(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下では、この発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る車両用警報装置が適用された電動パワーステアリング装置の概略構成を示す模式図である。
電動パワーステアリング装置(EPS:electric power steering)1は、車両を操向するための操舵部材としてのステアリングホイール2と、このステアリングホイール2の回転に連動して転舵輪3を転舵する転舵機構4と、運転者の操舵を補助するための操舵補助機構5とを備えている。ステアリングホイール2と転舵機構4とは、ステアリングシャフト6および中間軸7を介して機械的に連結されている。
【0011】
ステアリングシャフト6は、ステアリングホイール2に連結された入力軸8と、中間軸7に連結された出力軸9とを含む。入力軸8と出力軸9とは、トーションバー10を介して相対回転可能に連結されている。
トーションバー10の近傍には、トルクセンサ11が配置されている。トルクセンサ11は、入力軸8および出力軸9の相対回転変位量に基づいて、ステアリングホイール2に与えられた操舵トルクTを検出する。この実施形態では、トルクセンサ11によって検出される操舵トルクTは、たとえば、右方向への操舵のためのトルクが正の値として検出され、左方向への操舵のためのトルクが負の値として検出され、その絶対値が大きいほど操舵トルクの大きさが大きくなるものとする。
【0012】
転舵機構4は、ピニオン軸13と、転舵軸としてのラック軸14とを含むラックアンドピニオン機構からなる。ラック軸14の各端部には、タイロッド15およびナックルアーム(図示略)を介して転舵輪3が連結されている。ピニオン軸13は、中間軸7に連結されている。ピニオン軸13は、ステアリングホイール2の操舵に連動して回転するようになっている。ピニオン軸13の先端(
図1では下端)には、ピニオン16が連結されている。
【0013】
ラック軸14は、自動車の左右方向に沿って直線状に延びている。ラック軸14の軸方向の中間部には、ピニオン16に噛み合うラック17が形成されている。このピニオン16およびラック17によって、ピニオン軸13の回転がラック軸14の軸方向移動に変換される。ラック軸14を軸方向に移動させることによって、転舵輪3を転舵することができる。
【0014】
ステアリングホイール2が操舵(回転)されると、この回転が、ステアリングシャフト6および中間軸7を介して、ピニオン軸13に伝達される。そして、ピニオン軸13の回転は、ピニオン16およびラック17によって、ラック軸14の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。
操舵補助機構5は、操舵補助用の電動モータ(EPS用電動モータ)18と、電動モータ18の出力トルクを転舵機構4に伝達するための減速機構19とを含む。減速機構19は、ウォーム軸20と、このウォーム軸20と噛み合うウォームホイール21とを含むウォームギヤ機構からなる。減速機構19は、伝達機構ハウジングとしてのギヤハウジング22内に収容されている。
【0015】
ウォーム軸20は、電動モータ18によって回転駆動される。また、ウォームホイール21は、ステアリングシャフト6とは同方向に回転可能に連結されている。ウォームホイール21は、ウォーム軸20によって回転駆動される。
電動モータ18によってウォーム軸20が回転駆動されると、ウォームホイール21が回転駆動され、ステアリングシャフト6が回転する。そして、ステアリングシャフト6の回転は、中間軸7を介してピニオン軸13に伝達される。ピニオン軸13の回転は、ラック軸14の軸方向移動に変換される。これにより、転舵輪3が転舵される。すなわち、電動モータ18によってウォーム軸20を回転駆動することによって、転舵輪3が転舵されるようになっている。
【0016】
