【実施例】
【0033】
さらに本発明について、実施例により詳細に説明する。
【0034】
[実施例1]β−キチン粉末の製造
三陸産スルメイカ(Todarodes pacificus)から分別した中骨を軽く水切りし(湿重量=2.0kg)、そのまま下記(a)の工程に供し、蒸留水20Lで1回洗浄した後、再度(a)の工程を行って処理した。次いで蒸留水20Lで4回洗浄し、下記(b)の工程を行って処理し、精製した。次いで、蒸留水20Lで4回洗浄後、下記(c)および(d)の工程を行って処理した。
(a)アルカリにより脱タンパク処理する工程:1M水酸化ナトリウム水溶液10Lを加え、92℃〜93℃(緩やかな沸騰状態)で、ときどき撹拌しながら2時間加熱した。
(b)酸により脱灰処理する工程:0.1M塩酸水溶液10Lを加え、15℃で16時間静置した。
(c)乾燥工程:温熱乾燥機にて、65℃で16時間乾燥した。
(d)乾式粉砕工程:転動ボールミル粉砕機(架台;ユニバーサルボールミル 型式:UB32(ヤマト科学株式会社製)、粉砕容器;ポットミル「HD−A−5」(株式会社ニッカトー製))により、室温で12時間乾式粉砕した。
【0035】
[比較例1]β−キチン粉末の製造
β−キチン含有材料の精製工程において、(b)の工程の後に蒸留水20Lで4回洗浄した後、(a)の工程を行い、蒸留水20Lで1回洗浄し、再度(a)の工程を行って処理した他は、実施例1と同様に処理して、β−キチン粉末を得た。
【0036】
[比較例2]β−キチン粉末の製造
β−キチン含有材料の精製工程において、(a)の工程の後に蒸留水20Lで3回洗浄した後、(b)の工程を行い、蒸留水20Lで4回洗浄し、再度(a)の工程を行って処理した他は、実施例1と同様に処理して、β−キチン粉末を得た。
【0037】
実施例1ならびに比較例1および2の製造方法において、(d)の乾式粉砕処理を行う前のβ−キチンの回収率および成分組成を表1および2に示す。
なお、β−キチン中のタンパク質量はローリー法により定量し、牛血清アルブミン相当量として示した。灰分量は乾式灰化法により定量した。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
実施例1ならびに比較例1および2の製造方法により得られたβ−キチン粉末の状態を観察し、外観および500μmメッシュの篩を通した際に篩上に残った残渣量を表3に示した。
【0041】
【表3】
【0042】
表1、2に示されるように、実施例1ならびに比較例1および2の製造方法により、残存タンパク質および残存灰分が1重量%以下に精製されたβ−キチンが得られた。しかし、表3に示されるように、実施例1の製造方法では、良好に粉砕されたβ−キチン粉末が得られ、そのほとんどが500μmの篩を通過し、篩上に残存する粉末はわずかであった。
これに対し、比較例1、2の製造方法では、β−キチンの粉砕は不十分であり、乾式粉砕後に、500μmの篩を通らない繊維状物が多く残存した。
【0043】
[実施例2]β−キチン粉末の製造
三陸産スルメイカ(Todarodes pacificus)から分別した中骨を軽く水切りし(湿重量=2.0kg)、下記(a)の工程を行い、蒸留水20Lで4回洗浄した後、下記(b)の工程を行って処理し、精製した。次いで、蒸留水20Lで4回洗浄後、下記(c)および(d)の工程を行って処理した。
(a)アルカリにより脱タンパク処理する工程:0.1M水酸化ナトリウム水溶液10Lに浸漬し、50℃で2時間ときどき撹拌しながら処理した。
(b)酸により脱灰処理する工程:0.1M塩酸水溶液10Lに浸漬し、25℃で16 時間静置して処理した。
(c)乾燥工程:温熱乾燥機にて65℃で16時間乾燥した。
(d)乾式粉砕工程:カッターミル粉砕機(「MF10.1ベーシック連続ミル/MF
