【実施例】
【0048】
ここでは,実施例を用いて,本発明のナトリウム排出用食品組成物についてさらに詳述するが,本発明の内容を実施例に限定して解釈すべきでないことはいうまでもない。
【0049】
<<実験1,各サンプルを用いた塩化ナトリウム吸着実験>>
各サンプルについて,スクリーニング的に,塩化ナトリウムに対する吸着能を調べることを目的に検討を行った。
【0050】
<実験方法>
1.遠沈管に1%塩化ナトリウム溶液を分注した。この遠沈管1本に対し,各サンプルを加えて混和し,10分間以上,室温にて静置した。
2.コンパクト塩分計(HORIBA Scientific,型式B-721)にて,遠沈管内溶液のナトリウム濃度の測定を行った。
3.また,コントロールとして,サンプルを加えず同様の操作で測定を行った。このコントロールにおけるナトリウム濃度測定値を100%として,各サンプルにおける吸着能の評価を行った。すなわち,値が小さければ小さいほど,水溶液中に遊離するナトリウムの濃度が低く,サンプルへのナトリウム吸着能が大きいことを示している。
4.なお,コントロールを含むすべてのサンプルについて,n=3で検討を行った。
【0051】
1.結果を表1に示す。
(1) 検討を行ったサンプルのうち,複数のサンプルで100%に満たない値を示した。
(2) 特に,実験例1(PAL),実験例4(GEG),実験例16(CAL),実験例17(AAL)は,90%に満たない値であり,優れた吸着能を示した。
(3) この中でも,実験例17のアルギン酸アンモニウムは,特に優れた吸着能を示した。なお,このアルギン酸アンモニウムについては,推定分子量が10万から900万,20℃における1%(w/v)濃度溶液の粘度が300から400mPa・sのものを用いた。
2.これらの結果より,以降の検討では,実験例1,実験例4,実験例16,実験例17について,詳細に検討を行うこととした。
【0052】
【表1】
【0053】
<<実験2,サンプル濃度の検討>>
実験1の検討より,吸着能に優れると思われるサンプルが見い出されたことから,これらについて,濃度をふってさらに検討を行った。
【0054】
<実験方法>
1.実験1と同様の手法により行った。
2.なお,遠沈管に添加するサンプルについては,1/2倍,1倍,2倍,4倍量とし,この際,溶液粘度が高すぎるものについては除外した。
【0055】
<実験結果>
1.結果を,表2に示す。
2.すべてのサンプルで,サンプル濃度依存的に,遊離塩化ナトリウム濃度は減少していた。
3.これより,すべてのサンプルにおいて,濃度依存的にナトリウムを吸着しているものと考えられた。
4.この中でも,アルギン酸アンモニウムは,特に優れた吸着能を示した。加えて,PALやGEGにおいては高濃度になると溶液粘度が高くなりすぎる一方,アルギン酸アンモニウムやアルギン酸カルシウムは溶液粘度の観点からそのような現象はおこらず,取扱性に優れることが分かった。
【0056】
【表2】
【0057】
<<実験3.pHによる測定値の比較>>
各サンプルについて,消化管におけるナトリウム吸着を想定し,pHをふって検討を行った。
【0058】
<実験方法>
1.実験1と同様の手法で行い,サンプルについては,1倍量にて検討を行った。
2.なお,1%塩化ナトリウム溶液については,pH未調整のもの(pH6.8)に加え,胃内を想定するとともに測定機器の測定限界であるpH3.0のものを用いて検討を行った。pHの調整については,1N塩酸を用いた。
3.また,測定については,ナトリウム濃度に加え,カリウム濃度を,コンパクトカリウム計(HORIBA Scientific, 型式B731)にて測定を行った。
【0059】
<実験結果>
1.ナトリウム濃度の測定結果を表3の左に示す。
(1) いずれのサンプルにおいても,pH3.0における検討において,遊離ナトリウム濃度が高い値を示した。
(2) この中で,AALについてはほとんど変わらない値を示した。
