(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
延伸対象のフィルムとあらかじめ斜め延伸されたフィルムとを、該延伸対象のフィルムの設定延伸方向と該あらかじめ斜め延伸されたフィルムの配向方向とが実質的に直交するようにして貼り合わせ、積層体を得ること、
該積層体の左右側縁部を、それぞれ、縦方向のクリップピッチが変化する可変ピッチ型の左右のクリップによって把持すること、
該積層体を予熱すること、
該左右のクリップのクリップピッチをそれぞれ独立して変化させて、該積層体を斜め延伸すること、および
該積層体を把持するクリップを解放すること
を含み、
得られる位相差フィルムのNz係数が1.00以上1.10未満である、
位相差フィルムの製造方法。
前記積層体を把持するクリップを解放した後、該積層体から前記あらかじめ斜め延伸されたフィルムを剥離することをさらに含む、請求項1から3のいずれかに記載の位相差フィルムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0010】
本発明の実施形態による位相差フィルムの製造方法は、延伸対象のフィルムとあらかじめ斜め延伸されたフィルムとを、延伸対象のフィルムの設定延伸方向とあらかじめ斜め延伸されたフィルムの配向方向とが実質的に直交するようにして貼り合わせ、積層体を得ること;該積層体の左右側縁部を、それぞれ、縦方向のクリップピッチが変化する可変ピッチ型の左右のクリップによって把持すること(工程A:把持工程);該積層体を予熱すること(工程B:予熱工程);該左右のクリップのクリップピッチをそれぞれ独立して変化させて、該積層体を斜め延伸すること(工程C:斜め延伸工程);必要に応じて、該左右のクリップのクリップピッチを一定とした状態で、該積層体を熱処理すること(工程D:熱処理工程);および、該積層体を把持するクリップを解放すること(工程E:解放工程);を含む。以下、積層体の作製および斜め延伸の各工程について詳細に説明する。
【0011】
I.積層体
図1は、本発明の実施形態による製造方法に用いられる積層体の一例の要部分解斜視図である。積層体200は延伸対象のフィルム210とあらかじめ斜め延伸されたフィルム(以下、補助フィルムと称する場合がある)220とを含む。延伸対象フィルム210と補助フィルム220とは、任意の適切な粘着剤を介して剥離可能に貼り合わせられている。図示例のように、積層体200は代表的にはロール状である。補助フィルム220の配向方向(斜め延伸された方向:図中の矢印B)は、延伸対象フィルム210の設定延伸方向(長尺方向に対して角度αの方向であり遅相軸発現方向:図中の矢印A)に対して実質的に直交する方向である。したがって、例えば角度αが45°に設定されている場合、補助フィルムの配向方向は135°であり得る。このような積層体に斜め延伸を行うことにより(すなわち、補助フィルムを用いて延伸対象フィルムを斜め延伸することにより)、長尺方向に対して斜め方向に遅相軸を有し、かつ、非常に小さいNz係数を有する位相差フィルムを得ることができる。より詳細には以下のとおりである:
図2に示すように、延伸対象フィルムを斜め延伸する際、補助フィルムはその斜め延伸時の残留応力等に起因して補助フィルムの斜め延伸方向(延伸対象フィルムの斜め延伸方向に実質的に直交する方向:図中の破線の矢印方向)に収縮しようとする。当該収縮により、補助フィルムを用いない場合に比べて、斜め延伸されたフィルム面内の屈折率差(nx−ny)が増大し、かつ、斜め延伸されたフィルムの厚みが増大して厚み方向の屈折率nzが増大する。後述するとおり、位相差フィルムのNz係数はNz=Rth(λ)/Re(λ)=(nx−nz)/(nx−ny)で定義されるところ、上記補助フィルムの収縮により、得られる位相差フィルムのNz係数の定義式における分母が大きくなり、かつ、分子が小さくなるので、その相乗的な効果によりNz係数を非常に小さくすることができる。なお、本明細書において「実質的に直交」とは、2つの方向のなす角度が90°±10°である場合を包含し、好ましくは90°±7°であり、さらに好ましくは90°±5°である。また、本明細書において角度に言及するときは、特に明記しない限り、当該角度は時計回りおよび反時計回りの両方の方向の角度を包含する。
【0012】
延伸対象フィルム(より詳細には、後述のA項〜E項に記載の延伸方法に好適に用いられるフィルム)210としては、位相差フィルムとして用いられ得る任意の適切なフィルムが挙げられる。フィルムを構成する材料としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、シクロオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、セルロースエステル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエステルカーボネート系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂等が挙げられる。好ましくは、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、セルロースエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエステルカーボネート系樹脂である。これらの樹脂であれば、いわゆる逆分散の波長依存性を示す位相差フィルムが得られ得るからである。これらの樹脂は、単独で用いてもよく、所望の特性に応じて組み合わせて用いてもよい。
