(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、先端を球状としたキャップチップは、被溶接物に対する接触面積が小さいことから、溶融ナゲットの生成面積を大きくできず、溶接強度を十分に保つことが難しいという課題がある。
また、スポット溶接では、被溶接物の表面における焼けや圧痕を最小限に抑えるために通電時間を短くする手法が用いられることがあるが、先端を球状としたスポット溶接用電極を使用していて溶融ナゲットの生成面積を大きくとれない状況下で通電時間の短縮化を図ると、溶融ナゲットの成長が抑制されることから、溶接強度の更なる低下が生じてしまう。
【0006】
本発明は係る事情に鑑みてなされたものであり、キャップチップの被溶接物に対する接触面積を大きくとることができるスポット溶接用電極及びテーブルスポット溶接機を提供することを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のスポット溶接用電極は、
被溶接物を載置する平坦な板状電極と、前記板状電極面と平行となる横向き姿勢で移動可能で、先端部分が前記板状電極向きに屈曲したシャンクホルダを有する溶接ガンと、を備えたテーブルスポット溶接機に用いられるスポット溶接用電極であって、前記シャンクホルダの前記先端部分に装着され、先端部分が略球状に形成されたシャンクと、前記シャンクの
前記先端部分に対して回動自在に嵌合する略半球状空間を有するとともに、該略半球状空間の開口部内側に周方向に沿った溝部を有し、更に
先端側の中央部分が軸方向に沿って一定の断面積で突出するとともに、先端が平坦となった突起部を有するキャップチップと、前記キャップチップの前記略半球状空間の開口部内側に形成された前記溝部に内挿される弾性を有するリング状の係止部材と、を備える。
【0008】
上記構成によれば、キャップチップがシャンクの先端部分に対して回動自在に嵌合するので、キャップチップの先端を被溶接物に接触させたときに、キャップチップの先端の平坦面を被溶接物の面に密着させることができる。したがって、キャップチップの被溶接物との接触面積を大きくとれるので、従来よりも大きな溶接ナゲットの生成が可能となり、被溶接物の表面における焼けや圧痕を最小限に抑える目的で通信時間の短縮化を図っても、高い
溶接強度を得ることができる。
また、特に、平坦にしたキャップチップの先端側の中央部分を軸方向に沿って一定の断面積で突出させることで、キャップチップの被溶接物に対する接触面積を長期に亘って一定にできる。つまり、単に、キャップチップの先端の一部分を平坦にするだけでは、使用による摩耗やクリーニング(研磨)による摩耗によって、被溶接物に対する接触面積が大きくなる方向に変化してしまうが、キャップチップの先端側の中央部分を軸方向に沿って一定の断面積で突起させることで、使用による摩耗やクリーニングによる摩耗が生じても、突起部分が無くなるまでは、被溶接物に対する接触面積を一定にできる。しかも、キャップチップをシャンクの先端部分に対して回動自在(所謂首振り自在)に嵌合させるようにしているので、突起部の先端の角部が被溶接物に当たる片当たりが起こり難くでき、このことも接触面積の一定化に寄与する。このように、単に、キャップチップの先端の一部分を平坦にする場合よりも、長期に亘って安定した溶接品質を得ることが可能となる。
【0009】
また、係止部材がキャップチップをシャンクに係止するので、キャップチップのシャンクからの落下を防止できる。また、係止部材が弾性を有するので、キャップチップのシャンクに対する着脱を容易に行うことができ、製品組立て時やメンテナンス時における作業性の向上が図れる。
【0010】
本発明のテーブルスポット溶接機は、1次コイルに高周波交流が供給されることで2次コイルに生起する電流を直流化する溶接トランスと、被溶接物を載置する平坦形状の板状電極と、前記溶接トランスの2次コイルに生起し直流化された電流が供給される溶接ガンと、前記溶接ガンを前記板状電極の面と直角となる縦向き方向及び平行となる横向き方向のそれぞれの方向に移動可能に保持する片持ちの多関節アームと、前記溶接トランスの1次コイルに高周波交流を供給するインバータ回路と、前記インバータ回路の動作を制御する溶接制御回路と、を備えるテーブルスポット溶接機であって、前記溶接トランスは、平行部と両端のU字状の湾曲部により構成される環状磁心と、前記環状磁心の前記平行部に、複数の部分に分けて間隙を空けて分割巻きされる1次コイルと、前記1次コイルと共に前記環状磁心の前記平行部に巻回され、前記1次コイルに設けられた前記各間隙に1個ずつ挟み込むように、複数の正側コイルと複数の負側コイルとを交互に配列した2次コイルと、前記複数の正側コイルは全て並列接続されるかもしくは全部または一部が直列接続され、前記複数の負側コイルは全て並列接続されるかもしくは全部または一部が直列接続され、前記接続された複数の正側コイルと前記複数の負側コイルとが互いに直列接続されるように、前記正側コイルと負側コイルの端子間を電気接続する導体群を有し、かつ、前記導体群により、前記全ての正側コイルと負側コイルとを一方の面上に支持固定する接続基板を備え、前記複数の正側コイルの一方の端子は、前記接続基板の他方の面上で、前記環状磁心の前記平行部に平行な方向に伸びた第1連結極板に電気接続され、前記複数の負側コイルの一方の端子は、前記接続基板の他方の面側で、前記環状磁心の前記平行部に平行な方向に伸びた第2連結極板に電気接続され、前記正側コイルの他方の端子と負側コイルの他方の端子は、共に、前記接続基板の他方の面側で、前記環状磁心の前記平行部に平行な方向に伸びた第3連結極板に電気接続され、前記第1連結極板には、正側導体が連結され、前記第2連結極板には、負側導体が連結され、前記正側導体と前記負側導体は、前記接続基板の他方の面側において、当該他方の面から垂直に離れる方向に伸びる境界面に配置された絶縁層を介して重ね合わされた一対の導体板であり、前記正側導体とプラス電極が接続された第1極板との間に挟まれ、前記正側導体に正極が接触し、前記第1極板に負極が接触する第1整流素子と、前記負側導体とマイナス電極が接続された第2極板との間に挟まれ、前記負側導体に正極が接触し前記第2極板に負極が接触する第2整流素子と、前記第1極板と前記第2極板を支持し、両者を電気接続する第3極板と、を備え、前記溶接ガンは、前記スポット溶接用電極と、前記溶接トランスの前記プラス電極を前記スポット溶接用電極と接続するためのシャンクホルダと、を備え、前記板状電極には、前記溶接トランスの前記マイナス電極が接続される。
【0011】
上記構成によれば、上記発明のスポット溶接用電極を備えるので、被溶接物の表面における焼けや圧痕を最小限に抑える目的で通電時間の短縮化を図っても、高い溶接強度でスポット溶接を行うことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、キャップチップがシャンクの先端部分に対して回動自在に嵌合するので、キャップチップの先端を被溶接物に接触させたときに、該先端の平坦部分を被溶接物の面に密接させることができる。したがって、キャップチップの被溶接物との接触面積を大きくとれるので、従来よりも大きな溶融ナゲットの生成が可能となり、被溶接物の表面における焼けや圧痕を最小限に抑える目的で通電時間の短縮化を図っても、高い溶接強度を得ることができる。
また、係止部材がキャップチップをシャンクに係止するので、キャップチップのシャンクからの落下を防止できる。また、係止部材が弾性を有することから、キャップチップのシャンクに対する着脱を容易に行うことができ、製品組立て時やメンテナンス時における作業性の向上が図れる。
また、キャップチップの先端側の中央部分に、先端が平坦となった突起部を設けた場合、使用による摩耗やクリーニングによる摩耗が生じても、突起部が無くなるまでは、被溶接物に対する接触面積を一定にできる。しかも、キャップチップを回動自在(所謂首振り自在)しているので、該突起部の先端の角部が被溶接物に当たる片当たりが起こり難くでき、このことも接触面積の一定化に寄与できる。このように、単に、キャップチップの先端の一部分を平坦にする場合よりも、長期に亘って安定した溶接品質を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係るテーブルスポット溶接機の外観を示す側面図
【
図2】本発明の一実施形態に係るテーブルスポット溶接機の外観を示す平面図
【
図3】本発明の一実施形態に係るテーブルスポット溶接機の垂直アームの一部分と溶接ガンの外観を示す側面図
【
図4】本発明の一実施形態に係るテーブルスポット溶接機の溶接ガンのシャンクホルダの先端部分及びスポット溶接用電極の外観を示す図並びにスポット溶接用電極の縦方向の断面を示す図
【
図5】本発明の一実施形態に係るテーブルスポット溶接機の溶接ガンのスポット溶接用電極の先端部分を示す図
【
