特許第6497918号(P6497918)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6497918
(24)【登録日】2019年3月22日
(45)【発行日】2019年4月10日
(54)【発明の名称】低温適用のためのコンポーネント
(51)【国際特許分類】
   C03C 10/12 20060101AFI20190401BHJP
   C03B 32/00 20060101ALI20190401BHJP
【FI】
   C03C10/12
   C03B32/00
【請求項の数】13
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-249267(P2014-249267)
(22)【出願日】2014年12月9日
(65)【公開番号】特開2015-113280(P2015-113280A)
(43)【公開日】2015年6月22日
【審査請求日】2017年9月11日
(31)【優先権主張番号】10 2013 225 281.1
(32)【優先日】2013年12月9日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】10 2014 212 062.4
(32)【優先日】2014年6月24日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】504299782
【氏名又は名称】ショット アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Schott AG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ イェダムツィク
【審査官】 吉川 潤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−131371(JP,A)
【文献】 特開2004−131372(JP,A)
【文献】 特表2013−516644(JP,A)
【文献】 特開昭60−255645(JP,A)
【文献】 特開平08−133783(JP,A)
【文献】 特開2003−267789(JP,A)
【文献】 特開2012−162449(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0135341(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0207591(US,A1)
【文献】 米国特許第3642504(US,A)
【文献】 Thorsten Dohring et al.,Manufacturing of lightweighted ZERODUR components at SCHOTT,PROCEEDING OF SPIE,米国,The International society for optics and photonics,2007年 9月15日,Vol.6666,Page.666602-1 - 666602-9,URL,https:/doi.org/10.1117/12.733770
【文献】 Peter Hartmann et al.,Zero-expansion glass ceramic ZERODUR: recent developments reveal high potential,PROCEEDINGS OF SPIE,米国,The international society for optics and photonics,2012年 9月13日,Vol.8450,Page.845022-1 - 845022-13,URL,https://doi.org/10.1117/12.926047
【文献】 J.H.Burge et al.,Thermal Expansion of Borosilicate Glass, Zerodur, Zerodur M, and Uncer amized Zerodur at Low Temperatures,Applied Optics,米国,The Optical Society,1999年,Vol.38, No.34,Page.7161-7162,URL,https://doi.org/10.1364/AO.38.007161
【文献】 S.J.Collocott and G.K.White,Heat capacity and thermal expansion of Zerodur and Zerodur M at low temperatures,Cryogenics,NL,Elsevier Ltd.,1991年 2月,Vol.31, No.2,Page.102-104,ISSN:0011-2275,URL,https://doi.org.10.1016/0011-2275(91)90254-T
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 10/00 − 10/14
C03C 3/076 − 3/097
C03B 32/00 − 32/02
C03C 15/00
INTERGLAD
SPIE Digital Library
OSA Publishing
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
0℃〜−250℃の範囲で最大でも20ppmの熱膨張率を有し、
−250℃〜−225℃の範囲で最大でも0.6ppm/KのCTEを有し、
−50℃〜−180℃の範囲で0.1ppm/K未満のCTEを有し、
以下の組成(酸化物ベースで質量%において):
SiO2 35〜70
Al23 17〜35
Li2O 2〜6
TiO2 0〜6
ZrO2 0〜6
TiO2+ZrO2 0.5〜9
ZnO 0.5〜5
を有するリチウムアルミノケイ酸塩ガラスセラミックを有する、低温適用のためのコンポーネント。
【請求項2】
−250℃〜−225℃の範囲で最大でも0.5ppm/KのCTEを有する、請求項1に記載のコンポーネント。
【請求項3】
−50℃〜−180℃の範囲で0.05ppm/K未満のCTEを有する、請求項1または2に記載のコンポーネント。
【請求項4】
−20℃〜−190℃の範囲で0.1ppm/K未満のCTEを有する、請求項1または2に記載のコンポーネント。
【請求項5】
前記コンポーネント全体にわたるCTEの均質性が10ppb/K pv(peak−to−valley)である、請求項1から4までのいずれか1項記載のコンポーネント。
【請求項6】
軽量構造を有する、請求項1から5までのいずれか1項記載のコンポーネント。
【請求項7】
表面が少なくとも部分的にエッチングされている、請求項1から6までのいずれか1項記載のコンポーネント。
【請求項8】
前記少なくとも部分的にエッチングされている表面が、少なくとも50μm、及び/又は、最大でも120μmの除去される層厚を有する、請求項7に記載のコンポーネント。
【請求項9】
前記ガラスセラミックコンポーネントが、100cm3当たり最大でも5つのインクルージョンを有する、請求項1から8までのいずれか1項記載のコンポーネント。
【請求項10】
前記インクルージョンが、0.3mm超の直径を有する気泡と微結晶の両方を包含する、請求項9に記載のコンポーネント。
【請求項11】
前記ガラスセラミックに加えて少なくとも1つのCFRPを有する、請求項1から10までのいずれか1項記載のコンポーネント。
【請求項12】
前記ガラスセラミックのdl/l−T曲線を調整する工程を有する、請求項1から11までのいずれか1項記載のコンポーネントの製造法。
【請求項13】
衛星技術における、宇宙望遠鏡のための基板として、及び/又は測定技術における、−273.15℃〜−150℃の範囲の周囲温度での、請求項1から11までのいずれか1項記載のコンポーネントの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温適用のためのコンポーネント、かかるコンポーネントの製造法及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
低い熱膨張係数を有する透明なガラスセラミックは、先行技術において知られており、例えばDE1902432C、US4,851,372A及びUS5,591,682Aに記載されている。特に低い熱膨張率を有するガラスセラミックの中では、リチウムアルミノケイ酸塩(LAS)ガラスセラミックが“ゼロ膨張材料”として知られている。
【0003】
例えば、ZERODUR(ゼロデュアー)(R)は、一定の範囲のCTE(0℃〜50℃)によって定義された5つの熱膨張クラスで供給される。
【0004】
【0005】