【0013】
上記ポリカーボネート系樹脂としては、任意の適切なポリカーボネート系樹脂が用いられる。例えば、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂が好ましい。ジヒドロキシ化合物の具体例としては、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−n−プロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−n−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−sec−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等が挙げられる。ポリカーボネート樹脂は、上記ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の他に、イソソルビド、イソマンニド、イソイデット、スピログリコール、ジオキサングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ビスフェノール類などのジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含んでいてもよい。
【0014】
上記のようなポリカーボネート樹脂の詳細は、例えば特開2012−67300号公報、特許第3325560号およびWO2014/061677号に記載されている。当該特許文献の記載は、本明細書に参考として援用される。
【0015】
ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、110℃以上250℃以下であることが好ましく、より好ましくは120℃以上230℃以下である。ガラス転移温度が過度に低いと耐熱性が悪くなる傾向にあり、フィルム成形後に寸法変化を起こす可能性がある。ガラス転移温度が過度に高いと、フィルム成形時の成形安定性が悪くなる場合があり、また、フィルムの透明性を損なう場合がある。なお、ガラス転移温度は、JIS K 7121(1987)に準じて求められる。
【0016】
上記ポリビニルアセタール樹脂としては、任意の適切なポリビニルアセタール樹脂を用いることができる。代表的には、ポリビニルアセタール樹脂は、少なくとも2種類のアルデヒド化合物及び/又はケトン化合物と、ポリビニルアルコール系樹脂とを縮合反応させて得ることができる。ポリビニルアセタール樹脂の具体例および詳細な製造方法は、例えば、特開2007−161994号公報に記載されている。当該記載は、本明細書に参考として援用される。
【0017】
延伸対象フィルム210の厚みは、得られる位相差フィルムの目的、所望の厚みおよび斜め延伸の条件等に応じて適切に設定され得る。
【0018】
補助フィルム220は、任意の適切な材料で構成され得る。1つの実施形態においては、補助フィルムは、延伸対象フィルムと同一の材料で構成され得る。補助フィルムを延伸対象フィルムと同一材料で構成することにより、Tgが同一であるので延伸対象フィルムの延伸時に補助フィルムの収縮が起きやすいという利点が得られる。
【0019】
補助フィルムの厚みは、好ましくは20μm以上であり、より好ましくは30μm以上である。当該厚みが20μmを下回ると、得られる収縮力が小さくなってしまい、所望のNz係数が得られない場合がある。
【0020】
積層体200は、例えば以下の手順により作製され得る:まず、斜め延伸された補助フィルムの表面に表面処理(例えば、コロナ処理)を施し、当該表面処理面に粘着剤を塗工し、粘着剤が塗工された補助フィルムと延伸対象フィルムとをロールにより積層することにより、積層体が得られる。また、補助フィルムを2枚用いて、当該2枚の補助フィルムで延伸対象フィルムを挟んだ3層構成の積層体を作製してもよい。
【0021】
II.斜め延伸
A.把持工程
最初に、
図3〜
図5を参照して、本工程を含む本発明の製造方法に用いられ得る延伸装置について説明する。
図3は、本発明の製造方法に用いられ得る延伸装置の一例の全体構成を説明する概略平面図である。
図4および
図5は、それぞれ、
図3の延伸装置においてクリップピッチを変化させるリンク機構を説明するための要部概略平面図であり、
図4はクリップピッチが最小の状態を示し、
図5はクリップピッチが最大の状態を示す。延伸装置100は、平面視で、左右両側に、フィルム(本発明においては上記I項の積層体)把持用の多数のクリップ20を有する無端ループ10Lと無端ループ10Rとを左右対称に有する。なお、本明細書においては、フィルムの入口側から見て左側の無端ループを左側の無端ループ10L、右側の無端ループを右側の無端ループ10Rと称する。左右の無端ループ10L、10Rのクリップ20は、それぞれ、基準レール70に案内されてループ状に巡回移動する。左側の無端ループ10Rは反時計廻り方向に巡回移動し、右側の無端ループ10Rは時計廻り方向に巡回移動する。延伸装置においては、シートの入口側から出口側へ向けて、把持ゾーンA、予熱ゾーンB、斜め延伸ゾーンC、熱処理ゾーンD、および解放ゾーンEが順に設けられている。なお、これらのそれぞれのゾーンは、延伸対象となる積層体が実質的に把持、予熱、斜め延伸、熱処理および解放されるゾーンを意味し、機械的、構造的に独立した区画を意味するものではない。また、それぞれのゾーンの長さの比率は、実際の長さの比率と異なることに留意されたい。
【0022】
