(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の無段変速機の油圧制御装置を実施するための形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【0010】
(実施例1)
まず、実施例1の無段変速機の油圧制御装置の構成を、「ハイブリッド車両の全体システム構成」、「プーリ油圧回路の詳細構成」、「無段変速機油圧制御処理構成」に分けて説明する。
【0011】
[ハイブリッド車両の全体システム構成]
図1は、実施例1の制御装置が適用されたハイブリッド車両(車両の一例)を示す全体システム図である。以下、
図1に基づいて、実施例1のハイブリッド車両の全体システム構成を説明する。
【0012】
実施例1の無段変速機の油圧制御装置は、
図1に示すハイブリッド車両に適用されている。このハイブリッド車両の駆動系は、エンジンEngと、第1クラッチCL1と、モータ/ジェネレータMGと、第2クラッチCL2と、無段変速機CVTと、ファイナルギヤFGと、左駆動輪LTと、右駆動輪RTと、を備えている。
【0013】
前記エンジンEngは、希薄燃焼可能であり、スロットルアクチュエータによる吸入空気量とインジェクタによる燃料噴射量と、点火プラグによる点火時期の制御により、エンジントルクが指令値と一致するように制御される。
【0014】
前記第1クラッチCL1は、エンジンEngとモータ/ジェネレータMGとの間の位置に介装される。この第1クラッチCL1としては、例えば、ダイアフラムスプリングによる付勢力にて常時解放(ノーマルオープン)の乾式クラッチが用いられ、エンジンEngからモータ/ジェネレータMG間の締結/半締結/解放を行なう。この第1クラッチCL1が完全締結状態ならモータトルクとエンジントルクが第2クラッチCL2へと伝達され、解放状態ならモータトルクのみが、第2クラッチCL2へと伝達される。なお、締結/半締結/解放の制御は、油圧アクチュエータに対するストローク制御にて行われる。
【0015】
前記モータ/ジェネレータMGは、交流同期モータ構造であり、発進時や走行時に駆動トルク制御や回転数制御を行うと共に、制動時や減速時に回生ブレーキ制御による車両運動エネルギーのバッテリBATへの回収を行なうものである。
【0016】
前記第2クラッチCL2は、モータ/ジェネレータMGと左右駆動輪LT,RTとの間に介装された油圧作動による湿式の多板摩擦クラッチであり、第2クラッチ油圧により完全締結/スリップ締結/解放が制御される。実施例1の第2クラッチCL2は、遊星ギアによる無段変速機CVTの前後進切替機構に設けられた前進クラッチFCと後退ブレーキRBを流用している。つまり、前進走行時には、前進クラッチFCが第2クラッチCL2とされ、後退走行時には、後退ブレーキRBが第2クラッチCL2とされる。
【0017】
前記無段変速機CVTは、プライマリプーリPriと、セカンダリプーリSecと、このプライマリプーリPriとセカンダリプーリSecの間に掛け渡されたプーリベルトVを有するベルト式無段変速機である。プライマリプーリPriとセカンダリプーリSecは、それぞれ油圧が供給されることでプーリ幅を変更し、プーリベルトVを挟持する面の径を変更して変速比(プーリ比)を自在に制御する。
【0018】
さらに、モータ/ジェネレータMGのモータ出力軸MGoutには、チェーンCHを介して機械式オイルポンプO/Pの入力ギアが接続されている。この機械式オイルポンプO/Pは、モータ/ジェネレータMGの回転駆動力によって作動するオイルポンプであり、例えばギアポンプやベーンポンプ等が用いられる。また、この機械式オイルポンプO/Pは、モータ/ジェネレータMGの回転方向に拘らずオイル吐出が可能となっている。さらに、ここでは、オイルポンプとして、サブモータS/Mの回転駆動力によって作動する電動オイルポンプM/O/Pが設けられている。
【0019】
そして、この機械式オイルポンプO/Pと電動オイルポンプM/O/Pは、第1,第2クラッチCL1,CL2及び無段変速機CVTへ供給する作動油圧(制御圧)を作り出す油圧供給源OILとなっている。この油圧供給源OILでは、機械式オイルポンプO/Pからの吐出油圧が十分であるときはサブモータS/Mを停止して電動オイルポンプM/O/Pを停止させる。また、機械式オイルポンプO/Pからの吐出油圧が低下すると、サブモータS/Mを駆動して電動オイルポンプM/O/Pを作動させ、この電動オイルポンプM/O/Pからも作動油を吐出するように切り替えられる。
【0020】