10.1カッター式ヘッド」、IKA社製)にて室温で乾式粉砕した。
【0044】
[実施例3−1〜3−6]β−キチン粉末の製造
三陸産スルメイカ(Todarodes pacificus)から分別した中骨を軽く水切りし(湿重量
=2.0kg)、下記(a)の工程を行い、蒸留水20Lで4回洗浄した後、下記(b)の工程を行って処理し、精製した。次いで、蒸留水20Lで4回洗浄後、下記(c)および(d)の工程を行って処理した。
(a)アルカリにより脱タンパク処理する工程:2M水酸化ナトリウム水溶液10Lに浸漬し、50℃で2時間ときどき撹拌しながら処理した。
(b)酸により脱灰処理する工程:0.1M塩酸水溶液10Lに浸漬し、25℃で16時間静置して処理した。
(c)乾燥工程:温熱乾燥機にて65℃で16時間乾燥した。
(d)乾式粉砕工程:表4に示す粉砕機を用いて、それぞれ室温で乾式粉砕した。
【0045】
【表4】
【0046】
[実施例4]β−キチン粉末の製造
三陸産アカイカ(Ommastrephes bartramii (Lesueur))から分別した中骨を軽く水切りし(湿重量=2.0kg)、下記(a)の工程を行い、蒸留水20Lで4回洗浄した後、下記(b)の工程を行って処理し、精製した。次いで、蒸留水20Lで4回洗浄後、下記(c)および(d)の工程を行って処理した。
(a)アルカリにより脱タンパク処理する工程:1M水酸化ナトリウム水溶液10Lに浸漬し、90℃で1時間ときどき撹拌しながら処理した。
(b)酸により脱灰処理する工程:1M塩酸水溶液10Lに浸漬し、15℃で16時間静置して処理した。
(c)乾燥工程:温熱乾燥機にて65℃で16時間乾燥した。
(d)乾式粉砕工程:カッターミル粉砕機(「MF10.1ベーシック連続ミル/MF10.1カッター式ヘッド」、IKA社製)にて室温で乾式粉砕した。
【0047】
実施例2、実施例3−1〜3−5および実施例4の製造方法により得られたβ−キチン粉末について、残存タンパク質量、残存灰分量、平均粒子径、結晶化度およびN−アセチル化度を、それぞれ下記の方法により求め、表5に示した。なお、試薬として市販されているβ−キチン(生化学バイオビジネス株式会社製)、および東南アジア産イカの中骨より調製された市販のβ−キチン(ヤヱガキ醗酵技研株式会社製)をそれぞれ比較例3、4とした。
(1)残存タンパク質量:ローリー法により定量し、牛血清アルブミン相当量として示した。
(2)残存灰分量:乾式灰化法により定量した。
(3)平均粒子径:レーザー回折式粒度分布計(「Microtrac X100」、日機装株式会社製)により測定した。
(4)結晶化度:X線回折装置(「JDX−3530」、日本電子株式会社製)を用いてCuKα線によるX線回折を行い、下記(1)式により求めた。
【0048】
【数1】
【0049】
(5)N−アセチル化度:C/Nコーダー(DKSH社製)による定量的元素分析により求めた。
【0050】
【表5】
【0051】
本発明の製造方法により得られたβ−キチン粉末は、残存タンパク質量および残存灰分量はわずかで高度に精製されており、また、N−アセチル化度は0.9以上で、脱アセチル化はほとんど見られなかった(実施例2、3−1〜3−5、4)。
本発明の実施例3−2または3−3の製造方法では、(d)の工程にてハンマーミル粉砕機または転動ボールミル粉砕機を用いて乾式粉砕を行ったが、得られたβ−キチン粉末において平均粒子径の低下が見られ、特に実施例3−3の製造方法により、β−キチン粉末の平均粒子径および結晶化度の低下が見られた。
すなわち、本発明の製造方法において、乾式粉砕処理の種類によっては、結晶化度および平均粒子径の低下が見られ、解繊処理効率の点でより有利なβ−キチン粉末が得られることが示された。
【0052】