把持ゾーンAおよび予熱ゾーンBでは、左右の無端ループ10R、10Lは、延伸対象となる積層体の初期幅に対応する離間距離で互いに略平行となるよう構成されている。斜め延伸ゾーンCでは、予熱ゾーンBの側から熱処理ゾーンDに向かうに従って左右の無端ループ10R、10Lの離間距離が上記積層体の延伸後の幅に対応するまで徐々に拡大する構成とされている。熱処理ゾーンDでは、左右の無端ループ10R、10Lは、上記積層体の延伸後の幅に対応する離間距離で互いに略平行となるよう構成されている。
【0023】
左側の無端ループ10Lのクリップ(左側のクリップ)20および右側の無端ループ10Rのクリップ(右側のクリップ)20は、それぞれ独立して巡回移動し得る。例えば、左側の無端ループ10Lの駆動用スプロケット11、12が電動モータ13、14によって反時計廻り方向に回転駆動され、右側の無端ループ10Rの駆動用スプロケット11、12が電動モータ13、14によって時計廻り方向に回転駆動される。その結果、これら駆動用スプロケット11、12に係合している駆動ローラ(図示せず)のクリップ担持部材30に走行力が与えられる。これにより、左側の無端ループ10Lは反時計廻り方向に巡回移動し、右側の無端ループ10Rは時計廻り方向に巡回移動する。左側の電動モータおよび右側の電動モータを、それぞれ独立して駆動させることにより、左側の無端ループ10Lおよび右側の無端ループ10Rをそれぞれ独立して巡回移動させることができる。
【0024】
さらに、左側の無端ループ10Lのクリップ(左側のクリップ)20および右側の無端ループ10Rのクリップ(右側のクリップ)20は、それぞれ可変ピッチ型である。すなわち、左右のクリップ20、20は、それぞれ独立して、移動に伴って縦方向(MD)のクリップピッチ(クリップ間距離)が変化し得る。可変ピッチ型は、任意の適切な構成により実現され得る。以下、一例として、リンク機構(パンタグラフ機構)について説明する。
【0025】
図4および
図5に示すように、クリップ20を個々に担持する平面視横方向に細長矩形状のクリップ担持部材30が設けられている。図示しないが、クリップ担持部材30は、上梁、下梁、前壁(クリップ側の壁)、および後壁(クリップと反対側の壁)により閉じ断面の強固なフレーム構造に形成されている。クリップ担持部材30は、その両端の走行輪38により走行路面81、82上を転動するよう設けられている。なお、
図4および
図5では、前壁側の走行輪(走行路面81上を転動する走行輪)は図示されない。走行路面81、82は、全域に亘って基準レール70に並行している。クリップ担持部材30の上梁と下梁の後側(クリップと反対側)には、クリップ担持部材の長手方向に沿って長孔31が形成され、スライダ32が長孔31の長手方向にスライド可能に係合している。クリップ担持部材30のクリップ20側端部の近傍には、上梁および下梁を貫通して一本の第1の軸部材33が垂直に設けられている。一方、クリップ担持部材30のスライダ32には一本の第2の軸部材34が垂直に貫通して設けられている。各クリップ担持部材30の第1の軸部材33には主リンク部材35の一端が枢動連結されている。主リンク部材35は、他端を隣接するクリップ担持部材30の第2の軸部材34に枢動連結されている。各クリップ担持部材30の第1の軸部材33には、主リンク部材35に加えて、副リンク部材36の一端が枢動連結されている。副リンク部材36は、他端を主リンク部材35の中間部に枢軸37によって枢動連結されている。主リンク部材35、副リンク部材36によるリンク機構により、
図4に示すように、スライダ32がクリップ担持部材30の後側(クリップ側の反対側)に移動しているほど、クリップ担持部材30同士の縦方向のピッチ(以下、単にクリップピッチと称する)が小さくなり、
図5に示すように、スライダ32がクリップ担持部材30の前側(クリップ側)に移動しているほど、クリップピッチが大きくなる。スライダ32の位置決めは、ピッチ設定レール90により行われる。
図4および
図5に示すように、クリップピッチが大きいほど、基準レール70とピッチ設定レール90との離間距離が小さくなる。なお、リンク機構は当業界において周知であるので、より詳細な説明は省略する。
【0026】
上記のような延伸装置を用いて積層体の斜め延伸を行うことにより、斜め方向(例えば、縦方向に対して45°の方向)に遅相軸を有する位相差フィルムが作製され得る。まず、把持ゾーンA(延伸装置100のフィルム取り込みの入り口)において、左右の無端ループ10R、10Lのクリップ20によって、延伸対象となる積層体の両側縁が互いに等しい一定のクリップピッチP
1で把持され、左右の無端ループ10R、10Lの移動(実質的には、基準レール70に案内された各クリップ担持部材30の移動)により、当該フィルムが予熱ゾーンBに送られる。
【0027】
B.予熱工程
予熱ゾーン(予熱工程)Bにおいては、左右の無端ループ10R、10Lは、上記のとおり延伸対象となる積層体の初期幅に対応する離間距離で互いに略平行となるよう構成されているので、基本的には横延伸も縦延伸も行わず、積層体が加熱される。本発明の実施形態による製造方法においては、予熱ゾーン(予熱工程)において左右のクリップピッチをそれぞれP
1からP
1’まで減少させ、積層体を適度にたるませてもよい。適度にたるんだ状態から斜め延伸を行うことにより、Nz係数がさらに小さい位相差フィルムが得られ得る。
【0028】