ガラスセラミックは、通例0〜50℃の温度範囲で測定された平均若しくは真ん中の熱膨張率(CTE)(T0;T)に従って分類される。しかしながら、室温近傍の範囲で(0℃〜50℃)CTEの低い値が得られることと、非常に低い温度でCTEの低い値が得られることとは必ずしも連関していない。絶対零度(−273.15℃=0ケルビン)に近い適用温度での膨張クラスがより不十分であることに基づき、それゆえ、Zerodur(R)は、いくつかの適用においては、この範囲におけるCTEがZerodur(R)のCTEより小さい炭化ケイ素SiCによって置き換えられる。
【0006】
材料のCTEの絶対値のほかに、同様に用いられる複合材、例えば炭素繊維強化プラスチック(CFRP)とのCTEの互換性、すなわち、類似した熱膨張曲線も、適用の上で役目を果たす。ここで、SiCは、絶対零度付近でCFRPの熱膨張曲線に類似した熱膨張曲線を有しているとはいえ、より高い温度(>−120℃)でのSiCの熱膨張曲線はCFRPの熱膨張曲線から著しく外れるという欠点を有する。そのため、SiCとCFRPとから構成される複合材コンポーネントが冷却されると、それらに応力が生じ、かつ、これらの応力が複合材コンポーネントの耐久性を著しく低下させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】DE1902432C
【特許文献2】DE1596860
【特許文献3】US4,851,372A
【特許文献4】US5,591,682A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
それゆえ、本発明の目的は、上述の問題を解決することであった。特に、低温適用のために改善されたゼロ膨張ガラスセラミックが提供されるべきである。かかるコンポーネントのCTEは、適用温度に対して最適化されるべきである。そのうえ、その熱膨張曲線がCFRPの熱膨張曲線と互換性がある(類似する)ゼロ膨張ガラスセラミックが提供されるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、特許請求の範囲に示される本発明の実施態様によって達成される。
【0010】
特に、本発明は、以下のコンポーネントを提供する:
− ガラスセラミックを有し、かつ0℃〜250℃の範囲において最大でも20ppm、好ましくは最大でも15ppm、さらに好ましくは最大でも10ppmの熱膨張率を有する低温適用のためのコンポーネント。好ましくは、ガラスセラミックを有し、かつ50℃〜−273℃の範囲において最大でも20ppm、好ましくは最大でも15ppm、さらに好ましくは最大でも10ppmの熱膨張率を有する低温適用のためのコンポーネント。“最大でもxppmの熱膨張率を有する”との表現は、規定される温度範囲内で、供試体の長さが出発温度t0で測定された長さからxppm未満外れることを意味する。
− −250℃〜−225℃の範囲において最大でも0.6ppm/K、好ましくは最大でも0.5ppm/Kを有する低温適用のためのコンポーネント。
− −50℃〜−180℃、好ましくは−20℃〜−190℃の範囲において0.1ppm/K未満のCTE、好ましくは0.05ppm/K未満のCTEを有する低温適用のためのコンポーネント。
【0011】
一方で、例えば、最大でも0.6ppb/KのCTEは、+0.6ppb/K〜−0.6ppb/K及び同様に他の数値におけるCTEの範囲を意味するものとする。
【0012】
上述の特性の2つ以上(すなわち、CTE及び熱膨張率)が、低温適用のためのコンポーネントにおいて組み合わさって存在していてもよい。
【0013】
下記に、添付の図面1〜4について説明する。
【0014】
図1は、サンプル1、2及び3に相当する2つの各様にセラミック化されたZerodur(R)バッチの熱膨張曲線(dl/l−T曲線又はΔl/l0−T曲線)を示す。
【0015】
図2は、サンプル1及び3に相当する2つの各様にセラミック化されたZerodur(R)バッチの熱膨張係数CTEの変化を示す。
【0016】
図3は、低温用に最適化されたZerodur(R)バッチ(実施例のサンプル3)の熱膨張曲線とSiC及びCFRPの熱膨張曲線との比較を示す。示されるCFRPは、CFRP M55J/954−3、つまり、カーボン−シアネートエステル複合材(Hexel Corpによって供給される)である。室温〜10KのZerodur(R)の全体の長さ変化は50ppm未満である。他方で、SiCの全体の長さ変化は約230ppmである。そのため、低温に対して最適化されたZerodur(R)は、CFRPと類似した低温での線膨張を示す。
