【文献】
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(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、リナカンチンCがミクログリアにおけるIL−6の産生を抑制することは知られていない。
【0010】
そこで、本発明は、ミクログリアにおけるIL−6の産生を抑制するIL−6産生抑制剤を提供することを目的とする。また、ミクログリアにおけるIL−6の産生を抑制することで中枢神経系の炎症を予防又は抑制する抗炎症剤を提供することも目的とする。また、上記したIL−6産生抑制剤又は抗炎症剤に関連する抗神経変性疾患剤、抗精神神経疾患剤、医薬品及び食品を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発明者らは、リナカンチンCの性質について鋭意研究を行った。その結果、リナカンチンCにはミクログリアにおけるIL−6の産生を抑制する作用があることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明は、下記の事項により構成される。
【0012】
[1]リナカンチンCのみを有効成分として含有し、ミクログリアにおけるIL−6の産生を抑制するIL−6産生抑制剤。
【0013】
[2]リナカンチンCのみを有効成分として含有し、ミクログリアにおけるIL−6の産生を抑制することで中枢神経系の炎症を予防又は抑制する抗炎症剤。
【0014】
[3]上記[1]に記載のIL−6産生抑制剤又は上記[2]に記載の抗炎症剤を有効成分として含有する抗神経変性疾患剤。
【0015】
[4]上記[3]に記載の抗神経変性疾患剤において、神経変性疾患が、パーキンソン病、パーキンソン症候群、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、脳卒中、脳梗塞及び脳虚血のうち少なくとも1つである抗神経変性疾患剤。
【0016】
[5]上記[1]に記載のIL−6産生抑制剤又は上記[2]に記載の抗炎症剤を有効成分として含有する抗精神神経疾患剤。
【0017】
[6]上記[5]に記載の抗精神神経疾患剤において、精神神経疾患が、統合失調症、うつ病、自閉症スペクトラム障害、依存症及びてんかんのうち少なくとも1つである抗精神神経疾患剤。
【0018】
[7]上記[1]〜[6]のいずれかに記載のIL−6産生抑制剤、抗炎症剤、抗神経変性疾患剤又は抗精神神経疾患剤を含有し、IL−6産生抑制作用、抗炎症作用、抗神経変性疾患作用及び抗精神神経疾患作用のうち少なくとも1つを有する医薬品。
【0019】
[8]上記[1]〜[6]のいずれかに記載のIL−6産生抑制剤、抗炎症剤、抗神経変性疾患剤又は抗精神神経疾患剤を含有し、IL−6産生抑制作用、抗炎症作用、抗神経変性疾患作用及び抗精神神経疾患作用のうち少なくとも1つを有する食品。
【0020】
本発明によれば、後述する試験例に示すようにミクログリアにおけるIL−6の産生を抑制する作用を有することが明らかになったリナカンチンCを用いた、ミクログリアにおけるIL−6の産生を抑制するIL−6産生抑制剤を提供することができる。また、リナカンチンCを用いた、ミクログリアにおけるIL−6の産生を抑制することで中枢神経系の炎症を予防又は抑制する抗炎症剤を提供することができる。さらに、上記したIL−6産生抑制剤又は抗炎症剤に関連する、つまり、リナカンチンCを用いた抗神経変性疾患剤、抗精神神経疾患剤、医薬品及び食品を提供することができる。
【0021】
なお、上記[1]については、例えば、「リナカンチンCのみを有効成分として含有し、ミクログリアにおけるIL−6の産生を抑制するIL−6産生抑制剤を製造するための、前記リナカンチンCの有効成分としての使用。」のように表現することもできる。
また、上記[2]については、例えば、「リナカンチンCのみを有効成分として含有し、ミクログリア由来のIL−6の産生を抑制することで中枢神経系の炎症を予防又は抑制する抗炎症剤を製造するための、前記リナカンチンCの有効成分としての使用。」のように表現することもできる。