[実施例5]β−キチンナノファイバーの製造
実施例3−1の製造方法により得られたβ−キチン粉末を、「スターバースト」(株式会社スギノマシン製)にて、仕込み量(前記「スターバースト」に供する水分散液中のβ−キチン粉末添加濃度、以下同じ)=2重量%、室温で10回湿式解繊し、β−キチンナノファイバー分散液を得た。
【0053】
[実施例6]β−キチンナノファイバーの製造
実施例3−5の製造方法により得られたβ−キチン粉末を、「スターバースト」(株式会社スギノマシン製)にて、仕込み量=2重量%、室温で10回湿式解繊し、β−キチンナノファイバー分散液を得た。
【0054】
[実施例7]β−キチンナノファイバーの製造
実施例4の製造方法により得られたβ−キチン粉末を、「スターバースト」(株式会社スギノマシン製)にて、仕込み量=2重量%、室温で10回湿式解繊し、β−キチンナノファイバー分散液を得た。
【0055】
[実施例8]β−キチンナノファイバーの製造
実施例4の製造方法において、(d)の工程で使用したカッターミル粉砕機を対向気流乾式粉砕機(「ドライバースト」、株式会社スギノマシン製)に代えて調製したβ−キチン粉末を、「スターバースト」(株式会社スギノマシン製)にて、仕込み量=2重量%、室温で10回湿式解繊し、β−キチンナノファイバー分散液を得た。
【0056】
[比較例5]β−キチンナノファイバーの製造
比較例4のβ−キチン粉末を「スターバースト」(株式会社スギノマシン製)にて、仕込み量=2重量%、室温で10回湿式解繊し、β−キチンナノファイバー分散液を得た。
【0057】
実施例5の製造方法により得られたβ−キチンナノファイバー分散液について、走査型電子顕微鏡および透過型電子顕微鏡観察を行い、観察された画像を
図1および2に示した。各電子顕微鏡による観察は、以下の通り行った。同様に、比較例5により製造したβ−キチンナノファイバー分散液の走査型電子顕微鏡による観察結果(ただし、倍率=30000倍)を、
図3に示した。
(1)走査型電子顕微鏡観察
(i)使用機種:「JSM-7001F」(日本電子株式会社製)
(ii)試料の調製方法:実施例5および比較例5の製造方法により得られた各β−キチンナノファイバー分散液を遠心分離後、ペレットをt−ブチルアルコールに懸濁して超音波により分散し、再び遠心分離して上清を除去した。前記操作を数回繰り返した後、分散液を−80℃で凍結し、凍結乾燥を行った。前記凍結乾燥物に対して、オスミウムコーターにより、四酸化オスミウム膜(3nm)を試料表面に形成させ、観察用試料とした。
(iii)倍率:60000倍
(2)透過型電子顕微鏡観察
(i)使用機種:「JEM-2100」(日本電子株式会社製)
(ii)試料の調製方法:実施例5の製造方法により得られたβ−キチンナノファイバー分散液を水で0.02重量%に希釈懸濁後、適量をカーボン蒸着マイクログリッド上に点着し、1分後に余分な懸濁液を除去し、2重量%酢酸ウラニル水溶液により5分間染色して、観察用試料を調製した。
(iii)倍率:40000倍
【0058】
図1に示されるように、実施例5の製造方法により、β−キチンの繊維がほぼ完全に解繊されたナノファイバーが得られた。また、
図2から、実施例5の製造方法により得られたβ−キチンナノファイバーは、約5nmのほぼ均一なファイバー径と、1μm以上の長さを有し、ミクロフィブリル単位にまで均一に解繊されていることが認められた。
一方、
図3に示されるように、比較例5の製造方法により得られたβ−キチンナノファイバーについては、解繊が不十分であった。
【0059】
[実施例9−1、9−2、9−3]β−キチンナノファイバーの製造