予熱工程においては、フィルムを温度T1(℃)まで加熱する。温度T1は、積層体(実質的には、延伸対象フィルム)のガラス転移温度(Tg)以上であることが好ましく、より好ましくはTg+2℃以上、さらに好ましくはTg+5℃以上である。一方、加熱温度T1は、好ましくはTg+40℃以下、より好ましくはTg+30℃以下である。用いる積層体またはフィルムにより異なるが、温度T1は、例えば70℃〜180℃であり、好ましくは120℃〜180℃である。
【0029】
上記温度T1までの昇温時間および温度T1での保持時間は、積層体またはフィルムの構成材料や製造条件(例えば、積層体の搬送速度)に応じて適切に設定され得る。これらの昇温時間および保持時間は、クリップ20の移動速度、予熱ゾーンの長さ、予熱ゾーンの温度等を調整することにより制御され得る。
【0030】
C.斜め延伸工程
斜め延伸ゾーン(斜め延伸工程)Cにおいては、左右のクリップ20のクリップピッチをそれぞれ独立して変化させて、積層体を斜め延伸する。斜め延伸の方式は、所望の位相差フィルムが得られる限りにおいて任意の適切な方式が採用され得る。1つの実施形態においては、斜め延伸は、一方のクリップのクリップピッチを増大させ、かつ、他方のクリップのクリップピッチを減少させること;および、左右のクリップのクリップピッチが等しくなるように該一方のクリップのクリップピッチを維持または減少させ、かつ、該他方のクリップのクリップピッチを増大させること;を含む。以下、
図6および
図7を参照して、本実施形態を具体的に説明する。なお、斜め延伸は、例えば図示例のように、左右のクリップ間の距離(幅方向の距離)を拡大させながら行われ得る。また、以下の説明では、便宜上
図6および
図7において、斜め延伸ゾーンCを、入り口側の第1の斜め延伸ゾーンC1と出口側の第2の斜め延伸ゾーンC2とに分けて記載する。第1の斜め延伸ゾーンC1における延伸を第1の斜め延伸、第2の斜め延伸ゾーンC2における延伸を第2の斜め延伸と称する場合がある。第1の斜め延伸ゾーンC1および第2の斜め延伸ゾーンC2の長さおよび互いの長さの比は、目的に応じて適切に設定され得る。
【0031】
上記B項で説明したとおり、斜め延伸ゾーンC1の入り口においては、左右のクリップのクリップピッチはともにP
1とされている。フィルムが第1の斜め延伸ゾーンC1に入ると同時に、一方の(図示例では右側)クリップのクリップピッチの増大を開始し、かつ、他方の(図示例では左側)クリップのクリップピッチの減少を開始する。第1の斜め延伸ゾーンCにおいては、右側クリップのクリップピッチをP
2まで増大させ、左側クリップのクリップピッチをP
3まで減少させる。したがって、第1の斜め延伸ゾーンC1の終点(第2の斜め延伸ゾーンC2の始点)において、左側クリップはクリップピッチP
3で移動し、右側クリップはクリップピッチP
2で移動することとされている。なお、クリップピッチの比はクリップの移動速度の比に概ね対応し得る。よって、左右のクリップのクリップピッチの比は、積層体またはフィルムの右側側縁部と左側側縁部のMD方向の延伸倍率の比に概ね対応し得る。
【0032】
図6および
図7では、右側クリップのクリップピッチが増大し始める位置および左側クリップのクリップピッチが減少し始める位置をともに第1の斜め延伸ゾーンC1の始点としているが、図示例とは異なり、右側クリップのクリップピッチが増大し始めた後に左側クリップのクリップピッチが減少し始めてもよく、左側クリップのクリップピッチが減少し始めた後に右側クリップのクリップピッチが増大し始めてもよい(いずれも図示せず)。1つの実施形態においては、一方の側(例えば右側)のクリップのクリップピッチが増大し始めた後に他方の側(例えば左側)のクリップのクリップピッチが減少し始める。このような実施形態によれば、斜め延伸が図示例のように左右のクリップ間の距離(幅方向の距離)を拡大させながら行われる場合には、既にフィルムが幅方向に一定程度(好ましくは1.2倍〜2.0倍程度)延伸されていることから該他方の側のクリップピッチを大きく減少させてもシワが発生しにくい。よって、より鋭角な斜め延伸が可能となり、得られる位相差フィルムの二軸性を抑制して、Nz係数を小さくすることができる。さらに、面内配向性の高い位相差フィルムが好適に得られ得る。
【0033】
同様に、
図6および
図7では、第1の斜め延伸ゾーンC1の終点(第2の斜め延伸ゾーンD1の始点)まで右側クリップのクリップピッチの増大および左側クリップのクリップピッチの減少が続いているが、図示例とは異なり、クリップピッチの増大または減少のいずれか一方が第1の斜め延伸ゾーンC1の終点よりも前に終了し、第1の斜め延伸ゾーンC1の終点までクリップピッチがそのまま維持されてもよい。
【0034】
上記増大するクリップピッチの変化率(P
2/P
1)は、好ましくは1.10〜1.70、より好ましくは1.15〜1.60、さらに好ましくは1.20〜1.55である。また、減少するクリップピッチの変化率(P
3/P
1)は、例えば0.50以上1未満、好ましくは0.55〜0.95、より好ましくは0.60〜0.90、さらに好ましくは0.60〜0.80である。クリップピッチの変化率がこのような範囲内であれば、フィルムの長尺方向に対して概ね45度の方向に遅相軸を有し、かつ、二軸性が抑制され、Nz係数が小さい位相差フィルムを得ることができる。なお、本明細書においては、クリップピッチ変化率は、初期のクリップピッチ(積層体を把持した際のクリップピッチ)P
1を基準とする。
【0035】
クリップピッチは、上記のとおり、延伸装置のピッチ設定レールと基準レールとの離間距離を調整してスライダを位置決めすることにより、調整され得る。
【0036】
第1の斜め延伸ゾーンC1における積層体の幅方向の延伸倍率(W
2/W