また、上記[3]については、例えば、「抗神経変性疾患剤を製造するための、上記[1]に記載のIL−6産生抑制剤又は上記[2]に記載の抗炎症剤の有効成分としての使用。」のように表現することもできる。
また、上記[5]については、例えば、「抗精神神経疾患剤を製造するための、上記[1]に記載のIL−6産生抑制剤又は上記[2]に記載の抗炎症剤の有効成分としての使用。」のように表現することもできる。
また、上記[7]については、例えば、「IL−6産生抑制作用、抗炎症作用、抗神経変性疾患作用及び抗精神神経疾患作用のうち少なくとも1つを有する医薬品を製造するための、上記[1]〜[6]のいずれかに記載のIL−6産生抑制剤、抗炎症剤、抗神経変性疾患剤又は抗精神神経疾患剤の使用。」のように表現することもできる。
また、上記[8]については、例えば、「IL−6産生抑制作用、抗炎症作用、抗神経変性疾患作用及び抗精神神経疾患作用のうち少なくとも1つを有する食品を製造するための、上記[1]〜[6]のいずれかに記載のIL−6産生抑制剤、抗炎症剤、抗神経変性疾患剤又は抗精神神経疾患剤の使用。」のように表現することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明のIL−6産生抑制剤、抗炎症剤、抗神経変性疾患剤、抗精神神経疾患剤、医薬品及び食品について説明する。
【0024】
本発明のIL−6産生抑制剤は、リナカンチンCのみを有効成分として含有し、ミクログリアにおけるIL−6の産生を抑制するものである。
本明細書において、IL−6産生抑制剤について「リナカンチンCのみを有効成分として含有する」とは、IL−6産生抑制剤がミクログリアにおけるIL−6の産生を抑制する作用を有する有効成分としてリナカンチンCのみを含有することをいう。このため、IL−6産生抑制剤が当該有効成分ではない成分(例えば、補助的な添加剤、賦形剤や溶媒等)を含有することを否定しない。
本明細書においては、ミクログリアにおけるIL−6の産生を抑制する作用のことを、「IL−6産生抑制作用」という。
【0025】
本発明の抗炎症剤は、リナカンチンCのみを有効成分として含有し、ミクログリア由来のIL−6の産生を抑制することで中枢神経系の炎症を予防又は抑制するものである。
本明細書において、抗炎症剤について「リナカンチンCのみを有効成分として含有する」とは、抗炎症剤がミクログリアにおけるIL−6の産生を抑制することで中枢神経系の炎症を予防又は抑制する作用を有する有効成分としてリナカンチンCのみを含有することをいい、抗炎症剤が当該有効成分ではない成分(例えば、補助的な添加剤、賦形剤や溶媒等)を含有することを否定しない。
本明細書においては、ミクログリアにおけるIL−6の産生を抑制することで中枢神経系の炎症を予防又は抑制する作用のことを、「抗炎症作用」という。
【0026】
本発明の抗神経変性疾患剤及び抗精神神経疾患剤は、本発明のIL−6産生抑制剤又は抗炎症剤(つまり、実質的にはリナカンチンC)を有効成分として含有するものである。
リナカンチンCは、後述する試験例に示すように、ミクログリアにおけるIL−6の産生を抑制する。このため、本発明のIL−6産生抑制剤又は抗炎症剤を有効成分として含有する、つまり、リナカンチンCを有効成分として含有する本発明の抗神経変性疾患剤及び抗精神神経疾患剤は、中枢神経系における炎症を予防又は抑制するため、抗神経変性疾患剤及び抗精神神経疾患剤としての作用を有するようになる。
【0027】
本明細書において「抗神経変性疾患剤」とは、神経変性疾患の予防、進行の抑制又は治療に用いることができるもののことをいう。本明細書において「神経変性疾患」とは、中枢神経系の細胞の異常、特に中枢神経系の炎症に起因する疾患のことをいう。本発明の抗神経変性疾患剤が対象とする神経変性疾患としては、パーキンソン病、パーキンソン症候群、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症、脳卒中、脳梗塞及び脳虚血を挙げることができ、本発明の抗神経変性疾患剤は、これらのうち少なくとも1つに対する作用を有することが好ましい。
本明細書においては、中枢神経系における炎症を予防又は抑制することで、神経変性疾患を予防する又は症状の進行を抑制する作用のことを、「抗神経変性疾患作用」という。