三陸産スルメイカ(Todarodes pacificus)から分別した中骨を軽く水切りし(湿重量=2.0kg)、下記(b)の工程を行った後洗浄(蒸留水20Lで4回洗浄)し、下記(a)の工程を行い、次いで洗浄(蒸留水20Lで1回)し、再度下記(a)の工程を行って処理し、洗浄(蒸留水20Lで4回)した。次いで、下記(b)の工程を行って処理し、洗浄(蒸留水20Lで4回)後、下記(c)および(d)の工程を行って処理し、β−キチン粉末を得た。
(a)アルカリにより脱タンパク処理する工程:実施例1の製造方法における(a)の工程と同一の条件で行った。
(b)酸により脱灰処理する工程:実施例1の製造方法における(b)の工程と同一条件で行った。
(c)乾燥工程:温熱乾燥機にて65℃で16時間乾燥した。
(d)乾式粉砕工程:微細粉砕機(「サンプルミルTASM−1」、東京アトマイザー製造株式会社製)にて、室温で12時間行った。
次いで、得られたβ−キチン粉末を、「スターバースト」(株式会社スギノマシン製)にて、仕込み量=1重量%、室温で湿式解繊処理をそれぞれ2回、5回および10回繰り返し、β−キチンナノファイバー分散液を得た(実施例9−1、9−2および9−3)。
【0060】
[実施例10−1、10−2、10−3]β−キチンナノファイバーの製造
実施例1の製造方法により得られたβ−キチン粉末を、「スターバースト」(株式会社スギノマシン製)にて、仕込み量=1重量%、室温で湿式解繊処理をそれぞれ2回、5回および10回繰り返し、β−キチンナノファイバー分散液を得た(実施例10−1、10−2および10−3)。
【0061】
[比較例6−1、6−2、6−3]β−キチンナノファイバーの製造
比較例1の製造方法により得られたβ−キチン粉末を、「スターバースト」(株式会社スギノマシン製)にて、仕込み量=1重量%、室温で湿式解繊処理をそれぞれ2回、5回および10回繰り返し、β−キチンナノファイバー分散液を得た(比較例6−1、6−2および6−3)。
【0062】
[比較例7−1、7−2、7−3]β−キチンナノファイバーの製造
比較例2の製造方法により得られたβ−キチン粉末を、「スターバースト」(株式会社スギノマシン製)にて、仕込み量=1重量%、室温で湿式解繊処理をそれぞれ2回、5回および10回繰り返し、β−キチンナノファイバー分散液を得た(比較例7−1、7−2および7−3)。
【0063】
実施例9−1〜9−3および10−1〜10−3の各製造方法により得られたβ−キチンナノファイバー分散液、ならびに比較例6−1〜6−3、および7−1〜7−3の各製造方法により得られたβ−キチンナノファイバー分散液を約1重量%分散液となるように水で希釈したものについて、外観、β−キチン濃度および粘度を表6に示す。なお、β−キチンナノファイバー分散液のβ−キチン濃度は常圧加熱乾燥法により固形分量として定量し、粘度は、医薬部外品原料規格2006の「粘度測定法 第2法 回転粘度計法」に準拠し、B型回転粘度計「BROOKFIELD DIGITAL VISCOMETER MODEL DV−II」(ブルックフィールド社製)を用いて、25℃、1000mPa・s以下ではs62番スピンドル、1000mPa・s以上ではs64番スピンドル、回転数=50rpmの条件で測定した。
また、上記実施例および比較例の各製造方法により得られたβ−キチンナノファイバー分散液について、600nmの光の透過率を測定し、製造されたβ−キチンナノファイバーの平均分子量を測定した。
なお、600nmの光の透過率は、0.05重量%のβ−キチンナノファイバー分散液について、医薬部外品原料規格2006「紫外可視吸光度測定法」に準拠し、分光光度計(「紫外可視分光光度計V−630 BIO型」、日本分光株式会社製)にて、10mm石英セルを用いてイオン交換水を対照として測定し、平均分子量は、塩化リチウム/N,N−ジメチルアセトアミドを溶媒とし、ゲル浸透クロマトグラフィー−高速液体クロマトグラフィー(GPC−HPLC)法により、下記条件で測定し、標準試料プルランの検量線から得られる相対分子量(重量平均分子量)を解析ソフトにより算出して求めた。