そして、このハイブリッド車両は、第1クラッチCL1とモータ/ジェネレータMGと第2クラッチCL2により1モータ・2クラッチの駆動システムが構成され、この駆動システムによる主な駆動態様として「EVモード」と「HEVモード」を有する。
前記「EVモード」は、第1クラッチCL1を解放し、第2クラッチCL2を締結してモータ/ジェネレータMGのみを駆動源に有する電気自動車モードである。
前記「HEVモード」は、第1,第2クラッチCL1,CL2を締結してエンジンEngとモータ/ジェネレータMGを駆動源に有するハイブリッド車モードである。
【0021】
実施例1のハイブリッド車両の制御系は、
図1に示すように、インバータINVと、バッテリBATと、統合コントローラ10と、変速機コントローラ11と、クラッチコントローラ12と、エンジンコントローラ13と、モータコントローラ14と、バッテリコントローラ15と、を備えている。
【0022】
前記インバータINVは、直流/交流の変換を行い、モータ/ジェネレータMGの駆動電流を生成する。また生成する駆動電流の位相を逆転することでモータ/ジェネレータMGの出力回転を反転する。
【0023】
前記バッテリBATは、充放電可能な二次電池であり、モータ/ジェネレータMGへの電力供給と、モータ/ジェネレータMGが回生した電力の充電を行う。
【0024】
前記統合コントローラ10は、バッテリ状態(ここでは、バッテリコントローラ15から入力)、アクセル開度(ここでは、アクセル開度センサ21により検出)、及び車速(ここでは、変速機出力回転数に同期した値、変速機出力回転数センサ22により検出)から目標駆動トルクを演算する。そして、その結果に基づき各アクチュエータ(モータ/ジェネレータMG、エンジンEng、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、無段変速機CVT)に対する指令値を演算し、各コントローラ11〜15へと送信する。
【0025】
また、この統合コントローラ10は、アイドルストップ制御部10aを有している。このアイドルストップ制御部10aは、車速等に基づいて停車(車両停止)を判定したら、エンジンEng及びモータ/ジェネレータMGからなる走行駆動源を停止させる。そして、運転者のアクセル操作やブレーキ操作(ブレーキスイッチセンサ23により検出)、ステアリング操作等に基づき、停車後の再発進意図の発生を判定したら、エンジンEngやモータ/ジェネレータMGからなる走行駆動源を再始動させる。
【0026】
前記変速機コントローラ11(油圧コントローラ)は、統合コントローラ10からの変速指令を達成するように変速制御を行なう。この変速制御は、プーリ油圧回路100を介して無段変速機CVTのプライマリプーリPriの油圧室に供給する油圧(以下、「プライマリ圧P
Pri」という)及びセカンダリプーリSecの油圧室に供給する油圧(以下、「セカンダリ圧P
Sec」という)をそれぞれ制御することで行われる。
また、この変速機コントローラ11では、プーリ油圧回路100における油圧制御を行う。すなわち、サブモータS/Mを駆動する際、機械式オイルポンプO/Pからの吐出油圧(モータ回転数センサ24の検出値から演算)に応じて、電動オイルポンプM/O/Pの回転数制御を行う。さらに、この変速機コントローラ11では、停車時にアイドルストップ制御部10aによって走行駆動源が停止されたら、サブモータS/Mが駆動しているときには、このサブモータS/Mを停止させ、油圧供給源OILからの油圧供給を停止する。そして、停車後の再発進意図が発生し、走行駆動源が再駆動したら、サブモータS/Mを作動させて油圧供給源OILからの油圧供給を再開する。
【0027】
前記クラッチコントローラ12は、第2クラッチ入力回転数(モータ回転数センサ24により検出)、第2クラッチ出力回転数(第2クラッチ出力回転数センサ25により検出)、クラッチ油温(作動油温センサ26により検出)を入力する。また、このクラッチコントローラ12は、統合コントローラ10からの第1クラッチ制御指令及び第2クラッチ制御指令を達成するように、第1クラッチ制御、第2クラッチ制御をそれぞれ行う。この第1クラッチ制御は、プーリ油圧回路100を介して第1クラッチCL1に供給される油圧を制御することで行われる。また、第2クラッチ制御は、プーリ油圧回路100を介して第2クラッチCL2に供給される油圧を制御することで行われる。
【0028】
前記エンジンコントローラ13は、エンジン回転数(エンジン回転数センサ27により検出)を入力すると共に、統合コントローラ10からの目標エンジントルクに対応したエンジントルク指令値を達成するようにエンジントルク制御を行なう。
