(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6497771
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】チルトヒンジ及び電子機器
(51)【国際特許分類】
F16C 11/10 20060101AFI20190401BHJP
F16C 11/04 20060101ALI20190401BHJP
G06F 1/16 20060101ALI20190401BHJP
H05K 5/02 20060101ALI20190401BHJP
【FI】
F16C11/10 D
F16C11/04 F
G06F1/16 312J
H05K5/02 V
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-31007(P2015-31007)
(22)【出願日】2015年2月19日
(65)【公開番号】特開2016-151355(P2016-151355A)
(43)【公開日】2016年8月22日
【審査請求日】2018年2月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】513014628
【氏名又は名称】株式会社ナチュラレーザ・ワン
(74)【代理人】
【識別番号】100076831
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 捷雄
(72)【発明者】
【氏名】加藤 秀夫
【審査官】
岡澤 洋
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−197908(JP,A)
【文献】
特開平11−214860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 11/10
F16C 11/04
G06F 1/16
H05K 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子機器の第1筐体と第2筐体をヒンジシャフトを介して互いに開閉可能に連結させると共に、フリクション機構とカム機構と弾性手段を用いて前記第1筐体と第2筐体の相対的な開閉動作を制御するチルトヒンジにおいて、前記カム機構を構成するカムフォロワーに隣接してガタ防止用ワッシャーを設け、このガタ防止用ワッシャーへ前記ヒンジシャフトを当該ガタ防止用ワッシャーの軸方向の移動を阻害しない程度に圧入させた状態で前記カムフォロワーへ圧接させて成ることを特徴とする、チルトヒンジ。
【請求項2】
前記チルトヒンジは、第1筐体側へ取り付けられる取付部材と、第2筐体側へ取り付けられる支持部材と、前記取付部材側に固定され前記支持部材を回転可能に支持するヒンジシャフトと、このヒンジシャフトと前記支持部材との間に設けられたフリクション機構とカム機構と弾性手段を有するものと成すと共に、前記カム機構を、前記支持部材に固定され前記ヒンジシャフトに前記支持部材と共に回転可能に取り付けられたところの一面にカム面を有する回転カムプレートと、この回転カムプレートのカム面と対向する側にカム面を有し前記ヒンジシャフトに固定されて設けられたカムフォロワーとで構成し、このカムフォロワーと前記弾性手段との間に前記ガタ防止用ワッシャーを設けたことを特徴とする、請求項1に記載のチルトヒンジ。
【請求項3】
前記チルトヒンジは、第1筐体側へ取り付けられる取付部材と、第2筐体側へ取り付けられる支持部材と、この支持部材を取り付け前記取付部材側に対して回転可能に取り付けられたヒンジシャフトと、このヒンジシャフトと前記取付部材との間に設けられたフリクション機構とカム機構と弾性手段を有するものと成すと共に、前記カム機構を、前記取付部材に固定されたところの一面にカム面を有する固定カムプレートと、この固定カムプレートと対向する側にカム面を有し前記ヒンジシャフトに共に回転可能かつ軸方向へ移動可能に取り付けられたカムフォロワーとで構成し、このカムフォロワーと前記弾性手段との間に前記ガタ防止用ワッシャーを設けたことを特徴とする、請求項1に記載のチルトヒンジ。