図6】本発明の一実施形態に係るテーブルスポット溶接機の溶接ガンのスポット溶接用電極の変形例を示す図
【
図7】本発明の一実施形態に係るテーブルスポット溶接機の溶接ガンのスポット溶接用電極の他の変形例を示す図
【
図8】本発明の一実施形態に係るテーブルスポット溶接機の電源ユニットの概略構成を示す図
【
図9】本発明の一実施形態に係るテーブルスポット溶接機の溶接トランスと溶接ガン及びテーブル電極との結線を示す図
【
図10】本発明の一実施形態に係るテーブルスポット溶接機の溶接トランスの動作を説明するための図
【
図11】本発明の一実施形態に係るテーブルスポット溶接機の溶接トランスの動作を説明するための図
【
図12】本発明の一実施形態に係るテーブルスポット溶接機の溶接トランスの1次側に供給される電流を制御するための制御パルス、1次電流及び整流後の溶接電流を示す図
【
図13】本発明の一実施形態に係るテーブルスポット溶接機の溶接トランスの外観を示す斜視図
【
図14】本発明の一実施形態に係るテーブルスポット溶接機の溶接トランスの組み立て状態を示す斜視図
【
図15】本発明の一実施形態に係るテーブルスポット溶接機において、溶接トランスから溶接ガンに供給される溶接電流を示す波形図
【
図16】従来のテーブルスポット溶接機の溶接ガンのキャップチップを示す縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態に係るテーブルスポット溶接機1の外観を示す側面図である。また、
図2は、本実施形態に係るテーブルスポット溶接機1の外観を示す平面図である。また、
図3は、本実施形態に係るテーブルスポット溶接機1の溶接ガン6の外観を示す側面図である。
【0016】
図1及び
図2において、本実施形態に係るテーブルスポット溶接機1は、冷却ユニット2と、電源ユニット3と、支持ポスト4と、支持アーム(片持ちの多関節アーム)5と、溶接ガン6と、導電ケーブル7A,7Bと、板状電極(以下、テーブル電極と呼ぶ)8と、溶接条件設定器9と、溶接トランス10と、テーブル駆動部100と、を備える。
【0017】
冷却ユニット2は、溶接時に溶接ガン6から発生する熱を冷却するための冷却水を供給する。冷却ユニット2は、電源が投入されている間は常時動作して溶接ガン6との間で冷却水を循環させる。電源ユニット3は、受電設備450(
図8参照)から供給される三相の交流電力を整流素子にて直流に変換し、更に変換後の直流から高周波交流を生成して出力する。電源ユニット3の詳細については後述する。導電ケーブル7A,7Bは、溶接ガン6への電流供給に用いられる。導電ケーブル7Aは、一端がテーブル駆動部100の前面部に内蔵された溶接トランス10の2次側出力端のプラス電極に接続され、他端が溶接ガン6に接続される。導電ケーブル7Bは、一端が溶接トランス10の2次側出力端のマイナス電極に接続され、他端がテーブル電極8に接続される。
【0018】
なお、溶接トランス10のプラス電極とマイナス電極の両電極の接続にブスバーが用いられる場合、溶接トランス10のマイナス電極とテーブル電極8が直接ブスバーで接続され、溶接トランス10のプラス電極と溶接ガン6がブスバーを介して導電ケーブル7Aで接続される。
図1では導電ケーブル7Bをブスバーとして描いている。
【0019】
溶接トランス10は、本願発明者等が先に特開2012−210654号、特開2013−179205号で提案した抵抗溶接用の溶接トランスである。溶接トランス10の詳細については後述する。
【0020】
支持ポスト4は、冷却ユニット2と電源ユニット3の近傍にて垂直方向に立設され、支持アーム5を水平方向に回動可能に支持する。支持アーム5は、溶接ガン6を保持するものであり、支持ポスト4に対して水平方向に延びた水平アーム部5Aと、水平アーム部5Aの先端部分から垂直方向下向きに延設された垂直アーム部5Bとを備えた略L字形状を成している。支持アーム5の水平アーム部5Aの基端部5a及び中間部5bには、それぞれ回動軸5Aaが設けられており、これらの回動軸5Aaによって溶接ガン6の水平方向への移動が可能になっている。
【0021】
テーブル電極8は、略正方形の平坦な板状に形成されており、製品である被溶接物(例えば2枚の鋼板等の金属板、図示略)を載置する。テーブル電極8には、銅材等の導電性及び熱伝導性に優れた金属材が用いられる。テーブル電極8は、テーブル駆動部100によって上下動する。テーブル電極8を上下動させることで、溶接ガン6とテーブル電極8との間の距離調整を行うことができる。なお、テーブル電極8を上下動させる操作は作業者が行う。溶接条件設定器9は、被溶接物(図示略)の材料、板厚、加圧力等の溶接条件の設定を行う。溶接条件設定器9で設定された溶接条件に見合った溶接電流が決定される。なお、溶接条件を設定する操作も作業者が行う。