【0029】
前記モータコントローラ14は、統合コントローラ10からの目標モータトルクに対応したモータトルク指令値やモータ回転数指令値を達成するようにモータ/ジェネレータMGの制御を行なう。
【0030】
前記バッテリコントローラ15は、バッテリBATの充電状態を管理し、その情報を統合コントローラ10へと送信する。なお、バッテリBATの充電状態は、バッテリ電圧センサ15aが検出する電源電圧と、バッテリ温度センサ15bが検出するバッテリ温度とに基づいて演算している。
【0031】
[プーリ油圧回路の詳細構成]
図2は、実施例1のハイブリッド車両に備えられたプーリ油圧回路を示す油圧回路図である。以下、
図2に基づいて、実施例1のプーリ油圧回路の詳細構成を説明する。
【0032】
前記プーリ油圧回路100は、機械式オイルポンプO/P及び電動オイルポンプM/O/Pからなる油圧供給源OILから供給される作動油圧を、第1クラッチCL1、第2クラッチCL2、無段変速機CVTのプライマリプーリPri、セカンダリプーリSecにそれぞれ調圧して供給する。このプーリ油圧回路100は、
図2に示すように、供給油圧源OILと、ライン圧調整弁110と、第1クラッチ圧調整弁111と、プライマリ圧調整弁112と、セカンダリ圧調整弁113と、第2クラッチ圧調整弁114と、第1クラッチ圧制御弁115と、を有している。
【0033】
前記ライン圧調整弁110は、油圧供給源OILの吐出口に接続された変速機油圧回路101に設けられ、油圧供給源OILの吐出圧を元圧にしてライン圧PLを調圧する圧力調整弁である。すなわち、このライン圧調整弁110は、変速機コントローラ11からの指示値によってスプールを移動させ、変速機油圧回路101の作動油圧を第1クラッチ油圧回路102に逃がすことで、ライン圧PLを調圧する。
【0034】
前記第1クラッチ圧調整弁111は、ライン圧調整弁110の下流側(ドレン側)に接続された第1クラッチ油圧回路102に設けられ、ライン圧PLを元圧にして第1クラッチレギュレータ圧PRCLを調圧する圧力調整弁である。すなわち、この第1クラッチ圧調整弁111は、変速機コントローラ11からの指示値によってスプールを移動させ、第1クラッチ油圧回路102の作動油圧をドレン回路103に逃がすことで、第1クラッチレギュレータ圧PRCLを調圧する。つまり、第1クラッチレギュレータ圧PRCLが過剰な場合、この第1クラッチ圧調整弁111により、その余剰分の作動油圧がドレン回路103に抜かれる。
【0035】
前記ドレン回路103は、第1クラッチ油圧回路102での油圧が過剰なときに、その余剰分の作動油圧を抜くための回路である。このドレン回路103に流れた作動油は、第1,第2クラッチCL1,CL2等の潤滑に回された後、ストレーナ108に回収される。なお、ストレーナ108に回収された作動油は、吸入回路109を介して油圧供給源OILに吸い込まれる。
【0036】
前記プライマリ圧調整弁112は、変速機油圧回路101に設けられ、ライン圧PLを元圧にしてプライマリ圧P
Priを調圧する圧力調整弁である。すなわち、このプライマリ圧調整弁112は、変速機コントローラ11からの指示値によってスプールを閉じることで、プライマリ回路104に供給されるライン圧PLを減圧し、プライマリ圧P
Priを調圧する。
ここで、プライマリ圧調整弁112に対して全開指示値を出力すると、このプライマリ圧調整弁112は全開状態になり、ライン圧PLを減圧することなくプライマリ圧P
Priにする。すなわち、ライン圧PL指示値=プライマリ圧P
Pri指示値のときには、プライマリ圧調整弁112に対して全開指示値が出力される。
なお、プライマリ圧P
Priが過剰な場合には、このプライマリ圧調整弁112を介して余剰分の作動油圧がドレン回路103に抜かれる。
【0037】
前記セカンダリ圧調整弁113は、変速機油圧回路101に設けられ、ライン圧PLを元圧にしてセカンダリ圧P
Secを調圧する圧力調整弁である。すなわち、このセカンダリ圧調整弁113は、変速機コントローラ11からの指示値によってスプールを閉じることで、セカンダリ回路105に供給されるライン圧PLを減圧し、セカンダリ圧P
Secを調圧する。
ここで、セカンダリ圧調整弁113に対して全開指示値を出力すると、このセカンダリ圧調整弁113は全開状態になり、ライン圧PLを減圧することなくセカンダリ圧P
Secにする。すなわち、ライン圧PL指示値=セカンダリ圧P
Sec指示値のときには、セカンダリ圧調整弁113に対して全開指示値が出力される。
なお、セカンダリ圧P