<前処理手順>
β−キチンナノファイバー分散液を、乾燥重量で10mgから1mgになるようにバイアル瓶に秤量し、凍結乾燥機で24時間凍結乾燥した後、定温乾燥機にて105℃で1時間乾燥させた。前記のβ−キチンナノファイバー乾燥試料に対して、N,N−ジメチルアセトアミド(超脱水)を5mg/mLから0.5mg/mLになるように加えて、25℃、1000rpmで24時間振とうした後、塩化リチウムを5(w/v)%となるように加えて、さらに25℃、1000rpmで24時間振とうした。その溶液を孔径0.45μmのシリンジフィルターでろ過した後、GPC−HPLCで分析した。
<GPC分析条件>
カラム:Shodex GPC KD−806M(φ8mm×300mm)+KD−803(φ8mm×300mm )(ガードカラム:KD−G)
移動相:N,N−ジメチルアセトアミド(0.5(w/v)% 塩化リチウム含有)
測定温度:50 ℃
流速:0.5mL/min
注入量:50μL
試料濃度:0.5mg/mL〜5mg/mL
標準試料:プルラン(Shodex Pシリーズ)
<HPLC使用機器>
システムコントローラー;SHIMADZU SCL−10A VP
送液装置;SHIMADZU LC−20AT
脱気装置;SHIMADZU DGU−20A3R
オートサンプラー;SHIMADZU SIL−10AD VP
カラムオーブン;SHIMADZU CTO−10AS VP
検出器;示差屈折率計「Shodex RI−101」
データ処理ソフト;SHIMADZU LabSolutions GPC
β−キチンナノファイバーの0.05重量%分散液における600nmの光の透過率、および平均分子量の測定結果についても、表6に併せて示した。
【0064】
【表6】
【0065】
また、実施例10−1、3および比較例6−1、3の各製造方法により得られたβ−キチンナノファイバー分散液について、下記の通り、急速凍結ディープエッチ・レプリカ法を用い、高角度環状暗視野走査透過型電子顕微鏡による観察を行った。
(1)試料の調製方法:実施例10−1、3および比較例6−1、3の各製造方法により得られたβ−キチンナノファイバー分散液を、メタルコンタクト法で急速凍結した。すなわち、液体ヘリウムで冷却した純銅ブロックの表面に試料を接触させることで凍結し、凍結試料はレプリカ作製を行なうまで液体窒素中で保存した。凍結試料をフリーズフラクチャー装置(「BAF400D」、Balzers社製)の真空チャンバーに入れ、−85℃〜−90℃で凍結割断した後、同じ温度で10分間静置して割断表面を凍結乾燥させることによるエッチング処理を行なった。試料を回転させながら、試料の割断・エッチング表面に対して角度25度に設置した蒸着銃より白金/カーボンを6.5nmの厚さに蒸着してレプリカ膜を作製し(ロータリーシャドウイング法)、続いて角度90度の蒸着銃よりカーボンを27nmの厚さに蒸着してレプリカ膜を補強した。レプリカ膜で被覆された試料を室温の大気中に取り出し、ギ酸もしくはN,N−ジメチルアセトアミド/塩化リチウムに一晩浸すことによってβ−キチンナノファイバーを除去し、水で洗浄した後、白金/カーボン製のレプリカ膜のみを電子顕微鏡用グリッドの上に回収した。
(2)レプリカの観察:高角度環状暗視野走査透過型電子顕微鏡(「Tecnai G2 F20」、FEI社製、加速電圧200kV)を用いて行った。撮影の直接倍率は、56000倍および110000倍である。
実施例10−3および比較例6−3の各製造方法により得られたβ−キチンナノファイバー分散液について、エッチングが浅い場合の観察結果を