【0022】
図3において、溶接ガン6は、基端部側にレバー式の起動スイッチ(図示略)を内蔵したハンドル6Aを備える。ハンドル6Aの起動スイッチは溶接指令を出力するものであり、ハンドル6Aが握られることでスイッチオンとなって溶接指令が出力される。ハンドル6Aの起動スイッチ操作によって溶接指令が出力されると、該溶接指令が電源ユニット3に取り込まれる。電源ユニット3は、溶接指令を取り込むことで動作を開始して高周波交流を出力する。電源ユニット3から出力された高周波交流は、溶接トランス10の1次コイル12(例えば
図9を参照)に供給される。
【0023】
溶接ガン6は、支持アーム5の垂直アーム部5Bの先端部分5Baにて上下方向に揺動自在に保持される。この場合、溶接ガン6は、略中央部分を支点Psとして垂直アーム部5Bに支持されるので、溶接ガン6の先端の上下軌跡が円弧状となる。
また、溶接ガン6は、基端部側が上方に持ち上がるように、該基端部と垂直アーム部5Bとの間に張設されたスプリングコイル5Cによって付勢される。スプリングコイル5Cにより、溶接ガン6を容易に上下動させることができる。
【0024】
次に、溶接ガン6について詳細に説明する。
図4は、溶接ガン6のシャンクホルダ300の先端部分
300a及びスポット溶接用電極400の外観を示す図並びにスポット溶接用電極400の縦方向の断面を示す図である。この場合、
図4の(a)は、シャンクホルダ300の先端部分
300a及びスポット溶接用電極400の外観を示し、
図4の(b)は、スポット溶接用電極400の縦方向の断面を示す。シャンクホルダ300は、先端部分300aが本体部に対して略直角に曲がっている。この先端部分300aにスポット溶接用電極400が装着される。シャンクホルダ300の内部には冷却水を通流させるための流路301が形成されている。シャンクホルダ300の流路301は、開口端300bで最大径となるようにテーパー状に形成されている。
【0025】
スポット溶接用電極400は、シャンク401と、シャンク401の先端部分に対して回動自在に装着されるキャップチップ402と、このキャップチップ402をシャンク401に係止させる係止部材403とを備える。シャンク401及びキャップチップ402を構成する材料には、例えばクローム銅(CrCu)の機械的強度、導電性及び熱伝導性を加味した金属材が好適である。
【0026】
シャンク401は、先端部分が略球状に形成され、中央部分が略Z字状に折曲がった棒状に形成されている。シャンク401の内部には冷却水を通流させるための流路401aが形成されている。シャンク401に形成された流路401aは、スポット溶接用電極400の基端側が開口し、スポット溶接用電極400の先端側が閉口している。スポット溶接用電極400は、シャンクホルダ300の先端部分
300aに装着可能なように、基端側部分がテーパー状に形成されている。
【0027】
図5は、スポット溶接用電極400の先端部分を示す図である。この場合、
図5の(a)はシャンク401の先端部分の断面を示し、
図5の(b)はキャップチップ402の断面を示し、
図5の(c)は
係止部材403の装着位置を示している。
図5の(a)に示すように、シャンク401は、その先端部分401bが略球状に形成されている。また、
図5の(b)に示すように、キャップチップ402は、シャンク401の先端部分401bに対して回動自在に嵌合する略半球状空間402aを有するとともに、先端の中央部分に平坦面402bを有し、更に略半球状空間402aの開口部内側に周方向に
沿う溝部402cを有する。キャップチップ402の平坦面402bの面積は、溶接トランス10が短時間に流せる電流の大きさに応じて決定される。即ち、溶接トランス10が短時間に流せる電流が大きければ大きいほどキャップチップ402の平坦面402bの面積を大きくすることができる。
【0028】
係止部材403は、耐熱性を有するOリングゴムで構成され、キャップチップ402の溝部402cに内挿される。係止部材403を構成する材料には、例えばニトリルゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムが好適である。係止部材403は、キャップチップ402をシャンク401の先端部分401bに係止するために用いられ