【請求項4】
前記支持部材側に設けられる回転カムプレートは、これを省略して前記支持部材に一体にカム部を設けたことを特徴とする、請求項2に記載のチルトヒンジ。
【請求項5】
前記取付部材側に設けられる固定カムプレートは、これを省略して前記取付部材に一体にカム部を設けたことを特徴とする、請求項3に記載のチルトヒンジ。
【請求項6】
前記ガタ防止用ワッシャーの変形挿通孔は、その内周面の全面が前記ヒンジシャフトの変形部の外周面と当該ガタ防止用ワッシャーの軸方向の移動を阻害しない程度に圧入させた状態で圧接されるように構成されたことを特徴とする、請求項1に記載のチルトヒンジ。
【請求項7】
前記ガタ防止用ワッシャーの変形挿通孔は、その内周面に複数本の軸方向に沿った凸条部を設けたものとし、この凸条部が前記ヒンジシャフトの外周面と当該ガタ防止用ワッシャーの軸方向の移動を阻害しない程度に圧入させた状態で圧接されるように構成されたことを特徴とする、請求項1に記載のチルトヒンジ。
【請求項8】
前記ガタ防止用ワッシャーの変形挿通孔は、当該変形挿通孔の片側或は両側にテーパー部が設けられ、その内径の細い部分において前記ヒンジシャフトの外周面と当該ガタ防止用ワッシャーの軸方向の移動を阻害しない程度に圧入された状態で圧接されるように構成されたことを特徴とする、請求項1に記載のチルトヒンジ。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のチルトヒンジを備えたことを特徴とする、電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノート型パソコン等のような小型の電子機器の機器本体を構成する第1筐体とディスプレイ装置を構成する第2筐体の開閉用に用いて好適なチルトヒンジ及びそのチルトヒンジを備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
ノート型パソコン、携帯電話機、カーナビゲーション装置等の小型の電子機器では、機器本体を構成する第1筐体に開閉装置を介してディスプレイ装置を構成する第2筐体が開閉装置を介して相対的に開閉可能に取り付けられている。この開閉装置としては、第1筐体に対して第2筐体をフリクション機構を介して任意の角度で停止保持できた上で、さらに所定の開閉角度でクリック停止できるようにするためにカム機構を設けたチルトヒンジが公知である。
【0003】
この種のチルトヒンジとしては、例えば下記特許文献1に記載のもののように、第1筐体に対する第2筐体の任意の開閉角度において、第2筐体を停止保持し得るフリクション機構を備え、さらにカム機構と、フリクション機構とカム機構に作用する弾性手段とを備えることにより、第1筐体に対して第2筐体をフリーストップに停止保持させ、かつ所定開閉角度において、自動的に開閉されてクリック停止できるように構成した、いわゆる吸込み機能を有するチルトヒンジが公知であり、そのようなカム機構を有するチルトヒンジも今日広く利用されている。
【0004】
しかしながら、そのようなカム機構を備えたチルトヒンジにおいては、カム機構を構成するヒンジシャフトの外径寸法やこのヒンジシャフトを通すカムフォロワーの挿通孔の内径寸法のバラツキにより、カムフォロワーに回転ガタを生じ、第1筐体と第2筐体の開閉操作に伴う前記カムフォロワーの、とくに回転方向の変換時に、寸法誤差からくるガタによって反転し、互いに対向して噛み合ったカム部の凹凸同士が勢いよくぶつかり合うことで、衝撃音を発生し、快適な使用感が得られないという問題があった。
【0005】