【0028】
なお、神経変性疾患には、アルツハイマー病も含まれる。ただし、「リナカンチンCを有効成分として含有する抗アルツハイマー病剤」については、本発明とは作用機序が異なるものの、本出願の出願人による以前の出願の、出願当初の請求の範囲に記載されているため、本出願の抗神経変性疾患剤から、「終局的用途において抗アルツハイマー剤であるもの」を除くこともできる(本出願の出願時において公開されていないPCT/JP2015/69363を参照。)。
【0029】
本明細書において「抗精神神経疾患剤」とは、精神神経疾患の予防、進行の抑制又は治療に用いることができるもののことをいう。本明細書において「精神神経疾患」とは、中枢神経系の細胞の異常、特に中枢神経系の炎症に起因し、主に精神に影響を及ぼす疾患のことをいう。「精神神経疾患」は、「精神・神経疾患」と表記されることもある。本発明の抗精神神経疾患剤が対象とする精神神経疾患としては、統合失調症、うつ病、自閉症スペクトラム障害、依存症及びてんかんを挙げることができ、本発明の抗精神神経疾患剤は、これらのうち少なくとも1つに対する作用を有することが好ましい。
本明細書においては、中枢神経系における炎症を予防又は抑制することで、精神神経疾患を予防する又は症状の進行を抑制する作用のことを、「抗精神神経疾患作用」という。
【0030】
本発明の抗神経変性疾患剤及び抗精神神経疾患剤は、抗神経変性疾患作用又は抗精神神経疾患作用に係る有効成分として、本発明のIL−6産生抑制剤又は抗炎症剤以外の有効成分を含有していてもよい。
【0031】
本発明の医薬品及び食品は、本発明のIL−6産生抑制剤、抗炎症剤、抗神経変性疾患剤又は抗精神神経疾患剤を含有し、IL−6産生抑制作用、抗炎症作用、抗神経変性疾患作用及び抗精神神経疾患作用のうち少なくとも1つを有するものである。
つまり、本発明の医薬品及び食品は、有効成分としてリナカンチンCを含有する。
【0032】
本発明の医薬品及び食品は、IL−6産生抑制作用、抗炎症作用、抗神経変性疾患作用及び抗精神神経疾患作用のうち少なくとも1つを有するのであれば、IL−6産生抑制作用、抗炎症作用、抗神経変性疾患作用及び抗精神神経疾患作用を主目的としないものであってもよい。
【0033】
本発明のIL−6産生抑制剤、抗炎症剤、抗神経変性疾患剤、抗精神神経疾患剤、医薬品及び食品には、リナカンチンCを含有する天然物(例えば、白鶴霊芝)、当該天然物の加工物(例えば、白鶴霊芝の乾燥物)、当該天然物の抽出物(例えば、白鶴霊芝のエタノール抽出物)、当該天然物又はその抽出物の精製物(例えば、白鶴霊芝のエタノール抽出物をカラムクロマトグラフィー等で精製した精製物)等を用いることができる。
また、本発明のIL−6産生抑制剤、抗炎症剤、抗神経変性疾患剤、抗精神神経疾患剤、医薬品及び食品には、リナカンチンCを含有する天然物から単離したリナカンチンCを用いることもできる。
また、本発明のIL−6産生抑制剤、抗炎症剤、抗神経変性疾患剤、抗精神神経疾患剤、医薬品及び食品には、化学合成(全合成又は部分合成)により得たリナカンチンCを用いることもできる。
【0034】
本発明に用いるリナカンチンCは、体内で作用するときにおいてリナカンチンCの形態をとっていればよく、投与、処方又は使用前においては、薬学上許容される塩や前駆体の形態をとっていてもよい。
【0035】
本発明のIL−6産生抑制剤、抗炎症剤、抗神経変性疾患剤、抗精神神経疾患及び医薬品(ここでは、内用又は内服の医薬品)の投与経路は特に限定されないが、例えば、経口投与・直腸内投与等の経腸投与、経鼻投与などの粘膜投与、静脈内投与・皮下投与などの注射投与等を挙げることができる。剤型としては、いずれも投与方法に適した製剤の形態をとることができ、例えば、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、粉末、丸剤、トローチ剤等の固形剤、溶液、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、注射剤などの液剤、ゲル状の製剤等を挙げることができる。本発明のIL−6産生抑制剤、抗炎症剤、抗神経変性疾患剤、抗精神神経疾患剤及び医薬品は、そのまま投与してもよいが、薬理的に許容される賦形剤とともに投与しても良い。賦形剤としては、単糖類、二糖類、多糖類、無機塩類、油脂、蒸留水など、製剤として一般に使用可能なものであればいずれも用いることができる。製剤化する際には、結合剤、滑沢剤、分散剤、懸濁剤、乳化剤、希釈剤、緩衝剤、抗酸化剤、細菌抑制剤等の添加剤を用いることもできる。