車両には、車速Vを検出するための車速センサ23が設けられているとともに、車両の進行方向前方の道路を撮影するCCD(Charge Coupled Device)カメラ24が搭載されている。CCDカメラ24は、車両の運転状態を監視するために設けられている。
トルクセンサ11によって検出される操舵トルクT、車速センサ23によって検出される車速VおよびCCDカメラ24から出力される画像信号は、ECU(電子制御ユニット:Electronic Control Unit)12に入力される。ECU12は、これらの入力信号に基いて、電動モータ18を制御する。
【0017】
図2は、ECU12の電気的構成を示すブロック図である。
ECU12は、電動モータ18を制御するためのマイクロコンピュータ31と、マイクロコンピュータ31によって制御され、電動モータ18に電力を供給する駆動回路(インバータ回路)32と、電動モータ18に流れるモータ電流(実電流値)Iを検出する電流検出回路33とを含んでいる。
【0018】
マイクロコンピュータ31は、CPUおよびメモリ(ROM,RAM,不揮発性メモリ34など)を備えており、所定のプログラムを実行することにより、複数の機能処理部として機能するようになっている。この複数の機能処理部には、基本目標電流値設定部41と、車線逸脱判定部42と、警告用振動波形発生部43と、振動波形加算部44と、電流偏差演算部45と、PI制御部46と、PWM制御部47とが含まれる。
【0019】
基本目標電流値設定部41は、トルクセンサ11によって検出される操舵トルクTと車速センサ23によって検出される車速Vとに基づいて、基本目標電流値Io
*を設定する。検出操舵トルクTに対する基本目標電流値Io
*の設定例は、
図3に示されている。検出操舵トルクTは、例えば右方向への操舵のためのトルクが正の値にとられ、左方向への操舵のためのトルクが負の値にとられている。また、基本目標電流値Io
*は、電動モータ18から右方向操舵のための操舵補助力を発生させるべきときには正の値とされ、電動モータ18から左方向操舵のための操舵補助力を発生させるべきときには負の値とされる。
【0020】
基本目標電流値Io
*は、検出操舵トルクTの正の値に対しては正をとり、検出操舵トルクTの負の値に対しては負をとる。検出操舵トルクTが−T1〜T1(たとえば、T1=0.4N・m)の範囲(トルク不感帯)の微小な値のときには、基本目標電流値Io
*は零とされる。そして、検出操舵トルクTが−T1〜T1の範囲外の値である場合には、基本目標電流値Io
*は、検出操舵トルクTの絶対値が大きくなるほど、その絶対値が大きくなるように設定されている。また、基本目標電流値Io
*は、車速センサ23によって検出される車速Vが大きいほど、その絶対値が小さくなるように設定されるようになっている。これにより、低速走行時には大きな操舵補助力を発生させることができ、高速走行時には操舵補助力を小さくすることができる。
【0021】
車線逸脱判定部42は、CCDカメラ24によって撮像された画像に基いて、車両が車線を逸脱する可能性の高い状態であるか否かを判定し、その判定結果を警告用振動波形発生部43に与える。車両の進行方向前方の道路を撮像して、車両が車線を逸脱する可能性の高い状態であるか否かを判定する手法は、前記特許文献1,2等に記載されているように公知なのでその説明を省略する。
【0022】
警告用振動波形発生部43は、車線逸脱判定部42によって、車両が車線を逸脱する可能性の高い状態であると判定されているときには、そのことを運転者に警告するために、複数の周波数成分を含む警告用振動波形(加振信号)Ieを発生させる。複数の周波数成分を含む警告用振動波形Ieは、例えば、複数の異なる波形が組み合わされた波形である。この実施形態では、警告用振動波形Ieの構成要素である各波形は、大きさが周期的に変化する波形である。
【0023】