2.カリウム濃度の測定結果を表3の右に示す。
(1) PAL,GEGについてカリウム濃度の大きな増加がみられた。これらについては,サンプルそのものがカリウム塩として構成されていることから,ナトリウムと置換することにより,カリウムが遊離したものと考えられた。
(2) AALについて,カリウム濃度の若干の増加がみられた。これについては,サンプル中に不純物としてカリウムが含まれていることが要因と思われた。
(3) CALでは,カリウム濃度の増加は見られなかった。
3.これらの結果から,アルギン酸アンモニウムは,酸性条件においても優れたナトリウム吸着能を保持していることが分かった。加えて,アルギン酸アンモニウムならびにアルギン酸カルシウムでは,他のサンプルと比較して,遊離カリウム濃度が低いことが分かった。
【0060】
【表3】
【0061】
<<実験4.塩分吸着能の検討>>
各サンプルについて,インビボにおいての効果を確認すべく,検討を行った。
【0062】
<実験方法>
1.マウスに,各サンプル,塩化ナトリウムの順で,経口投与を行った。
2.上記サンプル等の投与前,投与後1時間,2時間において,それぞれマウス眼窩静脈から採血を行った。
3.採血した血液について遠心分離を行い,血漿成分のナトリウム濃度ならびにカリウム濃度の測定を行った。
【0063】
<実験結果>
1.サンプル間で比較したナトリウム濃度ならびに抑制率の結果を表4に示す。なお,抑制率については,各時間点のコントロールにおけるナトリウム濃度増加分を100%としてこれをどれだけ抑制したの観点から,下記式(数1)に従い,算出した。
【0064】
【数1】
【0065】
(1) コントロールにおいて,投与後1時間において,血漿中ナトリウム濃度が0.90%まであがり,投与後2時間においては,0.78%とやや下がった値であったが,投与前よりも高い値に落ち着いていた。
(2) PALでは,投与後1時間において血漿中ナトリウム濃度が0.87%,投与後2時間で0.74%と,コントロールと比較して低い値であった。また,抑制率では,投与後1時間において11.1%,投与後2時間において26.67%であった。
(3) CALでは,投与後1時間において血漿中ナトリウム濃度が0.79%,投与後2時間で0.67%と,コントロールと比較して大きく低下していた。また,抑制率では,投与後1時間において40.74%,投与後2時間において73.33%と大きな値を示した。
(4) AALでは,投与後1時間において血漿中ナトリウム濃度が0.77%,投与後2時間で0.68%と,コントロールと比較して大きく低下していた。また,抑制率では,投与後1時間において48.15%,投与後2時間において66.67%と大きな値を示した。
2.これらの結果から,いずれのサンプルにおいてもインビボにおける血漿中ナトリウム濃度の上昇抑制効果が確認された。その中においても,CALならびにAALでは,極めて優れたナトリウムの排出効果が確認された。また,AALは,CALの半分の投与量でCALと同等の効果を示したことから,血漿中ナトリウム濃度の上昇抑制効果に最も優れることが確認された。
【0066】
【表4】
【0067】
3.カリウム濃度測定結果を表5に示す。
(1) コントロールにおいて,投与後1時間において,血漿中ナトリウム濃度が213ppmまであがり,投与後2時間においては,195ppmとやや下がった値であったが,投与前よりも高い値に落ち着いていた。
(2) PALでは,投与後1時間で200ppm,投与後2時間で270ppmと経時的に増加していった。これは,PALのカリウムがナトリウムと置換することにより放出され,消化管より吸収された影響と考えられる。
(3) CALでは,投与後1時間で183ppm,投与後2時間で173ppmと,コントロールと比較して低下していた。
(4) AALでは,投与後1時間で170ppm,投与後2時間で198ppmと,コントロールと比較して低下していた。