【0036】
本発明のIL−6産生抑制剤、抗炎症剤、抗神経変性疾患剤、抗精神神経疾患剤及び医薬品の有効投与量は、投与経路、剤形、疾患の症状、対象者の年齢等により異なるが、リナカンチンCについて、通常成人一日あたり0.1〜1000mg、好ましくは0.5〜300mg、さらに好ましくは1〜100mgであると考えられる。リナカンチンCの含有量は、製剤の形態・有効投与量・製剤としての投与量のデータに基づき、各投与形態に最適な製剤中の有効成分含有量を設定することができる。
【0037】
本発明の医薬品は、外用医薬品であってもよい。外用医薬品の形態は特に限定されないが、例えば、軟膏剤、クリーム剤、パップ剤、テープ剤、外用剤等を挙げることができる。本発明の外用医薬品は、リナカンチンCに加え、必要に応じて種々の医薬成分を含有することができる。また、結合剤、分散剤、懸濁剤、乳化剤、希釈剤、緩衝剤、抗酸化剤、細菌抑制剤等の添加剤を用いることもできる。
【0038】
本発明の食品としては、本発明のIL−6産生抑制剤、抗炎症剤、抗神経変性疾患剤又は抗精神神経疾患剤、本質的にはリナカンチンCを配合したお茶や加工食品としての形態の食品を例示することができる。
【0039】
お茶としては、リナカンチンCを含有する天然物、例えば、白鶴霊芝の葉・茎若しくは根の乾燥物を用いたものを例示することができる。リナカンチンCを含有する天然物は、他の茶原料と混合して用いることが好ましい。茶原料としては、緑茶、ウーロン茶、プーアル茶、紅茶、ほうじ茶、玄米茶、杜仲茶、柿の葉茶、桑の葉茶等、通常お茶として用いられるものであれば、用いることができる。なお、リナカンチンCが破壊されない限りにおいて、リナカンチンCを含有する天然物(例えば、白鶴霊芝の葉・茎または根の乾燥物)は、他の茶原料と同様に焙煎して用いることもできる。
【0040】
加工食品の形態としては、ドリンク剤、ゼリー、ビスケット、錠剤、丸剤、ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤等、通常加工食品として提供可能な形態であれば、いずれの形態も用いることができる。また、加工食品の副原料として、賦形剤、結合剤、滑沢剤、分散剤、懸濁剤、乳化剤、希釈剤、緩衝剤、抗酸化剤、細菌抑制剤等の添加剤を用いることもできる。
【0041】
本発明の食品の有効摂取量は、摂取形態、対象者の健康状態、対象者の年齢等により異なるが、リナカンチンCについて、通常成人一日あたり0.1〜1000mg、好ましくは0.5〜300mg、さらに好ましくは1〜100mgであると考えられる。
【0042】
本発明の食品中のリナカンチンCの含有量は、食品の形態によっても異なるが、通常0.0001〜1wt%、好ましくは0.001〜0.5wt%、より好ましくは、0.01〜0.1wt%であると考えられる。
【0043】
[試験例]
以下、リナカンチンCの作用に関する試験例により本発明をさらに詳しく説明する。なお、以下の試験例はいわば具体例であり、本発明は以下の試験例に制約されるものではない。
【0044】
試験例では、リナカンチンCの作用を、ミクログリアにおけるIL−6の産生を促進すると考えられる物質の影響とともに検証する試験を行った。
ミクログリアにおけるIL−6の産生を促進すると考えられる物質として、アミロイドβ、インターフェロン−γ及びリポ多糖を用いた。
【0045】
アミロイドβは、アミロイドタンパク質の一種であり、神経細胞に対する直接的又は間接的な毒性があると考えられている。試験例においては、アミロイドβとして、神経毒性の作用中心として知られるアミロイドβ(25−35)を用いた。アミロイドβ(25−35)として、米国のシグマアルドリッチ社から購入したもの(Amyloid β−Protein Fragment 25−35、Cat. No. A4559。以下、単に「Aβ」と記載する。)を用いた。