1)は、好ましくは1.05倍〜2.00倍、より好ましくは1.15倍〜1.80倍、さらに好ましくは1.25倍〜1.60倍である。当該延伸倍率が1.05倍未満であると、収縮させた側の側縁部にトタン状のシワが生じる場合がある。また、当該延伸倍率が2.00倍を超えると、得られる位相差フィルムの二軸性が高くなってしまい、所望のNz係数が得られない場合がある。
【0037】
1つの実施形態において、第1の斜め延伸は、一方のクリップのクリップピッチの変化率と他方のクリップのクリップピッチの変化率との積が、好ましくは0.70〜1.20、より好ましくは0.75〜1.15、さらに好ましくは0.80〜1.10となるように行われる。変化率の積がこのような範囲内であれば、二軸性が抑制され、Nz係数が小さい位相差フィルムを得ることができる。
【0038】
第1の斜め延伸は、代表的には、温度T2で行われ得る。温度T2は、積層体(実質的には、延伸対象フィルム)のガラス転移温度(Tg)に対し、Tg−20℃〜Tg+30℃であることが好ましく、さらに好ましくはTg−10℃〜Tg+20℃、特に好ましくはTg程度である。用いる積層体またはフィルムにより異なるが、温度T2は、例えば70℃〜180℃であり、好ましくは80℃〜170℃である。上記温度T1と温度T2との差(T1−T2)は、好ましくは±2℃以上であり、より好ましくは±5℃以上である。1つの実施形態においては、T1>T2であり、したがって、予熱工程で温度T1まで加熱された積層体は温度T2まで冷却され得る。
【0039】
次に、積層体が第2の斜め延伸ゾーンC2に入ると同時に、左側クリップのクリップピッチの増大を開始する。第2の斜め延伸ゾーンC2においては、左側クリップのクリップピッチをP
2まで増大させる。一方、右側クリップのクリップピッチは、第2の斜め延伸ゾーンC2においてP
2のまま維持される。したがって、第2の斜め延伸ゾーンC2の終点(熱処理ゾーンDの始点)において、左側クリップおよび右側クリップはともに、クリップピッチP
2で移動することとされている。このように左右のクリップピッチの差を縮小しながら、斜め延伸することにより、余分な応力を緩和しつつ、斜め方向に十分に延伸することができる。また、左右のクリップの移動速度が等しくなった状態で積層体を解放工程に供することができるので、左右のクリップの解放時に積層体の搬送速度等のバラつきが生じ難く、その後の補助フィルムの剥離および位相差フィルムの巻き取りが好適に行われ得る。
【0040】
第2の斜め延伸ゾーンC2における積層体の幅方向の延伸倍率(W
3/W
1:したがって、幅方向の最終的な延伸倍率)は、好ましくは1.50倍〜3.00倍、より好ましくは1.60倍〜2.80倍、さらに好ましくは1.70倍〜2.50倍である。当該延伸倍率が1.50倍未満であると、収縮させた側の側縁部にトタン状のシワが生じる場合がある。また、当該延伸倍率が3.00倍を超えると、得られる位相差フィルムの二軸性が高くなってしまい、所望のNz係数が得られない場合がある。
【0041】
第2の斜め延伸は、代表的には、温度T3で行われ得る。温度T3は、温度T2と同等であり得る。
【0042】
斜め延伸の方式の代表例として、
図6に示すようなクリップピッチのプロファイルを採用する実施形態を説明してきたが、斜め延伸の方式は、長尺方向に対して所定の角度αの方向に遅相軸を有する位相差フィルムが得られる限りにおいて、任意の適切な方式が採用され得る。例えば、下記(1)および(2)のような実施形態が挙げられる。下記(1)および(2)の実施形態を組み合わせてもよく、下記(1)および/または(2)の実施形態と上記の実施形態とを組み合わせてもよい:(1)左右のクリップのうちの一方(例えば右側)のクリップのクリップピッチを一定とした状態で他方(例えば左側)のクリップのクリップピッチを減少させて、斜め延伸する形態(必要に応じて、減少させた左側のクリップのクリップピッチを右側のクリップのクリップピッチまで増大させることをさらに含む:
図8に示すようなクリップピッチのプロファイル);(2)左右のクリップのうちの一方(例えば右側)のクリップのクリップピッチが減少し始める位置と他方(例えば左側)のクリップのクリップピッチが減少し始める位置とを搬送方向における異なる位置とした状態で、それぞれのクリップのクリップピッチを所定のピッチまで減少させて、斜め延伸する形態(
図9に示すようなクリップピッチのプロファイル)。
【0043】
D.熱処理工程
熱処理ゾーン(熱処理工程)Dにおいては、左右のクリップ20のクリップピッチを一定とした状態で、積層体を熱処理する。すなわち、左右のクリップ20のクリップピッチをともにP
2とした状態で、積層体を搬送しながら加熱する。熱処理工程は、必要に応じて行われ得る。
【0044】
熱処理は、代表的には、温度T3で行われ得る。温度T3は、延伸される積層体またはフィルムによって異なり、T2≧T3の場合も、T2<T3の場合もあり得る。一般的に、延伸対象フィルムが非晶性材料である場合はT2≧T3であり、結晶性材料である場合はT2<T3にすることで結晶化処理を行う場合もある。T2≧T3の場合、温度T2とT3の差(T2−T3)は好ましくは0℃〜50℃である。熱処理時間は、代表的には10秒〜10分である。熱処理時間は、熱処理ゾーンの長さおよび/または積層体の搬送速度を調整することにより制御され得る。
【0045】
E.解放工程
次に、積層体を把持するクリップを解放し、最後に、積層体から補助フィルムを剥離して、位相差フィルムが得られる。なお、斜め延伸後のフィルムの幅W
2が、得られる位相差フィルムの幅に対応する(