警告用振動波形Ieを周波数成分別に分解した場合に、周波数が高い周波数成分ほどその振幅が大きいことが好ましい。警告用振動波形Ieを周波数成分別に分解した場合、各周波数成分の振幅が等しいと、周波数が高い周波数成分ほど、その周波数成分によって生じる警告用振動(この実施形態では、その周波数成分によって生じる電動モータ18のトルク)は小さくなる。警告用振動波形Ieを周波数成分別に分解した場合に、周波数が高い周波数成分ほどその振幅が大きいと、各周波数成分によって生じる警告用振動の大きさばらつきを低減することができる。
【0024】
警告用振動波形Ieは、例えば、
図4または
図5に示すように、周波数が互いに異なる第1正弦波波形S1および第2正弦波波形S2が組み合わされた(重畳された)波形であってもよい。
図4の例では、第1正弦波波形S1および第2正弦波波形S2の振幅は同じであるが、第2正弦波波形S2の周波数は第1正弦波波形S1の周波数の3倍である。
図5の例では、第1正弦波波形S1および第2正弦波波形S2の振幅は同じであるが、第2正弦波波形S2の周波数は第1正弦波波形S1の周波数の10倍である。
【0025】
また、警告用振動波形Ieは、例えば、
図6に示すように、周波数および振幅が互いに異なる第1正弦波波形S1および第2正弦波波形S2が組み合わされた(重畳された)波形であってもよい。
図6の例では、第2正弦波波形S2の周波数は第1正弦波波形S1の周波数の10倍であり、第2正弦波波形S2の振幅は第1正弦波波形S1の振幅の2倍である。つまり、
図6の例では、警告用振動波形Ieを周波数成分別に分解した場合、周波数が高い周波数成分ほどその振幅が大きい。
【0026】
また、警告用振動波形Ieは、
図7に示すように、正弦波波形S1と矩形波S2とが組み合わされた(乗算された)波形であってもよい。警告用振動波形Ieは、3以上の波形が組み合われた波形であってもよい。警告用振動波形Ieに含まれる各周波数成分の周波数(警告用振動波形Ieの構成要素である各波形の周波数)は、車両の共振周波数以外の周波数に設定されている。これにより、警告用振動によって異常に大きな振動が発生するのを防止できる。
【0027】
なお、警告用振動波形Ieに含まれる各周波数成分の周波数(警告用振動波形Ieの構成要素である各波形の周波数)は、操舵角に対するヨーレイトの周波数伝達特性においてゲインがほぼ零となる応答周波数以上の周波数であることが好ましい。
図8は、操舵角に対するヨーレイトの周波数伝達特性を示している。
図8において、f3がゲインがほぼ零となる応答周波数である。また、
図8において、f1〜f2で示す領域内の周波数が車両の共振周波数である。警告用振動波形Ieに含まれる各周波数成分の周波数を応答周波数f3以上の周波数にすると、警告用振動が車両挙動に影響を及ぼすのを抑制または防止することができる。
【0028】
警告用振動波形データは、例えば、予め作成されて、不揮発性メモリ34に記憶されている。警告用振動波形発生部43は、不揮発性メモリ34に記憶されている警告用振動波形データに基いて、警告用振動波形を発生する。
振動波形加算部44は、基本目標電流値設定部41によって設定された基本目標電流値Io
*に、警告用振動波形発生部43によって発生された警告用振動波形Ieを加算することにより、目標電流値I
*を演算する。電流偏差演算部45は、振動波形加算部44によって得られた目標電流値I
*と電流検出回路33によって検出された実電流値Iとの偏差(電流偏差ΔI=I
*−I)を演算する。
【0029】
PI制御部46は、電流偏差演算部45によって演算された電流偏差ΔIに対するPI演算を行うことにより、電動モータ18に流れる電流Iを目標電流値I
*に導くための駆動指令値を生成する。PWM制御部47は、前記駆動指令値に対応するデューティ比のPWM制御信号を生成して、駆動回路32に供給する。これにより、駆動指令値に対応した電力が電動モータ18に供給されることになる。
【0030】
電流偏差演算部45およびPI制御部46は、電流フィードバック制御手段を構成している。この電流フィードバック制御手段の働きによって、電動モータ18に流れるモータ電流Iが、目標電流値I