これを解決するためには、とくにヒンジシャフトの外形寸法やヒンジシャフトを挿通させる変形挿通孔の内径寸法の精度を高めればよいが、この種のチルトヒンジのカム機構を構成するカムフォロワーやヒンジシャフトは、一般に高硬度の金属材料で作製され、焼き入れ焼き戻し作業を行うため、そのヒンジシャフトの外径寸法や変形挿通孔の内径寸法を高精度に仕上げることが難しく、そのためにはコストが掛かり、また、寸法検査、良否選別、音確認など、組立工程数が増加することもコスト増加につながるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−211629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、カムフォロワーの変形挿通孔やこの寸法変形や挿通孔へ挿入させるヒンジシャフトの外径寸法のバラツキによって生じるカムフォロワーの回転ガタによる雑音の発生を、簡便な手段によって解消できるチルトヒンジ及びそのチルトヒンジを備えた電子機器を提供せんとするにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、本発明は、電子機器の第1筐体と第2筐体をヒンジシャフトを介して互いに開閉可能に連結させると共に、フリクション機構とカム機構と弾性手段を用いて前記第1筐体と第2筐体の相対的な開閉動作を制御するチルトヒンジにおいて、前記カム機構を構成するカムフォロワーに隣接してガタ防止用ワッシャーを設け、このガタ防止用ワッシャーへ前記ヒンジシャフトを当該ガタ防止用ワッシャーの軸方向の移動を阻害しない程度に圧入させた状態で前記カムフォロワーへ圧接させて成ることを特徴とする。
【0009】
その際に本発明は、前記チルトヒンジを、第1筐体側へ取り付けられる取付部材と、第2筐体側へ取り付けられる支持部材と、前記取付部材側に固定され前記支持部材を回転可能に支持するヒンジシャフトと、このヒンジシャフトと前記支持部材との間に設けられたフリクション機構とカム機構と弾性手段を有するものと成すと共に、前記カム機構を、前記支持部材に固定され前記ヒンジシャフトに前記支持部材と共に回転可能に取り付けられたところの一面にカム面を有する回転カムプレートと、この回転カムプレートのカム面と対向する側にカム面を有し前記ヒンジシャフトに固定されて設けられたカムフォロワーとで構成し、このカムフォロワーと前記弾性手段との間に前記ガタ防止用ワッシャーを設けたことを特徴とする。
【0010】
さらに本発明は、前記チルトヒンジを、第1筐体側へ取り付けられる取付部材と、第2筐体側へ取り付けられる支持部材と、この支持部材を取り付け前記取付部材側に対して回転可能に取り付けられたヒンジシャフトと、このヒンジシャフトと前記取付部材との間に設けられたフリクション機構とカム機構と弾性手段を有するものと成すと共に、前記カム機構を、前記取付部材に固定されたところの一面にカム面を有する固定カムプレートと、この固定カムプレートと対向する側にカム面を有し前記ヒンジシャフトに共に回転可能かつ軸方向へ移動可能に取り付けられたカムフォロワーとで構成し、このカムフォロワーと前記弾性手段との間に前記ガタ防止用ワッシャーを設けたことを特徴とする。
【0011】
前記支持部材側に設けられる回転カムプレートは、これを省略して前記支持部材に一体にカム部を設けたことを特徴とする。
【0012】
前記取付部材側に設けられる固定カムプレートは、これを省略して前記取付部材に一体にカム部を設けたことを特徴とする。
【0013】
本発明はさらに、前記ガタ防止用ワッシャーの変形挿通孔は、その内周面の全面が前記ヒンジシャフトの変形部の外周面と当該ガタ防止用ワッシャーの軸方向の移動を阻害しない程度に圧入させた状態で圧接されるように構成されたことを特徴とする。
【0014】
本発明はさらに、前記ガタ防止用ワッシャーの変形挿通孔は、その内周面に複数本の軸方向に沿った凸条部を設けたものとし、この
凸条部が前記ヒンジシャフトの外周面と当該ガタ防止用ワッシャーの軸方向の移動を阻害しない程度に圧入させた状態で圧接されるように構成されたことを特徴とする。
【0015】
本発明はさらに、前記ガタ防止用ワッシャーの変形挿通孔は、当該変形挿通孔の片側或は両側にテーパー部が設けられ、その内径の細い部分において前記ヒンジシャフトの外周面と当該ガタ防止用ワッシャーの軸方向の移動を阻害しない程度に圧入された状態で圧接されるように構成されたことを特徴とする。