【0046】
インターフェロン−γは、サイトカインの一種であり、抗ウイルス作用、NK細胞の活性増強作用、マクロファージの活性化作用等を有する。一方、インターフェロン−γには、炎症を増強する作用もある。試験例においては、インターフェロン−γとして、米国のR&Dシステムズ社から購入したもの(Recombinant Mouse IFN−gamma Protein、Cat.485−MI−100。以下、単に「IFN−γ」と記載する。)を用いた。
【0047】
リポ多糖(リポポリサッカライド)は、グラム陰性菌における細胞壁外膜を構成する糖脂質である。リポ多糖は、ヒト等の細胞に作用して炎症性サイトカインの産生を促進する。試験例においては、リポ多糖として、米国のシグマアルドリッチ社から購入したもの(Lipopolysaccharides from Escherichia coli 0111:B4、Cat.L4391。以下、単に「LPS」と記載する。)を用いた。
【0048】
なお、試験例で用いたリナカンチンCは、白鶴霊芝から単離したものを用いた。単離方法は、以下の通りである。
【0049】
まず、白鶴霊芝(Rhinacanthus nasutus(L.)Kurz)の根の乾燥物2kgを準備し、汎用のグラインダーで粉砕した。
続いて、90%エタノールによる抽出を行った。抽出は、白鶴霊芝を20lの90%エタノールに3日間浸漬し、その後、溶媒を1時間還流させることで行った。抽出液と抽出残渣とは、濾紙により分離した。当該抽出を同じ原料に対して計3回行った。減圧により抽出液から溶媒を取り除き、乾固したエタノール抽出物77.82gを得た。
【0050】
上記エタノール抽出物から4gを分析用サンプルとして取り除いた後、残りのエタノール抽出物73.82g全量について、ヘキサン及び90%メタノールで液−液分配を行った。まず、エタノール抽出物に90%メタノール500mlを加え、その後、ヘキサン500mlをさらに加えて1分間振とうした。溶媒が分離するまで10分程度待ち、90%メタノール相を採取した。さらに2回同様の操作を繰り返し、得られた90%メタノール相から減圧により溶媒を取り除き、乾固した分配物54.32gを得た。
【0051】
上記分配物から4gを分析用サンプルとして取り除いた後、残りの分配物50.32g全量について、二塩化メチレン及び水で液−液分配を行った。まず、分配物に精製水500mlを加え、その後、二塩化メチレン500mlをさらに加えて1分間振とうした。溶媒が分離するまで10分程度待ち、二塩化メチレン相を採取した。さらに2回同様の操作を繰り返し、得られた塩化メチレン相から減圧により溶媒を取り除き、所定の分配物27.55gを得た。
【0052】
その後、所定の分配物2.50gとシリカゲル(0.063〜0.2mmの汎用品)10gとを混合した。その後、シリカゲル(0.040〜0.063mmの汎用品)200gを詰めたカラム(直径2cm、長さ30cm、体積約60mlのオープンカラム)を用意し、溶出溶媒(n−ヘキサン:酢酸エチル=4:1)で平衡化させた後、所定の分配物とシリカゲルとの混合物を乗せ、溶出溶媒による溶出を行った。なお、溶出溶媒の量は500mlとした。
【0053】
シリカゲルカラムクロマトグラフィーにおいては、約10mlずつに分けて試験管で採取し、TLCにより溶出のパターンを観察した。おおよその溶出のパターンにより、1本目の試験管で得られたものを分画物2−1(溶媒量約0〜10ml)、2〜3本目の試験管で得られたものを分画物2−2(溶媒量約10〜30ml)、4〜10本目の試験管で得られたものを分画物2−3(溶媒量約30〜100ml)とした。
【0054】
その後、分画物2−1〜2−3について
1HNMR及び
13CNMRのデータを文献値(ジャーナル オブナチュラル プロダクツ、59巻、808〜811ページ、1996年)と比較することで構造の解析を行い、分画物2−2がリナカンチンCであることを確認した。得られたリナカンチンCの量は、444.2mgであった。
【0055】
なお、核磁気共鳴スペクトル装置として、JEOL JNM−GSX500型核磁気共鳴スペクトル装置(日本電子株式会社製)を用いた。