*に近づくように制御される。
第1実施形態では、車線逸脱判定部42によって、車両が車線を逸脱する可能性の高い状態であると判定されているときには、警告用振動波形発生部43から警告用振動波形Ieが発生される。この警告用振動波形Ieが基本目標電流値Io
*に加算されることにより、目標電流値I
*が演算される。そして、電動モータ18に流れるモータ電流Iが、目標電流値I
*に近づくように制御される。したがって、車線逸脱判定部42によって、車両が車線を逸脱する可能性の高い状態であると判定されているときには、ステアリングホイール2に警告用振動波形Ieに応じた警告用振動が与えられる。これにより、運転者は、車両が車線を逸脱する可能性の高い状態であることを認識することができる。
【0031】
ステアリングホイール2には、路面からタイヤ等を介してロードノイズが伝達されるので、警告用振動がロードノイズに紛れてしまうおそれがある。第1実施形態では、警告用振動波形Ieには複数の周波数成分が含まれているので、警告用振動波形Ieに含まれている複数の周波数成分の中に、ロードノイズの周波数と一致する周波数成分が存在したとしても、ロードノイズの周波数と一致しない他の周波数成分によって、運転者に警告用振動を伝えることができる。つまり、ロードノイズがあっても、警告用振動を運転者に伝えることができる。
【0032】
以上、この発明の第1実施形態について説明したが、この発明はさらに他の形態で実施することもできる。例えば、警告用振動波形Ieの周波数を、車速、車輪速、エンジン回転数、時間等に応じて変化させるようにしてもよい。ここで、「警告用振動波形Ieの周波数」は、警告用振動波形Ieに含まれている複数の周波数成分(警告用振動波形Ieの構成要素である複数の波形)の周波数を意味している。
【0033】
警告用振動波形Ieの周波数を車速に応じて変化させる場合について説明する。
図2に破線で示すように、警告用振動波形発生部43内に周波数変更部51を設ける。周波数変更部51は、警告用振動波形Ieの周波数を、車速センサ23によって検出される車速Vが大きくなるほど低くなるように変化させる。より具体的には、周波数変更部51は、警告用振動波形Ieに含まれている複数の周波数成分の周波数を、車速センサ23によって検出される車速Vが大きくなるほど低くなるように変化させる。警告用振動波形Ieに含まれている複数の周波数成分のうち最も周波数が低い周波数成分を基本波とすると、車速Vに対する基本波の周波数の設定例を
図9に示す。
【0034】
このような警告用振動波形の周波数の変更は、例えば、次のようにして行うことができる。すなわち、警告用振動波形の構成要素である複数の波形それぞれの周波数に、車速センサ23によって検出される車速Vが大きくなるほど小さくなる車速ゲインを乗算することにより、前記複数の波形の周波数を変更する。そして、周波数変更後のそれらの波形を組み合わせて警告用振動波形を生成する。
【0035】
あるいは、車速毎に周波数が異なる複数種類の警告用振動波形データを不揮発性メモリ34に記憶しておく。そして、不揮発性メモリ34に記憶されている複数種類の警告用振動波形データから、車速センサ23によって検出される車速Vに対応した警告用振動波形データを選択する。
ロードノイズの周波数は、車速が大きくなるほど高くなる。そこで、警告用振動波形Ieに含まれる複数の周波数成分の周波数を車速Vが大きくなるほど低くなるように変化させることにより、各周波数成分の周波数がロードノイズの周波数と一致しにくくなる。これにより、警告用振動を運転者により効果的に伝えることができる。
【0036】
周波数変更部51の他の動作例について説明する。ここでは、互いに周波数が異なる第1正弦波波形S1および第2正弦波波形S2を重畳することにより、警告用振動波形Ieが生成される場合を例にとって説明する。周波数変更部51は、第1正弦波波形S1および第2正弦波波形S2のうちの少なくとも一方の周波数を、車速Vに応じて変更する。