【0017】
図4は、軽量加工に基づき、加工が施されていない出発コンポーネントの重さの88%未満であるミラー基材を示す。
【0018】
本発明は、低い熱膨張率又はCTE(“熱膨張係数”)を有するガラスセラミックコンポーネントに関する。
【0019】
0〜50℃(CTE(0;50)又はCTE(0℃;50℃))の温度範囲のCTEが、通常出される。しかしながら、CTEは、他の温度範囲でも規定されることができる。ある温度範囲のCTEは、以下の等式(1)
【数1】
によって決定されることができ、ここで、t0は初期温度であり、tは測定温度であり、lOは初期温度t0での試験体長さであり、ltは測定温度tでの試験体長さであり、かつΔlは温度変化Δtでの試験体の補正された長さ変化である。
【0020】
CTEを測定するために、ガラスセラミックの試験体の長さは、初期温度t0で測定され、試験体は第2の温度tに加熱され、そしてこの温度での長さltが測定される。t0〜tの温度範囲のCTE(t0;t)は上記式(1)から得られる。温度に対する熱膨張率の測定、すなわち、温度を関数とした試験体の長さ変化の測定は、膨張率測定によって実施されることができる。CTEを測定するための計測器が、例えば、R.Mueller,K.Erb,R.Haug,A.Klaas,O.Lindig,G.Wetzig:“Ultraprecision Dilatometer System for Thermal Expansion Measurements on Low Expansion Glasses”,12th Thermal Expansion Symposium,Pittsburgh/PA,P.S.Gaal及びD.E.Apostolescu Eds.,1997に記載されており、その記載内容は参照をもって全体が本出願に組み込まれる。
【0021】
CTEは、[t0;t]又は(t0;t)の温度範囲だけでなく、特に適用温度TAでも出されることができる。この場合、CTEは、この測定法において温度を関数として測定される。次いで、CTEは、以下の式(2)
【数2】
に従って定義される。
【0022】
熱膨張曲線若しくはΔl/l0−T曲線又は温度に対する試験体の長さ変化Δl/l0のグラフを作成するために、初期温度t0での初期長さ〜温度tでの長さltの試験体の長さの温度に依存した長さ変化が測定されることができる。この場合、例えば5℃又は3℃の小さい温度間隔が、測定点を測定するために好ましくは用いられる。膨張曲線は、図1及び図3に示される。
【0023】
このような測定は、例えば、膨張率測定法、干渉計測法、例えばファブリーペロー法、すなわち、材料中に投射されたレーザービームの共鳴ピークのシフトの評価、又は他の適した方法によって実施されることができる。
【0024】
好ましくは、Δl/l0−T測定点を測定するために選択された方法は、好ましくは少なくとも±0.10ppm、より好ましくは±0.05ppm、最も好ましくは±0.01ppmの精度を有する。
【0025】
そのうえ、ガラスセラミックは、通常、CTE平均値から場合により外れるとも定義され、これは意図された適用への利用をいっそう可能にする。CTEからのこのずれは、(“0±×10-6/K”又は“0±×ppb/K”)の範囲として出される。“平均CTE値”は、ガラスセラミックコンポーネント上の様々な箇所で又は1個のブロックからカットされた様々な供試体上で実施された全てのCTE測定値の平均である。本発明において、“低い平均CTE値”は、最大でも0±20ppb/K、より好ましくは最大でも0±10ppb/K、最も好ましくは最大でも0±7ppb/Kの値である。
【0026】
コンポーネント全体にわたるCTEの均質性は、好ましくは最大でも10ppb/Kである。CTE均質性(“CTEの全体の空間的変動”)の値は、peak−to−valley値、すなわち、ガラスセラミックから採取されたサンプルの各々の最も高いCTE値と各々の最も低いCTE値との間の差である。本発明において、この値はppb/K単位で出され、ここで、1ppb/K=0.001×10-6/Kである。
【0027】