【0056】
以下、試験方法について説明する。
試験例では、ミクログリアとしてマウス由来ミクログリアであるBV−2細胞(以下、単にBV−2細胞という。)を用いた。BV−2細胞は、台湾の台北医学大学の陳嘉玲博士の研究室で作製したものを用いた。当該BV−2細胞は、v−raf/v−myc癌遺伝子をレトロウイルスによりマウスのミクログリア培養細胞に導入し、株化することにより得たものである。
入手したBV−2細胞は、10%牛胎児血清、100units/mlペニシリン及び100μg/mlストレプトマイシンを添加したRPMI−1640培地を用い、5%炭酸ガス存在下、37℃で前培養を行った。
【0057】
BV−2細胞は、96ウェルのプレート(米国のコーニング社の96 Well Clear Flat Bottom Polystyrene TC−Treated Microplates, Individually Wrapped, with Lid, Sterile(Product #3599))に、5×10
3cells/wellの密度で播種し、5%炭酸ガス存在下、37℃で16時間培養した。
その後、リナカンチンCを添加するサンプルについては、所定の濃度のリナカンチンCを添加して4時間前処理を行った。さらにその後、Aβを添加するサンプル、IFN−γを添加するサンプル及びLPSを添加するサンプルについて、所定の濃度の各物質を添加し、5%炭酸ガス存在下、37℃で48時間培養した。
【0058】
培養後、上清を採取し、産生されたIL−6の量を定法のELISA法により測定した。ELISA測定は、米国のアフィメトリクス社、eBIOSCIENCEのMouse IL−6 ELISA Ready−SET−Go!を用いて行った。
また、細胞生存率については、常用のMTT試験法により算出した。具体的には、5mg/mlのMTT溶液(米国のサーモフィッシャーサイエンティフィック社製)10μlを100μlの細胞培養液に加え、5%炭酸ガス存在下、37℃で1.5時間培養した。その後、培養液を除去し、100μlの溶解溶液(0.04規定の塩酸を含むイソプロパノール溶液)を加え生成物を完全溶解し、波長570nm(対照640nm)の吸光度を測定することで細胞生存率を算出した。
【0059】
試験例では、Aβを用いた試験と、IFN−γ及びLPSを用いた試験とを分けて行った。
Aβを用いた試験では、リナカンチンCの濃度を0.25,0.5μMとし、Aβの濃度を20μMとした。
IFN−γ及びLPSを用いた試験では、リナカンチンCの濃度を0.06,0.13,0.25,0.5μMとし、IFN−γの濃度を0.1ng/mlとし、LPSの濃度を100ng/mlとした。
なお、各サンプルにおける添加物の濃度は、事前に細胞毒性等に関するスクリーニング等を行い、適切な濃度を決定した。
【0061】
(1)Aβを用いた試験
図1は、試験例におけるAβを用いた試験の結果を示すグラフである。
図1(a)はサンプルごとのIL−6の産生量を示す棒グラフであり、
図1(b)はサンプルごとの細胞生存率を示す棒グラフである。
図1(a)及び
図1(b)の横軸の下部に記載されている「RC」の項目はリナカンチンCの添加の有無と添加量を示し、「−」が記載されているサンプルにはリナカンチンCを添加せず、数値が記載されているサンプルにはリナカンチンCを数値の量だけ添加した(単位:μM)。一方、「Aβ」の項目はAβの添加の有無を示し、「−」が記載されているサンプルにはAβを添加せず、「+」が記載されているサンプルにはAβを添加した。
図1(a)の縦軸はIL−6の産生量(単位:pg/ml)を示し、
図1(b)の縦軸は細胞生存率(単位:%)を示す。
図1において棒グラフの上に記載されている数値は、縦軸に対応する数値である。
【0062】
なお、IL−6産生量変化の有意差検定に関しては、以下に記載するとおりであった。リナカンチンCのみを添加したサンプルについては、何も添加しなかったサンプルを基準としてp<0.001の有意差をもって低下した。Aβのみを添加したサンプルについては、何も添加しなかったサンプルを基準としてp<0.05の有意差をもって増加した。リナカンチンCを0.5μM添加し、Aβも添加したサンプルについては、Aβのみを添加したサンプルを基準としてp<0.05の有意差をもって低下した。