図10は、車速Vに対する第1正弦波波形S1および第2正弦波波形S2の周波数の設定例を示している。
図10において、横軸は車速Vを示し、縦軸は第1正弦波波形S1および第2正弦波波形S2の周波数を示している。また、
図10において、斜線で示す領域Rは、車速Vに対してロードノイズが発生する可能性が高い周波数領域(以下、「ノイズ領域」という。)を示している。ノイズ領域Rは、例えば、車両を様々な速度で走行させ、路面からステアリング機構を介してステアリングホイールに伝達されるロードノイズの波形を測定し、測定されたロードノイズ波形を解析することにより求められる。
【0037】
第1正弦波波形S1の周波数は、車速Vにかかわらず所定周波数faに設定される。所定周波数faは、ノイズ領域Rの下限周波数よりも低い周波数に設定されている。第2正弦波波形S2の周波数は、車速Vが所定の車速V1以下である場合には、その車速範囲内でのノイズ領域Rの上限周波数よりも大きな所定値fb(fb>fa)に設定される。第2正弦波波形S2の周波数は、車速Vが所定の車速V1より大きくなると、その車速範囲内でのノイズ領域Rの下限周波数よりも小さな所定値fc(fa<fc<fb)に設定される。
【0038】
また、警告用振動波形Ieの振幅を、車速、車輪速、エンジン回転数、時間等に応じて変化させるようにしてもよい。例えば、
図2に破線で示すように、警告用振動波形発生部43内に第1振幅変更部52を設ける。第1振幅変更部52は、
図11に示すように、警告用振動波形Ieの振幅を、車速センサ23によって検出される車速Vが大きくなるほど小さくなるように変化させる。
【0039】
このような警告用振動波形の振幅の変更は、例えば、車速センサ23によって検出される車速Vが大きくなるほど小さくなる車速ゲインを、振幅変更前の警告用振動波形に乗算することにより行うことができる。
図3のグラフからわかるように、電動モータ18によって発生される操舵補助力(アシストトルク)は、車速が大きくなるほど小さくなる。このため、警告用振動波形Ieの振幅を車速にかかわらず一定とすると、アシストトルクに対する警告用振動の比率は車速が大きくなるほどが増加する。そこで、警告用振動波形Ieの構成要素である各波形の振幅を車速Vが大きくなるほど小さくなるように変化させることにより、アシストトルクに対する警告用振動の比率をできるだけ変化させないようにしている。
【0040】
また、警告用振動波形Ieの振幅を、操舵トルクに応じて変化させるようにしてもよい。具体的には、
図2に破線で示すように、警告用振動波形発生部43内に第2振幅変更部53を設ける。第2振幅変更部53は、警告用振動波形Ieの振幅を、トルクセンサ11によって検出される操舵トルクTに基いて変化させる。
検出操舵トルクTに対する警告用振動波形Ieの振幅の設定例は、
図12に示されている。検出操舵トルクTが−T2〜T2(たとえば、T2=1.0N・m)の範囲においては、警告用振動波形Ieの振幅は零より大きな所定値とされる。警告用振動波形Ieの振幅は、検出操舵トルクTが−T2〜T2の範囲の外側の領域で急峻に立下り、検出操舵トルクTの絶対値が所定値T3以上で零となるように設定される。これにより、検出操舵トルクTの絶対値が所定値T3以上のときには、警告用振動が停止される。この理由は、検出操舵トルクTの絶対値が所定値T3以上のときには、運転者が意図して操舵を行っていると考えられるので、このようなときに警告用振動をステアリングホイール2に与えると操舵の妨げとなるからである。
【0041】
このような警告用振動波形の振幅の変更は、例えば、検出操舵トルクTに応じて設定されたトルクゲインを、振幅変更前の警告用振動波形に乗算することにより行うことができる。