るものである。なお、キャップチップ402をシャンク401の先端部分401bに係止する作用が得られれば、必ずしもOリングゴムで構成する必要はなく、例えば角リングゴムやDリングゴムでもあっても構わない。
【0029】
スポット溶接用電極400は、キャップチップ402がシャンク401に対して回動自在であるため、キャップチップ402を被溶接物に接触させたときに、キャップチップ402の先端の平坦面402bを被溶接物に密接させることができる。特に、溶接ガン6をその略中央部分で支持するようにした関係上、溶接ガン6の先端の上下軌跡が円弧状となるが、このような円弧状の動きになってもキャップチップ402がシャンク401に対して回動するので、キャップチップ402の先端の平坦面402bを被溶接物に対して直角に当てることができる。このように、キャップチップ402の先端の一部分に平坦面402bを設けるとともに、キャップチップ402をシャンク401の先端部分401bに対して回動自在としたことにより、キャップチップ402の被溶接物に対する接触面積を大きくとることができる。そして、キャップチップ402の被溶接物に対する接触面積を大きくとることができることで、溶融ナゲットの生成面積を大きくでき、高い溶接強度を得ることが可能となる。
【0030】
なお、キャップチップ402は、その先端の一部分に平坦面を有していれば、先端の形状がどのようなものであっても構わない。
図6は、スポット溶接用電極400の変形例を示す図である。
図6の(a)に示すスポット溶接用電極400Bは、先端
側の中央部分に軸心方向に
沿って一定の断面積で突出するとともに、先端が平坦となった突起部402Baを有するキャップチップ402Bを備えたものである。このキャップチップ402Bの突起部402Baの先端面の形状は丸型が好ましいが、角型(例えば正方形)であっても構わない。
突起部402Baを有するキャップチップ402Bを用いることで、使用による摩耗やクリーニングによる摩耗が生じても、突起部402Baが無くなるまでは、被溶接物に対する接触面積を一定にできる。なお、突起部402Baを設けることで、その先端の角部が被溶接物に当たる片当たりが起こり易くなるが、キャップチップ402Bを回動自在(所謂首振り自在)とすることで、片当たりを起こり難くできる。他方、
図6の(b)に示すスポット溶接用電極400C
のキャップチップ402Cは、突起部402Caを上述したスポット溶接用電極400Bの突起部402Baよりも大型にしたものである。なお、この場合も突起部402Caの先端面の形状は丸型が好ましいが、角型(例えば正方形)であっても構わない。
【0031】
また、上述したスポット溶接用電極400は、シャンク401の中央部分を略Z字状に折り曲げたものであったが、シャンク401を部分的に曲げることなく直線状としても構わない。
図7は、直線状のシャンク401を備えるスポット溶接用電極400Dを示す図であり、(a)は外観図、(b)が縦断面図である。
【0032】
次に、電源ユニット3について説明する。
図8は、電源ユニット3の概略構成を示す図である。同図において、電源ユニット3は、整流器80と、平滑用コンデンサ81と、溶接制御回路82と、インバータ回路83と、を備える。整流器80は、単相全波整流式を採用したものであり、受電設備450からの三相の交流を整流して直流に変換する。溶接制御回路82は、溶接電流の大きさと通電時間を制御する。溶接制御回路82は、例えばマイコンを用いて構成される。この場合、マイコンは溶接制御用のプログラムを保持し、該プログラムに従って動作する。溶接制御回路82は、溶接ガン6に備えられた起動スイッチ6Aからの溶接指令を検知することで、溶接条件設定器9にて設定された被溶接物の材質と厚さに応じたタイミング信号を生成し、インバータ回路83へ出力する。溶接制御回路82は、溶接電流が通電開始時から15ミリ秒以内で最大値となり、かつ50ミリ秒以下の通電時間で溶接を完了するように、タイミング信号を生成する。
【0033】