【0016】
そして本発明は、前記チルトヒンジを備えたことを特徴とする電子機器であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るチルトヒンジにおいては、上記のように、前記カム機構を構成するカムフォロワーに隣接してガタ防止用ワッシャーを設け、このガタ防止用ワッシャーへヒンジシャフトを当該ガタ防止用ワッシャーの軸方向に移動を阻害しない程度に圧入させた状態で前記カムフォロワーへ圧接させるように構成したため、このガタ防止用ワッシャーがカムフォロワーに圧接されることによりカムフォロワーの回転ガタが抑制され、これによって、カム機構からの雑音の発生が解消される。つまり、カムフォロワーにはこのガタ防止用ワッシャーが圧接されるため、カムフォロワーとヒンジシャフト間に多少の回転ガタがあったとしても、例えばカム機構の回転時におけるカムフォロワーの反転は、これに圧接されたガタ防止用ワッシャーとの摩擦抵抗によって低減もしくは制限され、雑音の発生が防止される。また、ガタ防止用ワッシャーは比較的薄い部材で良いため、寸法コントロールが容易である。
【0018】
以上のことから、本発明のチルトヒンジでは、前記ガタ防止用ワッシャーという部品を1個追加する必要はあっても、それを上回る工程数削減効果によるコストダウンや構造的安定性を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係る電子機器の一例を示し、(a)は第1筐体と第2筐体を開いて前方から見た斜視図、(b)は第1筐体と第2筐体を互いに閉じて後方から見た斜視図である。
【
図2】本発明に係るチルトヒンジを電子機器に取り付けた状態の一例を示す図である。
【
図3】本発明に係るチルトヒンジの一実施例の外観斜視図である。
【
図4】
図3に示したチルトヒンジの分解斜視図である。
【
図5】
図3に示したチルトヒンジを
図4とは異なる方向から見た分解斜視図である。
【
図6】
図4及び
図5に示したチルトヒンジにおけるヒンジシャフトを示す図で、(a)は斜視図、(b)は平面図、(c)は正面図、(d)は右側面図である。
【
図7】本発明に係るチルトヒンジで用いられるガタ防止用ワッシャーの拡大斜視図である。
【
図8】本発明に係るガタ防止用ワッシャーの他の実施例を示す拡大斜視図である。
【
図9】本発明に係るガタ防止用ワッシャーのさらに他の実施例を示し、(a)は拡大斜視図、(b)はその縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のチルトヒンジ並びにこのチルトヒンジを備えた電子機器の実施例を添付図面に基づいて詳述する。
【0021】
図1(a)、(b)において、指示記号20で示されたものは、例えばノートパソコンのような電子機器であり、この電子機器20の第1筐体21は、例えば、キーボード21a等を上面に有している。電子機器20が図示するようなノート型パソコンである場合には、第1筐体21は、キーボード21aの他にマザーボード、ハードディスクドライブ等を有している機器本体である。第2筐体22は、例えば、LCDなどのディスプレイ22aを有している。第1筐体21及び第2筐体22は、例えば、略同じ略矩形状にそれぞれ形成されている。これらの第1筐体21と第2筐体22はチルトヒンジ1、1を介して相対的に開閉可能に連結されて電子機器20が構成されている。チルトヒンジ1、1の個数は、電子機器に応じて任意に決められるが、図示例では2個である。尚、これらのチルトヒンジ1、1の構成は同じであるので、以下その一つについてのみ説明する。
【実施例1】
【0022】
本発明のチルトヒンジ1は、
図2〜
図7に示す実施例において、取付部材2と、ヒンジシャフト3と、支持部材4と、フリクション機構13と、カム機構7と、弾性手段11と、ガタ防止用ワッシャー10と、で構成されている。ここで、本発明の特徴は、カム機構7のカムフォロワー9に隣接してガタ防止用ワッシャー10を設け、このガタ防止用ワッシャー10へヒンジシャフト3を当該カムフォロワー9の軸方向の移動を阻害しない範囲で圧入させた状態で前記カムフォロワー9へ圧接させるように成したことである。