図4に、実施例10−1、10−3および比較例6−1、6−3の各製造方法により得られたβ−キチンナノファイバー分散液について、エッチングが深い場合の観察結果を
図5、6に示した。
【0066】
表6に示されるように、実施例9−1〜9−3および実施例10−1〜10−3の各製造方法により得られたβ−キチンナノファイバー分散液は、いずれも透明ゲル状で、0.05重量%分散液についての600nmの光の透過率は、いずれも70%を超えており、また、いずれも良好な増粘性を示した。
これに対し、比較例6−1〜6−3および比較例7−1〜7−3の各製造方法により得られたβ−キチンナノファイバー分散液は、いずれも白濁スラリー状であり、0.05重量%分散液についての600nmの光の透過率は、いずれも70%未満であった。また、実施例9−1〜9−3および実施例10−1〜10−3の各製造方法により得られたβ−キチンナノファイバー分散液と同程度のβ−キチン濃度を示すにもかかわらず、前記実施例の製造方法により得られたβ−キチンナノファイバー分散液に比べて低粘度であった。
【0067】
また、
図4〜6に示す急速ディープエッチ・レプリカ法で観察されるβ−キチンナノファイバーのレプリカの画像から、実施例10−1および10−3の各製造方法により得られたβ−キチンナノファイバーは、比較例6−1および6−3の各製造方法により得られたβ−キチンナノファイバーに比べて、著しく解繊が進んでいることが認められた。また湿式解繊処理を10回行った実施例10−3の製造方法により、湿式解繊処理を2回行った実施例10−1の製造方法に比べ、解繊が進行することが認められた。実施例10−1(湿式解繊処理2回)および実施例10−3(湿式解繊処理10回)の製造方法により得られたβ−キチンナノファイバーにより調製したレプリカの平均的なファイバー径は、10nm〜15nmの範囲にあることが認められた。急速ディープエッチ・レプリカ法で観察されるレプリカには平均6nmの白金蒸着がなされており、これからβ−キチンナノファイバーの実際のファイバー径は、十分に10nm以下であると推測される。
一方、比較例6−1および6−3の製造方法により得られたβ−キチンナノファイバー分散液では、ファイバー径が20nmを超えるものが多く、均一に解繊されていないことが認められた。
【0068】
[実施例11−1、11−2]β−キチンナノファイバーの製造
三陸産スルメイカ(Todarodes pacificus)から分別した中骨を軽く水切りし(湿重量=2.0kg)、そのまま下記(a)の工程に供し、蒸留水20Lで1回洗浄した後、再度(a)の工程を行って処理した。次いで蒸留水20Lで4回洗浄し、下記(b)(1)の工程を行って処理し、次いで蒸留水20Lで4回洗浄後、下記(b)(2)の工程を行って処理し、精製した。次いで、洗浄(蒸留水20Lで4回)後、(c)および(d)の工程を行って処理した。
(a)アルカリにより脱タンパク処理する工程:1M水酸化ナトリウム水溶液10Lを加え、92℃〜93℃(緩やかな沸騰状態)で、ときどき撹拌しながら2時間加熱した。
(b)(1)酸により脱灰処理する工程:0.1M塩酸水溶液10Lを加え、室温で25時間静置した。
(b)(2)酸により脱灰処理する工程:3M塩酸水溶液10Lを加え、室温で3時間(実施例11−1)または48時間(実施例11−2)静置した。
(c)乾燥工程:温熱乾燥機にて、65℃で16時間乾燥した。
(d)乾式粉砕工程:微細粉砕機(「サンプルミルTASM−1」、東京アトマイザー製造株式会社製)にて、室温で12時間行った。
次いで、得られた各β−キチン粉末を、「スターバースト」(株式会社スギノマシン製)にて、仕込み量=1重量%、室温でそれぞれ湿式解繊処理を10回繰り返し、β−キチンナノファイバー分散液を得た。
【0069】
[実施例12−1、12−2]β−キチンナノファイバーの製造