Secが過剰な場合には、このセカンダリ圧調整弁113を介して余剰分の作動油圧がドレン回路103に抜かれる。
【0038】
前記第2クラッチ圧調整弁114は、変速機油圧回路101に設けられ、ライン圧PLを元圧にして第2クラッチCL2に供給する第2クラッチ圧P
CL2を調圧する圧力調整弁である。すなわち、この第2クラッチ圧調整弁114は、変速機コントローラ11からの指示値によってスプールを閉じることで、第2クラッチ回路106に供給されるライン圧PLを減圧し、第2クラッチ圧P
CL2を調圧する。
なお、ここでは、前進クラッチFCと後退ブレーキRBに供給する油圧を個別に調圧する。また、第2クラッチ圧P
CL2が過剰な場合には、この第2クラッチ圧調整弁114を介して余剰分の作動油圧がドレン回路103に抜かれる。
【0039】
前記第1クラッチ圧制御弁115は、第1クラッチ油圧回路102に設けられ、第1クラッチレギュレータ圧PRCLを元圧にして第1クラッチCL1に供給する第1クラッチ圧P
CL1を調圧する圧力調整弁である。すなわち、この第1クラッチ圧制御弁115は、変速機コントローラ11からの指示値によってスプールを閉じることで、第1クラッチ回路107に供給される第1クラッチレギュレータ圧PRCLを減圧し、第1クラッチ圧P
CL1を調圧する。
なお、第1クラッチ圧P
CL1が過剰な場合には、この第1クラッチ圧制御弁115を介して余剰分の作動油圧がドレン回路103に抜かれる。
【0040】
[無段変速機油圧制御処理構成]
図3は、実施例1の統合コントローラにて実行される無段変速機油圧制御処理の流れを示すフローチャートである。以下、
図3に基づいて、実施例1の無段変速機油圧制御処理構成を説明する。
【0041】
ステップS1では、車速や、アクセル開度、ブレーキ操作情報等の必要情報を読み込み、ステップS2へ進む。
【0042】
ステップS2では、ステップS1での必要情報の読み込みに続き、車両が停止したか否かを判断する。YES(停車)の場合はステップS3へ進む。NO(非停車)の場合はステップS10へ進む。
ここでは、車両の停止(停車)は、ブレーキスイッチがONになると共に、車速が所定値未満になったことで判断する。
【0043】
ステップS3では、ステップS2での停車との判断に続き、油圧供給源OILからの油圧供給を停止可能か否か、つまりオイルポンプ停止条件が成立したか否かを判断する。YES(オイルポンプ停止条件成立)の場合はステップS4へ進む。NO(オイルポンプ停止条件未成立)の場合はステップS10へ進む。
ここで、「オイルポンプ停止条件」とは、例えばアイドルストップ制御部10aによって走行駆動源が停止されたこと等である。
【0044】
ステップS4では、ステップS3でのオイルポンプ停止条件成立との判断に続き、サブモータS/Mを停止して電動オイルポンプM/O/Pを停止させると共に、停車後の再発進時に高油圧になるセカンダリ圧P
Secを調圧するセカンダリ圧調整弁113に対して全開指示値を出力し、ステップS5へ進む。
ここで、停車直前では、車速の低下に伴ってモータ/ジェネレータMGの出力回転数が低下し、機械式オイルポンプO/Pの吐出油圧が不足する。そのため、通常、サブモータS/Mを駆動して電動オイルポンプM/O/Pを作動させ、油圧供給源OILからの油圧供給を確保している。このステップS4において電動オイルポンプM/O/Pを停止することで、油圧供給源OILからの油圧供給が停止する。これにより、変速機油圧回路101等から作動油が抜けていく。
また、セカンダリ圧調整弁113に対して全開指令値を出力すると、このセカンダリ圧調整弁113は全開状態になり、ライン圧PLが減圧されることなくセカンダリ回路105に供給される。つまり、セカンダリ圧 P
Secを調圧するセカンダリ圧調整弁113への指示値が、ライン圧調整弁110に対する指示値で設定されるライン圧PL以上の値に設定されることとなる。
なお、ライン圧PLを調圧するライン圧調圧弁110に対する指示値と、プライマリ圧P
Priを調圧するプライマリ圧調整弁112に対する指示値は、いずれも電動オイルポンプM/O/Pの停止前と同じ値のままとする。
【0045】
ステップS5では、ステップS4でのオイルポンプ停止とセカンダリ圧調整弁113への全開指示値の出力に続き、車両を再発進させる意図がドライバーに発生したか否かを判断する。YES(再発進意図あり)の場合はステップS6へ進む。NO(再発進意図なし)の場合はステップS4へ戻る。
ここで、「再発進させる意図」は、ブレーキスイッチがOFFになったこと(ブレーキペダルから足が離れたこと)で発生したと判断する。
【0046】