正確な適用におけるコンポーネントは、良好な内部品質も有するべきである。コンポーネントは、好ましくは、100cm3当たり最大でも5つのインクルージョン、より好ましくは100cm3当たり最大でも3つのインクルージョン、最も好ましくは100cm3当たり最大でも1つのインクルージョンを有する。本発明において、インクルージョンは0.3mm超の直径を有する気泡と微結晶の両方を包含する。
【0028】
本発明において、低温適用は、零度に近い温度〜絶対零度での、例えば空間におけるコンポーネントの使用である。そのうえ、低温適用は、液体窒素の温度、すなわち、約−196℃、特に−273.15〜−150℃の温度範囲でのコンポーネントの使用であってもよい。
【0029】
低温適用のための本発明によるコンポーネントにおいては、以下の組成(酸化物ベースで質量%において):
を有するリチウムアルミノケイ酸塩(LAS)系のガラスセラミックが好ましい。
【0030】
さらに、ガラスセラミックは、表示される範囲で以下の成分(酸化物ベースで質量%において):
の1つ以上を含有してよい。
【0031】
低い熱膨張係数を有する透明なガラスセラミックの具体的な例が、DE1902432C、DE1596860、US4,851,372及びUS5,591,682に記載される。
【0032】
好ましくは、コンポーネントは、以下の組成(酸化物ベースで質量%において):
を有するガラスセラミックを有する。
【0033】
好ましくは、ガラスセラミックは、50〜70質量%のSiO2の割合を有する。SiO2の割合は、より好ましくは最大でも62質量%、よりいっそう好ましくは最大でも60質量%である。SiO2の割合は、より好ましくは少なくとも52質量%であり、よりいっそう好ましくは少なくとも54質量%である。
【0034】
好ましくは、Al23の割合は17〜32質量%である。より好ましくは、ガラスセラミックは、少なくとも20質量%、よりいっそう好ましくは少なくとも22質量%のAl23を含有する。より好ましくは、Al23の割合は、最大でも30質量%であり、より好ましくは最大でも28質量%である。
【0035】
好ましくは、ガラスセラミックのリン酸塩P25の含有率は3〜12質量%である。より好ましくは、ガラスセラミックは、少なくとも4質量%、よりいっそう好ましくは少なくとも5質量%のP25を含有する。好ましくは、P25の割合は、最大でも10質量%、より好ましくは最大でも8質量%に制限される。
【0036】
好ましくは、ガラスセラミックは、TiO2も1〜5質量%の割合で含有し、好ましくは少なくとも1.5質量%のTiO2が存在する。しかしながら、好ましくは、この割合は最大でも4質量%であり、より好ましくは最大でも3質量%である。
【0037】
ガラスセラミックは、ZrO2も最大でも5質量%の割合で、好ましくは最大でも4質量%の割合で含有してよい。好ましくは、ZrO2は、少なくとも0.5質量%、より好ましくは少なくとも1質量%の割合で存在する。
【0038】
そのうえ、ガラスセラミックは、Li2O、Na2O及びK2Oといったアルカリ金属酸化物を含有してよい。好ましくは、Li2Oは、少なくとも2質量%、好ましくは少なくとも3質量%の割合で存在する。Li2Oの割合は、好ましくは最大でも5質量%、より好ましくは最大でも4質量%に制限される。Na2O及びK2Oは、ガラスセラミック中に任意に存在する。Na2O及び/又はK2Oの割合は、そのつど互いに無関係に、最大でも2質量%、好ましくは最大でも1質量%、最も好ましくは最大でも0.5質量%であってよい。Na2O及び/又はK2Oは、そのつど互いに無関係に、少なくとも0.01質量%、好ましくは少なくとも0.02質量%、より好ましくは少なくとも0.05質量%の割合でガラスセラミック中に存在してよい。
【0039】
ガラスセラミックは、MgO、CaO、BaO及び/又はSrOといったアルカリ土類金属酸化物も、並びにZnOといった更なる二価金属も含有してよい。好ましくは、CaOの割合は、最大でも4質量%、より好ましくは最大でも3質量%、よりいっそう好ましくは最大でも2質量%である。好ましくは、ガラスセラミックは、少なくとも0.1質量%、より好ましくは少なくとも0.5質量%のCaOを含有する。MgOは、ガラスセラミック中に最大でも2質量%、好ましくは最大でも1.5質量%、かつ/又は好ましくは少なくとも0.1質量%の割合で存在してよい。ガラスセラミックは、BaOを5質量%未満、好ましくは最大でも4質量%、かつ/又は好ましくは少なくとも0.1質量%の割合で存在してよい。個々の実施形態においては、ガラスセラミックはBaO不含である。ガラスセラミックは、SrOを最大でも2質量%かつ/又は好ましくは少なくとも0.1質量%の割合で含有してよい。個々の実施形態においては、ガラスセラミックはSrO不含である。更なる金属酸化物として、好ましくは、ガラスセラミックは、ZnOを好ましくは少なくとも1質量%、より好ましくは少なくとも1.5質量%の割合で含有する。ZnOの割合は、最大でも4質量%、好ましくは最大でも3質量%に制限される。