【0023】
より具体的には、前記取付部材2は、
図2において想像線で示した例えばノート型パソコンのような電子機器20の機器本体としての第1筐体21側へ取付ネジ23、23により取り付けられる部材であり、取付プレート部2aとこの取付プレート部2aより直角方向へ折り曲げられたシャフト支持部2bとから構成され、シャフト支持部2bにはシャフト取付孔2cが設けられている。2d、2dは前記取付ネジ23、23を取り付けるためのネジ孔である。尚、この取付部材2の具体的形状については限定はなく、図示のものに限定されない。それはさまざまな形状、構造のものがあり得る。
【0024】
支持部材4は、
図2に示す如く、例えばノート型パソコンのような電子機器20のディスプレイとしての第2筐体22側へ取付ネジ24、24により取り付けられる部材であり、支持プレート部4aとこの支持プレート部4aより直角方向へ折り曲げられたシャフト連結部4bとから構成される。シャフト連結部4bには前記ヒンジシャフト3の軸支部3cが挿通される円形のシャフト挿通孔4cが設けられている。4d、4dは前記取付ネジ24、24を取り付けるためのネジ孔である。この支持部材4は、前記円形のシャフト挿通孔4cによってヒンジシャフト3の軸支部3cの付け根部3dの位置に装着されるため、ヒンジシャフト3の軸中心に回動可能なよう保持され、前記第2筐体22を第1筐体21に対して回動させ、開閉可能なようになっている。尚、この支持部材4の具体的形状については、図示のものに限定されることなく、さまざまな形状、構造のものがあり得る。
【0025】
ヒンジシャフト3は、とくに
図6に示したように、略中央部に位置する大径部3bと、この大径部3bの一側部側に同軸状態で連設された固定部3aと、大径部3bの他側部側に同軸状態に連設された軸支部3cとから成り、前記固定部3aを取付部材2のシャフト支持部2bのシャフト取付孔2cへ、かしめる等して固着させている。ヒンジシャフト3の前記軸支部3cは、図示した実施例において、軸直角断面が円形の付け根部3dと、軸支部3cの外周の両側面を浅く削り取った断面略楕円形状の第1変形部3eと、それより深く削り取った第2変形部3fと、さらに深く削り取った第3変形部3gとから形成され、軸支部3cの先端は、後述の押え用ワッシャー12をかしめるためのかしめ部3hとなっている。ヒンジシャフト3の前記付け根部3dには、後述する第1フリクションワッシャー5と支持部材4とが装着され、第1変形部3eには後述の第2フリクションワッシャー6が装着され、第2変形部3fには後述のカム機構7を構成する回転カムプレート8及びカムフォロワー9と、ガタ防止用ワッシャー10とが装着され、第3変形部3gには後述のスプリングワッシャー11a、11a・・・と押え用ワッシャー12とが順次装着されるようになっている。尚、これらの第1〜3変形部の形状は、図示のものは断面略楕円形状であるが、片面のみを削り取った形状、或は溝、凹部としても良く、その形状について限定はない。
【0026】
フリクション機構13は、第1、第2フリクションワッシャー5、6と、スプリングワッシャー11a、11a・・・、押え用ワッシャー12などからなる弾性手段11から構成されている、即ち、上記の如く、ヒンジシャフト3の軸支部3c上において、前記支持部材4のシャフト連結部4bの両側には、各々軸挿孔5a、6aを設けた第1、第2フリクションワッシャー5、6が設けられる。このうち一方の第1フリクションワッシャー5は、その外周部を一部折り曲げて形成した係合片5bが、ヒンジシャフト3の前記大径部3bに設けた係合凹部3iに嵌め込まれることによって、ヒンジシャフト3の軸中心に回転不可能に保持される。また、もう一方の第2フリクションワッシャー6も、図示される如く、その軸挿孔6aの形状がヒンジシャフト3の前記第1変形部3eの断面略楕円形状に対応するように形成されているため、当該第1変形部3e上に装着されたとき、ヒンジシャフト3の軸中心に回転不可能に保持されるようになっている。