インバータ回路83は、インバータ制御部831と、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)を使用した4つのスイッチS1〜S4と、例えばCT(Current Transformer)を使用した電流センサ832と、を備える。インバータ制御部831は、溶接制御回路82で生成されたタイミング信号と電流センサ832で検出された1次電流とに基づいてスイッチS1〜S4のそれぞれをオン・オフ制御し、高周波交流を発生する。インバータ制御部831が発生する高周波交流の大きさは、スイッチS1〜S4それぞれのオン・オフのデューティによって変化する。スイッチS1〜S4それぞれのオン・オフのデューティを変化させることで、後述する
図12の(a)に示すようにスイッチング波形のWの幅が変化する。
【0034】
図9は、溶接トランス10と溶接ガン6及びテーブル電極8との結線を示す図である。同図において、溶接トランス10の1次コイル12は、電源ユニット3のインバータ回路83(
図8参照)の出力端に接続される。インバータ回路83から高周波交流が出力されることで、溶接トランス10の1次コイル12に1次電流が流れる。溶接トランス10の2次コイル15は、それ自体に極性を考慮する必要はないが、便宜上、溶接トランス10の2次コイル15を、正側コイル14と負側コイル16とを直列接続したものと呼ぶことにする。正側コイル14の一端には第1整流素子18のアノード(正極)が接続され、負側コイル16の一端には第2整流素子20のアノード(正極)が接続される。第1整流素子18のカソード(負極)と第2整流素子20のカソード(負極)がプラス電極22に共通接続される。正側コイル14の他端と負側コイル16の他端とがマイナス電極24に共通接続される。プラス電極22には、導電ケーブル7Aを介して溶接ガン6が接続される。マイナス電極24には、導電ケーブル7Bを介してテーブル電極8が接続される。
【0035】
図10は、第1整流素子18に順方向電流が流れたときの回路動作を示す図である。また、
図11は、第2整流素子20に順方向電流が流れたときの回路動作を示す図である。
図10及び
図11では、
図9に示す回路に、回路動作上問題になる等価的なインダクタンス成分を書き加えている。即ち、正側コイル14と第1整流素子18を接続する正側導体30のインダクタンスと、負側コイル16と第2整流素子20を接続する負側導体32のインダクタンスと、導電ケーブル7A,7Bを含む溶接ガン6及びテーブル電極8における導体のインダクタンスとが、テーブルスポット溶接機1の性能に影響を及ぼすと考えられる。
【0036】
溶接トランス10、導電ケーブル7A,7B及び溶接ガン6のそれぞれで発生する大量の熱を抑制することができれば、テーブルスポット溶接機1の省エネルギー化が図れ、大きな節電効果が期待できる。これは、従来よりも大きな電流を短時間だけ溶接ガン6に供給するように制御できれば実現可能である。一方、溶接される材料や構造等に最適な溶接電流を供給するためには、溶接電流の供給時間を極めて高精度に制御する必要がある。これは、溶接電流を供給する溶接トランス10の1次側にインバータ回路83を接続して、PWM制御により溶接電流の大きさと供給時間とを制御することで実現可能である。
【0037】
図12は、溶接トランス10の1次側に供給される電流を制御するための制御パルス、1次電流及び整流後の溶接電流を示す図である。同図において、インバータ回路83により制御された幅Wのパルス(スイッチングパルス)が、一定時間H内に一定回数、ここでは正方向のパルスと負方向のパルスとで合計10回、溶接トランス10の1次コイル12に供給される。これにより、溶接トランス10の1次コイル12には、
図12の(b)に示すような1次電流が流れる。溶接トランス10の1次コイル12に1次電流が流れることで溶接トランス10の2次側に発生した2次電流が整流素子18,20で全波整流されて、
図12の(c)に示すような溶接電流となって溶接ガン6へ流れる。
【0038】
図12の(a)に示すパルスの幅Wを増減することで溶接電流の大きさを調整することができる。また、パルスの供給回数を増減すれば溶接時間を調整することができる。即ち、パルスの繰り返し周波数を高くすると溶接時間をより細かく微調整できる。また、溶接トランス10の1次コイル12に供給する電力を増やせば、2次コイル15からより大きな溶接電流を取り出すことができる。
【0039】
ここで、従来のテーブルスポット溶接機は、例えば1万アンペアで200m秒〜700m秒の溶接電流を供給するようにしているが、溶接電流をその2倍の2万アンペアにしてみると、溶接ガン6以外の場所で熱エネルギーになって消費される電力損失が極めて大きくなり、実用上問題となる。そこで、溶接電流を2倍にしても溶接時間を10分の1に短縮すれば、消費電力を5分の1にすることができ、実用上問題とはならない。