【0063】
(2)IFN−γ及びLPSを用いた試験
図2は、試験例におけるIFN−γ及びLPSを用いた試験の結果を示すグラフである。
図2(a)はサンプルごとのIL−6の産生量を示す棒グラフであり、
図2(b)はサンプルごとの細胞生存率を示す棒グラフである。
図2(a)及び
図2(b)の横軸の下部に記載されている「RC」の項目はリナカンチンCの添加の有無と添加量を示し、「−」が記載されているサンプルにはリナカンチンCを添加せず、数値が記載されているサンプルにはリナカンチンCを数値の量だけ添加した(単位:μM)。一方、「IFN−γ」の項目はIFN−γの添加の有無を示し、「−」が記載されているサンプルにはIFN−γを添加せず、「+」が記載されているサンプルにはIFN−γを添加した。また、「LPS」の項目はLPSの添加の有無を示し、「−」が記載されているサンプルにはLPSを添加せず、「+」が記載されているサンプルにはLPSを添加した。
図2(a)の縦軸はIL−6の産生量(単位:pg/ml)を示し、
図2(b)の縦軸は細胞生存率(単位:%)を示す。
図2において棒グラフの上に記載されている数値は、縦軸に対応する数値である。
【0064】
なお、IL−6産生量変化の有意差検定に関しては、以下に記載するとおりであった。リナカンチンCのみを0.13μM添加したサンプルについては、何も添加しなかったサンプルを基準としてp<0.01の有意差をもって低下した。リナカンチンCのみを0.25μM添加したサンプル及び0.5μM添加したサンプルについては、何も添加しなかったサンプルを基準としてp<0.001の有意差をもって低下した。IFN−γのみを添加したサンプル及びLPSのみを添加したサンプルについては、何も添加しなかったサンプルを基準としてp<0.05の有意差をもって増加した。リナカンチンCを0.06μM又は0.25μM添加し、IFN−γも添加したサンプルについては、IFN−γのみを添加したサンプルを基準としてp<0.05の有意差をもって低下した。リナカンチンCを0.5μM添加し、IFN−γも添加したサンプルについては、IFN−γのみを添加したサンプルを基準としてp<0.001の有意差をもって低下した。リナカンチンCを0.06μM添加し、LPSも添加したサンプルについては、LPSのみを添加したサンプルを基準としてp<0.05の有意差をもって低下した。リナカンチンCを0.13μM添加し、LPSも添加したサンプルについては、LPSのみを添加したサンプルを基準としてp<0.01の有意差をもって低下した。リナカンチンCを0.25μM又は0.5μM添加し、LPSも添加したサンプルについては、LPSのみを添加したサンプルを基準としてp<0.001の有意差をもって低下した。
【0065】
上記の試験例から、
図1及び
図2に示すように、Aβ、IFN−γ及びLPSには、ミクログリアにおけるIL−6の産生を促進する作用があることが確認できた。
また、リナカンチンCがIL−6の産生を抑制することが確認できた。
さらに、リナカンチンCの作用には、濃度依存性があることについても確認できた。
なお、細胞生存率については、どのサンプルも特に問題が無いレベルの数値となっていた。
【0066】
このため、本発明のIL−6産生抑制剤は、ミクログリアにおけるIL−6の産生を抑制することが可能であると考えられる。また、本発明の抗炎症剤は、ミクログリアにおけるIL−6の産生を抑制することで、IL−6に起因する中枢神経系の炎症を予防又は抑制することが可能であると考えられる。また、本発明の抗神経変性疾患剤、抗精神神経疾患剤、医薬品及び食品は、ミクログリアにおけるIL−6の産生を抑制し、中枢神経系の炎症を予防又は抑制することで、IL−6産生抑制作用、抗炎症作用、抗神経変性疾患作用及び抗精神神経疾患作用のうち少なくとも1つを有するようになると考えられる。
【0067】
[実施例]
以下の実施例により、本発明のIL−6産生抑制剤及び抗炎症剤の有効成分であり、本発明の抗神経変性疾患剤及び抗精神神経疾患剤の実質的な有効成分でもあるリナカンチンCを含有する医薬品及び食品の調製法について記載する。