そのため、ノート型パソコンのディスプレイ等の前記第2筐体22を開閉操作し、前記支持部材4をヒンジシャフト3の軸中心に回動させる際には、ヒンジシャフト3の軸中心に回転不可能な第1及び第2フリクションワッシャー5、6と、支持部材4のシャフト挿通孔4cの周囲の両側面との間の摩擦によって、第2筐体22の緩やかな開閉動作や所望位置での停止(チルト)機能が可能となるものである。この摩擦発生部分には、潤滑油の油溜用のナナコメ等の細かな凹部等を形成することが望ましく、図示した例においては、支持部材4の前記シャフト挿通孔4cの周囲の両側面にナナコメ加工部4f、4fを形成すると共に、これに対向する第1フリクションワッシャー5の一方の側面にはナナコメ加工部5dを設け、第2フリクションワッシャー6の両側面にはナナコメ加工部6b、6cを設けることが推奨される。また、図示する如く、第1フリクションワッシャー5に幾つかの油溜部5c、5cを設けるようにしてもよい。なお、支持部材4のシャフト連結部4bの材質には、耐磨耗性に富んだ金属プレートを用い、第1、第2フリクションワッシャー5、6には、熱処理を施した耐摩耗性に富んだ金属プレートを用いることも望ましい。
【0027】
次に、カム機構7は回転カムプレート8及びカムフォロワー9と、スプリングワッシャー11a、11a・・・、押え用ワッシャー12などからなる弾性手段11とから構成されている。即ち、ヒンジシャフト3の軸支部3c上には、第2フリクションワッシャー6に隣接させて、回転カムプレート8を装着すると共に、これに隣接させてカムフォロワー9を両者のそれぞれ凸部と凹部から成るカム面8bと9bが対向、当接するようにして装着する。これらの回転カムプレート8とカムフォロワー9は、ヒンジシャフト3の軸支部3cの第2変形部3f上に装着される。ここで、おたまじゃくし形状の回転カムプレート8の一端には係合片8cが設けられ、当該係合片8cは前記支持部材4のシャフト連結部4b上の係合孔4eに嵌め入れられ、また、この回転カムプレート8の挿通孔8aは円形であるため、前記軸支部3cの第2変形部3f上においてもヒンジシャフト3の軸中心に回転可能であり、そのため、支持部材4の回動操作と一緒に回動させられる。他方、カムフォロワー9の変形挿通孔9aは、その孔の形状がヒンジシャフト3の第2変形部3fの断面略楕円形状に対応するように形成されているため、当該第2変形部3f上に装着されたとき、ヒンジシャフト3の軸中心に回転不可能な状態で保持され、かつ、軸方向にはスライド可能なようになっている。これにより、後述のスプリングワッシャー11a、11a・・・の弾力で、後述のガタ防止用ワッシャー10を介して、前記カムフォロワー9及び回転カムプレート8から前記第2フリクションワッシャー6、支持部材4、第1フリクションワッシャー5までの部材を互いに圧接させた状態で、前記第2筐体22の開閉操作を行うと、後述の如く、その開閉角度に応じて回転カムプレート8のカム面8bとカムフォロワー9のカム面9bの噛み合い状態が変化し、その噛み合い状態に応じて、第2筐体22の開閉動作におけるチルト機能や吸込み機能が実現されるものである。これらの機能は、従来公知のチルトヒンジと同様である。
【0028】
次に、本発明においては、前記ヒンジシャフト3の第2変形部3f上において、カム機構7のカムフォロワー9に隣接させてガタ防止用ワッシャー10を設ける。このガタ防止用ワッシャー10は、図示する如く、比較的薄い金属板等で作製され、その変形挿通孔9aにヒンジシャフト3を圧入させることにより装着し、前記カムフォロワー9へ圧接させるようにする。このガタ防止用ワッシャー10は、弾性手段11の弾力をカムフォロワー9に及ぼすために、ヒンジシャフト3の軸方向にはスライド可能である必要があると共に、カムフォロワー9の回転ガタによる動きを阻止するために、ヒンジシャフト3に対する軸中心の回転は皆無となるように構成されなければならない。そのため、ガタ防止用ワッシャー10の変形挿通孔10aを、