【0040】
一方、溶接電流を供給するためのインバータ回路の制御パルスは、従来、繰り返し周波数が1kHz程度のものを使用していたが、大電流を短時間供給するには、もっと分解能の高い制御パルスが必要になる。本実施形態のテーブルスポット溶接機1のインバータ回路83では、繰り返し周波数が5kHz〜50kHz程度のパルスを出力するようにしている。従来の数倍から数十倍の高い繰り返し周波数のパルスを従来の溶接トランスに供給した場合、予定した溶接電流が得られないが、本実施形態のテーブルスポット溶接機1で使用する溶接トランス10は、従来の数倍から数十倍の高い繰り返し周波数のパルスでも予定した溶接電流を得ることができる構造を有している。以下、本実施形態のテーブルスポット溶接機1で使用する溶接トランス10の構造を説明する。
【0041】
図13は、本実施形態のテーブルスポット溶接機1の溶接トランス10の外観を示す斜視図である。また、
図14は、溶接トランス10の組み立て状態を示す斜視図である。
図13及び
図14において、溶接トランス10は、平行部25aと両端のU字状の湾曲部25bにより構成される環状磁心25と、環状磁心25の平行部25aに、複数の部分に分けて間隙12aを空けて分割巻きされる1次コイル12と、1次コイル12と共に環状磁心25の平行部25aに巻回され、1次コイル12に設けられた各間隙12aに1個ずつ挟み込むように、複数の正側コイル14と複数の負側コイル16とを交互に配列した2次コイル15と、複数の正側コイル14は全て並列接続されるかもしくは全部または一部が直列接続され、複数の負側コイル16は全て並列接続されるかもしくは全部または一部が直列接続され、接続された複数の正側コイル14と複数の負側コイル16とが互いに直列接続されるように、正側コイル14と負側コイル16の端子間を電気接続する導体群を有し、かつ、該導体群により、全ての正側コイル14と負側コイル16とを一方の面上に支持固定する接続基板62を備え、複数の正側コイル14の一方の端子は、接続基板62の他方の面上で、環状磁心25の平行部25aに平行な方向に伸びた第1連結極板44に電気接続され、複数の負側コイル16の一方の端子は、接続基板62の他方の面側で、環状磁心25の平行部25aに平行な方向に伸びた第2連結極板46に電気接続され、正側コイル14の他方の端子と負側コイル16の他方の端子は、共に、接続基板62の他方の面側で、環状磁心25の平行部25aに平行な方向に伸びた第3連結極板48に電気接続され、第1連結極板44には、正側導体30が連結され、第2連結極板46には、負側導体32が連結され、正側導体30と負側導体32は、接続基板62の他方の面側において、当該他方の面から垂直に離れる方向に伸びる境界面に配置された絶縁層31を介して重ね合わされた一対の導体板であり、正側導体30とプラス電極22(
図9参照)が接続された第1極板34との間に挟まれ、正側導体30にアノード(正極)が接触し、第1極板34にカソード(負極)が接触する第1整流素子18と、負側導体32とマイナス電極24が接続された第2極板36との間に挟まれ、負側導体32にアノード(正極)が接触し第2極板36にカソード(負極)が接触する第2整流素子20と、第1極板34と第2極板36を支持し、両者を電気接続する第3極板38と、を備える。
【0042】
溶接トランス10は、このような構造を有したことで、インバータ回路83からの高い周波数(5kHz〜50kHz程度)のパルスでも、予定した溶接電流を得ることができる。
【0043】
ところで、
図9に示すような2個の整流素子18、20を使用した全波整流型の2次回路は、ブリッジを使用した回路に比べて整流素子数が少なく、小型化できて電力損失も少ないため、溶接装置に適することが知られている。しかしながら、この2次回路では、1次コイル12に流れる電流の極性反転によって、2次コイル15に誘起される電圧が極性反転したときに、一方の整流素子を通じて供給されていた負荷電流が他方の整流素子側に流れを変える転流が生じる。
【0044】
溶接電流が大電流になると、回路各部のインダクタンスに蓄積された電流エネルギーは非常に大きくなる。この電流エネルギーが一方の整流素子から他方の整流素子の側に移る転流時間は、
図10や
図11に示す2次コイル15の各部のインダクタンスが大きいほど長くなる。
図12に示す1次コイル12の電流の立ち下がり開始から反対極性の電流の立ち上がり終了までの時間Mの間に2次回路の転流が完了しないと、2次電流の立ち上がりが遅れて、