ステップS6では、ステップS5での再発進意図ありとの判断に続き、サブモータS/Mを駆動して電動オイルポンプM/O/Pを作動させ、ステップS7へ進む。電動オイルポンプM/O/Pが作動することで、油圧供給源OILからの油圧供給が再開し、変速機油圧回路101等に作動油が流れ込む。
【0047】
ステップS7では、ステップS6での電動オイルポンプM/O/Pの作動に続き、ライン圧PLの実際値(実ライン圧)が安定したか否かを判断する。YES(実ライン圧安定)の場合はステップS8へ進む。NO(実ライン圧不安定)の場合はステップS6へ戻る。
ここで、プーリ油圧回路100の変速機油圧回路101に設けた油圧センサ101a(
図2参照)によって検出した実ライン圧に基づき、この検出した実ライン圧の値が目標値に対して所定の許容範囲内に所定時間の間収束したら、実ライン圧が安定したと判断する。
【0048】
ステップS8では、ステップS7での実ライン圧安定との判断に続き、セカンダリ圧P
Secの実際値(実セカンダリ圧)が安定したか否かを判断する。YES(実セカンダリ圧安定)の場合はステップS9へ進む。NO(実セカンダリ圧不安定)の場合はステップS6へ戻る。
ここで、プーリ油圧回路100のセカンダリ回路105に設けた油圧センサ105a(
図2参照)によって検出した実セカンダリ圧に基づき、この検出した実セカンダリ圧の値が指示値(ここでは、ライン圧指示値に一致)に対して所定の許容範囲内に所定時間の間収束したら、実セカンダリ圧が安定したと判断する。
【0049】
ステップS9では、ステップS8での実セカンダリ圧安定との判断に続き、プライマリ圧P
Priの実際値(実プライマリ圧)が必要油圧を確保したか否かを判断する。YES(実プライマリ圧≧必要油圧)の場合はステップS10へ進む。NO(実プライマリ圧<必要油圧)の場合はステップS6へ戻る。
ここで、実プライマリ圧は、プーリ油圧回路100のプライマリ回路104に設けた油圧センサ104a(
図2参照)によって検出する。また、必要油圧は、無段変速機CVTの変速を可能とする油圧であり、任意に設定する。
【0050】
ステップS10では、ステップS2での非停車との判断、又はステップS3でのオイルポンプ停止条件未成立との判断、又はステップS9での実プライマリ圧≧必要油圧との判断のいずれかに続き、通常油圧制御を実施し、リターンへ進む。
ここで、ステップS2に続く「通常油圧制御」とは、走行中油圧制御であり、プライマリ圧P
Pri及びセカンダリ圧P
Secを、アクセル開度と車速に基づいて設定される要求変速比に応じた値とするように、プライマリ圧調整弁112及びセカンダリ圧調整弁113を個別に制御することである。
また、ステップS3に続く「通常油圧制御」とは、アイドルストップ中油圧制御であり、無段変速機CVTの変速比は維持したまま、プーリ油圧回路100の各回路からのオイル抜けを防止するように、サブモータS/Mを制御することである。
さらに、ステップS9に続く「通常油圧制御」とは、再発進時油圧制御であり、無段変速機CVTの変速比を最ローに固定したまま、セカンダリ圧P
Secがライン圧PLに対して所定のマージン分低い値になるように、セカンダリ圧調整弁113を制御することである。
【0051】
次に、作用を説明する。
まず、「比較例の制御装置における油圧制御とその課題」を説明し、続いて、実施例1の無段変速機の油圧制御装置における油圧制御作用を説明する。
【0052】
[比較例の制御装置における油圧制御とその課題]
図4は、比較例の制御装置において、アイドルストップ前後におけるアクセル開度・ブレーキスイッチ・車速・電動オイルポンプ回転数・ライン圧指示値・セカンダリ圧指示値・実ライン圧・実セカンダリ圧の各特性を示すタイムチャートである。以下、
図4に基づいて、比較例の制御装置における油圧制御とその課題を説明する。
【0053】
ハイブリッド車両において、アクセルペダルから足を離してブレーキペダルを踏み込むと、ブレーキスイッチがONになると共に車速が低下していく。このとき、車速の低下に伴ってモータ/ジェネレータMGの回転数が低下し、機械式オイルポンプO/Pの吐出油圧が不足する。このため、サブモータS/Mを駆動して電動オイルポンプM/O/Pを作動させ、ライン圧PLを確保する。このとき、電動オイルポンプ回転数が、ライン圧PLの指示値(目標値)に応じた値になるように制御される。また、ライン圧PLの変動によって無段変速機CVTの変速制御が不安定になることを防止するため、セカンダリ圧P
Secがライン圧PLに対して所定のマージン分低い値となるように、ライン圧PLの指示値に対してセカンダリ圧P