図6)。斜め延伸が横延伸を含まない場合には、得られる位相差フィルムの幅は積層体の初期幅に実質的に等しい。
【0046】
III.延伸により得られる位相差フィルム
上記製造方法により得られる位相差フィルムは、長尺状であり、かつ、長尺方向に対して所定の角度αをなす方向に遅相軸を有する。
図10は、本発明の1つの実施形態による位相差フィルムの概略斜視図である。図示例では、位相差フィルムは、ロール状に巻回されている。さらに、角度αは、好ましくは35°〜55°であり、より好ましくは38°〜52°であり、さらに好ましくは40°〜50°であり、特に好ましくは42°〜48°であり、とりわけ好ましくは44°〜46°である。角度αがこのような範囲であれば、長尺方向(または幅方向)に吸収軸を有する偏光子とロールトゥロールにより積層することにより、所望の円偏光機能を有する円偏光板が実現され得る。なお、ロールトゥロールとは、長尺のフィルム同士をロール搬送しながら、その長尺方向を揃えて連続的に貼り合わせる方式をいう。
【0047】
位相差フィルムは、好ましくは、屈折率特性がnx>nyの関係を示す。さらに、位相差フィルムは、好ましくはλ/4板として機能し得る。位相差フィルムの面内位相差Re(550)は、好ましくは100nm〜180nm、より好ましくは135nm〜155nmである。なお、本明細書において、nxは面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、nyは面内で遅相軸と直交する方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率であり、nzは厚み方向の屈折率である。また、Re(λ)は、23℃における波長λnmの光で測定したフィルムの面内位相差である。したがって、Re(550)は、23℃における波長550nmの光で測定したフィルムの面内位相差である。Re(λ)は、フィルムの厚みをd(nm)としたとき、式:Re(λ)=(nx−ny)×dによって求められる。
【0048】
位相差フィルムは、nx>nyの関係を有する限り、任意の適切な屈折率楕円体を示す。好ましくは、位相差フィルムの屈折率楕円体は、nx>ny≧nzの関係を示す。
【0049】
上記のとおり、本発明の製造方法によれば、二軸性が抑制されるので、Nz係数が小さい位相差フィルムを得ることができる。その結果、反射率および反射色相の視野角依存性に優れた画像表示装置を得ることができる。位相差フィルムのNz係数は1.10未満であり、好ましくは1.00〜1.08であり、より好ましくは1.00〜1.06であり、さらに好ましくは1.00〜1.05である。その結果、反射率および反射色相の視野角依存性に優れた画像表示装置を得ることができる。上記のとおり、斜め方向に遅相軸を有する位相差フィルムは二軸性が高く、このような範囲のNz係数を実現するのは困難であったところ、このような範囲のNz係数を有する位相差フィルムを実際に作製したことが本発明の成果の1つである。なお、Nz係数は、Nz=Rth(λ)/Re(λ)によって求められる。ここで、Rth(λ)は、23℃における波長λnmの光で測定したフィルムの厚み方向の位相差であり、式:Rth(λ)=(nx−nz)×dによって求められる。
【0050】
位相差フィルムは、位相差値が測定光の波長に応じて大きくなる逆分散波長特性を示してもよく、位相差値が測定光の波長によってもほとんど変化しないフラットな波長分散特性を示してもよい。位相差フィルムは、好ましくは、いわゆる逆分散の波長依存性を示す。具体的には、その面内位相差は、Re(450)<Re(550)<Re(650)の関係を満たす。Re(450)/Re(550)は、好ましくは0.8以上1.0未満であり、より好ましくは0.8〜0.95である。Re(550)/Re(650)は、好ましくは0.8以上1.0未満であり、より好ましくは0.8〜0.97である。逆分散の波長依存性と上記のNz係数との相乗的な効果により、反射率および反射色相の視野角依存性にさらに優れた画像表示装置を得ることができる。
【0051】
位相差フィルムは、その光弾性係数の絶対値が、好ましくは2×10
−12(m
2/N)〜100×10
−12(m
2/N)であり、より好ましくは2×10
−12(m
2/N)〜50×10
−12(m
2/N)である。
【0052】
位相差フィルムの厚みは、目的に応じて任意の適切な厚みであり得る。位相差フィルムの厚みは、好ましくは20μm〜100μm、より好ましくは30μm〜80μmである。
【0053】
IV.円偏光板および円偏光板の製造方法
上記の本発明の製造方法により得られた位相差フィルムは、代表的には円偏光板に好適に用いられ得る。
図11は、そのような円偏光板の一例の概略断面図である。図示例の円偏光板300は、偏光子310と、偏光子310の片側に配置された第1の保護フィルム320と、偏光子310のもう片側に配置された第2の保護フィルム330と、第2の保護フィルム330の外側に配置された位相差フィルム340と、を有する。位相差フィルム340は、上記の本発明の製造方法により得られた位相差フィルムである。第2の保護フィルム330は省略されてもよい。その場合、位相差フィルム340が偏光子の保護フィルムとして機能し得る。偏光子310の吸収軸と位相差フィルム340の遅相軸とのなす角度は、好ましくは30°〜60°、より好ましくは38°〜52°、さらに好ましくは43°〜47°、特に好ましくは45°程度である。なお、偏光子および保護フィルムの構成は業界で周知であるので、詳細な説明は省略する。
【0054】