【0040】
ガラスセラミックは、As23、Sb23、SnO、SO42-、F-、Cl-、Br-といった1つ以上の慣用の清澄剤又はこれらの混合物を最大でも1質量%の割合で含有してもよい。
【0041】
本発明の1つの実施形態は、大きい体積を有するガラスセラミックコンポーネントに関する。本出願においては、この用語は、少なくとも500kg、好ましくは少なくとも1トン(一方で、1トン=1メートルトン=1000kg)、より好ましくは少なくとも2トン、本発明の1つの変形例においては少なくとも5トンの重さ、又は角形形状の場合には少なくとも0.5m、より好ましくは少なくとも1mのエッジ長さ(幅及び/若しくは深さ)、並びに少なくとも50mm、好ましくは100mmの厚さ(高さ)、又は円形形状の場合には少なくとも0.5m、より好ましくは少なくとも1m、より好ましくは少なくとも1.5mの直径及び/若しくは少なくとも50mm、好ましくは100mmの厚さ(高さ)を有するガラスセラミックコンポーネントに関する。本発明の特定の実施形態においては、ガラスセラミックコンポーネントは、例えば、少なくとも3m又は少なくとも4m又はそれより大きい直径を有する、いっそう大きいガラスセラミックコンポーネントであってもよい。
【0042】
本発明のコンポーネントは、軽量構造も有することができる。これは、重さを減らす空洞が、コンポーネントのいくつかの領域にもたらされることを意味する。コンポーネントの重さは、好ましくは、加工が施されていないコンポーネントと比べて少なくとも50%、より好ましくは少なくとも70%、特別な実施形態においては、それどころか80〜90%の程度まで軽量加工することによって減らされる。
【0043】
軽量構造である場合は特に、コンポーネントの表面が少なくとも部分的にエッチングされるか又は表面の少なくとも一部がエッチングされること、すなわち、その箇所/それらの箇所でコンポーネントの表面層がエッチング溶液を用いた化学反応によって除去していることが利点でありうる。表面のエッチングは、コンポーネントの強度、特に破壊強度を増大させる。
【0044】
ガラスセラミックコンポーネントをエッチングするために、これは、研削プロセス後に、エッチング浴中に浸漬される。エッチング浴として、例えば、フッ化水素酸HF(38%)と塩酸HCl(37%)及び水との2:1:1.5の比における混合物を使用することが可能である。好ましくは、コンポーネントは、材料が少なくとも50μm、好ましくは少なくとも60μm、又は最大でも120μm、好ましくは最大でも100μmの層厚で表面から除去されるまでエッチング浴に存置される。
【0045】
そのうえ、コンポーネントは、ガラスセラミックに加えて少なくとも1つのCFRPを有してよい。熱硬化性樹脂、例えばエポキシ樹脂又はシアネートエステル樹脂を、炭素繊維強化プラスチックのポリマーマトリックスとして用いることが好ましい。
【0046】
さらに、本発明は、
− ガラスセラミックのdl/l−T曲線を調整する工程
を有する、低温適用のための本発明のコンポーネントを製造する方法を提供する。
【0047】
本発明による方法は、dl/l−T曲線の分析によって得られたデータに従ってセラミック化時間を適合させる工程を有してもよい。特別な実施形態によれば、方法は、未加工ガラス又は予めセラミック化されたガラスセラミックを770℃から800℃の間の温度にて少なくとも100時間、好ましくは少なくとも200時間、かつ本発明の特別な実施形態によれば、それどころか少なくとも500時間の保持時間で保持する工程を有してもよい。好ましくは、この保持時間は、最大でも2000時間、好ましくは最大でも1500時間に制限される。保持時間は、単一のセラミック化工程の間に達してもよく、又は2つ又はさらに3つのセラミック化工程に分けられてもよい。