4.これらの結果から,PALでは血漿中カリウム濃度上昇の影響が大きくみられる一方,CALならびにAALでは,血漿中におけるカリウム濃度増加の影響はほとんどないといえる。
【0068】
【表5】
【0069】
5.アルギン酸アンモニウムにおいて,投与濃度を振って検討した結果を表5に示す。
(1) いずれの投与量においても,投与後15分から,コントロールと比較して低い血漿中ナトリウム濃度を示し,その傾向は,投与後1時間,投与後2時間においても確認された。
(2) また,投与量が増えるほど血漿中ナトリウム濃度が低い傾向にあり,濃度依存的に血漿中ナトリウム濃度を抑制することが分かった。
【0070】
【表6】
【0071】
6.アルギン酸カルシウムにおいて,投与濃度を振って検討した結果を表6に示す。本検討においてはコントロールの検討を行っていないが,投与量が増えるほど血漿中ナトリウム濃度が低い傾向にあり,濃度依存的に血漿中ナトリウム濃度を抑制すると考えられた。
【0072】
【表7】
【0073】
<<実験5.試作例を用いたインビトロにおける検討>>
これまでの結果から,アルギン酸アンモニウムならびにアルギン酸カルシウムを有効成分とした試作例を作製し,その効果を調べた。
【0074】
<実験方法>
検討を行った各試作例について,実験3の方法に準じて,検討を行った。
【0075】
1.アルギン酸アンモニウム,アルギン酸カルシウム,オニオンパウダー(賦形剤)を有効成分とした試作例を用いて検討を行った結果を表8に示す。なお,各試作例について,有効成分濃度を1倍量として検討を行った。
2.全ての試作例において,遊離塩化ナトリウム濃度ならびに遊離カリウム濃度は低下していた。
3.これらのうち,溶液粘度を考慮して,試作例2,試作例5,試作例9の成分組成をより有用性の高い組成と判断し,以降の検討を行った。
【0076】
【表8】
【0077】
4.試作例2,試作例5,試作例9の成分組成に準じた試作例について,成分濃度をふって検討を行った結果を表7に示す。
5.全ての試作例について,遊離ナトリウム濃度は低下していた。一方,遊離カリウム濃度については,試作例16ならびに試作例19を除き,低下していた。
6.これらのうち,溶液粘度を考慮すると,試作例14,試作例15,試作例17,試作例20,試作例21が,より優れた効果を発揮するものと考えられた。
【0078】
【表9】
【0079】
7.賦形剤として,オリーブパウダーを用いて検討を行った結果を表10に示す。なお,各試作例について,有効成分濃度を1倍量として検討を行った。
8.全ての試作例で,遊離ナトリウム濃度は低下していた。
9.一方,遊離カリウム濃度は,試作例25を除き,増加していた。
(1) 試作例23から試作例25については,試作例15,試作例18,試作例21と同様の検討であり,異なるのは,賦形剤成分のみである。
(2) 試作例23等については,いずれも試作例15等と比較して,遊離カリウム濃度が高かったことから,オリーブパウダー由来のカリウムであるものと思われた。
【0080】
【表10】
【0081】
<<実験6.試作例を用いたインビボにおける検討>>
これまでの結果から,試作例2,試作例5,試作例9が排塩剤としてより有用と判断し,これらの組成成分を持った試作例を用いて,インビボにおける検討を行った。
【0082】
<実験方法>
実験4に準じて,検討を行った。
【0083】
<実験結果>
1.ナトリウム濃度測定の結果を表11に示す。
(1) コントロールにおいて,投与後1時間において,血漿中ナトリウム濃度が0.86%まであがり,投与後2時間においては,0.72%とやや下がった値であったが,投与前よりも高い値に落ち着いていた。
(2) 試作例26では,投与後1時間において血漿中ナトリウム濃度が0.81%,投与後2時間で0.74%と,コントロールと比較してやや低い値であった。