円偏光板は、目的に応じて任意の適切な光学部材や光学機能層を任意の適切な位置にさらに含んでいてもよい。例えば、第1の保護フィルム320の外側表面に、ハードコート処理、反射防止処理、スティッキング防止処理、アンチグレア処理、光拡散処理等の表面処理が施されていてもよい。また、位相差フィルム340の少なくとも一方の側に、目的に応じて任意の適切な屈折率楕円体を示す別の位相差フィルムが配置されてもよい。さらに、第1の保護フィルム320の外側には、フロント基板(例えば、透明保護基板、タッチパネル)等の光学部材が配置されてもよい。
【0055】
上記の本発明の製造方法により得られた位相差フィルムは、円偏光板の製造にきわめて好適である。詳細は以下のとおりである。この位相差フィルムは、長尺状であり、かつ、斜め方向(上記のとおり、長尺方向に対して例えば45°の方向)に遅相軸を有する。多くの場合、長尺状の偏光子は長尺方向または幅方向に吸収軸を有するので、本発明の製造方法により得られた位相差フィルムを用いれば、いわゆるロールトゥロールを利用することができ、きわめて優れた製造効率で円偏光板を作製することができる。しかも、上記の本発明の製造方法により得られた位相差フィルムは、二軸性が抑制され、Nz係数が小さいので、反射率および反射色相の視野角依存性に優れた画像表示装置を実現し得る円偏光板を得ることができる。なお、ロールトゥロールとは、長尺のフィルム同士をロール搬送しながら、その長尺方向を揃えて連続的に貼り合わせる方法をいう。
【0056】
図12を参照して、本発明の1つの実施形態による円偏光板の製造方法を簡単に説明する。
図12において、符号811および812は、それぞれ、偏光板および位相差フィルムを巻回するロールであり、符号822は搬送ロールである。図示例では、偏光板(第1の保護フィルム320/偏光子310/第2の保護フィルム330)と、位相差フィルム340とを矢印方向に送り出し、それぞれの長手方向を揃えた状態で貼り合わせる。その際、偏光板の第2の保護フィルム330と位相差フィルム340とが隣接するように貼り合わせる。このようにして、
図11に示すような円偏光板300が得られ得る。図示しないが、例えば、偏光板(第1の保護フィルム320/偏光子310)と位相差フィルム340とを、偏光子310と位相差フィルム340とが隣接するように貼り合わせ、位相差フィルム340が保護フィルムとして機能する円偏光板を作製することもできる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、実施例における測定および評価方法は下記のとおりである。
【0058】
(1)配向角(遅相軸の発現方向)
実施例および比較例で得られた位相差フィルムを、一辺が当該フィルムの幅方向と平行となるようにして幅50mm、長さ50mmの正方形状に切り出して試料を作成した。この試料を、ミュラーマトリクス・ポラリメーター(Axometrics社製 製品名「Axoscan」)を用いて測定し、波長550nm、23℃における配向角θを測定した。なお、配向角θは測定台に試料を平行に置いた状態で測定した。
(2)面内位相差Re
上記(1)と同様にして、Axometrics社製 製品名「Axoscan」を用いて、波長550nm、23℃で測定した。
(3)厚み方向位相差Rth
上記(1)と同様にして、Axometrics社製 製品名「Axoscan」を用いて、波長550nm、23℃で測定した。
(4)Nz係数
式:Nz=Rth/Reから算出した。
(5)反射率
有機ELディスプレイ(LG社製、製品名:15EL9500)より有機ELパネルを取り出し、この有機ELパネルに貼り付けられている偏光板を剥がした。実施例および比較例で得られた位相差フィルムの配向角と偏光板の吸収軸が45°となるように粘着剤で貼り合せた円偏光板を作製した。偏光板を剥がした有機ELパネルに、この円偏光板を粘着剤で貼り付けた。円偏光板が貼られた有機ELパネルを極角45°方向で、かつ様々な方位角方向から目視観察し、その反射率・反射色相を確認した。評価基準は以下のとおりである:
○・・・ディスプレイを様々な方向から見ても、反射色相や反射率が概ね一定である
×・・・ディスプレイを見る角度によって、反射色相や反射率が変化するのがわかる
(6)厚み
マイクロゲージ式厚み計(ミツトヨ社製)を用いて測定した。
【0059】
<実施例1>
(積層体の作製)
撹拌翼および100℃に制御された還流冷却器を具備した縦型反応器2器からなるバッチ重合装置を用いて重合を行った。9,9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BHEPF)、イソソルビド(ISB)、DEG(ジエチレングリコール)、ジフェニルカーボネート(DPC)、および酢酸マグネシウム4水和物を、モル比率でBHEPF/ISB/DEG/DPC/酢酸マグネシウム=0.348/0.490/0.162/1.005/1.00×10
−5になるように仕込んだ。反応器内を十分に窒素置換した後(酸素濃度0.0005〜0.001vol%)、熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始した。昇温開始40分後に内温を220℃に到達させ、この温度を保持するように制御すると同時に減圧を開始し、220℃に到達してから90分で13.3kPaにした。重合反応とともに副生するフェノール蒸気を100℃の還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるモノマー成分を反応器に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は45℃の凝縮器に導いて回収した。