Secの指示値はマージン分低い値に設定される。
【0054】
図4に示す時刻t
1時点において車速がゼロになり、停車したと判断されると共に、オイルポンプ停止条件が成立したら、サブモータS/Mを停止して電動オイルポンプM/O/Pを停止させる。これにより、電動オイルポンプM/O/Pの回転数がゼロになり、油圧供給源OILから変速機油圧回路101への油圧供給が停止する。このため、ライン圧PLの実際値(実ライン圧)及びセカンダリ圧P
Secの実際値(実セカンダリ圧)はゼロになる。
なお、ライン圧PLの指示値及びセカンダリ圧P
Secの指示値は、停車前の値に対して変動させずに維持する。
【0055】
時刻t
2時点において、ブレーキペダルから足を離したことでブレーキスイッチがOFFになったら、ドライバーに再発進意図が生じたとして、サブモータS/Mを駆動して電動オイルポンプM/O/Pを作動させる。これにより、電動オイルポンプM/O/Pの回転数が上昇し、油圧供給源OILから変速機油圧回路101への油圧供給が再開される。また、油圧供給の再開によって変速機油圧回路101及びセカンダリ回路105へと作動油が急激に流れ込み、実ライン圧及び実セカンダリ圧はそれぞれ急上昇する。その後、実ライン圧は、ライン圧調整弁110によってライン圧指示値に収束していく。また、実セカンダリ圧は、セカンダリ圧調整弁113によってセカンダリ圧指示値に収束していく。
なお、このとき油圧のオーバーシュート(指示値に対して大きく上振れすること)を抑制するため、電動オイルポンプM/O/Pの回転数は時間に応じて増加させていく。
【0056】
時刻t
3時点でアクセルペダルが踏み込まれると、アクセル開度が発生する。これに対し、油圧供給源OILからの油圧供給に伴って変速機油圧回路101やセカンダリ回路105等に急激に作動油が流れ込むことで、実ライン圧や実セカンダリ圧が大幅にオーバーシュートし、この時刻t
3時点では、実ライン圧及び実セカンダリ圧は安定していない。そのため、無段変速機CVTにおけるトルク伝達を行うことができず、走行駆動源であるモータ/ジェネレータMG等からの動力を伝達することができないため、車速は上昇しない。
【0057】
その後、時刻t
4時点において実ライン圧が安定するが、この時刻t
4時点では実セカンダリ圧は安定していない。ここで、セカンダリ圧P
Secは、変速機油圧回路101内の油圧であるライン圧PLを元圧として得られる油圧、つまりライン圧PLを減圧することで得られる油圧であり、ライン圧調整弁110によるライン圧PLの調圧とセカンダリ圧調整弁113によるセカンダリ圧P
Secの調圧が双方完了した時点で安定する。つまり、ライン圧調整弁110による調圧が完了して実ライン圧が安定しても、セカンダリ圧調整弁113による調圧が完了しなければ、実セカンダリ圧は安定しない。
【0058】
時刻t
5時点において、セカンダリ圧調整弁113による調圧が完了したら、実セカンダリ圧が安定する。これにより、無段変速機CVTにおけるトルク伝達が可能となり、走行駆動源(モータ/ジェネレータMG等)からの動力が伝達され、車速が発生する。
【0059】
このように、比較例の制御装置では、セカンダリ圧P
Secを調圧するセカンダリ圧調整弁113に対する指示値を、ライン圧PLよりも所定のマージン分低い値にしている。そのため、停車後に再発進させる際、ライン圧調整弁110によるライン圧PLの調圧と、セカンダリ圧調整弁113によるセカンダリ圧P
Secの調圧との双方が完了しなければ、セカンダリ圧P
Secが安定しない。これにより、早期に油圧を安定させて、走行駆動源からの動力伝達を実現することが難しかった。
【0060】
[油圧制御作用]
図5は、実施例1の制御装置において、アイドルストップ前後におけるアクセル開度・ブレーキスイッチ・車速・電動オイルポンプ回転数・ライン圧指示値・セカンダリ圧指示値・プライマリ圧指示値・実ライン圧・実セカンダリ圧・実プライマリ圧の各特性を示すタイムチャートである。以下、
図5に基づいて、実施例1の制御装置における油圧制御作用を説明する。
【0061】
実施例1のハイブリッド車両において、アクセル足離し・ブレーキペダル踏み込み状態で車速が低下していき、機械式オイルポンプO/Pの吐出油圧が不足したら、サブモータS/Mを駆動して電動オイルポンプM/O/Pを作動させ、ライン圧PLを確保する。このような状態で
図5における時刻t
11時点で車速がゼロに達すると共に、オイルポンプ停止条件が成立すると、
図3に示すフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4へと進む。