周波数変更部51による周波数制御と、第1振幅変更部52による振幅制御とを同時に行うようにしてもよい。また、周波数変更部51による周波数制御と、第2振幅変更部53による振幅制御とを同時に行うようにしてもよい。また、第1振幅変更部52による振幅制御と、第2振幅変更部53による振幅制御とを同時に行うようにしてもよい。この場合には、振幅変更前の警告用振動波形に第1振幅変更部52で使用される車速ゲインを乗算し、得られた警告用振動波形に第2振幅変更部53で使用されるトルクゲインを乗算することによって、最終的な警告用振動波形を生成すればよい。さらに、周波数変更部51による周波数制御と、第1振幅変更部52による振幅制御と、第2振幅変更部53による振幅制御とを同時に行うようにしてもよい。
【0042】
また、さらに他の形態について説明する。警告用振動の周波数が高いほど、かつ警告用振動の振幅が小さいほど、運転者は警告用振動を感じ取りにくくなる。このため、ある周波数以上でかつある振幅以下の警告用振動は、運転者によってほとんど感じ取られない。また、警告用振動の周波数が低くかつ振幅が大きい場合には、警告用振動によって運転者の手が動かされてしまい、運転者が振動を感じなくなるおそれがある。このため、ある周波数以下でかつある振幅以上の警告用振動は、運転者によってほとんど感じ取られない。
【0043】
そこで、警告用振動波形の周波数を横軸に、その振幅を縦軸にプロットして2次元グラフを描いた場合に、所定の周波数閾値及び所定の振幅閾値を境界値とする禁止領域を設定する。例えば、所定の周波数閾値以上かつ所定の振幅閾値以下の領域、或いは所定の周波数閾値以下かつ所定の振幅閾値以上の領域、を禁止領域として設定する。禁止領域は1箇所に限定されない。つまり、禁止領域とは運転者が感じることができない振動を、周波数および振幅で表現したものである。そして、警告用振動の周波数および振幅が、この禁止領域の周波数および振幅の組み合わせとならないようにすればよい。具体的には、警告用振動波形発生部43で与えられる警告用振動波形の周波数値、振幅値が禁止領域に含まれないように、あらかじめ警告用振動波形の周波数値、振幅値を設定する。あるいは、周波数値、振幅値が禁止領域に含まれる場合は、周波数値、振幅値が禁止領域の境界値となるように制限をかけてもよい。
【0044】
さらに、境界値としての所定の周波数閾値或いは所定の振幅閾値を車速に応じて可変にしてもよい。特に、所定の周波数閾値以上かつ所定の振幅閾値以下の領域を禁止領域として設定する場合には、車速が高くなるに従って振幅閾値を大きくするようにしてもよい。このようにすると、車速が高くなるに従ってロードノイズが大きくなるが、振幅閾値も大きくなるため、警告用振動の振幅を大きくすることができる。このため、ロードノイズと警告用振動とを区別しやすくできる。これにより、運転者に確実に警告用振動を伝えることができる。
【0045】
前述の第1実施形態では、電動パワーステアリング装置1における操舵補助力を発生するための電動モータ18によって警告用振動を発生させているが、ステアリングホイール2の前後位置を調整するためのテレスコピック調整装置が車両に設けられている場合には、テレスコピック調整装置におけるテレスコピック調整用電動モータによって警告用振動を発生させてもよい。また、ステアリングホイール2の上下位置を調整するためのチルト調整装置が車両に設けられている場合には、チルト調整装置におけるチルト調整用電動モータによって警告用振動を発生させてもよい。
【0046】
図13を参照して、本発明の第2実施形態に係る車両用警報装置が適用された電動パワーステアリング装置について説明する。電動パワーステアリング装置の概略構成は、
図1に示される本発明の第1実施形態と同様である。
図13は、第2実施形態に用いられるECU12の電気的構成を示すブロック図である。
図13において、前述の
図2の各部に対応する部分には
図2と同じ符号を付して示す。
【0047】
ECU12は、電動モータ18を制御するためのマイクロコンピュータ31Aと、マイクロコンピュータ31Aによって制御され、電動モータ18に電力を供給する駆動回路(インバータ回路)32と、電動モータ18に流れるモータ電流(実電流値)Iを検出する電流検出回路33とを含んでいる。