【0068】
(1)錠剤
リナカンチンCを用いて、次の処方で錠剤を作製する。
リナカンチンC 0.2g
乳糖 95.8g
乾燥コーンスターチ 2.0g
タルク 1.8g
ステアリン酸カルシウム 0.2g
(調製法)
乳糖(95.8g)に、リナカンチンC(0.2g)、乾燥コーンスターチ(2g)、タルク(1.8g)、ステアリン酸カルシウム(0.2g)を添加して混合する。次いで、単発式打錠機を用いて常法により錠剤を作製する。
【0069】
(2)ハードカプセル剤
リナカンチンCを用いて、次の処方でハードカプセル剤(1カプセルあたり360mg)を作製する。
リナカンチンC 5mg
乳糖 220mg
コーンスターチ 110mg
ヒドロキシプロピルセルロース 25mg
(調製法)
リナカンチンC(5g)に、乳糖(220g)及びコーンスターチ(110g)を添加して混合し、これにヒドロキシプロピルセルロース(25g)の水溶液を添加して練合する。次いで、押し出し造粒機を用いて、常法により顆粒を製造する。この顆粒をゼラチンハードカプセルに充填することにより、ハードカプセル剤を作製する。
【0070】
(3)ソフトカプセル剤
リナカンチンCを用いて、次の処方でソフトカプセル剤(1カプセルあたり170mg)を作製する。
リナカンチンC 0.5mg
大豆油 169.5mg
(調製法)
大豆油(169.5g)に、リナカンチンC(0.5g)を添加して混合する。次いで、ロータリー・ダイズ式自動成型機を用いて、常法に従い、ソフトカプセルに充填することにより、ソフトカプセル剤を作製する。
【0071】
(4)丸剤
リナカンチンCを用いて、次の処方で丸剤(1粒あたり100mg)を作製する。
リナカンチンC 0.5mg
モロヘイヤ末 20.0mg
デンプン 30.0mg
糖蜜 20.0mg
茶抽出物 15.0mg
大豆ファイバー 14.0mg
セラック 0.5mg
(調製法)
上記配合で原料を混合し、適量加水後、練合機で均質な練合物を製造し、得られた練合物を圧延し製丸機を用いて製丸後乾燥して丸剤を作製する。
【0072】
(5)散剤
リナカンチンCを用いて、次の処方で常法により散剤(1包あたり1000mg)を作製する。
リナカンチンC 1mg
乳糖 799mg
コーンスターチ 200mg
【0073】
(6)ゼリー
リナカンチンCを用いて、次の処方で、常法によりゼリー(100g)を作製する。
リナカンチンC 0.002g
ゼラチン 2.0g
オレンジ果汁 20.0g
水 77.998g
(調製法)
上記成分を混合し、90℃へ加熱する。ゼラチンの溶解を確認してから容器に充填し、冷却する。ゼラチンを固化することでゼリーを作製する。
【0074】
(7)軟膏
リナカンチンCを用いて、次の処方で、常法により軟膏(100g)を作製する。
(油相成分)
リナカンチンC 0.1g
白色ワセリン 20.0g
ミネラルオイル 20.0g
ステアリルアルコール 5.0g
ステアレス−2 3.0g
プロピルパラベン 0.1g
天然ビタミンE 0.1g
(水相成分)
1,3−ブチレングリコール 5.0g
フェノキシエタノール 0.4g
ポリソルベート 60 4.5g
精製水 適量
全量 100g
(調製法)
油相成分及び水相成分をそれぞれ80℃に熱して均一にし、水相を油相に攪拌しながら加え、乳化後冷却し軟膏を作製する。
【0075】
(8)テープ剤
リナカンチンCを用いて、次の処方で、常法によりテープ剤(100g)を作製する。
(粘着剤溶剤)
スチレン−イソプロピレン−スチレンブロック共重合体 7.0g
ピコライト 25.0g
イソプロピレンゴム 5.0g
トルエン 15.0g
酢酸エチル 14.2g
ヘキサン 25.0g
(薬効成分)
リナカンチンC 0.1g
エタノール 5.0g
(経皮吸収促進剤)
オレイルアルコール 0.8g
全量 100g
(調製法)
粘着剤溶剤及び薬効成分をそれぞれ均一にし、薬効成分及び経皮吸収促進剤を粘着剤溶剤に加え、室温で攪拌し組成物を作製する。この組成物をシリコーン処理したポリエステルフィルム上に延展し、120℃で乾燥させ冷却後、ポリエチレンフィルムへ粘着剤層を転写させ、テープ剤を作製する。