【0062】
これにより、まずサブモータS/Mが停止され、電動オイルポンプM/O/Pが停止する。このため、電動オイルポンプ回転数がゼロになって油圧供給源OILからの油圧供給が停止し、変速機油圧回路101やプライマリ回路104、セカンダリ回路105等から作動油が抜ける。これにより、実ライン圧がゼロになる。また、実ライン圧がゼロになったことで、ライン圧PLを元圧として作り出される(つまり、ライン圧PLを減圧して作り出される)実セカンダリ圧及び実プライマリ圧もゼロになる。
【0063】
次に、セカンダリ圧調整弁113を全開状態にする全開指令値を出力し、セカンダリ圧P
Secを調圧するセカンダリ圧調整弁113に対する指示値をライン圧調整弁110に対する指示値以上の値に設定にする。なお、プライマリ圧P
Priを調圧するプライマリ圧調整弁112に対する指示値は、任意の必要油圧に対して変動させずに維持する。
【0064】
そして、時刻t
12時点において、ブレーキペダルから足を離したことでブレーキスイッチがOFFになったら、ドライバーの再発進意図が生じたとして、ステップS5→ステップS6へと進み、サブモータS/Mを駆動して電動オイルポンプM/O/Pを作動させる。これにより、電動オイルポンプM/O/Pの回転数が上昇し、油圧供給源OILから変速機油圧回路101への油圧供給が再開される。このとき、セカンダリ圧調整弁113に対しては、全開指令値が出力されたままであり、セカンダリ圧調整弁113に対する指示値は、ライン圧調整弁110に対する指示値以上の値のままで維持される。このため、変速機油圧回路101における油圧(実ライン圧)と、セカンダリ回路105における油圧(実セカンダリ圧)はほぼ同じ値になる。
【0065】
時刻t
13時点においてアクセルペダルが踏み込まれると、アクセル開度が発生する。これに対し、油圧供給源OILからの油圧供給に伴って変速機油圧回路101やセカンダリ回路105等に急激に作動油が流れ込むことで、実ライン圧及び実セカンダリ圧、実プライマリ圧はそれぞれ大幅にオーバーシュートする。そのため、この時刻t
13時点では、実ライン圧及び実セカンダリ圧は安定しておらず、無段変速機CVTにおけるトルク伝達を行うことができないため、車速は上昇しない。
【0066】
その後、時刻t
14時点において実ライン圧が安定するが、このとき、実ライン圧と実セカンダリ圧はほぼ同じ値になっているため、同時に実セカンダリ圧も安定する。そして、実セカンダリ圧が安定したことで、無段変速機CVTにおけるベルト滑りが生じず、トルク伝達が可能となる。そして、走行駆動源であるモータ/ジェネレータMG等からの動力が伝達され、車速が発生する。
【0067】
つまり、この実施例1では、セカンダリ圧P
Secを調圧するセカンダリ圧調整弁113に対する指示値をライン圧調整弁110に対する指示値以上の値に設定するために、セカンダリ圧調整弁113が全開状態で固定される。そして、セカンダリ圧P
Secの調圧は、ライン圧PLを調圧するライン圧調整弁110のみによって行われる。
これにより、セカンダリ圧P
Secの調圧に必要な調整弁が、比較例の制御装置に比べて少なくなり、セカンダリ圧P
Secが安定するまでの時間を短縮することができて、発進性能の低下を抑制することができる。
【0068】
また、この実施例1では、セカンダリ圧調整弁113を全開状態にすることで、セカンダリ圧調整弁113に対する指示値をライン圧調整弁110に対する指示値以上の値にする。これにより、簡易な制御でセカンダリ圧P
Secを確実にライン圧PL以上の値にすることができる。
【0069】
そして、時刻t
15時点において、実プライマリ圧が安定し、プライマリ圧P
Priが必要油圧を確保したら、
図3に示すフローチャートにおいて、ステップS7→ステップS8→ステップS9→ステップS10へと進んで、通常油圧制御が実施される。すなわち、セカンダリ圧P
Secがライン圧PLに対して所定のマージン分低い値になるように、セカンダリ圧調整弁113に対する指示値を低下させる。
これにより、無段変速機CVTの変速制御中にライン圧PLが変動しても、セカンダリ圧P
Secへの影響を抑制し、変速制御が不安定になることを防止できる。また、セカンダリ圧P
Secを必要油圧に抑制することができ、過推力状態から必要推力にすることができて、フリクションの低減を図ることができる。
【0070】
次に、効果を説明する。
実施例1の無段変速機の油圧制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0071】