三陸産スルメイカ(Todarodes pacificus)から分別した中骨を軽く水切りし(湿重量=2.0kg)、そのまま下記(a)の工程に供し、蒸留水20Lで1回洗浄した後、再度(a)の工程を行って処理した。次いで蒸留水20Lで4回洗浄し、下記(b)(1)の工程を行って処理し、次いで蒸留水20Lで4回洗浄後、下記(b)(2)の工程を行って処理し、精製した。次いで、洗浄(蒸留水20Lで4回)後、(c)および(d)の工程を行って処理した。
(a)アルカリにより脱タンパク処理する工程:1M水酸化ナトリウム水溶液10Lを加え、92℃〜93℃(緩やかな沸騰状態)で、ときどき撹拌しながら2時間加熱した。
(b)(1)酸により脱灰処理する工程:0.1M塩酸水溶液10Lを加え、15℃で25時間静置した。
(b)(2)酸により脱灰処理する工程:6M塩酸水溶液10Lを加え、室温で3時間(実施例12−1)または48時間(実施例12−2)静置した。
(c)乾燥工程:温熱乾燥機にて、65℃で16時間乾燥した。
(d)乾式粉砕工程:微細粉砕機(「サンプルミルTASM−1」、東京アトマイザー製造株式会社製)にて、室温で12時間行った。
次いで、得られた各β−キチン粉末を、「スターバースト」(株式会社スギノマシン製)にて、仕込み量=1重量%、室温でそれぞれ湿式解繊処理を10回繰り返し、β−キチンナノファイバー分散液を得た。
【0070】
実施例11−1、11−2および12−1、12−2の各製造方法により得られたβ−キチンナノファイバー分散液を約1重量%分散液となるように水で希釈したものについて、外観、β−キチン濃度および粘度を表7に示す。なお、β−キチンナノファイバー分散液のβ−キチン濃度は常圧加熱乾燥法により固形分量として定量し、粘度は、医薬部外品原料規格2006の「粘度測定法 第2法 回転粘度計法」に準拠し、B型回転粘度計「BROOKFIELD DIGITAL VISCOMETER MODEL DV−II」(ブルックフィールド社製)を用いて、25℃、s64番スピンドル、回転数=50rpmの条件で測定した。
また、上記実施例の製造方法により得られたβ−キチンナノファイバー分散液について、600nmの光の透過率を測定し、製造されたβ−キチンナノファイバーの平均分子量を測定した。
なお、600nmの光の透過率は、0.05重量%のβ−キチンナノファイバー分散液について、医薬部外品原料規格2006「紫外可視吸光度測定法」に準拠し、分光光度計(「紫外可視分光光度計V−630 BIO型」、日本分光株式会社製)にて、10mm石英セルを用いてイオン交換水を対照として測定した。平均分子量は、上記と同様に、GPC−HPLC法により測定した。
β−キチンナノファイバーの0.05重量%分散液における600nmの光の透過率、および平均分子量の測定結果についても、表7に併せて示した。
【0071】
【表7】
【0072】
表7に示されるように、実施例11−1、11−2および12−1、12−2の各製造方法で得られたβ−キチンナノファイバーは、94kDa〜659kDaと、いずれも比較的低分子量を示した。これら各β−キチンナノファイバーの約1重量%分散液は、いずれも透明ゲル状で、0.05重量%分散液についての600nmの光の透過率は、87.8%〜98.9%と、高い透明性を示した。また、β−キチンナノファイバー分散液におけるβ−キチン濃度を定量したところ、0.79重量%〜0.84重量%であり、前記分散液は、1000mPa・s〜3000mPa・sを超える程度の粘度を示した。
なお、表6に示す実施例9−3および10−3の粘度および平均分子量の測定結果と、表7に示す粘度および平均分子量の測定結果から、平均分子量と粘度の関係を
図7に示した。
図7より、平均分子量が低下すると粘度も低下する傾向が見られた。