図12の破線に示すように、予定した溶接電流が得られなくなる。
【0045】
図13、
図14に示す溶接トランス10は、前述したように、特開2013−179205号公報に記載された溶接トランスと同等のものであり、高速で精密な大電流の溶接制御に追随できる。また、
図15は、溶接トランス10から溶接ガン6に供給される溶接電流を示す波形図である。同図において、溶接電流供給開始時刻t0からその後の時刻t1までの、電流増加率が最大の部分を立ち上げ制御期間T1と呼び、これに続く時刻t1から時刻t2までの、ピーク電流値C1に近い所定レベルの電流を維持する期間をピークレベル制御期間T2と呼び、その後の時刻t2から電流遮断時刻t3に至るまでの期間を温度維持制御期間T3と呼ぶとき、溶接電流iwは、立ち上げ制御期間T1が10ミリ秒以下、立ち上げ制御期間T1とピークレベル制御期間T2の和の(T1+T2)時間が15ミリ秒以下、立ち上げ制御期間T1とピークレベル制御期間T2と温度維持制御期間T3の和の(T1+T2+T3)時間が50ミリ秒以下となるように制御される。このように、溶接電流iwの通電時間は50m秒以下に抑えられる。これは従来の通電時間の5分の1程度である。なお、
図15中において符号C2は、溶接電流iwの終了値を示す。
【0046】
本実施形態のテーブルスポット溶接機1で使用している溶接トランス10は、正側導体30と負側導体32が絶縁層31を介して密着し、また2次コイル15の正側コイル14と負側コイル16の間に1次コイル12が挟まるようにこれらのコイルを配置しているので、溶接トランス10の2次側回路の転流時におけるインダクタンスが低減し、該2次側回路における転流時間が短くなる。したがって、溶接トランス10を使用することで、より高い周波数のインバータ制御が可能となる。
【0047】
また、溶接トランス10は、1次コイル12と2次コイル15の配置によって、溶接トランス全体の熱分布を均一化できる。
【0048】
また、溶接トランス10は、1次コイル12と2次コイル15の正側コイル14及び負側コイル16をそれぞれ分割巻きして1次コイル12と2次コイル15の結合を図っているので、1次コイル12と2次コイル15における結合を強くでき、2次側の大電流による磁気飽和を防止できる。
【0049】
また、溶接トランス10は、1次コイル12と2次コイル15の正側コイル14と負側コイル16との関係がどの場所でも均等になるようにしていので、互いに密着した配置が可能となり、溶接トランス10の小型化が図れる。
【0050】
このように、本実施形態に係るテーブルスポット溶接機1のスポット溶接用電極400によれば、キャップチップ402がシャンク401の先端部分401bに対して回動自在に嵌合するので、キャップチップ402の先端を被溶接物に接触させたときに、キャップチップ402の先端の平坦面402bを被溶接物の面に密接させることができる。したがって、キャップチップ402の被溶接物との接触面積を大きくとれるので、従来よりも大きな溶融ナゲットの生成が可能となり、被溶接物の表面における焼けや圧痕を最小限に抑える目的で通電時間の短縮化を図っても、高い溶接強度を得ることができる。
また、特に、先端側の中央部分に突起部402Baを有するキャップチップ402B又は突起部402Caを有するキャップチップ402Cにおいては、突起部402Ba又は402Caが摩耗によって無くなるまでの長期に亘って、被溶接物に対する接触面積を一定にできる。しかも、キャップチップ402B(402C)をシャンク401の先端部分401bに対して回動自在(所謂首振り自在)に嵌合させるようにしているので、突起部402Ba又は402Caの先端の角部が被溶接物に当たる片当たりが起こり難くでき、このことも接触面積の一定化に寄与できる。このように、単に、キャップチップの先端の一部分を平坦にする場合よりも、長期に亘って安定した溶接品質を得ることが可能となる。
【0051】
また、係止部材403がキャップチップ402をシャンク401に係止するので、キャップチップ402のシャンク401からの落下を防止できる。また、キャップチップ402のシャンク401に対する着脱を容易に行うことができるので、製品組立て時やメンテナンス時における作業性の向上が図れる。
【0052】
なお、本発明を特定の実施形態を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。