメン以下と低かった。このように、結晶化ガラス蛍光体と放熱部材が、接着剤層を介さず、拡散接合または融着接合により直接接合しているほうが全光束値が高いことがわかる。