図4、
図5に図示する如く、ヒンジシャフト3の前記第2変形部3fの断面形状に対応させて略楕円形状に対応するように形成するだけでなく、当該第2変形部3fの断面略楕円形状より僅かに小さめに形成しておき、これにヒンジシャフト3を圧入させるようにするものである。そのように強い力で圧入することにより、ガタ防止用ワッシャー10の変形挿通孔10aの形状が前記ヒンジシャフト3の外周面の形状に適合化するように微小に変形し、ガタ防止用ワッシャー10がヒンジシャフト3に対してガタや遊びを生じることなく装着され、ヒンジシャフト3に対する軸中心の回転は皆無となる。そのようにヒンジシャフト3に対して軸中心の回転が皆無のガタ防止用ワッシャー10が、弾性手段11の弾力によって前記カムフォロワー9に圧接されるため、ガタ防止用ワッシャー10とカムフォロワー9の圧接摩擦力によって、回転カムプレート8の反転時等におけるカムフォロワー9の回転速度が低減もしくは回転が完全に阻止され、雑音の発生が効果的に防止されるものである。
【0029】
次に、弾性手段11は、ヒンジシャフト3の第3変形部3g上に装着された複数枚のスプリングワッシャーから成る弾性部材11a、11a・・・と、押え用ワッシャー12から構成されている。即ち、弾性手段11のスプリングワッシャーから成る弾性部材11a、11a・・・の挿通孔11b、11b・・・にヒンジシャフト3の第3変形部3gを挿通する。尚、このスプリングワッシャーから成る弾性部材11a、11a・・・の形状や使用枚数に限定はない。皿バネや、圧縮コイルスプリングに変えてもよい。
【0030】
そして、前記弾性部材11a、11aに隣接して、ヒンジシャフト3の先端に押え用ワッシャー12が取り付けられている。即ち、押え用ワッシャー12の軸挿孔12aへヒンジシャフト3の第3変形部3gを挿通し、押え用ワッシャー12から突出したヒンジシャフト3の先端をかしめてかしめ部3hを形成することにより、ヒンジシャフト3の軸支部3c上に前記各種部材、即ち、第1フリクションワッシャー5、支持部材4、第2フリクションワッシャー6、回転カムプレート8、カムフォロワー9、ガタ防止用ワッシャー10、スプリングワッシャーから成る弾性部材11a、11a・・・が、圧接状態を保って保持され、支持部材4を回動させた時に、支持部材4のシャフト連結部4bと、第1及び第2フリクションワッシャー5、6との間にフリクショントルクが発生するように構成されている。
【0031】
上記構成による本発明のチルトヒンジの作動は、ノート型パソコンのディスプレイ等から成る第2筐体22が第1筐体21に対して閉成状態にあるときは、カム機構7の互いに圧接された回転カムプレート8のカム面8bとカムフォロワー9のカム面9bにおいて、一方のカム面の凸部が他方のカム面の凹部に互いに嵌まり合って、カム機構7の軸方向の厚さは薄い状態にある。そこから、弾性手段11の弾力に抗して第2筐体22を第1筐体21に対して相対的に開いていくと、一方のカム面の凹部から凸部へかけての斜面が他方のカム面の斜面に沿って次第に移動し、カム機構7の軸方向の厚さが次第に厚くなり、第2筐体22の開成方向へのトルクも次第に大きくなる。さらに第2筐体22を開いていくと、一方のカム面の凸部が他方のカム面の凸部へ乗り上げ、カム機構7の軸方向の厚さも最大となり、第2筐体22の開閉トルクも最大となって、前記凸部同士が重なり合う所定の角度範囲で第2筐体22を任意の角度位置で停止できるチルト機能が得られる。次に、上記停止状態から第2筐体22を逆に閉じていくと、前記の如く両方のカム面8b、9bの斜面同士が重なる状態において、カム機構7の軸方向の厚さが薄くなる方向へ前記弾性手段11の弾力が働いて、いわゆる吸込み機能が発揮され、第2筐体22が自動的に閉じられる。このような回転カムプレート8のカム面8bとカムフォロワー9のカム面9bの回転作動時には、従来のチルトヒンジでは、カムフォロワーに不可避的な回転ガタによりカム面の前記凸部同士がぶつかり合って、その衝撃による雑音が生じたり、構造的な不具合を生じやすかった。本発明の上記構成によれば、カムフォロワー9に回転ガタ等があったとしても、ヒンジシャフト3の外周面に圧入され、回転ガタや遊びが皆無の状態で装着された前記ガタ防止用ワッシャー10がカムフォロワー9に圧接されることにより、その摩擦抵抗によってカムフォロワー9の回転速度を低減させたり、回転やガタつき自体を阻止することにより、雑音の発生や構造的不具合の発生を防止し得るものである。