(3) 試作例27では,投与後1時間において血漿中ナトリウム濃度が0.76%,投与後2時間で0.67%と,コントロールと比較して低下していた。
(4) 試作例28では,投与後1時間において血漿中ナトリウム濃度が0.78%,投与後2時間で0.67%と,コントロールと比較して低下していた。
【0084】
【表11】
【0085】
3.カリウム濃度測定結果を表12に示す。
(1) コントロールにおいて,投与後1時間において,血漿中ナトリウム濃度が230ppmまであがり,投与後2時間においては,180ppmとやや下がった値であったが,投与前よりも高い値に落ち着いていた。
(2) 試作例26では,投与後1時間で165ppm,投与後2時間で240ppmと経時的に増加していった。
(3) 試作例27では,投与後1時間で200ppm,投与後2時間で200ppmと,コントロールと比較すると,より低い傾向であった。
(4) 試作例28では,投与後1時間で190ppm,投与後2時間で210ppmと,経時的に増加していた。
【0086】
【表12】
【0087】
実施例より本発明のナトリウム排出用食品組成物は,アルギン酸塩(ナトリウム塩を除く)を有効成分とする排塩組成物であり,特に好ましい構成として,アルギン酸アンモニウム塩を20〜70%,アルギン酸カルシウム塩を20〜70%の重量比率で含むとともに,賦形剤として野菜パウダー又はハーブパウダーを用いる構成とすることが考えられる。これにより,優れたナトリウム吸着能を発揮するとともに,血中カリウム濃度の上昇を防ぐことが可能となると考えられる。
【0088】
<<実験7.飲料を用いた検討>>
アルギン酸アンモニウムとアルギン酸カルシウムを用いた試作例を飲料に用いて,どの程度の塩分濃度抑制がみられるかを調べるため,検討を行った。
【0089】
<実験方法>
1.実験1と同様の手法により行った。
2.なお,用いる試作例については,飲料中における最終濃度を50mg/mLとした(原料飲料中のサンプル含有比率としては,およそ5%程度)。
【0090】
<実験結果>
1.結果を表13ならびに表14に示す。表中,NCはネガティブコントロールとして飲料原液を,PCはポジティブコントロールとして飲料原液に塩化ナトリウムを1%(w/v)添加したものを示す。また,抑制率については,NCと比較した場合のPCにおけるナトリウム濃度増加分を100%として,これをどれだけ抑制したの観点から,下記式(数2)に従い,算出した。
【0091】
【数2】
【0092】
(1) 全ての検討において,試作例の添加により塩分濃度が低下していた。
(2) また,一部例外はあるものの,検討を行ったほとんどにおいても,アルギン酸アンモニウムの比率が増加するにつれ,塩分濃度が低下する傾向であった。
(3) 抑制率を見てみると,全ての飲料で,少なくとも30%を越える抑制率を示すサンプルが確認された。また,No3,6,9,12,13,15においては抑制率が40%を越え優れた抑制効果を示すサンプルが確認された。さらにNo1,12においては抑制率が50%以上と,顕著な抑制効果を示すサンプルが確認された。
【0093】
【表13】
【表14】
【0094】
2.カリウム濃度の測定結果を表15に示す。
(1) もともとカリウム含有量が極めて低い飲料(No9,10,11,14)については,サンプルの添加により,カリウム濃度がわずかではあるが増加ないしはほぼ同じ濃度を維持していた。
(2) 一方,カリウム含有量が比較的高いと思われる飲料については,サンプルの添加により,カリウム濃度が減少していた。すなわち,これらの飲料については,ナトリウムの抑制のみならず,カリウムについても抑制効果があることが分かった。
【0095】
【表15】
【0096】
3.一部の飲料において,塩化ナトリウムとサンプル(被験物質)の添加の順番を変えて検討した結果を表16,表17に示す。いずれの飲料においても,添加の順番により,塩分濃度ならびにカリウム濃度の結果に変化はなかった。
【0097】
【表16】
【表17】