(1) 有効径が可変であるプライマリプーリPri及びセカンダリプーリSecと、前記プライマリプーリPri及びセカンダリプーリSecに巻き掛けられるプーリベルトVと、を有する無段変速機CVTにおいて、
油圧供給源OILと、前記油圧供給源OILの吐出圧を元圧にしてライン圧PLを調圧するライン圧調整弁110と、前記ライン圧PLを元圧にして前記プライマリプーリPriに供給するプライマリ圧P
Priを調圧するプライマリ圧調整弁112と、前記ライン圧PLを元圧にして前記セカンダリプーリSecに供給するセカンダリ圧P
Secを調圧するセカンダリ圧調整弁113と、を有するプーリ油圧回路100と、
前記油圧供給源OILと、前記ライン圧調整弁110と、前記プライマリ圧調整弁112と、前記セカンダリ圧調整弁113をそれぞれ制御する油圧コントローラ(変速機コントローラ11)と、を備え、
前記油圧コントローラ(変速機コントローラ11)は、停車時に、前記油圧供給源OILを停止させ、
前記停車後の再発進時に、前記油圧供給源OILを作動させると共に、前記セカンダリ圧P
Secを調圧するセカンダリ圧調整弁113に対する指示値を、前記ライン圧調整弁110に対する指示値以上の値に設定する構成とした。
これにより、停車後の再発進時、無段変速機CVTのセカンダリプーリSecに供給する油圧(セカンダリ圧P
Sec)を早期に安定させ、発進性能の低下を抑制することができる。
【0072】
(2) 前記油圧コントローラ(変速機コントローラ11)は、前記再発進後、前記ライン圧PLと、前記セカンダリ圧P
Secとが、いずれも安定すると共に、前記プライマリ圧P
Priが必要油圧を確保したら、前記セカンダリ圧P
Secを調圧するセカンダリ圧調整弁113に対する指示値を、通常必要圧の値に設定する構成とした。
これにより、(1)の効果に加え、セカンダリ圧P
Secを必要油圧に抑制し、フリクションの低減を図ることができると共に、変速制御中にライン圧PLが変動しても、セカンダリ圧P
Secへの影響を抑制し、変速制御が不安定になることを防止できる。
【0073】
(3) 前記油圧コントローラ(変速機コントローラ11)は、前記停車後の再発進時に、前記セカンダリ圧P
Secを調圧するセカンダリ圧調整弁113に対し、全開指示値を出力する構成とした。
これにより、(1)又は(2)の効果に加え、簡易な制御でセカンダリ圧P
Secを確実にライン圧PL以上の値にすることができる。
【0074】
以上、本発明の無段変速機の油圧制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0075】
実施例1では、ライン圧PL及びセカンダリ圧P
Secがそれぞれ安定すると共に、プライマリ圧P
Priが必要油圧を確保したら、通常油圧制御を実施する例を示した。しかしながら、これに限らず、例えばセカンダリ圧P
Secが安定したタイミングで通常油圧制御を実施してもよい。
これにより、セカンダリ圧P
Secを速やかに必要油圧に低減することができて、過推力状態を短期間に抑え、フリクションの低減を図ることができる。
【0076】
また、実施例1では、停車を検出し、オイルポンプ停止条件が成立したら、直ちにセカンダリ圧P
Secを調圧するセカンダリ圧調整弁113を全開状態にする全開指示値を出力し、このセカンダリ圧調整弁113に対する指示値をライン圧調整弁110に対する指示値以上の値にする例を示したが、これに限らない。セカンダリ圧調整弁113に対する指示値をライン圧調整弁110に対する指示値以上の値に変更することは、停車判定後、再発進を検出するまでの間の任意のタイミングで行ってよい。
【0077】
さらに、実施例1では、セカンダリ圧調整弁113に対する指示値をライン圧調整弁110に対する指示値以上の値に設定する例を示したが、セカンダリ圧調整弁113に対する指示値はライン圧調整弁110に対する指示値と同値であってもよい。
【0078】
また、実施例1では、停車後の再発進時、プライマリ圧P
Pri又はセカンダリ圧P
Secのうち高油圧になる方の油圧として、セカンダリ圧P
Secとする例を示したが、再発進時にプライマリ圧P
Priを高油圧にするものであってもよい。
【0079】
そして、実施例1は、本発明の無段変速機の油圧制御装置をエンジンEngとモータ/ジェネレータMGを走行駆動源に有するハイブリッド車両に適用する例を示したが、これに限らない。モータ/ジェネレータMGのみを搭載した電気自動車や、エンジンEngのみを搭載したエンジン車、さらにプラグインハイブリッド車や燃料電池車等であっても適用することができる。