【0060】
第1反応器に窒素を導入して一旦大気圧まで復圧させた後、第1反応器内のオリゴマー化された反応液を第2反応器に移した。次いで、第2反応器内の昇温および減圧を開始して、50分で内温240℃、圧力0.2kPaにした。その後、所定の攪拌動力となるまで重合を進行させた。所定動力に到達した時点で反応器に窒素を導入して復圧し、反応液をストランドの形態で抜出し、回転式カッターでペレット化を行い、BHEPF/ISB/DEG=34.8/49.0/16.2[mol%]の共重合組成のポリカーボネート樹脂Aを得た。このポリカーボネート樹脂の還元粘度は0.430dL/g、ガラス転移温度は128℃であった。
【0061】
得られたポリカーボネート樹脂を80℃で5時間真空乾燥をした後、単軸押出機(いすず化工機社製、スクリュー径25mm、シリンダー設定温度:220℃)、Tダイ(幅900mm、設定温度:220℃)、チルロール(設定温度:120〜130℃)および巻取機を備えたフィルム製膜装置を用いて、厚み110μmのポリカーボネート樹脂フィルム(幅765mm)を作製した。このポリカーボネート樹脂フィルムを延伸対象フィルムとした。
【0062】
一方、上記と同様のポリカーボネート樹脂フィルムを、
図3〜
図6に示すような装置を用いて斜め延伸した。具体的には、以下のとおりである:ポリカーボネート樹脂フィルム(厚み110μm、幅765mm)を延伸装置の予熱ゾーンで145℃に予熱した。予熱ゾーンにおいては、左右のクリップのクリップピッチを140mmに維持した。次に、フィルムが第1の斜め延伸ゾーンC1に入ると同時に、右側クリップのクリップピッチの減少を開始し、第1の斜め延伸ゾーンC1において140mmから100.8mmまで減少させるとともに、左側クリップのクリップピッチを140mmから198.8mmまで増大させた。次に、フィルムが第2の斜め延伸ゾーンC2に入ると同時に、右側クリップのクリップピッチの増大を開始し、第2の斜め延伸ゾーンC2において100.8mmから198.8mmまで増大させた。一方、左側クリップのクリップピッチは、第2の斜め延伸ゾーンC2において198.8mmのまま維持した。斜め延伸前後のクリップピッチ変化率は1.42であった。なお、斜め延伸は138℃で行った。斜め延伸は横方向の延伸を含み、当該横方向の延伸倍率は1.90倍であった。以上のようにして、長尺方向に対して135°の方向に遅相軸を有する(配向方向を有する)位相差フィルム(厚み40μm)を得た。この位相差フィルムを補助フィルムとした。
【0063】
上記補助フィルムの一方の面にコロナ処理を施し、コロナ処理面にアクリル系粘着剤を塗工した。コロナ処理は、補助フィルムのコロナ処理面と延伸対象フィルムとを貼り合わせた場合に、補助フィルムの配向方向が延伸対象フィルムの設定斜め延伸方向に対して実質的に直交するようになる面に行った。アクリル系粘着剤を塗工した補助フィルムと上記の延伸対象フィルムとをロールにより積層し、斜め延伸用の積層体を得た。
【0064】
(斜め延伸)
上記で得られた斜め延伸用の積層体を、
図3〜
図6に示すような装置を用い、
図7に示すようなクリップピッチのプロファイルで、予熱処理、斜め延伸および熱処理に供し、位相差フィルムを得た。具体的には、以下のとおりである:積層体を延伸装置の予熱ゾーンで135℃に予熱した。予熱ゾーンにおいては、左右のクリップのクリップピッチを140mmに維持した。次に、フィルムが第1の斜め延伸ゾーンC1に入ると同時に、左側クリップのクリップピッチの減少を開始し、第1の斜め延伸ゾーンC1において140mmから100.8mmまで減少させるとともに、右側クリップのクリップピッチを140mmから198.8mmまで増大させた。次に、フィルムが第2の斜め延伸ゾーンC2に入ると同時に、左側クリップのクリップピッチの増大を開始し、第2の斜め延伸ゾーンC2において100.8mmから198.8mmまで増大させた。一方、右側クリップのクリップピッチは、第2の斜め延伸ゾーンC2において198.8mmのまま維持した。斜め延伸前後のクリップピッチ変化率は1.42であった。なお、斜め延伸は138℃で行った。斜め延伸は横方向の延伸を含み、当該横方向の延伸倍率は1.90倍であった。斜め延伸した積層体から補助フィルムを剥離し、位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムを上記(1)〜(6)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0065】
<比較例1>
未延伸フィルム(延伸対象フィルム)の膜厚を150μmとしたこと、および、積層体を作製しなかったこと、すなわち、補助フィルムを貼り合わせずに延伸対象フィルムのみを斜め延伸したこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムを実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
<評価>
表1から明らかなように、本発明の実施例により得られた位相差フィルムは、二軸性が抑制されてNz係数が小さく、画像表示装置に適用した場合に優れた反射率を示した。すなわち、本発明の実施例によれば、延伸対象フィルムと補助フィルムとを、延伸対象のフィルムの設定延伸方向と補助フィルムの配向方向とが実質的に直交するようにして貼り合わせて積層体を作製し、当該積層体を斜め延伸することにより、このような位相差フィルムを実際に作製することができた。