【0032】
以上の実施例は、カムフォロワーが回転しないヒンジシャフトに軸方向へ移動可能にしたものが示されたが、本発明に係るチルトヒンジは、固定カムプレートが取付部材に固定して取り付けられ、この固定カムプレートに対してヒンジシャフトに装着されたカムフォロワーが当該ヒンジシャフトに対して回転かつ軸方向へ移動可能に取り付けられたチルトヒンジにも適用できる。この場合、支持部材は取付部材のシャフト支持部に回転可能に取り付けられたヒンジシャフトへ共に回転可能となるように取り付けられるものであり、カムフォロワーはヒンジシャフトに対して共に回転可能かつ軸方向へ移動可能に取り付けられるものである。
【実施例2】
【0033】
図8はガタ防止用ワッシャーの他の実施例を示す。図面によればこの実施例2に係るガタ防止用ワッシャー15の変形挿通孔15aには、その内周面の長尺部分の上下位置に軸方向に4本の凸条部15b、15b・・が設けられており、この凸条部15b、15b・・が
図8では示してないが実施例1に示したヒンジシャフト3の外周面と当該ガタ防止用ワッシャー15の軸方向の動きを完全に阻止しないように圧入されつつ圧接されるように構成したものである。このような形状であると、圧入時には前記凸条部15b、15b・・が実施例1に記載したヒンジシャフト3の外周面を削りつつ圧接しつつ圧入され、当該ヒンジシャフト3の外周面に密着するため、圧入操作の容易性と、ガタ防止用ワッシャー10の無回転性、並びに、軸方向への円滑なスライド可能性が実現されるものである。
【実施例3】
【0034】
図9(a)と(b)はガタ防止用ワッシャーのさらに他の実施例を示す。図面によればこの実施例に係るガタ防止用ワッシャー16は、変形挿挿孔16aに外側からテーパー部16bが設けられている。このように構成すると、
図9では示してないが実施例1のヒンジシャフト3が圧入される場合、変形挿通孔16aの小径部16cの圧入抵抗が少なく、圧入作業の容易性と、ガタ防止用ワッシャー10の無回転性、並びに、軸方向への円滑なスライド可能性が実現されるものである。尚、
図9に示した例では、その(b)図に示したように、変形挿通孔16aの片側の面からだけテーパー部16bが設けられているが、変形挿通孔16aの両側からテーパー部を設けるようにしてもよい。
【0035】
尚、上記各ガタ防止用ワッシャー10、15、16の材質としては、カムフォロワー9との摺動摩擦抵抗が大きく、強度、靱性に優れた。例えばSS、SUS、或はリン青銅のようなものがよく、圧入操作の容易性のため、比較的厚みの薄いものがよい。
【0036】
尚、本発明に係る電子機器20は、上記の如き本発明のチルトヒンジ1を備えたものである。
【産業上の利用可能性】
【0037】
この発明は以上のように構成したので、ガタ防止用ワッシャーという簡単な構成の部材を1枚追加するだけで、回転カムの挿通孔の内径やヒンジシャフトの外径の寸法バラツキによって生じるカムフォロワーの回転ガタによる雑音の発生や構造的不具合の発生を有効に解消でき、部品1個を追加する必要はあるとしても、それを上回る工程数削減効果によるコストダウンや構造的安定性を確保することが可能となる。
【符号の説明】
【0038】
1 チルトヒンジ
2 取付部材
3 ヒンジシャフト
3e 第1変形部
3f 第2変形部
3g 第3変形部
4 支持部材
7 カム機構
8 回転カムプレート
8b カム面
9 カムフォロワー
9a 変形挿通孔
9b カム面
10、15、16 ガタ防止用ワッシャー
10a、15a、16a 変形挿通孔
11 弾性手段
13 フリクション機構
15b 凸条部
16b テーパー部
20 電子機器
21 第1筐体
22 第2筐体