マイクロコンピュータ31Aは、CPUおよびメモリ(ROM,RAM,不揮発性メモリ34など)を備えており、所定のプログラムを実行することにより、複数の機能処理部として機能するようになっている。この複数の機能処理部には、基本目標電流値設定部(基本アシスト電流値設定部)41Aと、車線逸脱判定部42Aと、警告用振動波形発生部43Aと、振動波形加算部44と、電流偏差演算部45と、PI制御部46と、PWM制御部47と、位相補償部48とが含まれる。
【0048】
車線逸脱判定部42Aは、CCDカメラ24によって撮像された画像に基いて、車両が車線を逸脱する可能性の高い状態であるか否かを判定し、その判定結果を位相補償部48および警告用振動波形発生部43Aに与える。
警告用振動波形発生部43Aは、車線逸脱判定部42Aによって、車両が車線を逸脱する可能性の高い状態であると判定されているときには、そのことを運転者に警告するために、所定周波数feの警告用振動波形(加振信号)Ieを発生させる。警告用振動波形Ieの波形は、大きさが周期的に変化する波形である。警告用振動波形データは、例えば、予め作成されて、不揮発性メモリ34に記憶されている。警告用振動波形発生部43Aは、不揮発性メモリ34に記憶されている警告用振動波形データに基いて、警告用振動波形を発生する。
【0049】
位相補償部48は、トルクセンサ11によって検出される操舵トルクTの位相を進めて系を安定化させるための位相補償処理を行うものである。位相補償部48は、予め設定された第1周波数特性および第2周波数特性のうちのいずれか一方の周波数特性によって、検出操舵トルクTに対して位相補償処理を行う。
位相補償部48は、車線逸脱判定部42Aから与えられる判定結果に応じて、第1周波数特性と第2周波数特性とを切り替える特性変更部48aを含む。特性変更部48aは、車両が車線逸脱可能性の高い状態ではないと車線逸脱判定部42Aが判定している場合(通常時)には、第1周波数特性を位相補償部48の周波数特性として設定する。一方、車両が車線逸脱可能性の高い状態であると車線逸脱判定部42Aが判定している場合(警告用振動波形発生時)には、特性変更部48aは、第2周波数特性を位相補償部48の周波数特性として設定する。
【0050】
第1周波数特性および第2周波数特性について説明する。第1周波数特性に含まれるゲイン特性および位相特性を、それぞれ第1ゲイン特性および第1位相特性ということにする。同様に、第2周波数特性に含まれるゲイン特性および位相特性を、それぞれ第2ゲイン特性および第2位相特性ということにする。
図14Aの破線L1
Gは第1ゲイン特性を示し、
図14Aの実線L2
Gは第2ゲイン特性を示している。
図14Bの破線L1
Pは第1位相特性を示し、
図14Bの実線L2
Pは第2位相特性を示している。
【0051】
図14Aに示すように、第2ゲイン特性L2
Gにおける、警告用振動波形Ieの周波数fe(以下、「警告用振動周波数fe」という。)に対するゲインは、第1ゲイン特性L1
Gにおける警告用振動周波数feに対するゲインよりも小さい。
図14Bに示すように、第2位相特性L2
Pにおける、警告用振動周波数feに対する位相遅れは、第1位相特性L1
Pにおける警告用振動周波数feに対する位相遅れよりも小さい。
【0052】
基本目標電流値設定部41Aは、位相補償部48によって位相補償された操舵トルク(以下、「位相補償後トルクT」という。)と車速センサ23によって検出される車速Vとに基づいて、基本目標電流値(基本アシスト電流値)Io
*を設定する。位相補償後トルクTに対する基本目標電流値Io
*の設定例は、
図3に示される検出操舵トルクTに対する基本目標電流値Io
*の設定例と同じであってもよい。
【0053】
振動波形加算部44は、基本目標電流値設定部41Aによって設定された基本目標電流値Io
*に、警告用振動波形発生部43Aによって発生された警告用振動波形Ieを加算することにより、目標電流値I