【0048】
本発明の方法は、本発明によるコンポーネントの熱膨張特性を他の材料、例えばCFRPであって、ガラスセラミックコンポーネントに接合されて複合材コンポーネントを形成することになる材料に適合させることを可能にする。dl/l−T曲線の調整は、例えば、EP1321440A2に記載された方法によって行われることができ、これは参照をもって本出願に組み込まれる。
【0049】
本発明は、−273.15℃〜−150℃の範囲の適用温度での本発明の成分の使用も提供する。ガラスセラミックコンポーネントのCTEは、好ましくは、適用温度に最適化され、すなわち、適用温度近傍で小さい温度変化が生じる場合に非常に低い熱膨張を示す。
【0050】
特に、本発明のコンポーネントは、衛星技術において、宇宙望遠鏡のための基板として、又は測定技術において用いられることができる。
【0051】
本発明は、天文用、好ましくは宇宙で使用するためのミラー基板及び反射コーティッドミラーも提供する。そのうえ、これは、好ましくは軽量構造を有するミラー基板又はミラーである。
【0052】
当然のことながら、本発明の上記特徴及び以下でさらに説明を行う特徴は、そのつど示された組合せだけでなく、本発明の範囲を逸脱しない他の組合せにおいても用いられることができる。本発明を、以下の例によって説明するが、しかしながら、これらに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】サンプル1、2及び3に相当する2つの各様にセラミック化されたZerodur(R)バッチの熱膨張曲線(dl/l−T曲線又はΔl/l0−T曲線)を示す図
図2】サンプル1及び3に相当する2つの各様にセラミック化されたZerodur(R)バッチの熱膨張係数CTEの変化を示す図
図3】低温用に最適化されたZerodur(R)バッチ(実施例のサンプル3)の熱膨張曲線とSiC及びCFRPの熱膨張曲線との比較を示す図
図4】軽量加工に基づき、加工が施されていない出発コンポーネントの重さの88%未満であるミラー基材を示す図
【実施例】
【0054】
表1で規定した出発化合物から成る組成物(酸化物ベースで質量%において表記)を、溶融槽内で数日にわたって溶融し、その後に1.3mのエッジ長さ及び350mmの高さを有する鋳型に注いだ。
【0055】
【表1】
【0056】
このように製造した未加工ガラスのブロックを、以下の条件下で外側領域の除去後にセラミック化した:未加工体を630℃から660℃の間の温度に0.5℃/hの加熱速度で加熱した。次いで、加熱速度を0.01℃/hに低下させ、そして加熱を770℃から800℃の間の温度になるまで続けて、この温度で、表2で規定した保持時間のあいだ保持した。セラミック化されたブロックを−1℃/hの冷却速度で室温になるまで冷却した。
【0057】
このセラミック化されたブロックから、3つのサンプルをカットし、かつ、これらの2つを後セラミック化工程にかけた。
【0058】
【表2】
【0059】
図1は、絶対零度付近〜25℃でのサンプル1〜3の熱膨張曲線を示す。サンプル3の熱膨張率は、幅広い温度範囲(室温〜−270℃)にわたって20ppm未満であり、それゆえサンプル1及び2と比べて著しく改善されている。室温〜−280℃の範囲においては、熱膨張率はそれどころか10ppm未満の範囲にあり、このことは、サンプルの長さのずれが測定の出発温度t0で測定された長さの10ppm未満であることを意味する。
【0060】
10Kにまで下げたZERODURの熱膨張率の測定を、サンプル1及びサンプル3で実施した。測定は、R.Schoedel,A.Walkov,M.Zenker,G.Bartl,R.Meess,D.Hagedorn,C.Gaiser,G.Thummes and S.Heltzel.A new Ultra Precision Interferometer for absolute length measurements down to cryogenic temperatures.Meas.Sci.Technol.23(2012)に記載の通り実施し、これは参照をもって本出願に組み込む。結果は、図1及び図2に示す。図2は、室温で約+0.1ppm/Kのはっきりと正のCTE(0;50)を有するサンプル3が、室温でより低いCTE(0;50)を有するサンプル1より低い膨張率を低い温度で有することを示す。
図1
図2
図3
図4