*を演算する。電流偏差演算部45は、振動波形加算部44によって得られた目標電流値I
*と電流検出回路33によって検出された実電流値Iとの偏差(電流偏差ΔI=I
*−I)を演算する。
【0054】
PI制御部46は、電流偏差演算部45によって演算された電流偏差ΔIに対するPI演算を行うことにより、電動モータ18に流れる電流Iを目標電流値I
*に導くための駆動指令値を生成する。PWM制御部47は、前記駆動指令値に対応するデューティ比のPWM制御信号を生成して、駆動回路32に供給する。これにより、駆動指令値に対応した電力が電動モータ18に供給されることになる。
【0055】
電流偏差演算部45およびPI制御部46は、電流フィードバック制御手段を構成している。この電流フィードバック制御手段の働きによって、電動モータ18に流れるモータ電流Iが、目標電流値I
*に近づくように制御される。
第2実施形態では、車線逸脱判定部42Aによって、車両が車線を逸脱する可能性の高い状態であると判定されているときには、警告用振動波形発生部43Aから警告用振動波形Ieが発生される。この警告用振動波形Ieが基本目標電流値Io
*に加算されることにより、目標電流値I
*が演算される。そして、電動モータ18に流れるモータ電流Iが、目標電流値I
*に近づくように制御される。したがって、車線逸脱判定部42Aによって、車両が車線を逸脱する可能性の高い状態であると判定されているときには、ステアリングホイール2に警告用振動波形Ieに応じた警告用振動が与えられる。これにより、運転者は、車両が車線を逸脱する可能性が高い状態であることを認識することができる。
【0056】
警告用振動波形発生時には、警告用振動波形に対してアシスト機能が働くため、警告用振動波形に応じたアシスト力が発生する。したがって、警告用振動波形発生時に、警告用振動周波数feに対するゲインが高いと、警告用振動波形が増幅され、大きな振動が発生するおそれがある。第2実施形態では、警告用振動波形発生時には、位相補償部48におけるゲイン特性が第2ゲイン特性L2
Gに変更される。これにより、警告用振動波形発生時の警告用振動周波数feに対するゲインが、通常時の警告用振動周波数feに対するゲインよりも小さくなる。これにより、警告用振動波形発生時に大きな振動が発生するのを抑制または回避できる。
【0057】
警告用振動波形発生時には、警告用振動波形によって電動パワーステアリング装置1の制御系の安定度が低下するおそれがある。第2実施形態では、警告用振動波形発生時には、位相補償部48における位相特性が第2位相特性L2
Pに変更される。これにより、警告用振動波形発生時の警告用振動周波数feに対する位相遅れが、通常時の警告用振動周波数feに対する位相遅れよりも小さくなる。これにより、警告用振動波形発生時に電動パワーステアリング装置1の制御系の安定度が低下するのを抑制または回避できる。
【0058】
第2実施形態においても、警告用振動波形Ieは、複数の周波数成分を含んでいてもよい。この場合には、特性変更部48aは、警告用振動波形発生時においては、警告用振動波形Ieに含まれる複数の周波数成分それぞれの周波数に対するゲインが、通常時における前記複数の周波数成分それぞれの周波数に対するゲインより小さく、かつ前記複数の周波数成分それぞれの周波数に対する位相遅れが通常時における前記複数の周波数成分それぞれの周波数に対する位相遅れより小さくなるように、位相補償部48の周波数特性を変更する。
【0059】
前述の第1および第2実施形態では、警告用振動波形発生部43,43Aは、車両が車線を逸脱する可能性の高い状態であると判定されているときに、警告用振動波形Ieを発生させている。しかし、警告用振動波形発生部43は、車両の運転状態が、車両が車線を逸脱する可能性の高い状態以外の予め定められた状態となったときに、警告用振動波形を発生させるようにしてもよい。
【0060】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。